遺す言葉

つぶやき日記

遺す言葉(326) 小説 川の流れの中の子猫(4) 他 コロナと菩薩

2020-12-27 11:45:29 | つぶやき
          コロナと菩薩(2020.12.22日作)


 仏教では 修行して 総てを修得した人を
 「羅漢」と言う その羅漢は それで満足し
 そこに留まっていては いけない
 自身の得た知識 徳を 他者に分け 与える
 そこに仏教の 本願 本意がある その
 本願 本意を成し得た人を 「菩薩」と言う
 菩薩が仏教の求める最高 最善 最上の姿
 人の世も同じ事
 ある業績を成し得た人 成功者は
 成功者のままで居ては いけない
 自身の得た成功の果実 成果を
 他者に 分け 与える その時 その人は
 人の社会に於ける 真の成功者 となり
 人の生きる道に於いての 最高 最善 最上の
 「菩薩」 と言う事が出来る
 今 この 人の住む地球 世界で 懸命に
 コロナの治療に当たり 身を粉にして働く
 数多くの人々 そんな人達は まさしく 自身の修得した技術で
 世の人々の為に尽くす 現代の「菩薩」 と
 言う事が出来る

        感謝 !


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          川の流れの中の子猫(4)

 だが、京子はあの夜以来、何度も母の胸元や首の付け根の辺りに赤黒い傷跡を見ていた。無論、それがなんであるのかは既に京子には分かっていた。そしてその度に京子は父母への激しい嫌悪感と憎悪を新たにして、怒りにも似た気持ちを昂ぶらせていた。
 叔母は依然、変わらぬままに訪ねて来ては帰って行った。それがなんであるのかも京子は今では理解していた。その詳しい内実までには思いが及ばなかったにしても、何かしら、不潔な匂いだけは嗅ぎ取っていて忌まわしさだけが京子の胸中を揺さぶった。


          三

 
 春江といる時、京子は僅かに気持ちの安らぎを得る事が出来た。あれこれ、心を煩わす必要がなかった。一つの魂から分離した二人であるかのように、総てを解放出来た。一人っ子の京子に対して春江は三人妹弟の長女で、京子に対しても気持ちの上でははるかに姉さん的存在だった。
 二人は学校でも同じ課外活動を選んでいた。物静かな京子に対して活発な春江は、バレーボールでも陸上競技でもリーダー的存在で、常に仲間達の先頭に立っていた。
 一方、京子は風邪で休んで以来、体調の思わしくないままに、課外活動にも出ず、競技に加わる事もなかった。病気の前と比べてはるかに顔色の優れない京子に対しては、指導の教師も仲間達も理解を示して、無理強いをする事はなかった。京子はただ、教室の中から、あるいは運動場の片隅などで、常に活発に動き廻る春江や仲間達を見ていた。
 京子はだが、そんな仲間達の動きを見ながらも、それを羨ましいと思う事はなかった。既に京子の内面では何かが崩れてしまっていた。総てが空虚な脱け殻のように見えて来て、それに抗する力も湧いて来なかった。今までそこに確かな存在としてあったものが、今はもう完全に崩れ去ってしまっている。京子がそこに見ていた幸せな姿は今はもう、何処にもない。暗い想念だけが家庭内の雰囲気と共に京子の胸の裡を満たして来る。
 京子は課外活動を終えた春江達が汗を拭きながら教室に戻って来るとようやく自分を取り戻して、賑やかな春江達を笑顔で迎え、下校の準備に取り掛かった。

 M町は東京を離れる事三十キロ、S県の南端にあって、人口一万程の、このごろとみに市街地化が進む農村地帯だった。これと言った特産物もない平凡な町だったが、ただ一つ、町の西南部を流れる隣り町との境を形成する川は、都市化の進んだ町の環境の中でも、奇跡的に清流の保たれた川だった。さして大きくはなく、川幅、およそ五十メートル程かと思われる。低い堤防を降りて葦の繁った水辺に足を浸すと川の両側を合わせて三十メートル程は膝下程の深さだったが、それを越えると途端に深度は深くなって、大人でも背の立たない程だった。
 川の流れは概して静かだった。上流の山岳地帯から流れて来るという事だったが、大小様々な石が水の中に揺らめいて見えていた。
 そんな静かな川でも、時には荒れる事がない訳ではなかった。台風や豪雨などに見舞われた後では、一気に水嵩が増して濁流となり、思いも掛けない波立ちを見せながら激流となって流れて行った。
 その年の五月雨と呼ばれる季節の雨は長かった。五月が過ぎ、六月になってもシトシトとした雨は降っては止み、降っては止みを繰り返していた。
 その金曜日、授業の終わる頃まで降り続いた雨で、課外活動も中止になり、京子と春江は学校からの帰り道、束の間見えた晴れ間の中を、久し振りの陽の光りを楽しむかのように遠廻りをして、川の堤防へ出て帰路に向かった。
 さすがに降り続いた雨のせいで水嵩は増し、流れは急だった。その急な流れの中で濁流が、岸辺の近くの一箇所、そこだけぽつんと突き出ている小さな岩に当っては渦巻きながら、激しい波立ちを見せていた。京子も春江も学校の制服姿で鞄を抱えていた。何時もどおりに二人は他愛も無い話しをしながらのんびりと歩いていたがその時、不意に京子が何かに気付いたように、奇妙な声を上げて立ち止まった。
「なに、あれ ? なんだろう。ほらほら、あれ。見て、見て.あの石の上」
 京子が突然、足を止め、奇妙な声を出した事で春江もびっくりして、思わず京子の指差す方を見た。
 激しく渦巻く濁流の中に突き出た小さな岩の上には一匹の小さな生き物が動いているのが見えた。
「本当だ。なんだろう ? 動いているねえ」
 春江も言った。



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          桂蓮様

          有難う御座います
          大分の災難の御様子 どうぞお気を付け下さい 
          御無理をして悪化させないように
          お元気なお便り お待ちしています
          コロナの一年 人間社会なんてひ弱なものです
          いろいろあれこれ考えても物事はなるようにしか
          ならない それならせめて 自身毎日 悔いの無い  
          時間を生きる それだけしか出来ないようです 
          日日是好日
          いつも愚にも付かないブログに
          お眼をお通し下さいまして心より御礼申し上げます
          どうぞ 御主人様共々 良いお年をお迎え下さいませ
          是非 来年は御豊富な御趣味を活かした
          明るいブログをお寄せ下さいませ 
          楽しみに期待しております
                                「No pain no gain」
                                  「苦痛なしでは何も得られない」
          良い言葉ですね 共感します

          次回は休みますので宜しく願い致します


          takeziisan様

          有難う御座います
          今回も見事なお写真 堪能させて戴きました
          朝焼けの写真見事ですね
          それにしても よく まめにお撮りになります
          かなりの御苦労ではないのでしょうか
          川柳 相変わらず楽しいです
          皆さんお上手です 感服します
          思わず笑ってしまいますが 人生
          肩肘張らずに笑い飛ばして生きてゆけたら
          いいのですが
          梅酒 昔 わが家でも造ったものを物置に入れ
          そのまま忘れてしまい 何十年も経った後に偶然
          見つけ出した事があります その時の
          熟成された味のなんとも言えない旨みは
          格別でした 今回ブログを拝見 思い出しました
          ハッピークリスマス このような歌を
          理解出来ます事は お若い証拠ですね
          わたくしはプレスリー以降のものは
          理解出来なくて 雑音のようにしか聞こえません
          根っからの演歌派なのかも知れません
          何時もお眼をお通し戴き 有難う御座います
          次回は休みますので宜しくお願い致します
          奥様共々 良いお年をお迎え下さいませ
 

遺す言 (325 )川の流れの中の子猫(3) 他 地獄と極楽

2020-12-20 11:42:57 | 日記
          地獄と極楽(2020.11.25日作)

   日頃 人が口にする
   極楽とは 何か
   地獄とは 何か
   人が死に瀕した折りに浮かび来る
   過去 追憶 その過去が
   良き思いに満ちた 人生だったか
   極悪 陰険 非道の 人生だったか
   良き思いに満ちた人生は
   人が 死の床に横たわる その時
   心 安らかな追憶 思い出で
   最期の時を 満たしてくれるだろう
   それが極楽
   極悪 陰険 非道の 人生は
   苦渋 苦痛に満ちた追憶 思い出で 
   最期の時を塗り潰すだろう
   それが地獄
   極楽 地獄
   人の死後 その世界を言う  言葉
   ではない
   人が最期の時 死の床に横たわる その時に
   向き合う言葉 極楽 地獄
   人は死すれば 無になる 無 絶対的 無
   虚無の世界 闇 闇 闇
   久遠の闇 死の世界は
   虚無 真っ暗闇
   地獄も 極楽も
   そこには ない



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          川の流れの中の子猫(3)


「あなた、風邪の具合がはっきりしないんなら、一度、よく診て貰ったらいいんじゃない ? 」
 母は京子の陰にこもりがちな様子を見かねて言った。
 父は単純に思春期の娘達にありがちな心の病気なのだと思い込んでいる風で、自ら道化の役を演じて、京子の気持ちを引こうとしていた。
 京子はそんな母にも父にも深い嫌悪感を抱いた。特に父の道化の役を演じるその行為の奥に、離れてゆく恋人の心を繋ぎ止めようとする男の浅ましさにもに似た姿を見る思いがして、一層の不快感に囚われた。
 京子はこのころ、ようやく得た知識によって、幼かった自分に対する父の愛の中には何かしら尋常ではない、不純な動機が込められていたのではないか、と思うようになっていた。まだ何も分からない京子を力いっぱい抱き締め、執拗に髪をまさぐり、唇で唇を愛撫する父の行為の中に、本能的に不潔な匂いを感じ取った。そして、そんな時の父の恍惚感に酔った顔が眼に浮かぶと京子は居たたまれない気持ちになって、手当たり次第、自分の傍にある物を取り上げては幻の父の顔めがけて投げ付けた。
 今でも時折り京子は、自分を見詰める父の眼の中に何かしら、狂おしい影のようなものが走るのが見えるように思った。そして父と母、叔母の三人の関係の中にも京子は、自分には知り得ない、何処かしら異常性を感じさせるもののある事をも感じ取っていた。
 そんな京子は何時しか、自分でも意識しないままに、執拗に性の知識を探るような少女になっていた。日頃、自分の意識している事が世間並みの常識を外れた、自分独自の特有な思い込みなのか、あるいはやはり、自分の家の環境が異常性を帯びているものなのか、無論、まだ少女の京子に判断の下せる事ではなかった。
 京子は夜、布団の中入るとしきりに父と母の寝室での姿を想像するようになった。今夜も父と母は、たまたま京子が覗いたあの夜と同じようにしているのだろうか ? そしたてそれは、何処の家のお父さんやお母さんでもしている事なのだろうか ?
 だが、京子は、再び、父母の寝室を覗いてみようとはしなかった。あの夜眼にした様子を想像するだけで、嫌悪感とおぞましさだけが沸き立って来て、京子は苛立った。怒りと憎悪を抱き締めたまま京子は、布団の中で体を強ばらせ、怒りと憎悪に耐えていた。
 
 京子は何時の頃からか、母がしきりに自分の部屋へ入って来るようになった事に気付いた。
「京子ちゃん、あなた少し、窓を開けたらどう ? 何時も締め切ったままでは体に毒よ。しかも御丁寧にカーテンまで引いて。鬱陶しいでしょうに」
 母は京子の存在を無視したまま、自らカーテンを開けようとした。
 京子はそんな母に食って掛かった。
「ほっといてよ。わたしが好きでやってるんだから、余計なお節介をしないでよ」
「だって、体に毒じゃない」
 母もむきになって言い返した。
「毒だってなんだっていいじゃない。わたしの事なんだから」
「まあ、あなた、なんて言う事を言うの。よくもお母さんにそんなに事が言えるわね」
「お母さんが何よ ! あっちへ行ってよ。わたしはわたしで忙しいんだから」
 母は頬を紅潮させ、怒りに体を震わせたが、それ以上は言わずに、そのまま部屋を出て行った。
 母がこの時、京子の態度に何を感じ取ったのか、京子には知る術もなかった。日頃、穏やかな母だったが、それでもやはり京子の心の裡には、そんな母を許せない思いが渦巻いていた。そしてそれは総て母自身の責任なんだ。
 父は、そんな京子の前で、うろうろするばかりだった。恐らく、その出来事は母から聞かされていたに違いなかったが、その事に付いて父が何かを言う事はなかった。ただ、京子の前で物分りのいい父親を演じようとしているらしい事だけが明瞭に読み取れた。
 京子はその日以来、父母を拒否し続けた。自分の部屋には内側からも外側からも鍵を掛けた。当然、母の非難を受けた。京子はだが、譲らなかった。
「一つ家の中に居て、なぜ鍵などを掛けなければならないの。そんなに、お母さんやお父さんに見せたくないものがあるの ?」
 母は言った。
「わたしの事なんだから、どうでもいいでしょう」
 京子は冷たく言い放った。
 既にこの時、京子の心は父からも母からも離れていた。時折り姿を見せる叔母に対しては疎ましさだけを覚えて、避ける事ばかりを考えていた。そしてそれらの総ては、たった一度、偶然に眼にしたあの夜の父と母の姿が、その因をなしているのだという事も京子には分かっていた。分かっていながらも京子には、自分自身の心がどうにも出来なかった。無意識裡の父母への憎悪と嫌悪感だけが京子を動かしていた。
 このころ、京子はしきりに学校での仲の良い友達、樺島花江の家に遊びに行くようになっていた。小学校一年生の時からの友達で、最も気心の知れた友達だった。花江の母は昔、小学校の先生をしていたとい事だったが、今では県庁に勤める花江の父との家庭を守って専業主婦になっていた。大柄な、人当たりの柔らかな人で、京子が行くと何時でも暖かく迎えてくれた。
 一方、花江はほとんど京子の家には来なかった。京子の家があまりに広くて、いかにも旧家という家のたたずまいが花江には何か怖いように感じられて息苦しいと言った。その上、京子の母も花江の母のように明るくざっくばらんという感じではなくて、花江に取ってはそれもまた、気持ちの負担になるようだった。
 京子はそんな花江との二人の時間の中である時、何気ない様子で両親の関係について聞いてみた事があった。花江の家の家庭の図柄が自分の家の図柄と比べてどういうものなのか ?
 だが、花江の答えは京子を失望させるものでしかなかった。勿論、花江は両親の寝室など覗いた事はなくて、京子の質問に、
「ねえねえ、京子、覗いた事があるの ?」
 幼い性への好奇心と共に花江は秘密めかして言った。
「あるわけ無いでしょう」
 京子ははぐらかさざるを得なかった。



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          桂蓮様

          有り難う御座います
          御趣味の多彩な事にびっくりします
          それにしても、御無理をなさらない様に
          「難しさと易しさの境目」
          再読させて戴きました
          おっしゃる通りです 本当に理解している人は
          小難しい言葉を並べたりなどしません
          何よりも辞書を引きながらの英文との比較で 
          読みますので捗りません でも これが
          面白いのです
          追い追い いろいろ読ませて戴きます
          広いアメリカ 広ければ広いだけにいろいろ
          複雑な問題も起こってくるようですね
          日本も先週は雪の季節となって東北北陸などでは
          大雪に見舞われ 数多くの車が立ち往生など   
          しています この頃の季節は極端から極端に
          走るようです
          何時も有難う御座います



          takeziisan様

          有難う御座います
          今週もブログ 楽しませて戴きました
          立派な白菜 昨日スーパーではズシリと重い
          大きなものが九十八円で売っていました
          これでは農家さんも大変だなあ と思っていました
          消費する側に採っては有り難いのですが
          「トウミ」「トウシャバン」懐かしいです   
          わたくしも実際に使った事があります
          「会議は踊る」この映画はまだ観ていません
          観たい映画の一つなんですが
          「シーハイルの歌」初めて聞きました
          歌っている方の声もいいですね
          傑作揃い川柳 楽しいです 笑えます
          俳句にはない川柳の良いところですね
          今回もいろいろお写真 楽しませて戴きました
          若い頃の写真を見るのもいいのですが
          今更ながらに現在の老いを実感させられます
          有難う御座いました
          


          
     
          

          
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 


 
   
   
   


遺す言葉(324) 小説 川の流れの中の子猫(2) 他 茶の湯

2020-12-13 12:31:10 | 日記
          茶の湯(2020.12.2日作)


   茶の湯の元祖とも言える「利休」
   その孫 宗旦は言っている
   茶は侘びを重んじる だが
   世間の俗物は 形だけは "侘びの茶 " に大金を費やし
   珍奇の茶碗などに田園の風景などを見て
   これを風流などと言うーーこれは
   如何なものか
   また 禅家 夢想国師は言う
   栂尾の明恵上人 建仁寺の開山 栄西禅師も茶を愛好されたが
   それは疲れを取り 眠気を醒まして 修行に励む為だった
   今日の茶を持て成す様子は 常軌を逸している
   修行の為でもない 勉学の為でもない
   ーー世の中の金の浪費である

   茶の湯とは 只 湯を沸かし 茶をたてて
  呑むばかりなるものと知るべしーー利休

   底ひなき 心の内を汲みてこそ 
   お茶の湯なりとは知られたりけりーー秀吉

   「侘び」とは 不自由を不自由とせず 
   不足を不足とせず 不調を不調と思わぬ心ーー鈴木大拙



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          川の流れの中の子猫(2)

 母は全裸のまま背後縛りに両手を縛られ、布団の上に転がされていた。その口にはタオルが噛まされていた。
 父はそんな母の前に仁王立ちになり、これも体に何一つ付けないままで鍵穴から覗き込む京子の眼の前に、醜い性器を晒していた。
 上半身は見えなかった。だが、手には黒革の父がいつも愛用しているベルトがしっかりと握られているのが見て取れた。と思う間もなかった。父がそのベルトを振り上げる様子が部分的とはいえ、はっきりと京子の眼に映った。続いて鋭く空気を切り裂く音と共にベルトが振り下ろされ、それが全裸の母の背中を打った。母はタオルを口に噛まされたまま悲鳴を上げて体をよじった。
 父はだが、容赦はなかった。ベルトで打たれ、その痛みに体をくねらす母の裸体目がけてさらに何度も何度も、同じようにベルトを打ち下ろした。
 母の白い肉体には既に幾筋もの赤い線が走ってた。その上に更に、父がベルトを打ち下ろす度に赤い線が重なった。中には既に血を滲ませているものさえあった。
 父が振り下ろすベルトの勢いはなおも止まる事がなかった。まるで母を憎悪しているかのような趣さえが感じ取れた。
 京子はただ、息を呑んで見守っている事より外に出来なかった。全身が思わぬ光景がもたらす恐怖に硬直し、動く事も出来なかった。
 そのうちに獣のような呻き声を上げながら、父の打ち下ろすベルトの痛みにのた打ち回っていた母が声も上げなくなった。その反応も鈍くり、微かに身を振るわせるだけになったと思った時、父は今度は手にしていたベルトを放して母の体の上に覆い被さっていった。
 父はまるで仮死状態とでも言えるような母を犯した。

 京子は父と母の関係の理解に苦しんだ。幼い頃にはそれが当然の父と母の姿だと思っていたものが、その出来事と共に、何処か、世間の並みの家庭に於ける父と母の関係ではないのではないか、という疑いを抱くようになっていた。
 母は、京子の知る限り、口数の少ない人だった。物静かな人で、普段、父との間で口争いをするような事もなかった。常に傲慢とも思えるような父の態度に対しても従順とも言えるような立場に身を置いていた。それが何故なのか無論、京子の考えの及ぶところではなかった。
 父には一人の妹がいた。京子にとっては叔母に当る人だった。叔母は現在でも必ず、月に一、二度は京子の家を訪ねて来た。
 もともと京子の家は代々、父の家系のもので、古い歴史を持っていた。父は一介の製薬会社の販売部長にしか過ぎなかったが、過去には二代に渡って政治家を生んだ地方では名の通った名家だった。第二次世界大戦前までの祖父の時代が繁栄の最後で、この祖父が戦争と共に家系の繁栄に止めを刺した。祖父は戦前の満州に渡り山師のような仕事をしていて、日本の敗戦と共にその満州で死んだ。
 父は妹と二人だけの兄妹だった。京子にとっての祖母は、祖父の山師的性格に苦しめられ、孤独を囲って、その孤独を慰めるために、特に男の子の父を溺愛した。祖父の亡くなった後は、家柄の誇りだけを胸に厭世観を募らせて世間を軽蔑しながら、名家としての財産を食い潰して戦後の混乱を生き抜いた。
 京子には祖父母の記憶はなかった。写真で見る祖父は何処か剣呑さを感じさせる傲慢さを身に付けているように思えた。祖母はなかなかの美形だったが、やはり京子には素直に受け入れられないような何かがその写真の奥に透けて見えた。
 父のたった一人の妹、叔母が結婚したのは、祖母が死んだ後の事だった。それまでは父夫婦と同じ屋根の下に住んでいた。広い家で叔母のいる場所に不自由する事はなかった。
 母はおそらく、結婚してこの家に来て以来、間もなくして気付いたのに違いなかった。それが何時からの事なのかは、知り得ない事ではあったが。
 現在も叔母は来ると必ず父の書斎へ向かった。そして、長い時間、出て来なかった。その間、父の書斎の鍵は掛けられていた。幼い頃の父に溺愛されていた頃の京子でさえ、入って行く事が出来なかった。そして、そんな時の叔母は、父の書斎から出て来ると母に挨拶もせずにそそくさと帰って行った。叔母が帰った後から書斎を出て来た父の眼も異様に血走っているように見えた。
 母はそういう時、概して不機嫌だった。幼い京子にさえも苛立った様子と不機嫌さを露骨に見せた。京子はそんな母の前では張り詰めた厳しいものを感じて何時も静かにしていた。
 京子は今、漸くにして、あの異常な父と母の姿を眼にした事により、これまでの幼い頃の自分の身に起こっていた事などと共に、この家庭内の異様な雰囲気を理解し得たように思っていた。


          二

 
 京子はあの日以来、一際、無口な娘になった。父とも母とも笑顔で言葉を交わす事がなくなった。幼い頃はあれ程好きだった父には、肩に触れられる事さえも恐れて常に身を引いていた。
 父と母はそれぞれに、それぞれの流儀で京子の変化を受け止めていた。



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           桂蓮様

           コメント 有難う御座いました
           養老猛さんの本をお読みとの事
           わたくしは生憎 この人の書いた物には
           眼を通していませんのでなんとも言えませんが 
           何処の国の人にであれ見下すような姿勢は
           決して許されるものではありません
           アフリカ アジア 欧米 そのような
           地域の順位制が世界には
           出来てしまっているように思えます
           「黒人」という言葉もわたくしは嫌いです
           せめて黒色人種ぐらいには呼んで欲しいものです
           或いは「アフリカ系の人」とでも

           もう雪ですか お話しを伺うと改めて
           アメリカの大きさが実感出来ます
           日本では暖冬で部屋の中では長袖シャツ一枚でも
           少しの間なら我慢が出来ます
           バレー頑張って下さい 何事によらず
           身に付けるまでには努力が必要なんですね
           いつの日にかそのお姿の拝見出来る事を
           楽しみにしております

           コロナ対策 再読させて戴きました
           実際 何時になったら収まるものやら
           うんざりです
           こういう時こそ 何処の国に於いても
           有能な指導者が必要ですよね 


           takeziisan様

           何時も有難う御座います
           今回も楽しくブログ 拝見させて戴きました
           相変わらずの美しいお写真 富士山 並木道
           いいですね
           はがきの木 名前を始めて知りました 「はがき」の
           語源は知っていましたが
           喫茶店 懐かしいです この記事で
           新宿をうろつき廻っていた頃を改めて
           懐かしく思い出します 「喫茶店の片隅で」
           松島詩子 勿論 知っています
           高英男 「雪の降る町を」
           ブログで聞き比べましたが わたくしには
           やはり高英男ですね そうですね
           「えり子とともに」人気番組でした
           えり子を演じた阿里道子が後の
           「君の名は」の真知子ですね 
           今回も充分 楽しませて戴きました
           有難う御座います 来週をまた
           楽しみにしております     
           
  
        

           

           
 
 
 
 
 
 

 
   
   
   
   

遺す言葉(323) 小説 川の流れの中の子猫 他 命 すべての命

2020-12-06 12:12:43 | つぶやき
          すべての命(2020. 2.11.9日作)


   この世界 この地球全体を含む
   すべての所 何処を見渡しても  
   見付ける事の出来ない 再び
   造り直す事の出来ない 
   一つの物がある 命
   人の命 すべて 生きる物たち
   それぞれが持つ命 それぞれの命
   他の何処にもない その物だけが持つ
   その物だけの命 各々 それぞれ
   それぞれの生き物が持つ たった一つの命
   だが すべての生き物たちは この世界 この宇宙
   そこに棲息する限り すべての生き物
   動物 植物 魚類 鳥類 昆虫 他 種々 様々 
   その種々 様々な生き物たちの命を それぞれ
   自身の身を養うための糧として
   自身の命に代えながら生きている
   人から始まり 種々 様々 生きる物たち
   それぞれが互いの命を 自分の命の糧として
   生きている
   他の命無くして 自分の命はない
   自身の命はない 生きる物 
   すべてが持つ生の宿命
   他の命の犠牲の上に生きる自分の命
   他の命の犠牲の上に生きる命 なら 人はせめて
   すべての生き物たち その頂点に立つ存在として
   生き物すべての命を無駄にする事なく 命を戴く
   その事への感謝と共に すべての命の尊さ 貴重さ を
   認識 自覚しながら
   すべての生き物たちの頂点に立つ存在としての
   人間 人 その 人が持つ 命 他の何処にもない
   たった一つ その 人の命だけは
   どんな事があっても 奪う事なく
   奪い合う事なく それぞれが それぞれに持つ
   命の尊さ 貴重さを敬いながら 互いに
   手を取り合い 手を差し延べ 助け合って
   生きて行こうではないか この世界 この宇宙
   その中にたった一つしかない それぞれが持つそれぞれの命 の
   貴重さ 尊さ を 自覚しながら・・・・・・ 
   奪われた命の
   再び 戻る事はない 



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          川の流れの中の子猫(1)

 少なくともそれまでの京子は、決して、父母と仲が悪くはなかった。むしろ素直で、従順な娘でさえあった。何処か無口で、ともすれば自分一人の世界にこもりがちな所があっても、それは多分に、一人っ子という環境が影響していた、と言う事に違いなかった。幼児の頃からそういう世界に馴染んで来ていたし、その中に、いささかでも暗い影の認められるという事はなかった。父母ともよく談笑したし、父とは殊更、仲が良かった。二人だけで幼児向けの映画を観に行ったり、休日の一日には、遊園地へ行った帰りに小奇麗なレストランで食事をしたりして、幼い京子にはそれが限りない楽しみの一つになっていた。
 そんな父は、幼い娘の京子に華やかな装いをさせ、淑女のように飾るのが好きだった。まだ五歳にも満たない京子に口紅を付けさせ、イヤリングやネックレスなどで豪華な雰囲気を作り出し、真っ赤なマニキュアで小さな指の爪を彩ったりなどした。道行く人々がその可憐で、大人びた雰囲気を漂わせる小さな女の子に思わず賛嘆の声を上げ、振り返って見詰める姿に、父はこの上ない満足感と喜びを見い出しているかのようにも思われた。そしてそれは、京子にとっても喜びであり、嬉しい事だった。人々の視線を集める自分が得意でさえあった。
 母がそんな京子と父の間に入って来る事はほとんどなかった。京子が父と出歩く間も母は家にいた。無論、幼い京子が、それが何を意味しているかなどと、疑ってみる事はなかった。そういものだと信じ込んでいた。
 京子は物心付いた頃から長い髪をしていた。両脇をピンで留め、耳の後ろを通して背中まで届く髪だった。それを父が毎朝、食事の前に丁寧に櫛を入れ、油を付けて整えてくれた。当然、普通の家庭では母親の役目であるべきそういう事に京子の母は、なぜか冷淡で、父のする事を皮肉のこもったような眼差しで見ているようなところがあった。
 父は幼い京子を膝の上に乗せ、力一杯抱き締めては、何かに陶酔するように京子の髪に頬を押し付けたまま、何時までもじっとしているような事がよくあった。幼い京子は初めのうちは苦しくてあまり好きではなかったが、いつしか馴れてしまうとそうされる事に、奇妙な喜びと期待を抱くようにさえなっていた。小さな心のうちに軽い興奮のようなものが沸き起こった。
「京ちゃん、お父さんに接吻してちょうだい」
 父は両手で京子の背中を支え、膝の上に乗せたままで言った。
 すると京子は小さな唇を突き出して、父の唇に押し当てた。
 父はその唇で京子の唇を愛撫するように微かに顔を動かし続けた。
 母が父と幼い娘の、そういう関係を知っていたのかどうか、京子にはそこまでは知り得なかった。父と娘のそういう関係は、いつも父の書斎で行われた。母の視線がそこに注がれていたという記憶は京子にはなかった。ただ、幼い京子には、そんな行為が自分の愛する父との間での二人だけの秘密のようにも思えて、父が帰って来るといつも真っ直ぐに父の書斎へ向かった。
 その京子が徹底的に父母を憎むようになったのは、京子が中学二年生の時だった。その時、京子は春先の悪性の風邪を患って学校を休んでいた。
 もともと京子は華奢な体つきではあったが、芯は丈夫な質だった。それまでにもほとんど病気らしい病気というものをした事がなくて、その時にも「鬼の霍乱(かくらん)だね」と言われた程だった。両親もさほどに心配していなかった。
 それでも高熱は二日程続いた。その間、京子は昼夜を問わず、ほとんど眠って過ごした。奇跡的に熱が下がった三日目になると今度は、終日を眠って過ごした反動で、不眠症にも似た浅い眠りに陥った。体調はまだ、完全に回復して
いなかった。
 そんな中で京子は、悪夢とも思えるような光景を眼にしたのだった。
 真夜中の奇妙な物音に気付いた京子はその音を不審に思い、足音を忍ばせてそっと階段を降りて行った。何かの細いものが鋭く空間を切り裂き、打ち付けるような音は父母のいる寝室から聞こえて来た。
 京子は不吉な事件の予感と共に、息を殺すようにしながら父母の寝室を鍵穴から覗き見た。そして、その時、眼にしたのは京子の想像を絶する異様な父と母の姿だった。



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          takeziisan様

          コメント 有難う御座います
          数々の物語をお読みと思われます
          takeziisan様に そう仰って戴けます事を
          大変 嬉しく思います
          今回は晩秋という 何処か物寂しく
          静かな季節に合った物語をと思い
          多くの人の誰もが多少なりともの経験が
          あるのではないかと思われます
          同級生への初恋にも似た 淡い思いを
          テーマに書いてみました
          お読み戴く方のお心に少しでも
          その思いがお届けできればいいと思うのですが

          ブログ 便利ですがわたしはまた
          一瞬の間に消えてしまう事の恐ろしさの方を
          より心配しています 体 頭脳の元気なうちに
          改めて書物にまとめる機会があればいいが とも
          思っています
          川柳 何篇かに噴き出しました
          今後に御期待しております
          落ち葉の並木いいですね 山茶花と思われます赤   
          黄色はなんの花でしょう
          「ボクの伯父さん」ジャク タチ 
          わたくしの頭の中には喜劇といえば
          チャップリンがありますので 以前この映画を
          観た時 なんとなくその演技にわざとらしさ
          笑いを取ろうとするわざとらしさを感じ取って
          興ざめした記憶がありますが 今改めて
          見直した時に いったいどのように
          反応します事か
          「十三人の刺客」も同様で
          東映映画で観た時には その構成に何か
          まどろっこさを感じて途中で観るのを
          諦めてしまった事があります
          俳優もNHKのものとは多少 違っていたように
          記憶しています
          今回もいろいろ楽しく拝見させて戴きました
          有難う御座います



          hasunohana1966様

         何時も有難う御座います
         今回のブログ とても興味深く
         読ませて戴きました
         会話は常に滑らかでなければ
         なりませんね 相手との感情が
         縺れてしまいます
         日本の英語教育 わたくしは詳しくは   
         知りませんが 会話の出来ない
         英語教育だと言われていますね
         それこそ 会話は文法や知識だけでは  
         成り立ちませんですね 何よりも
         心が大事 頭でっかちは何事に於いても
         いけないようです
         今後もこのテーマに関してお書き戴けるとの事
         心より御期待しております
         有難う御座いました