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コンサルタントのネタモト帳+(プラス)

ビジネスにも料理にも役立つ“ネタ”が満載!社労士・診断士のコンサルタント立石智工による経営&料理ヒント集

パートの年金:適用拡大範囲は限定的?

2007-03-07 | 経営実務
今日の日経から。

パートの厚生年金適用、月収9万8000円以上に(NIKKEI NET)


厚生労働相の諮問機関である社会保障審議会の年金部会は6日、パート労働者の厚生年金の適用拡大に関する報告書をまとめた。適用条件となる労働時間を今の「週30時間以上」から「20時間以上」に広げる一方、月収に条件を設けて対象者を絞り込む方針を明記した。月収の条件は9万8000円以上が最有力。さらに中小企業は一定期間対象外とすることも盛り込んだ。対象となるのは従業員300人以上の企業となる方向だ。

 厚労省によると、条件を20時間以上働くパートに広げた場合、新たに300万人が厚生年金の対象となるが、月収9万8000円以上という条件が加わると40万人に減る。さらに従業員300人以下の中小企業を除くと、16万人まで減少する。(07:02)

なんとも「振り上げたこぶしのおとしどころを無理やり探した」といった感が強い今回の報告まとめですが、とりあえずは適用範囲の拡大と月収基準の設定による絞込みが行われたということですね。
ちなみに、月収9万8000円を時間給に換算すると
週20時間(1日4時間&週休2日) ⇒ 時給およそ1,225円
週25時間(1日5時間&週休2日) ⇒ 時給およそ980円
週30時間(1日6時間&週休2日) ⇒ 時給およそ816円
週35時間(1日7時間&週休2日) ⇒ 時給およそ700円
※1ヶ月を4週として計算。
となります。愛知県の場合、最低賃金は694円となっていますので、週35時間ならギリギリクリアするかどうかといったところでしょうか?

こうした形での対応となってしまったので、恐らく今後「時給の調整」といった局面となるのではないかと感じます。かえって『気持ちよく働きたい人の足を引っ張る』ことにならないかどうか、私は不安に感じます。

こうした事態を招かないための「制度設計」も考えうるのですが、これについてはまた別の機会にご紹介したいと思います。

労働実務:「退職勧奨」ができる就業規則になっていますか?

2007-02-22 | 経営実務
先日ご紹介した退職勧奨に関わる話題の続き。お客様からも継続してご相談を受けておりますが、色々と調べて中で、一つ「日常の労務管理」の一環として、非常に大切なことがあることが分かりました。

その問題とは、「就業規則上の退職勧奨への対応」と言うもの。従業員にとって非常に影響が大きい「退職」に関する事項については、労働基準法において「就業規則上の定めが必要」とされます。この退職に関する事項に就いて、一般的な「モデル就業規則」の場合には、次のような定めが置かれています。
第●乗(退職)
当社では、従業員が次の各号のいずれかに該当するに至った場合には、退職とする。
(1)第●条に定める定年に達した時
(2)死亡した時
(3)第●条に定める休職期間が満了し、なお休職事由が消滅しない時
(4)当社に対して退職を申し入れ、当社がこれを承認した時
(5)辞職届を提出し、その後14日が経過した時。
(6)第●条に定める解雇に該当する時

例えばこの例で言えば、(1)から(3)については「自動退職(≒事前合意に基づく合意退職)」、(4)は「従業員からの申込みによる合意退職」、(5)は「従業員の一方的意思表示による離職」、(6)は「会社からの一方的意思表示による離職」の事由をそれぞれ定めたものになります。表現の際はありますが、モデル就業規則として一般に公表されているものについては、このような内容となっているケースが多々見られます。

しかし、先の説明をよく読んでいただければ分かっていただけますが、この中には「勧奨退職」すなわち「会社側からの申込みによる合意退職」に関しての言及がありません。このまま放置した場合には、いざ「勧奨退職」を行おうとしても、「従業員から退職を申し込ませる=従業員から退職願を出させる」という形を取らざるを得なくなります。

もちろん従業員が納得してもらえればそれに越したことは無いのですが、特に業績不振に伴って「退職勧奨」を行う場合には、本来的には「会社が退職をお願いする」立場にあるにもかかわらず、従業員に「退職を願わせる書類」を出させなければならないという矛盾した手続きになってしまい、不要な部分に気を使わせることに繋がってしまいます。このような事態を避けるためにも、就業規則の退職に関する定めの部分では、最低でも「会社が従業員に対して退職を勧奨し、従業員がこれに合意した場合」という項目を入れ、出来れば「従業員に退職を勧奨できる場合」についても整理をしておくことが望ましいと考えられます。(なお、具体的な定めの内容については会社の状況によって異なります。予めご了承ください。)

これらの手当ては「平時」においてこそ出来るものです。普段から備えを怠り無く進めておき、いざと言う時に使えるようメンテナンスを心がけることが必要であると私は考えます。

労働実務:「解雇」の前に「退職勧奨」の検討を

2007-02-18 | 経営実務
今日は休日ながらもお客様からのご相談への対応を行っていました。相談テーマは「人員整理」について。業況が芳しくなく、やむを得ず退職頂かなければならない方に対する対応策について相談対応を行いました。

従業員と会社が雇用契約を終了する場合には、「申し入れ者」と「合意の有無」の組み合わせにより、次の4つのパターンが考えられます。
(1)辞職 ・・・ 従業員からの一方的な意思表示による雇用契約の終了
(2)一般的な退職 ・・・ 従業員からの退職願に対して、会社が承諾する雇用契約の終了。
(3)退職勧奨 ・・・ 会社が退職の申し入れを行い、従業員が承諾する雇用契約の終了。
(4)解雇 ・・・ 会社側の一方的な意思表示による雇用契約の終了

このうち、「解雇」は、労働基準法にある「解雇権濫用の法理」等に基づく要件などにより、非常に大きな制限がかけられています。また、解雇を従業員から見れば「他人だけが決めたことによって、生活への極めて重大な影響を被ることになる」ことから、普段以上に「事を荒立てもかまわない」という感情が生じやすくなります。つまり、「解雇」は、その位置づけから常に「モメゴトを引き起こす種(紛争リスク)」を孕んでいると言えます。

このリスクへの対応策としては、「出来る限り解雇を避ける」というリスク回避の選択が必要となります。その中で、私がおススメするのは「予防的処置」、すなわち「会社から申し入れた上で、合意によって退職していただく」退職勧奨の活用です。ということで、今回のご相談でもこの「退職勧奨」を軸とした対応をご提案いたしました。

ところで、この「退職勧奨」で注意しなければならないのが「会社側からの申し入れと、これに対する従業員側の応諾に基づく雇用契約の終了」をプロセスの上できちんとたどっていくということです。よく「退職勧奨」の中では「従業員に退職願を出させる」という対応が行われていますが、退職をお願いするのはあくまでも「会社側」であることに鑑みればあまり望ましい対応ではありません。その上、このような対応は、従業員に対して「何で会社から辞めろといわれているのに、こちらから願いを出さなければならないんだ」という気持ちを湧き上がらせる素となって、「まとまるものもまとまらなくなる」きっかけを与えかねません。

そこで退職勧奨でぜひ行っていただきたいのが、「退職に関する合意書」の締結です。会社からの申し入れに基づく退職であることに区分け、退職予定日や退職に当たっての諸条件などを文書としてまとめ、双方が納得の上締結いただくのが良いのではないかと私は考えます。

退職に当たっての条件として記載する内容としては、退職予定日までの勤務の取り扱いや、退職金に関する事項、退職にあたっての手続き処理や業務の引継ぎ、機密保持などが上げられます。この他、離職票に記載する離職理由についても減給しておくことが望ましいでしょう。

退職に関する合意書を作成する上で最も大切なことは「対等な立場で、一つずつ冷静に条件を確認し、合意を得る」ということ。たとえ合意に基づく勧奨退職だとしても、従業員にとって「会社を離れる」ということは大変な負担がかかることには変わりありません。だからこそ、「合意書」の作成と内容確認を通じで、従業員の不安を一つずつ丁寧に解消していき、「会社側からきちんと申し入れて、従業員がきちんと合意できる」ところまでもって行くことが必要なのです。会社所定の様式を準備することは良いことですが、様式の内容にとらわれることなく、従業員からの要望に可能な範囲でこたえていくことが大切だと私は考えます。

会社には、一度従業員を雇ってしまったら可能な限りその生活の糧を確保できる環境を維持する責任があります。それでも、会社側から見て「残念ながら辞めて頂きたい」と思う人がいるのであれば、その人に「辞めても良い」と感じてもらえるだけの努力をする方が、結果として会社も従業員も「次のステップ」に気持ちよく進んでもらえるのではないかと私は考えます。

社会保険:「加入漏れ」の金銭的リスク度合いは?

2007-01-25 | 経営実務
たまには社会保険労務士らしいエントリを一つ。最近、立て続けに「社会保険への加入漏れがあった場合の企業に対する影響」に関する相談を各所から頂きましたので、その内容をご紹介したいと思います。

その前に、社会保険に関するおさらいから。健康保険・厚生年金ともに、法律では「常時従業員を使用する法人」又は「常時5人以上の従業員を使用する一定業種の個人事業主」については、社会保険の適用事業所として従業員に対して社会保険関係が発生します。

この「保険関係」は、会社や従業員の加入意思とは無関係に発生することから、保険関係から生じる「保険料」についても同じように発生します。つまり、例えば調査等で「この人は社会保険の対象となる従業員です」とされたら、その人についての保険料を収める義務を生じることになります。

この場合に問題となるのが『過去分の保険料』。状況にもよりますが、法律上は「最長で2年間分」までは納付義務が生じる可能性があります。
そこで注意しなければならないのが、「さかのぼって支払わなければならなくなった分の保険料の納付額」。保険料の納付は、会社が「従業員負担分」と「会社負担分」を合算した全額を収めることになりますので、倍付けで負担が必要となります。

そうすると、例えば諸手当込みの総額ベースで月25万円の従業員の場合には、健康保険料が24,518円(介護保険料込み)、厚生年金保険料が38,069円となりますので、月当たりの保険料総額は62,587円となります。これが2年分遡って納付となれば
62,587円×24=1,502,093円
と、なんとたった一人の従業員の加入漏れが、150万円以上もの金銭負担が一時に押し寄せてくることになってしまいます。たった一人でもこれだけの負担になるわけですから、事業規模が大きくなって数十人という対象者が出てしまうと、それだけで「億」単位のリスクにも広がってしまう可能性を秘めているといえます。

この問題は例え従業員が「社会保険には入りたくない!」と希望していたとしても、保険料の納付義務者が会社である以上亜h、全て「会社側のリスク」として考えなければなりません。しかも、従業員負担分を適切に「天引き」しておかなければ、後から「過払い給料だったので、返してね。」と言ったところで、回収できるケースはほぼ稀でしょう。

ちなみに、この点は通常の企業実務の中でも重要な問題ですが、それ以上に「M&A」の分野でより慎重に検討が必要な場合があります。特に、パートやアルバイトをたくさん抱えている企業を買収しようとした時には、相手方に悪気はなくても社会保険事務所の調査等で「加入漏れ」とされてしまうケースも考えられることから、「財務リスクの洗い出し」の観点からも社会保険の加入状況についてはしっかりと調査を行うことが望ましいでしょう。

もちろん、M&Aの世界での労務に関するリスクはこれだけに限りません。例えば未払い賃金の問題はないか、安全衛生環境は整っているか、就業規則等の整備にコンプライアンス上の漏れはないか、今後の仕事が難しくなるような労使慣行がないか・・・等など、「後のリスクをできるだけ事前に把握する」という観点からは、労務面においても大変多くの要素を見ていかなければなりません。現在のM&Aの場面では財務と法務についてのデューデリジェンスはよく行われていますが、M&A後を見据えて対応を行っていくためには、ぜひ「労務デューデリジェンス」
にも取り組んでいただきたいと願っています。

なお、当事務所では「M&Aに関する労務・社会保険問題」のご相談を随時受け付けております。初回のご相談は原則無料で対応させていただいておりますので、難しい局面に遭遇した方は、ぜひ遠慮なく当事務所までお問合せください。もちろん秘密は厳守いたします。

ということで、今日はココまで。
(P.S.)
最近本当にたくさんのアクセスを頂いており、誠にありがとうございます。皆様のアクセスを励みとして、次々と皆様にお役に立てるであろうと感じる話題のご提供を続けてまいりたいと存じます。

そのためにも、ぜひお帰りの前には、↓ブログランキングと↓はてなブックマークへご協力を頂き、「応援の気持ちの見える化」をぜひとも宜しくお願い申し上げますm(_ _)m

労働契約法制:ホワイトカラー・エグゼンプションとIT業界

2007-01-24 | 経営実務
アクセス解析を見ていますと、大変ありがたいことに安定的にアクセスが増加してまいりました。その中でも、ホワイトカラー・エグゼンプションの話題については様々な方からコメントやご意見をいただいており、関心の高さを感じさせていただいております。

その中で、あかさたさんのブログにて、私の以前のエントリについてご意見を頂戴いたしました。

ホワイトカラー・エグゼンプションについて(Akasata's Page)

このエントリを読ませて頂き、以前のエントリの中で、私の表現の拙さから分かりにくい部分もあったことに気づくことができました。あかさたさんのエントリにもコメントを寄せさせていただきましたが、「IT業界におけるホワイトカラー・エグゼンプション」というものをもう一度整理して見たいと思います。

まず、プログラマ・SEという職種の性格から考えてみたいと思います。改めていろいろと考えてみると、プログラマ・SEという職種には「その人にとっては時間と生産量の相関が認められる」世界と、「生産性と時間が相関しない」が共存しているように感じます。

例えば、あかさたさんのブログで紹介されているJoel氏のようなケースは、「研究開発型」のアプローチといえるのかと思います。OSやアプリケーションの開発といった、今までとは異なる「独創的な解決策」が求められるような「開発」を行うときには、このような働き方が適するのでしょう。

一方で、私が過去IT業界の「現場」で見てきたのは、大型システムを分業体制で構築していく世界です。そこで行われるのは「仕様書に基づいて忠実に実装する」ことであり、独創的な解決策というよりも「効率よく一定のボリュームの作業を行う」ということが求められてます。システムが大型化するほどこの傾向は強まり、潤沢なハードウェア資源を背景といして、既存の部品やデータベースへのアクセスの「組み合わせ」をただひたすらと打ち込んでいく「生産」というのが、日本におけるITエンジニアの一つの大きな仕事となっているのではないかと感じます。また、このほかにも大型システムとなれば「システムが安定稼動するようにお守りをする」という「監視・保守」というのも一つのまとまった大きな仕事となります。

したがって、同じ「プログラマ・SE」と言ったとしても、「求められる成果」によって
●「開発」型 ●「生産」型 ●「監視保守」型
の3つに分類して考えていかなければ、「働き方のあり方」を考えることは難しいのではないかと感じます。

そこで、ホワイトカラー・エグゼンプションの議論に戻りますが、まず「開発」型のプログラマ・SEについては、期待成果は「今目の前にある課題を解決すること」であることから、時間と成果の結びつきは必然的に弱くなります。したがって、このような形のプログラマ・SEについては「裁量労働」や「ホワイトカラー・エグゼンプション」の制度が似合う分野となってくることでしょう。

一方で、「生産」型や「監視保守」型のプログラマ・SEについては、少々状況が異なります。「生産」型のITエンジニアに期待される成果は「指示された内容にしたがって、(一種の単純労働的に)指示された内容を実施すること(例えば、DBテーブルを構築したり、仕様書に沿ってコーディングをしたり、システムソフトウェアをインストールしたり・・・といったこと)」=「一定のボリュームの作業を行う」となります。こういった形の場合には、手の早さ遅さといった個人差は除いても、少なくともその人個人にとっては、「時間量」と「作業量(生産量)」の相関関係は相当程度高まりますので、時間では拘束しないとしてしまう「ホワイトカラー・エグゼンプション」には余り向いていないでしょう。(例えば、サーバーを更改するときなどは、深夜帯での作業をどうしても行ってもらわなければならないという状況を思い返していただければ分かりやすいかと思います。)

まして、「監視保守」系のエンジニアの場合には「一定の時間において、その間に起きうることを監視し、対応する」という極めて時間拘束性が強い職種になります。したがって、「生産」型にせよ「監視保守」型にせよ、「時間によって成果がある程度測定できる」という観点からは、「ホワイトカラー・エグゼンプション」の対象として考えるのは問題が多いのではないかと感じるのが私の意見です。(前回はこのことについて「ブルーカラー」と表現してしまいましたので、誤解を生んだ部分があったかと思います。)

今の状況を見ていると「プログラマ・SEだから、個人の創造性で仕事をしているはずで、時間では成果が測定できない」という安易な意見がまかり通ってしまっているように感じます。肩書きや職種のみで判断するのではなく、その仕事内容の「本質」をきちんと見極めていかなければ、かならず「ひずみ」と「拡大解釈」が生まれ、結果として大きな問題に繋がってしまうことがあるのではないかと思い、前回のエントリを書かせていただきました。メンタルヘルスの問題も含め、元IT業界に携わっていた社労士からの「IT業界への警鐘」としてご理解いただければ大変幸いです。

(追伸)
このエントリに限らず、私のエントリについて引用やご紹介、またご批判・ご指摘を頂ける場合には、ぜひ遠慮なく当該エントリへトラックバックいただければ幸いです。TBいただけたとこには、ぜひお邪魔させていただきたいと思っておりますm(_ _)m

人事労務: マニアックな労務相談

2007-01-18 | 経営実務
昨日・今日と某所から続いて労務相談を頂きました。どちらも日常の労務ではなかなか出会わないマニアックなもの。折角の機会なので、その一部をご紹介いたします。

今回頂いた相談は「賃金締切日の変更」は行い得るのかどうかというもの。実は、類似の相談を立て続けに複数の会社から頂いておりましたが、いずれも「事務処理の必要性」からやむを得ず締切日・支払日を変更したいとのご相談でした。

通常の会社ですと、会社の状況によって月毎に「賃金締切日」を設定し、前の賃金締切日の翌日から当月の賃金締切日までの間に発生した賃金を予め設定した「賃金支払日」に支払います。例えば「15日締め当月20日払い」という会社であれば「前月16日~当月15日までの賃金を、当月20日に支払う」ということになります。

毎月の給与計算は、当然この「締切日」から「支払日」までの間に済まさなければならないのですが、振込で支払うことが多い給与については、実際には支払の3日程度前には済ませなければなりません。このため、「締切日」から「支払日」まで余裕が無い時には、給与計算の作業がタイトになるため、従業員の増加などの理由から締切日や支払日を変更したいという状況が発生する場合があります。

このとき「締切日」を変えようとすると、実務上の支障をきたす場合があります。例えば、先の例で「5日締当月20日払い」に変更しようとすれば、何処かの月の賃金計算期間が「前月16日~当月5日」となるため、締切日を変更したつきでは「同じタイミングで3分の2しか賃金が受け取れない」ということになりかねません。こうすると従業員の生活に多大なる支障を与えることから、従業員に対して強い不満を与えかねません。

これを回避するためには「決算賞与等の何らかの名目で不足分を補填し、短い期間についても丸々1か月分の給与を支払ってしまう」ということが考えられます。ただし、この方法は資金的な手当てが必要になりますので、余裕のある会社でなければ難しいでしょう。賃金計算期間の変更は「短くなった部分(先の例では10日分)」の賃金債務が玉突き状態で退職時まで順次繰り延べされていくことになることから、非常に慎重な対応が必要となるのです。

一方、締切日ではなく「支払日」を変えてしまう方法はもう少し容易になります。もう少し容易に対応することが可能となります。すなわち、先の例では「15日締め当月末日払い」等に変えるとする方法です。ただし、この場合には「毎月1回以上払いの原則」に反しないよう、変更月においては2回に分けて賃金を支払う(前半部は従来の締切日で、後半部は新しい締切日で支払う)等の対応が求められます。

「支払日」を変える場合には、賃金計算期間が変わりませんので先のような「長期間にわたる賃金債務の実質的繰り延べ」といった問題は起こりません。したがって、給与計算事務の期間に余裕を持たせる際には「支払日」の変更で対応することが望ましいと考えられます。

なお、支払日の変更についても就業規則上の手当てと従業員との合意の取り付けのほか、社会保険・雇用保険上の留意点が発生する場合がありますので、詳しくは当事務所までお問合せ頂ければ幸いです。

こういった「マニアック労務相談」は立石智工事務所の最も得意とするところです。イレギュラーな労務実務に関するご相談がございましたら、いつでも当事務所までお問合せください。個別の状況に応じた解決策について、ご相談に応じさせて頂きます。

本ブログでは、今後も折に触れてマニアック労務相談事例をご紹介したいと思います。ご参考になれば幸いです。

労働関係:『雇用』を誰がどうやって保証するか?

2007-01-13 | 経営実務
昨日のエントリからの続き。「ホワイトカラー・エグゼンプション」の様々な議論を見ながら「労使関係」のあり方を考えていた時に、ふと「雇用というのは、誰がどのように担保する必要があるのか?」ということを考える必要があるのではないかと感じました。

まず、本日のエントリにおいては、「雇用の安定」について「雇用そのものの維持」「雇用が維持されなくなった状態における生活基盤の担保」「雇用が維持されなくなった状態からの回復
の3側面を誰が担うのかという観点から考えたいと思います。
戦後からバブル崩壊までの間におけるかつての日本では、雇用の安定の3側面の担い手は、
●「雇用そのものの維持」の担い手 ⇒ 雇用者たる企業(≒終身雇用)
●「雇用が維持されなくなった状態における生活基盤の担保」の担い手 ⇒ 国(≒失業保険)
●「雇用喪失状態からの回復」の担い手 ⇒ 主に国(≒職安)という時

という状況が長く長く続いてきました。同一企業における雇用の維持が原則ですので、労使関係も「ある企業で出来るだけ長く出来るだけ良い条件で勤める」とことを目指すものとなりました。これらは例えば「企業別に組織された労働組合」や「年功序列の賃金体系」、また「解雇権濫用法理(及びこれを織り込んだ労働基準法)」という形で具現化されてきました。

しかし、現在の日本においては、雇用維持・雇用喪失時の生活基盤担保・雇用回復の3つの役割については「大きなうねり」として変化を始めています。例えば「非正規雇用」の代表例とされる派遣社員という勤務形態では、「雇用そのものの維持」の担い手は主に派遣元企業(人材派遣会社)となります。仮に派遣先企業と派遣元企業の間で派遣契約が打ち切りとなったとしても、派遣元企業が適切な条件で適切な派遣先を紹介できれば問題ありません。また、「雇用喪失状態からの回復」についても派遣元企業が(自分たちの商売として)ある程度対応してくれますし、「別の派遣先に登録する」という形で対応することもできます。この点については「正社員」よりも充実しているといえるかもしれません。

ただ、現在の登録型派遣の場合には「雇用が維持されなくなった状態における生活基盤の担保」は、派遣社員の場合「雇用保険」に加入されない(又は出来ない)ケースが多々あることから、この部分のサポートは更なる拡充が必要と考えられます。したがって、雇用の安定を先ほどの3側面から見たときには
●「雇用そのものの維持」の担い手 ⇒ 雇用者たる派遣元企業(1社に限られない)
●「雇用が維持されなくなった状態における生活基盤の担保」の担い手 ⇒ 一部国(要改善)
●「雇用喪失状態からの回復」の担い手 ⇒ 主に人材派遣会社(+一部国)

という関係が成り立ちます。

ところで、「雇用の安定」と一口にいった場合でも、これが必ずしも「同一勤務先における雇用の維持」を直ちに指すものではありません。例えば、先の派遣社員の例で言えば、たとえ実際に勤務する派遣先が一定期間ごとに変わったとしても、継続的に派遣就業が行われていればこれは十分に「雇用の安定」が図られているといえます。したがって、「雇用の安定」を図るための方策としては「同一勤務先における雇用の維持」だけではなく、「雇用喪失状態からの早期回復(=すぐに次の職が見つかる環境)」もまた同じように重要であると考えられます。実際、正社員の場合には今でも「同一雇用先での雇用維持」が大前提となっていますが、派遣社員の場合にはどちらかといえば「雇用喪失状態からの早期回復」という点にもウエイトが置かれていると私は考えます。

では、「ホワイトカラー・エグゼンプション」が仮に導入された場合はどうなるかを考えると、先のエントリでも少し触れましたが、経営者側からすれば「包括的な指揮命令権」を手放すわけですから、本音ベースでは「労働時間規制」だけではなくて「解雇」についても自由にしてくれといいたい部分があると考えられます。すなわち「ホワイトカラー・エグゼンプション」の対象者になるような人については、「同一勤務先における雇用の維持」について企業側に従来どおりの期待を求めるのが「そもそも筋が違う」といわれかねない部分を孕んでいます。(実際に、ヘッド・ハンティングにて高年収の部長クラスで採用された方が、その後の「能力不足を理由とした解雇」の効力を争った裁判で、解雇が有効とされた事例があります。)

こうなると、「ホワイトカラー・エグゼンプション」が本来の形で機能するためには、「いつでも会社を辞められる=辞めても次の職がすぐに見つかる環境」が求められると考えられます。このためには「労使共に活発なアクセスがある労働市場」が不可欠であり、労働市場が「雇用喪失状態からの早期回復」の担い手となる段階まで来る必要があります。

一方、「雇用喪失状態の間の生活基盤の確保」は、「自己保証」という形になります。とはいえ、自己保証を行うためには、その前段階として「将来の保証に当てられる程度に充実した報酬」が不可欠です。つまり、「ホワイトカラー・エグゼンプション」の元で「高収入」が担保されなければならないのは「そうしなければ、設計上のバランスに欠く」ためであり、「残業代に対する見返りの担保」はごく一部の要素に過ぎないのです。。

したがって、「ホワイトカラー・エグゼンプションの下での雇用の安定」の担い手について、先の表現に合わせ考えると
●「雇用そのものの維持」の担い手 ⇒ 自己の選択(WCEを選択するか否かという意味で)
●「雇用が維持されなくなった状態における生活基盤の担保」の担い手 ⇒ WCEでの勤務先+自己選択(高報酬+自己ストックという形で)
●「雇用喪失状態からの回復」の担い手 ⇒ 労使双方から活発なアクセスがある労働市場
となると考えられます。このことからも、「ホワイトカラー・エグゼンプション」が(意図したかどうかは別として)「雇用関係の新たな選択肢」を志向していることが伺えると私は考えます。

本日の話で注意いただきたいのは「日本における労働組合は、過去から現在に至るまでの間、雇用の安定の担い手としての位置づけはされていない」という点です。日本の労働組合は「雇用環境・雇用条件の改善」において重要な役割を果たしてきましたが、こと「雇用そのものを維持する」ということにおいて「担い手に働きかける」ことはできても「自らが担い手になる」ことはありませんでした(厳密に言えば、組合費の積み立てによる少々の「生活保証」程度の範囲に収まっていた考えられます)。実際、不況に端を発した経営悪化に伴って「早期退職」や「整理解雇」となった労働者に対して、労働組合が「雇用の回復」に直接的な役割を果たしたという話しは残念ながら聞いたことがありません。

しかし、実際には労働組合の役割の中で最も重要なものが「雇用の担保」であり、労働組合はこの問題に対して最も「労働者の立場」でアグレッシブな対策を取れる能力を持っていると私は考えます。その中でも、事実上労働組合にのみ認められている「労働者供給事業」の活用は、人材派遣・パート・アルバイトといった『非正規雇用』と呼ばれる人たちの諸所の問題について、「解決の切り札」となる力すら持っていると私は考えます。もちろん、このためには「労働組合のあり方」そのものを変えなければなりませんが、この点については又別の機会に考えたいと思います。

昨日も参照した池田氏のブログの中で、「究極の雇用政策は、経済を活性化させること」という意見がありますが、これでは「パンが無ければ、お菓子を食べればいいじゃない?」という話しと同列です。そもそも雇用政策とは「何らかの要因で雇用環境が不安定になったときに、いかにして雇用を安定させるか」ということです。私の個人的な意見としては「環境変化に対して柔軟に対応を図る」ために複数のオプションを持った方が良いとは思いますが、もしかしたら「画一的なルール」の方が環境そのものをコントロールできるという発想があるかもしれません。しかし、いずれにしても「雇用のあり方」について触れるのが「雇用政策」であることには代わりがありません。「雇用」と「経済」は密接な結びつきがあるのは確かですが、「雇用政策」と「経済政策」はある面においては相互に独立して議論されるべきものであると私は考えます。

長くなりましたが本日はここまで。この問題は、引き続き考えていきたいと思います。

ドメイン名:「差し押さえ」は可能か?

2007-01-12 | 経営実務
日中からネットの世界はえらく騒がしい状態になっていました。発端はこのニュースから。

ユーザーショック…2ちゃんねる、再来週にも強制執行(ZAKZAK)


ネット界激震!! 賠償命令を無視し続けてきた日本最大の掲示板「2ちゃんねる」(2Ch)の管理人、西村博之氏(30)の全財産が仮差し押さえされることが12日、分かった。債権者が東京地裁に申し立てたもので、対象となるのは西村氏の銀行口座、軽自動車、パソコン、さらにネット上の住所にあたる2Chのドメイン「2ch.net」にまで及ぶ見込み。執行されれば掲示板の機能が一時停止するのは必至だ。(以下略)


この記事を読んだ時にふと感じたのが「ドメインって、差し押さえられる財産になるの?」といったこと。法律を調べなきゃな~、民事執行法あたりかな~と感じていると、既に弁護士の方から一つの見解が示されていました。

ドメインの差押え(壇弁護士の事務室)


(前略)そもそも、ドメインって執行法上も財産として扱ってもらえるのだろうか?財産として動産なのか不動産なのか債権なのか。それぞれ、手続が違うのであるが考え出すときりがない。執行法というのは、ベテランの弁護士の先生には執行法をろくに知らないという場合もあるくらい、ややこしく使い勝手の悪い法律である。その使い勝手の悪さは、著作権法の比ではない。(以下略)


個人的には、特許権や商標権といった「知的財産権」というものの一種に当たるのかなと漠然と考えてしまいましたが、根拠となる法律が無い(=単なる契約関係に過ぎない)ドメインそのものは「物権法定主義」の観点からは「物権」とは言いにくいのではないかと考えられます。一方、「契約だから、債権だ」と言うことになると、民事執行法第167条の手続きによるのではないかと考えられます。
(その他の財産権に対する強制執行)
第百六十七条  不動産、船舶、動産及び債権以外の財産権(以下この条において「その他の財産権」という。)に対する強制執行については、特別の定めがあるもののほか、債権執行の例による。
2  その他の財産権で権利の移転について登記等を要するものは、強制執行の管轄については、その登記等の地にあるものとする。
3  その他の財産権で第三債務者又はこれに準ずる者がないものに対する差押えの効力は、差押命令が債務者に送達された時に生ずる。
4  その他の財産権で権利の移転について登記等を要するものについて差押えの登記等が差押命令の送達前にされた場合には、差押えの効力は、差押えの登記等がされた時に生ずる。ただし、その他の財産権で権利の処分の制限について登記等をしなければその効力が生じないものに対する差押えの効力は、差押えの登記等が差押命令の送達後にされた場合においても、差押えの登記等がされた時に生ずる。
5  第四十八条、第五十四条及び第八十二条の規定は、権利の移転について登記等を要するその他の財産権の強制執行に関する登記等について準用する。

ただ、これだけを読んでも「良く分からない」というのが現状です・・・・。

それにしても、「ドメインの差し押さえ」が可能か否かというのは、今後の差押え実務にとって実は非常に大きなインパクトを与えるのではないかと思われます。また、ドメイン管理の世界においても「ドメインにかかる係争ではない形での(譲渡に近い状態での)移管」の道を開くことについて、諸所考えるべきところはありそうです。いずれにせよ今後の続報は要ウォッチであると私は考えます。

労働法務:「ホワイトカラー・エグゼンプション」の議論と労務コンプライアンス

2007-01-11 | 経営実務
ホワイトカラー・エグゼンプションに関する話題が引き続きブログの世界をにぎわせていますが、その中でも次の2つのブログのエントリを見ていて『今の議論に欠けている視点』が少しずつ見えてきました。

●労働は時間ではない(池田信夫blog)
●「ホワイトカラー・エグゼンプション」の導入を阻害しているのは経営側である。(想像力はベッドルームと路上から)

この二つのエントリを読み比べていて感じたのが、「日本の労使慣行の変遷と将来のあり方」について、もっと深く考えなければこの「ホワイトカラー・エグゼンプション」について導入すべきか否の議論は「おとしどころ」が見えてこないということです。

「想像力は~」のエントリでは、ホワイトカラー・エグゼンプションの導入に反対する理由として「経営者による労務コンプライアンスの軽視・欠如」を次のように指摘しています。
確かにホワイトカラー・エグゼンプションに関して、「残業代ゼロ法案」などとするのは短絡的ではあるが、それを呼び込んだのはコンプライアンスを軽視し、本来の経営者としての責務を忘れたまま「経営努力=リストラ(本来のリストラクチャーとは別の意味の)」としてきた経営側の短絡に他ならない。その総括は本当になされたのか。

確かにこれはある側面からは正しい指摘であると思います。しかし、その前提となる指摘である
現状で既に労使間の契約は不履行の状態に置かれているわけだ
については、「過去の労使慣行」においてはやや疑義を挟まざるを得ない部分を持っていると私は考えます。

少なくとも過去の日本における「労使関係の大前提」は「終身雇用」でした。経営者は、労働者を一度雇用すれば「(のっぴきならない状況に陥らない限りは)継続して雇用を続けなければならない」というのが大原則です。この考え方は、リストラの嵐が吹き荒れたバブル崩壊以後もまったく変わっておらず、「解雇権濫用の法理」や「整理解雇の4要件」等といった形で脈々と生き続けており、労働紛争の最終的な解決の場でもこの考え方を前提としています。

一方、「自由な解雇が出来ない」という経営者側の制約は、経営の「自由度・柔軟性」に対して強い影響を与えます。そこで過去の労使関係では、「解雇の自由」に制限を加えることの一種の対価として、「原則として経営者の指示には従わなければならない」という形で、勤務地や職務内容、待遇といった「労働条件」の変更について自由度を与えるという選択が行われました。例えば、勤務地の変更である「転勤」は、今でも「経営側の裁量」が幅広く認められています。

経営者は「契約の終了」というオプションを破棄する一方で、「労働契約の白紙手形」を得ることによって「会社の経営状況に応じた柔軟な対応」を実現してきました。一方、労働者も「多少自分の思いとは異なっても会社の意向に従っていれば、(会社がつぶれない限りは)原則的に解雇はされない。」という形で雇用の安定と保証を得てきたことになります。

つまり、過去の労使関係の延長線上にある現状の多くの「正社員」については、そもそも「前提となる労働契約」というものが非常に曖昧であり、ある種の「白紙手形」と同じ状態になっていると考えてられます。これは労働時間についても同じことであり、「労働基準法に定められた基準を満たす範囲においては、会社は労働者に対して働き方を自由に命じることができ、労働者は個人の意思でこれを拒否することはできない。」ことになります。

翻って「ホワイトカラー・エグゼンプション」を考えますと、これは「過去から労使関係」そのものと一線を画す性格のものであるということを伺うことが出来ます。
「ホワイトカラー・エグゼンプション」を導入するためには、経営者側は制度を適用しようとする労働者に「個別の同意」を取り付ける必要がある上、「業務遂行の手段及び時間配分の決定等に関する具体的な指示」を手放さなければなりません。このことは、過去の労使関係の前提となっていた「経営者による自由な指揮命令」に対して大きな制限をかけるものです。

しかしながら、「ホワイトカラー・エグゼンプション」の元では、仮に「予め設定した成果が出せない(=職務を果たせない)」としても、「残業してまで仕事をするか否か」は労働者の自己裁量の中に置かれます。「労働者が職務を果たさないことに対するリスク」は会社(経営者)が負うものとなりますが、「解雇が非常に難しい」という現状の中では、「成果を出すことが期待できない人は、『ホワイトカラー・エグゼンプション』の対象外にする」までの選択肢しか取り得ないことになります。日本では、一旦「待遇」を挙げてしまうと、一度に下げられなくなることから、このままの状態では、経営者から見れば「労働コストの高止まり」というリスクを背負っていかなければならなくなるといえます。

ここまでの検討から、「ホワイトカラー・エグゼンプション」を現在の状況のまま導入することは、まともにやってしまえば「パワー・バランスの変化」を生じることになりますし、そうでなければ、経営者側が手放したはずの指揮命令権を行使してしまう「コンプライアンス上の問題」を引き起こすことになりかねないと私は考えます。その点においては、「『ホワイトカラー・エグゼンプション』の導入を阻害しているのは経営側である」の指摘は傾聴に値するものの、違った角度からの見方もできると感じます。また、労働は時間ではない
については、意見への賛否を考える以前に、「労働時間制限」と「指揮命令権」の関係に触れていない点で「片手落ち」であると考えます。

以前のエントリの繰り返しになりますが、ホワイトカラー・エグゼンプションの本質的な異議とは、あくまでも「働き方(=労使関係)の選択肢を増やす制度」であると私は考えます。もちろん、「今までとは異なる労使関係」を導入するわけですから、そこからは必然的に「格差」が生じます。こうしたことを前提として、「会社勤めにおける働き方のオプションを増やして多様な労使関係を認める」のが良いのか、それとも、「会社勤めをする以上は同じ労使関係の下に置き、同じような結果(対価)を得られるようにする」のが良いのかを考えることが、今の「ホワイトカラー・エグゼンプション」を巡る議論では必要なことであると私は考えます。

また、最後に一つだけ。池田氏のブログでも情報産業における勤務実態に触れられていますが、「SE/プログラマー」と呼ばれる方々には、「ホワイトカラー・エグゼンプション」を認めるべきではなく、本来であれば「裁量労働制」も認める対象ではないと私は考えます。なぜなら、彼らは「指示に基づいて指示された作業(設計書の作成、プログラマー)を行う」ことが本来的な使命であり、端的に言えば「ネクタイを締めたブルーカラー」に過ぎないためです。もしIT業界の中で「ホワイトカラー・エグゼンプション」が認められるとすれば、それはあくまでも「目的の成果物を完成させるための時間量を確保するための予算と指揮命令権」を有している人、すなわち「プロジェクトマネージャー」でなければならないと私は考えます。(同様に、TV局のADについては全く同じことが言えるのではないかと考えます。)

ということで、今日はここまで。一気に書き上げましたので分かりにくい部分もあるかと思いますが、ぜひご質問やご意見をお待ちしています。

労働契約法制:「ホワイトカラー・エグゼンプション制度」を細かく見る

2007-01-07 | 経営実務
ホワイトカラー・エグゼンプションの議論が相変わらず熱いのですが、議論の前提となる「ホワイトカラー・エグゼンプション制度」の詳細ついては、「残業代ゼロ」ばかりが強調されており、報道等できちんと触れられていない部分があるように感じています。そこで、本日は、現在厚生労働省が導入しようとしているホワイトカラー・エグゼンプション制度について詳しく分析してみたいと思います。

「ホワイトカラー・エグゼンプション制度」の審議はどこで行われていたのか?


現在、厚生労働省の労働政策審議会で審議が行われている「ホワイトカラー・エグゼンプション制度」とは、労働契約法制・労働時間法制の整備の一環として行われているものです。具体的な審議は同審議会の労働条件分科会で行われており、その第70回資料には「今後の労働契約法制及び労働時間法制の在り方について(報告)(案)」という形で、これまでの議論をとりまとめた報告の原案が掲載されています。最終的には、この原案から若干の変更が行われて「報告書」という形で取りまとめられますが、具体的な法律案の起草はこの「報告書」の内容に沿って行われることになるため、「ホワイトカラー・エグゼンプション制度」の詳細を知るには、まず本報告書(≒原案)の内容を読むことが必要になります。

「ホワイトカラー・エグゼンプション制度」導入した場合の効果は?


本報告書原案から「ホワイトカラー・エグゼンプション制度」の詳細が書かれた部分を読むと、同制度は次のような効果をもたらすものとして設計されていることが分かります。

●ホワイトカラー・エグゼンプション導入の効果
(1)1日8時間以内・1週40時間以内という労働時間に関する制限が適用されなくなる(深夜労働・休日労働に関する制限は残る)
(2)時間外労働をさせる場合に必要な労使協定(いわうる36協定)がなくても時間外の労働が認められる。
(4)時間外労働に対する割増賃金の支払が不要となる(休日割増・深夜割増は従来通り必要)
(3)業務遂行の手段及び時間配分の決定等に関して、使用者は具体的な指示ができない
(5)4週4休の完全履行と週休2日以上の休日を与えなければならなくなる(法定休日が増える)

もともとの労働基準法では、労働時間とは1日8時間以内・1週40時間以内」が大原則であり、時間外労働は「労使協定の締結(≒包括的な労使の合意)に基づく例外措置」とされています。今回審議されている「ホワイトカラー・エグゼンプション制度」とは、一定の要件を満たす場合には、この制限を無くすようにしましょうというものであり、この制限がなくなることによってもたらされるものが主に上記の(2)と(3)という2つの効果になります。

ここで注意しなければならないのは、ホワイトカラー・エグゼンプションの導入でもたらされるのは、あくまでも「割増賃金の支払が不要」と言うことであり、「現状の労働条件の切り下げ」ではないということです。通常の月給制の賃金体系の場合には「1ヶ月間において所定の労働時間だけ勤務することに対する対価」であることから、所定外の労働時間に対しては「余分に働いただけの報酬を請求する権利」が生じることになります。即ち、単にホワイトカラー・エグゼンプションを導入しただけでは、いわゆる残業手当(時間外労働手当)の計算で「時間単価の1.25倍」とされる部分が、「1倍」として計算されるに過ぎないということになってしまいます。したがって、ホワイトカラー・エグゼンプションの導入にあたっては、歩合給や年棒制などの「労働時間と対価報酬が連動しない賃金体系」の導入を同時に行わなければならないことが想定されます。

一方、導入要件の裏返しにもなりますが、ホワイトカラー・エグゼンプションを導入した場合、使用者側は「何時から何時までは働きなさい」といった労働時間の指示はできなくなります。深夜・休日労働に該当する場合を除けば、ホワイトカラー・エグゼンプションの適用を選択した労働者は、仕事に支障がない範囲であれば、好きな時間に出社し、好きな時間に帰ってよいことになりますし、勤務時間の長短を昇給や賞与等の「考課項目(査定)」に含めることも許されなくなります。(例えば、勤務時間が短いことを持って「規律性」「協調性」「責任性」の評価を下げることは許されないと想定されます。)

この他、ホワイトカラー・エグゼンプションには、現在議論されていように「長時間労働が恒常化するリスク」を孕んでいるのは言うまでもありません。そこで、ホワイトカラー・エグゼンプションの導入に当たっては、健康確保措置の一環として「4週4休の完全履行と年間を通じて週休2日相当の休日の確保」が義務付けられることになります。

「ホワイトカラー・エグゼンプション制度」導入するための要件は?


一方、本報告書原案から「ホワイトカラー・エグゼンプション制度」の詳細が書かれた部分を読むと、ホワイトカラー・エグゼンプション制度を導入使用とした場合には、かなりの「要件」をクリアしなければならないことがが分かります。
●ホワイトカラー・エグゼンプション制度導入の要件
(1)一定以上の年収が支払われる労働者が対象
(2)対象となる労働者については、仕事の進め方や勤務時間について、使用者から具体的な指示は行わないこと
(3)一定の要件を含む労使委員会の決議が必要
(4)対象労働者の個別同意が必須(不同意への不利益取り扱いは禁止)


まず大前提としては、「年収要件」です。現在の議論では年収総額800万円以上を軸として、様々な意見が見られますが、「もともとある程度十分に年収が得られる人」というのが大前提となります。したがって、新卒入社後すぐにホワイトカラー・エグゼンプションの対象となることは考えにくいのが現状であり、「それなりのポスト」に処遇されている人が対象となるでしょう。

また、ホワイトカラー・エグゼンプションの対象となる労働者については、仕事の進め方や勤務時間について、使用者から具体的な指示を行うことができなくなります。これを考えると「ある時間帯において勤務に就くことが、会社全体の業務を回していく上で必ず必要」とされる職種については、たとえ事務系ホワイトカラーだとしても対象者とすることは困難です。

したがって、ホワイトカラー・エグゼンプションの対象にできるような職種とは、従来から裁量労働制の適用が認められていた「企画業務(経営企画、マーケティング、営業企画など)」や「専門業務(研究開発職、クリエイター系の技能職、高度専門職)」といった職種のほか、「主として外勤業務を行う営業・購買系の職種」や「高度とまではいえないが、比較的専門性が高く、一人で行い得る職種」までといった範囲であることが想定されます。経理や労務といったルーチン業務中心の事務的な職種については、ホワイトカラー・エグゼンプションの対象とはなりにくいと考えられます。また、小売店・飲食店などの店長や副店長についても、現場業務と抱き合わせで従事しており、時間拘束性が強いようであれば、適用することは難しいでしょう。

さらに、ホワイトカラー・エグゼンプションの対象となりうる労働者について、実際に制度を適用としたときには「労使委員会の決議に基づく社内制度の構築(≒集団としての包括的な同意)」と「対象労働者との個別同意」という2つのハードルをクリアしなければなりません。裁量労働制については労使協定や労使委員会の決議という「集団包括合意要件」のみであるのに対し、ホワイトカラー・エグゼンプションは「個別同意」が加重されています。さらに、報告書案の中に「不同意に対する不利益取扱いをしないこと」が明記されていることから、現状の労働者に対して、現状の延長線上で「ホワイトカラー・エグゼンプション」を取り付けるには、相当なハードルが待ち構えていると考えた方がよさそうです。また、労働契約条件の重要な変更にあたることから、労働契約法制の整備で求められる「労働契約の書面化」も合わせて行うことが求められるでしょう。

結局「ホワイトカラー・エグゼンプション」とは何なのか?



ここまで見てきたとおり、ホワイトカラー・エグゼンプション制度を「現状の働き方と給与体系」のまま導入することは、とても高いハードルが要求される上、導入にあたっては相当モメることが想定されます。また、実際に導入したとしても、運用上で「モメる要素」となり得る部分が多々潜んでいるため、安易な導入は困難でしょう。

では、ホワイトカラー・エグゼンプション制度を作る意味が無いかといえばそうではないと私は考えます。なぜなら、ホワイトカラー・エグゼンプションは、これまでの正社員とは一線を画した“プロ・サラリーマン”を生み出す制度となるポテンシャルを秘めているためです。。

本来の「ホワイトカラー・エグゼンプションの適用を受け得る人」とは、そもそも専門性を買われてプロとして働く人々が中心です。このような“プロ・サラリーマン”に類似した働き方をしている人たちは、保険や不動産等の分野における「外交員」や、専門能力を持って直接個人として業務を請負う「独立請負人(Indipendent Constractor)」など、現状でも既に多くの場面で活躍しています。ホワイトカラー・エグゼンプション制度は、「請負と労働の間」の制度設計に、「一つのオプションを与えるもの」とすれば有効に機能させることができると私は考えます。

ホワイトカラー・エグゼンプションとは、あくまでも「働き方の選択肢を増やす制度」であり、「現状の働き方のままで残業代を無くす」ものでは決してありません。しかし、ホワイトカラー・エグゼンプションの導入で「働き方」が増えれば、そこから必然的に「格差」は生じます。、ホワイトカラー・エグゼンプションに関する議論でまず考えなければならないのは、「会社勤めにおける働き方のオプションを増やして多様な働き方を認める」のか、それとも、「会社勤めをする以上は同じように働かせて同じような結果(対価)を支払う」のか、どちらを選択することが、自分自身とこれからの日本にとって望ましいことなのか?ということであると、私は考えます。

とても長くなりましたが、本日はここまで。別の機会に「ホワイトカラー・エグゼンプションの導入シナリオ」ついて考えてみたいと思います。

参考:今後の労働契約法制及び労働時間法制の在り方について(報告)(案) (抄)

5 自由度の高い働き方にふさわしい制度の創設
 一定の要件を満たすホワイトカラー労働者について、個々の働き方に応じた休日の確保及び健康・福祉確保措置の実施を確実に担保しつつ、労働時間に関する一律的な規定の適用を除外することを認めることとすること。
(1)制度の要件
1)対象労働者の要件として、次のいずれにも該当する者であることとすること。
 労働時間では成果を適切に評価できない業務に従事する者であること
 業務上の重要な権限及び責任を相当程度伴う地位にある者であること
 業務遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする者であること
年収が相当程度高い者であること
2)制度の導入に際しての要件として、労使委員会を設置し、下記(2)に掲げる事項を決議し、行政官庁に届け出ることとすること。
(2)労使委員会の決議事項
1)労使委員会は、次の事項について決議しなければならないこととすること。
 対象労働者の範囲
 賃金の決定、計算及び支払方法
 週休2日相当以上の休日の確保及びあらかじめ休日を特定すること
 労働時間の状況の把握及びそれに応じた健康・福祉確保措置の実施
 苦情処理措置の実施
対象労働者の同意を得ること及び不同意に対する不利益取扱いをしないこと
その他(決議の有効期間、記録の保存等)
2)健康・福祉確保措置として、「週当たり40時間を超える在社時間等がおおむね月80時間程度を超えた対象労働者から申出があった場合には、医師による面接指導を行うこと」を必ず決議し、実施することとすること。

(3)制度の履行確保
1)対象労働者に対して、4週4日以上かつ一年間を通じて週休2日分の日数(104日)以上の休日を確実に確保できるような法的措置を講ずることとすること。
2)対象労働者の適正な労働条件の確保を図るため、厚生労働大臣が指針を定めることとすること。
3)2)の指針において、使用者は対象労働者と業務内容や業務の進め方等について話し合うこととすること。
4)行政官庁は、制度の適正な運営を確保するために必要があると認めるときは、使用者に対して改善命令を出すことができることとし、改善命令に従わなかった場合には罰則を付すこととすること。

(4)その他
 対象労働者には、年次有給休暇に関する規定(労働基準法第39条)は適用することとすること。