発行人日記

図書出版 のぶ工房の発行人の日々です。
本をつくる話、映画や博物館、美術館やコンサートの話など。

ゴジラ キング・オブ・モンスターズ ブラッドベリの古くて美しい話について

2019年05月31日 | 映画
◆恐竜はブラッドベリに還った

 ハリウッド版新作ゴジラ映画。伊福部昭のゴジラのテーマは、劇場で聴いてこその気がした。ちなみにこの映画にはモスラも出て来るが、モスラの歌(ザ・ピーナッツが歌ってたのを知ってる私は古い)は、「栄冠は君に輝く」の古関裕而の作曲だとエンドロールのクレジットで知った。
 モスラ、ラドン、キングギドラと、かいじゅうだいこうしんの映画である。
 物語の核心には触れていません。
 大事な道具として、「オルカ」というハイテクな発明品、音波発生装置が出て来る。この音で怪獣は目覚めたり、呼び寄せられたり、凶暴さがなくなったりする。
 これを見て私が思い出したのは、ブラッドベリの短編 THE FOG HORN =『霧笛』。
 ずっと昔、萩尾望都が漫画にしてて、それからかなり時間が経って原文で読んだ。(もちろん英語は専門外だが、漫画の粗筋をおぼえていたので、なんとかなった。)
 ブラッドベリに出てくるのは、海底深く眠っている古代の恐竜で、灯台が発する霧笛の音を遠くで聴いて、仲間がいるのではないかと遠く旅をしてやってくる。恐竜の姿をまのあたりにして、「ありえない(impossibleは、こう訳すのがぴったりかと)」と叫ぶ新参灯台守に、恐竜が来ることを知っていた古参灯台守が言う。ありえないのは恐竜ではなく自分たちだと。
 それに近い言い回しが今回の映画にも出て来る。人間こそが地球の病原菌だと。そしてオルカ装置の音はまさしく海底で孤独に眠る古代恐竜を覚醒させるブラッドベリの霧笛だ。

 ブラッドベリの巨大恐竜は、霧笛のスイッチを切ると怒って暴れ出し、灯台を破壊してしまう。
 
 調べてみると、1953年アメリカ映画でその『霧笛』が原作だという「原子怪獣現わる」というのがあったらしいが、粗筋を読むと全然違う。ブラッドベリの恐竜は核実験とも関係なく、都市も襲わない。でもこの映画は初代ゴジラ映画に影響したらしい。で、本編のゴジラは60年以上かけて、オルカに呼ばれてブラッドベリに還ってきたのだと思った。