巨匠 ~小杉匠の作家生活~

売れない小説家上がりの詩人気取り
さて、次は何を綴ろうか
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水のしるし

2019-09-17 01:36:58 | 
大宇宙の端に心許なく立ち、眺める地球の姿
丸みを帯びた楕円形、その凸と凹をミクロに見つめる
薄白い光の筋は地平線の隅から隅までピンと伸びる
足取りの重い旅人は途方もないその距離に歩き疲れる

しばし足を休めよう
温泉の窓のほとりから罪なき清らかな湯が流れ溢れて
両方の手のひらに溜めきれないほどに滔々と流れる水の形
遥か遠くから飛んできたという星の使者から託された一杯の水
我らを守る神々のために銀の盃に注いで回ろう
世界中の海がすべて一滴の水から始まったのだとしたら
歩き疲れた旅人のために新たな地中海を創り出してあげよう

とはいえ空は空で厄介だ、旅人よ
北極星と南十字星の距離が広がりすぎだ
神経質な天文学者はセンサーの感度を確かめながらレンズ越しに天体を眺める
目に映ったのはただの高層ビルの窓明かりではないのか?

晴れの日に訪れたまえ
曇りの日に現れたまえ
雨降りの日には佇みたまえ

先の見えない道を行く旅人にはナビゲーションが必要だ
水を辿って行きなさい
私からのアドバイスはそれだけだ

美しい水しぶきが別れのしるしを刻む頃
その心ははるか遠くを巡り巡って遠回りして
大地が負った大いなる傷を治癒しようと大樹は我が身から樹液を垂らす

それも水
命が宿す体液を懸命に振り絞る

音が辿る、壁が遮る、心が迸る
絶え間ない大地の叫びに耳を澄ませて
君というわずか一個の存在のために懸命に生きる健気な存在を
旅人たる君は受け容れることができるのか

今日なぎ倒された大樹の根を決して見るでないぞ
あの大樹は桜、春の象徴
風よ、よくも倒してくれたものだ
私は自然を純粋に愛する気持ちの乱れを整理できずにいる

季節を追うほどに水は流れゆく
澱みも霞も何もかもかき消して、ただただ物理化学の法則に従う
人間存在が勝手に定義した大宇宙の摂理とやら
当たり前を難しく解釈した世紀の大発見が人の世の中を明るく照らす

水は滴る、岩をも砕く粘り強さで
当たり前を当たり前とすることなく

旅人よ、
そのコップの水を一杯飲み干せば君にも未来が見通せるはずだ