RUBBER SOUL(1965年)
いよいよビートルズの中期が始まった。
といっても環境が変わった訳ではない。
相変わらずツアーに明け暮れ、テレビ・ラジオに出演し、シングルは3枚に減ったが、アルバムは2枚。
その2枚目のアルバムのリリース時期が迫った10月を過ぎて、レコーディングが始まったのだ。
それでも当初はのんびりしていたのだが、土壇場になって曲が足らないという事態に陥り、『HELP!』でボツになったレコーディングテープを引っぱり出したりしている。
シングルではアルバム発売にあわせて初の両A面『We Can Work It Out/Day Tripper』をリリースしており、曲数不足だなんだと言っても意地で単複分離の原則は貫いている。
ミックスに関しては、マーティン先生、ステレオミックスをやりなおしたはずなのだが、なぜか最初の4枚と同じように基本ボーカルが右で、一部コーラスが左。楽器はほとんどが左右どちらかに分けられてしまっているものが多い。
音は格段によくなってるだけにもったいない。
ちなみにもともとのステレオミックスは、『モノBOX』の方に、モノ盤と合わせてセットされている。
ところで米Capitolは映画のサントラ『A HARD DAY'S NIGHT』『HELP!』のB面に入っていた映画未収録曲を映画のオーケストラ曲に差し替えるなどして(“サウンドトラック”という意味ではこちらの方が正しいが)、オリジナルアルバムから間引いた分を組み合わせて別のアルバムをでっちあげ、ビートルズに関して出遅れていたにも関わらず、この時点で本国イギリスの倍に近い11枚ものアルバムを出している。
『RUBBER SOUL』も『Drive My Car』『Nowhere Man』『If I Needed Someone』『What Goes on』を削って『HELP!』のB面から『I've Just Seen a Face』『It's Only Love』を追加(差し引き2曲をストック)。
ビーチボーイズのブライアン・ウイルソンがこのパチもん『RUBBER SOUL』を聴いて絶賛し、『PET SOUNDS』を作るきっかけになったというのは、昔の人には有名な話である。
01 Drive My Car
のっけから、どこから入っていいのかよくわからないイントロで始まるポールのアバンギャルド。一般的に『Revolution 9』やヨーコ・オノとムチャをやったジョンが前衛的とされているが、特にジョンがビートルズの柱を担っていた時期は、リーダーとしての責任からか、どちらかというとジョンは保守的。ポールの方がテープループも含めていろんなジャンルの音楽を取り入れたり、実験的なことをやったりしている。言ってみれば、野性の保守派・ジョンと理性の前衛・ポールといったところか。
しかし、ボーカル・コーラス・ピアノとカウベルが右、ギター・ベース、それとジョン(たぶん)のコーラスだけが左というステレオミックスは感心しませんぜ、マーティン先生。
02 Norwegian Wood(This Bird Has Flown)
「ノーウェジアン・ウッド」とは日本人には言いにくいから、『ノルウェーの森』でもまあいか("Norwegian"を日本人は読めないと思ったのか、邦題のカッコ書きは"This Bird Has Flown"の和訳ではなく、本題のカタカナ読みが書いてある)。ジョージが映画『HELP!』でめっけたシタールが使われたことで有名だが、どうして、曲自体も相当面白い。ただ、ユニークすぎて並のアレンジではしょうもないものになってしまいそうなので、その意味ではやはりシタールの貢献度大(たぶんタブラも使ってるんじゃないかと思うけど)。ただ、これでジョージが「よし、オレはインドで自分をアピールしよう」と自信をつけたのであれば、功と同じくらい罪があったことになる。
そして、そのシタールより何よりキモなのはポールのコーラス。ポールのコーラスは天才的だが、自分の歌に自分でコーラスはつけられない。もちろんレコードでは可能だが、同じ声に重なるコーラスと違う声にのせるコーラスでは深みが違う(それこそビートルズの曲でよく分かる)。これが、ポールがビートルズを超えられない大きな理由の一つである。
03 You Won't See Me
中期の幕開け!と言ってもまだ過渡期であり、いかにもそんな曲。ひっぱり加減を工夫したってところだろう。あえて言えば、これも聴きどころはコーラスかな。
04 Nowhere Man
この曲の分厚いコーラスがクリアに聴こえるようになっただけでもリマスターの価値あり! 特にオープニングのアカペラ部分は生々しい。これでボーカルが全部右に寄ってるというのはいかにも残念。ジョンの一人三重唱という説もあったが、今回の解説にはバックボーカルはポールとジョージとしっかり書いてあって、ひと安心
05 Think for Yourself
邦題は『嘘つき女』。まあ、気持ちはわからんこともないが、もうちょっと気の利いた言葉を考えつかんのかね。定説ではベースにファズをかけたことになってるが、別にノーマルのベースも入ってるし、ずっとベースじゃなくてギターにファズをかけてんじゃないかと思っていたが、『the Complete BEATLES Recording Sessions』にもファズ・ベースと書いてあるから、やっぱそうなんだろうな(未だ負けを認めかねてるよ)。
ジョージやリンゴの曲となると、まるでボーカルを覆い隠すかのようにジョンとポールが強烈なコーラスをつけることが多いが、この曲も然り。なお、この曲ではジョージのダブルトラック、ポールとジョンのコーラスが左右に振り分けられている。
06 The Word
邦題は『愛の言葉』。まあ、以下同文。いちおラヴ・ソングということになっているが、実はドラッグ・ソングらしい。このアルバムでバイオリンベースと並ぶもう一つの顔・リッケンバッカーを使い出したポールのベース、かなり気合いが入ってます。
07 Michelle
タイプとしては古い感じで、シャンソン風の歌に一部フランス語の歌詞。作詞についてはこちら(朝日新聞[どらく])に面白い話が載ってるのでご参照を。ベースラインがイカしていて、確か中1か中2の頃、いとこの大ちゃんが曲にあわせてフォークギターでベースラインを弾いて「ポールのベースって面白かろう」と言っていた。僕がベーシストとしての道を歩むきっかけとなった、思い出深い曲である(ちなみに、きっかけはあったが、その後まっとうに歩むことはなかったらしい)。
08 What Goes On
邦題『消えた恋』はどうでもいいが、よく見るとクレジットにはLennon-McCartneyの後ろにStarkey(リンゴ)の名が!
ジョン「リンゴ、オレの曲に勝手に手を加えたそうだな』
リンゴ「どうせテキトーに作った曲でしょう?」
ジョン「…ま、そうだけど…」
リンゴ「えへへ~」
たぶんリンゴの要望を参考にしながらポールがミドルエイトを書き加えたという程度だと思うが、ちゃっかりしてるぜ、リチャード・スターキー当時24歳。まあ、話題としてはその程度かな。
09 Girl
ジョンの語り部風のかすれたボーカルが秀逸なアコースティックバラード。クリアな音で聴くと、大正琴っぽいギターも含めてますますいい。前述の膣、もとい、おっぱい(tit)のコーラスはやはりこちらであった。ちなみにこのコーラス、ビーチボーイズのパロディなんだと。
10 I'm Looking Through You
ポールのオハコ(?)怒り出す曲。『君はいずこへ』という邦題同様、どうでもいいかな。なんか一人(?)手拍子が物悲しく、みんなもうちょっと手伝ってやれよと言いたくなる。エンディングの「チェーインジ、チェーインジ…」とかやってるのは今回初めて気がついた。
11 In My Life
ポールが手伝ったのかポールが書いたのかよくわからんが、いずれにしてもジョンが歌うビートルズの名曲には変わりない。あらためて聴いても素晴らしい。詞の達観ぶりも、とても24歳の青年が書いたとは思えない。ただ、リマスターによって有名なマーティン先生の倍速ピアノのとってつけた感じが強調されてしまったような気はする。
12 Wait
これが曲数不足で『HELP!』のボツ作品から引っぱり出された曲。ジョージのボリュームペダルとリンゴのシンバル多用のドラムにその名残が色濃く漂っている。いちおそのまんまではなくオーバーダブが加えられているが、前回カバー曲を入れてまでボツにするほどひどい曲とは思えまへんけどなあ。
13 If I Needed Someone
「いくら曲が足らないからって、ジョージのヤツ、2曲もねじ込みやがって」とばかりに、2番以降、ジョンとポールのコーラスでジョージのボーカルが聴こえやしない。きらびやかなギターが特徴的だが、まあ、そんなところかな。いちお言っとけば、邦題は『恋をするなら』ね。
14 Run for Your Life
A面に『嘘つき女』というのがあったが、今度は『浮気娘』かいっ! いかにもそそくさっと作った感じで、ジョンも「切羽詰まってたんで、プレスリーの曲の歌詞をパクりました」と懺悔しているが、レコーディングにとりかかったのは、この曲がいちばん最初。まだ焦る時期ではなかったと思うのだが、如何?
(つづく)
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