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疑問:中央青山に対する処分は「フェア」か?(追加アリ)

2006-05-11 | 経営実務
中央青山監査法人に対する金融庁からの一部業務停止命令が正式発表されたことは既報の通りですが、ようやく少し時間ができましたので、この事件について少し考察をしてみたいと思います。

まず、このような事件に出会って私が考えてしまうのが「処分がフェアに行われているか」点です。

フェアとは何ぞや・・・という話はありますが、ここでは、『フェア』の一要素といえる
(1)公正妥当な手続により行われているか?
(2)一罰百戒となっていないか?

という2つの側面を考えてみたいと思います。

疑問1:公正妥当な手続が踏まれたか?


まず、今回の処分に至る手続がどのようになっていたかについての検証です。行政が処分(特に不利益処分)を行うためには、法令による定めが間違いなく必要となります。今回の『監査法人に対する処分』の場合についても公認会計士法公認会計士法第三十四条の二十一第2項が処分の根拠となっています。

(虚偽又は不当の証明等についての処分等)
第三十四条の二十一  内閣総理大臣は、監査法人がこの法律若しくはこの法律に基づく命令に違反したとき、又は監査法人の行う第二条第一項の業務の運営が著しく不当と認められる場合において、同項の業務の適正な運営を確保するために必要であると認めるときは、当該監査法人に対し、必要な指示をすることができる。
2  内閣総理大臣は、監査法人が次の各号のいずれかに該当するときは、その監査法人に対し、戒告し、若しくは二年以内の期間を定めて業務の全部若しくは一部の停止を命じ、又は解散を命ずることができる。
一  社員の故意により、虚偽、錯誤又は脱漏のある財務書類を虚偽、錯誤及び脱漏のないものとして証明したとき。
二  社員が相当の注意を怠つたことにより、重大な虚偽、錯誤又は脱漏のある財務書類を重大な虚偽、錯誤及び脱漏のないものとして証明したとき。
三  この法律若しくはこの法律に基づく命令に違反し、又は運営が著しく不当と認められるとき。
四  前項の規定による指示に従わないとき。


今回の処分理由を見ると、「同監査法人の関与社員は故意に虚偽のないものとして証明した」となっていますので、前述の第2項第1号該当として処分が行われたことがわかります。

また、このような不利益処分を行う場合には、行政は一定の「申し開きの機会」を与えなければなりません。これについては、公認会計士法では第三十四条の二十一第3項にて準用する第三十二条のうち、第4項と第5項にて、次のように定めています。
(懲戒の手続)
第三十二条
4 内閣総理大臣は、前二条の規定により戒告又は二年以内の業務の停止の処分をしようとするときは、行政手続法 (平成五年法律第八十八号)第十三条第一項 の規定による意見陳述のための手続の区分にかかわらず、聴聞を行わなければならない。
5  前二条の規定による懲戒の処分は、聴聞を行つた後、相当な証拠により前二条に該当する事実があると認めた場合において、公認会計士・監査審査会の意見を聴いて行う。ただし、懲戒の処分が第四十一条の二の規定による勧告に基づくものである場合は、公認会計士・監査審査会の意見を聴くことを要しないものとする。
(なお、処分権者は「内閣総理大臣より委任を受けた金融庁長官」)


この「聴聞」+「審査会」という手続は、耐震偽造問題に関する建築士の登録抹消でも同様の手続が行われています。このように、当事者にとって不利益となる場合には慎重な手続が行われることになります。

耐震偽造問題の事件の場合、マスコミによって「聴聞の期日や場所」が報道されていますし、国土交通省自信も聴聞の通知を行ったことを発表していますので、少なくとも行政法に定める「聴聞」が行われたことは確認されています。しかし、今回の処分については「いつ誰が聴聞を行ったのか?」ということが全く明らかにされていません。

聴聞自体は原則非公開で行うこととされていますので法律上問題はないとはいえます。しかし、私は行政側が最低限として「適切な聴聞手続を行ったこと」、可能であれば「どのような点を聴聞で確認し、かつ、どのような弁明があったか」については事後的にでも明らかにしなければ「フェア」とはいえないのではないかと考えます。

特に、今回のケースでは、処分の影響が「監査法人」だけでなく「監査契約を結んでいる企業(=利害関係者)」にまで波及することが想定されています。業務停止や登録抹消といった、利害関係者にまで多大な影響を及ぼす処分については、「フェアに処分が行われた」ことを対外的に立証するために、その手続を明らかにすることが必要だと思われます。

疑問2:一罰百戒となっていないか?


また、今回の一部業務停止処分についてはどうしてもどこなに「見せしめとして行われた処分」という印象を感じざるを得ません。これは、前述の「処分決定プロセスの不透明さ」にも関連しますがもう一つは「処分理由の不透明さ」にあります。

繰り返しになりますが、金融庁の報道発表資料では、中央青山監査法人に対する処分理由として次の文章で明らかにされています。
カネボウの平成11年3月期、平成12年3月期、平成13年3月期、平成14年3月期及び平成15年3月期の各有価証券報告書の財務書類にそれぞれ虚偽の記載があったにもかかわらず、同監査法人の関与社員は故意に虚偽のないものとして証明した。


この文章からは、「中央青山監査法人の関与社員が故意に虚偽証明したと金融庁が判断した」ということは分かります。しかし、処分の必要性や軽重を決める肝心の部分である「虚偽証明行為について、どのような事象を持って故意と認めたのか」ということについては全く触れられていません。これでは、今回の処分が妥当であるかどうか、判断をつけることが出来ない=行政に対する監視が出来ないということになります。

ちなみに、3月30日付けの金融庁報道発表資料では、今回とは別の3件の事案に関する公認会計士・監査法人の処分が行われた旨の発表が行われています。この場合には「事案の概要」として「『相当の注意を怠っている』と判断した根拠となる事象(監査での手続)」が公表されています。なお、このケースでは監査証明を担当した公認会計士個人には1~3月の業務停止処分、各会計士が関与社員となっていた監査法人には『戒告(=業務上の支障は極めて軽微)』という処分が出されています。

今回のケースについては「故意性」を認定したことによって、「注意義務違反」よりも重い処分として「監査法人に対する一部業務停止処分」が決定されています。しかし、少なくとも現時点では「『相当の注意を怠っている』とした前ケースとの今回のケースの間での『監査手続き上の相違点』」を知ることは出来ません。このため、「監査手続き上の不備のレベルは同じかもしれないが、事件の知名度やインパクトでを今日慮して『見せしめ』的に重い処分が行われた可能性がある」と疑う余地が残ってしまうと私は考えています。

そもそも、このような状況が発生するのには、一つには「外部の検証が行われない状態で、自ら基準をつくって、自ら状況を評価して、自ら処分を決定してしまう」という「極めて透明性の低い処分決定プロセス」が影響を及ぼしているのではないかと感じています。このような例は日本の行政には共通して見られる部分であり、個人的には最も「悪しき慣習」が残っている部分であると感じています。

ここまで「行政処分におけるフェアプロセス」にこだわるのは、最近ある仕事の中で「フェアでない」と感じざるを得ない出来事に立て続けに出くわしているためです。明日以降のエントリの中で、この点についてもご紹介していきたいと思います。

今後の展開については参考ブログを是非ご覧ください


この話題については、様々な角度から各ブログで取り上げられています。より深く、より詳しくこの問題について知りたい皆様は、ぜひ次にご紹介するブログもあわせてお読み頂ければと存じます。(私も勉強させていただいておりますm(_ _)m)

Grande's Journal
 今回の事件の経緯や資料が分かりやすくまとめられています。
 また、各監査契約先企業の動きもすばやく伝えられています。

法務の国のろじゃあ
 法務系の有名ブログ、いつも勉強させていただいているところです。
 今回の事件でも、特に企業側から見た影響や考えなどが大変勉強になります。

ビジネス法務の部屋(06.05.13追加)
 同じく法務系の有名ブログです。今回の処分に関する問題点の指摘の他、
 監査法人(会計監査人)の内部統制のあり方(+内部統制の限界)についても
 詳しくまとめられています。

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