今日は村上ファンドの元代表である村上氏の証券取引法違反に関する初公判の日だったそうで、報道でも大きく取り上げられています。
今日の裁判では、検察側・弁護側の冒頭陳述とそれに対する村上氏自身の意見陳述が行われたとのことですが、いろいろな記事を読み比べていて、本筋ではないところでなんとなく気にかかることがありました。
それは報道の伝え方、即ち『言葉の選び方』についてなのですが、例えば、まず最初に気になったのがYahoo!ニュースに配信されていた読売新聞の次のニュースです。
引用記事には下線を引かせていただきましたが、村上氏の発言は『釈明』という言葉が選ばれ、検察側の発言は『明らか』という言葉が使われています。たった5文字の言葉ですが、『読み味の印象』には大きな影響がある言葉がそれぞれ選ばれていると感じます。
『釈明』『明らか』をYahoo!辞書で調べると、次の解説が掲載されていました。
この解説からは、”釈明”とは『前提として(誤解だとしても)非難されるべき事柄があって、それに対して自分の都合の部分を事情説明をする』というニュアンスが言外に含まれており、一方の”明らか”には『それが真実の正しい姿である』ということが伝わってくる言葉であるといえます。したがって、上記の記述による報道は(意図があるかどうかは別として)『村上氏側は自分の都合を言っている』『検察側は正しいことを言っている』ということが言外に伝わってくるものであると私は感じます。
今日の『初公判の冒頭陳述』というまずは互いの意見・主張を出し合っている段階です。したがって、そこにあるのは『検察側の意見』と『村上氏(弁護側)の意見』の2つの意見に過ぎず、どちらが正しいとも誤っているともいえない段階です。論評や意見表明はさておき、『事実を伝える』ことが第1義の役割である報道の場において、このような状況の段階で『色が付く言葉』を用いることは望ましくないのではないかと私は考えます。
また、同じような違和感を感じた報道がこちらの記事です。
この例では、検察側の主張(冒頭陳述の内容)は『言い切り(断定)表現』で伝えているのに対し、村上氏・弁護側の主張は『カギカッコ付きの伝聞表現』としています。これも文章のみから受ける印象は「検察が言うことは真実であり、村上氏側は自分の意見を言っているに過ぎない」というものであり、先ほどと同じような問題を含んでいるものと感じます。
報道の「重さ」や「役割」からすれば、こういった『意見対立』がある場合の言葉の選び方はもっともっと慎重であっても良いと思うのですが、最近こうした「評価や意見を暗に含む言葉」の多用が特に目立っているのではないかと私は思います。
最後に、もし仮に次のような表現をしたら、皆様はどのような印象を持つでしょうか?ご意見をお聞かせ頂ければ幸いです。
以上、本日はここまで。
今日の裁判では、検察側・弁護側の冒頭陳述とそれに対する村上氏自身の意見陳述が行われたとのことですが、いろいろな記事を読み比べていて、本筋ではないところでなんとなく気にかかることがありました。
それは報道の伝え方、即ち『言葉の選び方』についてなのですが、例えば、まず最初に気になったのがYahoo!ニュースに配信されていた読売新聞の次のニュースです。
「事実に反して罪を認めたのは、ファンドと幹部を守るためだった」。30日、東京地裁で始まった初公判で、村上ファンド元代表・村上世彰(よしあき)被告(47)は、捜査段階での自白は検察の“脅し”に屈したためと釈明した。
株式市場を席巻した「モノ言う株主」は、「私は法を犯す人間ではない」とインサイダー取引を全面否定した。
一方、検察側は、ニッポン放送株の買収劇の舞台裏で「プロ中のプロ」が、その知識を悪用して市場を裏切った経緯を明らかにした。(以下略)
(Yahoo!ニュース-読売新聞より引用。傍線部は筆者による)
引用記事には下線を引かせていただきましたが、村上氏の発言は『釈明』という言葉が選ばれ、検察側の発言は『明らか』という言葉が使われています。たった5文字の言葉ですが、『読み味の印象』には大きな影響がある言葉がそれぞれ選ばれていると感じます。
『釈明』『明らか』をYahoo!辞書で調べると、次の解説が掲載されていました。
【釈明】誤解や非難などを受けた時、自分の立場や事情などを理解してもらうために説明すること。
【明らか】[2] 事柄が、だれにもわかるようにはっきりしているさま。疑いをはさむ余地のないさま。明白なさま。
(いずれも、Yahoo!辞書-大辞林より引用)
この解説からは、”釈明”とは『前提として(誤解だとしても)非難されるべき事柄があって、それに対して自分の都合の部分を事情説明をする』というニュアンスが言外に含まれており、一方の”明らか”には『それが真実の正しい姿である』ということが伝わってくる言葉であるといえます。したがって、上記の記述による報道は(意図があるかどうかは別として)『村上氏側は自分の都合を言っている』『検察側は正しいことを言っている』ということが言外に伝わってくるものであると私は感じます。
今日の『初公判の冒頭陳述』というまずは互いの意見・主張を出し合っている段階です。したがって、そこにあるのは『検察側の意見』と『村上氏(弁護側)の意見』の2つの意見に過ぎず、どちらが正しいとも誤っているともいえない段階です。論評や意見表明はさておき、『事実を伝える』ことが第1義の役割である報道の場において、このような状況の段階で『色が付く言葉』を用いることは望ましくないのではないかと私は考えます。
また、同じような違和感を感じた報道がこちらの記事です。
検察側は冒頭陳述でニッポン放送株の買収について、村上被告は楽天に断られ、LDに持ち掛けたと指摘。16年9月、村上被告が「ニッポン放送を取ったらフジテレビも取れる」とLDに働き掛け、LDは直後に大量取得を決めた。一方で、村上被告はフジテレビにも子会社化を働き掛け、どちらの場合も同株売却で利益を得られるように画策していたという。
堀江被告らは11月8日、資金調達の見通しが立ったことから、村上被告との会議の席で、LD元取締役、宮内亮治被告(39)が「資金調達のめどがついた」と5%以上の同放送株取得を決定したこと(インサイダー情報)を伝えた。
村上被告は高値で売り抜けられる可能性が高まったとして「買えるだけ買え」「外資に電話して時間外で買っちゃえ」と部下に指示。翌9日から昨年1月26日にかけて、同放送株約193万株を約99億5000万円で買い付け、その後、売り抜けて得た利益は約30億円に上った。LD側には口止めのほか、村上ファンドの同放送株保有率を水増しして伝えたり、時間外取引での取得を教えたりした。
これに対し、弁護側も冒頭陳述で真っ向から反論。村上被告が堀江被告らに株取得を勧めたことは認めたが、「せいぜい1~2%買うのが精いっぱいと踏んでいた」と、資金面などから大量取得の能力がなかったと考えていたことを強調した。
さらに、村上被告はLDについて「言葉上は非常にノリがいい」「場当たり的で尻すぼみに終わることが多い」と評価しており、11月8日の会議も、「LD側からは資金調達の話が出ていない」と主張した。
村上被告は罪状認否で「ニッポン放送株は以前から買い進めていた。買い付けはLDの情報を念頭に置いたものではない」と主張。その上で「自分の誇り、尊厳のために裁判所の判断を仰ぐ」と述べた。
(Yahoo!ニュース-産経新聞)
この例では、検察側の主張(冒頭陳述の内容)は『言い切り(断定)表現』で伝えているのに対し、村上氏・弁護側の主張は『カギカッコ付きの伝聞表現』としています。これも文章のみから受ける印象は「検察が言うことは真実であり、村上氏側は自分の意見を言っているに過ぎない」というものであり、先ほどと同じような問題を含んでいるものと感じます。
報道の「重さ」や「役割」からすれば、こういった『意見対立』がある場合の言葉の選び方はもっともっと慎重であっても良いと思うのですが、最近こうした「評価や意見を暗に含む言葉」の多用が特に目立っているのではないかと私は思います。
最後に、もし仮に次のような表現をしたら、皆様はどのような印象を持つでしょうか?ご意見をお聞かせ頂ければ幸いです。
【その1】
「事実に反して罪を認めたのは、ファンドと幹部を守るためだった」。30日、東京地裁で始まった初公判で、村上ファンド元代表・村上世彰(よしあき)被告(47)は、「捜査段階での自白は検察の“脅し”に屈したためである」と述べた。
一方、検察側は、ニッポン放送株の買収劇の舞台裏で「プロ中のプロ」が、その知識を悪用して市場を裏切った経緯について捜査した結果を述べた。
【その2】「事実に反して罪を認めたのは、ファンドと幹部を守るためだった」。30日、東京地裁で始まった初公判で、村上ファンド元代表・村上世彰(よしあき)被告(47)は、捜査段階での自白は「検察の“脅し”」が背景であることを明らかにした。
一方、検察側は、ニッポン放送株の買収劇の舞台裏で「プロ中のプロ」が、その知識を悪用して市場を裏切ったと主張した。
以上、本日はここまで。