遺す言葉

つぶやき日記

遺す言葉(448) 小説 いつか来た道 また行く道(8) 他 悟るということ

2023-05-21 13:03:54 | つぶやき
            悟るということ(2021.10.10日作)


 禅に於ける 悟り は ただ
 坐る 坐禅 しただけで
 得られるものではない また
 禅僧の説教を聞き あるいは
 書物による 知識を詰め込んだだけで
 得られるものではない
 日々 日常を生きる 
 悪戦苦闘 七転八倒 その
 苦しみの中から掴み取る 一つの真実 
 その真実を掴み得た時 悟りは 生まれる
 これは こう言う事だ  という実感
 その 実感 が悟りの正体 悟りを得た と
 言う事だ
 悟りは実感 感覚の世界
 知識ではない





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             いつか来た道 また行く道(8)



「七百万出してくれたら、写真は全部あげるよ」
 中沢は軽快に言って、今にも口笛でも吹き出し兼ねない様子だった。
「それにしても、よく、わたしの直通電話番号が分かったわね」
「ぼくにだって生活がかかってるもの。今年の夏、野尻湖近くの別荘へ行った事も知ってるよ」
 わたしは彼の思い掛けない言葉に身体のふるえる思いがした。
 そこまでしていたのか !
「わたしを尾行(つけた)のね」
「そう。いろいろ調べた。大事な宝物を無くしたくなかったから」
 瞬間、わたしは彼に殺意に近い感情さえ覚えて、思わず飛び掛かりたい衝動に駆られた。
 その激情を懸命に抑制するとわたしは、静かな声で言った。
「勿論、ネガもくれるわね」
「勿論」
 彼も同じ言葉を言った。
「でも、残らずくれたって、どうやって証明するの ?」
「それは証文を書くからいいさ。今後、一切、関係ないって」
 わたしは思わず笑い出した。
「まったく、暢気な事を言わないでよ。そんな物を貰ったって、なんの役に立つって言うの  ?」
「ぼくが信用出来ないって言うの ?」
「当たり前でしょう。信用出来る訳がないでしょう。こんな卑怯な事をしておいて」
「大丈夫、嘘だけは言わないから。ただ、ちょっと金が欲しかったんだ」
「クスリ(麻薬)のため ?」
「そう」
「いいわ、七百万円はあげるわ。その代わり、これっ切りよ。後は一切関係ないって約束出来る ?」
「出来るさ」
「電話もしないわね」
「しないよ」
「もう、誰かにこの事を喋っているんじゃないの ?」
「喋ってなんかいないさ。ぼくだってクスリの事が人に知られたら、どうなるか分からないもん。危ない橋なんか渡りたくないよ」
「そう、それならいいわ。だけど、約束だけはちゃんと守ってよ」
「大丈夫だよ、その為の証文なんだから」
「紙屑同然だわよ、そんなもの」
 わたしは吐き捨てるように言った。
「ちゃんと印鑑も押すよ」
 わたしはまた吹き出した。
 このバカ者は捺印さえすれば、それが有効だと思っている。
 その浅はかさは話しにもならなかったが、悪(わる)にかけては抜け目がないのだ 。
「でも、あなたの事だから七百万円がなくなったら、また、出せって言って来るわね」
 その思いはわたし自身、払拭出来なかった。
「それはないよ。心配ないよ。また、別の人を探すから。あんまり一人に拘っているとかえって自分が危なくなるから」
「これまでにも、何人もの人にこんな事をして来たの ?」
「そんな事はないさ」
 わたしは中沢が口にした、危なくなる、という言葉に微かな希望を見る思いがした。
 彼がどのような意味を込めて言ったのかは分からなかったが、その言葉に賭けてみようか、という気になった。
 無論、わたしは警察に相談する事も考えた。
 警察ではわたしの名前を隠してくれるのではないか ?
 中沢栄二との事は根掘り葉掘り聞かれるだろうが、それぐらいなら我慢出来る。
 問題は麻薬だった。わたし自身は係わってはいないが、中沢の麻薬歴が明るみに出れば、わたしもまた、資金提供の一画を担った者としてなんらかの追及を受けるのではないか ?
 麻薬常習犯に金を貢いでいた恋狂いの女性ブテック経営者。
 鵜の目鷹の目でスキャンダルを探し廻っているマスコミはいち早く嗅ぎ付けて、水に落ちた犬を叩くようにわたしを叩くだろう・・・・
 わたしは改めて、ちょっとした気の緩みからの自分がした事の重大さに臍(ほぞ)を嚙む思いを味わった。
 なんて厄介な道に踏み込んでしまったんだろう。
  もし、中沢の背後にいる人間達が暴力団関係者だったら・・・骨の髄までしゃぶられてしまうだろう。
 その思いにはだが、すぐに否定の気持ちが働いた。
 暴力団に訴えるのか、と中沢はわたしに言った。
 と言う事は、中沢自身は暴力団には係わっていない、という事ではないのか ?
 そう納得するとわたしは改めて、彼の人間関係に思いを馳せた。
 当然ながら、麻薬の売人はいるだろう。
 その人間達は写真の事まで知っているのだろうか ?
 そして、<ブラックホース>の店員仲間や経営者は ?
 だが、それらの事は今更ながらに、思い悩んでも始まらない事だった。経営者に話しをして中沢を罰して貰ったとしても、写真を撮られたという事実は決して消し去る事の出来ない真実として存在する。写真が何処かに隠されていれば、なんの意味もない事になる。 
 わたしには諦めに似た気持ちが強かった。取り敢えず、中沢に金を渡して様子を見る。ーー他にに取るべき方法が見付からなかった。頼る人もいなかった。もし、宮本俊介が東京に居てくれたら、あるいは相談も出来たかも知れなかったが、現在、バリに居る宮本俊介は、来年早々に開かれる新作発表に向けての準備で忙しかった。わたしの愚行などに係わっている暇はなかった。それにわたし自身としても、今日まで信頼して来てくれた宮本俊介に、愚かな相談事などを持ち掛けて不興を買うだけの勇気もなかった。
 その他、わたしには菅原綾子が親しい存在だったが、相談相手としての彼女が論外である事は言うを待たなかった。結局わたしは、腹をくくるより仕方がないという思いの中で、もし、彼がまた別の行動に出て来た時には、その時に改めて考えようと覚悟を決めた。

 中沢栄二は七百万の総てを現金で持参するように言った。取引の場所はラブホテルだった。
「まさか、カメラやテープレコーダーが仕込んである訳じゃないでしょうね」




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             takeziisan様
           

              コメント 有難う御座います
             お身体 さして御心配のない御様子 他人事ながらほっと ひと安心という気分です
             何事に於いても人の苦しむ様子を見聞きするのは愉快なものではありません
              コピー どうぞ御自由になさって下さいませ    
             わたくしとしましてもtakeziiブログの美しさと楽しさを満喫している人間が居る
             という事を他の人に知って貰うのになんの不都合もありません
             むしろ№Ⅰを誇るtakeziiブログを眼にする多くの方々に知って貰うのは歓迎です 
             本来ならtakeziiブログ内のコメント欄に書き込むのが本筋なのかも知れませんが 
             余り文が長くなったりして御迷惑をお掛けしてはと思い 
             自身のページの中で書かせて戴いております 
             今回も記事 楽しませて戴きました
             畑の野菜 木々の実 豊かな自然が感じられて羨ましい限りです
             桑の実 ドドメですね 以前にも書いたと思いますが
             田舎のわが家の横に桑畑があり その桑の実 ドドメを
             唇を紫色にしながら食べた事を思い出します
             ジャムは自家製 なんと贅沢な !
              シラサギ 懐かしい鳥です 昔 田圃の中でよく見かけたものでした        
             近年になって故郷へ帰る汽車・・・今では電車ですね
             その電車の中からふと眼にした 田圃の中で餌をついばむシラサギを見て
             思わず「シラサギの ポツンと一羽 八月田」と
             頭に浮かんだ言葉を書き留め このブログ内にも書き込みました           
             八月の稲の青々と生い茂る田圃の中にたたずむ真っ白なシラサギの姿      
             絵になる 何処か懐かしい光景です
              クンシラン シャコバサボテン 植木も手入れが大切ですね
             わが家はほったらかし シャコバサボテンは今年の冬は駄目かも・・・
              何時も楽しいブログ 有難う御座います
             普段 いろいろな事で忙しくしてますので このひと時はホット
             息抜きの時間です
              有難う御座いました

             原爆許すまじ
             初めて知りました
             写真の中の光景 わたくし自身が体験した光景です
             それにしても 今更ながらに人間の愚かさ 進歩の無さを実感する
             今日この頃です


遺す言葉(447) 小説 いつか来た道 また行く道(7) 他 おかしな話しだ

2023-05-14 12:08:08 | つぶやき
          おかしな話だ(2023.5.6日作)



Ⅰ 辞書によれば
  貢献するとは 貢ぎものを捧げる
  あるいは その捧げ物とある
  貢献-ー物事や社会に力を尽くし
  良い結果をもたらす事 そこに
  人 人の心 意志 精神性 の
  感じ取れる行為を指す言葉
  今の世の中 やたらに 貢献
  この言葉を使いたがる
  風が貢献して船が動いた
  雨が貢献して作物が稔った
  風や雨 自然が引き起こす現象
  人の力ではどうする事も出来ない事象
  言わば 物質的 無機質的現象 そこには
  捧げる という意志も 精神性もない ゆえに
  この場合 風や雨の力が寄与して と言うべきところ
  それを今は やたらに 貢献という言葉を使いたがる
  しかも 新聞 放送 その分野で
  一流と思われるマスコミ関係者までもが
  臆面もなく この言葉を使っている
  おかしな話だ

 2 予想ーー結果を心に思い描き推し量る
  想定ーー思い定める 考えを巡らし仮に決める
  この二つの間には明らかな違いがある
  それを今は混同して なんでもかんでも「想定」
  という言葉を使う
  予想 想定 この微妙な違いを理解出来ない人の
  如何に多い事か !
  おかしな話だ

3  今の現状
  現状とは 只今現在 眼の前にある状況
  現在の有り様
 「今の状況」これが正しい使い方
 「今の現状」ーー「馬から落ちて落馬した」
  これと全く同じ言い方
  知識人 いわゆる知識人ー(この言葉のなんと厭な響き)までもが
  平気で「今の現状にかんがみ」などと使っている
  おかしな話だ






          ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 

           いつか来た道 また行く道(7)
          

 

 今日、わたしは事務所の終業時間の六時になると遣りかけの仕事も放り出して帰宅した。
 中沢栄二に会うためだった。
 自宅へ帰ったわたしはシャワーを浴び、化粧を落として髪まで洗った。
 普段のわたしとは別のわたしになる為だった。
 鏡に向かったわたしは、目尻の皺も皮膚のたるみも隠そうとはしなかった。誰が見ても一目でわたしとは気付かないようにする為だった。
 人目を避ける意味でわたしは、夜も遅い午後十一時を中沢と会う時間に指定した。

 若いバーテンダーは中沢栄二にオンザロックを出すと離れて行った。
 彼が再びわたし達の前に来る事はなかった。わたしと中沢との間に流れる不穏な空気を敏感に感じ取っていたらしかった。
 中沢はポケットから煙草の箱を取り出すと一本を抜き取り、わたしに差し出した。
 わたしは黙ったまま小さく首を左右に振った。
 中沢はその煙草を口に咥えるとライターを取り出し、火を付けた。
 吸い込んだ煙りを天井に向かって大きく吐き出した。
 彼もまた、そうして気持ちを静めているのかも知れなかった。
 空いた右手でオンザロックを手元に引き寄せると中沢はわたしに視線を向けて、
「驚いた ?」
 と聞いた。
「なぜ、あんな事をしたの ?」
 わたしは彼に横顔を向けたまま、怒りを抑えた声で静かに言った。
 中沢栄二は悪びれる様子もなかった。
「これも生活の為なんだ」
 と、まるで他人事のように言った。
「これまでも何人もの女(ひと)にこんな事をして来たの ?」
 わたしは言った。
「そんな事はないよ。でも、女の人は気まぐで、何時、心変わりをするか分からないから」
 と、以前と少しも変わらな穏やかな口調で彼は言った。
「誰が撮ったの ? 何処で撮ったの ?」
「それは言えない。言える訳ないでしょう」
「ベッドの様子から大体、見当は付くわ」
「訴えるの ?」
 彼は面白そうにわたしを見て言った。
「訴えるって、何処へ訴えればいいの」
 中沢は思わず笑い出した。
「そうだね。訴える所なんてないものね。でも、警察や弁護士なら秘密にしてくれるかも知れないよ。ホストクラブの店員と寝て、写真を撮られたって言えば」
 わたしは怒りが込み上げた。
 弄ばれているような気がした。
「でも、そんな勇気はないでしょう。それとも暴力団を雇ってぼくを消して貰う ?」
「警察に訴えるぐらいの勇気はあるわよ」
 わたしは 彼の弄びに対抗するように怒りを込めた強い口調で言った。
 中沢はまるでからかうかのように驚いた様子を見せて首をすくめた。
 何時もの優男という印象は何処にもなかった。
 ふてぶてしくさえ見えた。
「じゃあ、やってみる ?」
 彼は言った。
「ええ、やってみるわ」
「面白い。だけど、そんな事をしたら杉本美和の面目は丸潰れだよ。ぼくなんかこんな風だからどうなってもいいけど、マスコミに写真が流れたりしたら今日まで築き上げて来た<ブティック・美和>の総てが台無しになってしまうよ」
 中沢は言った。
「いいわよ。あなたに脅迫されるぐらいなら、よほど、その方が増しよ」
「それならやってもいいよ。ぼくは止めないし、何も言わないから。ただ、写真とネガはいっばいあるんで、ぼくの方としてはマスコミに売り込む事は何時でも出来るんだ」
 わたしは身のふるえる思いがした。
 出来事の根の深さを思わずにはいられなかった。
「ーーその写真、幾らで買えって言うの ?」
 わたしは聞いた。
「別に、買って貰わなくてもいいんだ。今までのようにお小遣いが貰えさえすれば」
  そう言ってから彼は、
「どうして、急に気が変わっちゃったの ?」 
 と聞いた。
「自分の胸に聞けば分かるでしょう」
 わたしは言った。
「ぼくの腕を見たんでしょう。それで、ぼくが怖くなったんでしょう。もしもの事があって、ぼくが警察に捕まったらスキャンダルになると思って、怖くなったんでしょう」
  図星だった。
 わたしには返事の仕様がなかった。
 中沢はわたしが無言でいる事で、自分の言葉がわたしの中で何らかの効果を持ち得た事に満足したかのように、短くなった煙草を口に運ぶとまた天井に向かって煙りを吐き出した。
 わたしはそんな彼の傍に居る事が急に苦痛になって来て、一刻も早くこの場を立ち去りたい思いに捉われた。
「一体、その写真、幾らで買えって言うの ?」
 再びわたしは聞いた。
 彼は途端に興味を見せて乗り気になったようにわたしを見ると、
「一千万円・・・でどう ?」
 と言った。
「バカな事を言わないでよ。そんなお金ある訳ないでしょう」
 腹立たしさと共にわたしは言った。
「<ブテック・美和>の社長にそれぐらいのお金がない訳ないでしょう」
 彼は言った。
「あなたに遣るお金なんかないって事よ」
「じゃあ、写真はどうする ?」
「どうにでもすればいいわ。好きなようにすればいいわよ」
「マスコミに流してもいい ? マスコミは飛び付いて来ると思うけど」
「いいわよ。その代わり、あなたも警察に捕まるわ」
「そんな事は平気さ。ぼくの一生がそれで終わってしまう訳ではないし、それに比べたら美和の社長のダメージは比べ物にならないぐらい大きいから」
 何か楽し気な様子さえ見せて彼は言った。
 それからふと、思い直したように、
「じゃあ、無理を言ってもしょうがないから、七百万という事ではどう ?」
 身を乗り出して言って来た。
 わたしはその中沢を見ながら、独りでいい気になっている、と思った。




             
          ーーーーーーーーーーーーーーーーー



            takeziisan様
           

             有難う御座います
            体調の優れない御様子 検査で異常なし
            いわゆる老化現象・・・ではないのでしょうか
            わたくしも幸い 持病はないのですが 八十歳を超えてからは
            年々、体力の衰えとあちこち なんとはない不調感を意識する事が
            多くなりました
            とにかく体は動かさなければ衰えるばかりだと思って
            動く事を心掛けているのですが その動く事自体が億劫で苦痛になって来ます
            他に食事は勿論 栄養バランスに充分 気を配っていますが
            サプリメントには頼りません それに睡眠にも最近
            注意を払うようになりました 眠れないという事がないので助かります
            どうぞ 御無理をなさらず この楽しいブログをお続け下さいませ
             花々の美しさ 眼の保養です
            以前 早い時期にクンシランが咲いた記事を拝見したと思いますが
            また別の君子ランが ? わが家ではすっかり散りました
             栴檀 以前にも書きましたが田舎の家の門の前に二本立っていた木です
            花や実の生った光景が思い浮かびます 冬には枝先に残った実をついばむ為に
            シギなどが来てうるさく鳴いていたものです
            懐かしく思い出されます
             ボレロ 好きな曲の一つです 同じメロディーを繰り返しながら 
            飽きさせないこの凄さ 感服です
             都都逸 最近 聴く機会がすっかりなくなってしまいましたが
            軽い皮肉とユーモア 川柳に通じる面白さですね
            こういうものの失われてゆく事に寂しさを覚えます
            せめてNHKだけでも大事にしてくれるといいのですが
            最近のNHK番組のつまらなさ やたらにドラマとその宣伝ばっりが多くて
            民間放送と変わりがありません しかも その番組に料金を取る
            腹立たしさを覚えるばかりです ですから ほとんどテレビは観ません 
            見るに値する番組がないのです
             今回も楽しませて戴きました
             有難う御座いました












遺す言葉(446) 小説 いつか来た道 また行く道(6) 他 禅の世界

2023-05-07 13:11:14 | つぶやき
           禅の世界(2023.3.10日作)



 現実は理論では動かない
 禅の世界では
 青山 湖上を走る
 橋が流れて 川が止まる
 と言う
 世の中 すべからく
 現実を見る眼が必要

   ーーーーーーー

 柳は緑 花は紅 
 山は高く 川の 流れは長い
 この根本は いつの世も
 常に変わらない それを
 どう見るか どのように
 心に捉え 刻むか
 それにより
 柳は緑 花は紅
 山は高く 川の流れは長い
 この世界が 深くも 浅くも
 なって来る
 世の中 この世界の真実は常に
 一定 不変 それを見る
 人の心によって 世界は
 動く 変わって来る




          ーーーーーーーーーーーーーーーー




            いつか来た道 また行く道(6)



 封書には中沢とだけ署名があった。
 名前も住所も書かれていなかった。
 わたしはこの封書が中沢栄二からのものだとすぐに察知すると、彼への激しい憎悪に捉われながら乱暴に封を切った。
 中から出て来たものを眼にしてわたしは気を失い兼ねない程の驚きに捉われた。
 おびただしい枚数の写真の数々だった。
 そのどれもがわたしと中沢がベッドの上で絡み合っている裸の写真だった。
 中にはわたしの顔がまともに写し出されているものもあった。
 わたしは思わず手の中でその写真を破り捨てていた。
 次から次へとわたしは手の中の写真を破り捨てていった。
 これらの写真の撮られたホテルは大体が想像出来た。
 どのように撮られたのかはまったく思い描けなかった。
 何処かに盗写用のカメラが据えられていたに違いない。
 でも、何時仕掛けたのだろう ?
 あるいは、ホテル自体がそういうホテルだったのだろうか ?
 何枚かも分からない写真の数々はわたしの手の中で、それが写真だという形体さえ分からない程に細かく切り裂かれた。
 わたしはそれらを足元の屑籠に投げ入れると、最後に残った手紙を手に取った。
 そこには小学生が書いたのかとも思われるような乱暴な文字が書かれていた。
< 二人の記念の写真を送ります。もし、ぼくに会えないのなら、この写真を買ってください。まだ、ほかにもいろいろあるので、くわしい事は会ってくれれば話します >
 翌日、早速、中沢から電話があった。
「写真、見てくれた ?」
「あなた、ずいぶん卑怯な人ね」
 わたしは怒りを抑えた声で静かに言った。
 中沢は電話の向こうで静かに笑った。
 ほくそ笑んでいるかのようだった。
 わたしは新宿歌舞伎町のコマ劇場裏にあるバー <ダイヤル・M>で会う約束をした。

 わたしが記憶している<ダイヤル・M>は、十人程が座るといっぱいになるカウンターと四つの椅子席があった。
 まだお金がなかった頃によく足を運んだ店だった。
 十数年ぶりで入った店はすっかり変わっていた。
 馬蹄形をしたカウンターが店内の全部を占めていた。
 若者の姿が多かった。
 わたしは人目に付かない事を願って右隅の一つの椅子に座を占めた。
 中沢栄二は午後十一時の約束の時間かっきりに入口の扉を開けて入って来た。
 店内は客の姿がまばらになっていた。
 中沢はすぐにわたしの姿を見付けると、アアーッ、という顔をして微笑みを浮かべた。
 わたしはカウンターの奥の壁一面をおおった鏡の中で彼を見ていた。
 彼はわたしがまだ、気付かないと思ったらしかった。すぐにわたしの背後に来て、如何にも親し気な様子でわたしの肩に手を置いて、
「こんばんわ」
 と言った。
 わたしはブランデーの入ったグラスを両手でつつんでカウンターに肘を付き、顔だけ彼に向けた。
「こんばんわ」
 わたしは言った。
 感情のない声だった。 
 わたしに取っては、戦闘開始の合図のようなものだった。
 中沢はすぐにスツールを引いて隣りの席に腰を降ろした。
「ばかに地味造りだったから、違う人かと思った」
 腰を落ち着けた安堵感の混じったような皮肉めいた口調で彼は言った。
 わたしは彼の言葉には答えず、両手に包んだブランデーのグラスを口元に運んだ。
 二十代後半と思われるバーテンダーがすぐに中沢の前に来た。
「ウイスキー、ロックで」
 中沢は愛想よく言った。
 わたしはそんな彼とは関係がないかのように、カウンターの奥に並んだ様々なボトルやグラスを映している鏡の中を見詰めていた。
 その鏡の中に映るわたしは、まるでわたしとは関係のない赤の他人のように見えた。
 化粧を落とし、イヤリングを外して、首まで埋まる朽ち葉色のセーターをざっくり着こんだ中年女、それを見詰めているわたしーー。
 二人の女がそこに居た。どちらも自分であり、自分ではないかのようだった。
 真実のわたしは何処に? 
 わたしが何時も鏡の中に見詰めるのはブティック経営者としての杉本美和だった。
 身だしなみの見事な魅力に満ちた女性だった。
 やや細めの顎、引き締まった両の頬、豊かな眼、そして細い鼻筋、華やいだ化粧が何時も一際くっきりと、その個性を浮き立たせていた。
 ともすれば他人にはそんなわたしが冷たく見えて、近づき難い印象を与えていた。
 それに加えて、わたしの強い性格がなおさらに、人々を遠ざけるような効果をもたらしているように思えた。




          ーーーーーーーーーーーーーーー




          桂連様


           お身体不調の中 退屈な文章にお眼をお通し戴き御礼申し上げます
          今回 新作が見えなかったので過去にも拝見しました作品を拝見しました
          わたくし自身 今回 禅に付いての文をまとめて見ましたものですからーー
           他人の悟り 
          悟りは人によって異なる
          花は何一つ同じ花はない
          まさしく禅の世界です
          いい御文章でした
          良い文章というものは何度読み直しても飽きる事がなく
          読む度ごとに心に触れてくるものです
          どうぞ お身体全快の折りにはまた このような御文章をお寄せ下さいませ
           お身体の具合いは如何ですか
          くれぐれも御無理をなさらぬようにして下さい
          有難う御座いました


           
          takeziisan様


           今週も楽しませて戴きました
          珍しい花々 野の花々の世界の奥の深さ 驚くばかりです
          この豊かな世界 大切にしたいものです
          小判草 一見 イモムシ 気味悪いようでもあり金色の小判のようでもあり
          面白く拝見しました
          初めて知る花です
           きぬさや 新鮮 雑草 でも よく見ればどれも花はきれい
          捨てたものではないですね  ただ 農作業には大敵
          畑地で汗だく 近所の井戸水・・・なんだか 子供の頃の田舎の情景が蘇って来ます
          懐かしい風景です
           茶摘みの景色 懐かしい景色 あの作業着 センスがいいですよね     
          美しい景色です それも最早 懐かしの景色 今は機械が一気に・・・
           川柳 ゴミ屋敷・・・ わが家
              八十すぎて ノーサンキュ・・・ このあいだ 用事で電車に乗り
              行きと帰り 二度 席を譲られました
              行きは丁重にお礼を言い なんとか断りましたが
              帰りは混雑の中で断りきれず 座る羽目に・・
              譲られながらなんだかプライドが傷付けられたようで
              複雑な気分でした
              もう二度と混雑した電車には乗りたくないと思った次第です
          トビ 房州へ旅行した折り 旅館の窓から見た夕闇の中 
          しきりに海の上を飛びまわるトビの群れを見た事が強く印象に残っています
          夕闇が濃くなるにつれ 一羽また一羽と近くの森の中へ姿を消してゆき
          やがて一羽も見えなくなった海の上の光景が鮮やかに眼に残っています
          こんな何でもない光景が実は なんとも言えない美しさを持っているのですね         
           和製プレスリー小坂一也 ステージで見ましたが
          プレスリーの迫力には今ひとつ なんだこんなものか と              
          思った記憶があります
           今回もいろいろ楽しませて戴きました
           有難う御座いました