かえるさんは
このあいだ
冬眠の穴から出てきたばかりです。
しばらくボーッとしていたのですけれど
ある少年が同じようにボーッとして
切り株に座り込んでおりましたので
これは何事かと
少し気になっていたのです。
かえるさんは
思い切って声をかけることにしたのです。
「春だと言うのに浮かない様子でどうしたのかね」
少年はかえるが話したので
たいそう驚いていましたが
しばらくしてかえるさんに向き合い話し出しました。

「別に浮かないわけじゃない。でも、何だか心が空っぽなんだ」
「お腹が空いているのかい?それならとびきり大きな虫を捕まえてやろうか?」
「ありがとう。お腹はそんなに空いてないよ」
「人間はお腹が空いてなくても空っぽになることがあるのかね」
「何だか胸が痛いような」
「それは大変。誰かに踏みつけられたかね。」
「踏まれちゃいないんだよ。それでもしんしん痛んでくるんだよ」
「なにもないのに痛いのかい?」
「本当に信じてもらえてるのかわからないんだ。だから仕事も手につかないよ」
かえるさんは困りました。
少年の痛みはかえるさんの経験にはない痛みだったからです。
春のあたたかな風が吹き込みました。
少年はしばらくすると
うとうと居眠ってしまいました。
かえるさんは想いました。
人間とは厄介な病を抱えてはいるものの
春の風でこんなに簡単に寝入るほど癒やされる。
案外簡単なものなのかもしれない。
と。
そして
少年のそんな心には
春の風や鳥の声が大切なのかなと
何となくわかった気がしたのでした。
「信じてもらえるとかじゃないよ。自分が信じてる方にゆけばいいだけだ。人間とは要らぬ事を考える暇があるものだな。ま、しばらくここにいるとするか」
かえるさんはそう呟いて
少年の居眠る切り株の横で
大きなあくびをひとつしました。
(名古屋カノンコンサートのおるごーる紙芝居の別話です)