a letter from Nobidome Raum TEE-BLOG

東京演劇アンサンブルの制作者が、見る、聞く、感じたことを書いています。その他、旅公演や、東京公演情報、稽古場情報など。

TEEリレートークVol.10 『未来へのあこがれ』 竹口範顕

2018-12-01 09:47:23 | 劇団員リレートーク


こんにちは。
前回のブログで、冨山小枝から「どうしたら早く仕事が終わるかを考えている」と言われた、竹口範顕です。
ここで言う仕事というのは、舞台の設営や後片付けのことですね。
それは言い換えれば「どうしたら早くビールが飲めるか」ということなのですが(笑)
もちろん、真面目な理由もありますよ。
疲れる前に早く終われば怪我も少なくなるし、
なにより芝居に向かう心の余裕が生まれます。
早く仕事を済ませる工夫は、役者と裏方兼業の私たちには欠かせないものです。



わたしは今、冨山小枝と同じ『銀河鉄道の夜』のチームで北陸を巡演しています。
彼女は『銀河鉄道の夜』のことを、「共に歩んできた、私の芝居人生そのもの」と言っていましたが、
それほどでなくとも、この演目に強い思い入れのある劇団員は少なくないのではないかと思われます。
「これはこうだよ」「いや、そうじゃないよ、こうだよ」と、芝居の細部について話し出すと収拾がつかなかったりするほど(笑)



わたしにとっても、『銀河鉄道の夜』はやはり特別な存在です。
わたしは1992年に入団してまもなく、学校公演を続けていたこの演目のチームに入れられました。
それ以来、キャスティングは変わっても、
一度もこのチームから離れることなく、今に至ります。



もう十数年前のことになりますが、劇団をやめようとしたことがありました。
仕事で精神的に追い込まれたせいか、芝居がしたいという欲求も消えてしまうような鬱状態になったのです。
結局は、
「そんなにしんどいなら休めば? そして今の状態を乗り越えて元気になったら戻っておいでよ。
あたしはその時のあなたとまた芝居がしたい。」
という大先輩のことばで踏みとどまり、役者をやめずにすみました。
その後は、実際には仕事の量を減らしただけで、休まずに続けていたのですが、
それでも舞台の上で本気で人と向かい合い、
戯曲のことばに魂を吹き込もうという仕事をするには、ひ弱な精神状態が長く続きました。
前向きな心持ちになるまで、多くの人に助けてもらいましたが、
作品としてわたしを支えてくれたのが、『銀河鉄道の夜』です。
真っ暗な宇宙の闇に向かい合って、たった一人、自分の足で立とうとするジョバンニに背中を押されたのです。
そうか、カッコなんか悪くたっていいのか、
鼻水すすりながらでも、前を向いて自分の足で立ってることが大事なのね。
と、そんな気持ちにさせられました。
震災のような、心身ともに大きなダメージをもたらす出来事がある度に、
大勢の人たちが宮沢賢治のことばを求めるのが、わたしにも少しわかるような気がしました。



『銀河鉄道の夜』が東京演劇アンサンブルの代表作のひとつであり、
多くの劇団員の心を掴んでいるのは、
この作品の中に、よりよき未来へ向けて歩んでいきたい、
という願いをみるからかも知れません。
しかも、それを状況説明的な描写を削り落とした、
凝縮されたことばで語ってくるので、話の設定や劇団員それぞれの状況の違いをを越えて、
聞く人観る人の心に刺さってくるのです。

こども向けの演目にしても、大人向けの演目にしても、
東京演劇アンサンブルの舞台には、よりよき未来への憧れという要素が共通していると思います。
それが演目によって、
動物たちの生き方がテーマだったり、
戦争がテーマだったり、
自由がテーマだったり、
基地問題がテーマだったりするだけです。

ブレヒトの芝居小屋は、公演の度に、
また憲法集会などイベントの度に、
職業のジャンルを越えて人が集い、新しい繋がりが生まれるところです。
その営みは世界から見ればとても細々としたものかもしれません。
でも、そうやってよりよき未来への憧れが人から人へ手渡されてきたのです。
入団する前、この劇団の『銀河鉄道の夜』を見て、
なんだか訳がわからず眠ってしまい、
ここにはそんなに長くはいないだろうと思っていたわたしが、今こうしているのです。
若い頃に比べて、少しは想像力が広がったのでしょう。
「想像力が広がるとは、その人自身が変化することだ」
と、このブレヒトの芝居小屋で教わりました。

今月22日からの『銀河鉄道の夜』ブレヒトの芝居小屋公演に是非いらしてください。
そして、たとえ時間がかかろうと人間の変化の可能性に賭け、
よりよき未来への憧れが次世代に手渡される空間、
ブレヒトの芝居小屋の移転に、引き続き皆さまのお力添えをいただければ幸いです。



次回のブログ担当は、わたしに「そんなにしんどいなら休めば?」と言ってくれた大先輩で、
劇団代表の志賀澤子です。

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