テレフォン相談室

2011年06月30日 | ショートショート

 


「ハイ、こちらテレフォン相談室。早速お悩みをうかがいましょう」
「あの、しばらく家を空けていたんです。そしたら子どもたちが家の中を好き勝手にしてしまって」
「ほほう。それはアナタのお宅?」
「ええ。キレイにして出かけたんですけど、もうそこら中グッチャグチャ」
「そんなに?」
「片付けないくせに、あっちもこっちも汚しちゃって。ああ、もうどこから手をつけたらいいものやら」
「片付けられない病気って最近多いんですよ」
「それだけじゃないんです。子どもどうし、ケンカばっかり。ケンカしてないことがないくらい」
「片付けられないのも、ケンカが収まらないのも、お子さんがまだ幼いからですよ。自分しか見えないから」
「おまけに、お金のことばっかり考えて」
「あのね、いいですか。厳しいようだけど、ちゃんと聞いてくださいね。お子さんがこうなったのはアナタの責任ですよ」
「え?ワタシ?」
「家を空けたっておっしゃっていたけど、まだ分別のつかない子どもを放任したのがマズかったんです」
「ワタシの子どもですもん、きっと大丈夫だろうと思って」
「親はみんなそう言う。でもソレ、『子どもを信じる』って言い訳して教育を放棄していますよ。ちゃんとしつけなきゃ」
「そう、そうですよね。ワタシのせいですね。シクシク」
「起きてしまったことを嘆いていても仕方ありません。これからできることを一緒に考えましょう」
「ありがとうございます」
「ちゃんと向き合って話してみたらどうですか?」
「殊勝なことを声高に言うんです。キレイにしよう!仲よくしよう!ってね。でも、口ばっかりで、行動を伴わない」
「そりゃダメ息子だなぁ。甘やかしちゃダメです。心をオニにして。家から追い出してやるくらい」
「でも、追い出したらきっと生きていけないと思うんです」
「だめだなぁ。それだからツケアガルんですよ。死んだってかまわない。そんなゴミ野郎は追い出しなさい」
「ハイ、わかりました」
「すぐなさいヨ。気が変わってしまわないうちに。善は急げです」

ドドーン、ミシミシミシ・・・
「テレフォン相談室の放送中ですが、ここで臨時ニュースを申しあげます。東京上空に謎の飛行物体が出現、巨大掃除機で人間をどんどん吸い込んでいます」



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見合い相手は、ガマ女

2011年06月29日 | ショートショート


慎太郎のアパートに珍しく母親が訪ねてきた。
「慎太郎、おまえもじきに四十だろ。そろそろ身を固めて安心させとくれ」
「その気がないわけじゃないんだけど、なかなか良い縁がなくってね」
「良い縁なんて贅沢言ってるからダメなのよ。お前だって十人並みなんだから折り合いつけなきゃ」
「わかってるさ」
「それで、おまえにぜひ会ってもらいたい娘さんがおるんだけど。ちと外見が厳しいが、どうかねぇ。ほれ、写真」
「・・・ガマガエルにそっくりじゃないか」
「やっぱりかい。わたしもそう思った。おことわりするかい?」
「・・・会ってみようか」
こうして慎太郎はこの娘、恵子と会ってみた。ボテッとした体形、顔面のイボ、大きく裂けた口、確かにガマそっくりだ。
ところが話してみると実に感じがよい。
心配りのきいた言動に、女性に苦手意識の強かった慎太郎は安心感を抱いた。
「つきあってみる?本当にいいのかい?ことわってもいいんだよ」
母親は、慎太郎が恵子と真剣に交際を始めたことが信じられなかった。
やがて婚約の運びとなり、慎太郎は恵子の部屋に遊びに行った。
掃除の行き届いた、女の子らしい部屋であった。どこか懐かしい香りがする。
恵子の手料理は最高であった。甘過ぎず辛過ぎず、気負いのない、基本を心得た料理の数々に舌鼓を打った。
「お口に合うかしら?」
「もちろんですよ。こんなに美味い家庭料理を味わえるなんて、ボクは幸せ者だ」
その晩、慎太郎が恐る恐る泊まってよいかと尋ねると、恵子はコクリとうなずいた。
風呂から上がった恵子が、慎太郎の前に惜しげもなく裸体を晒す。そのとき、
バサリ
恵子は、ガマガエル女の変身スーツとマスクを一気に脱ぎ捨てた。
女性アイドルにも負けない美貌、白磁器のように透きとおったボディが露わになった。
形のよい乳房の上で熟れた突起が慎太郎を挑発する。
「慎太郎さん、これが私の真実の姿です。私の内面を見つめてくれた男性はあなただけ。私のすべてをささげますわ」
上気した裸体が慎太郎に滑らかにすり寄る。
「もちろんだ。恵子さん、大切にするよ。だからその前にスーツとマスクをちゃんと付けて」



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野菜、大好き

2011年06月28日 | ショートショート


こんな夢を見たんだ。
近所の塀に貼り紙がしてあって、『野菜大好きな人、集まれ!』って書いてあったんだ。
ボクは野菜が苦手だけど、母さんがいつも食べろって言うから、野菜嫌いを克服するために行ってみることにした。
行ってみると、集会所の入口にブロッコリーみたいな頭をしたオバサンが立っていた。
「あなたも野菜が大好きですか?」
「いえ、野菜が好きになりたいと思って」
「そういう方も大歓迎ですよ。どうぞ中へ」
中には、もう十数名の人たちが集まっていた。
いや。
正確に言うと、人間みたいな野菜みたいな連中だった。顔がダイコンの男やニンジンの女、ナスビ、キュウリ、豆・・・
みんな野菜だ。まるで「もったいないおばけ」みたいだ。
ダイコン男が声を張りあげた。
「人間どもの不当な野菜差別に断固反対する!『ダイコン足』などという差別語の撤廃を求める!『ダイコン役者』もやめろ!」
それに呼応して野菜たちが口々に不満を述べた。
「頭がピーマンなんて言うな!」
「イモ兄ちゃんとかイモ姉ちゃんとかも反対!」
「もやしっ子なんて言うの反対!」
「ドテカボチャなんて言うなドテカボチャ!」
「オタンコナスも言うなボケナス!」
「ルナールの『にんじん』の「にんじん」は全部伏せ字にしろ!」
野菜たちが怒るのも無理ない。何もしていない野菜たちを侮辱してきた人間の一員であることが恥ずかしかった。
野菜たちが不憫でしかたなくなってきた。
すっかり顔面蒼白の白菜がぼそりと呟いた。
「さんざんわたしたち野菜を差別しておいて、挙げ句の果てに食べてしまうなんて」
野菜たち全員が黙り込み、すすり泣きが漏れてきた。
もうボクは我慢できなかった。
「野菜の皆さん、ごめんなさい。ボクは皆さんの苦しみや悲しみを世界中の人々に伝えます」
野菜たちが一斉にボクを見つめた。
「野菜の愛の伝道師としてボクは生きていきます!」
ありがとう!頼んだぞ!野菜たちがボクの肩を叩き、歓呼した。
涙ながらに繰り返し誓っているうちに目が覚めた。
「というわけで、野菜はちょっと・・・」
食卓に載った山盛りの野菜サラダを遠ざけようとすると、母さんが押し戻す。
「つまんない言い訳はやめて、さっさと食べなさい」



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なぜ人は男右女左の位置が落ち着くのか?

2011年06月27日 | ショートショート



あ、おはよう。
よく眠れなかったのかって?実はそうなんだよ。
理由?う~ん、たぶんさぁ、位置の問題だと思うんだ。先週、こっち側に寝るようになってから熟睡できないんだよ。
やっぱり落ち着かないよ、左側。
神経質?かもなぁ。でもね、男ってだいたいそうみたいだよ。カップルで歩くときでも女性が左にいたほうがなんかしっくりくるんだ。
知ってる?十代、二十代のカップルを調査した結果、男右女左群は、男左女右群の1.7倍もいたそうなんだよ。
つまり伝統とかしきたりとかじゃなくて、多くの男女にとって自然な位置関係だと感じるみたいなんだ。
世界中の結婚式でも、新郎が右、新婦が左という並びの文化が七割以上と、圧倒的に多い。
特定の国の文化習俗による違いはあれど、民族・宗教・人種などの偏りなく、世界中で新郎右が優勢らしい。
理由?たぶんだけどさ、人間という動物が本能に近い部分で身につけている行動なんだよ。
ヒトの何十万年もの進化の歴史、そのほとんどが狩猟採集生活だったんだ。
妊娠する能力のある女性は、種の保存のためにリスクの少ない、育児や植物の採集を担当した。
一方、男性は遠くまで出かけて手ごわい野生動物を狩るために、頑丈な体躯になっていったんだ。
男は女を庇いながら右手で、暗闇では松明をつかみ、敵対者には剣を振りかざして前進した。
女は男の強靱な足に置いて行かれないようにと、右手で男の腕をしっかり握りしめて続いた。
かくして、男は右手が自由に使える右側を好み、女は男をつかみやすい左側を好むというわけさ。
え?性差別?ちがう、ちがう。性による違いを理解してお互いを理解し尊重するべきなんだよ。
だからさ、明日から位置を交替してほしいんだけど。
え。
わが家は力関係が逆だからこのままでいい?いや、まあ、確かにそうだけど。そこはヒトの行動の悠久なる歴史に敬意を。
え。
左どなりのハセガワさんのお宅も、奧さんが右側?
(そういえば、昨日ゴミ出しのとき会ったなぁ。色っぽくて好みのタイプ。向こうから愛想よく話しかけてきたっけ。そうかぁ!男右女左、奧さんとボクとの位置関係、バッチリじゃん!あ、なるほどぉ、それでぇ)
え?
何をニヤニヤしてるかって?
う~ん、今回の話はなかったということで、しばらく今の位置で様子を見てみたいと思います。



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tatsuさん、スゲ~!

2011年06月25日 | Weblog

R.E.M. - Drive (Video)

先日、アップした『クラッシュダウン』というお話は、アメリカのベテランロックグループのR.E.M.の『drive』という曲からインスパイアされたものなんです。暗い暗い、この曲の雰囲気から書いたもの。
そんなわけで、添えたイラストも彼らがマイナーレーベル時代に出したシングルのジャケットだったりします。

彼らは今年3月に新しいアルバムを出したんですけど、その全曲でショートムービーを作ったらしいんです。
そのショートムービーの監督として活躍したのが、誰あろう、ジェームズ・フランコなんです。
tatsuさんの紹介していただいた映画はもちろん、ボクとしてはまったく知らなかったんですけど、こんな形でつながるなんて。
いや~、なんか鳥肌立っちゃいましたよ、tatsuさん!


あ、わかった!

2011年06月25日 | ショートショート


「あ、わかった!」
シンと静まり返った試験会場でひとりの受験生が大きな声をあげた。
周囲の受験者が一斉に身じろぎする音がした。
試験官が咎めるように咳払いをひとつ。そして一言。
「試験中の私語は禁止されています」
試験官のマニュアルに書いてありそうな言葉。声を上げた受験生は平身低頭、耳まで真っ赤だ。
そうか、そうか。君は本当に問題の答えをわかった瞬間の喜びに声を上げたんだね。
僕は彼を微笑ましく感じた。だが、多くの受験者は別だろう。
なぜって、「わかった」のひと言は、問題に苦戦している受験者にとって強烈なプレッシャー攻撃なのだから。
わざと「わかった」と言って周囲を焦らせる心理作戦。
だが、恐縮しきったあの様子、あれはきっと素にちがいない。
暗中模索、考えに考え抜いて精も根も尽きたその瞬間、突然、光明を見出した感激が口をついて出たのだ。
もともと創造豊かな世界は、机上で生み出されるとは限らないではないか。
天才が閃いた瞬間は、こんな受験会場などではないだろう。
風呂に入っているときかもしれないし、散策中かもしれないし、スポーツの最中かもしれない。
それに、閃きの瞬間に発声していけないなんて、むしろ不自然なのではないか。
つまり彼は問題解決の純粋な喜びを感じた唯一の生徒であり、最も試験問題に真摯に対峙していた生徒なのだ。
よし、僕が選考委員なら君は合格!
・・・いや、待てよ。
もし、あの平身低頭や真っ赤な耳まで演技だとしたら?
これは恐るべき陰謀だぞ。
「終了です。問題用紙と解答用紙を回収します」
あ・・・しまった!僕は問題を解くのをすっかり忘れていた!!

そんなわけで妄想癖のある僕は、その年の受験を全て失敗、浪人して翌年同じ大学を受験した。

試験中、ふと昨年、この会場で問題を解くのをすっかり忘れたことを思い出した。
あれはまずかったなぁ。
確か、他の受験生が試験中に喋って、それをアレコレ考えているうちに試験時間が終わってしまった。
あれ?
あの受験生、なんて言ったんだっけ?
あれぇ?
思い出そうとして思い出せないと気になって気になって。
他の受験生にプレッシャーを与えちまうような、マジだったか演技だったかわからないアレは・・・
えっと、えっと・・・
シンと静まり返った受験会場に僕の声が響いた。




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クラッシュダウン

2011年06月24日 | ショートショート

このゴワゴワした音は、何の音だろう。
子どものときから気になっていた音だ。明け方暗くに町に出たら聞こえた、このゴワゴワした空気の音。
ボクは港町に住んでいたから、漁船のエンジン音が響いてくるのかと思っていたけど。
でも大人になって故郷の町を離れても、やっぱりこの音がした。
生活音が消えた深夜、そして明け方に湧き起こって来る、このかすかなエアコンの響きのような音。
ああ、気になる。

身体を動かそうとしたが、手も足も感覚がなかった。手足を動かすことができていた頃の感覚を思い出そうとする。
ダメだ。
冷たいコンクリートの上にクタクタになって横たわっている。頬をカサカサに枯れた草が刺す。
鉄を舐めたような不快な味がして、唾を飲んで気がつく。ああ、これは血の味だ。
いつからこうしているんだろう。
えっと。
記憶がよみがえってくる。
アスファルトに横たわっているバイク。道路を濡らすガソリン。ガードレール。
そうだ。ボクはガードレールの向こうに放り出されたんだ。
しばらく気を失っていたにちがいない。
早く、早く助けを呼ばなくっちゃ。
そう思うが、起き上がろうにも手も足も動かない。どうなっちゃったんだ?ボクは。
無茶な生き方をし過ぎたんだ。
町を出てからのボクは、何もかもがうっとうしくて壊してしまいたかった。
真面目になっても、強気になっても、卑屈になっても、何ひとつうまくいかなかったから。
夜中にスロットルをいっぱいに捻りきって、そしてライトを消した。途端に目の前の道が消え闇になった。
闇の中を走る数秒だけ。あのスリリングな数秒だけは生きていると実感できた。
そうだ。
ボクはこうなる前からずっと、手も足も動かない瀕死の状態でもがいていた。
それだけだ。それだけのこと。
仕方なく、ゴワゴワした音だけにまた身をゆだねた。ゆだね続けた。

どのくらい経っただろう。
眩しくて、目が覚めた。ああ、なんて明るいんだ。
ボクは、真っ白なシーツに横たわっていた。窓の外からツグミの声がする。
耳の奥に響いていたゴワゴワした音はない。なんだ、夢か。
「目が覚めたか」
父さんの声。ボクは息せき切って今見た夢を話し出した。朝露みたいに消えてしまう前に大急ぎで。
ボクが話し終えると、父さんはポツリと言った。
「いいじゃないか、夢だろうと現実だろうと」
夢だろうと現実だろうと?
手を動かそうとする。足を動かそうとする。血の気が引いていくのがわかった。
夢じゃない。これが現実?いや、こんなのは夢だ。夢であってほしい。

ボクは目を閉じて再び意識を失くそうとする。今度こそ、本当に目を覚ますために。
本当に目を覚ましたら、ボクはどんなボクなんだろう。
ずっと前から、手も足も動かない瀕死の状態でもがいていただけ?それだけ?
あ、また聞こえる。耳の奥にあの音が。



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明日がない

2011年06月23日 | ショートショート

ビル街の薄暗い一画、聞いていた場所に確かに占いの爺さんがいた。
茶坊主のような、どっからどう見ても占い師のいでたち。丸眼鏡の奥の目でオレを見上げた。
「いらっしゃい」
酒臭~い。昼間から飲んでやがったな。
「爺さん、ウワサで聞いたぞ。あんた、人の未来が見えるんだってな?」
「フム、確かに見える。水晶玉をとおして客の未来の顔がハッキリとな。ただし、明日の顔だけじゃよ」
「明日が見えれば問題ない。オレは、明日、小学校のときのクラスメートだったミヨちゃんとデートの約束をしてるんだ。10年ぶりに会うんだぞ。テヘヘ」
「そりゃ、楽しみですねぇ」
「オレはガキの頃からどうもカンシャクもちでイケねぇ。そんなオレにミヨちゃんだけは、ズケズケ文句ゆうんだ。憎まれ口叩き合っていたけど、気がついたら惚れちまってたんだなぁ。テヘッ」
「いいですなぁ、初恋ってヤツですな」
「おう。なにせ10年ぶりだからなぁ。うまく話せるかなぁ。明日の様子、知りたくってなぁ。爺さん、頼む。占ってくれ」
「よろしい。ここに座って」
爺さん、テーブルの下から紫の繻子にくるんだ水晶玉を取り出した。
「ほう、これがその水晶かい。な、本当に見えるんだろうな?」
「うむ、水晶というカメラをとおして見るみたいな感じかの。客の顔がそのまま見えるにすぎん。ただ、その顔は24時間後の顔じゃ」
「そんだけじゃ、未来かどうか、わかんねぇだろ?」
「イヤイヤ、満面の笑みや憂鬱な表情を見れば、何が起きたか、たいがいのことはわかろうというものじゃ」
「なるほどね。そんなに正確かい?」
「怖いほどにの。あるとき、顔が見えず水晶玉は白いモヤモヤのままじゃった。翌日、客の家は大火事、煙に包まれたそうじゃ」
「へぇ、そりゃブルっちまうなぁ」
「占ってみますかの?」
「頼む!」
占いの爺さんはオレの前に水晶玉をかざし、透かして凝視した。
ムムッ
爺さんの顔が見る見る真っ青になる。
「ど、どうしたんだ、爺さん?」
「イ、イヤ・・・金はいらない。帰りなさい」
「何言ってやがる。そんな言われ方されて、スゴスゴ帰れるかよ!爺さん、教えろ。教えないとシバくぞ!」
「ホント、カンシャク持ちじゃな。なら言おう。水晶玉が真っ暗なんじゃ。アンタの姿が見えん。どういう意味かわかるか?明日がないんじゃ、アンタには!」
「んなワケねぇ!明日は大切なミヨちゃんとの。ざけんなぁ!!」
ああ、カッと血がのぼって。
悪いクセが出て。
気がついたら、占いの爺さんをボコボコに。
テーブルやら椅子やらはバラバラ、その上に顔面を抱えた爺さんがのびている。
どうすればいいんだ、オレは?明日がないオレはいったい・・・ああ、ミヨちゃん!
ウウ・・・
走り去ろうとすると、爺さんのうめき声。
振り向くと、起き上がろうとする爺さん、両目の周りがパンパンに腫れ上がっている。明日一日は、何にも見えないだろう。
ア・・・



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ネジが一本

2011年06月22日 | ショートショート



おや、電車を乗り越したらしい。チェッ、畜生。
じきに次の駅に着いた。だがボクは腰を下ろしたまま電車を降りなかった。やがて電車が発進し、日常からさらに遠ざかっていく。
会社に行きたくないと思っている気持ちが、無意識に乗り過ごさせたのだ。ああ、会社なんて辞めちまおうかな。
先週の企画会議で率直な意見を求められ、請われるままに発言したのが上司の逆鱗に触れた。別室でさんざん絞られたばかりか、同僚の前でもコキ落とされた。あれから一週間、会社中ピリピリして居づらいなんてもんじゃない。
家では家で、妻が先週から一言も口をきかない。時々勝手に腹を立てることがある。いつもなら優しい言葉をかけてやるのだが、今はそんな気にすらなれない。するとますます機嫌が悪い。おまけに中学生の息子が口答えしてきたので殴ろうとして、逆に胸ぐらを掴まれた。
一週間前までは、平凡かつ平穏な生活だったのに。畜生、いったいどうなっちまったんだ?
またくよくよと考えていると、座席の前に白髪まじりの男が立った。
「これは君のだろう?アンドロイド君」
ネジを一本、指につまんで目の前にかざし、ニヤニヤ笑う。銀色に光るジャケット。大手のアンドロイド・メンテナンス社の制服だ。
「先週、この座席の傍で拾ったんだ。どうだ?今週、調子は?ネジが一本緩んだ人間も困りものだが、ネジが一本飛んだアンドロイドは故障品だ。先週から仕事や体調に不具合があったんじゃないかね?ネジを締めれば元どおり。さあ」
え?アンドロイド?このボクが?
「ボクは生身の人間だ」
「またまたぁ」
苦笑した彼はシェイバーに似た道具を取り出し、全身上から下へスキャン。そして見る見る青ざめた。
「す、すみません。とんだ失礼を。毎日同じ電車、同じ車両の同じ席、同じ無表情。アンドロイドだとばかり。いえいえ、これはまた失礼なことを。すみません、すみません」
彼が頭を下げれば下げるほど、ますます機械と間違われた自分がみじめだった。
男は平身低頭、そそくさと別車両に移った。
一人になるとなんだか愉快になってきて、窓外の見馴れぬ町並みを眺めて笑った。
なぁんだ、ネジ一本かぁ。
次の駅で電車を乗り換え、会社に向かった。



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新美南吉作『あめだま』最短解決Ver.

2011年06月21日 | ショートショート



春のあたたかい日のこと、わたし舟にふたりの小さな子どもをつれた女の旅人がのりました。
舟が出ようとすると、「おオい、ちょっとまってくれ。」と、どての向こうから手をふりながら、さむらいがひとり走ってきて、舟にとびこみました。
舟は出ました。
さむらいは舟のまん中にどっかりすわっていました。ぽかぽかあたたかいので、そのうちにいねむりをはじめました。
黒いひげをはやして、つよそうなさむらいが、こっくりこっくりするので、子どもたちはおかしくて、ふふふと笑いました。
お母さんは口に指をあてて、「だまっておいで。」といいました。さむらいがおこってはたいへんだからです。
子どもたちはだまりました。
しばらくするとひとりの子どもが、「かあちゃん、飴だまちょうだい。」と手をさしだしました。
すると、もうひとりの子どもも、「かあちゃん、あたしにも。」といいました。
お母さんはふところから、紙のふくろをとりだしました。ところが、飴だまはもう一つしかありませんでした。
「あたしにちょうだい。」「あたしにちょうだい。」ふたりの子どもは、りょうほうからせがみました。飴だまは一つしかないので、お母さんはこまってしまいました。
「いい子たちだから待っておいで、向こうへついたら買ってあげるからね。」といってきかせても、子どもたちは、ちょうだいよオ、ちょうだいよオ、とだだをこねました。
いねむりをしていたはずのさむらいは、ぱっちり眼をあけて、子どもたちがせがむのをみていました。
お母さんはおどろきました。いねむりをじゃまされたので、このおさむらいはおこっているのにちがいない、と思いました。
「おとなしくしておいで。」と、お母さんは子どもたちをなだめました。けれど子どもたちはききませんでした。
するとさむらいが、すらりと刀をぬいて、お母さんと子どもたちのまえにやってきました。
お母さんはまっさおになって、子どもたちをかばいました。いねむりのじゃまをした子どもたちを、さむらいがきりころすと思ったのです。
ところが、さむらいは刀でべつのものをぶったぎったのです。話ののこり、ばっさり。



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友だちは、透明人間

2011年06月20日 | ショートショート


茶店でひとり、漫画本読んでたら、友だちの声が聞こえた。
「お~い、オレだよ。タカシだよ~ん」
え?
店内を見回す。すぐ近くで声がしたのに、タカシの姿はどこにもない。空耳?
「やっぱ、見えないっしょ?チャッチャラ~!大成功!」
すぐそばにいる。
「おい、なんで見えないんだよ」
「フフン、よくぞ聞いてくれました。『透明人間になる薬』が今朝完成したんだよ。さっそく飲んでみたら、ホレこのとおり」
「え~!すっげぇじゃん!全然見えね~よ」
「だろだろ?おまえ、今日から透明人間と友だちだぞ。何してほしい?」
「何って・・・そうだなぁ」
ボクの視線は自然に、店内を闊歩するメイド姿の美少女たちに。
タカシが見えない手で、ボクの肩を小突いた。
「もう、このエロ青年!メイド娘のパンツを覗いてほしい。そうだろ?」
「できんのか?」
「見てなって」
フワリとタカシが遠ざかる気配。
そして、一人めの髪の長い美女系の娘のスカートがフワンとやわらかく膨らんだ。
続いて、二人めの委員長タイプの清楚な娘のスカートがフワ~ン。
タカシが戻ってきた。
「すっげ~!オトナっぽい娘、いちごパンツだよ。そいで真面目っ娘がなんと紐パン!見かけによらないもんだなぁ」
エ、紐パン!?ボクにもパンツが見えたみたいにコーフンした。
「ボクはキミのようなすばらしい友だちがいてウレシイよ!ボクも透明人間になりたい!してください!」
ふと気がつくと、ソファー越しにチビッコがボクを不思議そうに見ている。
「あのガキ、ビビらしちゃえ」
ボクが囁くと、タカシがボクの髪の毛を掴んでウニョウニョかきまぜた。ゴーゴンみたいに蠢いて見えたはず。
ビックリ仰天、ビェ~ッと泣きわめいた。
ボクとタカシは大笑いで茶店を出て、タカシの研究室に向かった。
研究室のドアを開けると、中央に人が倒れていた。
「タ、タカシ!」
それはタカシの死体だった。顔は変色し死後硬直が始まっていた。傍らに薬の小瓶が転がっている。
「なんで、なんでオレがこんなことに」
「おまえさ、透明人間になったんじゃないんだよ。失敗した薬を飲んで、死んじまって・・・」
タカシがさめざめと泣く声が室内に響いた。
「なぁ、オレ、これからどうしよう?」
ボクは精一杯、タカシを励ました。
「どうしようって、これからはボクのそばにいて、女の子のパンツを教えてくれよ」



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YOUTUBE版秘宝館第4弾『赤と青のCONFLICT』

2011年06月19日 | ショートショート

『赤と青のCONFLICT』

『青い珊瑚礁』と『赤いスイートピー』 先輩、どっち好きっすか?
え?スイートピーかな。
じゃ、赤盤と青盤じゃあ?
う~ん、青かな。
もう先輩、どっちなんすか?赤か青かはっきり決めてくださいよっ
決めろって、そんなんで決められないだろうが。
どっちかなんでしょ?どっちかを選べばドドーン!
ああ、俺たち二人とも間違いなくドドーン!だ。
どっちにします?右?左?青?赤?
やっぱ青じゃないか?青は安全、赤は危険。
安直だなぁ。
それに赤は女の子色だし。
あ、それって決めつけじゃん。
地球は青い!海も青い!空も青い!青だ、青に決定!
血液は赤い!火も赤い!太陽も赤い!ポストもセブンも赤い!
どっちなんだぁ!
先輩、決めてください!
よ~し、赤!
いいんすか、赤で?
赤と言ったら赤だ!行くぞ~!
先輩、let's go!
ドドーン!
おっ成功だ。3Dメガネ大成功!
先輩、やっぱり左が赤で正解でしたね。


OOPARTS(オーパーツ)

2011年06月18日 | ショートショート


ディレクターのキューを確認して、私はカメラに向かって話し始める。
「皆さん、今晩は。本日、皆さんは世紀の大発見の目撃者となります」
カメラがゆっくりとスタジオ中央特設ステージに移動する。
そこには、ブルーシートに覆われた山のような塊が鎮座していた。
「お願いします」
番組スタッフたちが覆いをスルスルと外す。中から現れたのは、巨大な冷凍マンモスではないか。
ADが手をグルグル回すと、スタジオ見学者が一斉にどよめいた。
「昨年11月、シベリア東北部のコリマ川沿岸の永久凍土層から、ほぼ完全な冷凍マンモスが掘り出されました」
巨躯はびっしりと剛毛で覆われている。恐ろしい牙が反り返っている。体の下半分は凍土に覆われたままだ。
スタジオ天井ライトの熱で凍土が溶けて、まるで冷蔵庫の底みたいな嫌な臭いがする。
「しかも、今回の調査でとんでもない発見がありました。博士、お願いします」
私の紹介で、マンモス研究一筋の博士が話し始める。
「ハイ。今回の調査でマンモスの前脚の下で押しつぶされかけた原始人が冷凍になっていることがわかりました」
スタジオ見学者たちがさらにどよめいた。
モニターにCG映像が映し出される。マンモスの左前脚の下で石斧を手にした男が苦悶している。
「数万年の時を超えて、人類とマンモスの戦いの現場に遭遇したようです」
私は興奮で声が上擦った演出をした。
「それだけではありません。これを御覧ください!」
原始人の頭上、凍土から突き出した長方体を指さした。
「自然界でできたとは考えにくい、謎の物体です!空中に浮いた状態で凍土に覆われているのです!」
「原始人・・・石斧・・・空飛ぶ長方体・・・これはまさか?」
音響スタッフによって『ツァラツストラはかく語りき』が荘厳に流される。
断面が完全な長方形の板状の石・・・こんなもの、原始人が制作できるはずはない・・・
そのとき、スタジオにロシア人の発掘スタッフたちが駆けつけた。え?そんなの打ち合わせになかった。
「スミマセ~ン!近クニ、コレモ落チテマシタァ」
台車に載っているのは、より複雑な石の加工物だ。ロシア正教の十字架みたいな石、一片が屈曲した小さなクロスの石、そして同じ大きさの小片二つ。
「博士、これは一体・・・?」
博士はそれをアレコレ並べて気がついた。
「はは~ん、わかってきましたぞ。これは『ギ』と『ャ』ですな」
え?
博士は、凍土からのぞいた長方体を指さす。
「そして『ー』・・・合わせて『ギャー』じゃよ。きっとそうじゃ」
ギャー?石文字で、ギャー?
博士がマンモスの後ろの凍土に、何やら発見して指さした。
「まちがいない。これはマンモスに踏まれた原始人の叫び声じゃよ。ほら」
博士が指さす先をカメラがズーム。
そこには小さく、『俊二』の文字。



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よく似てるんだもん

2011年06月17日 | ショートショート

真夜中、タクシーからふらりふらりと降り立ちます。ああ、夜風が気持ちいい。
こんなに遅くまで飲んで、きっと女房はカンカンです。飲んでるとつい、気が大きくなって、またやっちゃいました。
エレベーターで5階にあがると、ドアに鍵を差し込みます。カチャ、カチャ。
アレアレ?
鍵が奥まで入りません。
まさか、まさか女房のヤツ、腹立ちまぎれに、鍵を変えちまったんでしょうか。
そ、そんな。
連絡もせずに遅くまで飲んだことは確かにボクが悪かった。しかし、んな殺生な~
ん?
通路から見える別の棟の位置が微妙に違うような・・・地殻変動かなんか?
アッ、ここはボクが住んでる棟じゃない!
すっかり酔いが冷めました。表札もボクの名前、『海老沢』じゃありません。
しまったぁ!ここは隣の棟じゃないか!
誰かに見られたら恥ずかしいなぁなんて思いつつ、エレベーターで下りました。
それにしても、なんて間違いやすいんだ。なんの特徴もない、似た構造の棟をズラズラ並べおってからに。
ざけんなぁ!
酔っぱらって棟を間違ったことを棚に上げ、隣の棟の壁を蹴ってやりました。

ある日、東京上空に巨大な円盤が出現、何の躊躇もなくビルを押しつぶして着陸しました。
中から、身の丈3メートルもありそうな海老型宇宙人がゾロゾロ出てきます。
見回してキョロキョロ。
一同、頭を抱えました。
しまったぁ、ここは別の惑星じゃないか!
さっさと円盤の中に戻るとすぐに離陸です。
自分たちが惑星を間違ったことを棚に上げて、腹を立てた海老型宇宙人、大気圏から脱するやミサイルをボンッ。



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