いよいよ「報告書」のとりまとめが行われた「労働契約法制の在り方」の審議。ホワイトカラー・エグゼンプションも一応は「法制化」という方向とはなったようですが、労働側からの反発は強く「反対意見明記での意見取りまとめ」となったようです。
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産経・日経の2紙のWeb版にはまだ記事が掲載されていません(8:00現在)が、恐らく近いうちに何らかの記事が載るのではないかと思います。
さて、「残業規制除外」という強いインパクトをもったホワイトカラー・エグゼンプションばかりに目が向けられていますが、今回の報告はあくまでも「労働契約法制及び労働時間法制の在り方」全体についての話です。「労働契約」を初めとした労働実務に大きな影響を与えると予想される報告は他にも数多くあります。ということで、前回のエントリに引き続き、厚生労働省発表の報告案をベースとして、今回の「報告書」の内容からみた労働実務上の対応ポイントを考えます。本日は「」
「労働契約法制の在り方」報告書に含まれているもののうち、意外と大きな影響を及ぼしそうなのがこの「権利の濫用によって無効とされる状況の拡大」です。今回の労働契約法制の整備に伴って、今まで「解雇」に関してのみ法律の言及があった「権利濫用による無効」が、重要な労働条件(=労働契約内容)の変更等にも拡大されることになりそうです。
これまでも解雇については、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、その権利を濫用したものとして無効とする。(労働基準法第18条の2)」とされてきました。これは、判例による「解雇権濫用の法理」が法律上明文化されたものですが、労働基準法上非常に重みのある条文として現在も考えられています。(なお、この解雇権濫用の法理は労働基準法から労働契約法に移行することとなるそうです。)
一方、今回の審議では、同じように判例法理がある程度確立されてきていた「出向」「転籍」「懲戒」の3点について、同様の「権利濫用による無効の明文化」が行われる見通しです。
まず、出向(在籍出向)については
一方、転籍(移籍出向)については「労働者と合意した場合に」行い得るとされました。すなわち、従業員を(関連会社を含めて)他の会社へ転籍させるような場合には「個別の同意」が必要であることが明確になりました。転籍については、これまで「元の会社を退職し、期間をあけずに転籍先の会社に入社」という形が実務上多くとられておりましたが、今後は個別同意を持って「労働契約の譲渡(退職金引継ぎ相当額金銭対価の支払を含む)」という形の処理も可能となると考えられます。
この出向・転籍についての実務対応ポイントは次のようにまとめられます。
また、懲戒についての「権利濫用法理の明文化」について、「適切な懲戒処分」に必要な要素としては
となりました。これまでも懲戒解雇については解雇法制で押さえられていた部分ですが、懲戒処分全般(戒告や減給、降格・降職・停職等を含めて)に拡大されたと考えればよいかと存じます。
ただ、この「客観的な合理性」や、「社会通念上の相当性」というのは、最終的には裁判所の判断によるところが大きくなると予想され、しかも「時とともに変遷する」性格を持っています。(例えば、現在は普通の話しとして捉えられている「飲酒運転検挙による懲戒解雇」も、過去の判例では「合理性がない=重過ぎる」として否定されるケースがありました。)
ということで、懲戒処分に関する実務対応としては、次のようにまとめられます。
特に(2)のポイントは重要です。「客観的な事実」について確認書をとっておくことで、「納得の上(というか、しゃーないなーという気持ちの中)での懲戒処分」を形成することが容易となります。このあたりは、ISO9001やISO14001等のマネジメントシステムが要求する「内部監査」や「是正処置」の技法が応用できるところではないかと私は考えます。
続きは次回のエントリに。次回は「辞める・辞めさせるへの対応」について考えます。
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ホワイトカラー・エグゼンプション:労政審報告に盛る(Mainichi Interactive-毎日新聞)
残業代ゼロ「導入適当」 労政審(asahi.com-朝日新聞)
ホワイトカラーの労働時間規制除外、労基法改正案へ(Yomiuri Online-読売新聞)
産経・日経の2紙のWeb版にはまだ記事が掲載されていません(8:00現在)が、恐らく近いうちに何らかの記事が載るのではないかと思います。
さて、「残業規制除外」という強いインパクトをもったホワイトカラー・エグゼンプションばかりに目が向けられていますが、今回の報告はあくまでも「労働契約法制及び労働時間法制の在り方」全体についての話です。「労働契約」を初めとした労働実務に大きな影響を与えると予想される報告は他にも数多くあります。ということで、前回のエントリに引き続き、厚生労働省発表の報告案をベースとして、今回の「報告書」の内容からみた労働実務上の対応ポイントを考えます。本日は「」
なお、本エントリ及び関連エントリにおいて記載する内容は、あくまでも平成18年12月27日時点で入手した「報告案」をベースに立石個人の見解を取りまとめたものです。最終報告の内容や法律化にあたって取り扱いの変更・修正が行われる場合もありますので、ご覧になる際にはこの点について十分にご注意いただきたいと存じます
【2】確立する『使用者側の権利の濫用』への対応
「労働契約法制の在り方」報告書に含まれているもののうち、意外と大きな影響を及ぼしそうなのがこの「権利の濫用によって無効とされる状況の拡大」です。今回の労働契約法制の整備に伴って、今まで「解雇」に関してのみ法律の言及があった「権利濫用による無効」が、重要な労働条件(=労働契約内容)の変更等にも拡大されることになりそうです。
これまでも解雇については、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、その権利を濫用したものとして無効とする。(労働基準法第18条の2)」とされてきました。これは、判例による「解雇権濫用の法理」が法律上明文化されたものですが、労働基準法上非常に重みのある条文として現在も考えられています。(なお、この解雇権濫用の法理は労働基準法から労働契約法に移行することとなるそうです。)
一方、今回の審議では、同じように判例法理がある程度確立されてきていた「出向」「転籍」「懲戒」の3点について、同様の「権利濫用による無効の明文化」が行われる見通しです。
まず、出向(在籍出向)については
(1)出向の必要性の2点が要件として挙げられています。このままでは曖昧な部分も多いのですが、既に過去に蓄積された判例の読み解き等によりある程度「事実上の基準」が形作られておりますので、これらを尊重した対応が必要となるということでしょう。
(2)対象労働者の選定その他の事情
一方、転籍(移籍出向)については「労働者と合意した場合に」行い得るとされました。すなわち、従業員を(関連会社を含めて)他の会社へ転籍させるような場合には「個別の同意」が必要であることが明確になりました。転籍については、これまで「元の会社を退職し、期間をあけずに転籍先の会社に入社」という形が実務上多くとられておりましたが、今後は個別同意を持って「労働契約の譲渡(退職金引継ぎ相当額金銭対価の支払を含む)」という形の処理も可能となると考えられます。
この出向・転籍についての実務対応ポイントは次のようにまとめられます。
(1)在籍出向の場合には、たとえグループ会社・関連会社への出向であっても、出向の理由や出向者の選定等についてきちんと明らかにする。
(2)出向契約書や出向辞令は確実に作成する。
(3)転籍(移籍出向)の場合には、たとえグループ会社・関連会社への出向であっても、個別の同意が必須。
(4)転籍は「労働契約の譲渡契約」と捉え、転籍元-転籍先、転籍元-対象者、転籍先-対象者の3つの「2者間契約書」をきちんと残しておく。
また、懲戒についての「権利濫用法理の明文化」について、「適切な懲戒処分」に必要な要素としては
労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、
(1)客観的に合理的な理由
(2)社会通念上相当であると認められること
となりました。これまでも懲戒解雇については解雇法制で押さえられていた部分ですが、懲戒処分全般(戒告や減給、降格・降職・停職等を含めて)に拡大されたと考えればよいかと存じます。
ただ、この「客観的な合理性」や、「社会通念上の相当性」というのは、最終的には裁判所の判断によるところが大きくなると予想され、しかも「時とともに変遷する」性格を持っています。(例えば、現在は普通の話しとして捉えられている「飲酒運転検挙による懲戒解雇」も、過去の判例では「合理性がない=重過ぎる」として否定されるケースがありました。)
ということで、懲戒処分に関する実務対応としては、次のようにまとめられます。
(1)基本的には業務内での注意指導に留め、懲戒処分は「抑制的」に運用する。
(2)どうしても懲戒処分が必要な場合には、「対象となる客観的事実」を文書で示し、最低限「事実の有無」については可能な限り同意のサインを取る。(相手に証拠を確認させる)
(3)「対象となる事実によって当該懲戒処分を受ける理由」が明確になるよう、就業規則等にある懲戒処分の内容及び基準を整理する。
特に(2)のポイントは重要です。「客観的な事実」について確認書をとっておくことで、「納得の上(というか、しゃーないなーという気持ちの中)での懲戒処分」を形成することが容易となります。このあたりは、ISO9001やISO14001等のマネジメントシステムが要求する「内部監査」や「是正処置」の技法が応用できるところではないかと私は考えます。
続きは次回のエントリに。次回は「辞める・辞めさせるへの対応」について考えます。