土のにおい
はっぱの音
足元の感触
土の冷たなひんやりした温度
木立の間からみえる空
上をむいて
じっと上をむいて
青い空をみてた
遠くのほうで
雷の音が聞こえる
もうすぐ風が吹く
いそいで駆け下りる
沢の音
岩のころころ
谷の下から吹き上げる風
「ねえ、もうすぐ雨が降るの?」
「降るよ。それまでに降りよう。」
「ねえ、なんで沢は降りないの?」
「はっはっは。危ないなあ。」
ごそごそと葉が揺れる
「なにかいる?」
「いるかもしれない。」
だまって降りる。
遠くのほうで雲が動く
元来た道ではないけれど
その里の方角は知っていた
里まで来ると林道にでる。
「昨日からどれくらい歩いた?」
「私にはわからない。ずっと歩いてた気がするよ。」
「ずいぶん歩いたなあ。」
「足元を見なさい。自分の歩む足元を。」
「見たってつまらない。」
「それが自分の足だ。自分の歩みだ。何かを感じたらいい。」
「何にも感じないけど…。」
19歳の頃
父ほどの年齢の人たちと一緒に
山道をずっとずっと歩いたんだ。
ただただひたすら歩いたんだ。
一緒に歩くと楽しかった。
何かがいそうなそんな山道
何かがでそうなそんな森の木立。
わくわくしたねえ。
いつも一緒に出かけた。
いつもリュックの中にいっぱい何かを詰めて
木の切り株を椅子にして
ナイフで何かをつくったねえ。
山の中だけではかわいそうだ。
いいよ。山でのお祝いで。
魚も釣って。
ふと、山の近くにいって
森の香りがしたら
いつも
思い出すんだ。
そんな日々を。