“「宅配便でーす」 インターホンから聞こえてきたのは夕食の支度で忙しいときだった。 「ねぇ、お父さん出てちょうだい」 「わしも忙しくて出れないよ」 「なによ!足の爪を切ってるだけじゃないの」
夫は、会社を辞めてから動きが鈍くなり、物忘れもひどくなった。今日のわたしの誕生日なんか、きっと忘れているに違いない。結婚前はよくプレゼントをしてくれたけど、あの気遣いはどこへいったのかしら。
「お留守ですか?」 また配達人の声がする。仕方なく「はい、今出ますよ」と玄関口に行った。そして「差出人は誰かしら?」と聞いてみた。 「はい、ご主人さまから奥さま宛てのようです」
わたしは、顔を赤らめてしまった。”(12月25日付け中日新聞)
「300文字小説」から埼玉県狭山市の安部さん(77)の作品です。心温まる良い小説です。夫婦の姿もよく現している。ご主人からのサプライズです。照れでもあるでしょう。そしてもらった奥さんの赤ら顔・・・。ボクの心も刺激された。
ボクの妻には大きな病が分かった。今病院通いをしている。ボクは妻の誕生日に何をしただろうか。忘れていることがほとんどで、何かを贈った覚えなどない。もうするなら今しかない。今年は是非しなければならない。この小説を忘れないようにしなければならない。今から毎日考えておこう。でも半年後である。物事を忘れやすくなったボクに可能であろうか。ボクが試されることになった。