青空、ひとりきり

鉄路と旅と温泉と。日々の情景の中を走る地方私鉄を追い掛けています。

昔日の石の街から。

2022年11月22日 17時00分00秒 | バス

(公立藤岡総合病院@日本中央バス奥多野線)

新町駅から走り出したバスは、まずは高崎線から南方面に走り、藤岡市内を目指します。藤岡市内の中心駅である群馬藤岡の駅に向かうのかと思いきや、市内に入ってからは真っすぐ駅には向かわず、総合病院や市役所にお立ち寄り。手元のスマホで地図と現在位置を照らし合わせながらルートを確認しておるのですけど、何だかんだと寄り道しては結構遠回りをしている。そもそも、バスなどの公共交通機関はクルマを運転できない学生や高齢者などの交通弱者のためのものであるので、こういうルートを通る事は珍しい事ではない。テレ東の「ローカル路線バス乗り継ぎの旅」を見てると、バスは鉄道の駅前ではなく、地域基幹病院(医療アクセス)とイオンモール(食品購入)と市役所(住民サービス)の新たな「医・食・住」を結節点として再構成されている地域も多いですよね。夏に行った丹後半島も、地元バス(丹後海陸交通)が、半島最大の病院である「与謝の海病院」を中心に路線網が整備されていたのを思い出します。

藤岡市内をグルグルと回り、三回も八高線の踏切を渡ってやっと群馬藤岡駅。ここで若干名の車内人口の入れ替わり。藤岡市の中心駅ではありますが、既に交通の主軸はクルマでありますから、駅の設えも慎ましやかなもの。それでも、トンガリ屋根の瓦葺でオシャレな駅ではあります。八高線の高崎口は、藤岡の先の児玉までは区間列車も頻繁に運転されていて、この辺りは高崎市内への通勤通学圏と言えます。

群馬藤岡の駅前で暫しの時間調整の後、走り出したバスは県道13号線を南へ。車窓は郊外の田園地帯という雰囲気になり、県道が本庄・児玉方面からやって来た国道462号線に合流すると、進行方向左側には神流川の流れを見るようになります。この川が群馬・埼玉の県境で、川向こうが埼玉県児玉郡神川町。バス停は小さな集落ごとに等間隔に設置されているようですが、群馬藤岡の駅を出てからはほぼ全バス停を通過するような状態。それでも律儀に運転士氏はバス停の案内放送を切り替え、次の停留所をお知らせする放送を入れる。ほぼ鬼石に向かって全通過のドライブ状態だったのだが、八塩温泉にほど近い街道沿いのバス停から、相当歳の行った腰の曲がったばあちゃんが乗車して来た。おや、こんなばあちゃんがどこまで行くんだろうと思ったら、二つ先のスーパーの前のバス停で降りて行った。そういうニーズもある。

このバスの終点、鬼石郵便局前。最終的に、終点まで乗っていたのは私と、他に群馬藤岡駅前から乗って来た乗客一名のみ。一応旧鬼石町の中心街らしく、なんかバスターミナルでもあるのかな、と思ったのだが、終点は単なる郵便局の前の停留所だった。バスは僅かな乗客を降ろすと、とっとと神流町方面に向かって走り去って行ったのだが、少し先に広場と転回場所があるようだ。新町駅前からここ鬼石までちょうど1時間。新町~藤岡が30分、藤岡~鬼石が30分という感じだった。

鬼石郵便局の脇にあるバス停と小さな待合所。次のバスが来るまで約30分。バス停の前は「鬼面山」の銘柄を持つ由緒ある造り酒屋であった。鬼石の街は、八塩温泉郷や神流川の刻む三波石峡を中心にした観光地で、昔は東武バスが本庄から鬼石までかなりの本数のバスを運行していた。今はそのバスルートは系列の朝日自動車に引き継がれ、本庄駅~神川総合支所行きのバスとして運行が続けられています。

次のバスが来るまで、鬼石の街をブラリ。まあ、日本の地方はどこもこうなんだろうけど、「昔はそれなりに栄えていたんだろうなあ」という雰囲気。軒を連ねる古びた商店街、すし屋、金物屋、お茶屋、薬屋、肉屋などなど、並んではいるもののどの店が生きていてどの店が役目を終えているのかの整理がついていない。何となくだけど、関東山地に分け入る街はみんなこんな雰囲気がある。こないだ歩いた小川町の雰囲気をもう少しレトロ側に寄せて、勢いを無くしたみたいな感じ。

街の規模にしては酒屋や割烹が多く、おそらく古くから庭石として評価の高かった三波石の産出だったり、埼玉群馬の奥座敷としての八塩温泉郷だったり、それなりの産業と観光があって、地元の人はそれを生業として暮らしていたのだろう。酒屋の看板に書かれた「清酒 三波石」の文字。清酒の銘柄にまでなった地場の特産品。今の世の中に庭石にどのくらいの需要があるのか分かりませんけども、生活様式の変化やそもそも庭のある一軒家なんてあまり現実的でないのが首都圏の住宅事情です。石材業の需要の衰退があった事は想像に難くなく、それがこの街の現実と、昔日の繁栄を物語っているような気がしますねえ・・・

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関東で一番長い、路線バスの旅。

2022年11月20日 10時00分00秒 | バス

(JR休日おでかけパス@鉄道開業150周年Ver.)

この秋は、クルマでなくて電車で出掛ける事が多いというお話の続き。そんな私の旅の助けが、この「JR休日お出かけパス」だったのですが、11月の上旬に「山の方の紅葉もボチボチ色付いた頃かいなあ」という事で三回目の利用をして来ました。今年の秋の「休おで」は、鉄道開業150周年Ver.で微妙にスペシャルなデザインになっています。まあ印字が多少違うだけで値段も効力も何も変わんないんだけどさ(笑)。

始発の電車で横浜に出て、上野東京ラインでひたすら北を目指す旅。横浜から東京までは、それこそ早い時間の新幹線に乗る人が多いのか、朝5時台の電車でも立ち客の出る混雑ぶり。コロナ第8波とか言われても、全国で旅行支援策が行われている昨今、人の流れは既に止められないのだろうか。東京駅で殆どの乗客が下車し、ガラガラになったボックス席を占領してウトウト。いい気分で微睡んでいたら、乗ってた車両が途中の籠原で切り離しの刑。後ろの車両に移動させられる。これが鉄道業界にあるハラスメントの一つ、「カゴハラ」である。

そんなこんなで電車は神流川を渡り、群馬県に入って一つ目の駅である新町駅に着いた。「休おで」のフリーエリアは一つ前の神保原までなので、乗り越し料金190円をお支払い。そこそこの年数生きているけど、新町駅で降りたのは初めてだなあ。高崎に行く際に通過する駅という認識でしかない。平屋建ての駅舎と、駅前のバス・タクシーの車寄せとロータリー。駅裏のビジネスホテルがいい感じに昭和臭い、どうって事のない北関東の駅という雰囲気の新町駅前ですが、今日はここに何をしに来たのか・・・と言うと、ここから出るバスに乗りに来たのです。ええ、基本的に鉄道を取り扱っているこのブログがバスを扱うというのは非常に珍しいのですが、たまには変化球もあって良いでしょう(笑)。

これから乗るバスは、新町駅から出る「奥多野線」。群馬県の日本中央バスというバス会社が運行するこの路線、群馬県はここ高崎市の新町駅前を出て、藤岡市・旧鬼石町・神流町を経て上野村に至るルートを走るのですが、終点の上野村・しおじの湯までの距離は72km。所要時間は便によって若干の違いがあるものの、3時間弱を要するという関東ナンバーワンの超長距離バス路線なのであります。つい先日Twitterでこんなバス路線があるという情報を聞き及び、俄然行ってみたくなったんですよねえ。バスマニアには有名な路線らしいですけど、そっちは門外漢だったからさ。

駅前で待機していた運転士氏と小さなバスが、時刻表通りにバス乗り場に転回して来ました。日野自動車の「ポンチョ」と言われる車種で、一般的な都会の路線バスのサイズと比べるとちょいと小ぶり。いわゆるコミュニティバスサイズ。70km以上走るコミュバスとかあんま聞いたことねーけど、まあ山間部で狭隘部分が多いのと、今はそこまで客もいないという事なんでしょうね。昔は観光バスサイズのクルマが上野村まで走ってたなんて話も聞くので・・・

さてさて、70km以上も走る路線バスとなると、気になるのがバスの運賃。なのですが、この奥多野線に限り沿線の観光振興を見込んでフリーきっぷが発売されています。1日券が大人1,500円で乗り放題。ぶっちゃけ終点まで乗ると2,000円以上かかるんで、乗りバス目的ならマストで手に入れておきたいチケット。運転士氏から直接買うスタイルなので、出発前にお声掛けして買い求めておくことをお勧めします。

まずは新町駅前8:00発の鬼石郵便局前行きに乗車。奥多野線は、途中の鬼石や神流町の万場などまでの区間便もありますので、あえて終点まで行く便には乗りませんでした。一気に終点まで乗り通してもいいのだけど、折角ならば途中下車もしてみたいのでね。という訳で、私と他二名の乗客を乗せたバスは、新町駅前を出発。高崎線の線路を渡り、一路藤岡市方面へ向かいます。ちょいと固めの乗り心地、ケツがいつまで持つか心配になりそうな、乗りバス旅の始まりです。

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