巨匠 ~小杉匠の作家生活~

売れない小説家上がりの詩人気取り
さて、次は何を綴ろうか
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ウォーミングアップ(即興)

2013-05-09 23:26:15 | 日記
田圃のど真ん中に立ち尽くした俺は周囲を取り巻く新緑に抱かれ、澄み切った空気を胸一杯に吸い込んだ。

心の中の"evile"がすべて浄化されたような気がした。

-俺、一生ココにいようかな......

頭の中でそんな自分の声が去来したような気がした。

束の間の田舎暮らしだ。俺は今夜あの地に向けて再び旅立たねばならない。

現実とは一体何なんだろう。

-今この場所にいるという現実

-自分はあの地に住んでいるという現実

そんな現実は自分の意思ひとつでどうにでも変えられるような気がする。

「タカシ、どこにおるんね。ごはんよ」

お袋が俺を呼ぶ声がする。またしばらく会えなくなる。俺は表情を少し和らげて小走りで家に向かった。



17時15分発ののぞみ。俺は新幹線のホームに一人で立っている。両親とは2時間前に自宅の最寄り駅で別れた。

ホームにごった返す人混みの中で俺は朝方、田圃の真ん中でしていたのとまったく同じ表情で立ち尽くしていた。

やがて博多から最高速度300km/hで走ってきたのぞみが、ゆっくりと俺の前に姿を現し、俺にひれ伏すかのように停まった。

俺は列の後ろの初老の男性に突き飛ばされそうになりながらも、その場で足を止めたままだった。歩を進め、中に乗り込む理由が見当たらなかった。

しばらくして発車のアナウンスが流れた。俺は先端が流線型で、細長く白いウナギ状の物体が再び加速し始めるのをただ眺めるばかりだった。