出版屋の仕事

知識も経験もコネもないのに出版社になった。おまけに、すべての業務をたった一人でこなす私。汗と涙と苦笑いの細腕苦労記。

うるさい文庫棚

2006年05月11日 | 出版の雑談
最近仕事でしか書店に行ってない。

本は買う。でも、目的を持って探したり(新会社法とか)、「押さえとこう」と思って買ったりで、純粋な書店の客じゃなくなっている。書店さんからしてみれば、どういう理由で買おうと買ったら客だろうとは思うが。

けれども昔は、ふらっと店に入ってウロウロして、結局数冊買うなんてことがしょっちゅうだった。出版社を始めてから、これがなくなった。

まず営業に行くとき、「話をする前にウロウロしてはマズかろう」とか「話が済んだのにウロウロしてはマズかろう」とか余計なことを考えてしまう。行ってから数ヶ月経っていても、なんとなく「ただの客」になり切れない。まったくの自意識過剰なんだが、営業嫌いなのでどうしようもない。あと、企画中の本と同じ本の装丁を見にいったりするが、これも楽しくない。

書店は、受身体制でボケ~っとウロウロするのが楽しい。

で、最近珍しく街中で30分ほど時間つぶしの必要があって、客モードで書店に入った。私はプライベートだと文庫が好きなので文庫棚に行ったんだが、久しぶりに客としてウロウロしてみると、なんとなく雰囲気が違う。

昔は新刊や雑誌の棚と比べると人口密度は5分の1くらいだったと思うが、どうも人が多い。なおかつ「これが売れてます」とか「これがおススメ」みたいな、書店からのメッセージをビシビシと感じる。確かに以前も「待望の文庫化」とか平積みになってたが、どうも雰囲気が違う。まるで新刊棚のようだ。もっと、「好きなの勝手に買ってって」ってな感じのほうが落ち着ける。

最近の消費者研究によると、勝ち組商品と負け組商品の差は開くばかりらしい。売れていることが一種のお墨付きのようになっているという。最近の書店での売り方も、お墨付き頼りが多い気がする。文庫にもその影響が出ているのか。

・・・とそこまで考えて、これが品揃えってことだと気づいた。あちこちで、品揃えの面白くない書店が増えてきたという話を読む。が、地方都市の郊外にあるような、駐車場が大きくてCDも売ってる書店の話だろうと、漠然と思っていた。

いや、厳密に言うと違うな。品揃えの問題だけなら、あまり気にならない(もともとベストセラーは時期をずらして買う性格)。

オンライン書店の「この本を買った人は、こういう本も買っています」メッセージもうるさいが、何を買うかは客に任せて放っておいてほしいと思う。まして文庫棚で、「今はダ・ヴィンチ・コード!」ってのはやめてもらいたい。(うちで出した本を書店さんが売ろうとしてくれたら嬉しいのに、客となるとワガママになる。)

が、ここまで考えるともうダメで、受身体制でボケ~っとウロウロなんか、できないのである。つまらないので、買おうと思っていた本だけ買って出てきた。

引退しないと、「ふらっと書店に入って、ぼけ~っと棚を眺めて、なんとなく2、3冊買う」ってのはできないんだろうか。すごく悲しい。