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遺す言葉

つぶやき日記

遺す言葉(564) 小説 <青い館>の女(53) 他 欲望

2025-09-07 10:37:39 | 小説
            欲望(2025.8.23日作)



 
 人間の持つ欲望を
 一概に否定する事は出来ない
 欲望が有ればこそ人は
 人として生きる上での向上心が
 生まれる 反面
 欲望は人を悪の道
 奈落の底へと突き落とす
 善の道への欲望
 悪の道への欲望
 両面 備え持つ人間 その
 欲望を支配し得るものは
 人が持つ考える力 理性
 地球上 棲息する生き物達 その中に於ける
 唯一 人間だけが持つ
 考える力 理性
 その理性を喪失した人間 
 一般的生き物 野生動物と
 変わりの無い存在




              ーーーーーーーーーーーーーーーーーー




                <青い館>の女(53)



 
 
 そんな加奈子の前でわたしは、近寄る術さえ見い出せない思いのままに、それでもなお諭す様に静かに言った。
「どうして、そんなに早く子供を産みたいの ? まだ、若いんだし、わたしとしては君には今まで通りの君でいて貰いたかったんだ。身体の不調を抱えている今のわたしには、君にして遣れる事と言っても限られている。それに君だって今まで通りの君で居れば何に縛られる事も無く自由で居られたのに」
「わたしぃ自由なんか要らないんですよぉ」
 加奈子は溢れる激情を抑え切れない様子のままに激しい口調で言い返して来た。
「でも、一人で居ればいろいろ可能性も開けて来るし、子供が出来てしまえばその子供に縛られる事になる。若い人との間の事なら兎も角、わたしの様な人間との間では・・・・」
「わたしぃ、若い奴なんて大っ嫌いなんですよぉ」
 わたしが言葉を置く間もなく加奈子は言い返して来た。
 頬の辺りが怒りで小さく痙攣していた。
 その言葉を聞いてわたしは、
「前にもそんな事を言ってたね。どうしてそんなに若い人を嫌うの ?」
 疑問と共に諭す口調で言っていた。 
「わたしぃ、若い奴らに乱暴されたんですよぉ。それも兄弟の奴らにぃ。わたしがその家から出られないと思ってぇ、二人でいい様にわたしを乱暴したんですよぉ」
 息を吞む驚きと共にわたしは言葉も無いままに加奈子を見詰めた。
 加奈子はそんなわたしの言葉などは期待していなかった。溢れ出る感情を抑え切れない様子のままに言葉を続けた。
「中学生三年の時にぃわたしぃ、親戚の家の大学生と高校生の兄弟にぃ、代わる代わる乱暴されたんですよぉ。わたしの両親がぁわたしの小学校六年の時に死んでしまってぇ、その家に預けられたもんだからぁ」
 嗚咽が加奈子の言葉を乱した。
 その嗚咽が言葉を聴き辛くしていた。
 嗚咽が途切れた時にわたしは聞いた。
「兄弟の両親はその事を知らなかったの ?」 
「知っていたかどうか分かんないんだけどぉ、わたしが中学を卒業してぇ、その家を飛び出すまで続いていたんですよぉ。」
「同じ家に居て、どうしてそんな事になったの ?」
 追い詰められた加奈子の姿が見える気がしてわたしは聞いた。
「初めはぁ高校生の弟がわたしの部屋へ来たんですよぉ。そしてぇ、乱暴してぇ、もしこの事を喋ったらこの家に居られなくなるぞって、脅かしたんですよぉ。わたしぃ、悲しくて悲しくてしょうが無かったんだけどぉ、その時はまだ子供だったからぁ誰にも言えなかったんですよぉ。そしたら今度はぁ兄貴の方が来てぇ、弟とセックスしてるだろうって言って、また、わたしを乱暴したんですよぉ。それがぁ、わたしが家を飛び出すまで続いていたんですよぉ」
 加奈子は途切れる事の無い嗚咽の中で総てを打ち明ける様に言葉を続けた。
「どうしてそんなにまでされて黙っていたの。おじさんかおばさんに言ってしまえば良かったのに」
「だからぁわたしぃ、何をされるか分からないと思って怖かったんですよぉ」
 加奈子は嗚咽の中で言った。
「君のお父さんとお母さんはどうして亡くなったの」
 加奈子への同情の思いと共に自ずとその言葉が口を出ていた。
 加奈子はその言葉を聞くとまた、激しく泣きじゃくった。
 泣きじゃくりと共に加奈子は言葉を口にした。
「お父さんがぁ肝臓の病気でぇ死んでしまってぇ、お母さんはぁその哀しみやぁ看病の疲れやなんかでぇ、神経衰弱みたいになってしまったんですよぉ。それでぇ、お父さんが死んでからぁ三か月位してからぁ、交通事故に遭って死んじゃったんですよぉ。わたしぃその時ぃ、小学校六年で良く分からなかったんだけどぉ、今になって考えてみるとぉ、神経衰弱だったお母さんはあの時ぃお父さんの後を追って自殺したんじゃないかって思うんですよぉ。お父さんとお母さんは仲が良くてぇわたしぃ、そんなお父さんとお母さんが大好きだったんですよぉ」
 両親の話しをする加奈子の顔には懐かしさへの思いと共にその幸せを噛み締めるかの様な表情があって涙は乾いていた。
「それでおじさんやおばさんの所で暮らす様になったの ?」
「そうなんですけどぉ伯父さんはお母さんのお兄さんでぇ、とっても良くしてくれたんだけどぉ、外国航路の船の船員さんだったのでぇ、滅多に家に居なかったんですよぉ。伯母さんも悪い人ではなかったんだけどぉ、わたしとは血の繫がりがなかった分だけぇ伯父さんとは違ってたみたいなんですよぉ。伯父さんは家に帰って来る時にはぁ何時も自分の子供達と同んじ様にぃ、いろんなお土産を買って来て呉れたりしてぇ、わたしは伯父さんが好きだったんだけどぉ、家の中の事は全部伯母さんがしていたからぁ、何も知らなかったみたいなんですよぉ」
 加奈子は言ったが、その言葉の中にわたしはふと、加奈子が年の離れた中年も過ぎた男のわたしを毛嫌いする事の無かった本質を見た思いがした。
「それで、中学校を卒業するとその家を出てしまったの ?」
 わたしは聞いた。
「そうなんですけどぉ、わたしその時には高校の試験にも受かっていてぇ、伯父さんも伯母さんも進学出来る様に準備をして置いてくれたんですよぉ。でもわたしぃ、兄弟の奴らに好き勝手にされるのが嫌だったからぁ、黙ってその家を飛び出しちゃったんですよぉ」
「伯父さんや伯母さんはそれから、何も言って来ないの ?」
「来ないですよお。わたしが何処に居るのかも知らないしぃ」
「それじゃあ、君だけが悪者になっちゃうじゃないか」
「悪者になってもいいんですよぉ。あんな家に居るよりはぁ。それにぃ、伯母さんもわたしが二人に何か意地悪でもされているんじゃないかという事には薄々、気付いていたみたいなんですよぉ。何も言わなかったんですけどぉ。だからいいんですよぉ」
 加奈子は諦め切った様な口調で言った。
 
































遺す言葉(563) 小説 <青い館>の女(52) 他 霧の中

2025-08-31 12:32:08 | 小説
             霧の中(2025.7.29日作)



 
 わたしは行くだろう
 霧の中
 見えるものは白い霧 
 それでもわたしは歩いて行く
 霧の中
 わたしがわたしを生きる為に

 生きるのだ
 生きなければならない
 命ある限り生きる

 生きる事
 総ては霧の中
 見えるものは白い霧
 おぼろな影
 それでもわたしは歩いて行く
 わたしが
 わたし自身を生きる為に

 歩いて行く
 歩いて行く
 今日も明日(あした)も また明日(あす)も
 歩いて行く
 何時までも何処までも
 夢に向かって歩いて行く
 今日も明日もまた明日も
 人が人として生きる真摯な道を
 命ある限り 歩いて行く
 歩いて行く 歩いて行く
 この命ある限り
 歩いて行く




             ーーーーーーーーーーーーーーーーーー




               (青い館)の女(52)






「電話はもう掛かって来ないの ?」
「時々、掛かって来ますけどぉ、分かったら直ぐに切っちゃいますからぁ」
 加奈子は沈んだ声のまま言った。
「此処へ来た事をあいつは何んとか言った ?」
「何か言う前に切っちゃいますからぁ」
「この場所は知ってるの ?」
「知らないと思いますけどぉ」
 漸く心を解(ほぐ)した様に加奈子は何時もの口調で言った。
「それはそうと、随分、色んな物を揃えたね。全部、自分で遣ったの ?」
 わたしは気分を変える様に話題を転じて部屋の中の家具や飾り物に眼を移して言った。
「そうですよぉ」
 加奈子は他の誰が遣って呉れるのだ、とでも言う様にわたしを批難する口調で明るく言った。
 その表情には嬉しそうな様子さえ漂っていた。
 そんな加奈子を見ながら、わたしが来なかった長い冬の間、何を夢見ながらこの飾り付けをしていたのだろう、と考えた。
 壁には薔薇色をした少女を描いたフランスの画家の複製の絵が架けられていた。
 真新しいコーヒーカップや小皿の入った戸棚の上にはピンクのドレスのフランス人形と、白い毛並みのふさふさした子犬の縫い包みがあった。
 他には小さなステレオやテレビ等が有って、以前は地味造りだった八畳程の部屋がすっかり、若い女性の華やぎを感じさせる部屋に変わっていた。
 一体、加奈子の心の裡にはどの様な変化が有ったのだろう。
 彼女が夢見ているものは何んなのか ?
 その若さにも係わらず早くも子供を望んでいる彼女の胸の裡がわたしには分からなかった。
「よく、これだけの物を揃えたね。食器なんか並べるだけでも大変だったろうに」
 男への疑惑は薄れていたが、それでもなお、彼女の妊娠に向ける冷めた眼差し同様熱意のない声でわたしは言った。
「でもぉ、毎日少しずつやっていたのでぇ、大変でもなかったですよぉ」
 やはり加奈子は嬉しそうな表情のまま言った。
 その夜、加奈子は初めてわたしの為に食事を作った。
 わたしが来なかった間に習っていたのだろうか、主婦と言う名が不似合いな若い姿にも係わらずその手際の良さが一際わたしの眼を惹いた。
 そんな加奈子にわたしは、以前は料理が出来ないと言っては外食か出前にばかり頼っていた事を思い出して、その努力がこんな日の為に成されたのかと思うと苦い感情を覚えずにはいられなかった。
 その姿は明らかにわたしに取り入ろうとしている。
 妊娠と共に加奈子に関する総てのものが思惑絡みに見えて来て一層の嫌悪感に誘われた。
 それでもわたしは言われるままに黙って食卓に着いた。
「食べてみてどうですかぁ、不味くないですかぁ」
 わたしが箸を運ぶのを見て加奈子は嬉しそうに言った。
「うん、旨いよ。何時も作っていたの ?」
 わたしは言った。
 敢えて不機嫌な表情を見せる程にわたし自身も幼くはなかった。
 胸に堪えた感情を押し殺したまま静かな口調で言った。
「何時もではないけどぉ、仕事をしなくなってからはぁ時々、作っていたんですよぉ」
 やはり加奈子は嬉しそうに言った。
「こういうのを作るのは好きなの ?」
 加奈子の嬉しそうな表情に対してわたしは相変わらず覚めた感情の静かな口調で聞いた。
「好きって言うか、今まで作る機会が無かったんでぇ作らなかったんですけどぉ、嫌いじゃないんですよぉ」
 言い訳めいた口調で加奈子は言った。
「なかなか家庭的なんだね」
 些かの皮肉を込めてわたしは言った。
 加奈子はそれでも嬉しそうだった。
 わたしに取っては実際の事、家庭的な加奈子など必要無かった。
<サロン・青い館>の加奈子でいて呉れさえすればそれで良かった。
 奔放で気儘に生きて、少し手綱を緩めればたちまち何処かへ飛んで行ってしまう、わたしに取っては気楽な存在の加奈子であって呉れさえすればそれで良かった。
 その加奈子が今では、如何にも家庭的な雰囲気を宿した一人の母親としての存在として眼の前に居るーー気の重くなる存在でしか無かった。
 無論、何故か嬉し気な表情の加奈子にそんなわたしの複雑な感情等など分かる筈が無い。
 わたしは加奈子が作った天ぷらに箸を付けながら、
「子供の生まれる予定日は何時なの ?」
 と聞いた。
 或いはその時、わたしの言葉は無意識裡に棘を含んだ口調になっていたのかも知れなかった。
 今まで嬉しそうな表情を見せていた加奈子の顔が途端に曇って厳しいものに変わっていた。
 それでも加奈子は重い口調で言った。
「一応、八月三日が予定日になってるんですけどぉ」
「八月三日 ? 当然、病院でという事なんだろうけど準備は出来ているの 。わたしには何もしてやれないけど」
 わたしは冷めた口調のまま突き放す様に言った。
 思い掛けない事だった。
 その言葉と共に加奈子の眼にみるみる涙が浮かんで来た。
 わたしに取っては何気無い言葉が加奈子に取っては決定的な突き放しの言葉だったのかも知れなかった。
 加奈子は涙を隠す様にうつ向くと手に持った茶碗と箸を口元に運んだ。
 無言で茶碗の中のものを口に掻き込んだ。
 わたしはそんな加奈子の姿を見てもなお自分の責任を逃れる様に、
「お母さんは、この事を知っているの ?」
 と聞いた。
 「お母さんなんて、居ません !」
 突然の激しい口調で加奈子は叩き付ける様に言った。
 後は言葉も無く茶碗と箸をテーブルに置いて声を堪えて泣きじゃくっていた。
 わたしには予想もし得なかった加奈子の行動と言葉だった。
 わたしは加奈子を見詰めたまま言葉を失っていたが、漸く気を取り直してなだめる様に静かに言った。
「兎に角、前にも言ったけど、子供を産むとなると大変だよ。だからわたしは反対なんだけど」
「反対でも何んでもいいんですぅ。わたしが産みたいと思っただけだからぁ」
 昂る感情のままに加奈子はわたしを突き放す様な強い口調で言った。
 其処には確固として揺らぎの無い一人の女としての姿があった。

 



              ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




                桂蓮様


              コメント 有難う御座います
             冒頭の写真 何時も清々しい気分を味わいながら
             拝見しています 良いですねアメリカという国の自然の大きさ ゆったりした感覚
             憧れます   
             以前にも書きましたがアメリカ映画の中でよく見る自然が自ずと浮かんで来て
             親しい感覚を覚えるのです
             二 三日前に富士山の近くにある河口湖への旅行をして来ましたが
             熱気に満ちた都会の真ん中とは違って 清々しい気分に誘われました
             不思議に暑さも感じませんでした
             やはり自然の力でしょうか 
             既に寒いとの事 想像も出来ません これを書いている現在
             気温三十七度が表示されています 勿論 クーラーは外せません 
              「バレーと無」 弘法大師 空海はこう言っています
             馬に乗るな座禅しろ
             畑を耕すな座禅しろ  
             商いをするな座禅しろ
              
              禅の達人の言葉です
             座禅しろ と言う言葉は坐って足を組んで眼を瞑り
             何もするな と言う事ではないのです 今している事に
             ひたすら心を込めて向き合い 余計な事は考えるな と 
             言う事で無になってその事に向き合えと言う事です
              クラスの中の幼い子供達 或いは上手に踊る大人達 
             文章に書かれている様に無になった時にはその人達の存在も消えて
             今の自分だけが見えて来るでしょう  
              バレーの上達度のほか そんな自分を見詰めるのもまた
             楽しい事では無いのでしょうか
             いずれにしても心を込めて打ち込めるものが有るという幸せな事です 
             どうぞ 頑張って下さい
              有難う御座いました



               


                takeziisan様


                 暑い日が続きます  
                こちらも朝からの猛暑 うんざりです 
                連日 熱中症のニュース 実際 実感として迫って来ます
                早く終わって呉れ ! 今はその思いのみです
                 AI画像 良くは描けていますが どの画像を見ても人間としての
                個性が感じ取れません 手描きの柔らかさが見えません
                これからの世界 あらゆる面に於いてこんな世界が展開されてゆくのかと思うと
                嫌な気がします
                  無味乾燥の世界 人の心の感じ取れない世界
                便利ではあっても温もりの無い世界 世の中 これから先
                どうなって行くのでしょう
                 母に結んで貰う帯
                人間味溢れた盆踊り こんな世界の温かさが人の世には欲しいものです
                 川柳 「朝」 総てが実感 皮肉と笑いとちょっぴり悲哀
                相変わらず楽しいです
                 脳トレの 代わりになって 団栗句
                スチールギターの音色 相変わらず良いですね
                スチールギターに限らず ギターの音色は好きです
                 スイス 良い旅をしました 年と共に懐かしい想い出に
                なるのではないでしょうか
                 いずれにしても 人間 年齢を増すのと共に年毎
                思い出の世界だけが色を増し 現実の世界の実感は薄れてゆきます  
                親しかった人々の名は日毎に失われてゆき当たり前だった世界が
                日毎夜毎変わって行く ぽつんと独り小島に残される感じです
                 この気違い猛暑の中 お写ん歩 気を付けて下さい
                花々の色の鮮やかさ 眼に沁みます
                 有難う御座いました























 






































遺す言葉(562) 小説 <青い館>の女(51) 他 理性で闘え ほか

2025-08-24 12:33:19 | 小説
               理性で闘え(2025.8.17日作)



 
 銃やナイフに頼るな
 理性で闘え
 理性は人間固有の所有物
 地球上 動物世界に於ける
 唯一 人間のみが所有する武器
 その武器を放棄 銃やナイフに頼る人間
 鋭い牙 長い爪 強力無比な顎 巨大な体力
 野生に暮らす動物達と何んら変わりは無い


 愛は無償の世界
 見返りを求めない
 見返りを求める愛は
 真の愛ではない
 見せ掛け 偽装の愛


 人生とは何か ?
 今という時
 その現実を生きる事
 現実を生きる 今という時をを生きる
 その積み重ねが
 歴史を作り 人生を作る
 一寸先 明日の事は
 誰にも分からない




              ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




               <青い館>の女(51)




 
 
 腹部はすぐにそれと見て取れた。
 一メートル五十八センチながらに均整の取れた細身の体形が嘘だった様に顔も腕も丸くなっていた。
 白く肌理の細かい肌は艶を失い、張りを無くしていた。
 不健康とは言えないまでも、若さに輝く加奈子を知るわたしには別人の加奈子を見る思いがした。
 あの<サロン・青い館>にいた加奈子の面影は悉く拭い去られていて、早くも子供を宿した母親の顔がその面に表れていた。
 わたしが叩いたドアを内側から開けた加奈子の表情は固かった。
 顔を合わせると直ぐに感情の溶け合った何時もの二人の関係がそこに生まれる事は無かった。
 何処からともなく流れ着いた流木の様に加奈子の妊娠が二人の間に横たわっていた。
 わたしはだが、そんな加奈子を前にしても冷静だった。
 兎に角、男に対する疑念を解き明かし、嘘では無かった妊娠にどの様に決着を付けるのか。
 過去、様々に向き合って来たこれまでにわたしが生きて来た人生上の出来事がわたしを図太くし、計算に長けた人間にしていた。
 既にその時わたしは、自分の立場に立った上での思考を巡らしていた。
 加奈子への愛情もそれがわたしの重荷になるものであれば、素直には受け入れられない。
 今のわたしに必要なのは単純な男と女の愛情などでは無かった。
 わたしが生きて来た人生上に於ける何故とは自分自身でも解かり得ない、過去への悔いの思いと共に、言い知れぬ虚無への感覚、この思いをどの様に埋めるのか ? その一点のみだった。
 加奈子もまた、その空虚を埋めて呉れる存在であったればこそ、これまで心を寄せる事が出来ていたのだ。
 それが崩れたとなればわたしに取っての加奈子は最早、必要な存在などでは無くなる。
 ありふれた単なる一人の女でしか無い事になる。
 その様な存在など、今のわたしには必要無いのだ。
 既に境界線の見えて来てしまったわたしの人生。
 その残り少ない時間をせめてこれからでも、納得して生きてゆきたい。
 不本意な出来事に関わり合っている暇は無い。
 無論、わたしはそんな心の裡を直接、加奈子に打ち明ける事などしなかった。
 ソファーに落ち着き、加奈子に向き合うと上辺を装った優しさで、
「身体の具合はどうなの ?」
 と聞いた。
「順調ですよぉ」
 加奈子は矢張り、その態度の堅さとよそよそおしさを拭い切れないままに言った。
「もう、随分目立つ様になっているんだね」
 嫌でも眼に付く加奈子の体形を口にした。
 嫌味を込めた言い方ではなかった。
 それでもわたしはその時、ほとんど絶望的な思いの内に加奈子の体形を元に戻す事の出来ない事を感じ取っていた。
 改めてわたしは思った。
 一体、どういう心算なのか ? 
 たかだか二十歳を少し過ぎた位の年齢にも係わらず、早くもその若さを拘束する母親としての生き方を選ぶ気になったのは ?
 やはり、金蔓としてのわたしを縛って置く為の手段なのか。
 子供が出来ればわたしを繋ぎ留めて置く事が出来る。
 もし、そうだとすれば愚かな事だ。
 男が自分の望まない子供に縛られる筈が無い。
 少なくともわたしに限ってはそうだ。  
 それとも、わたしからより多くの金をむしり取る為の手段として、子供を利用しようと考えたのか ?
「だってぇ、お腹の中で動いているのが分かるからぁ」
 加奈子は依然として重く沈んだ声ではあったが、妊娠を歓迎しないわたしの前で自分を主張する様にはっきりとした口調で言った。
 そんな加奈子に不満を抱いたままの口調でわたしは諭す様に言った。
「どうしてまた、子供なんか産もうという気になったの。まだ若いんだし、そんなに慌てなくてもこれからもっと若い人と結婚して、それから産んでも遅くは無かっただろうに」
 加奈子はその言葉には答えなかった。
 込み上げる怒りを必死に抑えている様な表情で口を噤んでいた。
 それからわたしの視線を逸らす様にその場を立つとキッチンへ行ってお茶を淹れる支度を始めた。
 花柄模様のボットも白い瀬戸物の急須も新しく買い揃えた物らしかった。
 つまみのスナック菓子を入れたクリスタルガラスの容器も新しかった。
<サロン・青い館>での加奈子を知るわたしには総てが、違和感の中でしか受け留められなかった。
 わたしは改めて、それ等のものに男の影は無いか探し、更には、部屋の中にも男の影を探る様に視線を走らせた。
 顕著に男の存在を示す様な物は何処にも見られなくて、加奈子の密やかに日々を過ごしている様子がなんとは無い想像の内に思い遣られて、好感を抱かされた。 
 そんな思いの中でもわたしはなお警戒心を途切らせる無く、男の存在に探りを入れる様に聞いた。
「あの煩く付き纏っていた男はどうした 。もう、姿を見せない ?」
「今のところは見えないですけどぉ」
 お茶道具を運んで来た加奈子は言った。
 その口調には、依然として抱く微かな不安の翳が透けて見える様な気もした。
「このまま、何も無ければ良いけどねえ」
 わたしは言った。
「もう、大丈夫だとおもいますけどぉ」
 加奈子は言った。




             ーーーーーーーーーーーーーー




               takeziisan様

      

                暑い日が続いていますが 御変わりなくお写ん歩の御様子
               何よりです
               どうぞ 熱中症には充分 気を付けて下さい
               余りの暑さに家の中に居ても気持ちが悪くなって来ます
               危ない 危ない という感じです
               この暑さ 何時 収まる事やら 地球が破壊されてしまったのか
               わたくしの居る地方では一向に雨が降りません
               半面 線状降水帯に見舞われた地方の災害 
               気の毒な思いに胸が痛みますが 改めてこの地方の住み易さを実感します
               青葉城恋歌 七夕 地方色豊かな風景 いいですねえ
               歌と共に懐かしさを誘われます
                やっとこすっとこ わたくしの居た地方でも使っていました 
               一概に一地方の方言とも言えない言葉の様な気もします
               それにしても方言には実際の生活実感が込められていて
               ぐんと胸に響いて来ます 東北地方の優しい響きを伴った言葉が好きです        
                コパカバーナ A列車で行こう
               懐かしいですね 美空ひばり まだ声が若くて幼い頃の唄だと思いますが
               改めてその天才振りには敬服です
               次々と耳や眼に親しかった人達が遠く去って逝き
               今は騒音としか思えない様な音楽ばかりで
               改めて もう昔の歌 演歌も終わった という思いを強くします
               人生の喜怒哀楽を歌った演歌には詩としても良いものが沢山あります
               寂しい限りです
                暑さの中 野菜の手入れも大変な事と思います
               どうぞ お気を付けて下さい
               有難う御座いました

























 
 

遺す言葉(561) 小説 <青い館>の女(50) 他 戦後八十年

2025-08-17 12:36:41 | 小説
              戦後八十年(2025.8.15日作) 


 
 戦後八十年
 語り継がれる戦争
 今は生身の記憶も薄れて逝き
 記録の中の戦争のみとなりつつある
 総てが物語の中の出来事と化して行く
 語り継ぎ 語り継がれる戦争
 第二次世界大戦 敗戦国日本
 この国に於ける戦後八十年
 口にすれども 痛みを知る者達 
 再び辿りたくは無い
 思い出したくは無い
 記憶 あの惨状
 語り継ぎ 語り継がれる度に
 心の傷が痛むだけの悲惨な日々
 戦後八十年 今 口にする人々 報道機関
 良心の衣を纏ったお祭り騒ぎの口調
 悲惨な日々 過酷な時を生きた者
 あの惨状を知る 今は残り少ない者達
 その中の一人としての耳には それ等の言葉の数々が虚しく
 懐古趣味にも似た言葉としての響きしか伝えて来ない 
 この国 日本の戦後八十年 その間 
 世界のあちこち あの場所 この場所
 今でも絶える事無く繰り広げられる 醜い争い戦争 が
 続いている 
 今 この時 必要なのは 醜い争い 戦争を止める事
 日々日頃 平和な世界の構築 そこに力を尽くす
 八十年 九十年 関係ない
 日々 歴史の事実を胸に刻んで今を生きる 
 過去の感傷に浸っている時では無い




              ーーーーーーーーーーーーーーーーー




               <青い館>の女(50)



 
 平穏な日常が愚かで軽はずみな行為への悔いと共に、今更ながらに懐かしく郷愁を誘われた。
 翌日、午前九時を少し過ぎた時刻に店に到着した。
 広い駐車場の一角を占めて二階建て構造の建物が一見、プレハブとは思えない瀟洒な姿を見せていた。
 店長はわたしの姿を見ると早速、其処へ案内した。
 可動式の商品棚がコンクリートの土間に幾つも並んでいた。
「まだ、充分な品揃えが出来て無いんですけど、将来的にはこの棚にある商品を全部二階へ運んで、此処では中古の車を販売したいと考えています」
 店長は淀みの無い口調で将来に向けての構想を話した。
「二階は今、空いてるの ?」
「いえ、少し商品を置いて有ります。ですけど、充分に余裕が有りますから社長にも度々、足を運んで戴いて車の販売も前向きに考えて貰っています」
 開店時間前にも関わらず、ロシアの漁船員と思われる男達が早くも姿を見せていた。
 食品売り場に戻ると其処では<海明け祭り>と称した海産物の特売展が企画されていた。
「こうした特売展をやりますと売り場も活気付いて営業的にも結構違います」
 店長は言った。
「やれ何展だ、何々フェアだって、しょっちゅう特売展を開いています」
 一緒に居た川本部長も店長の打ち出す企画を苦笑交じりに解説した。
「なんでも、営業成績に結び付くんならそれでいいよ」
 わたしは言った。
 店長は黙って笑顔を見せただけだった。
 午後一時過ぎに二人に見送られて店を後にした。
「どうも身体が本調子じゃないんで、ホテルで一休みしてから帰る事にするよ」
 視察を早めに切り上げた口実に体調不良を使った。
 店長も川本部長もわたしの体調不良は知っていた。
 ホテルへ帰った後、部屋から加奈子に電話をした。
 時計の針が二時二十五分近くを差していた。
 この時間、加奈子は何をしているのだろう ?
 漠然とした思いの裡に考えていた。
 若しかして、男と一緒に居るのだろうか ?
 それとも、わたしが訪ねると言った事を考えて一人で居るのだろうか ?
 いずれにしてもあの時、電話口で見せた加奈子の不機嫌な様子を考えると気が重かった。
 加奈子は今度もまた直ぐに電話に出た。
「三城だよ」
 わたしが言うと、
「ああ・・・」
 と言った。
 驚いた様子は無かった。
「今、何処に居るんですかぁ」
 直ぐに聞いて来た。
 その声には何時もの弾んだ響きは無かった。
 この前の電話が尾を引いている事は明らかだった。
「海岸ホテルに居る」
 わたしは言った。
 何故、わたしのマンションに来ないでホテルなんかに泊まったのかと、加奈子が不審を募らせてもそれはそれで仕方が無いと思った。
 既にわたしは加奈子との間の破局を思い描いていた。
 彼女に欺かれて惨めな気分を味わうより先に、自ら身を引いて少しでも心の傷を軽くして置きたいと考えていた。
「今日、来たんですかぁ」
 加奈子は言った。
 明るい響きは無かったものの不信感を抱いた様子は無かった。
「いや、急用が出来て昨日来たんだ。それで仕事が夜遅くまで掛かってしまったので海岸ホテルに泊まったんだ」
 加奈子は黙っていた。
 その沈黙が何を意味るのかは分らなかったが、或いは、二、三日の内に行くと言った電話口での言葉との矛盾を感じ取っていたのかも知れなかった。
 わたしはそんな思いを抱きながらも加奈子の無言に被せる様にして言った。
「漸く仕事の区切り付いたんで、これから行きたいと思うんだけど、どうかな ?」
 加奈子は何故か、一瞬の間を置いてから、
「いいですけどぉ、これから直ぐですかぁ」
 と言った。
 迷惑気な様子は感じられなかったものの、少しの戸惑の気配があった。
「うん。何か用事が有るの ?」
 わたしは詰問では無く静かな口調で聞いた。
「用事は無いけどぉ、タクシーで来るんですかぁ」
 加奈子は言った。
 その声からは何時もの明るさは感じ取れなかった。
 わたしは何となく、傍に男は居ないという感覚を得た。
 その感覚と共に、
「うん、直ぐに行くよ」
 と以前の親しみを込めた口調と共に言っていた。
「じゃあ、分かりましたぁ」
 と加奈子は言った。

 わたしが何よりも驚いたのは、加奈子の思いも依らない体形の変化だった。




              ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




                takeziisan様


                暑い日が続きます
               なんだかんだ言っても お元気な御様子
               記事を拝見するとホッとします これからも変わりなく続く事を期待しています
                やはり同じ世代 何時もあの時代が蘇り 郷愁を誘われます
               あの時代が良い時代だったのか悪い時代だったのか               
               いずれにしても青春の時代で再び帰り来ぬ日々への
               懐かしさに誘われるばかりです
                アオギリ 実を付けましたか
               田舎で過ごした夏の日々が蘇ります それに
               トンボ 以前にも書きましたが田圃の上を群を為して
               飛んでいて竹竿の先に糸を付け 囮の雌トンボを縛り付け
               ヤンマ ヤンマかえれ稲ヤンマかえれ にし(おまえ)等はおとこ 
               おれ等はおんな と言って振り廻してはあの綺麗な色の
               オスヤンマ捕りを競った事を思い出します
               この国がまだ貧しかった時代ですが 懐かしさに誘われるばかりです
                畑の草取り 前と後との違い 汗だく様子が眼に浮かびます
               それにしても何時もの事ですが野菜のみずみずしさ
               茄子のあの色 トマトの輝き この間の江戸川花火を見に来た
               少し田舎 に住む妹がゴオヤとミニトマト持って来て呉れたのですが
               そのトマトの味と香り 食感 売られている物との格段の相違
               驚いたのものです
               写真を拝見する度に羨ましく思います 良い暮らしだなあ と羨望の念を抱きます
               既にあれやこれやの出来る年代ではなくなりました
               せめて日常の生活の中での細(ささ)やかな贅沢を楽しみたいものです   
                AI時代 関係無い そんな心境で生きています
               過去の総仕上げ それが唯一 生きる目標で取り敢えず
               あと十年を目指しています
                有難う御座いました




                






































         

遺す言葉(560) 小説 <青い館>の女(49) 他 足跡

2025-08-10 11:21:21 | 小説
              足跡(2025.7.8日作)


 人はどの様な立場の人であれ
 日常 日々 真摯に生きている限り
 この世に何かの足跡を残している
 名声 高い地位 それだけが立派 
 尊く 偉い訳では無い
 虚名の下 悪事を重ねる者達
 数知れず
 虚名に惑わされるな
 子供の為 家族の為 地域の為
 日常 日々 力を尽くし 誠実
 真摯に生きている
 その人達の存在を忘れるな
 その人達の存在無くして この世界は
 成立し得ない
 眼には見えない場所
 隠れた場所 その場所で
 その場の務めを立派に果たし
 今日も真摯に生きている 無名の人達
 その人達 その姿こそが
 この世界では最も尊く 美しい
 虚名や高い地位
 惑わされるな
 砂一粒は小さくても
 砂 無くして大地は無い
 野に咲く花 巨大な都会のビル
 総ては砂の大地に根を下ろす
 砂 一粒の砂
 小さな砂 無くして
 世界は無い




              ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




                <青い館>の女(49)



 
 
 どれだけの時間、その中で受話器を握っていたのかも分からなかった。
 そんな自分に気付いた時には身体中の力が抜けてしまった様な虚脱状態の中に居た。
 一体、それが俺の子供だという確かな証拠が有るのか ?
 たとえ、妊娠が事実であったにしても。
 突き上げて来る強い怒りと共に更なる疑念に苛立った。 
 それでも、その怒りがそのまま口をついて出る事は無かった。
 勇気が無かったという事なのか ?
 受話器を握っていながら何故、一思いにその疑念を吐き出してしまわなかったのか ?
 緊張感から干乾びて乾き切った口を開いた時には、そんな疑念や怒りとは裏腹の気弱で懇願する様な口調になっていた。
「それで、もう、堕ろす事は出来ないの ?」
「堕ろすんですかぁ。でも、もう無理ですよぉ、六か月以上にもなってお腹の中で動いているのが分かるんですからぁ」
 加奈子はわたしの言葉を詰(なじ)る様に、剣を含んだ口調で投げ槍に言った。
 不機嫌な表情が自ずと浮かんで来る言い方だった。
 それが演技なのか本心なのかは電話を通した会話で確かに知る事は出来なかった。
 わたしはそれでもなお、一層の警戒心を募らせて更に逃げの姿勢になっていた。
「でも、産むとなると大変だよ。わたしに出来る事と言ったら限られているし」
「大変でもいいんですぅ。わたしがぁ勝手に産もうと思っただけだからぁ」
 加奈子は投げ遣りな口調の中に語気を強めて言った。
 これまでの加奈子が一度も見せた事の無い激しさを伴った口調だった。
 その激しさにわたしは、これまで加奈子の保護者気取りにも似た思いでいた自惚れが一気に打ち砕かれて微かな憎しみの感情さえ覚えた。
 兎に角、一度会って話しをしてみなければならない。
 加奈子への反感にも似た思いの中で強い決意と共に思った。
「いずれにしても二、三日の内にそっちへ行くから、その時に良く話し合おう」
 加奈子はそれには答えなかった。
 明らかに不満だけが感じられる沈黙だけが受話器を通して伝わって来た。
 わたしは初めて覚える加奈子との会話の中での気まずさを意識しながら、
「じゃあ、そっちに行った時にまた電話をするよ」
 と言って受話器を置いた。
 暫らくの間、机に向かったまま呆然とした状態で何も考える事が出来ずにいた。 
 加奈子に纏わり付く男の影、加奈子の表裏の人間性、何時もの素直な加奈子と、男と共謀してわたしを騙そうとする性悪な加奈子、一体、どっちが加奈子の本当の姿なのか ?
 わたしは唯単に、加奈子に上手く嵌められ、利用されただけなのか ?
 わたしの愚かさを嘲笑う男と加奈子の姿が浮かんで来る。
 だが、あの如何にも真実味に溢れた素直さと家庭的とも言える身に付いた雰囲気は、本当に作られたものだったのか ?
 電話口でのあの不機嫌さ、あの沈黙。
「わたしぃ、妊娠したんですよぉ」と言った時の、嬉しそうな声。
 加奈子に買い与えたマンションに注ぎ込んだ二千万を超えた金額は全く、無駄なものでしか無かったのだろうか ?
 漸く気を取り直すとわたしは、取り敢えず、明日の内にも何時もの北行きの航空券を用意する様にと秘書に伝えた。
 翌々日の正午少し前に羽田を発った。
 北の空港にはまだ日のある内に着いた。
 直ぐには加奈子のマンションへは行かなかった。
 海岸ホテルへ向かった。
 わたしの胸の中には様々な思いが交錯していた。
 新しく出来た車の部品売り場がどの様なものなのか、この街へ来る為の航空券を秘書に手配させている以上、見に行かない訳にはゆかないだろう。
 それ程、熱意の持てる仕事ではなかったが、息子にも約束している以上、見て来なかったでは済まされない。
 明日、午前中にホテルから直行して、加奈子のマンションにはその帰りがけに寄ればいいと考えた。
 何故か、加奈子のマンションへ足を向ける事に気が進まなかった。
 妊娠と言う思わぬ出来事と考え合わせて、加奈子のもとへ足を運ぶのもこれが最後になるかも知れないなどと、漠然とした思いの裡に考えを巡らせていた。
 男の存在は当然ながら、頭の片隅から消える事は無かった。
 男を交えての加奈子との諍いが頭に浮かんで来て気分を重くした。
「こいつの腹の中に居る子供をどうして呉れるんだよお。体よく逃げようたってそうわいかねえよ。きちんと始末を付けて貰わねえ事には引き下がる訳にはいかねえからな」
 あい奴はヤクザ絡みの男なのだろうか ?
 遠目には一見、平凡な男に見えたが。
 もし、本当に加奈子が男とぐるだったらどうしよう か。
 その時は、事を荒立てない様に静かに始末を付けるより仕方が無いだろう。
 今まで加奈子に貢いで来た総てのものが無駄になってしまうが、それはそれで仕方が無い。
 何よりも大事な事は、この馬鹿げた騒動が世間に漏れない様にする事だ。
 何時終わりが来るかも知れない残された人生の最後に醜聞に彩られた最後だけは迎えたくない。




            ーーーーーーーーーーーーーーーーーー




               takeziisan様

 
              暑い日が続いています
             御変わり御座いませんか
             猛暑の中のお写んぽ 充分 お気を付け下さい 
             此方も今朝は久し振りの雨です
             雨で少しは気温も下がるかと思いきや 湿気ばかりが多くて
             不快感は倍増しです 爽やかな夏の朝 最早 望むべきも無い
             贅沢でしょうか
              夏野菜 手入れも一層大変な事と思います
             それにしても雑草の逞しさ この地球の熱気の果て
             最後に雑草だけが残るのでしょうか 今 恐竜展が行われている様ですが   
             人間も最後には恐竜の様な運命を辿る事になるのか
             そんな事を考えさせられます
              山の風景 猛暑の中の一服の清涼剤です
             どうぞ お写んぽ中の熱中症にお気を付け下さい
             わたくし自身も家に籠っている身ながら 細心の心配りで熱中症に
             対処しています 年々の体力の衰え 実感するばかりです
              有難う御座いました
           
              




              

















 


 








































 

 


























遺す言葉(559) 小説 <青い館>の女(48) 他 消え逝くもの達

2025-08-03 11:51:58 | 小説
             消え逝くもの達(2025.7.26日作)


 
 
 長く生きれば生きる程
 人生は一瞬の夢 束の間の幻 にしか
 過ぎない実感を 深くする
 自身を取り巻く馴染みのもの達 総てが
 日毎 月毎 年毎 失われ 影を
 薄くして逝く
 現実 今の時を生きる感覚
 充実感は刻刻 失われ
 喪失感のみが色濃く意識を被い 
 生きる力を削いで逝く
 かつての日々
 無邪気だった幼年期 
 血気盛んな青年期
 気力に満ちた壮年期
 あの
 輝ける日々の再び
 戻る事は無い




             ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




             <青い館>の女(48)





「そうなんですよぉ。もう、六か月になるんですよぉ」
 その言葉にはわたしの気持ちを疑う様子は無かった。
「誰が言ったの。医者 ?」
 わたしは息の詰まる思いのままに言っていた。
「そうなんですよぉ」
 加奈子は依然としてわたしの気持ちを推し量る様子も無く無邪気に言った。
「何時 ? 何時、そう言われたの ?」
 わたしはだが、信じ兼ねる思いの中で半ば混乱した気持ちのままに言っていた。
 まさかという思いと共に、その思いを完全に否定し切れない思いもまた働いていた。
 不治とも言える病を抱えて、これからの先の見えない人生の中で今日まで自分が辿って来た、今では屈辱的としか顧みる事の出来ない過去の日々への復讐の様に、年端もゆかない見ず知らずの女に現を抜かして情事を重ねる中で時には、数少なかったものの思わぬ偶然と共に一概に、加奈子の言葉を否定し切れない場面も何度かあった。
 そんな思わぬ混乱の中でわたしは複雑に絡み合う感情と共に、
「それで、産む気になったの ?」
 と、ぼそりと聞いた。
「そうなんですよぉ。駄目ですかぁ」
 加奈子は言った。
 この時始めて、その言葉の中に微かな不安の色が混じるのが感じ取れた。
「駄目ですかって言われても・・・」
 わたしは混乱した頭のままに言った。
 その言葉を加奈子がどの様に受け取るのかも考えられなかった。
 いずれにしてもわたしには思い掛けないこの言葉は、これまで考えてみた事も無かった。
 加奈子の総ては不治とも言える病を抱えたわたしに取っては、わたし自身の先の見えない不安定な生を紛らす為の一つの事柄にしか過ぎないものだった。
 彼女に家を与え、充分な生活費を与えていても、飽くまでも加奈子は元ピンクサロンの一人の女であり、それ以上の存在を出るものでは無かった。
 無論、初めから親子以上に年の離れた加奈子がわたしとの関係の中で、この様な問題を持ち出して来るなどとは想像もしていなかった。
 彼女に取っては只の仕事であり、若さに任せての無軌道な行動の一つにしか過ぎないという思いがわたしの頭の中を占めていた。
 この時、ふと意識を過る思いがあった。
 或いはこれはもしかして、わたしを強請る為の一つの仕掛けではないか ?
 妊娠を口実に更にわたしから金品を強請り取ろうとしている。
 裏に誰かが居るのだろうか ?
 わたしにしてみれば自分の気持ちを紛らわす為とは言え、既に彼女には家も与え充分な生活費も与えている、という思いがあった。
 普通なら、これ以上、望むものは無い筈だ。
 一体、この妊娠という事の裏には何が有るのだろう ?
 六カ月、と言えば新居の購入の為に頻繁に顔を合わせていた頃の事だ。
 それとも唯単に、金蔓としてのわたしを繋ぎ留めて置きたいだけなのだろうか ?
 突然、わたしは背筋の凍る思いに取り付かれた。
 彼女を尾行(つけ)廻しているという男の存在が脳裡を過った。
 その男の存在と共にわたしは、最初から自分は嵌められていたのではないか、という思いに辿り着いた。
 加奈子とあの男は最初から出来ていた。
 加奈子の言ったあらゆる事柄が巧みに仕組まれた芝居だったのではないか ?
 男との最初の出会いが鮮明な色彩を伴って脳裡に浮かんだ。
 次々と、それから以降の出来事が浮かんで来た。
 加奈子は男にしつっこく付き纏われていると言った。
 男はわたしが最初に加奈子の部屋を訪ねた夜から姿を見せている。
 その上、わたしが加奈子の部屋に居る間にも電話を掛けて来た。
 もし、男の電話をうるさく思うのなら電源を切って置けばいい筈だ。
 加奈子はあの時、何か言い訳めいた事を言っていたが、たとえ、電話番号を盗まれたとしても男からの電話は防げた筈だ。
 それに今日のこの電話も簡単に繋がってしまったではないか !
 結局、これまでのあらゆる事柄が嘘で固めた事だったのではないか ?
 総てが巧みに仕組まれた芝居だった。
 わたしだけが御目出度い事に何も知らずに居た。
 その証拠に、男は新居に移った途端に姿を見せなくなった。
 もし、男が執拗に加奈子を追い回すのなら、わたし達が新居へ移る準備で何度も足を運んでいる間にも後を尾行けていたはずだ。
 それが無かったという事は結局、総ての事が彼等の思惑通りに運んだので、その必要が無くなったという事でないか ?
 多分、彼等に取って最も欲しかった住宅が手に入った。
 後は妊娠を口実に強請り取れるものは強請り取る。
 そして最後に、ハイ、おさらば、という事ではないか ?
 或いは、妊娠という話し自体が作り話しなのではないのか 。
 いずれにしてもわたしはその時、背後から強烈な一撃を頭部に受けた様に一切の感覚を失っていた。
 暗黒に包まれた時間だけが過ぎていた。




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               takeziisan様


                有難う御座います
               振り返り記事 レイ チャールズ
               懐かしいですね 並んでいる名前の総てが懐かしさを誘い   
               あの頃は良かったと年寄りの例によっての懐古趣味
               何よりも若さがあった 帰り来ぬ日々への郷愁一入です   
                フウセンカズラ 我が家の屋上にも咲いています
                美しい花々 セミの脱け殻 夏真っ盛り
               どうぞお写んぽにも熱中症に御注意を
                このひどい暑さ 実際 生命の危険を感じて気が抜けません
                野菜畑の雑草 ゴーヤの収穫 ジャム たったこれだ ?
               実感 理解出来ます
               それでも自分で作る楽しみ 羨ましい限りです
                昨夜の江戸川花火大会
               関係者は富士山を形どった花火のギネス記録を更新するのだ
               と張り切っていましたが 昨夜 それが達成されました 
               との大会内で放送が有りました
               えッ もう認定されたの ? うちの者に聞くと認定委員が来ているのだ
               と言う事でした  
                とにかく夏の一夜の儚い夢
               色様々な花火の美しさもその一言に尽きます
                どうぞ続く猛暑の中 無理をせずにお写んぼ 楽しんで下さい
               有難う御座いました

  




























  





















 



遺す言葉(558) 小説 <青い館>の女(47) 他 教会と神 ほか一篇

2025-07-27 13:08:03 | 小説
               教会と神(2024.12.1日作)



 神は教会という
 豪華絢爛たる あの
 建物の中に存在する訳では無い その
 教会を構成する建造物 一つ一つの部品の中
 その中にこそ 神は宿り 存在する
 教会 それを造り上げた人々 
 一人一人の職人 関係者 その人達の
 心の裡に住む神 人々は
 自身の心の裡に住む神に祈りを捧げ 心を込めて
 それ等の建造物を創造し 造り上げた 
 教会 その建物を形作り 構成する様々な要素
 その中に込められた人々の心の裡なる神
 そうした形で神の宿る教会は それ故に
 尊重 敬われなければならない
 教会 その 建物の中に
 神が居る訳では無い





       
       人間の肉体 生命は滅びる
       人間の言葉と心は
       永遠の命を宿し得る
       人は 人がこの世でより良く生きる糧となる
       言葉と心を残して この世の
       短い生涯を終わりたいものだ




            ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




               <青い館>の女(47)



 
 去年の様にホテルに宿泊し、改めて連絡を取るというのなら話しは別だった。
 だが、直接、加奈子の元を訪ねるとなると何故か、迷惑気な顔が浮かんで来て躊躇われた。
 去年でさえが冬が終わって最初に電話をする時には、彼女の心変わりを思って不安と躊躇いを覚えたものだった。
 ましてや今年は、それ以上の不安を覚えるのも仕方の無いという思いが、病み上がりの体調と共に心を過ぎる。
 という事は、自分の気持ちが一層深く、加奈子に傾いているという事なのか ?
 或いはやっぱり、加奈子が自身の城を手にした結果、自分の下を離れて行く事を心の何処かで既定の事実としていて、それに怯えているのだろうか ?
 いずれにしてもわたしは、久し振りに加奈子の下を訪ねる事自体に怯えている。
 多分、わたしの心の中にはまだ、<サロン・青い館>の加奈子が生きていて、その残像が不安を誘っているのだ。
 自分の城を手にした加奈子はその満足感と共に、わたしの長い不在期間を良い事に、心身共に充足感を与えて呉れるお気に入りの若い男と共に暮らしている。ーーわたしの胸の中から消えない思いだった。
< 青い館>で奔放に生きていた加奈子だった故に容易に想像出来た。
 彼女が新しい家で見せていた何処か家庭的に思えた姿も、わたしを欺く為の見せ掛けの姿だったのではないか ?
  思わず我に返った。
 慌てて部屋の出入り口に視線を向けた。
 今の忘我の状態を誰かに見られていなかったか ?
 明るい室内の出入り口の扉は閉ざされたままで動く気配も無かった。
 軽い安堵感と共に、暗く沈み込んでゆくだけの気持ちから解放されてほっとした気持ちの緩みと共に、病気をしたせいで気弱になっているのだろうか、と自分を省みた。
 それでも加奈子に対する心の奥の深い何処かで蠢く不安は解消されてはいなかった。
 その迷いを振り切って、兎に角、電話だけはしてみようと考えた。
 加奈子の携帯電話番号を調べる為に上着の内ポケットから手帳を取り出した。
 その間にも意識は加奈子に向けられていて、二人でゆっくり会える場所が有っりしたら良いですねえ、と言った時の彼女の表情を思い浮かべたりしていた。
 あの時の彼女の表情の何処かに、俺を欺く印となる様な影は無かっただろうか ?
 恋は盲目、俺は年甲斐も無くそんな状態に居たのではないか ?
 否、今更、こんな事でグダグダ考え込んでいるのはやっぱり、病気のせいで気が弱くなっているのだ。ーー 
 電話は直ぐに繋がった。
「はあぃ、滝田ですぅ」
 弾む様な声で加奈子は本名を言った。
 滝田弘子、マンション購入時に知った名前だった。
 その本名を加奈子は言った。
 わたしとの電話の遣り取りでは何時も「加奈子」の名前を使っていた。
 その事が又してもふと、わたしの不安を誘った。
 或いは彼女はこの電話を、わたしが行かなかった間に付き合う様になった男からの電話だと思ったのではないか ?
 それで本名を口にしたのではないか。
 理由もなく微妙に揺れ動く心のままにそれでも口を噤んでいる訳にもゆかずにわたしは言った。
「三城だよ」
「ああ・・・」
 加奈子は一瞬、意外な事に驚いた様に吞む気配を感じさせて言ってから、
「三城さん」  
 と言った。
 その時には既に何時もと変わらない明るさを伴った声に戻っていた。
 同時にその明るさが、わたしの疑惑に凝り固まった胸の内を解きほぐしてくれた。
 わたしは声の明るさに誘われる様に、
「暫らくだったね、随分、長い間行けなかったけど変わりは無かった」
 と、穏やかな口調で尋ねた。
「ええ、変わりないですよぉ」
 加奈子は言ったが、そう言った声はむしろ普段より以上の明るさを伴っている様にも聞き取れた。
 やっぱり加奈子は、マンションが自分の物になった事を喜んでいるのだ、とわたしは思った。
「だけどぉ、一つだけ良い事があるんですよぉ」
 続けて加奈子はわたしの言葉を待つのももどかしい様に言った。
「良い事 ?」
 わたしに思い当たる事は何も無かった。
 何んだろう ?
「今、何処に居るんですかぁ。もう、こっちへ来てるんですかぁ」
 わたしの気持など意に介する風も無く弾む様な明るい声のまま加奈子は言った。
 その明るさが矢張りわたしには理解出来なかった。
「いや、東京に居る」
 不安を抱えたままわたしは重い口調で言った。
「東京ですかぁ」
 加奈子は納得した様に言った。
 その声に曇りは無かった。
「うん、だけど、二、三日の内に行きたいと思って電話をしたんだ。突然行って吃驚されても困るから」
 多少、冗談めかした言葉の中に満更、冗談ばかりでは無い心の裡の思いを込めて言った。
「で、良い事って何んなの ?」
 続けて聞いた。
「良い事ですかぁ、何んだと思いますかぁ」
 秘密を隠す様に加奈子は勿体ぶった口調で言った。
「いゃ、分からない」
 わたしは加奈子の口調に戸惑いを覚えながら曖昧に言った。
「わたしぃ、妊娠したんですよぉ」
「妊娠 ?」
 思わず聞き返した。
「そうなんですよぉ」
 加奈子は言った。
 咄嗟には信じ兼ねる言葉だった。




              ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



  
               桂蓮様

             
              有難う御座います
             老いの不思議さ
             いずれにしても身体は動かさなければ駄目ですね
             無論 頭もそうですが
             何事も出来ないと思ったら総てが終わりです
             遣ってみる 挑戦する 出来なくて元々 そう思って前向きに
             総ての事を捉える と言う事ではないのでしょうか
             今の時代 六十代はまだまだ青春 真っ只中です
             かえって若い頃の様々なしがらみから解放されて自由度は
             増すのではないでしょうか
             とにかくやる気に満ちてお元気な御様子   
             第二の青春を謳歌して下さい
              トランプ 敢えて呼び捨てにしますが
             困った人間です
             自分の愚かさに気付かない
             自分勝手の思いのまま 政治の世界の人間ではなく商売の世界の人間です
             政治とは何かが理解出来ていない
             アメリカ 大きな国ゆえに世界中が迷惑します
             そしてまた その人間に媚を売って纏わり付く人間達 
             批判らしい批判の声も聞こえて来ない 
             アメリカと言うかつての憧れの国も地に落ちたものです
              冒頭の写真 眼を引かれます
             アメリカ映画はよく見ますのであの写真だけで街の様子が
             髣髴として浮かんで来ます
             アメリカ その国土の限り無い広さは依然として魅力です
              有難う御座いました
             これからも頑張って良い日々をお過ごし下さい



               


               takeziisan様

             
              何時もわざわざお越し戴いて有難う御座います
             昨夜は隅田川の花火大会でした
             無論 我が家からは江戸川を挟んで遠い彼方の地ですが
             しきりにその音が聞こえて来ました
             ああ 遣ってるなと思って屋上へ出てみましたら
             スカイツリーを挟んで高く舞い上がった物の一部だけが
             微かに見えました  
             八月二日は江戸川の花火大会です
             何時も あの映画 寅さんでお馴染みの両岸が観客で一杯なります
             我が家では屋上で見るのが恒例ですが まるで頭の上に火の粉が
             降って来るかの様に見えます 堤防から百メートル程の位置にありますので
              夏と言えばハワイアン 懐かしいですね
              何時聴いても良いですねえ この頃 余り聞かれなくなったのが寂しいです
              アンソニー パーキンス 何処かで聴いていたのかも知れませんが
              今回 初めて知りました
              パーキンスと言えば 映画「サイコ」の印象が余りに強いので
              まずそこを思い出してしまいます
               セミの羽化 この間もラジオで今年は見られないと
              話題になっていましたが この辺りでは数年前までは時たま見られたりした抜け殻が
              見られなくなりました
              大きな道路を挟んだ向こう側五十メートル程の距離には
              それなりの公園もあるのですが
               お母様の死 誰も一度は経験しなければならない事ですね
              わたくしも母の死を文章にまとめてありますが 
              何時かはこのブログ上に残して置きたいと思っています
              ブルーベリーおすそ分け 良いですね
              今朝もNHKテレビで三重県の小さな離れ小島に付いての番組を
              放送していましたが その中で人々が互いに労わり 協力し合って 
              それぞれが手にした農産物や魚介類を分け合っている姿が映されていました
              その何気ない心温まる姿に思わず胸が熱くなりました
              都会では見られない 地方だからこその姿だと思いました
              「好きなたけ持ってきなさい」心温まる言葉
              羨ましく拝見しました 
               川柳 どれかから一つだけ選ぼうとしたのですが
              選べませんでした
              声に出ないクスリ笑い これだけは思わず出ました
               楽しい記事 有難う御座いました
 

  
   

















 
 
 

遺す言葉(557) 小説 <青い館>の女(46) 他 教会宗教

2025-07-20 12:16:20 | 小説
             教会宗教(2025.7.12日作)



 宗派を持った神など 
 存在しない
 神は貴方の心の中にのみ
 存在する
 貴方が信じ 崇拝する神
 道端に転がる一個の石にさえ
 神は宿り得る 
 貴方が心の中で信じ
 崇拝する神 神は
 それのみ
 豪華な教会 飾り
 必要とはしない それ等は総て
 空虚な権威付け
 神に 奇跡を齎す力は無い
 奇跡は偶然の中にのみ
 存在する
 空虚な教会宗教 
 権威付けだけの飾り物 
 言葉巧みな説教に
 騙されるな !




             ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




            <青い館>の女(46)



 
 
 息子はその写真と設計図をわたしの机の上に置いた。
「もう、出来たのか ?」
 それを手にしながらわたしは言った。
「うん、プレハブの建物だからね。六月を過ぎる頃には商売に入れるんじゃないかと思うよ」
 わたしが病気の間にあらゆる事が順調に進展していた。
 建物が何時着工されたのかもわたしは知らなかった。 
「多摩の方はどうだ、順調に進んでるのか ?」
「順調過ぎるぐらいだよ。この冬は雨も雪も少なかったので、無駄になる日が無かったからね。こっちの方も十月一日には予定通り開店出来ると思うよ」
 あらゆる点に於いて息子は意欲に満ち、やる気満々だった。
 息子はその後、すぐに外出した。
 わたしは何処へ行くのかも聞かなかった。
 息子はもう、完全にわたしなど必要としてはいなかった。
 それどころか、わたしを気遣う様に、
「また、地方廻りを始めるの ?」
 と、心配気に聞いた。  
「うん、行ってみようかと思う。やっぱり顔を出すのと出さないとでは皆(みんな)の気持ちが大きく違うからなあ」
 わたしは何んとなく曖昧な口調で答えた。
「それはそうさ。だけど、余り無理をしない方がいいよ」
 息子はわたしを気遣い、諭す様な口調で言った。
 息子が出て行った後、わたしは、あい奴はわたしが北の街でしている事を知っているのだろうか、と思いを巡らした。
 その事に関して息子は素振りさえ見せなかった。
 無論、わたし自身、誰にも知られない様にと細心の心配りをしている事もあったが、それでも、何処かから偶然、漏れてしまうという事態も無いわけではない。
 その上、なお気懸かりなのは妻の態度だった。
 妻は常々、総ての事柄を自分の思い通りに進めていて、わたしの意見を取り入れる事は無かった。
 わたしと妻がスキー場で最初に出会った頃からずっと続く習慣で、わたしが会社組織を代表する社長になってからもそれは変わらなかった。
 当然の事ながら、会社運営に関しての詳細は妻も知り得なかったが、大きな方向性に於いてはしばしば口を挟んで来て、息子が社長になってからは、その傾向が一段と強くなっていた。
 母親べったりで育った息子は何事に於いても妻の意見を取り入れたがった。
 妻はその度に何時もの様に、あなたのお祖父さんなら、お祖父さんは、と彼女に取っての父親の例を引き合いに出して息子を納得させていた。
 そんな親子関係にある息子は妻から、この頃、お父さんの様子が変なのよ、などと聞いたりしていないだろうか ?
 妻は、頻繁に東北、北陸方面に足を運ぶ夫の行動を不審に思ったりしていないのか ?
 元々、妻に関して言えば、わたしを軽視していても嫉妬をするなどという事は在り得なかった。
 彼女に於いては男達に対する軽蔑という言葉は有っても、嫉妬などという言葉は存在しないのだ。
 若い頃からの、誰の眼をも引かずには置かない類まれな美貌が彼女を誇り高い女に育てていた。
 歳を重ねるに従ってその傾向は一段と強くなりこそすれ、弱まる事は無かった。
 息子にはだが、多くの面で母親の性格を受け継いでいるとはいえ、そこまでの強さは無かった。
 仕事の面では母親や祖父譲りの強引さをしばしば見せても、一度、母親の前に出てしまえば母親に頭の上がらない気弱な息子にしか過ぎなかった。
 息子にはわたしよりまず母親だった。
 わたしは此処でもまた、父親としての存在に違和感を覚えて、北の街の加奈子に思いを馳せた。
 加奈子との間の空白期間を思った。
 四か月 ?  否、五か月近くなるのだろうか ?
 北の街へ向かう事の出来ない状態の中では諦め、忘れかけていた加奈子の存在が改めて気になりだした。
 この期間、加奈子はどう過ごしていたのだろう ?
 昨年は左程気にならなかった加奈子の動静が気になった。
 微かな不安と共に、自分の城を手にしてしまった加奈子は、昨年のままの素直な加奈子ではなくなってしまっているのではないか ?
 そんな思いが脳裡をかすめた。
 今、此処で電話をしてみようか ?
 気持ちの定まらないままに息子が置いていった写真や見取り図を隅に寄せ、卓上のカレンダーを引き寄せた。
「もし、地方廻りを始めるんなら、北の街にも足を延ばしてみたらいいよ」
 息子はわたしの気持ちを知ってか知らずか、そう言った。
「うん、気候も良くなったので、一度、行ってみよう」
 わたしはそう答えたが、その事への熱い思いがあった訳では無かった。
 加奈子の存在だけが頭の片隅をあった。
 今日は十九日、カレンダーを見ながら思った。
 <スーパーマキモト>の営業は新営業年度に入っていた。
 今年、わたしは各支店の店長出席の下に毎年開かれる、新営業年度に向けての経営戦略会議に初めて出席しなかった。
 体調不良のせいもあったがわたしは今、加奈子の存在を頭の片隅に置いたまま、その会議をこれから始めるわたしの行動の口実に使おうかと考えていた。
 恒例の地方廻りは口実など必要なく、何時始めてもおかしく無かったが、今年は会議に出席しなかっただけに、会議の成果検証という口実を付ければ、一層、わたしの行動は理解され易く思えるのだった。
 その最初の第一歩として加奈子が居る街を選ぶ事も、新しい建物が出来ている以上、少しも不自然な事では無いと思えた。
 問題は、わたし自身の体調を考えて何時、始めるかという点だった。
<マキモト>の休日は水曜日になっていた。
 カレンダーを見ながら今週の終わり、二十三日の午前中に羽田を発とうかと考えた。
 取り敢えず、何時もの様に加奈子の新居に一泊して、翌日、店の方へ足を延ばすーー。
 結論を得るとわたしは、その前に一応、加奈子の元に電話をして置いた方が良いのではないかと考えた。
 四か月、或いは五か月かの空白期間を造った後で、なんの前触れも無く顔を出す事の不都合をまた、想像した。
 思い掛けない事態を眼の前にしなければならないとも限らない。




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               takezisan 様

    
                脚が痛い 腰が痛い 弱音を吐きながらの
               連日のお写んぽ 続けられる内が華 どうぞ頑張って下さい
               テレビ等でも眼にする九十歳を過ぎても元気な方々は
               やはり 何か目的を持って生きていますし 何かと
               頭や身体を使っている様です 何事に於いても人間 気力を失くしてしまったら
               終わりだと思います
                農作業 御苦労の様子が偲ばれます わたくし自身
               何処も悪い所は無いのですが 年々体力の衰えを実感させられます
               様々な収穫物を羨ましく拝見しながら これからは一層 身体がきつくなって来るだろうな 
               などと余計な心配をしています
               余り無理をなさらず 趣味の程度に気軽に考えたら良いのではないでしょうか
                アブラゼミ ひまわり 子供の頃の夏の定番でした
               今では過去の記憶の中にのみ思い浮かぶ風景です   
                三頭山の霧 尾瀬の見慣れた風景 何時見ても心洗われます
               無意識の裡にラジオ歌謡「夏の思い出」が蘇ります
                グレイダーマン 懐かしいですね
               余り聞かなくなりました どうしている事か
               コニーフランシスも亡くなりましたしね
                有難う御座いました
               新しいブログ 何んとなくぎくしゃくして使い辛いです
               ランクボタンも巧く押せているかどうか



























 



 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 



































 

遺す言葉(556) 小説 <青い館>の女(45) 他 神仏

2025-07-13 12:27:08 | 小説
                   神仏(2024.10.10日作)



 神や仏に
 人を救う力が有るか ?
 その人次第 
 有る と思う人には 有る
 無い と思う人には 無い
 神仏は人の心の外 別の存在として
 有るものでは無い
 人の心が育むもの
 それが 神 仏 その
 神 仏を信じる 信じない
 その人次第
 神仏を他者に押し付ける
 百害有って一利無し
 自身の心の中から生まれ 育む
 神仏は 
 それだけのもの




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              <青い館>の女(45)




 
 シートベルトをする様にと機内放送が流れた。
 息苦しさの中でも多少の安心感を得てベルトに手を延ばした。
 そのベルトがなかなか掴めなかった。
 日常の何気ない動作が出来ない。
 手を動かす事に大きな困難が伴った。
 どうしたんだ !
 不安と焦りで心が揺れた。
 手の震えが大きくなった。
 後は分からなかった。
「幸い、軽い発作で済んだから良かったものの、危ないところだったんですよ」
 斎藤医師は言った。
「こういう病気は発作を繰り返す度に危険度が増しますから、余程の注意が必要です。くれぐれも無謀な事はしない様にして下さい」
 幸い、機内に二人の医師が乗客として居て、その医師達の指導の下、空港に着くと直ぐに救急車で病院へ運ばれた。
 ひと月の安静治療の後、自宅へ帰る事が出来た。
 わたしが病院で意識を回復した時の妻の態度は何時もと変わらなかった。
 容体を心配して取り乱す事も無かったが、冷淡な訳でも無かった。
 時間の許す限り連日でも車を走らせて空港に近い病院へ来たが、例年なら、寒さを敬遠して行く事の少なかった北の街へわたしが足を運んでいた事には気付いていたらしかった。
「気を付けて下さいよ。無理をして何処かで変な事になっても困りますから」
 わたしの行動に釘を刺す様に言った。
 妻に取っては会社は既に息子のものになっているのだ。
 季節は十二月になっていた。
 わたしは何処へも出なかった。
 加奈子への電話もしなかった。
 去年も冬の季節は北の街を訪れる事は無かった。
 加奈子はわたしが行かなくても気に掛ける事は無いだろう。
 今もって二人の関係は客とホステスの関係、それ以外のものでは無かった。
 加奈子には新居も与え、それなりの生活費も手渡していたが、わたし自身、それ以上の関係を望まなかった。
 最早これ以上、先へ進む事の出来ないわたし自身の人生の中で、束の間、気を紛らわす事の出来る存在が有りさえすればそれで良かった。
 わたしに取っての加奈子はそれだけの存在だった。
 加奈子に取っても、二人の間の余りに違いすぎる年齢差の下、幾ら新居を贈られたからと言って、幸せな新婚生活を夢見ているなどとは思えなかった。
 この、少しだけ恵まれた生活環境を守る為に、酔狂で、少しだけ裕福な気まぐれ親父の機嫌を取る、そけだけのもの以外である筈が無かった。
 そんな中、わたしはふと、あるいは 加奈子はわたしが訪れない冬の間、何もしない日々の中で退屈を覚え、また、元の<青い館>の仕事に戻っているのではないか、という疑念に囚われた。
 少なくとも彼女は、生活に疲れた中年女とは違って、今を盛りの若さに満ちた好奇心旺盛な年頃だった。
 自由に羽を伸ばしたい願望も強いに違いなかった。
 一人、家の中で何もせず、毎日ぶらぶらして過ごす生活に耐え切れなくなるのではないか ?
 それでもいい、と思った。
 わたしが知らない所で彼女がそうしたいんなら、それでいい、今更わたしのどうこう出来る問題では無かった。
 ここでもまた、諦念の思いだけが強く働いてわたしの気持ちを落ち着かせた。


              六



 三月の終わりから四月にかけて気候は思い掛けない暖かさに恵まれた。
 体調は順調に回復している様子で日常の生活には支障が無いまでになっていた。
 斎藤医師は、
「何もしないで居るのも退屈でしょうから、無理をしない限りに於いて仕事に復帰しても構いませんよ」
 と言った。
「再発の可能性はどうです ?」
 それでも体力に自信の持てないままにわたしは聞いた。
「無論、無いなどとは言えません。既に二度の発作を起こしているんですから、以前にも増しての注意が必要です。要するに無理は禁物の一言です」
 斎藤医師が楽観視していない事は明らかだった。
「だからと言って、何もしないで居るのも、また良くありませんよ。むしろ適度な運動が回復力を高めてくれると言う事もありますから、身体に負担の掛からない限りに於いて、動いた方がいいですよ。気分的にも違いますしね。息子さんが一生懸命に遣っているんですから、気楽に構えてのんびりしたらいいんじゃないですか」
 その息子はわたしが回復後、初めて本社へ出向いた日に早速、わたしの部屋へ来た。
「もう、完全なの ? 無理をしてまた、悪くなっては困るからね」
 わたしを気遣って言った。
「うん、大丈夫だ。斎藤医師も少し身体を動かした方がいいって言ってた」
 北の街では店舗内の敷地に中古車販売用事の建物も完成していた。




             ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




               takeziisan様


                有難う御座います
               この季節ならではの花々 総てが昔日の記憶に繋がり  
               懐かしさと共に 再びあの頃の日々に帰る事との出来ない寂しさを感じます
               鮮明な画像が直に記憶に繋がり ひとしおの懐かしさを誘います
               都会の味気ない日々の中では改めて 豊かな環境の中に生きていたんだなあ 
               と思い起こさせます
               鮮明な画像 一つ一つの花々が眼に染み入る様です
               昆虫 蝶 然り カミキリなどは時々 此処でも見掛けますが
               自然の中で見るのとは違って 邪魔者以外の何者でもありません
                畑の雑草 勢力旺盛 逞しさに驚嘆 でもです
               週に一度 BS四チャンネルで放送している「小さな村の物語」という
               イタリアの地方の小さな村の人々の何気ない生活を描いた番組を
               楽しみに見ているのですが 此処で描かれていた農家の人達は
               雑草を放置したままその中で作物を育てていました
               敢えて雑草を取らないのだ という事でした
               えッ 日本では考えられないと思いましたが
               それでも立派に野菜を収穫し 市場に出荷したりしていました
               日本ではどうなのでしょうか 一度小さな場所で試してみては如何ですか
                寒い日 暑い日 大雨 昔には考えられない出来事です
               地球最後の日 そんな思いがふと頭を過ります 
               間違いなく地球は破壊されていますものね
                その中 健康診断 まずは一年の保証 お喜び申し上げます
               わたくしは年に一度の健康診断 今年も何事も無く無事でした
               因みにタニタの体組成計で体重を測ると七十二歳の数値が出ます
               実年齢八十七歳なのですが 幸い元気に過ごしております
               それでも矢張り年々基礎体力の低下を実感せずにはいられません
               どうぞこの一年 そして来年 お元気に過ごし下さい
                悲しき雨音 いとしのクレメンタイ OK牧場の決闘 
               懐かしいですね
                いろいろ楽しませて戴きました   
                 有難う御座います
             











































 

遺す言葉(555) 小説 <青い館>の女(44) 他 孤独な道

2025-07-06 12:35:42 | 小説
             孤独な道(2025.6.14日作)



 
 人が人として真実の道を歩む時
 孤独の思いを深くする
 人間 人は本性に欲望を持つ存在
 欲望を超えた向こう側
 人が人として生きる
 真実の道を歩む事の難しさ
 世界各地で頻発 巻き起こる
 醜い争い 悲惨な戦争
 総ては人の持つ本性
 欲望の為せる業
 人が人としての真実の道を生きる
 人は一人では生きられない
 人と人とが創り出す人の輪
 互いの手と手を繋ぎ 結び合い
 創り出す人の輪 その
 輪が有ってこそ 人は 人としての
 真実の道を歩む事が出来る
 人と人とが創り出す人の輪
 その輪を打ち砕くものが 人が持つ本性 欲望 
 欲望が 人が人として生きる真実の道
 その道の険しさ 厳しさを造り出す
 険しく厳しい真実の道 それでもなお人は
 人としての真実の道を歩んで行きたい
 たとえ どんなに孤独であっても
 どんなに険しく困難であっても
 人が人として生きる
 真実の道を歩んで行きたい
 否 歩いて行くのだ
 歩いて行かねばならない
 人と人とが手を繋ぎ 結び合い
 笑顔に満ちた
 人の輪を造る為にも
 誰でも人は 
 真実の道を歩んで行きたい
 歩んで行こう
 


   愚かな争い 醜い罵り合い
   即刻 止めるべし !
   何処かの国 あの国 この国 
   指導的立場に立つ
   愚かな人間達よ 本性剝き出しの
   醜い諍い 愚かな争い 
   即刻 止めるべし




               ーーーーーーーーーーーーーーーーーー




                <青い館>の女(44)



 

 時刻は午後四時半を過ぎていた。
 今夜もわたしがこの部屋に泊まる事は加奈子も知っていた。
 今朝、出掛ける時、わたしは告げていた。
 加奈子はだが、夕食の支度はしていなかった。
「わたしぃ、お料理が出来ないんでぇ、何処かへ食べに行くんですけどぉ、いいですかぁ」
 加奈子は言った。
「うん、いいよ」
 わたしは言っていた。
 無論、加奈子に家庭の味を望もうなどとは思っていなかった。
 加奈子はわたしに取ってはやはり<サロン・青い館>の女に他ならなかった。
 その日、疲れたわたしは外食をする気にもなれなかった。
 降りしきる雪は辺りを白く染めて、なお止み間なく続いていた。
 加奈子はわたしの希望を入れて出前を取った。
「エビ天二つ、なるべく早くお願いしますねぇ」
 電話口での遣り取りから、普段、そうしているらしい事がなんとなく想像出来た。
 翌日、わたしは午前九時を過ぎてから加奈子の新居を出た。
 昨夜の夕食後、十時前には床に就いていて夜中に二度か三度、眼を覚ましてはまた眠りに入って、その日の朝は八時前に眼を覚ましていた。
 加奈子の身体には一度も触れていなかった。
 風呂に入る事さえ億劫になって一人、眠りに就いた。
 雪は今朝になって止んでいたが、依然として重い曇り空に変わりはなかった。
 そのせいか、体調は依然として優れなかった。
 何時もの事であった。
 低気圧が運んで来る天候不順の日には、明らかに感じ取れる身体不調があってわたしの生きる意欲を削いでいた。
 加奈子が呼んでくれたタクシーの座席に身体を埋めると、最寄りの駅までを告げた。
 雪道を揺られながら走るタクシーの中でも身体中を包む重い感覚と共に、車内の暖気に誘われる様にして何時の間にかうとうとしていた。
 ふと眼を覚ました時には、雪の無い道では当に着いているだろうと思われる駅までの道を、タクシーはなお走り続けていた。
 その車窓から見る雪一色に染まる景色の中でわたしは、雪道をゆっくり走るタクシーの小さな振動と共に、車内の暖かな心地良さに誘われて思わず、
「運転手さん、ちょっと遠くなるかも知れないけど、このまま空港まで行って貰えないだろうか」
 と聞いていた。
「はい、いいですよ」
 制服に帽子を被った四十歳前後と思われる男の運転手は快く請け合ってくれた。
 空港までの長い距離にも関わらず、運転手とわたしとの間にはそれ以外の会話が無かった。
 わたしが絶えずうとうとしているのを見て運転者が話し掛けて来る事も無かった。
 わたしはこの時もまた、浅い眠りの中で何度か眼を覚ました。
 わたしに取ってはだが、この時の時間は至福の時間とも言えた。
 夢とも現(うつつ)とも付かない時間の中でわたしは、体調不良も日頃の苦労も意識する事無く、ただ、浅い眠りの中で眠りに任せたまま何も考えず何も眼にする事も無く、無意識の世界を漂っていた。
 ーーそんな幸福も長くは続かなかった。
 タクシーが空港に着くのと共に夢の様な至福の時間も失われていった。
 現実が眼の前に顔を見せていた。
 タクシーを降りると風花の様に雪が舞っていた。
 暖かいタクシーの車内から外へ出た身には、覿面(てきめん)に現実の寒さが身を襲って来た。
 思わず薄手のコートの襟を搔き集めて首を埋めた。
 胸の息苦しさがまたしても、常態の様に意識を覆った。
 急ぎ足の小走りで空港の建物に向った。
 建物内でも東京へ向かう便を待つ間、早く東京へ帰りたい思いだけが募った。
 機内に入って座席に身体を埋めると、漸く僅かばかりの安堵感を覚えて肩の力を抜いた。
 その時、初めて身体中が厳しい寒さの中で無意識裡に強張っていた事を意識した。
 微かな胸苦しさと喉元の軽い圧迫感はやはり、消える事は無かった。
 軽い不安感を抱いたまま座席の背凭れに身体を寄せて眼を瞑り、離陸を待った。
 機体のプロペラの回転する気配が伝わって来た。
 やがて飛行機は少しずつ動き出し、離陸に入った。
 姿勢の僅かな変化と共に胸の圧迫感が強くなり、来たな、と思った。
 その時々の違いはあっても、何時もの事であった。
 急いで上着の内ポットから舌下錠を取り出して口に含んだ。
 医師に処方して貰ったものだった。
 安心感の素になる錠剤だったが、寒さに痛め付けられて来たせいか何時もの効果が見られなかった。
 羽田に着くまで何事も無ければいいが、と不安の中で祈る様な気持ちだった。
 不安は不安に収まらなかった。
 時の経過が進むに連れて、次第に胸元を締め付けられる様な息苦しさが増して来た。
 身体中に冷たい汗が浮かんで来た。
 必死に、増して来る息苦しさに耐えて身体を動かし、姿勢を変えて息苦しさに耐えた。
 乗務員に相談した方がいいのだろうか ?
 出来れば誰の手も煩わしたくは無かった。
 機内に混乱を起こし、人々の視線を集めたくはなかった。
 それでもこの息苦しさは何時もと違う。
 飛行機は漸く羽田上空に差し掛かった。




             ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




              takeziisan様


              新しいブログのページ
             いろい考えさせられます
             年だ年だと仰りながら見事にいろいろな事をクリアしている事に
             感嘆します
             わたくしにはもう そんな気力は有りません 最低限
             自分に必要なものだけを残したいとのみ 考えています
             故に 他者の眼も気にしません その点 弱音を吐きながらも意欲満タン
             まだまだですね どうか頑張って下さい
              今回もいろいろ楽しませて戴きました ゴーヤの写真
             羨ましく拝見しました ゴーヤその物ではなく その育てられる環境を持つ事にです
             良いですね 羨ましい限りです
              川柳は相変わらず良い 昔の古い有名歌よりはるかに心に響いて来ます
             どうぞこれからも励んで下さい 楽しみにしております
             それにしても新しいブログ まだなんとなく違和感を覚えて  
             溶け込めない部分が有ります 無論 ブログの内容そのものではありません
             ページ上の見た目です
              
              時の過行くままに
             振り返り記事を拝見していて 以前のコメントが掲載されている事に
             ああ こういう事もあったな と思い出しました
             読み捨てて戴いていいものを わざわさ掲載して下さり 有難う御座いました
              以前の様に細かい一つ一つに深い注意を払う事が出来なくなった気がしますが  
             これからも楽しみにしておりますので頑張って下さい
              有難う御座いました




               桂蓮様


                有難う御座います
               何時も冒頭の写真 見る度に豊かなアメリカの地を連想して  
               いいなあ と思って見ています 狭苦しい日本には無い
               広いアメリカの良さ 何気ない写真の中に何故か広いアメリカの住環境が
               想像出来るのです
               アメリカ映画の見過ぎかも知れません
                人間のエゴ 生きている限りは払拭出来ないものでしょうね
               かと言って死んでしまえばそれで終わり
               結局 人間とはそういうものだと納得して生きて行くより
               仕方が無いのでしょうね
                エゴを入れ替える
               自分を造り直す 禅に於ける "無 " の世界もそこに行き着く道だと思います
               古くから人々はそういう事に心を砕き 悩んで来た
               という事では無いのでしょうか
               いずれにして人間 エゴを持った存在 その中でどの様にして
               他者との調和を図って生きて行くか それが大事になって来るのだと
               思います
                現在のアメリカ大統領 エゴの塊り 
               行き過ぎたエゴの塊りは醜さだけしか見えて来ません
               千九百五十年代から六十年代のアメリカ
               そのアメリカは憧れの国だったものですが 今では軽蔑の対象としてしか
               見る事が出来ません
               愚かな大統領の下 アメリカも落ちたものだと思わずにはいられません
                そのアメリカで生きてゆく桂蓮様もどうぞ
               頑張って下さい
                有難う御座いました 
              




















 
 
 
 
 
 
 
 
 
































 

遺す言葉(554) 小説 <青い館>の女(43) 他 人と文明

2025-06-29 11:38:25 | 小説
             人と文明(2024.12.29日作)



 
 限りない文明 科学の発展が 人間の
 無限の幸福を約束するとは
 限らない
 文明 科学の発展により
 得る便利さと共に 人は
 人との繫がり 心の通い合い その密度を
 希薄にしてゆくに 違いない
 人と人との心の繫がり 精神性
 文明 科学の利便に頼る頻度 割合が増し
 深まれば深まる程 人はより
 自己の世界に閉じ籠もり 独自の世界を
 生きてゆくだろう
 人と人との繫がり 精神性 希薄になり
 失われて ゆく
 人は それぞれ 独自の世界 独自の意識 を
 持つ存在
 それぞれ 人が持つ世界 それぞれ
 異なる意識 異なる世界
 利便さが
 その世界を深めるだろう




             ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




              <青い館>の女(43)



 
 一体、わたしは何が不満だと言うのか ?
 これまでの人生でかなりのものを手にして来たではないか !
 その人生が不満だとでも言うのか ?
 この世界には、わたしより恵まれない立場の人間は数多く居る。
 わたし自身は<スーパーマキモト>の社長という立場上、世間一般の人々の尊敬をも集めて来た。
 その人生の何処が不満だと言うのか ?
 わたし自身にも分からない。
 それでも心の底の何処かには常に、哀しみにも似た感情が翳を落としている。
 何故なのか ?
 これまで過ごして来た人生の総てが無意味だったとでも言うのだろうか ?
 そんな事は無い !
 わたしのして来た事の総てが無意味だったなどという事は無い。
 少なくとも、何かの役には立っていたはずだ。
 その証拠に、義父から受け継いだ<スーパーマキモト>は順調に発展し、無事、息子の手に引き渡す事が出来たではないか !
 それでいながら何故、今日まで生きて来た人生の総てに空白の感覚を抱くのか ?
 失われた歳月という思いが芽生えるのか ?
 自分は自分なりに今日まで精一杯生きて来た。
 その思いに揺るぎは無い。
 自分なりに精一杯生きて来た人生。
 その中で失われてゆく歳月は誰にも止められない。
 生きる物達総てが負った宿命ではないか !
 逃れられるものでは無い。
 失われゆく歳月・・・
 総て善しとて受け入れるより仕方が無いではないか。
 改めてそう自分を納得させて、せめて、今という時を精一杯生きようと心の裡で呟く。
「なんだかまた、大分降って来ましたねえ」
 タクシーは大雪の中を走っていた。
 辺り一面、降る雪で周りの景色さえが朧げに見えるだけになっていた。
 フロントガラスにぶち当たる雪にワイパーを激しく駆動させて言った運転手の声には、緊張感さえ漂っていた。
「東京に住む人間には今の季節、こんなに雪が降るなんて考えられない」
 わたしは言った。
「まあ、この辺では、この位の雪を怖がっていたんじゃこの商売は出来ませんがね」
 運転手は達観した口調で言った。
「それはそうだろうけど」
 わたしは言って、ふと、先程別れて来たばかりの店長の姿を思い浮かべた。
 何事にも強い意欲を持って臨む、その若々しい姿にわたしは深い安心感と満足感を覚えたが、それもこうして雪に覆われたタクシーの座席に体を埋めて思い起こす時、何故か、奇妙に遠い世界の事の様に思えた。
 わたしには最早、係わりの無い世界。
 別の世界の出来事の様に思えた。
 今のわたしに取っては、総てのものが虚無の影を帯びて見えて来る。
 体調不良が映し出すわたしの現実社会。
 その先に見える物は。
 あらゆる物が黒い影を帯びて見えて来るだけだ。
 今此処にこうして、降りしきる雪の中、タクシーの座席に体を埋めて居る事さえが束の間の幻にしか過ぎない様に思えて来る。
 やがて来るものはーー
 闇の世界。
 加奈子の新居に帰ってわたしが最初に口にした言葉は、
「疲れたぁ !」
 という言葉だった。 
「お仕事、忙しいんですかぁ」
 加奈子は言った。
「忙しいって事はないけど、この寒さが応える。身体が追い付かない」
 ソファーに身体を投げ出したままわたしは溜息と共に言った。
 加奈子は今も、わたしの仕事に付いては何も知らなかった。
 職業柄、身に付いた習性かも知れなかったが、知ろうという素振りさえ見せなかった。
 月に一度位、仕事の関係で足を運んで来る旅行者、加奈子に取っては今もってわたしはそれだけの存在にしか過ぎないのかも知れなかった。
 新しい家に移ったとはいえ、これまで関わって来た仕事上の関係に依るもの以外の何物でもない。
 只、生活してゆく金さえ手に出来ればそれでいい。
 加奈子に取ってはわたしという存在は、ただそれだけのものに過ぎないのかも知れなかった。
 相手が何をしていようが悪い事をしない限り関係舞いーー。
 部屋の中はストーブの暖気に満ちていた。
 上着を脱いでも寒くはなかった。
 厳しい寒さの中から戻った身には、適度に燃えるストーブの暖かさは心地良かった。




              ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 


                桂蓮様

               お久し振りです
              有難う御座いました
              バレー 御奮闘の御様子 微笑みと共に拝見しました
              何事に於いても一つの事を完成させるには長い年月と努力が必要です   
              実際に行ってみると難しい その難しさを乗り越えた向こうに
              本当の力 実力が生まれる 実力が生まれた時には
              何も考えずにその事が出来る いわゆる 禅の世界に於ける無の境地ですね
              その時こそが本物の力が着いたという事になるのだと思います
              この世の中 そこまでの努力をしないで少しばかり
              何処かでかじった知識を元に知ったか振りをする人間の如何に多い事か 
              これから先 AIとか何んとかの普及で益々多くなる事でしょう
              どうぞ、これからも地道な努力をして本当の実力を身に着けて下さい 
              一つの事に熱中している間に 人生はアッという間に過ぎてしまいます
              生き甲斐の無い人生程 詰まらないものはありません
              頑張って下さい
              お忙しい中 有難う御座いました



              

                takeziisan様


              何時もわざわざお出で戴き有難う御座います
             新しいブログ拝見していますが なんだか 以前の様になんの抵抗も無く
             ページに入って行く事が出来ず 気分も半減されてしまいます
             それでも 懐かしい記事を始め 楽しませて戴きました
             山の記事 以前も拝見したと思いますが やっぱり良いですね
             気分が洗われます と言っても 前にも書きましたが見るだけの人間です
             見る事は好きで 普段見ないテレビ等でも好んで山を映した番組は見ています
              シェルブールの雨傘 幼いカトリーヌ ドヌーブ
             懐かしいですね
             キャンデーズ然り みんな遠い思い出です  
              川柳 充実していますね
             それぞれ面白く拝見しました 愚かな人間 どうぞ、遠慮なく揶揄してやって下さい
             何事に於いても自分が一番偉いと思っているバカ者
             棘を刺さずに傷め付ける川柳の特権ですね
              夏野菜 我が家の屋上菜園も収穫期を迎えています
             その新鮮さは店頭販売品とは比べ物になりません
             ジャガイモなども羨ましい限りです
             野菜の高いおかげで今年は野菜を多く使うシチューもカレーも
             少なくなりました
              年金生活者の辛いところです
               有難う御座いました        
 
 

 
 
 














































 
 

遺す言葉(553) 小説 <青い館>の女 (42) 他 気にするな

2025-06-22 11:40:41 | 小説
             気にするな(2025.4.25日作)



 気にするな
 他人の眼を気にするな
 他人の眼は絶頂の時には
 賞賛 賛美の眼差しで 
 微笑と共に見詰める
 落ち目の時には軽蔑の眼差しと共に
 冷笑 冷たい視線で見詰める
 見詰められる対象 自分は
 常に自分 変わりは無い
 時の運 不運が偶々(たまたま) 
 境遇を分けただけ
 自分は自分 良くも悪しくも
 変わりは無い
 他者の眼は ただ 表向き 
 表面を見ているだけ
 自分は自分 本質に
 変わりは無い


 
   他人の事情を考える事の出来ない人間程
   無闇に人を批判したがるものだ   
   批判の為の批判は百害有って一利無し
   真実を照らす事の出来るのは
   正道に沿った批判のみ




              ーーーーーーーーーーーーーーーーーー




              <青い館>の女(42)




 
 わたしの気持ちの中では、加奈子の新居への移転に伴って、また新たな気分も生まれていた。
 この新居での安定した加奈子との関わりが、あるいは確固としたものとしての生の安定感をもたらして呉れるかも知れない。
 そんなわたしの微かな期待をも、この北の街の厳しい寒気は空港に降り立った瞬間に砕いてしまうものだった。
 その夜、わたしは加奈子の肉体には触れもしなかった。
 気持ちの中に深い迷いがあった。
 この寒さの中、自身の肉体への不安を無視して、ひと時の慰めの為にまた此処へ来るべきか、或いは何時もの年の様に寒さを逃れて大人しく東京で過ごすべきなのか ?
「体の具合が悪いんですか」
 わたしが何時もの様に加奈子を求めないままに、浮かない顔をしているのを見て加奈子は言った。
「うん、寒さが厳しくなると胸が圧迫される感じがして息苦しくなるんだ」
 浮かない顔をしたままわたしは言った。  
「何時もなんですかぁ」
「うん」 
 それでも、その夜の加奈子は幸福感を身体一杯に漲らせて満足そうだった。
 少しの間に加奈子は部屋中を自分の好みで飾って綺麗に整えていた。
 何よりも驚いたのは、その好みが如何にも家庭的なものに思えて、あの<サロン・青い館>で奔放に、享楽的とも言える世界を生きていたとは思えない堅実さが随所に顔を見せている事だった。
「随分、渋好みなんだね。まるで四十女の部屋の様だ」
 わたしが言うと、
「わたしぃ、ずっと前からぁ、家を作ったらぁ、こんな風にしたいなぁなんて、いろいろ考えたりしてたんですよぉ。それだからぁ、そうしたんですよぉ」
 幸福感と満足感とに溢れた顔で加奈子は言った。
 この時期、わたしの出費は嵩(かさ)んだ。
 ベッドやテーブル、箪笥、ソファー、ストーブ、その他、諸々の家財道具の請求書がわたしの手元に廻された。
 無論、わちたし自身が望んでした事だった。
 わたしの預金通帳からは飛ぶように膨大な金額が出ていった。
 その金額の大きさに驚きながらもわたしは、気持ちの何処かに何かしら奇妙な幸福感とも言える感情と充実感とを覚えていた。
 若き日の結婚当時の感情が思い出された。
 それでも今のわたしには、あの頃の自分とは違って、多少の出費には動じないだけの財力と気持ちの余裕があった。
 総てはわたしがこれまでの人生で積み上げて来た、牧本家に於ける隷属的とも言える生活の中での苦労と忍耐、努力の結果に依るものだった。
 翌日、わたしは加奈子の新居からタクシーを走らせて恒例の店舗視察に向かった。
 わたしが何時もの様に海岸ホテルに宿泊しなかった事は無論、誰も知らない事だった。
 それにわたしが何処に宿泊しようが誰もが気にしていない事もまた事実だった。
 泊まろうと思えば店舗の宿泊施設に泊まる事も出来るのだ。
 雪はその日も疎(まば)らに降っていた。
 改めて、東京では想像もしなかった寒さに薄手のコート一枚の身を後悔した。
 思わずタクシーの中でその寒さを嘆くと、運転手は此処ではこの寒さが当たり前なんです、と言った。
 この季節、去年は一体、どうして過ごしていたのだろう ?
 定かに思い浮かぶ記憶も無かった。
 多分、此処よりは温暖な何処かを廻っていたのだろう。
 何時もの行事の事で特別に思い出す事も出来なかった。
 その日、わたしはそれでも無事、店内視察を済ませた。
 早くも暖房を利かせた店内の熱気で気分が悪くなりそうだった。
 早めに売り場廻りを切り上げ、事務所に向った。
 そこでは店長、川本部長と年末年始の営業方針、更には、自動車部品の販売計画等に付いての意見を交わした。
 わたし自身はこの事に関しては総て息子に任せていたので進捗状況に付いては疎かった。
「社長には、プレハブの簡単な建物でもいいので、少しでも早く販売にこぎ付けられる様に頼んであります」
 店長は、取り敢えずは部品から、という事になったとはいえ、自分の提案が受け入れられた事で満足気だった。
「結構、いい商売が出来そうですよ」
 川本部長もこの計画には賛成していた。
 その川本部長は、わたしが帰りのタクシーを待つ間一緒に居て、
「今日、東京へお帰りですか」
 と聞いた。
「いや、今日はこの雪だし、無理をしないで、明日の午前中にでも帰ろうかと思う」
 時刻は午後三時を過ぎていた。
 言い訳をするにはいい時間帯だった。
 川本部長と別れると加奈子の新居へ向かった。
 奇妙にわたしは疲れていた。
 川本部長に、無理をしてまで帰らないと言ったのも、あながち言い訳ばかりではない、という思いがした。
 当分、この地へ来る事も無いだろう。
 タクシーの中で自覚する常に無い疲労感を、この地方の寒さがもたらした結果だと思い、その寒さからの逃避を考えていた。
 同時に、その時何故か、自分が生きて来た人生の悲哀が胸を突き刺す様な感覚で迫って来る事をも意識した。
 幼い頃、雪の中で育って、雪を友達にして遊んだ日々が懐かしく思い出された。
 あれから実に多くの歳月が過ぎていた。
 そして今、わたしは、その雪の降る寒さを毛嫌いしている。
 少しでも肉体的に楽な場所を求めている。
 もう、わたしには幼い頃の日々の様に、雪の中を走り廻る活力は無い。
 失われた歳月の大きさだけが又しても胸に迫って来る。
 あらゆるもの総てが、今のわたしには遠い感覚のものになっている。
 先程、店長が事務所で、如何にも充実感に満ちた表情で未来の構想を口にしていた事が、衰えたわたしの心に羨望感を伴って蘇る。
 店長はやる気満々だった。
 それは若い社長にも受け入れられるだろう。
 社長は店長の熱意を好感を持って受け止めるだろう。
 若い彼等の視線の先には広大な地平が広がっているに違いない。
 かつてのわたしがそうだった。
 未来は限り無い可能性に満ちて、希望で溢れていた。
 漕ぎ出す船は力に満ちた櫓で支えられていた。
 その櫓をわたしは懸命に漕いで来た。
 そんなわたしも、今はもう衰えた。
 肉体的にも精神的にも、疲労の蓄積だけが意識される。
 得たものより、失った歳月の大きさだけが切なく心に沁みて来る。




              ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




                takeziisan様


                 やっと新しいブログページ馴れて来ました 
                ランキング応援ページも押す事が出来ました
                AI 全く解からない分野で手も足も出ません
                今更 解かろうという気持ち無いのですが
                絵は確かに良く出来ています でも やっぱり違いますね
                堅いです 人肌の温もりが伝わって来ない
                これからの時代 段々 こういう世界になって行くのでしょうか
                人と人とが繋がり 温もりが薄くなってゆく
                寂しい世界だと思います
                 野菜の水やり もう真夏並み 情景が眼に浮かびます
                我が家の屋上菜園もそうです
                熱中症の心配 辛い季節ですね それにしても夏至  
                一日の長い事・・・
                 美しい花々 この季節の特権 
                くちなしの花 改めて水木かおるさんを思い出しました
                亡くなってもう何年になるのか ?
                食事 食べるのが早くて わたくしなどが半分も食べないうちに終わっている
                という状態で早く亡くなったのも
                そんな事が影響していたのかなあ なんて考えたりします
                 ブログ これから先どうするのか考えてもいないのですが
                気持ちの中ではずっと重荷になっています
                 何時も わざわざ来て戴いて有難う御座います
                一つ一つ拝見する記事の中でお便りしたいのですが
                こうして纏めた方が気持ちを良くお伝え出来ると思い
                この形式を取っています
                 有難う御座いました







































遺す言葉(552) 小説 <青い館>の女(41) 他 夢の如くに

2025-06-15 12:04:07 | 小説
               夢の如くに(2925.6.6日作)



 時は夢の様に過ぎて逝き
 訪れるものは
 耳に眼に親しかった人達 
 あの人 この人 誰彼の訃報
 その中
 やがて来るであろう
 わたし自身の死
 夢の様に時代は過ぎ
 迎える日々は見知らぬ顔をした
 耳に眼に馴染みの薄い
 あの事 この事
 総てが不思議の色に彩られ
 戸惑いと困惑だけを運んで来る
 過ぎ逝く時 変わり行く世
 刻一刻 時は移り
 遠く過去へと
 総てのもの達を
 運び去って逝く

  

         紫陽花の
           雨に濡れいて
             母の逝く




              ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





               <青い館>の女(41)



 

 わたしの体調はこの時期、なお安定していて穏やかな状態を保っていた。
 これからの寒さを迎える季節になってどうなのか、それのみが心配だった。
 去年の冬、わたしは一度も北の街を訪れていなかった。
 今年もまた、去年の様に寒さを迎える中で、全く訪れずにいる事が出来るかどうか ?
 マンション購入ともなれば雑用もいろいろと生まれて来るだろう。
 わたしの加奈子に寄せる思いも去年とは比べ物にならない位に大きくなっていた。
 そんな心配事が重なる中で冬の到来を避ける様にわたしが隣り街にマンションを購入したのは、冬も間近に迫った十一月になってからだった。
 秋の終わりに見つけた物件だった。
 計四部屋を持つ物件は加奈子にも気に入りの物だった。
 合計金額の半分を現金で払い、残りの半分を年若い一人の女性の収入から見ても不自然ではないローンを組んだ。
 また、ローンの金額の三分の一に当たる金額を加奈子の預金口座に組み入れた。
「税務署の調査が終わるまでは大ぴっらに動かさない方がいい。調査が終わってこの金が無くなる頃にはまた入れるから」
 総てをわたしに任せてこの方面の知識に乏しい加奈子は素直に頷いた。
 彼女に取っては自分の名前の入った書類を手にするだけで感動的な事だった。
 その上、七階建てマンション、六階の部屋は前方に遠く海を見て、後方に霞んだ山脈(やまなみ)の見える眺望と相俟ってこれ以上に無い贈り物だった。
 これが全部わたしの物なんだ !
 軽い興奮を漂わせて部屋のあちこちを見て廻っては、様々な扉を開けたり閉めたりしている加奈子の姿はそう言っているかの様に見えた。
「この部屋ならぁ、三城さんが来て泊まれる様にダブルベッドを置いても大丈夫ですねぇ」
 八畳程の広さの部屋で加奈子は、わたしの衰え、萎えた心を刺激するかの様に意味ありげな笑顔と共にわたしを見て言った。
 わたしはそんな加奈子を見て、
「いろいろ、家具等も買い揃えなければ駄目だね」
 軽くいなす様にありふれた言葉を口にした。
「でもぉ、家具なんかはぁ今ある物で充分ですよぉ」
 加奈子はこれ以上、望むものは無いとでもいう様に満足感に満ちた表情の言葉を口にした。
「だけど、わたしがこっちに来た時には、ここに泊めて貰いたいんだ。ホテルへは行かなくても済むようにね」
 加奈子はその言葉には素直に頷いた。
 加奈子が新居に移ったのは十一月も半ばを過ぎていた。
<サロン・青い館>での仕事は辞めた。
 当分の間は家の中の整理をして過ごすと言った。
 収入の途絶えた加奈子の為には何がしかの金銭を援助した。
 もともと、この街でのマンション購入を決めたのも付き纏う男から逃れたいという思いの下、加奈子自身で決めた事だった。
 通うのが大変だからという理由で<青い館>を辞めたのも、彼女自身の意志だった。
 わたしは総てを彼女の意志に任せていた。
 強制した事は何一つ無かった。
 最早、わたしには敢えて加奈子に望むものなど何も無かった。
 残り少ない人生の中での、空虚を忘れる事の出来る時間さえ持てればそれで良かった。
 加奈子に対する援助も総てがその為のものだった。
 元居たマンションを出るに当たって加奈子は、管理人には新しい住所を教えて来たが、その他は、
「もし誰かが訪ねて来て、住所を教えて呉って言っても、絶対に教えないで下さい。友達にはみんな知らせてあるので」
 と言い残して来た。
「うん、分かった。郵便物だけを送るよ」
 管理人は快く請け合って呉れた。
 引っ越しは業者を頼んで一日のうちに終わっていた。
 若い女性の一人暮らしは身に着ける物だけは多かったが、その他の家財道具などは数える程度のものしかなかった。
 いずれにしても加奈子は新しい環境での生活に心からの安堵を得ている様子だった。
「仕事をしないでいて退屈しないかい」
 電話で聞いた時、
「家具なんか揃えてぇ、あっちへ動かしたりこっちへ動かしたりしていてぇ、退屈なんかしないですよぉ」
 弾んだ声の返事が返って来た。
 一度だけ<青い館>時代の友達二人を呼んだという事だったが、それ以外は訪ねて来る人も無いと言った。
 当然の事ながら付き纏う男の姿も見られなくなっていた。
 そんな加奈子の下を最初に訪ねたのは、十二月に入ってすぐだった。
 北の街には早くも雪が舞っていた。
 空港へ降りた途端に身を刺す様な寒気に見舞われて、東京では想像もしなかった寒さに身震いした。
 無意識のうちに胸の圧迫される様な息苦しさを覚えていて、もっとしっかりと寒さ対策をして来れば良かったと後悔した。
 まず最初に向かった加奈子の新居は<スーパーマキモト>がある街より、車を六十キロで走らせて三十分程近い距離にあった。
 寒さは当然、そこでも変わりが無くて、新居の前で車を降りると漠然とした思いの不安に囚われた。
 この寒さがもっと厳しくなった時、わたしのひ弱な心臓はその寒さに耐えられるだろうか ?
 寒さが厳しいこの季節はやっぱり、東京で大人しくしていた方がいいのだろうか ?




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              takeziisan様


               コメント 有難う御座います
              新しいブログ 馴れないせいか使い勝手が悪くなかなか溶け込めません
              そんな中 美しい花の数々 何気ない野に咲く花の美しさ
              梅雨の鬱陶しい季節 気持ちの慰めになります  
              ネジバナ 懐かしい名前です 幼い頃過ごした自然
              野山の風景が蘇ります
              それにしても 方言 ダスケ 他の地区の我々にも親しい方言に思いますが
              あの画像 懐かしいですね
              いい風景です わたくし共のいた村の風景そのものです
              今でも地方へ行けば見られるのかどうか ?
              懐かしい限りです
               振り返り記事 小雨降る径
              この曲も懐かしの曲 耳に残るのは小夜福子(小雨の丘 も歌っていますが)
              淡谷のり子 下って高英男や芦野宏などの歌声です
              総てが遠い思い出の中の事になってしまいました
              お忙しい中 わざわわざ来て戴いて有難う御座いました            

























 













遺す言葉(551) 小説 <青い館>の女40) 他 命

2025-06-08 11:59:48 | 小説
               命 (5025.5.25日作) 



 人の命は
 どんな命であっても
 この世にたった一つの存在
 希少価値を持つ存在 
 命 
 一人の人間の命 各々 総てが
 世界に一つの命 
 他の何処にも無い
 希少価値を帯びたその命 一度 
 失われてしまえば 再び
 戻る事は 無い
 世界の何処にも無い一つの命
 人が人として生きる限り 人は
 断じてその手で 奪ってはならない
 人の命 
 命 美(うるわ)し
 尊きもの



 国家 という言葉より
 人の命 という言葉の方が尊く
 上に来る言葉だ
 国家は国民一人一人の命の下(もと)に成り立つ存在 
 国民一人一人無くして国家は在り得ない 
 自己顕示欲だけが強い愚かな政治家 独裁者達の
「国家の為」という言葉に惑わされるな




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            <青い館>の女(40)



 

 愚かな事に血道を上げているわたし。
 まだ幼さの残る様な女を必死になって口説いている。
 中年を過ぎた男の浅ましさ。
 わたしを無限の闇で包み込む死は手を延ばせばすぐに届く距離にある。
 今のわたしにはそれだけが親しい存在なのだ。
 それなのに、一体、何をじたばたしているのだ ?
 いや、それだからこそ、加奈子に拘り、執着するのだ。
 残り少ない時間。
 もう見えて来ている人生の境界線、終着駅ーー。残された時間の中でわたしはわたし自身を生きるのだ。
 誰にも邪魔される事も無く、誰に支配される事も無いわたし自身の人生、わたし自身の時間、これまでに果たし得なかったわたし自身の人生を生きるのだ。それだけの事なのだ。
 恥や外聞を気にする事はない。
 わたしは加奈子に言う。
「ハンドバッグもマンションも、買って貰う事には大した違いは無いじゃないか」
「でもぉ、随分違いますよぉ」
 加奈子は迷惑気な気配さえ見せて言った。
 警戒心はまだ、解けていなかった。
 四、五十万と二千、三千万の物とでは気持ちの上でも負担が大きく違って来るだろう。
 この助平親父の平気でこんな事を言う心の内が解からない。
 一体、何を企んでいるんだろう ?
 甘い言葉の裏に隠された何かで、わたしの生活がめちゃめちゃにされてしまうのではないか ?
「それは金銭的には大きな違いがあるかも知れないけど、物は考え様さ。わたしが君と居る時間が欲しいからそのマンションを買って遣るんだと思えば、君だって気が楽になるだろう。それだけの事なんだ。その他にわたしが君に望むものは何も無い。君が今まで通りに働きたければ働けばいいし、働きたくなければ働かなくてもいい。君が生活する位の金ならわたしが出してやってもいい。要は気まぐれな親父が自分の遊びの為にそのマンションを買うんだと思ってくれればいい。あとは、君がわたしと会う時間を作って呉れさえすればそれでいいんだ」
「今までの様にしていていいんですかぁ」
 初めて、不機嫌さの中にも微かに見える興味の色を浮かべて加奈子は言った。 
「勿論。だから今も言った様に君が働きたければ働けばいいし、働きたくなければ働かなくてもいい。ただ、今までの様に会って呉れさえすればいいんだ。何度も言う様にわたしは体調が悪くて無理が出来ない。その点で、君なら気心も知れているし安心していられるんだ」
「でもぉ、マンションを買うのは全部やってくれるんですかぁ」
「勿論、わたしの方で全部するよ。名義は君のものにして。それに、新しい家に移れば君を付け廻す男からも逃げられるかも知れない」
「でもぉ、この街は狭いからぁ、引っ越しても直ぐに分かっちゃいますぉ」
 投げ遣りに加奈子は言った。
「じゃあ、隣りの街へ行けばいい。それに、もし、君さえ良ければ東京の何処かへ来てもいい」
 頭の中には無かった考え方だった。
 それでも、東京という言葉を口にしてみて極めて自然な感覚の中でその言葉は受け止められた。
 名案の様にさえ思えた。
 加奈子はその言葉には露骨なまでの嫌悪感を滲ませた。
「わたし、東京は大っ嫌いです」
 激しい口調で言った。
 思わぬその激しさに狼狽したが、
「東京へ行った事があるの ?」
 とわたしは聞いた。
「前にぃ行った事があるんですけどぉ、みんながぁ何時でもわたしを非難する様な眼で見ている気がしてぇ、疲れちゃったんですよぉ」
「じゃあ、君にはこの街が合っているんだ」
「だってぇ、この街の人はみんなが優しいからぁ」
 呟く様に加奈子は言った。
「お父さんやお母さんはこの街に居るの ?」
 その問い掛けに加奈子は答えなかった。
 明らかに分かる不快感を浮かべて顔を背(そむ)けた。
 その表情にわたしは加奈子の身の上の複雑な事情を垣間見る気がした。
 再びその質問をする気にはなれなくて話題を変える様にわたしは言った。
「兎に角、さっきの事はこの次来るまでに考えて置いて呉れないかね。君さえ良ければ直ぐにでも探しに入るから」
 次に会った時、加奈子はわたしの提案を受け入れた。
 わたしは早速、心を決め、その為の準備に入った。
 それでも、いざ実行となると流石に様々な思いの危惧や不安が入り乱れて、果たして旨くゆくのだろうか、などと思案したりなどしていた。
 それでもわたしは事を進めた。
 加奈子に約束した以上、進めない訳にはゆかなかった。
 それらの不安は既に自分の気持ちの上で解決済みの事ではないか !
 自分に言い聞かせた。
 兎にも角にも、遣らずに後悔するより、遣ってみる事だ。
 その時点でのわたしが加奈子に抱いた小さな不安と疑惑は、加奈子が自分の身の上に話題が及ぶと途端に不快な表情を見せて、口を噤んでしまう事だった。
 恐らく加奈子にはわたしに隠し持つ秘密事は数限りなくあるに違いない。
 その秘密によって彼女がマンションを購入した途端にわたしから離れて行くという事態も改めて頭に思い描いた。
 それでもなお、遣らない分にはかない。
 自分自身を説得した。
 季節は既に秋に入っていた。
 東京では多摩地区の物件の契約も済んで地鎮祭も執り行われた。
 息子は早くも次の案件の、北の街での中古車販売の可能性を探る仕事に入っていた。
 北の街の店舗の広い敷地を利用して、篠田興業との提携による部品販売を始める計画だった。
 息子は多分、これからも頻繁に北の街を訪ねる事になるだろう。
 そう思うとわたしはその前に、加奈子との関係に於ける自分の隠れ家を確保して置きたいという強い思いに捉われた。
 会社の誰にも知られる事の無い隠れ家。
 事業拡大に向けて懸命に取り組む息子の努力や苦労を尻目に、年端もゆかない一人の女にうつつを抜かして右往左往する自分の姿を比べ、自分が如何にも愚かで浅ましく下卑た人間に思えたが、それでもなおそれを突き抜けた胸の奥で、これもまた、これまでの長い人生で一度たりとも果たし得なかった自身の思いを生きる為の心からの欲求なのだ、と自分を納得させていた。




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                takeziisan様



                 わざわざこのブログまでお越し戴き有難う御座います
                新しいブログでのtakeziisan見つかりました
                 この季節での花の豊かさ 心が洗われます   
                でも 間もなく梅雨の季節 四季の豊かさはそれなりに  
                喜びをもたらしてくれますが それにしてもこの暑さ
                四季の彩りも吹っ飛んでしまいそうです
                 チリアヤメ 御長男御夫婦 嬉しい限りですね         
                互いに通い合う心の温もり どの様な人間関係の中でも
                大切にしたいものです
                 野菜の実り 見る度に羨ましくなります
                最早 先の短い人生 この頃しきりに過去の田舎暮らしが
                懐かしく思い出されます
                 自然の中に身を置くことの出来る羨ましさ
                テレビなども自然を写し 自然の中に生きる人々の生活を描いた番組だけは
                よく見ます
                 ビワ 井戸端にあった田舎の家の木を思い出しました
                ビリー ヴオーン サム テイラー 鐘の鳴る丘
                帰り来ぬ遠い過去の夢です
                 有難う御座いました








 


 
 












































遺す言葉(550) 小説  <青い館> の女 (39) 他 生きる事 欲しがる

2025-06-01 11:18:22 | 小説
             生きる事(2025.5.10日作)



 生きる事を安易に考えるな
 生きる事は苦しい事
 苦しい事と思えば日々の小さな喜びも
 感謝の心で 大きく
 受け取る事が出来る
 生きる事 安楽は当然事
 恵まれて然るべき世界
 その為に人の生はある その思い
 小さな苦も大きな苦痛の種となる
 苦しい事が人生 その心 人は
 より多く 生きる喜び 幸せを
 受け取る事が出来るだろう


           

           欲しがる


 内面の空虚な人間程
 地位 名声を欲しがる
 内面の豊かな人間は自身の 
 心を耕す事に集中
 外部の声 名声 名誉 地位等に
 気を配っている暇は無い 




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               <青い館>の女(39)



 
 
 だからと言って、加奈子を家の中に閉じ込めて置く訳にはゆかない。
 そう考え始めると加奈子の生活にまで関心が移っていって、加奈子が職場を変える事は出来ないだろうか、などと考え始めていた。
 あの北の街で加奈子が働けそうな場所は ?
 わたし自身の店舗で働かせる事も可能だったが、店舗は店舗として私情は持ち込みたく無かった。
 それにわたし自身が店を訪れる度に、周囲の眼を気にしてバツの悪い思いに捉われるに違いない。
 その上更に、あのような店では今以上に男の眼に触れる機会が多くなるに違いない。
 事務員として雇い入れる ?
 不可能な事に思えた。
 多分、最初に川本部長が不審に思うだろう ?
 必要もない、事務員としての経験もなく能力も未知数な人間を何故、余分な経費を使ってまで雇い入れるのか ?
 貧しい家庭の子なので、などと言い訳をしても、それでは店員として働かせては、という事にもなり兼ねない。
 悩んだ末に考え付いた先は、加奈子をあの街から連れ出す事だった。
 トンネルを抜けた向こうの街でも何処でもいい。
 其処にマンションを買って住まわせる。
 彼女がその街で働いても働かなくてもいい。
 彼女の意志に任せる。
 わたしに取ってそれは最上の考えに思えた。
 かつてのわたしには想像も出来ない一人の女への執着だったが、次に打つ手のもう無いであろうわたしには、そこに拘るより仕方が無かった。
 日々、仮死状態とも言える日常を生きている中で唯一、現実を生きている実感を得る為の譲れない事でもあった。
 問題は、果たして加奈子がそんなわたしの夢想を受け入れるかという事だった。
 マンションを買う事を拒否するとは思えなかったが、付随する条件を素直に受け入れるだろうか ?
 加奈子の心の内は何一つ分かっていなかった。
 敢えて、分かろうともして来なかった。
 これまでのわたしと加奈子の関係はあくまでも、彼女に取っては思いも掛けなかったであろう多額の金銭が仲立ちする関係でしか無かったに違いない。
 彼女の優しさは、彼女の若さに似合わぬ金銭が手に出来るという思いの内に成り立つ優しさに違いなかった。
 彼女の心が少しでも金銭から離れてしまえば、たちまち二人の関係にも終わりが来るだろう。
 人生の終末間近の、なんの魅力も無い中年過ぎの男に年端もゆかない女が、何時までも関わっている事など考えられるものでは無かった。
 マンションを購入した後に付いても言える事だった。
 思いも掛けない贈り物に満足した彼女が、そのままわたしから離れて行くという事は容易に想像出来た。
 それでもいい、とわたしは思った。
 とにかく、どんな事態が待つにせよ、まず加奈子に話してみる事だ。
 話してみなければ何事も始まらない。
 彼女を説得する事も仮死状態の今のわたしに取っては、微かなものであっても生の息吹を蘇らせる為には必要な努力なのではないか ?
 彼女の拒否を恐れる必要は無い。
 あまりにも違い過ぎる二人の年齢差、わたしは既に生の終着が身近なものになっている。
 半面、加奈子は今、広い時空へ向かって飛び立とうとしている。
 限りなく深い青空も遥かに遠い地平線も総てがまだ彼女の物なのだ。
 くすんだ色が遠い過去を物語るだけの、射し込む光りも乏しい終着駅の建物はまだ、彼女の眼に映る事は無いだろう。
 この違い、異質な世界、それでもわたしは、わたしの今を生きる為に加奈子の心を得る努力しなければならない。
 わたしに取っての唯一の希望、加奈子。
 しなやかなその肉体、柔和な心。
「マンションを買って呉れるんですかぁ」
 その話しを切り出した時、加奈子は驚きの表情と共に疑う様な眼差しでわたしを見詰めて言った。
「そう。その代わり、わたしがこっちへ来た時には何時でも泊めて貰いたいんだ。それ以外は君が自由に使っていい。名義も君のものにして置くから」
 何故、加奈子は躊躇うのか ?
 その顔に浮かんでいたのは怯えにも似た不安の色だった。
 一体、このスケベ親父は何を狙っているんだ !
 この言葉の裏にはどんな罠が隠されているのか ?
 それとも、素直にその言葉を受け取ってもいいのだろうか ?
 マンションが自分の物になるのは限りない魅力だけど・・・
「今までお客さんに何か貰った事は無いの ?」
 加奈子の不安気な表情に被せる様にしてわたしは言った。
「ありますけどぉ・・・」
 加奈子はそれでもなお、それとこれとでは大違いだとでもいう様に煮え切らない言葉遣いをして言った。
「お客さん達は何時も、どんな物を呉れるの ?」
 緊張感を解きくほぐす為の軽い笑顔と共に聞いた。
「いろいろありますけどぉ」
 やはり、ぼそぼそした口調で加奈子は言った。
 何を答えればいいのか、困惑の表情だけが見て取れた。
「これまで貰った物で一番高い物はなんだったの ?」
 桎梏(しつこく)聞いた。
「エルメスのハンドバッグだったんですけどぉ」
 加奈子は言った。
「若い人だったの ?」
「年寄りの人ですよぉ。でもぉ、その人、もう死んじゃったんですよぉ」
 死んだ !
 死んだという言葉を加奈子はあっけらかんとした口調で言った。
 死。わたしに取ってはだが、軽い口調のその言葉の中には直接、胸に突き刺さって来る鋭い響きがあった。
 わたしが常に心の裡であれこれ捏ね回し、訳も分からぬままに怯えているものだった。
 束の間、加奈子と過ごす時間の中で忘れる事が出来たその影が、再び、加奈子の言葉の中で蘇りわたしを脅(おびや)かす。
 わたしは否応なしに自分の肉体に意識を振り向ける。
 終身執行猶予の身、その自覚と共にたちまち総ての物が色褪せて見えて来る。




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                takeziisnn様

                
                 コメント有難う御座います
                この先 ブログどうなるのか自身にも分かりません
                取り敢えずは一区切りが付くまでここに書き続ける積りですが
                だんだんお仲間が少なくなってゆく様で寂しい限りです                                  
                新しいブログ内に たけじいさん を探したのですが
                旨く見つかりませんでしたので 回顧記事を拝見しました
                懐かしい記事ばかりです
                 田舎の風景 蘇ります 情景が鮮やかに眼に浮かびます
                貧しかったあの時代が懐かしいです
                 ダニエル ダリュー 歌っていたんですね
                グレイダーマン 田舎のバス ボレロ
                ボレロはクラシックの世界でもよく演奏されますが   
                好きな曲の一つです 同じメロディーの繰り返し
                それでいて飽きない 見事なものです
                ただ読み流して頂ければいいだけの文章の貼り付け
                お礼を申し上げるばかりです
                 有難う御座います 
                これからも新しいブログでの記事探させて頂きますが             
                慌ただしい時間の中 こういう事に疎いわたくしに
                旨く出来ます事やら
                ちょっと心が重い事柄です
                 有難う御座います