Trick or Treat?

2012年10月17日 | ショートショート



「Trick or Treat?」「Trick or Treat?」
な、なんでしょう、こんな晩に。子どもたちが家の外でなにやら騒いでいます。しかも、英語。
「なんじゃろう、じいさん。座敷わらしかのう」
「英語を話す座敷わらしは知らんなあ」
心配げに顔を見合わせます。
子どものいないふたりは、ずっとつつましく暮らしておりました。
人から恨みを買うようなおぼえはありません。それが外国キッズに夜襲されるなんて。
「話せばわかるんじゃなかろうか」
「話すもなにも、言葉も通じませんよ」
すると、入り口の向こうから子どもの声がします。
「お菓子をくれなきゃイタズラするぞ!ハロウィンだかんな~!」
なんだ、日本語話せるじゃん。
「おじいさん、ハロウィンですってよ。洋風のお祭りですよ」
「はは~ん、あれか?♪ハロ~ウィーン♪ハロ~ウィーーン♪」
「ブッブー、おじいさん、それはウインクの『淋しい熱帯魚』っ」
「子どもの分際で余所様宅に菓子をおねだりとは、不届き千万」
「そういう日なのですよ」
「ならば仕方ない。ふるまうとするか」
ふたりは、家中の菓子を探しました。ところが菓子はおろか、食べ物すらありません。
そうなのです。おじいさんとおばあさんは、とても貧しかったのです。
「困ったのう。子どもたちになんて言おう」
「正直に言っておひきとり願いましょうよ」
「それしかあるまい」
おじいさんが入り口に近づいたときです。
「お菓子をくれなきゃイタズラするぞ~!」
子どもたちが一斉に言いました。
「それがのう・・・」
ズシ~ン!
地べたが揺れるほどの重い音です。
ズシ~ン!ズシ~ン!
何度も何度も。
うっひゃあ、イタズラってまさか家を壊す気?
「うちに菓子はないんじゃ。でも菓子を手に入れたら、わしらは食わずともおまえたちに」
すると、扉の向こうから子どもたちの声がしました。
「おじいさん、おばあさん、Happy Halloween!」
え?
ふたりが外に出てみると、もうこんなに雪が。
入り口の外には大きな俵が積み重なって。餅やら野菜やら魚まで。
そういえば先日、おじいさんは最後のお菓子を六地蔵にお供えしたような。
おじいさんとおばあさんは、雪の中を去っていく六人の後ろ姿をずっと見守りました。
めでたし、めでたし。で、Happy Halloween!



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