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tiandaoの自由訳漢詩

ティェンタオの自由訳漢詩 李白13ー16

2009年04月01日 | Weblog
 李白ー13
    蘇台覧古           蘇台覧古(そだいらんこ)

  旧苑荒台楊柳新   旧苑(きゅうえん)  荒台(こうだい) 楊柳新たなり
  菱歌清唱不勝春   菱歌(りょうか)の清唱(せいしょう)  春に勝(た)えず
  只今惟有西江月   只  今は惟(た)だ西江(せいこう)の月有り
  曾照呉王宮裏人   曾(かつ)て照らす  呉王宮裏(ごおうきゅうり)の人

  ⊂訳⊃
          古い苑(にわ)  荒れた楼台  芽吹く柳は新しく

          菱摘む娘(こ)らの歌声が  春の愁いをかき立てる

          いまはただ        西の川面に照る月も

          かつて呉王の宮殿の  美女を照らした月なのだ


 ⊂ものがたり⊃ 金陵の渡津から潤州(江蘇省鎮江市)の渡津まで70kmほどしかありません。ここから大運河が南の呉越の地へ通じています。李白がまず足を止めたのは平江(江蘇省蘇州市)でしょう。ここは春秋呉の都城があった地で、みるべき遺跡はたくさんあります。
 李白は後年、金陵や呉越の地を幾度も訪れていますので、金陵や呉越の詩のほとんどは制作年が特定できません。しかし、若くて古代の浪漫、懐古に限りない愛着を抱いていた李白が、春秋呉越の戦争に心を動かされないはずはありません。「蘇台」は姑蘇台(こそだい)の略称で、春秋時代に呉の宮殿があったところです。呉王夫差(ふさ)は越王勾践(こうせん)が献じた美女西施(せいし)におぼれて政事をかえりみず、滅亡への道を歩みました。

 李白ー14
    越中覧古          越中覧古(えつちゅうらんこ)

  越王勾践破呉帰   越王勾践(こうせん)  呉を破って帰る
  義士還家尽錦衣   義士  家に還りて尽(ことごと)く錦衣(きんい)す
  宮女如花満春殿   宮女は花の如く春殿(しゅんでん)に満ち
  只今惟有鷓鴣飛   只  今は惟(た)だ鷓鴣(しゃこ)の飛ぶ有り

  ⊂訳⊃
          越王勾践は  呉を破って凱旋し

          忠義の士は  家に帰って恩賞に浴した

          春麗らか宮殿に  宮女は花と溢れていたが

          いまはただ  あたりに鷓鴣の飛び交うばかり


 ⊂ものがたり⊃ 呉地をめぐった李白は、さらに運河を南下して銭塘(浙江省杭州市)から銭塘江を渡り、越州(浙江省紹興市)にはいります。ここでも越王勾践の旧蹟を訪ねますが、かつて華やかな宮殿のあったあたりに飛んでいるのは「鷓鴣」ばかりと嘆きます。鷓鴣は「うずら」に似たキジ科の鳥で、江南ではありふれた鳥であったようです。

 李白ー15
     採蓮曲           採蓮曲(さいれんきょく)
      
  若耶渓傍採蓮女   若耶(じゃくや)の渓傍(けいぼう)  採蓮の女(じょ)
  笑隔荷花共人語   笑って荷花(かか)を隔てて人と共に語る
  日照新粧水底明   日は新粧(しんしょう)を照らして水底(すいてい)明らかに
  風飄香袖空中挙   風は香袖(こうしゅう)を飄(ひるがえ)して空中に挙がる
  岸上誰家遊冶郎   岸上(がんじょう)  誰(た)が家の遊冶郎(ゆうやろう)
  三三五五映垂楊   三三五五  垂楊(すいよう)に映ず
  紫騮嘶入落花去   紫騮(しりゅう)は嘶(いなな)き  落花に入りて去る
  見此踟蹰空断腸   此(これ)を見て踟蹰(ちちゅう)して空しく断腸す

  ⊂訳⊃
          若耶渓のあたりで  蓮の花摘む女たち
          笑いさざめき   花を隔てて語り合う
          陽に照らされ  顔は明るく水面に映り
          風に吹かれて  袖は軽やかに舞い上がる
          どこの邸の若者だろうか
          堤の上で三々五々  しだれ柳に見え隠れする
          栗毛の駒の嘶きが  柳絮のなかに消え去ると
          何だか訳もわからずに  乙女心は切なく揺れる


 ⊂ものがたり⊃ 「採蓮曲」は本来、蓮の根を採る秋の労働歌だったそうですが、李白はそれを柳絮(りゅうじょ)の舞う晩春の艶情の歌に変化させています。「若耶渓」はいま平水江といい、紹興の街の近くを流れています。昔、越の美女西施(せいし)が紗を洗い、蓮の花を採ったという伝承のある有名な川です。
 馬をいななかせて垂楊(しだれやなぎ)の葉陰に消えていった若者たちのうしろ姿を目で追いながら、急におしゃべりを止めて「踟蹰」(ためらい)がちに顔を赤らめている乙女たちの姿を、李白はういういしく描いています。とても若々しい繊細な作品であり、名作といっていいでしょう。もっと後年の作とする説もありますが、若々しさに注目してここに置きました。

 李白ー16
    淥水曲           淥水曲(りょくすいきょく)

  淥水明秋日     淥水  秋日(しゅうじつ)に明らかに
  南湖採白蘋     南湖  白蘋(はくひん)を採る
  荷花嬌欲語     荷花(かか)  嬌(きょう)として語らんと欲す
  愁殺蕩舟人     愁殺(しゅうさつ)す舟を蕩(うご)かすの人

  ⊂訳⊃
          清らかな水が  秋の日に明るく映え

          南湖では  白蘋摘みがはじまる

          蓮の花は  ささやくように艶めいて咲き

          乙女心は  たゆたう舟とともに切なくゆれる


 ⊂ものがたり⊃ この詩も「採蓮曲」と同じ趣旨の詩でしょう。白蘋摘みがはじまっていますが、蓮の花も咲いていますので、秋のはじめころの作品でしょうか。「南湖」という名の湖は江南のあちこちにあって、どこと場所を特定できません。舟に乗って白蘋(浮き草)を採る娘たちを眺めながら、李白は青春のひとときを楽しんでいますが、二年に及ぶ東遊の旅も終わりに近づこうとしています

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