発行人日記

図書出版 のぶ工房の発行人の日々です。
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「一緒に遭難したいひと」1巻、2巻

2011年10月19日 | 漫画など
◆「一緒に遭難したいひと」1巻、2巻
「一緒に遭難したいひと」
 神戸で女の子ふたりがワンルームに共同生活している。姉妹のように育ったおない年の従姉妹どうし。ライターのキリエと非常勤バニーガールの絵衣子。設定年齢27歳。きれいなおねいさんのゴージャスで清貧なライフスタイルが延々と描かれている。

 連載開始が1990年。
 バブル真っ盛りではありませんか。

 彼女たちは背丈と美貌に恵まれ、お金には恵まれていない。働くことに関しての才覚に欠けているわけではない。本気で働けば人並み以上に稼げる。でも、金欠でも自由、を選ぶ彼女たちである。
 Riches I hold in light esteem(富は問題にならぬ エミリ・ブロンテ)ってことかしら。
 でも、彼女たちは気づいているはず。美しいということは、すなわち富んでいる。
 ひとめを引く美女を連れ歩くことがステイタスのバブル期(いや、今もか)。
 アッシー、メッシー、ミツグくん、ということばが80年代後半から90年代はじめ、つまりバブル経済に浮かれていた日本にはあった。
 ステディな彼氏ではなく「お友達」で、無料タクシー代わりになってくれる男子が「アッシー」、お食事を御馳走してくれるのが「メッシー」、服やバッグや靴を買ってくれる人が「ミツグくん」である。今もそういう立場の男性はいるのだろうが、当時は今よりず~っと多かった。若い独身男性の正社員が多く、ボーナスも多かったのだ。不動産だけはやたら高騰していたが、他のものなら何でも好きなものが買えそうな雰囲気があった。
 本編では滅多に登場しない「心優しい」彼らに支えられた生活を送っていたから、収入が少なく、文筆業やバニーの報酬の入金のタイミングによっては、米びつがカラになり新聞代の集金に居留守を使うほど窮迫する彼女たちではあるが、着るもの持ち物には困っていない。すべて自腹でおしゃれしないといけない一般女性に比べて、はるかに富んでいるのである。そして誰かボーイフレンドが食事をごちそうしてくれるので、飢え死にすることはない。
 フワフワと浮き草のように暮らす美女ふたりを地べたにつなぎ止めているのは、キリエのステディなボーイフレンド、心優しく見た目可愛い堅気の青年、税務署にお勤めのマキちゃんである。
 キリエはマキちゃんのことを「一緒に遭難したいひと」と評している。最大限の賛辞ではありますまいか。
 ところで彼女たちは、すでにそれほど若くはなくなっているのかも知れないが、それを補う礼儀だとか心配りだとかがちゃんとある。
 バニーガールの後輩に、礼儀だとか心得だとかを押し付けがましくなく教えることができる。お正月にマキちゃんたちの実家に遊びに行っても、お土産を持って行き、きちんとごあいさつし、台所を手伝う。
 家ごはんは、質素にせよ、きちんとしたものを作って食べているようである。
 見た目は派手だが、たぶん、おつきあいするのに、男女世代を問わず、好感度の高いひとたちだと思う。 
 でも、このひとたち、年とったらどうするのかしら、いつまでこんなノー天気な生活ができるのかしら、マキちゃんはちゃんと結婚してくれるかしら、なんて心配は無用である。だって、2011年現在も、このお話は不定期連載中で、年齢設定も変わっていない。サザエさん方式というか。ちびまる子ちゃん方式というか。つまり、年をとるという問題からは彼女たちは解放されている。
 要するに、これは、妄想全開なファンタジーなのである。
 彼女たちのような生活をしている美女がどこかにいるかも知れないが、20年にわたって年をとらない人はひとりもいないもんね。
 こんな生活はとても無理。でも、女子力アップのヒントにはなる。きれいにしていよう、楽しく過ごそう、家にせよ外にせよ、おいしいお茶飲もう、と思うようになる。
  このコミックは、疲れたときに良いのである。元気な脱力加減が。

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