たまには社会保険労務士らしいエントリを一つ。最近、立て続けに「社会保険への加入漏れがあった場合の企業に対する影響」に関する相談を各所から頂きましたので、その内容をご紹介したいと思います。
その前に、社会保険に関するおさらいから。健康保険・厚生年金ともに、法律では「常時従業員を使用する法人」又は「常時5人以上の従業員を使用する一定業種の個人事業主」については、社会保険の適用事業所として従業員に対して社会保険関係が発生します。
この「保険関係」は、会社や従業員の加入意思とは無関係に発生することから、保険関係から生じる「保険料」についても同じように発生します。つまり、例えば調査等で「この人は社会保険の対象となる従業員です」とされたら、その人についての保険料を収める義務を生じることになります。
この場合に問題となるのが『過去分の保険料』。状況にもよりますが、法律上は「
最長で2年間分」までは納付義務が生じる可能性があります。
そこで注意しなければならないのが、「さかのぼって支払わなければならなくなった分の保険料の納付額」。保険料の納付は、会社が「従業員負担分」と「会社負担分」を合算した全額を収めることになりますので、倍付けで負担が必要となります。
そうすると、例えば諸手当込みの総額ベースで月25万円の従業員の場合には、健康保険料が24,518円(介護保険料込み)、厚生年金保険料が38,069円となりますので、月当たりの保険料総額は62,587円となります。これが2年分遡って納付となれば
62,587円×24=1,502,093円
と、なんと
たった一人の従業員の加入漏れが、150万円以上もの金銭負担が一時に押し寄せてくることになってしまいます。たった一人でもこれだけの負担になるわけですから、事業規模が大きくなって数十人という対象者が出てしまうと、それだけで「億」単位のリスクにも広がってしまう可能性を秘めているといえます。
この問題は例え従業員が「社会保険には入りたくない!」と希望していたとしても、保険料の納付義務者が会社である以上亜h、全て「会社側のリスク」として考えなければなりません。しかも、従業員負担分を適切に「天引き」しておかなければ、後から「過払い給料だったので、返してね。」と言ったところで、回収できるケースはほぼ稀でしょう。
ちなみに、この点は通常の企業実務の中でも重要な問題ですが、それ以上に「M&A」の分野でより慎重に検討が必要な場合があります。特に、パートやアルバイトをたくさん抱えている企業を買収しようとした時には、相手方に悪気はなくても社会保険事務所の調査等で「加入漏れ」とされてしまうケースも考えられることから、「財務リスクの洗い出し」の観点からも社会保険の加入状況についてはしっかりと調査を行うことが望ましいでしょう。
もちろん、M&Aの世界での労務に関するリスクはこれだけに限りません。例えば未払い賃金の問題はないか、安全衛生環境は整っているか、就業規則等の整備にコンプライアンス上の漏れはないか、今後の仕事が難しくなるような労使慣行がないか・・・等など、「後のリスクをできるだけ事前に把握する」という観点からは、労務面においても大変多くの要素を見ていかなければなりません。現在のM&Aの場面では財務と法務についてのデューデリジェンスはよく行われていますが、M&A後を見据えて対応を行っていくためには、ぜひ「労務デューデリジェンス」
にも取り組んでいただきたいと願っています。
なお、当事務所では「
M&Aに関する労務・社会保険問題」のご相談を随時受け付けております。初回のご相談は原則無料で対応させていただいておりますので、難しい局面に遭遇した方は、ぜひ遠慮なく
当事務所までお問合せください。もちろん秘密は厳守いたします。
ということで、今日はココまで。
(P.S.)
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