夜のカラス(2017.9.29日作)
一人の夜は不安だ
いや 歳のせいばかりとは言えぬ
日常の何もかもが安定性を失くして
グラグラ揺れる
柱を失った古い家のようだ
この世界全体が
柱を失った家のように
グラグラ揺れる
規範を失くした総てのものたち
国家 社会 家 人
そんな不安に満ちた日々の中の
ふと目覚める真夜中の時間
カラスが不気味な声で一声
ギャアと啼いた
それに答えてまた一声 ギャア
カラスのアホンダラ 今は真夜中だ
おまえたちの
啼き叫ぶ時間ではないのだぞ
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このカラスたちは近頃
よく啼きわめく
遠い記憶の中のカラスたちは
真夜中などに啼きはしなかった
夕焼けで真っ赤に染まった空の下
山の木々の梢でねぐらを探して
啼いていたものだ
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あの頃 世界は
今のようにグラグラ揺れていたのだろうか
総てのものたちが規範を失くして
波間を漂う小舟のように
グラグラ揺れていたのだろうか
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ふと目覚める真夜中の時間
追憶は穏やかな日常を運んで来る
人の心は優しく 気遣いに満ちていた
時間は今よりずっと
穏やかに流れていた
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今 世界は豊かさに溢れている
人々は豊かさを求め
豊かさに乗り遅れまいとして
急いでいる
時間は追憶の中の時間より
幾層倍もの速さで過ぎて逝く
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豊かさとはなんなのだ
世の中に溢れ出すものたち
利便が利便を生んで
人の気分は王様気分
至福の時間 ひと時の満足
求めるものは美食に珍奇
欲求過多
研ぎ澄まされた欲望だけが
ギラギラ眼を輝かす
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人は今 欲望を旅する旅人
利便を求め 豊かさを求め
脇目も振らずに進んでゆく
心は孤独な猟人
欲望だけが
目差すもの
真夜中に
不気味な声で啼くカラスたちよ
おまえたちの世界にはいったい
何があったのだ
おまえたちもが昼の世界では満足出来ずに
こんな真夜中
何かを求めて啼き叫ぶのか
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ふと目覚める真夜中の時間
不安に揺れる心を支えてくれるものは
何 ?
追憶の中の穏やかな日常を運んで来るものは
何 ?
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