「物創りを仕事にしたい」
という想いを持っている人は多い。
かつてネットで知り合った人たちのほとんどはそうだったし、自分もそうだった。
「小説家になりたい」
「ゲームデザイナーになりたい」
「映画監督になりたい」
「脚本家になりたい」
「俳優になりたい」
「ミュージシャンになりたい」etc
これを、一般的には「夢」という。
しかし、自分の経験上、「夢」と「仕事=ビジネス」とは必ずしも合致しない部分が大きい。
「仕事」にする以上、それが何であれ「売れなければならない」。
「面白い物を作れば、売れる」
と誰もが思うだろう。
それは間違ってはいないと思う。
ただ、業界に入って仕事をすればわかることだが、「売れるもの」の定義が会社やプロデューサー、監督、レーベルなど組織や「偉い人」によって千差万別なのだ。
十人十色ってやつでね。
で、困ったことに皆が「(売れるか否かについて)自分は正しい」と思っているわけだ。
つまり、出会う人、あたる人/会社によって、当然自分が作りたい物が受け容れられたり、られなかったりする。
また、「売れる」と思わせるためには、プレゼンテーションで「売れる」と思わせなければならない。
例えば小説なら、出版社の編集担当に「これはイケる!」と思わせるプレゼンが出来なければ、いくら内容が面白くても、その作品が世に出ることはない。
「面白い」と「面白い(売れる)と思わせる」ことは、同じ事のようでいて、実はまったく違う作業なのです。
例えばゲームの場合、(自分にとって)「面白い」ゲームを考えるのは簡単なことだけれども、それをキャッチーな企画書にまとめ上げて、上司やプロデューサーにプレゼンするとなると、何故売れるのか、どのくらい売れるのか、同じようなソフトは過去にあるか否か、それは売れたのか、どの程度売れたのか等々、ゲームの面白さ以上に「ビジネスとして成立するか否か」を明快にしなければならない。
当然、ゲームの面白さについても「何故面白いのか」が一目瞭然でなければ、企画書としては不十分とみなされる。
自分が面白いと思うものを、仕事で成立させようとするには、「面白い物を考える」よりもそれが「面白くて売れる」ことを証明して説得しなければならない。
これって、仕事としては当たり前のことなんだけど、「創作」の原点に立ち返って考えた場合、とっても面倒くさい作業だし、自分が作りたい物を作るという意味においては無駄というか邪魔な作業。
思い通りにならないことの方が多いからね。
だから、「物を創りたい」という「夢」を持っている人が明確に意識しなければならないことは、「それで飯を食っていきたい」のか「仕事にならなくても、とにかく創りたい」のか、自分はどっちに軸をおいているのか、ということ。
これをハッキリさせないと、「何となくプロ(目の前の仕事をかたずけるのみ)」になってしまうか、「夢破れて、物を作ることをやめてしまう」という結果になりかねないので、要注意。
「創作」そのものには正しいも間違いもないけど、仕事=ビジネスには正しい(売れる)も間違い(売れない)もある、ということなんです。
単に「物を創る」ということと、「それを仕事にする」ということは、全く別次元の話だということを知ってほしいです。
「じゃあ、てめえはどうなんだ?」
と言われれば、軸は「物創り」に置いています。
今まで仕事でやってきたけれど、面白いことなんてほとんどなかったし、「自分の物創り」を通すことは、ビジネスを成立させなければならない「企業」では出来ないことだと痛切に感じたから。
やりがいがあるなしはまた別の話なんだけどね。
「自分が創りたかったものではないけれど、やりがいはある」という仕事はある。
ただ、常にそういう仕事に出会えるか、というと、「物創りビジネス」が置かれている現状では、それすらも難しいんですけどね