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労働契約法制: 報告案に見る実務対応ポイント(1)

2006-12-25 | 経営実務
労働契約法制の審議会における議論が大詰めとなっておりますが、本日届いた労働法令通信に労働政策審議会に提示された「報告案」が掲載されております。

今回の「報告案」に提示されている大きな論点は次の7つです。
(1)労働契約の内容は労使の合意により自主的に決定され、できる限り書面により確認するようにすること。
(2)合理的な労働条件を定めた就業規則がある場合、その労働条件が労働契約の内容となること。
(3)就業規則の変更が合理的な場合、労働契約の内容は就業規則に定めるところによるものとすること
(4)解雇の金銭的解決方法を導入すること(⇒その後の議論で今回は見送り)
(5)一定の要件を満たすホワイトカラー労働者については、労働時間規制除外の対象とすること
(6)長時間労働者の割増賃金率を引き上げること
(7)時間単位の年次有給休暇の取得を可能とすること
(以上、労働法令通信平成18年12月28日号より引用)

このうち、解雇の金銭的解決方法の導入については「今回は見送り」という方向となり、また、ホワイトカラー労働者の労働時間規制除外についてもギリギリの綱引きが行われています。

審議会に提示された報告案全文は厚生労働省 審議会ホームページにてご覧いただけますので、ご興味のある方はご覧頂ければと存じます。

さて、今回の労働契約法制の議論は、これまでの労使関係のあり方を根本から見つめなおし、より一層「エッジを効かせる」ものとなっております。大企業だけではなく、中小企業にとってこそ影響の大きい部分が数多く含まれていることから、本ブログにおいても、数回にわけて「労働契約法制の在り方報告(案)に見る中小企業労務での実務対応上のポイント」を考えていきたいと思います。
なお、本エントリ及び以降のエントリにおいて記載する内容は、あくまでも平成18年12月25日時点で入手した「報告案」をベースに立石個人の見解を取りまとめたものです。法律化にあたって取り扱いの変更・修正が行われる場合もありますので、ご覧になる際にはこの点について十分にご注意いただきたいと存じます


本日は1回目ということで総論の話題から。

【1】就業規則と労働契約の関係はどうなるのか?


これまでの労働基準法ではあまりはっきりしていなかった「就業規則」と「労働契約」の関係ですが、今回の「報告案」では、今までより明確となりました。

まず、労働契約は「労働者及び使用者の対等の立場における合意に基づいて締結・変更されるもの」という立場が明確となりました。その上で、労働契約の内容については「締結された労働契約の内容についてできる限り書面により確認するようにする」ということが織り込まれるようです。

一方、就業規則については、「合理的な労働条件を定めて労働者に周知させていた就業規則がある場合には、その就業規則に定める労働条件が、労働契約の内容となるものとすること」とされ、その変更についても「使用者が就業規則を変更し、その就業規則を労働者に周知させていた場合において、就業規則の変更が合理的なものであるときは、労働契約の内容は、変更後の就業規則に定めるところによるものとすること」とされました。即ち、合理的な内容で正当な手続に基づいて作成・周知が行われた就業規則には、労使双方に契約上の拘束力を持つことが明確化されたこととなります。したがって、就業規則の作成・変更手続はこれまで以上に「手続面での正当性」と「内容の合理性」に配慮を要することになると考えられます。

また、労働契約と就業規則の関係については「労働者及び使用者が就業規則の内容と異なる労働契約の内容を合意した部分(特約)については、その合意によることとすること」ということが明記されました。これにより、例えば、ごく少数の「他の人とは別の取り扱いをする従業員」のために就業規則上の手当てをすることが不要となり、「一般原則としての就業規則」と「個別の合意に基づく労働契約」という役割分担がより明確化されることになります。

ただし、先に紹介したとおり「締結された労働契約の内容についてできる限り書面により確認するようにする」とありますので、労働契約において個別に特約を設ける場合には、後のトラブルを避けるために「労働契約書」の整備が実務上不可欠となると考えられます。

以上から、労働契約と就業規則の関係における実務対応ポイントを考えると次のようにまとめられます。

(1)就業規則は『労働契約』の内容となる=一種の「約款」的な取り扱いとなる。
(2)「就業規則」の整備はこれまで以上に必須。
(3)「労働契約の特約」は原則有効 ⇒ 「労働契約書」の整備が重要。
(4)就業規則の変更手続をきちんと行えば、「労働契約の変更」と認められる。


労務実務の観点から言うと、この「就業規則と労働契約の関係の整理」が行われることは、今回の労働契約法制の中で実は「最も実務上影響のが大きい部分」ではないかと感じております。「合理的な範囲であれば、個別の契約で『特約』を設けることが可能」ということは、ある面では「個別対応に向けた労働契約の柔軟性」をもたらすものですし、「書面化による労働契約内容の確認の努力」とは、「書面化した労働契約に対する効力を認める」ということに繋がっているためです。したがって、きちんとした「書面化」は「労使紛争の予防線」として機能させることができ、万一紛争となっても「早期の問題解決」のための道具として活用することが出来るのです。

これまでは一般従業員について「労働契約書」を取り交わすことは少なかったですが、これからは労務実務の第一歩として「最初に押さえておく」ことが大変重要になると私は考えます。

ということで今回はここまで。次回は「労働にまつわる『権利の濫用』関係」を見て行きたいと思います。


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