発行人日記

図書出版 のぶ工房の発行人の日々です。
本をつくる話、映画や博物館、美術館やコンサートの話など。

ロゴにまつわるエトセトラ

2015年09月02日 | 日記
◆オリンピックロゴは取り下げ
 制作プロセスについて、原案が発表されて、それが、本人も行っていたヤン・チヒョルト展のロゴにそっくりなことを知って、いずれ終了と思ってた。ニュースを聞いて、正直ほっとした。これ以上ここで叩いても仕方がないけど、取り下げた当人の弁は清々しいものではない。

◆職業への誇りはどこだ
 だって当人は、模倣ではないといまだに言っているのだ。
 あれが模倣ではない、というのなら、何が模倣となるのだろうか。
 本人や家族への誹謗中傷に耐えられないとのことだ。たしかに家族への誹謗中傷は卑怯千万だが、世の多くの人々は、自分の職業への誇りとプライドをもって、卑怯な儲け口からの誘惑を振り切っているのだ。自分の仕事ぶりのせいで家族が後ろ指さされるようなことはしてはいけない、と。
 トートバッグ図案のコピペにせよ、スタッフがやったことで自分は悪くないもん的な言い訳がすごく嫌だったな。自分の名前で受けた仕事なのに。

◆知的財産法
 ともあれ、今回の問題から、美術・デザイン系の学校で、知的財産法は重視されるようになるだろう。この点は、喜ばしいことである。クリエイターを養成するすべての学校で、知的財産法は選択科目ではなく必修科目にすべきだと前々から思っていた。

◆デザイナーの問題だけではなくて 
「日本の品質」が落ちているのではないか、と、以前ここに書いたが、その一環がここにもあるような気がする。
 はっきりさせないまま、間違っていても前に進んでしまい、傷が少ないうちに撤退する能力に欠けている。たぶん裏には利権が絡む。そして惨憺たる結果を招くことになるのかも知れない。
 なんでもっと早くあともどりしなかったのか。

 デジャヴ。
 似たようなことは、いくつか挙げられまいか。これは国民性なのか。

◆リスクマネジメント
 補償問題も出てきた。これは切実である。この件で無駄になった東京都の予算は税金である。
 スポンサー企業のなかにも、CMに使ってたところとそうでないところがある。7月に怪しいと思ったところで、あるいはトートバッグ問題が出てきたところで、使用を保留するかどうかを決めることができたわけで。まだ使ってなかった会社(キヤノン、富士通、ヤマトホールディングス)と、そうでない会社。ここから企業のリスクマネジメント能力を読み取ることができる。
 これは全然わからないことなんだけど、スポンサー企業は、当然大企業で、法務や知的財産に関わる部所は当然あり、弁護士なり弁理士なりの顧問は当然ながらいるはずなんだけど、ダメ出しする人はいなかったのかな。

◆この件で喪失したものは金銭にかえることはできない
 今から他の案を選定するとなると多大な費用がかかることは想像にかたくない。その上、つくりなおしなどに損害賠償が生じたら、誰が一体責任を取るのだ。
 デザイン制作者、デザイン審査員、広告代理店、JOC、IOC、誰がどれだけ支払うのだ? 裁判所に決めさせることになるのだろうか?
 身内である制作者当人を庇い、世界を代表するデザインについて大した検証もせずに採用してしまったことを追認しようとしていたのだ。裏には何があるのだ?
 ところで日本デザインの信用失墜はどうだ? 日本製品自体の信用失墜となるのではないか? その損害は誰が補償してくれるというのだ?