遺す言葉

つぶやき日記

遺す言葉(445) 小説 いつか来た道 また行く道(5) 他 名声 地位ほか三篇

2023-04-30 11:46:26 | つぶやき
          名声 地位 他三篇(2023.4.22日作)


 名前や名声 地位に惑わされるな
 この世界 世の中には
 眼には見えない場所 葉隠れで
 それ以上の仕事をしている人は
 数多くいる
 石垣の石は堅固 質実 充実していても
 個々の存在として 人の眼に触れる事は少ない
 突出した場所 その位置に建つ城だけが
 人の眼に触れる 脚光を浴び 尊ばれる その城は
 石垣が無ければ存在しない

 リーダーとは
 人の話しを「耳」で聞き
 「口」で人に伝える「王」である
 人の話しを耳で聞き
 口で人に伝える「王」とは
「聖」の人である
 リーダーとは
 その「聖」の人
 聖人であるべき存在

 突出した存在は
 並みの存在に取っては 常に 異質な 
 居心地の悪い存在に思える
 突出した存在が
 善の存在か 悪の存在か
 突出した存在自身の問題
 善の存在であれば 尊敬 崇拝の的となり
 悪の存在であれば 忌み嫌われ
 嫌悪の的と なる

 理論より
 現実をしっかり把握する その眼を
 持つ事
 現実は常に動いている





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           いつか来た道 また行く道(5)




「だって、準備なんて何もしてないじゃない」
 彼は言った。
 口調は穏やかだった。
 わたしを脅迫しているようには思えなかった。
 それでもわたしの心は息苦しい程の圧迫感で押し潰されそうになっていた。
「しているわよ ! 誰がそんな事を言ったの ?」
 わたしは思わず喧嘩腰の口調になって強く言っていた。
「誰も言わないよ。でも、分かってるんだ」
 彼は何か、楽し気な気配を漂わせた口調で嬉しそうに言った。
「いったい、何を言うの、あなたは 。変な事を言わないでよ !」
 わたしはますます喧嘩腰の口調になって言っていた。
「じゃあ、今晩会って、どんな準備をしているか教えてよ」
 彼の口調は依然として穏やかで、この会話を楽しんでいるのようにさえ思えた。
 わたしはそんな彼を意識するとなぜか自分自身も奇妙に冷静になっていて、
「なぜ、あなたにそんな事まで教えなければならないの」
 と、冷たく突き放すようにして静かに言った。
「パリやニューヨークへ行くなんて嘘だからさ」
 彼はそんなわたしの冷やかさを意識したのか、これまでとは違った冷徹な口調で静かに言った。
「嘘じゃないわよ !」
 わたしはこの時、彼はすでに事情を知っている、と思った。すると彼は、
「ぼくの腕の注射の跡を見たんでしょう。それでぼくが怖くなったんでしょう」
 と言った。
 ふと、わしは何故か、自分が追い詰められたような感覚を抱いた。
 彼の言葉は明確に、わたしが彼の腕に見た注射の跡に気付いている事を彼が知っている事実を告げているように思えた。
 わたしは逃げ場のないという思いと共に、
「何を言っているの、あなたは」
 とだけしか言う事が出来なかった。
「クスリ(麻薬)を使っているぼくが怖くなったんでしょう」
 彼は言った。
 その声は静かだった。
「電話を切るわよ」
 わたしは言った。
 ただ、彼との関わり合いを断ち切りたい思いのみが激しくなっていた。
 わたしは彼の返事も待たずにそのまま電話を切った。
 息苦しい程に動悸が速くなっていた。
 わたしは電話を戻した手を机の上に置いたまま、空白になった頭でしばらくは何も考えられにずいた。
 どれだけの時間が過ぎていたのかも分からなかった。
 ようやく我を取り戻した時に最初に浮かんだのは、麻薬常習者の彼、という存在だった。中沢栄二。
 拭い難くわたしの存在の中に関りを持って来ている。
 払拭したくても今更に払拭出来ない事実だった。
 わたしに取っての一番の恐怖は、これ以降、中沢栄二がどのような行動に出て来るか、という点だった。判断も予測も出来なかった。
 最早、彼とは完全に手を切ってしまいたかった。それにはどうすればいいのだろう ?
 何よりもわたしには、麻薬常習者との関りを持つ女として世間に知られてしまう事が一番の恐怖だった。この事実だけは、どんな事があっても隠しておきたかった。それでなければ今日まで営々と築いて来た努力の跡が一瞬の間に灰燼に帰してしまう。
 少しの後の冷静になったわたしの頭に最初に浮かんだ思いは、金で総てを解決する方法だった。
 彼に望むだけの金額を与えて口を封じる。
 しかし、この方法にはすぐに疑問符が浮んで来た。
 彼が一度の現金手渡しで引き下がるとは思えなかった。いい餌食を見付けた肉食動物のようにしつこく何度も何度も後を追いかけて来るだろう。その間に二人の交際が目敏い週刊誌などの記者に知られてしまわないとも限らない。
 では、どうする ?
  他に方法はあるのか ?
 わたしの思いはそこでまた、ゆき場を失った。
 ほとんど絶望感に捉われたわたしは、取り敢えず、これ以降の中沢の出方をみてみるより仕方がない、という思いに総てを託して待つ心算になった。
 わたしは中沢からの電話は必ず、またあるものと読んでいた。
 翌日、二日と過ぎても電話はなかった。
 それでもわたしは、彼がこのまま大人しく引き下がるとは思っていなかった。
 だが、彼からの電話は四日が過ぎてもなかった。
 わたしの心では彼が何を企んでいるのだろう、という漠とした不安が拭い切れなかった。
 そして事実、五日目に彼からの分厚い封書が届いた。

   


            ーーーーーーーーーーーーーーーー




            takeziisan様


             有難う御座います
            アメイジンググレイス 好い曲ですね
            わたくしは神などまったく信じないのですが この曲を聞くと
            何故か神の恩寵というイメージが湧いて来ます 黒人ーこの言葉は嫌いなんですがー霊歌 
            アフリカ系アメリカ人の魂の叫びが伝わって来るような気がするのです いい歌です
             グレイダ―マン いろいろありますね 流行りました
             懐かしの曲という感じです
              様々な花々 林の中の木道 好い景色です 心が洗われます
             花の盛り 花の命は短くて
             わが家のクンシラン 今年も遅ればせながら咲いてくれましたが
             そろそろ終わりです 散り始めています
             ハゴロモジャスミンも茶色が混じって来て季節の終わりを漂わせています
              休日 終日家にいる事の多い身には土曜 日曜  
             休日の区別が付きません 昨日土曜 新聞夕刊が来ないので電話をしたら
             今日は旗日で夕刊はお休みです 販売所の答えでした
             ああ 今日は休日 ?
             そうです 販売所の人は笑っていました
             困ったものです
               何時も美しい風景の数々 有難う御座います
             楽しませて貰っております





            桂連様

      
             有難う御座います
            いろいろ大変な御様子 お大事にして下さいませ
            アインシュタインの理論はわたくしにはよく分かりませんが
            人に取っての時間は確かに相対的なものですね
            一日二十四時間は絶対的なものですが 人によってその場によって
            人が感じ取る時間はそれぞれ異なります
            新作 興味深く拝見しました
             何時もの事ですが冒頭のお写真 美しいです
            住環境の良さが想像されます
             朝八時の面談 ? 早いですね いつも何時にお起きに
            なっているのか分かりませんが パートナーの方としても大変では・・・・
            突然にこのような症状が現れたのでしょうか     
            いずれにしても一日も早い御快復を願っております
            実際 何処かが悪いと普段している事も億劫になって来ますから
            くれぐれも御無理をなさらぬよう お気を付け下さいませ     
             何かと多忙 多難の中 いつも有難う御座います





遺す言葉(444) 小説 いつか来た道 また行く道(4) 他 働く

2023-04-23 13:29:07 | つぶやき
               働く(2022.2.23日作) 


 働くという事は
 人が動くという
 休むという事は
 人の動きを止める事
 人は働き その結果
 世界に 国に 社会に
 何かの恩恵をもたらす
 人が休み 動きを止める事は
 自身の安息 安らぎは得られても
 産み出せるものは少ない
 自然に生きる自然の中の木々 樹木は
 動かず 休んでいるように見えても
 人の眼には見えない所で 動き
 働いている 自然の中の木々は
 怠惰をむさぼっている訳ではない
 週休三日 今 この話しが
 話題に上っている
 人が心の潤い 安らぎを求めて休む
 休息を取り 休む しばしの間 
 動きを止める 必要な事だ
 過重労働 働き過ぎ 
 百害あって一利無し 労働後の休息
 絶対的条件 必要不可欠 だが
 休息が人の 人類の 究極目的 で あってはならない
 もし そうであるなら 
 次の人の世に訪れるものは 人類の 人の世の
 進歩の停滞 世界の衰退 それだけだ
 働き 何かを産み出し 人は
 この世界を創って来た その活動を止めてしまえば
 人の世の末は分かっている 眼に見える
 働く 働く事は尊い事 適度の休息 休養 必要な事
 その中で 今 人に取って 真 に必要な物は 何か
 考える
 考える事は 人間 人に与えられた特権
 考えない事は人間廃業 
 週休三日 労働時間短縮 休養 休息
 真に今 何が必要なのか ?
 最良のバランス その均衡を考慮すべし 




          

            いつか来た道 また行く道(4)


 
 
 その間わたしは、犯罪者に狙われでもしたかのように落ち着かない日々を過ごしていた。
 日常生活の何気ない折りにふと浮かんで来るのは、中沢栄二の腕の黒いシミの事で、それがわたしを脅かした。ーー麻薬常習者としての中沢。
 彼との関係を持ったわたしは、思いも掛けない泥沼に引きずり込まれるのではないか・・・。
 自分のどん底に落ちてゆく姿を想像するとわたしは耐えられなくなって、このまま、何もしないでいていいんだろうか、と思い悩んだ。
 無論、わたしの方から中沢に電話をする気はなかったが、彼の方から掛けて来るのではないか ?
 番号は教えてはいないものの、<ブティック 美和>の電話を調べればすぐに分かる事だった。
 彼が電話をして来る前に何か、手を打った方がいいのではないか ?
 わたしは思い悩んだ末に、一時的にでも彼との関係を断ち切っておきたくて心を決め電話をした。
「中沢君 ? わたしだけど」
「ああ・・・・、なんですか ?」
 何時もなら、「ああ、こんにちわ」と答えるのだったが、その時の中沢は敏感に何時もと違うわたしの声を感じ取っていたらしかった。
 わたし自身もその事には咄嗟に気付いて、それでも構わず言っていた。
「これから、しばらくの間、会えなくなると思うの。急な用事が出来てしまって」
「急な用事  ?・・・・」
 彼は言った。
「ええ、御免なさい」
「何処かへ行くの ?」
「うん、ちょっと遠出で、外国へ行かなければならないの」
「外国 ? 何処ですか」
「お店の仕事でパリやニューヨークへ行かなければならないの」 
「パリやニューヨーク ? いいなあ、それで長くかかるんですか」
「ええ、ちょっと期間は分からないんだけど、でも、帰って来たらまた電話をするわ」
「うん。それまで待ってます。でも、行く前に一度、今日か明日にでも会えないんですか」
 何時ものような口調で彼は言った。
 だが、彼のその言葉を聞いた時、何故かわたしは途端に感情的になっていた。  
「無理よ !」
 と、思わず彼を拒否するような攻撃的な口調で言っていた。と、同時に私はすぐに自分のその強い口調に気付いて、中沢に何かを感じ取られはしなかったかと思いながら、
「無理よ。これから急いで準備をしなければならない事がいっぱいあって忙しいんだから」
 と、笑顔を交えた口調で静かに言った。
「そうか。でも、ちょっと、つまんないなあ。ーー帰って来たらまた電話してくれる ?」
 彼は聞き分けのいい子供のように言った。

 電話を切った後もわたしの気持ちは落ち着かなかった。
 すぐに頭に浮かんだのは菅原綾子の存在だった。
 頻繁に< ブラックホース >へ足を運んでいるらしい彼女の口から、わたしの動静が漏れてしまうのではないか ?
 菅原綾子が中沢栄二とどれぐらい深い関係にあるのかは知る由もなかっが、それ程、深い関係ではない事だけは確かだった。
 いずれにしても、今更、心配しても始まらない・・・・。わたしは思った。運を天に任せるより仕方がない。

 中沢栄二に電話をしてから一週間、そして二週間と過ぎた。その間、彼からの電話はなかった。
 わたしは、このまま彼がわたしを忘れてくれればいい、と祈るような気持ちで日々を過ごしていた。
 彼に新しい客が出来て、そちらに気を取られるようになれば、それもあり得ない事ではないと、儚い望みを託した。
 実際には、わたしが心配するように中沢栄二が麻薬の常習者であるのかどうかは、まだ分かってはいなかった。彼の口からそれを確かめた訳でもなかったし、ただ単に、彼の左の腕に薄黒く注射の跡らしきもの見た、という事だけが総てだった。
 しかし、今のわたしに取ってはそれらの事柄はどうでもいい事であった。わたしの心の中では小さく生まれた不安と共に、中沢栄二に対する興味は既に薄いものになっていた。
 バカな事をしていないで仕事に励もう。
 危険な場所からの逃避感覚が働いた。
 少しでも怪しい匂いのするものからは遠ざかっていなければいけない。
 わたしにはまだ、未来へ向けての大きな夢があった。海外へ向けての夢だった。
 パリやニューヨーク、ロンドン、ミラノ、海外の一流都市に自分の店を展開する夢だった。
 その為には現在、わたしのたった一人の助言者であり、協力者でもある宮本俊介が力を貸してくれるはずだった。
 今、わたしの店では宮本俊介はブランド物として、一番の人気銘柄になっていた。
 わたしが自分の店舗で力を入れた結果が、東京での彼の人を築く基になっていた。
 宮本俊介もそれは知っていて、やがては東京に自分のブランドの基盤となる店を開きたいと思うので、何処か、良い場所があったら確保して置いてくれないか、とも言って来ていた。
 わたしは彼の言葉を受けて知り合いの不動産会社へも声を掛けていた。
 そんな現在のわたしに取っては中沢栄二は、一点の曇りもない青空に浮かんだ黒雲のように唯一の鬱陶しい存在になっていた。
 
 中沢栄二への最後の電話をしてから丁度、二十日が過ぎていた。
 わたしは事務所に居て何時ものように鳴る電話を手に取った。
「もしもし、ブテック・美和 で御座います」
「ああ、良かった。おれ、中沢」
 中沢栄二はこれまでと少しも変わらない口調で穏やかに少し嬉し気な気配を滲ませ、電話口の向こうで言った。
 わたしは思わず息を呑んだ。
 体中が緊張感で強張った。
 すぐには声が出せなかった。
「まだ居るかどうか心配だったんだけど、居てくれて良かった。元気 ? 変わりない ?」
「ええ、元気よ」
 わたしはようやくそれだけを言った。。
「もう、パリやニューヨークへは行って来たの ?」
 彼の声は変わらなかった。
「あら、まだ行ってないわよ !」
 わたしは彼の言葉を突き返すように強い口調で言った。
「まだ、準備しているの ?」
 彼の口調は変わらなかった。
「ええ、そうよ」
 わたしは彼の何時もと変わらない声の調子に自分を取り戻して、極めて感情を抑えた声で静かに言った。
「でも、パリへ行くなんて嘘でしょう」
 中沢栄二はずばりと言って来た。
「あらッ、嘘なんかじゃないわよ。なぜ ?」 
 わたしの口調はまたしても彼を押え付けるかのような強い調子になっていた。
 中沢は勘付いて いる !
 わたしは咄嗟に、自分が逃れ道のない窮した場面に追い込まれている事を自覚した。





           ーーーーーーーーーーーーーーーー




           桂連様

            お身体の御様子 大分 良くないようで人様の事ながら ちっょと心配です
           どうぞ無理をなさらぬように
           日常生活にも不便をきたすとの事 バレーの記事を拝見していた当時の
           溌溂とした御様子を思いますと 他人事(ひとごと)ながら心が痛みます
            秋ごろに手術 なぜそんな先に・・・・ もっと早くできないのでしょうか ?
            日常が変わってしまった――理解出来ます
           バレーでの熱心さのあまりの無理がたたったのでは ?
           いずれにしても一日も早く 再び お元気で溌溂としたバレーの御様子を
           このブログで拝見出来る日を楽しみにしております
            季節は美しい花の季節 庭に花が咲いても心の中は
           冬景色
           人生の失われてしまった思い理解出来ます
            どえぞ お大事になさって下さいませ
           有難う御座いました



             takeziisan様


              有難う御座います
              美しい花の季節 まさに春爛漫 御文章の中にもありましたが
             移り逝く時の速さ 確かに歳と共に速さを増します
             人生 子供の頃 少年期は上り坂 憧れの頂上にはなかなか手が届かない
             時間が遅く感じられる
             その人生の頂上 絶頂期 中年時代 夢中で働き生きる
             時を感じている暇もない
             しかし 老年期 下り坂 下りの道は背中を押されなくても
             下って行く 
             眼前に見えているものは衰退 未来は次第に狭くなってゆく
             好む時間はアッと過ぎ 嫌な時間はなかなか過ぎない
             好悪 居る場所 状況次第で時間は変わる
             老年期 衰えて逝く自身を少しでも先に延ばしたい
             延ばしたい時間は瞬く間に迫って来る
             人に取っての一時間 時間はけっして同じ速さでは進まない
             人間の感覚の中で時間は過ぎて逝く
              美しい花の数々 雉の姿 雉は伊豆旅行に行った時
             走る車の眼の前を歩いて繁みの中に消えて行きました
             運転していた者と前の座席に座っていた者が眼にして
             アッ 雉が歩いてる と言った時には既に運転手の後ろにいたわたくしには
             見る事が出来ませんでした ちょっと残念に思ったものでした
              白い花の咲く頃 以前にも書きましたが 最初に聞いたラジオ歌謡謡です
             懐かしく思い出します
              野菜植え付け 収穫の喜びはあれど その前の準備 苦労も大変
             人生 楽をしていて手に入る物はないようです
              腰 痛ッ 痛ッ 理解実感出来ます
             どうぞ 御無理をなさらぬように
             美しい花 写真の数々 堪能させて戴きました
              有難う御座いました



              

遺す言葉(443) 小説 いつか来た道 また行く道(3) 他 神とは

2023-04-16 11:58:03 | つぶやき
            神とは(2022.4.16日作)


 神とは
 人それぞれの中に
 自ずと生まれ
 眼には見えないが
 人の心が 育むもの
 説教などで 押し付けられる
 神など 神ではない
 全知全能 そんな神など
 存在しない
 道端の 一つの石
 田圃の畦道 そこに立つ
 一本の柳の木 
 神は そこにも宿る 存在する
 ましてや 神の存在に
 金銀 財宝など
 必要ない
 神に 必要なもの
 人の心 信じる心
 自身の心が生み出す神
 自身の心を託す事の出来る 物 
 その存在こそが 真の神
 真実の神





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           いつか来た道 また行く道(3)



 わたしは彼を店から連れ出す時に使った金に加えて、更に店で使っていた分に近い金額をも彼に渡した。
 一晩で二十万に近い金が使われた。
 彼が店に出る前に連絡しさえすればよかった。
 何時でも好きな時に会えた。
 彼はそれでもわたしの生活に侵入して来る事はなかった。
 わたしが仕事で忙しい昼の時間帯に夜の仕事の彼は、マンションの自分の部屋で眠っていた。
 わたしに取っては、そんな二人の生活環境はこれ以上にない組み合わせのように思えた。その上、彼はわたしの仕事に関してもまるで関心がないかのように尋ねる事もなかった。
 無論、彼もわたしが幾つものブテックを経営している事は知っていた。
 それでいて彼が、そんなわたしの生活環境に踏み込んで来る気配さえ見せない事にわたしは、彼の職業意識の高さを見る思いがして、一層の好感情を抱いた。
「どうしたの、それ ?」
 初めて会った夜から中沢の左腕には、白いサポーターが巻かれていた。何度、夜を重ねてもそのサポーターの外される事がなくてわたしは、幾分、気持ちも打ち解けて来た頃に、如何にも不自由そうにシャワーを使っている彼に聞いた。
「ああ、これ ? 子供の頃に傷めた関節のずれが慢性化しちゃってサポーターが外せないんだ」
 彼はわたしの顔に視線を返してから、顔色一つ変えずに言った。
「シャワーを使う時ぐらい外せないの ?」
「取ると関節がずれちゃって力が入らないんだよ」
 彼に取っては既にそれが当たり前の事で、気にもしていないかのよう言った。
 そのサポーターが、注射の跡を隠す為のものだと分かったのは偶然からだった。
 外で会うようになってから五カ月近くが過ぎていた。
 その夜の中沢は珍しく無防備だった。少し、深酒をしたせいかも知れなかった。
 それとも、何度も同じような夜を過ごした馴れによる、気の緩みがあったのか ?
 ベッドの上の乱れた上掛けから彼の裸の上半身がのぞいていた。
 これまでにも、同じような事は何度かあったが、左腕のサポーターがずれているのは初めて眼にする光景だった。
 サポーターの下には更に、白い包帯が巻かれていた。
 それも僅かに緩んでずれていた。
 注射の跡は始め、枕元の暗い灯りの中で黒いシミのように、僅かにわたしの眼に映っただけだった。
 それでもわたしはその時、何故か不穏なものを感じ取って、おやッ、と思っていた。
 わたしには麻薬の知識はなかった。
 注射の跡さえ見た事がなかった。
 それでいながらわたしはその時、何故か咄嗟に、不穏なものを感じ取っていた。
 おそらく、わたしの防衛本能の為させる業に違いなかった。
 わたしの胸は早鐘のように打った。
 わたしはその時既に、それが麻薬注射の跡だという事を全く疑っていなかった。
 週刊誌か何かで麻薬に関する記事は何度か読んでいて、そういうものか、というぐらいの知識は持っていた。
 どうしよう、どうしよう、わたしはわたしの気配にも気付かずぐっすりと眠り込んでいる中沢の傍らでただ、おろおろするばかりだった。
 そのうち、中沢がわたしの気配に気付いたかのように、突然、身体を動かして寝返りを打った。
 わたしは慌てて、片肘をついて中沢の顔を覗き込んでいた姿勢からベッドに身を戻し、眠ったふりをした。
 中沢は眼を覚ました訳ではなかった。
 再び、深い眠りの吐息を吐き出した。
 その夜、わたしはそれ以上、眠る事が出来なかった。
 じりじりとする長い時間だった。
 翌朝、中沢が眼を覚ましたのは五時頃だった。
 わたしは彼の目覚めに気付くと眠ったふりをしたまま、様子を窺うために少し体の向きを変えた。
 彼はわたしのそんな動きを気にする様子はなかった。そしてすぐに彼は、自分の腕のサポーターのずれている事に気付いて瞬間、息を呑む気配を見せた。
 慌てたように彼はわたしに視線を向けるとずれているサポーターを引きずり上げた。
 枕元の暗い灯りがそんな彼の一部始終をわたしの眼に投じさせていたが、薄眼を開けてまつ毛の間から彼の動作を見守っていたわたしの視線には、彼は気付かなかった。
 わたしの動かない様子を見ると彼は安心したようにベッドを下りて急いだ様子でシャワー室へ向かった。
 戻って来た時には、左腕の白いサポーターはきっちりと元の位置に戻されていた。黒いシミの跡は隠されていた。
 わたし達は何時もと同じように夜明け前にホテルを出た。
 何時もと同じように別れた。
 わたしはだが、自分が居るマンションへ向かうタクシーの中で、何時ものような幸福感に酔う事が出来なかった。
 突然に変わった局面が黒い感覚を伴って重苦しくわたしの心にのしかかって来た。
 これからわたしはどうしたらいいんだろう ?
 中沢栄二とは二度と会いたくなかった。
 出来れば彼の存在を過去をも含めて、わたしの世界から抹殺してしまいたかった。
 麻薬常習者の彼・・・・?
 そんな男と付き合っていたら、わたし自身がどうなってしまうか分からない。
 わたしは、わたしの身に黒い噂が立つ事はどうしても避けなければならなかった。
  たとえ、彼の麻薬が遊び半分のものであったにしてもだ !
 高校卒業以来、一人で東京へ出て来てようやく手にした現在のわたしの地位だった。< 女性経営者会議 >の会員にもなれて、経営者としてもようやく世間に認められるようになっていた。
 そんなわたしの現在を、危険に陥れるような事は絶対にしてはならない のだ!
 世間から後ろ指を差されるような麻薬常習者との関係など、断ち切ってしまわなければならない ・・・・。 
 それには、どうすればいいんだろう ?
 中沢栄二との関係は最初は<ブラックホース>という得体の知れない店を通しての客と店員との関係だった。しかし、今度の場合、それで済まされるか、という事だった。
 そこに愛情関係はないにしても、既に二人だけの密約の世界が築かれていた。事柄はそれ程、単純に済まされるようなものではなかった。
 取り敢えずは、中沢栄二への電話は控えなければならないが、それで彼が納得するだろうか ?
 麻薬常習者の彼が金欲しさから付きまとって来る事はないか ?
 わたしは自分の眼の前が全くの暗黒に覆われている事を自覚せずにはいられなかった。

 わたしが気持ちを取り直して、中沢栄二に電話をしたのは二週間程が過ぎてからだった。







              ーーーーーーーーーーーーーーー



             桂連様

              苦痛の中 よくブログを載せられました
             意識をそらす 何事もあまり拘ると事態を悪化させるようです 
             御文章に納得です
               バレーも退屈な人生の中での一つの楽しみかも知れませんが  
             趣味として楽しんで 余りのめり込まないようにして下さい
             身体を悪くしてしまっては 元も子もありません
             でも 楽しい趣味はやっぱりそれに携わっていないと
             日々の生活が物足りない よく分かります
             一日も早く お元気な御報告の御文章の拝見出来る日を楽しみにしております
              有難う御座いました
             くれぐれも御大事に・・・・

    


               takeziisan様

                今回も様々な花の様子 堪能させて戴きました
               正に春爛漫 でも この良い季節もあっという間に過ぎて逝きます
               人生と同じですね
                ネギ畑の雑草 なんと無遠慮な輩 御苦労が想像出来ます
               二時間で限界 理解 実感出来ます
               ネギボウズが食べられる 新鮮な驚き でも考えてみれば
               当たり前の事かとも
               一度食してみます
                カロライナジャスミン わが家ではハゴロモジャスミンが今 満開です
                強烈な甘い香りが何処に居ても漂って来ます
               秋の金木犀と共に至福の時を与えてくれる香りです
               それでも ジャスミン 余りに強烈過ぎて頭が痛くなるような感覚にも捉われます
                伸脚 屈伸・・・分かる 分かる でも日頃の散歩歩数は・・・
               見事なものです 数日前 新聞に一日 七千歩だったか      
               歩く人は長生き出来るというような記事がありました
               ふと takeziisn様の姿が脳裡に浮かびました
               どうぞ御元気でこれからも続けて下さい
                アルハンブラの思い出 好い曲ですね    
               十指に入る好きな曲の一つです
                ふるさとのはなをしよう 
               当時を思い出します わたくしもこのごろしきりに故郷の事
               若き日々の事を懐かしく回想するようになりました
               既に先の限られた人生 そうしてもう一度
               あの頃の日々を生きているのかも知れません
                どうぞ これからも美しいブログが何時までも続きますよう
               御健康でいて下さい
                有難う御座いました

遺す言葉(442) 小説 いつか来た道 また行く道(2) 他 弱気になるな

2023-04-09 11:57:24 | つぶやき
             弱気になるな(2023.2.9日作)


 弱気になるな
 弱気の心は何も もたらさない
 強気になれ やれば出来る
 出来るまでやる 食らい付く
 食らい付き 出来るまでやって
 出来なくても 悔いることはない
 人の一生は短い
 強気で闘い 闘う その間に
 時は過ぎ逝き 人生は終わるだろう
 人は終わりが総て 何も成し遂げられなかった
 でも 最後まで食らい付き やり遂げた
 満足感 自身の心を生きた満足感は 死
 総てのものを奪い去る その死を目前
 眼の前にしても 消える事はない
 精一杯生きた 自身の心を生きた
 毀誉褒貶 名誉名声 与り知らぬ事
 死の恐怖 消えゆく命の終わりの前では
 毀誉褒貶 名誉名声 無意味なもの 無力なもの
 自身を生きた 自分の心を生きた 精一杯生きた
 その充足感 満足感のみが 消えゆく命
 死の恐怖 命の絶望 その前で
 自身の心を慰め 癒してくれるだろう
 弱気になるな 強気になれ
 強気の心で悔いない人生
 その生涯を終えるのだ




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           いつか来た道 また行く道(2)




 菅原綾子は生来のものとも思えるお節介やきから、わたしを<女性経営者会議>に誘っていた。
 彼女はその組織の理事だった。
 その誘いはわたしにしても、嬉しくない事はなかった。
 多くの女性経営者達に取っては、< 女性経営者会議 >は憧れの組織だった。
 その組織への加入によって誰もが、経営者として世間に認められたという思いを抱いた。
「これで、わたしも一人前の経営者として、認められたという気がします」
 新会員になった女性経営者達の誰もがそのような言葉を口にした。
 わたしもまた、同じだった。
 新会員紹介の席でそのような言葉を口にしていた。
 その夜、わたし達は菅原綾子の誘いのもと、六本木のホストクラブへ繰り出した。
 わたしが経営者会議の会員になってから、三度目の総会の後だった。 
 五人か六人の仲間がいた。
 わたしに取っては、初めて経験するホストクラブだった。
 わたしの相手には二十四歳の中沢栄二という若者が付いた。
 長身でやせ型、美貌の持ち主だった。
 一見、ひ弱そうに見えるのが中年女性を引き付ける魅力にもなっていた。
 わたしの思いのままになるのでは・・・・、そんな錯覚を起こさせる魅力だった。
 事実、わたしもその魅力にはまっていた。
 離婚以来、わたしに男は存在しなかった。
 仕事だけが、わたしの心の糧だった。
  仕事以外、わたしが必要とする物は何もなかった。
 仕事が終わった後の気ままな食事、二、三の女友達との軽い憂さ晴らし、--映画を観たり、劇場へ足を運んだりと、そんな時間がありさえすれば、それでよかった。
 当然の事ながら、中沢栄二に入れ込むつもりはなかった。
 この場だけの軽い遊び・・・。
 そこに少しの酒の酔いと、店の雰囲気に酔ったものがなかったとは言い切れなかった。
 菅原綾子に煽られるままにわたしは、中沢栄二を誘っていた。
 菅原綾子はそのクラブの常連でもあるらしかった。
 その夜の中沢栄二は外見そのままだった。
 素直な子供のようにわたしの指示に従った。
 わたしは彼の気の弱そうな外見から、わたしの思いのままに行動した。
 そして、わたしはその夜のわたしに満足していた。
 わたしのこれまで知る事のなかった世界がそこにはあった。
 知らぬ間に溜め込んでいた心の澱みを吐き出すようにわたしは大胆だった。
 奇妙に男臭さを感じさせない中沢栄二が最適なペットのようにさえ思えた。
 彼ならわたしの欲求を素直な子供のように満たしてくれる。
 その時のわたしは、わたし自身に立ち返ってみる事さえしなかった。
 歓喜に酔い、知らない世界に酔ったかのように、目新しい体験に酔っていた愚かなわたし・・・・。
 危険な世界を想像する事さえしなかった。

 わたしが二度目に中沢栄二のいる< ブラックホース >を訪ねた時は一人だった。
 ほぼ、ひと月半が過ぎていた。
 暗い灯りの点った室内への扉を開ける時には、少しの勇気が必要だった。
 中沢栄二を訪ねる事自体には、ためらいを覚えなかった。
 彼の持つ存在感の軽さが、わたしにそう思わせていたのかも知れなかった。
 食べなれた料理とは異なる別のメニュー。しかもそこには、これまでわたしの知る事のなかった新鮮さと、刺激に満ちた味があり、喜びがあった。
 二度目のその夜も彼は変わらなかった。わたしは最初の夜にも増して大胆になっていた。
 ベットとしての彼の存在は、わたしの心の中ではますます大きくなっていた。
「今度からは、わざわざお店へ来てくれなくてもいいよ。メールをくれれば僕の方から出向いて行くから。その代わり、お店に払っていたお金の半分だけ僕にくれる ?」
 彼がそう言い出したのは、四度目に会った後での事だった。
 素直な子供のような言い方だった。
 その口振りからわたしは、わたしの気持ちを思って言ってくれているのかとさえ思った。
 わたしに取ってもその提案は、いささかも不都合のない提案だった。
 わたしは何も< ブラックホース >へ行きたいわけではなかった。中沢栄二に会えさえすればそれでよかった。
 わたしは一も二もなく彼の提案を受け入れた。
 わたし達は< ブラックホース >の外で会うようになった。





            ーーーーーーーーーーーーーーーーー


                                      

              takeziisan様

             有難う御座います
            チェリーピンク マンボ レッツ ダンス
             懐かしいですね どちらも一世を風靡した曲で
            音楽は当時をまざまざと蘇らせてくれます
            あの頃に戻りたい そんな気持ちです 
             サクラサク 春爛漫 雑草と格闘 学費が高い
            何事にも苦労が絶えません
            雑草との闘いは自身の健康のためと思えば多少の我慢も出来ますが
            学費が高い これには困ったものです
            昨日だったか一昨日だったか 日経新聞に大学費用の高さが
            書いてありましたが これでは おいそれと大学へも進めないなあ 
            と感じ入りました
            この衰退国日本 学問だけは力さえあれば誰もが自由に学べる
            そんな環境を作るべきです せめて義務教育ぐらいは総て無料にして人を育てる
            国立大学は無料 その代わり落第点は許されない 
            それぐらいの処置はすべきです その費用は役にも立たない国会議員を今の半分にして 
            足しにする
            国家予算の無駄な部分は多いはずです
            資源のない日本 人材だけが頼りです
            人を育てる 無能な現国会議員にもそれぐらいの事は
            して貰いたいものです
             女子会 カニ無口 しゃべれない
            うるさい女にはカニを・・・・コマーシャルとゆきましょうか
             飲み会 億劫 もともと好みではないものですから
            ですが 元同僚 幼馴染との束の間のひと時 これは楽しいものですね
             花の春 春爛漫 美しい花の数々 楽しませて戴きました
              わが家の庭の隅にもツルニチソウ 咲いています 
              有難う御座いました




             桂蓮様

             身体のお加減はどうでしょうか
            今年は厄年かと嘆いていらっしゃいますが 新作がなく
            旧作を拝見していましたら 一月に座骨神経痛に付いてお書きになっていらっしゃる
            正に厄年がらみですね
            もっとも こういう病気はおいそれと治るような病気ではないので
            いずれにしても厄介です
            桂連様へ寄せられたコメントの中でも 実に多くの方がいろいろ
            告白していますね 
            同病相哀れむ・・・・このようなコメントを読むと励まされるのではないでしょうか
            どうぞ 焦らず 気長に 根本から治すには何が必要なのか
            お医者さんと相談しながら全快に向けて いや 全快は無理にしても
            少しでも良くなるよう 頑張って下さい
             また新しい記事にお眼にかかれるのを楽しみにしております
            バレーの記事にお眼にかかれないのがちとょっと寂しいです           
             痛みを伴う中 わたくしの記事にお眼をお通し戴く事に感謝
            御礼申し上げます
            有難う御座いました












遺す言葉(441) 小説 いつか来た道 また行く道(1) 他 目立つな

2023-04-02 14:45:20 | つぶやき
           目立つな(2022.6.10日作)


 人は 他者の中で あまり
 目立とうとするな
 目立とうとすれば
 自分に無理が掛かり
 心が楽しめなくなる
 かと言って
 他者の眼を無視する事は
 唯我独尊 人格が尊大になり
 何をしてもよい という事に
 なりかねない
 人は常に 自身の進む道に忠実に
 その道の真実は何か その 真実だけを
 見詰めて行けばいい
 自分の進む道の真実は 何処にある ?
 その事をまず 考える 他者の眼
 他者の評価を気にするのは
 その後でいい




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           いつか来た道 また行く道(1)

               ほんの小さな事が
                人の一生を大きく
                 変えるものだーー
 


              (一)



 わたしの場合、魔が差したと言うべきなのか、あるいは、心の何処かに驕りがあって、その罠にはまったと言うべきなのか ?
 いずれにしてもわたしは今、わたしが生きて来た三十七年という歳月の中で、ようやく手にした人生の宝とも言うべきものの総てを、失い兼ねない状況に直面している。そして、逃げ道はもうない。
 わたしは岐阜県大垣市に近い町の平凡な家庭に生まれた。姉が二人と、兄が一人いて、それぞれに結婚し、現在、大垣市の市内に住んでいる。
 わたしが生まれた家には今、七十五歳になる母親が四年前に脳梗塞で亡くなった父親の墓を守りながら、一人で暮らしている。
 わたしは高校を卒業するまでその家に居た。
 高校卒業と同時に東京へ出た。
 東京では、現在パリに住む著名な服飾デザイナーの宮本俊介の事務所で雑役係りとして働いた。
 当時、宮本俊介はまだ無名で事務所も小さく、総勢五人の所帯だった。
 宮本俊介が大垣市の出身で、わたしは知り合いに紹介されていた。
 もともと、わたしは上昇志向が強かった。中学、高校と、学校生活では格別、目立つ生徒ではなかったが、それでもわたしは、常に自分に不満を抱いていて、いつも何かを求めていた。
 それがわたしを東京の生活へ憧れさせた。
 東京には夢が溢れている・・・・
 大学へ進む事は考えなかった。早く社会人としての生活を始める事が、大人への近道のような気がしていた。
 東京では総てが順調だった。
 わたしは陰日向なく働いた。
 真面目さが唯一、わたしの採り得だった。
 高校を卒業するまでの学校生活でも、格別、頭脳の優れていた訳でもなかったわたしは、真面目な事だけで友達の信頼を得ていた。
 その真面目さは、仕事の上でも思わぬ恩恵をもたらしてくれていた。
 わたしが独立して錦糸町に小さな洋装店(ブティック)を開く時、既に名の売れ始めていた宮本俊介が力を貸してくれて、わたしの名もないブティックは思わぬ成功を収めていた。わたしが二十五歳の時で、宮本俊介はそれから二年後にパリへ行った。
 パリからも宮本俊介は、わたしの求めに応じていろいろな情報を送ってくれた。
 わたしと宮本俊介との間にはしかし、それ以上の関係はなかった。
 わたしはその二年後に結婚した。
 結婚生活は一年半近くで終わった。
 わたし自身が家庭に納まることが出来なかったためだった。
 何かと上昇志向の強いわたしには、家に居て夫の機嫌を取りながら食事の支度をしたり、掃除や洗濯をしている事が時間の無駄のように思えて苛々させられた。
 わたしに取っては事務所の机に向かい、うず高く積まれたファッション雑誌やカタログに眼を通しながら夢を膨らませている時が、一番の幸福な時間だった。
 そんな時間の中では、一日に幾度と鳴る電話や、何通も届くファックスにも煩わしさを感じなかった。
 お蔭で仕事は離婚と共に、再び順調な発展軌道を取り戻していた。
 現在、わたしが経営する{ ブィテック・美和 }は、事務所のある赤坂を拠点にして、新宿、渋谷、原宿、六本木、成城などと都内の繁華街に、いわゆる高級ブティックと呼ばれる店を九店舗展開している。
 無論、わたしの上昇志向はそれでもまだ、納まってはいない。更なる発展を目差してわたしは日々、奮闘している。
 そんなわたしを称して他人(ひと)はよく、「イノシシ美和」などと呼んだ。
 でも、そんな呼び名もわたしには不快なものではなかった。
 それがわたしの、おいそれとは他人の助言を受け入れない頑固さ、一途さに起因している事はわたし自身理解していた。
 わたしには現在、宮本俊介を除いて外に、特別親しい経営上の相談相手はいなかった。
 
 菅原綾子とは彼女が経営するレストランを通じて知り合った。
 六十代半ばの菅原綾子は都内に何軒かの高級レストランを持っていた。
 わたしがしばしば赤坂の彼女の店に足を運んだ事から付き合いが始まっていた。
 彼女もまた、わたしの店へ顔を出すようになって、親しさが一層、増した。そして、それがわたしに取っての、不幸の始まり ? だったのかもしれない知れない。





          ーーーーーーーーーーーーーーー





          桂蓮様

           有難う御座います         
          ヘルニア 二本足で立つ人間の宿命とも言われますが
          腰の病気は苦痛ですよね 何に限らず病気には苦痛が伴いますが
          この痛みにはどうにも対処の仕様がありませんものね
          結局 バレーのレッスンの頑張り過ぎも影響しているのでは
          頑張り屋 物事をおろそかに出来ない几帳面な性格の真面目さ
          それが今回 負の連鎖を引き起こしたのでは・・・・
          ああ 今日は痛いから休もう そんな気楽な性格なら
          それ程までに悪化をさせなかったのかも などと思ってしまいます
          この病気に悩む人は多いようです
          おそらく完治はあり得ないでしょうから リハビリと後の対処が必要でしょうね
          くれぐれも御無理をなさらないように ですが 晴れ舞台の消えてしまった無念さ
          悔しさ 恨めしさ 想像出来ます その悔しさ無念さ 落胆を抑えて 
          今は我慢の一途 次に向けての調整 力の蓄積 
          苦労は人間を成長させるーーそう考えて自分を納得させる以外 無いのでは
          それにしても何時も通りの御理解のある御主人様 それだけでも救われるのでないですか
           いずれにして 何事も御無理をなさらぬよう御大事にして下さいませ




            takeziisan様


            有難う御座います
           花の季節 花の命は短くて 三日見ぬ間の桜かな
           何処も彼処も花 花 花 好い季節ですが それもアッと言う間に過ぎ
           また 梅雨の鬱陶しい季節が来ます 毎年 毎年 同じ事の繰り返し
            そして 人の世界も少しずつ変わってゆく
           数々の懐かしい音楽 年代を見ると総てが遠い昔のような
           感慨を覚えます
            一昨日 伊豆旅行から帰って来ました 長島茂雄が現役時代
           キャンプで滞在したという旅館に泊まり 伊豆周辺を廻って来ました
           何よりも驚いた事がその桜の多さでした 伊豆は御承知の通り       
           周囲が山 山 山 ですが 見渡す山の何処にも桜の花の色が混在していて
           正に桜の国 桜の山という感じでした
           伊豆と言えば河津桜ですが さすが 桜の郷と言う
           思いを抱きました
            懐かしい音楽の数々  改めて思い出しました でも再び戻る事の出来ない世界       
           何か 感慨深いものがあります こうして年代を追ってゆきますと
           総てが遠い昔ですね       
           せめて 日々 元気でいられる事に感謝しなければと思います
            畑仕事 大変さゆえの恵み 改めて羨ましく思います
            それにしてもわたくしの方では 何故か つくし  の姿が見られません
           江戸川という 大きな川の堤防が有りますがそこにも
           見られません 
           そう言えば 一週間程前 ニュースにもなりましたが
           堤防沿いの桜並木の下で桜現物をしていた家族の三歳だったかの子供が         
           親が眼を離した隙に居なくなり 水死体で発見された という出来事がありました
           胸の痛くなる話ですが 親御さんはくれぐれも幼い子供からは
           眼を離さないようにという願うより仕方がありません
           一瞬の間の幸 不幸 改めて 日々 一日一日の大切さを実感します
           今回も楽しい記事 有難う御座いました
           御礼申し上げます