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遺す言葉

つぶやき日記

遺す言葉(519) 小説 <青い館>の女(8) 他 それだけの事

2024-10-13 11:56:57 | 小説
            それだけの事(2024.9.30日作)



 九十歳を過ぎても
 矍鑠(かくしゃく)として生きてる人が居る
 百歳を越えてもなお
 平然としている人が居る
 その姿 姿勢のまぶしさ 輝かしさ
 人間 人の命の限界 百二十五歳だとか
 かつて唱えられた 人生僅か五十年
 今は昔 過去の事
 人の健康 丈夫で生きる
 その基 礎(いしずえ)となるものは ?
 心の持ち方 ?
 堅固な肉体 ?
 八十六年余を生きて来て今 日々
 不都合も無く 時が過ぎて行く
 そして 今日もまた生きている
 生きている 生きている限り
 生きるのだ 元気溌溂
 矍鑠たる九十歳 百歳
 光り輝くその姿を目差して
 今日もまた 生きてゆく
 生きてゆく 生きてる限り生きてゆく 
 明日を見詰め 今日一日を生きる
 元気溌溂 矍鑠として生きる
 それだけの事
 ただ それだけ




            ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




             <青い館>の女(8)




 
 しかし、わたしの心に熱い思いは生まれて来なかった。
 依然として醒めた心の冷え冷えとした意識がわたしの心を捉えていた。
 同時にわたしは、わたしの肉体を抜け出した醒めた心のわたしが総てを投げ出し女に任せて、死体の様にベッドに横たわっているわたし自身を見詰めているのを意識する。
 女はなおも、そんな死体を小さな手の指で撫ぜている。
 女は辛抱強かった。
 まるで諦める事を知らないかの様に、そして、蔑み、嘲笑するのを知らないかの様に様々な行為を繰り返す。
 死体のわたしは死体のままに、それでも女の一途な行為に応える様にその肉体を愛撫する。
 すると間もなく女の肉体が反り返り、波打ち、口から漏れる微かな声が女に自分の行為を忘れさせる。
 やがて女の肉体は激しく波打ち、硬直し、暫(しばし)の後で発する声と共にその緊張が一度に解(ほど)けてゆく。
 わたしは激しく女の裸体を抱き締める。
「いっちゃった」
 女は無邪気な笑顔を見せてわたしを見詰め、少しの恥じらいを込めた口調で言った。
 わたしは黙ったまま頷いて女の笑顔に答える。
 女はまたしてもわたしの肉体に手を延ばして触れて来る。
 しかし、わたしの意識の中では徒労感のみが深かった。
 わたしは女に言った。
「もう、いいよ。初めから分かっていた事なんだ。疲れたろう」
 女に労いの言葉を掛ける。
 女はだが、嫌な顔一つ見せずに、
「ううん、大丈夫ですよぉ」
 と言って、なおも行為を繰り返す。
 わたしはそんな女の手を取って自分の肉体から引き離す。
「御免なさい」
 女は自分の責任でもあるかの様に言った。
 わたしは女に言った。
「ただ、ちょっと頼みがあるんだ」
 女は不思議そうにわたしを見詰めて、
「なんですかぁ」
 と聞いた。
「少し、眠らせて貰いたいんだ」
 わたしには徒労感のみが深かった。
 ただ眠りたいだけだと考える。
 今こうしてわたしの肉体に触れている、この年若い女の存在にもわたしは現実の感覚を抱く事が出来なかった。
 総てが空虚で遠い感覚の中にある。
 今に始まった事ではなかった。
 既に何年にも及ぶ事で、あらゆる事柄に及んでいた。
 自分が抱えた心臓疾患に依る影響なのか、という思いもあったが、そればかりではない、という思いが依然としてわたしの意識の中からは抜け切れなかった。
 そして、此処でもまた、妻の存在が義父の影と共に大きく立ちはだかって来る。
 女はわたしの思いも掛けない突拍子な言葉にも、
「眠るんですかぁ」
 と言って嫌な顔一つ見せなかった。
「うん」
 わたしは力なく言った。
 そんなわたしの気力の抜けた表情を読み取ったかの様に、女はすぐに言葉を続けて、
「構わないですよぉ。此処では全部がお客さんの時間なんでぇ、お客さんの自由にして貰っていいんですよぉ」
 と言った。
「君は随分、優しいんだね」
 何処までも厭味を感じさせない年若い女の心遣いにわたしは、思わずそんな言葉を口にする。
 これは女の若さの所為(せい)なのか ?
 過去に於いて出合った数多くの年増女達の計算高く醒めた感情の垣間見える、取り繕われた表情の数々をわたしは思い浮かべていた。
「でもぉ、お客さんにはぁ高いお金を出して貰ってるのでぇ、此処では他の女の子達のみんながそうですよぉ。それにぃ、こんな小さな街なんでぇ、お客さんの数も限られているからぁ、一度、悪い評判がたってしまうとすぐに誰も来て呉れなくなっちゃうんですよぉ」
 女は飾る事も無く言った。
「此処ではみんなが、それぞれにお客を持ってるの ?」
 興味がある訳では無かったが、話しの接ぎ穂としてのみ聞いてみる。
「そうですよぉ。みんながそれぞれに何人かのお客さんを持ってますよぉ」
 当然の事の様に女は言った。
 わたしには不思議だった。
 こんな店の、こんな営業方法がこの街では許されているのだろうか ?
「警察はうるさくないの ?」
 聞いてみた。
「だからぁ、お店の方でも厳しいんですよぉ。お客さんに厭な思いをさせてぇ、もし、警察に訴えられたりしたら大変だからぁ、厭な思いをさせない様にって毎日、厳しく言われてるんですよぉ」
 女は言った。
 わたしはそれでこの年若い女の、年齢には似合わぬ注意深さと思い遣りに納得したが、それ以上に興味は持てなかった。
 わたしは言った。
「明日の朝は何時まで ?」
「一応、八時半までなんですけどぉ、追加料金を戴ければぁ昼の十二時まではいいんですよぉ」
「そうか。で、朝は起こしてくれるの ?」
「はい。目覚まし時計をお客さんの好きな時間に合わせて掛けて置きます」
 女は言った。
「それなら安心だ」
 わたしは言った。
 明日の朝、この如何わしい店を出る時、人に見られる事をわたしは怖れた。
 少なくとも、人々が動き出す前にこの店を出てしまえばいい。
 今日、祝賀会で顔を合わせた誰彼に見られる事も無くて済むだろう。
 わたしは安堵感と共に言う。
「疲れた。少し眠ろう」
 今日一日がひどく長かった様に思われた。
 心身共の疲労感を覚えていた。
 幸い、大きな脈の乱れが無かった事が何よりの救いだった。
 女に触れている間にもその脈の乱れはなかった。
 わたしには奇跡に思われたが、その満足感に包まれながら静かな気持ちで女に聞いてみる。
「君は、このまま朝まで傍に居てくれるの ?」
「はい、ずっと居ますよぉ」
 女は言った。
「それなら君も寝た方がいい」
「はい、寝ますけどぉ、もしぃ、お客さんが眼を覚ました時にぃわたしが眠っていたらぁすぐに起こしてくれますかぁ。何時でもいいですからぁ」
 女は言った。
「うん。そうするよ」
 わたしは言った。

 翌朝、わたしが眼を覚ました時、時計の針は五時を過ぎたばかりの位置を指していた。




             ーーーーーーーーーーーーーーーーーー




               takeziisan様


                奥様の退院 予定より早まりそう
               何よりです
               お喜び申し上げます
               普段 身近にある物の無い寂しさ
               それが人という存在であればなおさらの事
               安心感 安堵の思いが想像出来ます
               年齢と共の衰え 誰にも避ける事の出来ない現象で
               受け入れる事しかありませんが まずはおめでとう御座います
               これからもお大事になさって下さい
                ドリス ディ アームストロング スティーブ マックイーン等々
               懐かしさばかりが蘇ります 今でもそれぞれ耳や眼に残っています
                山の景色は何時見ても良いですね 今朝もNHKで放送していましたが
               自然の山々 田園風景 その中で暮らす人々の何気ない日常
                 なんの飾りも無い美しい風景です 
                 郷愁と共に憧れを感じます 
                  夏目漱石 芥川と共にわたくしの中では既に古典の位置を占めています
                   古びませんね やはり人間の真実に迫っているからでしょうか
                   何事に付けても物事の真実を突き詰めた物は永遠の命を獲得するという事でしょうか
                奥様の御退院と共にまた以前の生活への復帰の一日も早い事を願って居ります
                 お忙しい中 お眼をお通し戴き 感謝申し上げます
                有難う御座いました



























































 


遺す言葉(518) 小説 <青い館>の女(7) 他 秋彼岸

2024-10-06 12:08:18 | 小説
               秋彼岸(2024.9.27日作)



 
 猛り狂った猛暑
 狂熱の夏も過ぎ
 今朝は爽やか
 秋彼岸の一日
 向かうは冬の季節
 穏やかな日和も終わり
 迫り来る寒さ厳しい日々
 冬へと季節は移り
 変わってゆく
 幾度迎えたこの季節
 時の移ろい 春夏秋冬
 日々生きて来たその中で
 今また迎える
 夏から秋 秋から冬へ
 その季節
 幼き日々の 春
 青春の季節 夏
 斜光 影さす 中年の秋
 そして老年 冬の季節
 春夏秋冬
 自然の季節は移ろい 巡れども 
 人生の春夏秋冬 
 再び 巡り来る事は無い
 枯れた草木
 吹き荒ぶ木枯らし
 厳しい冬 
 人生に於ける永遠の冬 老年
 その果てに待つものは
 永久凍土
 死の世界
     



             ーーーーーーーーーーーーーーーーー




              <青い館>の女(7)




 
 わたしは豊かなその感触に更なる記憶の底から蘇る様々な肉体を回顧する。
 すると初めてわたしの身体の奥に微かな兆しを見せて欲望が芽生えて来る。
 わたしはグラスを片手に持ったまま、その欲望に形を与えるかの様に豊かな感触の女の肉体を抱き締める。
 わたしの心に昔日を偲ばせて、この肉体を自分の中に取り込みたいという熱気が初めて生まれる。
 しかし、わたしは知っている。
 それが不可能な事で、願望に終わるだけのものでしかない事を。
 事実、わたしの肉体に充実感は生まれて来なかった。
 そして、早くも何時、訪れるかも知れないわたしの身体の奥に潜んだ悪魔が顔を覗かせてわたしを恐怖の淵へと突き落とす。
 わたしの心はたちまち、空気の抜けたゴム人形の様に萎(しぼ)んでゆく。
 女はだが、わたしから唇を離すと首筋に腕を絡めたままわたしを見詰めて、
「今夜は泊まって貰えますかぁ」
 と聞く。
 わたしを誘う姿勢が身体全体に露わになっている。 
 わたしの心はそれで揺らぐ事はない。
 過去に幾度も経験している事だ。
 女達の使う常套手段・・・・しな垂れかかる媚態と甘え。
 総ては営業の上に成り立つ偽装行為なのだ。
 そして楽屋へ帰った女達は言うだろう。
「助平な奴ったらありやしない !」 
 わたしに取っては総てがお見通しの上の戯れ事にしか過ぎなかった。
 根底に於いてわたしは女達を信用していない。
 一夜のうちに気分を変える女達をわたしは数多く見て来ている。
 女達への不信はわたしの意識の中では拭い難いものになっていた。ーー女達は別の世界に住んでいる。
 或いはこれもまた、わたしの妻がわたしの心に植え付けたものなのかも知れなかった。
 妻とわたしとの間には、生涯にわたって踏み越え難い溝がある。
 妻の驕慢がわたしという人間を妻の伴侶にさせて、わたしの心の卑しさが妻の驕慢を形作った彼女の父親の財力にわたしを諂(へつら)わせ、妻に追従させたのだった。。
   この国がまだ貧しかった頃、長野県の雪深い片田舎の小さな農家で五人兄妹の四番目に生まれたわたしには、豊かさと便利さへの抜き難い憧れがあった。
 ーー今、北のこの小さな漁港街の怪しげな店の奇妙な部屋で、父親以上に歳 の離れたわたしを誘う年若い女には一体、どの様な事情があるのだろう ?
 遊ぶ金が欲しいだけなのか ?
 或いは、何かの事情で金が必要なのか ?
 それとも、こういう仕事が好きなだけなのか ?
 何れにしても、わたしにはどうでもいい事であったが、若い女の素直さには好感が持てた。
 それに元々、わたしには今更望むものなど何も無い。少しの酒に心の鍵を解かれた気紛れ半分による遊びでしか無い。
 それでわたしは女の素直さに応える様に、
「君はどっちが良いの ?」
 と聞く。
 女は悪びれる様子も無かった。
「それはぁ、泊まって貰った方がいいですよぉ。営業の成績が上がりますからあぁ」
 と言う。
「じゃあ、泊まっていく事にしよう」
 わたしは言って、すぐに一つの思いに捉われる。
 明日の仕事に支障は無いのか ?
 ホテルのフロントでは、わたしの朝帰りをなんと思うだろう ?
 だが、それらの事は別段、気にする必要も無い様だった。
 開店初日のセールは混雑するだろうから、午後になっても構わない。
 フロントでは、わたしの朝帰りを何んと思おうと勝手に思えばいい。
 迷いはすぐに払拭された。
「有難う御座いますぅ」
 女は今度もまた、素直な喜びを身体全体で表して殊勝に頭を下げた。
 女は続けて言った。
「お金はぁ前金で戴く事になってるんですけどぉ、構わないですかぁ」
 わたしに取っては不都合のある筈もない金額だった。
「うん、構わないよ」
 上着の内ポケットを探り、財布を取り出して一万円札を抜き取り、五万円を女に渡す。
「有難う御座いますぅ」
 女は丁寧に頭を下げて両手で受け取った。
「じゃあ、ちょっと待ってて貰えますかぁ。会計の方へ連絡しますからぁ」
 女は立ち上がるとまた、カーテンの向こうへ消えて行った。
「深紅の部屋ぁ、通しでお願いますぅ」
 女の室内電話をする声が聞こえた。
 女はすぐに戻って来た。
 その夜、わたしと女は一つのベッドで過ごした。
 女はすぐにわたしの衣服を脱がせに掛かり、裸の身体に触れて来た。
 わたしは女の裸体を抱き締める。
 その柔らかい感触がわたしを過去の記憶へと誘う乳房や腹部を自分の身体に押し当てる。
 女は自ら求めて裸の身体をわたしに押し着け、その唇でわたしの唇を塞いで來る。
 それをこじ開け二つの口腔を一つにする。
 わたしは女の行為に任せて為すがままでいる。




             ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




               takeziisan様


                コメント 有難う御座いました
               今回 記事を拝見していまして 奥様 入院との事
               御心労 お察し申し上げます
               人間 生きている限りは何時かはこういう時が来る
               それは承知の上の事でも寂しいものです 
               御無事の退院 心よりお祈り致します 
               また ブログのお仲間の死 という事で つくづく老齢を生きる境遇を
               意識せずにはいられません 死の季節を生きる
               そんな年代になってしまいました
               どうぞブログの方も一位をお続けになる実力に敬服しながらも
               その順位に拘る事無く これからも楽しい記事をお書き下さる事を願っております          
                何時かは訪れる人の死 生きるも死ぬも人間 最後は独り
               そう自覚して生きてゆくより仕方がないようです
                拙文をコピーして戴いたの事 一位のブログへのコピー 感謝申し上げます
                映画「黄昏」以前にも書いたと思いますがやはり
               もう一度観たい映画です 記事にもあります様に
               フォンダ父娘の共演 それに名女優 キャサリン ヘップバーン
               懐かしいですね
                謄写版 これもまた懐かしい !
               よく原稿を書きました 刷りもしました
               あの黒い文字が眼に浮かびます それにしても   
               当時 ドイツ語 ? 片田舎と御謙遜ですがいろいろこれまでも記事を拝見して来まして
               わたくしなどの居た地方より はるか進んだ環境にあったように思われます
               東京から汽車で僅か二時間足らずの地方の海辺の村に居たのですが
               いろいろ拝見していますと遅れを感じます 
               それでも あの地方で過ごした少年時代は良い思い出に溢れています
               いろいろ 有難う御座いました
               どうぞ 奥様の御看護と共に御自身の体調にもお気を付け下さい
               一日も早い 奥様の御快癒とお二方の共に過ごす日常の戻りを
               陰ながら願っております
                何事に付けても 自身の残り少ない日々を思うと哀しみの感情は
               他人事であっても沢山だという気がします
                有難う御座いました











































 




























 





 

遺す言葉(517) 小説 <青い館>の女(6) 他 凪の海

2024-09-29 12:18:12 | 小説
             凪の海(2026.9.22日作)


 
 
 風は凪 海は静か
 白く輝く 広い砂浜
 人影は無く 
 遠い彼方 水平線に
 入道雲 積乱雲を浮かべて
 海は穏やか
 何事も無いーーこの幸せ
 自然は美しい
 世界は美しい
 美しい自然
 美しい世界
 人間は ?
 人間という愚かな存在
 あちらの陸地を血で濡らし
 赤く染め
 こちらの陸地で草原 樹木を
 踏み荒らし 焼き払い
 限り無く 繰り広げる
 醜い争い 戦争
 人の命を軽んじ 犠牲にして
 恥じる事が無い
 愚かな者達 人間存在
 政治 宗教 総ては虚妄
 名誉 名声 欲望のみに支配された
 虚偽の城 その支配者 長(おさ)達は
 人の命の尊さ 貴重(おも)さ そこに
 眼を向ける事は無い
 自身の権力 虚名 地位保全 
 その事だけに 精一杯 その事だけに
 心を砕く 日々 日毎
 あの地 この地で 繰り広げ
 繰り返される愚かな争い
 血を血で洗う 醜い諍い
 延々 絶える事無い蛮行愚行
 総ては愚かな支配者 長達の
 その下(もと)から生まれて そこから始まる
 それでも海は 今日も穏やか 凪いでいる
 一人の漁師が今日もまた 舟を漕ぎ出し
 海の恵みの魚貝を獲る
 やがて 日は暮れ 漁師は
 家路を急ぐ舟の上
 今日も一日 穏やかだった
 何も無く 変わった事も無い
 平々凡々 その一日 
 平々凡々 何も無い
 平々凡々 それでいい
 昨日も今日もまた明日も
 平々凡々 何も無い それでも
 こうして生きている
 生きている
 命の尊さ 貴重さ この世に生まれ 恵まれた
 一つの命 人間 人のその命 命の全う
 政治 宗教 虚偽虚飾
 もう沢山
 血を血で洗う醜い争い
 沢山だ !
 誠実 謙虚 真摯に生きる
 人と人との心を通わせ
 自身に向き合い 真摯に生きる
 平々凡々 日々同じ それでいい
 海の彼方に夕陽は沈み
 夜が来る
 家に帰った漁師は今日も
 明日の豊漁夢に見て 
 夜の静寂 その中で 心安らか
 眠りに就く 
 迎えた朝の 今朝の海
 波は穏やか 風は凪ぎ
 漁師は今日も
 一人 静かに舟を出す
 海は穏やか
 風は 凪ぎ




              ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




               <青い館>の女(6)




 
 女がその扉を開けると眼の前には狭くて短い階段があった。
 女はわたしの先に立って階段を上がった。
 人気の無い青い灯りの点った廊下が眼の前に現れた。
 女は奥に向って廊下を歩いて行った。
 両側に四つの部屋が並んでいた。
 部屋の入口それぞれに薄紅、焦げ茶、黄、紫、緑、薄紅梅、緑黄色の小さな明りが点っていた。
 明かりの色が部屋の色になっている、と女は言った。
 女は一番奥、左側の部屋の前へ来て足を止めた。
 深紅の明かりが点いていた。
「これがぁわたしの部屋なんですけどぉ、今ぁ鍵を開けますね」
 女は化粧バッグを開けて中を探り、合い鍵を取り出した。
 女が鍵を差し込みドアを開けると、外から僅かに覗けた部屋の中には深紅の明りが濃い翳を作っているのが見えた。
 女は先に立って部屋へ入ると、ドアを押さえてわたしを中へ導いた。
 部屋は八畳程の広さかと思われた。
 ほぼ中央を仕切って明かりの色より更に濃い、深紅の厚手のカーテンが鈍い光沢を見せて下がっていた。
 向こうにはベッドがあるらしかった。
 入口正面、部屋の奥には毛足の長いこれも深紅の三人掛けソファーが置かれてあった。
 部屋全体が濃密で淫靡な気配に満ちていた。
「すいません、ちょっとぉそのソファーで待ってて貰えますかぁ。今すぐに着替えて来ますからぁ」
 女は入口で気を呑まれた様に立っているわたしに向って言った。
 わたしが頷くと女はドアに鍵を掛け、深紅のカーテンの向こうへ消えて行った。
 わたしは言われたままにソファーに腰を下ろした。
 腰の半分程が埋まる感覚のソファーだった。
 膝元には店の名前そのままに、青の濃いテーブルが置かれてあった。
 上にはAVビデオや若い女性の裸を満載した写真雑誌などが置かれていた。
 他にはテレビがあるだけだった。
 豪華さを気取った雰囲気とは裏腹に何処とは無いうそ寒さがわたしの心を覆う。
 わたしは豪華さを気取った部屋の淫靡な雰囲気にも係わらず、眼の前に置かれたAVビデオや裸雑誌にも興味を抱く事も出来ないままに、ただ、抜け殻の様に空虚な心を抱いたまま坐っていた。
 頭の中には何もなかった。
 空疎な思いだけが満ちていた。
 女に導かれるままにこの部屋に来てしまったが、自分がこの場の雰囲気に馴染めるとは思っていなかった。
 初めて訪れた北の小さな漁港街の怪しげな店で、千載一遇の機会を楽しもうなどという気も湧いて来なかった。
 わたしの身体の中では最早、総てのものが空虚な影の存在としてしか認識出来なくなっていた。
 若かりし頃の溌溂としたあの気分と心の昂揚は遠い昔の、今では帰る事の出来ない過去でしかなかった。
 何時、訪れるかも知れない突然の発作とその先にあるもの・・・・意識を過(よ)ぎるのは常にその不安だった。
 それがわたしの総てを奪ってゆく。
 自身を生きる事の出来ないこの空虚。
 わたしは最早、屍でしか無い。
 カーテンの陰に消えた女はなかなか戻って来なかった。
 わたしを焦らし、気分を昂揚させる為なのか ?
 それでも、わたしの心は萎えたままだった。
 わたしは手持無沙汰のままにAVビデオやヌード雑誌を手に取ってみる。
 それがわたしの心を昂揚させる事は無い。
 わたしは手にしたものを元に戻して部屋の中に視線を漂わす。
 途端に暗い明かりの深紅の色が息の詰まる様な感覚で迫って来る。
 思わず息苦しさを覚えて大きく息を吐く。
 更に、足元のテーブルの青が部屋の暗い深紅と絡み合ってわたしの眼を混乱させ、刺激する。
 わたしは苛立ちと共に女の消えたカーテンに眼を移す。
 その時、カーテンが微かに揺れて女がカーテンの陰から姿を現わした。
 女は裾を引きずる赤い身体の透けて見えるネグリジェを付けていて、その下は全裸だった。
 女の肉体の総てがわたしの眼に映った。
 女は両手にブランデーのグラスを持っていた。
 中味が微かに揺れて、わたしの傍へ来た女は、
「どうぞ」
 と言って、右手に持ったグラスをわたしの前へ差し出した。
「有難う」
 わたしはグラスを受け取った。
 女はソファーに腰を下ろすとわたしに身体を摺り寄せて来た。
「お客さんとわたしの夜の為にぃ乾杯 !」
 女はわたしの前に自分の持ったグラスを差し出して言った。
 わたしは小さく自分の持ったグラスを差し出して女の言葉に応える。
 それでも、わたしの心は萎えたままだった。
 こんな行為の無意味な事をわたしは知っている。
 一体、わたしは何に乾杯するというのか ?
 女はだが、わたしの気持ちなどに拘ってはいなかった。
 自分のグラスの中味を口に含むと、その口をわたしの口元へ寄せて来る。
 わたしの首に腕を絡めて女は、その唇をわたしの唇に押し付け、口に含んだブランデーをわたしの口に流し込んで来る。
 わたしは女の為すがままにそれを受け取る。
 わたしの脳裡には無意識裡に、過ぎ去った日々に蓄積された数々の思い出が蘇る。
 幾度もあった同じ様なこの行為。
 女のネグリジェを着けただけの肉体が、わたしの衣服を通してわたしの身体に触れて来る。




             ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




               takeziisan様


               
               リバティバランスを射った男
              人を思い遣る暖かい心を持ちながら無口で無骨ゆえに
              黒色人種の下僕一人に見守られただけで死んでいった男の悲哀
              数々の名作を持つフォード監督の作品の中でも
              「捜索者」と並んで一、二を競う名作だと思います  
              「カサブランカ」 あのピアノの場面と共にラストシーン    
              良いですね 名場面の一つだと思います  
              「ウエストサイド物語」ジョージ チャキリスが一気に名前を売りましたね        
              「危険な関係のブルース」何度 聴いたか分かりません
              勿論 レコードは持っています
              冒頭の音を聴いただけで自然に体が揺すられてしまいます
              アート ブレイキーとジャズメッセンジャー
              懐かしい名前です
               尾瀬 八月末に那須へ旅行しました
              あの自然が良いですね 山々の樹々 空気の清涼さ
              車の並んだ風景を拝見して改めて思い出しまた                      
                都会の風景の殺風景な事 心の潤いも失われます
              猿にイノシシ 様々な害を思っても何故か 羨ましく思われます
               川柳 相変わらずいいですね
              どの作品もそうだそうだと頷けます
              以前見た何処かの代表作品集に比べ 深さが感じ取れます
              勿論 以前にも書きましたがオベッカではありません
              失礼ですが やはり 年の功という事でしょうか
              「深い」 冒頭の二句 皮肉と深さ まず心に響きました
              その他 皮肉たっぷり等 面白く拝見しました
              有難う御座いました















































































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遺す言葉(516) 小説 <青い館>の女(5) 他 時間という悪魔

2024-09-22 12:46:26 | 小説
             時間という悪魔(2024.9.2日作)



 
 青春の樹々は日々 
 日毎に美しさを加え
 逞しさを増して その 葉を
 陽光に輝かせ 彩り豊かに 伸展
 天を目差して 伸びてゆく
 老齢の樹 老木は日毎 年毎
 その光りを失い 衰退 衰えの色を深くして
 命の輝き 色彩を失くしてゆく
 時 時間は 片時も休みなく
 刻一刻 時々刻々 流れ
 過ぎて行く
 時々 刻々 休みなく過ぎて行く時間 この
 時間という悪魔
 世界の総てを創り 
 世界の総てを消し去り
 破壊と創造 その繰り返し
 変わる事無い この世の法則
 人の世の営み
 新たに生まれ来る世界
 日々 時々 刻々 失われ行く世界 永久不変の
 時間という悪魔 この前で
 総ては無力 総てが無意味 無
 虚無の世界 人はただ生きる
 生きる事 只今現在 今を生きる
 人に出来る事 それのみ
 迫り来て 過ぎ行く時間 その前で 総ては無力 無
 無 無 無 虚無 虚無 虚無 虚無・・・・虚無




         ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




            <青い館>の女(5)



 

 女はわたしの行為を拒まなかった。
 むしろ、わたしを誘う様に身体を寄せて来る。
 わたしはそんな女の耳元で言う。
「いい歳をして、助平な奴だと思うだろう」
 女はその言葉に答えて、
「そんな事、無いですよお。此処へ来るのはみんなが歳を取った人達ばっかりだしぃ、若い人達はこのお店へは来ないんですよぉ、高いからあ」
 と言った。
「一万円で高いの ?」
 わたしは驚いて聞いた。
 わたしの感覚では理解出来ない金額だった。
「そうですよぉ。一時間、五千円か六千円で遊べる処がいっぱいあるからぁ、若い人達はみんなそっちへ行っちゃうんですよぉ」
 女はなんの不思議も無い様に言った。
「じゃあ、此処へは年寄りだけが来るんだ ?」
「年寄りだけって事も無いんですけどぉ、お店で遊ぶだけならぁ、若い人にはもっと面白い処もあるしぃ」
「こんな風な店が ?」
「そうなんですよぉ」
「それなら、君もそっちへ行った方が楽しいんじゃないの ? こんな年寄りを相手にしているより」
「嫌(いや) ! わたし、若い奴なんて大ッ嫌い」
 思わぬ激しさで女は言った。
 その口調の激しさにわたしは驚いた。
 女の顔には微かな怒りの表情さえが浮かんでいる様に見えた。
 女のそんな様子に戸惑いながらもわたしは、
「じぉあ、年寄りが好きなんだ ?」 
 と、冗談めかして言った。
 すると女は、
「だってぇ、歳を取った人の方が優しいからぁ」
 と何故か、沈んだ声で呟く様に言った。
 その言葉には、自分に言い聞かせる様な響きと共に、哀しみにも似た色合いが含まれていて、女の心の微妙な揺らめきが感じられた。
 わたしはだが、そんな女の抱える事情にまで踏み込んでゆく心算は無論、無い。それで、女の腰に廻していた手を胸に這わせ、その乳房に微かな愛撫を加える。
 女はわたしの動きにも嫌がる素振りは見せなかった。かえってわたしを誘う様に女自身もわたしの身体に胸を押し付けて来て、
「もし、良かったらぁ、奥の部屋に行ってみませんかぁ。料金は別料金になるんですけどぉ、そこでなら自由に遊べますからぁ」
 と言った。
「二人だけになれるの ?」
 わたしは女の言葉に好奇心からのみ聞いていた。
「そうなんですよぉ」
 女は言った。
 先程の寂しげな様子とは違って、早くも商売女の表情に戻っていた。
「でも、駄目なんだ。今日は酒が入ってるから」
 わたしは自身の不可能性を意識して逃げの姿勢に入っていた。
「ああ、それならぁ、別にぃ気にしなくても大丈夫ですよぉ。お年寄りの人にはそんな人がいっぱい居るしぃ、ただ気ままに遊んで貰えればいいだけなんですよぉ」
 わたしの不安をよそに女は、珍しい事では無いかの様に言って気にする様子も見せなかった。
 その言葉に誘われてわたしは、
「別料金って幾らなの ?」
 と聞いていた。
 ここでも好奇心が働いていた。
 「明日の朝までなら五万円でぇ、二時間ならぁ二万円なんですよぉ。その後(あと)ぉ、四十分毎に五千円ずつ戴くんですけどぉ、ちゃんと個室になていてベッドもあるんですよぉ」
 女はまるで貸間を貸す女主人でもあるかの様に言って、なんの拘りも見せなかった。
「個室って、此処には幾つも部屋があるの ?」
 女の言う事がよく理解出来ずにわたしは聞いた。
「そうなんですよぉ」
 女は言った。
「幾つあるの ?」
「八個なんですよぉ」
「八個 ? で、女の子は何人居るの ?」
「八人居るんですよぉ」
「じゃあ、八人居て、みんながそれぞれに部屋を持っているっていう事 ?」
「そうなんですよぉ」
 思わぬ処でわたしは興味を引かれた。
 それが本当なら、どんな部屋なのだろう ?
 怪しげな店の雰囲気の戸惑いにも次第に馴れて来て、興味の赴くままにわたしはその部屋を見てみたいと思った。それで、女に対する心使いでもあるかの様に装って、
「此処に居るよりそっちへ行った方が君たちには良いの ?」
 と聞いた。
「それは勿論ですよぉ」
 女は力を込めて言った。
 その言い方がわたしを誘っている様にも思えた。
 続けて女は、
「もしぃ向こうへ行って貰えるんならぁご案内しますけどぉ」
 と、口に出して誘いを掛けて来た。
 その言葉と共にわたしは先程、女の「それなら別に気にしなくても大丈夫ですよ」と言った言葉を思い浮かべ、自身の肉体の不可能性への拘りを抱く事も無く、赴く興味のままにその部屋へ足を運んでみたい気持ちに動かされていた。
 当然の事ながら、女が言った五万円という金額が安いものか高いものか、現場を見て見なければ分かるはずのものではなかった。
 それでも、普段わたしが重ねて来た様々な遊興の中では決して、高額とは言えない金額だった。金額に対する迷いはわたしの気持ちの中には無かった。
「じゃあ、それがどんな部屋なのか行ってみようか」
 わたしは言った。
 女はその言葉を聞くとこぼれる様な笑顔を見せて、
「すいません、有難う御座いますぅ。そうしたらぁ、すぐにご案内しますからぁ」
 と言って、早速、わたしに寄せ掛けていた身体を離して立ち上がった。

 女はわたしを導いて暗い店内の通路を奥へ向かって進むと、一見、壁と見紛う厚い扉の前で立ち止まった。




             ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




               桂蓮様



                お忙しい中 お眼をお通し戴き有難う御座います
               先週 拝見しましたがお身体の不調 お大事になさって下さい
               何れにしても身体は動かさなければ衰える一方です
               血流が関係しているのだと思います
               わたくしはほとんど 自己流マッサージと指圧で治しています
               少し前 膝に痛みが出て心配したのですが 
               毎日の指圧とマッサージで今は殆ど痛みが無くなりました
               また 左の耳が気が付いたら聞こえなくなっていたのですが
               これもマッサージで治しました 今ではほぼ完全に聞こえます
               耳は一度悪くなったら治らないと聞いていたのですが
               何れにしても 今もマッサージは続けています
                兎に角 人間 生きる上で 基本的な事が何より大切だと思います
               基本をおろそかにしない 基礎の出来ていない建物は壊れ易い
               すぐにボロが出る どの世界に於いても同じ事だと思います
               幸い 何処も悪い所は無いのですが年齢からみて
               何時 何があってもおかしくないと思って日々の生活に今までより一層
               注意をしています
                有難う御座いました


               


                 gtakeziisan様



              何時も有難う御座います
             暑さ寒さも彼岸まで どころか猛暑 衰える気配なし
              確実に気候は変わりました
             この先 地球の気候はどうなる事やら 人類危機の懸念さえ
             頭を過ぎります 実際に気候変動はこれまでにも地球上に様々な影響を及ぼしていると聞くと
             絵空事では済ませない気がして来ます
              それにしても何やかや 厳しい世の中になったものです
             そんな中 秋の七草 様々に咲く花は心慰めてくれます
             毎年毎年 変わる事の無い自然の移ろい 姿ですが
             またこの季節を迎えた と思います
              雹 落ちた銀杏 懐かしい風景ですが この地方では
             滅多に見られません
             銀杏は眼の前にそれなりに大きな公園があり そこに何本も並んでいるのですが
             まだ樹が小さいのか 毎年 剪定をしてしまうせいか稔りません
             銀杏を煎って食べるのが好きなんですが
             雹はこの地方では滅多に見られません 何時も書く様ですが
             気候的には本当に安定した住みよい場所です
             今朝もニュースで能登地方の大雨を放送していましたが
             踏んだり蹴ったり 災難の上に災難 お気の毒の一言で 言葉もありません
              懐かしい音楽の数々 思い出ばかりが蘇ります  
             それにしても此処に見る人達の誰彼がみんな遠い人になってしまって
             自身の人生の残りも思いやられます
             生きる事の厳しさが年々 身に沁みて来ます
              楽しい画面を有難う御座います


























 

遺す言葉(515) 小説 <青い館>の女(4) 他 雑感四題

2024-09-15 12:20:33 | 小説
              雑感四題(2020~2024年)



 
 1   無意識の世界は
   知識から得られるものではない
   体験から得た事実感覚が基になり
   自ずとその物事に対しての行動を促す
   知識 理論だけでは及ばぬ世界
 
 2     禅の世界は日常 常套を 超え その
   向こう側に有る 
   物事の本質に迫る世界
   理論 理屈 知識では
   到達し得ない

 3      人生は
   未知から未知への旅
   今日という日の運命も
   今という時の一寸先も
   見えないーー偶然は何時でも起こり得る 
   明日という日はなおの事
   総ては未知の世界を歩んで行く旅
   旅が人生 人は時を旅する旅人

 4  古時計 壊れたままに 年老いて
   
   行く時の ツバメの如し 五月雨
   
   思い出の 年毎増えて 今一人
   
   父が居て 母が居て 夢一夜 




            ーーーーーーーーーーーーーーーーーー




              <青い館>の女(4)



 

 男が消えるとわたしはまたしても落ち着かない気分に捉われた。
 料亭やそれなりに高級なクラブには馴れていても、この店の如何わしさには怖れがあった。
 落ち着かない気持ちのままに煙草が欲しいと思ったが、既に何年も前に止めていた。
 無論、心臓発作への恐怖からだった。
 そうするうちに女性が来た。
 カーテンの入口を塞ぐ様にして立った女性は、薄いピンクの短いネグリジェにも似た透き通る衣装を着けていて下着が透けて見えていた。
 一目で幼さが見て取れた。
「いらっしゃいませぇ」
 小さな化粧バッグを手にした女性は丁寧にお辞儀をして言った。  
「今晩わ」
 わたしは座席から見上げて言ったが、その若さの前ではやはり居心地の悪さを覚えずにはいられなかった。 
 いい歳をした助平親父が・・・・そう思われるに違いない。
 自分が好色で品性の無い人間と思われる事に屈辱感にも似た感情を覚えて居た堪れない気持ちになった。
 少なくともこのいかがわしい店には、一流クラブや高級料亭の様にわたしの自尊心を満たしてくれるものは何も無い。
 惨めさと屈辱的な思いだけが増した。
「お邪魔しますぅ」
 若い女性はだが、屈託がなかった。
 如何にも馴れた口調の商売用といった上品さを気取って明るい声で言うと、そのまますぐにわたしに身体を押し付ける様にして座席に坐った。
 若い女性の柔らかな肉体の感触が直(じか)にわたしの肉体に伝わった。
 瞬時に甦る幾重にも重なり、混じり合った過去に得た感触だった。
 目まぐるしく、走馬灯の様に交錯する様々な感触、体験、若かりし頃の豊かな色彩に彩られた記憶がわたしを過去へと引き戻す。
 だが、そんな過去も今のわたしには枯れ葉の世界に埋もれた遠い日々の記憶でしか無かった。
 あの日々の再び戻る事は無い。
 わたしの心は萎えていた。
 この店のいかがわしさにも係わらずわたしは、女が静かにして居てくれる事を願わずには居られなかった。
「このお店へは初めていらっしゃったんですかぁ」
 女はなお、屈託のない声でわたしを見詰めて言った。
 歳は幾つぐらいになるんだろう ?
 二十歳  ? あるいは、二十一歳か二歳にはなるのだろうか ?
「そう、初めてなんだ。霧に包まれた夜の街があんまり綺麗だったもので、歩いて来たら呼び止められた」
 若い女の屈託の無さに誘われて自ずと柔らかい口調になっていた。
「旅行でいらっしゃったんですかぁ ?」
「そう」 
 わたしは無意識の裡に取り繕っていた。
 こんな所でわたしが誰かを知られては拙い。
<スーパー・マキモト>の存在が頭の中にはあった。
 この事が直接、営業に影響を及ぼす事は無いかも知れないが、もし、噂が広がれば店員達の間でわたしの権威は忽ち失墜してしまうだろう。
 北の小さな漁港街のピンクサロンで遊んでいた会長。
 社員や店員達は蔑みの眼でわたしを見るだろう。
「でも、こんな辺鄙な漁港街へ旅行で来るなんて珍しいですよぉ」
 女は言ったがわたしの言葉を疑う様子は無かった。
「観光客が来る事はないの ?」
 言い訳でもする様にわたしは聞いた。
「仕事なんかで来る人は時々いますけどぉ、観光なんかで来る人はあんまりいないですよぉ。ロシア人達はよく来ますけどぉ」
「ロシア人 ?」 
 わたしは意外な思いで聞いた。
「そうなんですよぉ。漁船に乗ったロシア人達が蟹やお魚を持ってこの港に来るんですよぉ。それでぇ、隣り町まで行ってぇ、日本製の電気製品なんかを買って行ったりするんですよぉ」
 女はそれが当たり前の事の様に言った。
「ああ、そうか」
 わたしは納得する思いだった。
 と同時に早くもわたしは長年の習慣から身に付いた、経営者としての立場からこの事を考えていた。
 息子や店長はこの事を知っているのだろうか ?
 当然、知っているだろう、と思った。
 市場調査の為に息子は何度もこの街に来ているのだ。
 店長はどうだろう ?
 いずれにしても、この街ではロシア人相手の商売が成り立つかも知れない。
 女の言葉はわたしには予期せぬものだったが、それとは別に改めてそんな情報の何一つわたしの耳に入っていなかった事にわたしは、小さな驚きと共に些かの寂しさをも感じ取っていた。
 これが、息子が完全に独り立ちをしたという事なのだろうか ?
 殊更、わたしに反抗的な息子では無かったが、それでもわたしは、北の街での細かな情報の何一つ、わたしの耳に入れる事無く仕事を進める息子に次第に遠くなって行く姿を見る思いがして、一抹の寂しさを覚えずにはいられなかった。
 その後ろにはやはり妻の影がある。
 𠮟咤激励する妻。
「あなたのお祖父さんなら」「あなたのお祖父さんは」
 幼い頃から母親に飼い馴らされて来た一人息子は、漸く母親離れをしたとはいえ、未だにその影響の皆無だとは言い切れないものがあった。
 事に当たっての決断にはわたしより先に母親の意見を求める。
 すると母親は息子の父親であるわたしの意見を聞く事も無く「失敗を恐れるな。兎に角、遣ってみろ。決断は迷わず、損切は早くしろ。迷ったら負けだと思え、それがあなたのお祖父さんの口癖だったのよ」と言う。
 息子はそれで漸く、公園で遊ぶ許可を貰った子供が表へ飛び出して行く様に心を決めて、危ない橋も渡って行く。彼の祖父を思わせる強引さで。
 幸い、今日まで大きな怪我の無かった事が何よりだ。
 だが、彼等、息子も妻も、息子の祖父も、わたしが何時も彼等の歩いた跡を懸命に均して歩いていた、という事実に眼を向ける事は全く無かった。総ての事が当然の事だと思い込んでいる。ーー
 考えて見ればそんな事の総てが、わたしに取っては屈辱以外の何ものでも無かったが、今更、こんな所で悔やんでみても始まらない。今は今という時間の中に自分を埋め尽くして総てを忘れてしまうがいい。
 わたしはそう自分を納得させると初めて、若い女の裸体にも見える衣装を纏った柔らかい肉体に腕を廻わした。
 踏み込んで女の世界に入って行く事は出来ないが、その肉体の甘味な感触だけは楽しむ事が出来る。




             ーーーーーーーーーーーーーーーーー




              takeziisan様

       
                彼岸花 もうそんな季節になりましたか  
               それにしてもこの猛暑 彼岸花の実感が湧きません
               田圃などの畦道に一面に咲く彼岸花 あの爽やかな秋の気配が懐かしさの中に
               偲ばれます
                朝五時台の出動 お元気な証拠ですね
               わたくしは五時前後に一度眼を覚まし 六時半の起床に向って
               また一寝入りです   
               幸い 寝付きは良く ぐっすり眠れもします
               お陰様で健康体で老人介護保険料など少しはキックバックしてくれ と
               ボヤキたくもなります
               クスリを呑む事も無く保険料の厄介になるのは    
               毎年の健康診断料のみです
               奥様の薬の分別 母親を思い出しました
                チャップリン 街の灯 良いですね
               ドタバタの中に込められたヒューマニズム
               他の喜劇には無い優れた要素です 天才が偲ばれます
                川柳入選作 それなりに状況を読んでいるとは思いますが
               これは・・・と言った身を乗り出す様な秀作はない気がします            
               鋭い皮肉の利いた作品が欲しいですね
                この暑さ 何時まで続くことやら
               運動 身体を動かす事 歳を重ねれば重ねる程
               必要になって来ると思います どうぞ これからもウォーキング 水泳 続けて下さい
               何か一つの趣味を持つ事も大切ですね
               川柳も頑張って下さい
                有難う御座いました

 
   




遺す言葉(514) 小説 <青い館>の女(3) 他 食べて眠る

2024-09-08 11:48:52 | 小説
            食べて眠る(2024.8.14日作)



 
 眠りなさい ただ 眠りなさい
 あなたが人生に何も見い出せない
 そう言うのなら眠りなさい
 眠って眠って眠って眠る
 眠りは仮相の死 一時的な死 そこでは
 何を考える事も無く 何をする事も無い
 ただ眼を閉じ闇の世界に身を置くだけ
 時には天国地獄 絵図を見る事 
 あるかも知れない それはそれ
 仮相の世界 一時的 夢の世界
 眼を開けば消える
 あなたがそうして眼を開いたなら また
 食べて眠りなさい 眠って覚めたらまた食べる
 その繰り返し 繰り返しのその中できっと何時かは 
 単調なその世界 射し込む光りが見えて来るはず
 何も無い する事が無い 虚無 無の世界
 そこに射し込む僅かな光り それこそが本物 真実あなたの
 心の世界
 眠って眠って眠って眠り 食べ食べて食べて食べる
 いったい 俺は何を遣ってるんだ !
 何時かはそんな自分が見えて来るはず
 何も考えない 何も見ない 何もしない
 虚無 無 無の世界 そこに射し込む光り
 一筋の僅かな光り その光りこそが
 真実 本物 あなたの世界 きっと
 あなたを活かしてくれる希望の光り
 希望の光り そこに向って歩いて行く
 歩いて行けばいい あなたはきっと
 そこで生きられる
   それまではただ 眠って眠って眠って眠る
 食べて食べて食べて食べる そしてまた
 眠る その繰り返し 無 無の世界
 無の世界を生きる  生きる事 ただ生きる
 そこに望みが生まれる 希望の光りが見えて来る
 それこそが本物 あなたの世界



           
             ーーーーーーーーーーーーーーーーーー




             <青い館>の女(3)




 
 わたしは酔ってはいなかった。
 少しの酒が深い霧の中でも寒さを感じさせない程に身体を温めていたが、頭も身体も動きは明晰、活発だった。
 それに、わたしはまだ物事の判断を誤る程に思考力が衰えてもいなかった。
 その中でただ、年々、加齢と共に増して来る虚無の思いだけが深くなっていた。
 絶えずわたしを脅(おびや)かし続ける心臓疾患が死に関して無関心でいる事をさせなかった。
 もう見えて来た人生の境界線、生と死の分岐点。
 その前でわたしの生きて来た過去がわたしを苦しめる。
 悔いと自己憐憫。
 哀れな男の姿だけが見えて来る。
 だが、わたしは一体、幸福だった時の自分を知らないのだろうか ?
<スーパー・マキモト>の社長としての自分を誇りに思い、得意になって、嬉々として仕事に励んでいた日々は無かったのだろうか ?
 否、そんな事は無い。
 恐らくわたしにも心の晴れやかだった日々の無かった事は無いのだ。ただ、今のわたしにはそれが思い出せない。
 思い返すわたしの過去に浮かび上がって来るのは何時も、妻と義父の姿だった。過去のあらゆる物事がその姿の前に掻き消され、呑み込まれてしまう。
 苦さと共に生きた妻との三十数年。
 屈辱と悔悟に彩られた歳月。
 しかし、今更、悔やんでみても始まらない事だった。
 もう、わたしには様々な悔いを抱いた心のままに、既に見えて来た人生の境界線に向って歩いて行くより外に出来る事は無い。
 その人生に望む物は何も無い。
 何時、変調を来すかも分からない心臓疾患がわたしの心も身体も制約する。
 年々、深くなる心の裡の虚無を抱いたままわたしはこれからも、妻との不毛の人生を生きて行く。
 息子は恐らく、わたしが居なくても大丈夫だろう。確実に会社を発展させてゆく事だろう。
 会社経営にかけては、息子はわたしより上だというのが専らの評判だった。
 そんな息子を見守りながらわたしは、枯れ木が朽ちてゆく様に朽ちてゆく。
 それにしてもわたしは一体、何故こんなにも心臓疾患に拘るのか ?
 死ぬ事がそんなにも怖いのか ?
 死んでしまえば何も分からなくなってしまうだけの事ではないか ?
 一体、わたしは生きる事の何に未練を残しているのだろう ?
 わたしには、わたしの心が分からない。
「お一人様御案内 !」
 霧に包まれた夜の街でわたしを案内した男は、薄暗い廊下にある店の薄汚れた黒い扉を開け、奥に向って言った。
「いらっしゃいませ」 
 途端に、奇術師の様に突然、扉の陰から姿を表した背の高い瘦せぎすな男が丁重に頭を下げて言った。
「どうぞ、こちらへ」
 わたしは店の外にいた若い男に案内され、漆喰の白い壁が汚れている急な階段を降りている時、ふと、自分が二十代の頃の自分に還っているかの様な奇妙な錯覚に捉われた。
 と同時に、自分に取ってはそれが青春の性の唯一の捌け口だった事が改めて思い出されて、あの頃はよく、この様な階段を降りていたものだった、と思った途端に、現在の自分が如何にも場違いで惨めな場所に足を踏み入れている様な気がして来て激しい嫌悪感に捉われた。
 このまま踵を返して地上に戻ってしまおうか・・・・そう思った時には既に遅かった。階段は尽きていた。
 黒い扉が開けられ、薄暗い内部が眼の前にあった。
「足元にお気を付け下さい」
 扉の陰から現れた背の高い痩せぎすな男はわたしに言うと、足元を懐中電灯で照らして、わたしは弥(いや)が上にも店内に引き入れられていた。
 懐中電灯で足元を照らす背の高い男はすぐにわたしの前に立って、両側にそれぞれカーテンで仕切られた個室が並んでいる狭い通路を奥に向かって進んで行った。
 カーテンの透き間からは赤色(せきしょく)の暗い明かりが小さく漏れていた。
 中から聞こえる人の蠢く気配と囁く声がわたしの不安を誘った。
 旨くこの場の雰囲気に対応出来るだろうか ?
 わたしを案内した男はカーテンの開いている個室の前で止まるとわたしをかえり見て小さく頷いた。
 男はそのまま部屋の中に入って小さなテーブルの上のスタンドランプに手を延ばして明かりを点けた。
 テーブルの前にはこれも深紅の深々としたソファーが置かれてあった。
「どうぞ、奥の方へ」 
 男は二人掛けのソファーを指して言った。
 わたしが中へ入って腰を落ち着けると男は、
「誰か、御希望の子はおりますか ?」
 と聞いた。
 怪しげな思わぬ場所へ足を踏み入れてしまった事への後悔と共にわたしは不機嫌な声で、
「いや」
 とだけ答えた。
 男はその答えには係わりなく、
「前金で一万円戴く事になっております」
 と言った。
 わたしが上着の内ポケットを探って財布を取り出し、一万円札を渡すと男はそのまま、
「時間は一時間限になっております。飲み物は追加が自由になっています」
 と、店内の規則を説明してから、
「少々、お待ちください。只今すぐに女の子が参ります」
 如何にも事務的な口調で言ってそのままカーテンを閉め、去って行った。




             ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




               takeziisan様


                有難う御座います
               取れ過ぎちっゃて困るのよ
               贅沢な悩み 大腸がん手術をしたので 日頃
               野菜を多く取る食事をしています
               その野菜の高いこと高いこと 総てがべら棒値
               年金生活者には堪えます
               出来たら貰いに行きたいものです それにしても
               雑草 こいつには全く困りもの 屋上のプランターでさえ
               たちまち雑草の山 人間もこの位 活力があるといいのですが
                たったこれだ ?
               何事も実際の実入りとなると少ないものですね  
                旅愁 観てないですね 昭和二十七年 まだ中学生
               田舎に居ました 曲は勿論 知っています
                夜霧のしのび逢い これは観ました
               あの主題曲と共に終末部分の二人の別れのシーンに
               ジーンと来た事を今でも覚えています
                主題曲と共にもう一度 観てみたいですね
               自分の感情が何十年も経ってどの様な反応を見せるか
                荒野の七人 矢張り原作には敵いません
               七人の侍 封切を日劇で観ました あの雨の中の決闘シーン
               その迫力に圧倒されました
               名場面ですね 黒沢監督が四つのカメラで撮ったという事で
               話題になりました
               映画史上十指に入る名作だと思います
                20度 ? ちょっと考えられないですね
               気違いじみたこの暑さ 今日も既に猛暑です
                なかなか腰が上がらない
               実感です 年々 動く事が億劫になって来ます
               かと言って動かないでいると衰えるばかり
               生きるという事もなかなか辛いものです
               もう少し 生きていたいと思いますので
               弱音を吐いたら終わりと頑張っています
                    カマキリ この獰猛な生き物 以前 NHKテレビで
               舳倉島でカマキリが小鳥を捕まえて食べるシーンを放送していました
               小鳥がカマキリを食べるのではなく
               カマキリがあの鎌で小鳥を捕まえる びっくりしました
               世の中には何があるか分からない
               この世の中の複雑怪奇さ 単純な自分勝手の思い込みは通用しない様です
                有難う御座いました












































遺す言葉(513) 小説 <青い館>の女(2) 他 生きる目的

2024-09-02 11:13:54 | 小説
             生きる目的(2022.1.15日作)



 人間が地球上に生きる
 究極の目的
 人間 一人一人が その国 その地域の文化の下
 如何に幸福に生きられるか その点に有り
 政治も 思想も 科学も 化学も
 その為に 奉仕されるべきもの
 思想の為の思想 科学の為の科学 化学の為の化学 政治の為の政治
 思想至上主義 科学至上主義 化学至上主義 政治至上主義 総て
 邪道
 人の心 人の幸せ
 その原点を忘れた思想や科学 化学や政治
 やがて
 人類の破滅 滅亡という道を
 辿るだろう




             ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




          
               <青い館>の女(2)



 

 わたしが社長の時代にも義父は会長職にいた。
 その点では義父の死に伴う今度の人事にも何らの不自然さは無く、わたしが現在の立場を不満に思わなければならない理由は何も無かった。
 わたしが社長を補佐して要所要所を押さえ、社長の経験不足による失敗を補つてゆく。
 だが、<スーパー・マキモト>創業者として、店頭市場に株式を公開してからも、なお七十パーセントに近い自社株を保有して絶大な権力の下、ワンマンと言われた義父とわたしとでは同じ会長と言っても雲泥の差があった。
 現在、わたしには株式総数の六十数パーセントを二人で持つ妻と妻の母親が居た。義父の様に絶対的権力を行使する事は出来なかった。
 総ての事が妻と妻の母親の意向によって決定される。
 その上、わたしには義父の様な豪胆さも無い。以前から、細心、細やかな心配りをする社長と言うのが、現場で働く社員達のわたしに対する評価だった。
「厭ならやめろよ」
 義父の口癖だった。
 札束で頬を張る。
 倒産企業の買い叩きは義父の最も得意とする手法だった。
「血も涙も無いね、あの社長は !」
 それでいて他人の恨みを買う事が無かったのは何故だったのだろう ?
  頑固一徹でありながら、何処か大雑把なところの透けて見える人柄が多くの人々の気持ちを和らげていたのかも知れなかった。
 そんな義父の仕事ぶりに対して、社長のわたしが口を挟む余地は殆ど無かった。第一、わたしが口を挟んだとしても義父は端(はな)から受け付けない事は眼に見えて明らかだった。
 わたしの役目はただ、義父が強引なまでの手法で切り開いた荒れ地を均して後から付いて行く、それだけのものと言ってよかった。
 殊更、わたしが意識してした事では無かった。わたしが生まれた環境ーー家の貧しさ、妻との結婚に至るまでの過程、様々な条件が重なり合った結果に依るものに外ならなかった。
 義父が死んだ時、専務であったわたしの妻はわたしに言った。
「孝臣を社長にして、あなたは会長の立場からあの子を見てやって下さい」
 わたしに異存はなかった。
 異存を言っても始まらなかった。
 株式の絶対多数を妻とその母親に握られている以上、わたしの意見は通らないのだ。
 それに、息子が社長になる事に父親のわたしが敢えて反対をしなければならない理由も無かった。赤の他人に権力が移る訳ではない。
 心筋梗塞で倒れた経験を持つわたしには、体力的にもまた自信が持てなかった。
 日常の生活には格別の不自由は無かったが、激務に耐えられるか ?
 幼い頃は何かと母親の言いなりに成りがちだった息子もこの頃には、少しずつでも自分の考えを持つ様になっていて今度の、一見、辺鄙とも言える北の小さな漁港街への進出を決めたのもその一つの例だった。
 息子は大手スーパーの間隙を埋める様に小まめに地方へ足を運んでいた。
 そして、わたしは今度もまた、義父の跡を均して歩いた様に息子の開いた跡を均して歩いている。
 何事もわたしの提案には素直に頷かない妻も、義父に性格の良く似た息子の大胆な提案にはよく耳を傾けた。
 妻はわたしとの出会いの当初から、あらゆる面でわたしなど念頭に置いていなかったのだ。
 妻の腰巾着の様に何事も彼女の言いなりだったわたしなら御し易いと考えて、数多く居た彼女に言い寄る男達の中からわたしを選んだのに違いないのだ。
 妻は学生時代から誰の眼も引かずには措かない評判の美貌の持ち主で、裕福な家の気位の高い一人娘だった。

「会長、お帰りになられるんですか」
 店長がわたしの傍へ来て言った。
 三十八歳の高木という店長とわたしは今日、初めて会った。
 息子が隣り町にある大手スーパーから引き抜いて来た男だったが、息子の眼に狂いは無さそうだった。
 切れの良い彼の言動には好感が持てたし、他人への接し方一つ採ってみても自然に滲み出る柔らかさがあって、この男なら、まず、間違い無いだろう、わたしは秘かな満足感の裡に合格点を付けいた。
「うん。ちよっと疲れたから先に帰るよ。皆さんには宜しく伝えておいてくれ」
 パーティーの主要な行事も済んで会場が乱れて来た時、わたしは若い社員を捕まえて、
「そろそろ帰るから、店長には後でそう言っておいてくれ」
 と告げて会場を後にしようとすると、店長は早速、その言葉を聞き駆け付けて来たのだった。
「はい、分かりました。じゃあ、ちょっとお待ち戴けますか、すぐにタクシーを呼びますから」
 店長は気を利かせて言った。
「いや、タクシーは要らないよ。歩いて帰ろう。ホテルまでは近いし、此処は初めてなんで街の様子を見ながら海岸通りを行ってみよう」
「そうですか。では、お気を付けてお帰り下さい。わたしはもう少し、皆さんのお相手をしていますので」
「うん、そうしてくれ」
「明日はホテルから直接、お帰りになられますか。それとも一度、お店の方へ来て戴けるのでしょうか。多分、開店セールで混雑すると思うのですが」
「一度、顔を出すよ。東京へ帰るのは多少、遅くなっても構わない」
「帰りの航空券は ?」
「いや、未だだ。ホテルで聞いたら何時でも取れるだろうという事だった」
「わたし共の方で手配致しましょうか」
「いいよ。忙しい中で、そんな心配は要らない。それより、みんなも早く切り上げて明日に備えた方がいい」
「はい。分かりました」
 パーティー会場のある建物を出ると外は深い霧だった。わたし自身も霧に包まれて見知らぬ街を歩いて来ると、突然、霧の中から現れた男がわたしを誘ったのだった。




              ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




                taheziisan様


                 懐かしい映画音楽の数々 音楽に限らず
                映画自体も昔のものは良く作られている様に思います
                最近の映画は日本映画に限らず ハリウッドの物でも
                何かつまらない様に感じます 映像自体が軽くなっている様な気がして 
                なりません
                 ハリウッドには昔は綺羅星の如くスターが存在して居ましたが
                今はどうなのでしょう かつての様にスターが並び立ってはいない様な気がしますが
                 哀愁 愛情物語 ベンハーのスケールの大きさ
                 哀愁 は日本の 君の名は の原型ですね
                 ウォータールーブリッジが数寄屋橋
                 ヴィヴィアン リーの被っていた帽子が真知子巻き 
                 後はドラマの好評の結果 次々と物語が独自に展開してゆく 
                 一世を風靡した ドラマでした              
                 懐かしいですね
                  愛情物語も良い映画でした
                 亡くなった永六輔さんがよく タイロン パワーが終戦直後の
                 銀座の四丁目十字路で交通整理をしていた と言っていましたが 
                 わたくしが東京へ出た頃は既に進駐軍はいませんでした             
                 みんな遠い思い出です
                  遠い思い出と言えばかつての山小屋で勉強をしていた次男さんでしょうか
                 アメリカから一時帰国されたとの事 時は過ぎ行くですね
                 お疲れ様でした ちよっとした環境の変化が身体に応える
                  お互い そのような年齢を生きているのですね        
                  川柳 
                 呑み助は あれやこれやと 口達者 
                  と言うところでしょうか
                 春になれば花が咲き 老木は枯れてゆく
                 人生ですね
                  自然に溢れる音楽 電線の五線譜 鵜は
                 歌っている様に見え 花は踊っている
                  今回も様々 楽しませて戴きました
                 有難う御座いました



























遺す言葉(512) 小説 <青い館>の女 (1) 他 青春の時

2024-08-25 12:23:06 | 小説
               青春の時(2024.7.29日作)



 
 哀しみは何時も深く長い
 喜びは何時も短く過ぎて行く 
 おお 青春 青春の時よ
 せめて今 喜び溢れ
 歓喜の横溢するこの時
 精一杯 自分の今を生きるがいい
 老いは長く 青春は短い
 人の世の終わりが何時も 哀しみ
 悲哀で彩られ 
 涙と苦悩で染め抜かれるものなら
 今 光り輝く青春の時 わが青春
 この時を精一杯生きて
 生きるがいい
 人の一生は短い
 刻一刻 時々刻々 刻み取られ
 削り取られてゆく人生の時
 時は一刻一秒 止む事なく
 ただ過ぎて行く




             ーーーーーーーーーーーーーーーーーー




               

                 <青い館>の女(1)



                (1)



「社長、若くてピチピチしたいい子が居ますよ。ちょっと寄っていって下さい。たった一万円、一万円でいいんですよ。それで気に入れば、一晩中でも相手になってくれますし、社長に迷惑を掛けるような事は絶対にありませんから」
  夜の深い霧の中から突然現われて若い男は言った。
  港の遠い何処かで霧笛が鳴っていた。 
 わたしは男の言葉も無視して歩いた。
 わたしの眼の前には白い霧の流れがあった。
 あらゆるものを包み込んで流れる霧は総ての物を見えなくするとたちまち薄い流れになって再び街の姿を垣間見させた。 
「ほら、あの店なんですよ。あそこに<サロン 青い館>ってネオンサインが見えるでしょう」
 男はわたしの身体を抱きかかえるように身を寄せて来て言った。
 北の街の白い霧に濡れて、夜の中に青い灯りが点滅しているのが見えた。
 時刻は午後九時にもならなかったが、整然と街路樹の立ち並ぶ石畳の通りには人影もなかった。
 北の街の夜は更けるのも早いのだろうか、あちこちのネオンサインだけが 暗い建物の影を映して霧の中に瞬いていた。
「高級な店なんで若い客もいないし、落ち着いて遊べますよ」
 白いシャツに黒の蝶ネクタイ、黒いズボンの男はいかがわし気な仕事柄にも係わらず、何処か実直そうに見えるのが可笑しかった。
「いい子が居るっていうのに嘘はないのか ?」
 わたしはそんな男にふと、悪戯心を刺激されて少しの酒が入った勢いで言っていた。
「ええ、嘘なんか言いませんよ。騙されたと思って兎に角入ってみて下さいよ」
 男はわたしが承知をしたものと思ったらしく、気負い込んで言うとわたしの身体に腕を巻き付け、強引に狭い入口の階段のある場所へ導いた。
 背後から男に支えられる様にして十段程の階段を降りた。
 眼の前には入口の上に青い豆電球を点して薄汚れた黒い扉があった。
「此処なんです。どうぞ」
 わたしの顔を見て男は言った。
 わたしはこの時初めて、からかい半分の冗談を言った事を後悔した。
 わたしには女達のいる店を探す気などまるで無かった。わたしが会長を務める<スーパー・マキモト>の新店舗開店祝賀会会場からの帰り道だった。
 わたしは今年、四月を過ぎて六十二歳になっていた。
 わたしの上着の内ポケットには常にニトログリセリンの舌下錠が忍ばせてあった。
 まさかの心臓発作に備えてのものだった。
 主治医は慢性の心臓疾患をわたしに宣告していた。
 現在、日々の活動にさしたる支障はなかったものの、その宣告はわたしの心の中では無意識裡の負担になっていた。
「変だと思ったらこの錠剤を口に入れて下さい。言うまでも無い事ですが、激しい運動などは控えて下さい。運動に限らず、心臓に負担の掛かる様な行為は何事であれ控えた方がいいですよ」
 医師は言ったが、言外に女性関係に付いて警告している様にしかわたしには受け取れなかった。
 主治医に言われるまでも無い事だった。
 わたしは既に女性への興味を失くしていた。
 命に対する不安と共に肉体的機能もまた失われてしまっていた。
 現在、わたしは自分を抜け殻の様に感じていた。
 時として、その不可能性がわたしに奇妙な解放感をもたらす事が無いではなかったが、何れにしてもわたしは過去に重ねて来た幾多の女性関係も今ではすっかり解消してしまっていた。
 虚無の思いだけがわたしには深かった。
 当然それは、わたしが生きて来た過去と無関係ではあり得なかった。
 わたしと妻との関係、会社に於けるわたしの立場。
 わたしは妻の父が創業した<スーパー・マキモト>の仕事に大学卒業と同時に係わって来た。
 それは一見、恵まれた事の様でもあったが実際にはわたしは、自分が牧本家の奴隷以外の何ものでも無いと思う事がしばしばあった。
 屈辱感の中で煮えたぎる思いと共に一切のものを投げ出し、会社を離れ、妻と妻の父の下を離れて自由で身軽になりたいと思う事も数知れずあった。
 今日までそれを実行せずに来た裏には、会社禅譲への期待があったからに外ならなかった。
 今日、わたしは<スーパー・マキモト>が関東、東北地方を離れて初めて北海道へ進出した記念のパーティーに出席した。
 開店を明日に控えてのパーティーは地元の有力者も交えての盛大なものだった。
 会長のわたしは支店長を始め、町長や町会議員、地元経済界の人達の至り尽くせりの歓待に音を上げたい程だった。
 地味な漁港街の、それも街の中心地から遠く離れて忘れられた様な土地柄では大手スーパーが進出して来る事も無くて、地元の期待はそれだけ大きかった。
「これで、ちょっとした買い物の為にわざわざ二百メートルのトンネルを抜けて、隣り町まで行かなくても済む様になりました。それに、この大型店に地元で獲れた鮮度のいい海産物を置いて戴ければ余所の町からのお客さんも呼び込めますからね」
 七十歳に近いと思われる町長はウイスキーの水割りグラスを手に上機嫌でわたしに言った。
 わたしはだが、一つの支店が開店に漕ぎ着けた満足感の中でも奇妙に胸の中にわだかまる一抹の寂しさを感じていた。
 既にわたしは経営の第一線から退いてしまっている。
 この北のはずれの街への進出も義父の死と共に社長に就任した、わたしの息子が計画し実行したものだった。
 ほぼ、三年前からこの様な形が形成されていた。
 それはわたしが心臓疾患を意識する様になった歳月と重なり合うものだったが、実際には心臓疾患と人事とはなんの関係もなかった。
 妻や、妻の父親が描いた筋書き通りに総てが運んだ事の結果に依るものだった。
 ーーわたしは会長に就任して社長の後見人になる。




             ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




               takeziisan様


               有難う御座います 
              白馬三山 4 きれいな絵に思わず見入ってしまいました
              この山々の美しさと冷え冷えとした空気 登山愛好家が
              魅せられる気持ちが分かります
              今朝もNHKで放送していましたが同じ山に百回登ったとか
              いろいろな話題を取り上げていました
              それにしても鎖場 力業ですね
              力業と言えば千メートル泳ぐ まだまだこれから
              体力気力 充分 傍目にはそう拝見出来ます
              腰痛に負けず是非 頑張って下さい
              頭脳も肉体も使わなければ退化するだけです
               ジミー時田 池真理子 懐かしいですね
              バッテンボー 昔が蘇ります
              ジェイムス デーン モンロー
              帰らざる河 このモンローは良いですね
              ジャイアンツの デーンとテーラー 一世を風靡した二人も
              もう居ない なんだか 総てが夢の様です
              現実はうそ寒い 今の世界に華やかさを感じる事が出来ません
              総てがお手軽な世界になってしまった様な気がします
              それにしても今はこうして手軽に過去をかえりみる事が出来る
              手軽になったと同時に便利さも感じます
              一面の進歩と一面の退歩 これが現実と言うものでしょうか
              有難う御座いました















遺す言葉(511) 小説 希望(完) 他 神は無力

2024-08-18 12:35:09 | 小説
             神は無力(2024.8.11日作)



 
 神よ もし あなたが存在するのなら
 この広大無辺の宇宙の中の小さな星 地球で
 今 現に引き起こされている
 あの地 この地に於ける悲惨な出来事
 数限りない惨状悲劇をどのような眼差しで
 御覧になっておいでですか ?
 神よ 現在 あなた方がこの世界を創ったと信じる
 数多くの人々が あの国 この国に存在する中で 
 あなた方はその人達に何を望んで 何を
 お恵みですか ? この地球上
 あの国の人々が帰依信奉する あの神
 この国の人々が帰依信奉する この神
 国の数だけ存在すると思われる神 神々
 数多くの神々 その神とはいったい
 どのような存在なのですか ?
 只今現在 この地球上 世界各地で繰り返される 
 様々な惨状悲劇 そこに眼を瞑り ただただ
 豪奢 絢爛 金銀財宝で飾り付けられ
 磨き上げられた神殿神社仏閣 その中で
 あなたの存在を世界に吹聴する
 神の下僕(しもべ)と称する者達に あなたの
 尊さ 偉大さを喧伝させて あなたはただ
 この世を超越した存在として 眠っておられる
 それのみですか ? その神 神々とは
 この人間社会に於ける存在として
 どのような価値と意義をお持ちなのでしょう
 お題目で飾られただけの神
 虚飾で彩られただけの神 もし
 あなたがそれだけの存在であったとするのなら
 神はこの世に存在しない
 神などこの世界には居ない
 それと同等 同じ事ではないのでしょうか ?
 そうです 私は思います
 この地球上 世界には神など存在しない
 全知全能 世界の人々 人類の苦難 苦境
 救い得る神など存在しない 人は 人類 人間は
 この広大無辺 宇宙の中に
 ポツンと放り出された孤独な存在
 誰に頼る事も叶わず
 誰に縋る事も出来ない
 孤独な存在 それが人間 人間社会
 その孤独な人間 人間同士 只今現在
 あちらの国 こちらの国 互いに
 憎しみ いがみ合い ののしり合って怒りをぶっ付け
 挙句の果ての惨状悲劇 その繰り返し
 神よ 世界のあちこち 各国各地に存在する神々達よ
 もし あなた方が存在するのなら   
 あの国 この国 各地の人々 数限りない世界の人々が信じるように
 人類 人間を超越した存在としての能力 その力を
 存分 充分に発揮して 只今現在
 この世界 地球上で絶え間なく繰り広げられる
 数限りない惨状悲劇を一刻も早く
 お収め下さい・・・・・否 否 否 !
 それは不可能 無理な事
 やっぱり神など存在しない
 この世の惨状悲劇を救い得る
 優れた神など何処にも居ない この地球上 この世界
 只今現在 絶え間なく繰り広げられる数々の惨状悲劇
 収め得るものはただただ人間 人間のみ
 広大無辺の宇宙の中 誰に頼る事も叶わず 誰に縋る事も出来ない人間 その人間のみ 
 人間 人の持つ心 真心 良心 世界の惨状悲劇を救い得るただ一つのもの
 世界各国各地 おのおの帰依 信奉する幾多の神々
 その神々 神達が この世の惨状 悲劇を収め得るなど
 あり得ない この世界 あの地 この地で勃発
 絶え間なく繰り返される醜い争い
 自国の神 自身の帰依 信奉するあの神 この神
 それらの神々故に引き起こされる醜い争い 愚かな諍い
 世界各地に於けるあの神 この神 その神々達はただただ
 悲劇の根源 災厄受難 その源 それだけの存在
 もう沢山 ! うんざりだ 
 全知全能 無限の力の神など何処にも居ない
 この宇宙 宇宙の中の小さな星 地球 地球に於ける
 孤独な存在 人間 人間
 誰に頼る事も叶わず
 誰に縋る事も出来ない
 そんな人間のみが この世の醜い争い
 愚かな諍い 蛮行 愚行 収め得る
  無能な神々 空疎な神 もう沢山だ !
 人 人 人 ただ 人
 人の心 真心 良心 この現実社会の悲惨な出来事
 醜い争い 蛮行 愚行 収め得るものは ただ 人間のみ
 人間 人 人 人 人の心 真心 良心 現実社会の悲惨な出来事 
 醜い争い 蛮行愚行 収め得るものはただただ
 人間のみ 人間 人の心 真心 良心 心 心 心 ただ心 
 人間 人間 人間 人間の心 真心 良心 この世界 地球上
 あちらこちらで勃発 繰り返される
 醜い争い 愚かな行為
 収め得るものはただ人間 人間 人の心 真心 良心
 無能で無力な神などではない
 他者を敬い 他者を尊ぶ人の その心 真心 人の 良心 それのみ
 全知全能 人間社会の愚かな争い 愚行蛮行 収め得る
 偉大な神など何処にも居ない !
 

          神とは人が人として生きる上で
          自身を律する為に
          自身の心の裡で秘かに育む存在 
          頼るべき存在ではない




            ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




             希望(完)



 
 
 修二は窓際の一つのベッドを占めていた。
 修二が浅い眠りから醒めると女将さんの姿があった。
 ベッドの傍でテーブルの引き出しを開け、中の整理をしていた。
 女将さんは修二の気配に気付くと振り向いた。
「眼が醒めたの ?」
 女将さんは言った。
 優しい眼差しだった。
 修二は黙っていた。
 それでも以前、しばしば見せた人を寄せ付けない険しい表情はなかった。
「さっき、医師(せんせい)が来たの。あと一週間で退院出来るって言ってたわよ」
 女将さんは言った。
「一週間ですか ?」
 修二は静かに言った。
 特別に喜びの感情も湧いて来なかった。
 退院の近い事は日々、充実度を増して来る体調と共に感じ取っていた。
 実際には修二の快復は奇跡に近いものだと医師は言った。
「若さに加え、並外れた体力が命を持ち堪えさせたんでしょうね」
 医師は言っていた。
 出血多量でその場で死んでいても不思議は無かった。ーー
 背中までも突き抜け兼ねないナイフの傷は首に近い動脈をも傷めていた。
 出血多量で十パーセントにも満たない可能性の中で快復手術は行われた。
 女将さんは午後一時過ぎの暇な時間帯をみては顔を見せてくれた。
 マスターも二度、顔を見せてくれた。
 鈴ちゃんは修二の体調が良くなるのと共に、また悪口の冗談を言った。
「踏んでも蹴っても死なないね。見上げたものよ。大したもんだわ」
 鈴ちゃんに悪意の無い事は分かっていた。
「鈴ちゃんだって、踏んでも蹴っても死なないよ」
 修二は言い返した。
 母親は顔を見せなかった。
 連絡が取れないという事だった。
 修二はむしろホットした。
 母親の顔など見たくもなかった。
 北川と鳥越は逮捕された。
 防犯カメラに映った映像と共に、修二がマスターの店で働いている事が動かし難い証拠となっていた。
 ナイフは北川、鳥越、二人共家宅捜索を受けたが発見されなかった。
 問い詰められた北川は、境川へ捨てたと言った。
 それでも発見はされなかった。
 何処かへ流されてしまったのか ?
   ナイフの行方は不明のままだった。
 マスターは二度、警察に呼び出された。
 北川達が頻繁に出入りしていた事と、修二が働いていた事で事情聴取を受けた。
 改めて<ブラックキャッツ>のリーダー傷害事件も関連付けて聞かれたらしかったが、結局はマスターの責任が問われる事はなかった。
 その話しを聞いた時、修二は何故とはなしに安堵した。
 マスターに迷惑が掛からなかった事が嬉しかった。
 退院後の生活に付いては思い悩む事は無かった。
 マスターは早く身体を治して店に戻って来いと言ってくれていた。
 事件の結果、どの様な刑が科せられるのか分からなかったが、いずれにしても、どんな結果が出ようとそれはそれでいいと思った。
 総ての結果を受け入れる覚悟は出来ていた。
 時計屋の老夫婦が二人共怪我もなく、無事だったと聞いた時には心の底から嬉しかった。溢れる満足感と共に、自分の行動が決して間違いではなかったと、改めて認識した。
 気持ちの奥には死んだ婆ちゃんの姿があった。
 婆ちゃんが喜んでいてくれる様な気がしてならなかった。
 ーーだからこそ、どんな罰を受けようが受け入れる事が出来るんだ、と思った。
 女将さんはその日も二時を過ぎてから帰って行った。
 一人になると改めて退院後の生活に付いて思いを馳せた。
 或いは、何年か拘束される結果が出るかも知れないと思ったが、それはそれでやっぱり受け入れる覚悟は出来ていた。
 総て良しだ、と修二は思った。
 たとえどんな結果が出ようとも怖れる気持ちはなかった。
 総てを受け入れる覚悟が出来ていた。そして、その果てに見ていたものは新しい自分の世界だった。今度の出来事の総てを清算する事に依って、全く新しい、真っ新な世界が自分の眼の前に開かれる気がしていた。
 警察には、もし事情聴取された時には一切、包み隠さず話す心算でいた。
 総てを清算した後の生活に付いては思い悩む事は無かった。
 マスターは度重なる修二の不祥事にも係わらず、また働かせてくれると言っていた。
 今度こそ真面目にしっかり働いて、マスターの気持ちに報いたいと思った。
 北川や鳥越を裏切った事に関しては、それ程、心配していなかった。
 マスターが背後にいる限り彼等が修二に対して手荒な行動に出る事は出来ないという思いが強かった。
 マスターはその世界から足を洗ったとはいえ、依然として大きな力を持っている事は女将さんからも聞いて分かっていた。
 修二は女将さんが帰って一人になったベッドの上で眼を閉じると、改めて自分がこれから生きて行く新しい世界への希望に胸を膨らませ、深い満足感に包まれていた。




             完




              ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




               takeziisan様


                連日の猛暑 お変わりない事と思います   
               何時も 有難う御座います
                この暑い夏 山の風景はいいですね 心が洗われます        
               それにしてもあちこち よくお出かけです
               写真を見る事によって思い出もまた 新たに甦るのではないでしょうか
               「夏の思い出」 何時 聴いてもいい歌です
               これもラジオ歌謡から生まれた歌ですね 朝と夕方 決まって流れ
               何時しか耳に馴染んだ歌でしたが 見た事も無い尾瀬の情景がまざまざと
               眼の前に浮かんで来て作詞の江間章子 作曲の中田喜直の名前もこの時
               記憶しました 懐かしい歌です 確か石井好子さんが唄っていたと思います
                ジェルソミーナ 日曜は駄目よ この曲もよく耳にしました
               旅芸人の男がふと立ち寄った地で 洗濯物を干しながら一人の女性が口にしていた
               この曲と共に甦るジェルソミーナの面影 切ないですね
               人はどのような存在であっても それなりに存在意義を持っている
               そう思わせる結末です フェリーニの傑作ですね
               ところが 日曜は駄目よ これは観ていないのです
               何故だか この主題曲と共に評判になった映画なのですが
               今も観てみたい映画の一つです
                ゴーヤ 我が家でも妹の家のゴーヤが食べきれないのでと
               お盆のお墓参りの帰りに貰って来ました
               熱さのせいで しなしなになってしまったのですが
               水に浸けたら快復しました
                カガッポシイ 初めて聞く言葉です
               輝く に掛かる言葉でしょうか 面白く思いました
               方言には 思わぬ深い意味が込められている場合が多いですね
               参考になりました
                有難う御座いました

































 





遺す言葉(510) 小説 希望(34) 他 忘れてならぬもの

2024-08-11 12:39:18 | 小説
             忘れてならぬもの(2024.8.2日作)



 
 わたしは見た
 山の麓の 小さな里に生きる二人 
 畑を耕し 田圃を耕し 自然の恵みの中
 長い歳月(としつき)生きて来て 今二人
 子等も旅立ち 出会いの頃の
 二人だけの静かな日常 静かな日々
 今も変わらず畑を耕し 田圃を耕し
 自然の恵みの中に生きている 
 名も無く 誰に知られる事も無い
 それでも誠実 真摯に日々 日常
 生きて来て 静かに暮れる今日一日
 その終わり 遠く彼方の山の端  
 夕陽の沈む彼方に向かい 二人揃って
 両手を合わせ 頭(こうべ)を垂れる
 眼には見えない 名には知れない何かに向って
 感謝の心 明日の無事を願う心で 祈りを捧げ
 暮れく陽の中 家路を急ぐ
 人の暮らし 人の日常 静かな日々
 これに勝る幸せ無く これに優る人の
 生きる姿は無い 生きるという事
 人が生きるという事
 静かな日常 静かな日々 その中で 人は
 人の命を繋いで 人の心を伝えて生きて来た
 生きるという事 何も無い静かな日常 
 静かな日々 その尊さ 美しさ 
 忘れてならぬもの




             ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




              希望(34)



 

 老婆を片腕に抱えたまま、その体にローブを巻き付け始めた。
 老婆はそんな北川の腕から逃れ様として白髪(しらが)を乱し、必死な様子で抵抗した。
 それでも屈強な若者の力に老婆の力が及ぶはずも無かった。怯えながら身体を振るわせて泣く老婆の身体にはたちまち白いロープが巻き付けられた。
 修二は目隠しをされた老人のローブを握ったまま、逃げられない様に用心してそんな様子の一部始終を見ていたが、その時だった。ふと、寝間着姿の胸元を乱して白髪頭を振って泣きながら必死にもがく老婆の姿に、突然、折り重なる様にして浮かんで来る一つの姿を見ていた。
 修二はハッとした思いで息を呑んでいた。
 今、眼の前に居るのは一介の見知らぬ老婆の姿では無かった。死んだ婆ちゃんの姿がそこにあった。
 修二の父親で、婆ちゃんに取っては息子、その息子の介護をしながら日々の貧しい暮らしの中で必死に生きて、最後には自身がボロ屑の様になって死んでいった婆ちゃんの姿だった。
 今、眼の前で泣きながら必死に抵抗する老婆の苦痛に歪んだ顔と姿は、紛れもなく死んだ婆ちゃんの姿そのものだった。見知らぬ老婆の姿ではなかった。
 修二は我知らず叫んでいた。
「やめろッ ! オイ、止めろよッ !」
  身体の底から沸き上がる激しい怒りと共に、握っていた老人のロープも離してい た。
 北川はそんな修二の突然の怒号に呆気に取られた様子で修二を見た。
 修二の眼と北川の眼が合った。
 それでも北川は事態が呑み込めない様だった。
 修二はなおも怒りに燃える厳しい眼で北川を見詰めたまま、
「そのお婆さんを離してやれよッ !」
 と叫んでいた。
「なんでだよお、バカ野郎 !」
 北川は事態が呑み込めないままの様子で怒りに満ちた声で言った。
「なんでもいいから、離してやれッ !」
 なお、厳しい命令口調で修二は言った。
 その手には刃を開いたままのナイフが握られていた。
 北川はそれで初めて事態を理解したらしかった。
「テメエ、裏切るのかよお」
 思わず、と言った様に叫ぶとそのまま、憎悪と怒りに満ちた眼で睨み付け、老婆を押さえた手を離して修二に向き直った。
 修二は、そんな北川に恐怖を覚えて思わず一足退くと、一層強くナイフを握り締めた。
 北川の手から放された老婆はその間に廊下の奥の方へと走り去った。
 目隠しをされたままの老人は修二の手から逃れて、手探り状態でショーケースの方へ身を寄せた。
 思い掛けない緊張感が修二と北川の間に漂った。
 鳥越はその間、呆気に取られ、二人の遣り取りを見ていたが、思い掛けなく生まれた緊張感に気付くと慌てた様に二人の間に入ってナイフを握った修二の手を押さえた。
「バカ ! 止めろ」
 鳥越は怒鳴った。
 修二は鳥越から逃れる様に一足退き、その手を振り払おうとした時、隙を見た北川が咄嗟に襲い掛かって来た。
 鳥越に腕を押さえられままの修二は、襲い掛かって来る北川から逃れようとして藻掻いたが、その瞬間、握った手の中からナイフがこぼれ落ちていた。
 北川は目敏くそれを眼にした。
 鳥越に押さえられたままの修二が拾おうとする暇もなく、落ちたナイフを手にしていた。
 鳥越はそれに気付いて修二の腕を離した。
 修二の動きが自由になった時にはナイフは既に、北川の手に握られていた。
 修二はそれでも委細かまわず北川に向って組み付いて行った。
 北川はそんな修二から身を守る様にして刃の開かれたナイフをかざした。
 ーーその後の状況は修二にもよく理解出来なかった。
 北川の手に握られた、刃が開かれたままのナイフは修二の肉体を切り裂いていた。
 アッと思う間もなかった。気が付いた時には鎖骨の下、左肩甲骨辺りに肉をえぐられる様な激しい痛みを感じてそのまま蹲っていた。
 ジャンパーの上から痛む箇所を抑えた時には、指の間から流れ落ちる血の気配を感じ取っていた。
 焼かれる様な激しい痛みの為、それでも身体を動かす事は出来かった。薄れてゆく様な意識の中で蹲ったままでいた。
「おいッ、拙いよ。警察が来ると拙いよ !」 
 廊下の奥へ逃げて行った老婆を見ていた鳥越が、緊迫感に満ちた声で言うのが分かった。
 後は痛みで気を失っていた。



             九



 桂木病院、二階十四号室は四人の相部屋だった。





             ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




               
               takeziisan様

            
                この猛暑の中 散歩 充分 お気を付け下さい
               気違いじみた暑さ 熱災害です これまでの感覚では通用しません
               それこそ 昔は夏が楽しみの一つだったものが今は苦痛の種です
               もうすぐ人生百年 変われば変わったものです                   
                この暑さの中の ハワイアン 何時聴いてもいいですね
               良き時代の夏を思い出します ムード音楽全盛の頃
               まだ自分も若かった
               それにしても 何時も言うようですが 現代の音楽の詰まらなさ
               ただ喚き散らすだけ ムードも詩情もありません
               五月蠅いだけです ギターを抱えて頭を振って喚き散らす           
               見ていてむしろ滑稽です
               それにしても冒頭の写真 面白いですね
               奇妙な風景 なんだこりゃ という思い
               計らぬ自然の造形は時には傑作を生み出します
                夏の夜の昆虫 豊かだった自然の中に居た昔を思い出します
               様々な虫の合唱 地方へ行けば今でも聞かれるのでしょうが
               都会の屋根ばかりを見て過ごす環境ではとてもとても無理な事です
               ブログを拝見しながら二度と帰らぬ過去への郷愁に浸っています
                楽しいブログ 何時も有難う御座います
               それにしても猛暑の中の散歩 取材 充分 お気御付け下さい





































































遺す言葉(509) 小説 希望(33) 他 政治家 愚かな舟人

2024-08-04 12:40:48 | 小説
             政治家 愚かな舟人(2024.8.1日作) 



 
 大きな声で他者を罵倒
 俺は偉大だ !
 胸を張る政治家 政治家達
 名誉と権力 欲望に眼が眩(くら)み
 権力維持 地位保全の為なら
 他国の侵害 他者の殺戮 冒涜 意に介さず
 人の心の正しい道
 真摯な姿を忘れた存在
 愚かな存在 政治家
 政治家とは ? 只今現在
 世界に見る政治 政治家 その姿
 愚者の集団 愚かな舟人
 愚かな船頭 愚かな舵手
 地球を巡る世界という船
 世界の船の舵取り人 政治家
 その舵取り人の愚かさ 醜さ 下等な行為
 只今現在 地球を巡る世界という船
 この先一体 
 どんな港に錨を下ろすのか ?
 



              ーーーーーーーーーーーーーーーーーー




              希望(33)




 
 通話口の声が途切れるとそのまま二人は裏口を離れて通りへ戻った。
 家の横の通りに出ると、鳥越が向こう側で建物に身を寄せて表通りの様子を窺っている姿が見えた。
「オイッ」
 北川が鳥越に囁く様に声を掛けた。
 鳥越はその声に振り返って北川と修二を見た。            
 北川は手招きした。
 そのまま三人で足音を殺しながら店の表へ向かった。
 三人がシャッターの前に着いた時、家の中の明かりが付いて鎧戸に手を掛けるらしい気配が伝わって来た。
 三人は入口の片側に身を寄せて鎧戸の引き上げられるのを待った。
 北川は傍に居る修二にナイフを開く様に促した。
 修二は言われるままにナイフのボタンを押して刃を開いた。
 ほぼ同時に鎧戸が引き上げられて、間もなく中に居る老人の寝間着姿が見えて来た。
 北川は老人の姿が見えるのと同時に、鎧戸の全開を待たずに少し身を屈める様にしてを店の中に押し入った。
 老人が声を上げる暇も与えなかった。北川は鎧戸に手を掛けたままの老人を素早く両腕の中に抱きかかえると片方の手で老人の口を塞いだ。
 老人は何か言ったが言葉にならなかった。
 鳥越と修二はその北川を見て同時に店の中へ入った。
「爺さん、騒ぐな。怪我はさせねえから心配(しんべえ)すんな」 
 北川は老人に言って、同時に、ロープを持った鳥越に老人を縛る様に眼で促した。
 鳥越は北川の言葉と共にすぐにロープを解いて老人の身体に巻き付けた。
 「ナイフ !」
 と北川は修二に言った。
 修二はその言葉と共に刃を開いたナイフを老人の胸元に突き出した。 
 鳥越はその間にも、老人の身体にローブを巻き付けていた。
 北川は老人の両手が動かなくなるのを確認すると両手を離してポケットから目出し帽を取り出し、後ろ向きに老人の頭から被せた。
 老人は身体をローブで縛られ、顔には眼出し帽を被せられて身動きが出来なくなった。
「押さえてろ」
 鳥越が老人を縛り終えると北川が修二に言って、両腕を縛られ、目隠しをされた老人を修二の方へ突き出した。
 修二はその言葉と共に老人の胸元にナイフを構えたままローブを握った。
 老人はその間にも頻りに身体を動かして、抵抗しようとしていたが身動きは出来なかった。おうッ、おうッ、としきりに何か言おうとしている様子だったが、その声は言葉にならなかった。
「早くやっちゃおうぜ」
 北川が鳥越を促した。
 鳥越が頷いて "仕事" に取り掛かろうとした時だった。
「爺ちゃん、爺ちゃん」
 奥の方から声が聞こえて来た。
 歳を取った女性の声だった。
 北川も鳥越も一瞬、ギョッとした様に息を呑んで顔を見合わせた。
「婆さんだ !」
 北川が小声で言った。
 鳥越が頷いた。
 修二に押え付けられた老人がその声と共に、目出し帽を被せられてはっきりした言葉も口に出来ない状態の中で、
「け、け」
 と、懸命に叫んだ。
 明らかに警察、と言うとしているのが三人にもはっきりと理解出来た。
 北川も鳥越もその声と共に一気に緊張感を漂わせて身構えた。
 老婆の声のした廊下の奥の暗がりへ視線を向けた。
 その廊下に老婆の身体の一部が見えた時、北川と鳥越は素早く店のショーケースの陰に身を屈めて隠れた。
 修二だけが老人を押さえたまま、ショーケースの脇の土間に立っていた。
 廊下の暗がりから姿を表した老婆は修二と老人の姿を見ると、思わず、息を呑む様な動作と共に立ち竦んだ。
 その様子を見て北川がショーケースの陰から飛び出してそのまま一気に老婆の方へ走り寄った。
 鳥越も後に続いた。
 老婆は恐怖の余り、声を立てる事も出来ずに震えていた。
 北川はそのまますぐに老婆の身体に手を掛けると取り押さえた。
「ロープ」
 と、北川は鳥越に言った。
 鳥越はローブを取り出した。
「あ、あ、あんた達・・・・」
 老婆の声は恐怖に震え、泣き声になっていた。
 北川はそれでも容赦がなかった。



 
              ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




               
              桂蓮様


               新作 拝見しました
              まず 冒頭の写真 素晴らしいですね
              良い環境にお住まいです ひんやりとした緑に包まれた空気の感触が
              伝わって来る様です
              子供の頃はわたくしもこういう環境に住んでいたのですが          
              現在はむさ苦しい都会の屋根ばかりが見える環境の中に居ます
              それでも二階建ての屋上に出れば高さ制限の区域内にある事から
              遠く彼方まで見通す事が出来ます 富士山もスカイツリーも見えるのですが
              残念ながら お写真の中の緑豊かな雰囲気は味わう事は出来ません
              羨ましく思うばかりです
               思考の剪定=考えが分散される 焦点が絞れない
              自分の考えが出来ていないという事でしょうね              
              しっかりした自身の考えがあればあれこれ迷わない筈です
              坐禅はその点 自己を無にして真っ新(さら)な心で物事に向き合い
              受け入れる という事で自己の無駄な考えを差し挟まない
              多点を切り捨てるーー無になり物事の本質をそのまま見詰め 受け入れる 
              受け入れてもしかし なお 自身は自身のまま動かないで其処に居る 自分を見失わない
              そこまで到達するにはそれこそ修行 修行で
              大変な事だと思います
              考えを一点に絞る 大変面白く拝見しました
              有難う御座いました



                takeziisan様


                  猛暑 暑い日が続きます
                 畑仕事 くれぐれも御注意を 趣味で身体を壊してしまっては
                 元も子もありません
                 それにしても見事な野菜にブルーベリー
                 羨ましいです 以前にも書きましたがブルーベリーは
                 我が家の屋上にもあったのですが 今はありません
                 つくづく地植えの環境が羨ましくなります
                 数々の映画音楽 どれも懐かしいものばかりです
                 特に「第三の男」わたくしはこの映画を史上最高の映画だと評価しています
                 まず グレアム グリーンの原作 脚本に依るストーリー
                 次にキャロル リードの演出 それに出演者達の素晴らしさ          
                 特にオーソン ウェルズは素晴らしいです
                 更に映像 光りと影の使い方の見事さ 
                 あの夜の人影のない街を歩いて行く風船売りのシーンなど
                 ぞくぞくして来ます
                 勿論 その他にも地下水道の追跡場面など
                 どのシーンを取っても最高の場面です
                 欠点を指摘出来ません そして圧巻のあのラストシーン
                 枯れ葉の落ちた並木道を遠くから来て眼の前を去ってゆくシーンのアリダ ヴァリ
                 深い余韻を残します
                  という訳で 脚本 演出 音楽 映像 俳優 総てが揃った 
                 映画史上の最高傑作だと思っています
                   その他 大砂塵 バリの空の下 懐かしい曲ばかりです
                 イノシシ 不謹慎ですか やっぱり笑ってしまいました
                 大胆不敵の面構え 直面したらやはり恐怖でしょうね
                 以前 東北へ旅行した折り 野生の猿が道路から山の中へ入ってゆく姿を
                 物珍しく見た事を思い出しました
                  川柳 相変わらず楽しいです
                 何時も思うのですが 素人目には入選作より面白いものがいっぱいあります
                 何時拝見しても楽しいです 良いですね
                 軽い皮肉を込めて揶揄する 悪意は無い
                 ほのぼのします
                  カルガモ親子 この季節ですね
                 月下美人は一度咲きました 今また二輪の蕾を膨らませています
                 今日か明日かと待っています
                 ブログにも以前書きましたが 
                 月下美人は艶な花 
                 香りと姿で魅惑する
                 だけどおまえは淋しい花
                 夜更けにそっとひとり咲く
                 と言うところです
                  トンボ もう飛んいますか 昔 田圃の上でトンボ釣りをした事を思い出します
                  今回も楽しませて戴きました
                 何時もお眼をお通し戴く事と共に感謝申し上げます
                 有難う御座いました














































遺す言葉(508) 小説 希望(32) 他 語らない

2024-07-28 11:46:05 | 小説
 .          語らない(2023.9.7日作)



 
 真に物事を知る人
 物事の根源を見詰める人は
 寡黙だ 多くを語らない
 語れないのだ
 言葉を失う
 言葉では語り尽くせない 闇が
 物事の深部には存在する
 多くを語り 能弁な人間は 得てして
 物事の表層
 現象しか見ていない


           
            閃き


 ヒラメキ
 一瞬の閃き ふと閃いた
 ヒラメキとは 日頃の 
 日常体験 経験 その
 積み重ねの中から生まれるもの
 何も無い所から 閃きは
 生まれない




             ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




              希望(32)





<川辺時計宝飾店>と白地に黒く書かれた看板が通りを隔てて斜(はす)向かいに見えて来た。
 灰色の鎧戸にも同じ文字が見える。
「あの店だな」
 鳥越が言った。
「うん」
 北川が気負い込んだ様子の力のこもった声で返事をした。
「だけっど、随分明るいなあ。大丈夫かよ」
 鳥越が街灯の明かりを気にして言った。
 四つ角それぞれに思い掛けない明るさで街灯が明かりを点していた。
 昼間と見間違うばかりだった。
「大丈夫だよ。店の裏っ側へ廻るんだ」
 北川は確信に満ちた口調で言った。
 四つ角に出た。
 宝飾店は対角にあった。
 四方が見通せた。 
 どの通りにもスズランの花形を思わせる街灯が白い柔らかな光りを放って立ち並んでいた。
「あの紳士服店の裏っ側の方から入(へえ)るんだ」
 それぞれがビルの建物の陰に身を寄せて身体を隠した姿勢で北川が言った。
 対角線に位置する距離は二十五、六メートルかと思われた。
「どうやって入(へ)える ?」
 鳥越が言った。
「脇に小っちぇ通用口があっから、そっから入えって行って裏口のインターホンを押すんだ。そっで起きて来たら、警察だけっど店の様子がおかしいから表の戸を開けてくれとか何とか言ってさ。紳士服の店も表は店舗で、夜は人が居ねえから見られたり聞かれたりする心配えは無えと思うんだ」
 鳥越は黙って頷いた。
「どうしょう。戸を開けさせるまで、誰か表で見張っていた方がいいんじゃねえか。もし、人が通ったりしたらヤバイからよう」
 北川が言った。
「そうだなあ」
 鳥越もすぐに同意した。それからすぐに、
「俺が見てるよ。そっで、ヤバイと思ったら口笛で合図するよ」
 と自分で見張り役を買って出た。
「じゃあ、俺とお前(め)えで行こう」
 北川が修二に言った。

 街頭の防犯カメラを警戒して三人はそれぞれ別々に向こう側へ渡った。
 鳥越が最初に、今来た道を戻り、四つ角から遠く離れた場所で車道を横切り、向こう側へ渡った。
 続いて修二が北川に指示されるままに一旦、車道を渡り、鳥越とは反対の方角へ歩いてそこからまた、店舗のある側へ車道を渡った。
 最後に北川が店の前のこちら側の角から店舗のある角に向って歩いて行って向こうへ渡った。
 それぞれ各自がその場所から店舗を目差した。
 三人の距離が近付くと北川が修二を手招きして、店の裏側へ廻る様に指示をした。
 鳥越は店の横の道を渡って向こう側へ行き、別の建物の陰に身体を隠して大通りの様子を窺った。
 北川が鳥越の様子を確認してから修二の後を追った。
 北川は修二に追い着くとすぐに店の裏口に当たる狭い路地の前へ足を進めた。
 辺りの様子を見廻してから北川は先に立ってその路地に入った。
 修二も後に続いた。
 眼の前には丈の低い木製の柵があった。
 北川が上から手を延ばして内側の掛け鍵を外した。
 柵を開けて入ると建物の裏側、通用口の木製の扉が二、三歩先にあった。
 左側に押しボタンを備えたインターホンの通話口が見えた。
 北川が修二を振り返って、
「帽子を被れ」
 と言って、自分もポケットから黒い眼だし帽を取り出して被った。
 修二は無言のまま北川の言葉に従った。
 眼だし帽を被った北川は鼻と眼だけを覗かせていて、人相を見分ける事は出来なかった。
「いいか、表のドアを開ける様に言うから、ナイフを出して用意して置け」
 北川は言った。
 修二はその言葉に従ってポケットからナイフを取り出して右手に握った。
「表の戸が開いたら、すぐにナイフを開いて相手に突き付けんだ。見せるだけでいいかんな。その間に俺が眼出し帽を被せてロープで縛るから、俺と鳥越が仕事をしてる間はしっかりとロープを握って押さえてろよ。いいな」
 北川は力のこもった声で言った。
 修二は黙って二度、大きく頷いた。
 知らず知らずのうちに昂揚した気分に捉われていた。
 北川はインターホンのボタンを押した。
 暫く待っても返事は無かった。
 北川はまた押した。
 何度か押したが中からの返事は依然として無かった。
 真夜中の二時を過ぎた時刻だった。誰もが深い眠りの中に居るだろう。
 当然の事に違いなかった。
 北川はそれでも諦めずに何度も押して中からの返事を待った。
 返事は依然として無かった。
「駄目かなあ」
 次第に焦りの色が見えて来て北川は言った。
 その時だった。
「なんですか、誰ですか ?」
 不審に満ちた男のくぐもった声がインターホンを通して聞こえて来た。
 北川は途端にシメタ ! という風に頷いた。
「あのう、警察の者ですけど、店の前の様子がおかしいんです。ちょっと表のシャッターを開けてくれませんか。なんだか様子がおかしいんです」
 如何にも急を要する事の様に北川は、緊迫感に満ちた声で言った。
「警察 ?」
 驚きを含んだインターホンからの声が修二の耳にも届いた。
「はい。なんだかおかしいんです。表の戸を開けて下さい」
 相手を急かす様に北川は言った。
「ちょっと待って下さい。今すぐ開けます」
 不意を突かれた様子の、明らかに狼狽の気配を漂わせた声でインターホンの主は言った。




              
              ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




                
                takeziisan様


                 連日の猛暑 異常です 狂熱気候 気違いじみています
                さすがにクーラー使用との事 お尋ねしようと思っていたところです
                この暑さでも使用しないのか と
                 白黒写真 昭和三十九年 懐かしいですね
                 山小舎の灯 ラジオ歌謡 近江俊郎 歌声が蘇ります
                 くれゆくは白馬か 穂高はあかねよ 
                  それにしても山小屋の風景 良いですね
                 見ているだけで一日の登山に疲れた人達がやれやれ といった気分で腰を落ち着ける          
                 わたくしは山の経験は無いのですが 旅行に行った折りなどに覚える
                 あの感覚を通して想像が出来ます
                 山好きが虜になるのも分かる気がします
                  イノシシ 突然の豪雨 こちらでは一向に雨が降りません
                 よく話しをするのですが この地方は本当に環境的には
                 恵まれた地方です あちらで大雨 こちらで大災害
                 ただテレビで眼にするだけで みんな他人事の様な感覚で
                 実感が湧きません 以前にも書きましたが
                 苦労知らずのこの地方 だから偉い人が出ないんだと
                 地元の人達は言っています
                  ハワイアン スチールギター 大橋節夫 バッキー白片・・・・  
                 懐かしいですね ハワイアンブームがありましたね
                  映画「ひまわり」最後の場面の切なさ・・・
                 愛し合っていながらどうにもならない運命
                 愚かな戦争がもたらす悲惨さを抒情豊かに描いた
                 デ シーカの名作ですね
                 胸が痛くなります
                  今回もいろいろ楽しませて戴きました
                 有難う御座いました






                  桂蓮様


                 足が不調との事 どうぞ御大事にして下さい
               普段 何気なく出来る事が出来ない事のもどかしさ
               ほとんど 絶望的になりますよね まして楽しみにしている趣味
               なおさらだと思います       
                それにしてもバレーの練習の厳しさは傍目にも想像出来ます
               柔軟性に満ちた若い頃ならそれも苦にならないかも知れませんが
               ある程度 年齢を重ねると体が堅くなる 自分自身 この頃
               とみに実感している事ですが どうぞ 御無理をなさらない様にして下さい
               発表会も今年出来なければ来年 楽しみが来年に続くと思えば
               気持ちの切り替えも出来る事でしょうし それだけまた 
               楽しみの時間が増えると思えば 諦めもつく事でしょう  
               何事も陰陽 それこそお得意の禅の極意で
               陰を陽に変え 今日という日の今の自分を楽しみながら過ごす
               今は静養の時 そう考えて一日も早く元の元気な自分を取り戻して下さい 
                コメント 有難う御座いました













































遺す言葉(507) 小説 希望(31) 他 生きるのだ

2024-07-21 12:17:59 | 小説
             生きるのだ(2024.7.14日作)



 
 生きるのだ
 生きなければならない
 今日一日 今 という時を生きる
 精一杯生きる
 明日という日は 無い
 明日は明日 今日は今日
 今 この時
 今 この時 今 出来る事は 何か ?
 より良く生きる 今日一日
 今日一日 今という時を生きる
 精一杯生きる 今 何が必要なのか ?
 総ては今という時
 命ある今日一日 明日は無い
 明日は明日 明日また 考える
 今を生きる 明日に続く
 今この時 今日一日を
 精一杯生きる
 人が出来る事 それだけ
 明日は明日 明日という日の
 保証は無い




             ーーーーーーーーーーーーーーーー




              
                       希望(31)



 

 銭湯から帰ると一時間近くが過ぎていた。
 Ⅰ時になったら出掛けよう。 
 時計を見ながら考えた。
 東境川小学校まではタクシーで二十分位掛かると北川は言っていた。
 タクシーが拾えない時の事を考えて少し早目に出た方がいい。
 街へ出る時に何時も穿いているジーパンを穿き薄手のジャンパーに着替えた。
 下はTシャツ一枚だった。
 ナイフは上着の内ポケットに入れた。
 ズシリとした重量感が胸元を圧迫してナイフの圧倒的な存在感を伝えて来た。
 <ブラックキャッツ>の頭(あたま)を遣る時の様な緊張感は無かった。
 殺傷が今回の目的ではない。
 ナイフをチラつかせて脅すだけでいいのだ。
 相手は年寄りの夫婦だと北川は言った。
 緊張を強いられる場面も無さそうに思えた。
 北川は目出し帽も用意して来ると言った。
 顔を見られる心配も無いだろう。
 店を出てから二百メートル程歩いてタクシーを拾った。
「東境川小学校の前まで」
 と言うと、運転手は「はい」とだけ答えた。
 少し白いものの交った髪の運転手は鏡の中では六十歳近くに見えた。
 運転手は車が動き出してからも無口だった。まだ子供じみた面影を残す少年がこんな真夜中に出歩いている訳を尋ねようともしなかった。
 修二はそんな運転手の様子を見るとかえって気になった。
 何か、怪しんでいるのではないか ?
 微かな不安に捉われた。と同時にふと、北川は重大な間違いを犯したのではないか、という思いに捉われた。
 三人の男達がこんな真夜中にそれぞれ、小学校を目差してタクシーを走らせている。
 この事実は時計宝飾店強盗がニュースになった時、警察に取っては重大な手掛かりになるのではないか ?
 宝石店は小学校の近くだという。
 三人の男達がその時刻、小学校へ向けてタクシーを走らせている。
   それぞれの運転手の証言によってタクシーを拾った場所が特定されれば、一気に捜査の範囲は狭められてしまう。しかも、境川のこちら側でそれぞれがタクシーを拾っている。
 急に不安になった。
 その不安と共に改めて鏡の中で運転手の表情を探った。
 運転手は夜の闇に視線を向けたままで、依然として表情に変化は見られなかった。 
 何故とはなしにホットするのと共に、運転手に声を掛けていた。
「境川からこっちへ来た事がないので、家へ帰るのに勝手が分からなくて困っちゃったですよ」
 運転手は前を見詰め、ハンドルを操作したまま、
「遊びに行ったの ?」
 と聞いた。
「はい」
 修二は素直な少年を装って答えた。
 運転手はそれ以上、何も言わなかった。
 運転手の穏やかな口調が安心感を誘った。
 やがて車はクロちゃんが死んだという橋に差し掛かり、渡った。
 修二が小学校の前でタクシーを降りた時、北川と鳥越の姿は無かった。
 まだ来てないのか、と思った。
 タクシーは修二を後に残したまま走り去った。
 タクシーの姿が見えなくなり、修二が校門の大きな石柱の方へ行こうとした時、その陰から北川と鳥越が姿を現わした。
「おうッ !」
 北川は右手を小さく挙げて言った。
 二人が揃っていた事で時間に遅れたのかと気になって腕時計に眼をやった。
 まだ、二時にはなっていなかった。
 辺りは深夜の気配に包まれていた。
 家々はことごとく灯りを消していた。
 通りには人影も無かった。
 校庭は夜の闇の中で静まり返っていた。
 無数の窓を持った校舎が黒い影を作って巨大な獣の様に横たわっていた。
 北川は早速、上着のポケットから目出し帽を取り出した。
「手袋は持って来たんだろう ?」
 鳥越に聞いた。
「うん」
 鳥越は頷いてすぐにポケットから取り出した。
「指紋を残しちゃまずいからな」
 北川は言った。
「俺は持って来ないよ」
 修二は言った。
「お前はいいよ。店の者にナイフを衝きつけて置けばいいんだから」
 北川は目出し帽を修二に差し出しながら言った。
 修二はなんとなく、自分が除け者にされた様で不満だった。
「ナイフは持って来たんだろう ?」
 北川は言った。
「うん」
 修二は頷いた。
「帽子は入(へえ)る直前に被るんだ。今から被って歩いていると、誰かに見られでもしたら怪しまれるかんな」
 北川は言って鳥越にも渡した。
「この二枚は爺さんと婆さんに後ろ向きに被せて見えねえ様にすんだ」
 手の中に残った二枚を小さく畳みながら北川は言った。
 鳥越はジャンパーの内ポケットから中太の白いローブを取り出した。
 店の者を縛る為の物だった。
 三人でそのまま人影のない通りを歩いて行った。




             ーーーーーーーーーーーーーーーーーー




               桂蓮様


              有難う御座います
             グランビーの夏 素晴らしい住環境ですね
             拝見していて羨ましくなります とにかくアメリカは広い
             それぞれ郡によって 州によって異なるのでしょうが        
             ニューヨークのような大都会もあれば広々とただ畑一面が広がる
             大農場もある かと思えば西部劇でよく眼にするディスヴァレーのような
             砂漠地帯もある とにかく島国日本から見るとその広さだけは憧れの的です
              バレーに限らず 何事も自身の感覚で覚える事
             感覚を身に付ける事ですね
             世間には口では立派な事を喋りまくっていても いざ その実践となると
             何も出来ない人間が大いものです
             理論より感覚 文章の中にも書いた事がありますが
             感覚の伴わない知識は本当の知識では無いという事です
             芸術に限らず 農業 漁業 林業 あらゆる分野に於いて          
             その仕事にたずさわる人達は総て日常から得た感覚で
             その作業を進めているのだと思います
             何事も頭で考えているうちは本物とは言えません
             小説を書く人がよく言います
             場面と出来事を設定してまず冒頭の文章を書く すると その文章に従って 
             あとは人物が勝手に動きだす
             また あの大天才ピカソが 一本の線を書くのに二十年もかかっのだ と言ったという事です
             総て本物は頭で覚えた知識では無く 肉体的感覚として身に付けているか という事ですね
             最新記事 面白く拝見しました
              日本でも中年の方々のバレー熱が盛んな様です
             どうぞ 頑張って下さい




                takeziisan様


                 今回も楽しませて戴きました
                思い出の写真 良いですね お子さん達の寝ている姿 机に向かっている姿
                良い写真です 過ぎ行く人生の中の貴重な一頁
                宝物だと思います 思わず目頭が熱くなりました  
                それにしても数々の思い出 豊かな人生だったのではないでしょうか
                 診察結果まずまず おめでとう御座います
                と 言うところでしょうか 一病息災 まだまだ大丈夫
                畑に出る力 歩く力 意欲がある限り心配御無用
                意欲が無くなった時が怖いですよね ブログへの意欲と共に
                頑張って下さい
                 数々の映画音楽 総て青春の一コマに刻み込まれています
                「旅情」のヘップバーンも良かったですね
                「真昼の決闘」 映画に流れる時間と実時間が一緒という事で
                当時 話題になりましたね                
                「シェーン、カムバック」あの少年の叫び声
                改めて懐かしく思い出します
                「五木の子守唄」東京へ出て間もなくの頃にはやった歌で
                映画にもなり 見ました
                何時聴いても哀しい歌です 貧しかった頃のこの国の姿が
                偲ばれます            
                あの藁屋根の風景 日本の原風景の様です
                しみじみとした思いに誘われます
                 イノシシ 相変わらず奮闘 イノシシ迷惑にも拘わらず
                自然の豊かさが羨ましく思われます
                 我が家の屋上菜園 キュウリ ピーマン
                豊作です                  
                 楽しい時間でした 有難う御座いました  







































































 


遺す言葉(506) 小説 希望(30) 他 種を撒く

2024-07-14 12:29:06 | 小説
              種を撒く(2023.9.3日作)



 人が生きるという事は
 種を蒔く事
 人は皆 死に赴く存在 しかし
 その死が 人の生を無駄にするもの
 とは 言い切れない
 人は日々 生きるという行為の中で
 種を蒔いている 良い種 悪い種
 人の死後 その種は芽を出すだろう
 それが やがて 大きくなり
 それぞれの果実に結実する
 人の命はそうして 受け継がれ
 人はそうして後の世を生きている



           才能


 才能とは 人が持って生まれたもの
 金では買えない貴重品
 それでも才能は
 人格の貴賤に係わる事は無い
 才能豊かな人間でも 卑しい人間は
 何時(いつ)の時代
 どの場所にも居るものだ




            ーーーーーーーーーーーーーーーー
 




              希望(30)




「夜中の二時に侵入(へえる)んだ。三人は別行動で現場へ行く。これが境川から向こうっ側の略図だ。この、東境川小学校を目当てに行くと分かり易い。ナンバープレートを変えて俺達の車を使ってもいいんだけっど、用心の為に三人、別々にタクシーを使った方がいい。落ち合うのはこの小学校の門の所にしよう。この辺りは小っちぇ商店街で周りは住宅ばっかりだから、夜中の二時なら人の通る事もまず無えと思うんで、人目にも付きにくい。此処で落ち合ったらこっちの十字路へ出て右へ曲がるんだ。そっから百メートルばっかり歩くとまた十字路がある。時計屋はこの十字路の角だ。此処なんだ」
 北川は黒のボールペンで小さな丸印を書き込んだ。
「左隣りの此処が信用金庫で、右隣りの此処が紳士服の仕立て屋だ。この時計店は店構えは小っちぇけっど、老舗なんで品物は良いものが揃ってる。ショーケースの中だけでも一千万以上はあると思うよ。仕事が終わった後はまた、三人別行動で帰(け)えるんだ。気を付けねえといけねえのは、人通りが少ねえ通りだから、歩いている姿を見られねえ様にしなければいけねえって事だ。タクシーも拾わねえ方がいい。だけっど、こっちの市場町の方へ出てしまえば繁華街だし、タクシーを拾っても怪しまれる事はねえと思うよ」
「火曜日の夜に遣んだな」 
 鳥越が念を押した。
「修二の休みが水曜日だし、その方がいいだろう」
「明日・・・明後日か」
「うん」
「お前え、そっでいいのか」
 鳥越が修二に聞いた。
 修二は黙って頷いた。

 その夜、北川と鳥越が帰った後、修二は久し振りに鞄からナイフを取り出してみた。
 ナイフは血痕一つ残していなかった。
 ボタンを押してみた。
 刃(やいば)の素早い動きも依然として健在だった。
 見事な輝きも全く変わっていなかった。
 満足感と喜悦に包まれて再びナイフを鞄に納めた。
 同時に、<ブラックキャッツ>のリーダーを刺した時の記憶が蘇った。
 後味の良い記憶ではなかった。
 出来れば頭の中から払拭したかった。
 今度はナイフを使わなくてもいい、と北川は言った。
 その言葉を思い出しながら、両手を頭の後ろに組んで布団の上に寝転がると、この仕事が終わったら店を辞めようかと考えた。
 かなりの金が入ると北川は言った。
 意識の中にはマスターの存在があった。
 修二が此処に来て以来、マスターは常に優しくしてくれていた。そのマスターに対して、自分の取る行動の総てがマスターを裏切る様な行動だったとしか思えなかった。
 <ブラックキャッツ>のリーダーを刺した事、女将さんとの事、そして、今度の事もまた、もしもの場合にはマスターに迷惑が掛かる事になり兼ねないーー。
 女将さんの口からマスターと女将さんの関係を聞いて以来、修二の気持ちの中では、女将さんに対する思いが微妙に変化していた。
 以前は蔑みの眼でしか見られなかった女将さんに対して、別人を見る思いがしていた。
 女将さんの已むに已まれぬ気持ちーー、女将さんの哀しみもまた分かる気がした。
 マスターへの思いと共に女将さんへのそんな感情も絡んで来て修二は息苦しくなる程の感情に捉われた。
 いっそ、この店を辞めてしまえば、そんな苦しさからも逃げられる。
 北川の話しでは、少なくとも三百万円以上の金が入るという。それだけあればなんとか生活してゆけるだろう。
 それに、この街も出て、別の街へ行ってまた新しい仕事を探せばいい。
 火曜日、夜、修二は店の仕事が終わって二階へ上がると、すぐに鞄からナイフを取り出した。
 ボタンを押して刃を開き、再度の点検を試みた。
 再び刃を元に戻してテレビの上の丸い目覚まし時計に眼をやった。
 十一時を四十分程過ぎていた。
 これから午前二時までどの様に過ごそうか・・・・
 取り敢えず風呂へ行く事を考えた。
 午前中、豚骨の始末に追われて汗だくになり、肉汁や脂の匂いが染み付いていた。
 女将さんが今夜のうちに来る心配はまず無かった。
 その点では安心出来た。
 いずれにしても、この仕事が終わったら店を出るのだ、その思いは修二の気持ちの中では揺るぎの無いものになっていた。





             ーーーーーーーーーーーーーーーー




          
             takeziisan様


              
              有難う御座います
             今回も楽しませて戴きました
             山百合 満開ですね 以前にも書きましたが最も好きな花の一つです
             これ等の花が自然の中で見られる環境の素晴らしさ
             羨ましい限りです
             それにしても夏の花々 この猛暑の中で見事なものです 
             自然の逞しさでしょうか
             大きなサボテンの木の花 我が家の近所にもかつてありましたが
             その家の建て替えと共になくなりました
               健診 わたくしは今年も満点でした
             体組成計の診断では肉体年齢は七十一歳です
             一つでも何処か悪いと気分的に違います
             どうぞ お気を付けて下さい 良い結果を願っています
              様々な映画音楽 どれも耳に馴れたものばかりで懐かしいです
             甦る青春というところでしょうか
              むくげの季節 この季節の数少ない清涼感を運んで来てくれるものの一つです
              飲み会 続けて下さい 自分から年寄り仲間を宣言する必要はありませんよ 
              この年でもまだまだいけるぞ お前なんかには負けないよ 
              その気概でどうぞ
               吉川英治 名言 禅の思想に通じる言葉です
              有るけど無い
              無いけど有る
               来週 同じ様な意味の文章を掲載しようと思い
              整理を済ませたところです もし 宜しかったら
              お眼をお通し戴けたら と思います
               黒田節 赤坂小梅が太ったあの体で豪快に唄っていた姿を思い出します
              市丸 喜久丸 音丸 勝太郎 藤本二三吉 ラジオで馴染の名前です
              懐かしさばかりです 
               有難う御座いました 楽しませて戴きました
























































遺す言葉(505) 小説 希望(29) 他 一本の糸

2024-07-07 12:48:11 | 小説
            一本の糸(2024.6.22日作)



 一枚の布は 一本の  
 細い糸の 組み合わせ から生まれる
 それぞれに個性を持った 一本の糸
 その 細い 一本の糸が切れれば
 布はそこから 破綻してゆく
 それぞれに 個性を持った一本の細い糸 その糸が 
 不揃いであれば 美しい布は生まれない
 人の社会も同じ事
 人間一人一人が この世界
 世の中 社会を 構成する
 一人の人間の命が失われれば そこから
 家庭に 社会に 世界に 欠陥が生じる
 一人の人間が 社会の掟を破り
 勝手に行動すれば そこから秩序が乱れ
 世界が 社会が 家庭が 混乱する
 勝手気まま 自己顕示の 強い糸 強い人間
 一枚の布の美を損ない
 人間社会の秩序を損なう




             ーーーーーーーーーーーーーーーーー




              希望(29)





「どうした 警察は ? 何も言って来ねえか」
 椅子に腰を下ろした北川にマスターは聞いた。
「ええ、まあね。チームの連中にまだ聞き廻っているみてえだけっど、どうって事はねえですよ」
 北川は自信に満ちて落ち着いた表情で言った。
「それより、マスター、頼みてえ事があんですけっど、聞いて貰えませんかね」
 北川は言った。
「なんだ ?」
 マスターは軽く答えた。
「宝石なんか捌けませんか」
「宝石 ? どんな宝石」
「指輪とかネックレスとか」
「持ってんのか ?」
 マスターは聞いた。
「いや、今、持ってる訳じゃねえんだけっど、ちよっと、金(かね)が欲しいんですよ」
「どっかへ侵入(へえん)のか?」
「ええ、まあ・・・・」
 北川は言葉を濁した。
「捌けねえ事はねえけど、でも、危ねえ橋は渡んねえ方がいいよ」
 マスターは諭す様に言った。
「それは分かってんだけっど、少し、金が欲しいもんで」
「何すんだ ?」
 腕組みしたままマスターは聞いた。
「ハーレーのでっけえのを買いてえんですよ」
 北川は言った。
「オートバイか ?」  
 マスターは軽い笑みを浮かべて言った。
「ええ」 
 北川は頷いた。
 マスターは里が知れた、という表情で軽い笑みを浮かべたまま何も言わなかった。
 北川はその様子をマスターの承諾と受け取ったらしかった。
 三日後、夜中の零時過ぎに修二を訪ねて来た。
 一人だった。
 十分程前に電話をして来ていた。
 来る理由は言わなかった。
 修二は、うっせえ奴だ、とだけ思った。
 多分、マスターに話していた事と関係があるのだろうと推測した。
  矢張り、その事で北川は訪ねて来た。
 時計、宝飾品店に押し入って、時計や宝飾品を奪う計画を修二に打ち明けた。
「店はブラックキャッツのエリアにあるんだ。だもんで、犯行の目くらましには都合がいい。普段、俺達があっちへ行かねえ事は警察もよく知ってるしな。それに俺の他には鳥越が来るだけだから、外に漏れる心配えもねえんだ。金は三人で山分けするよ。お前(め)えは何もしなくていいから、見張りだけしていてくれればいい。後の仕事は俺と鳥越ですっから」
 北川は最初から修二が受け入れるものと思っているらしかった。
「店は六十過ぎの親父と婆さんの二人でやってる小っちゃな店なんだけっど、物は良いものが揃ってる。それにバス通りからも離れてるし、夜は七時には閉めちゃうんだ」
 修二は黙って聞いていたが、気持ちは最初から離れていた。
 真っ先に浮かんだのは、マスターに対する思いだった。
 もし、何かがあった場合、マスターに二度も三度も迷惑を掛ける事になってしまう。
 北川が一息入れる様に修二から視線を外してポケットに手を入れ、煙草を取り出した時に修二は言った。
「でも、俺、そんな事したくないよ」
 その言葉に北川は耳を疑う様な表情を見せて、
「なんで ?」
 と、言った。
「前の事もあるし、それに店にも迷惑を掛けたくないから」
 修二はぼそりと言った。
「大丈夫だってば。店に迷惑を掛ける様な事はしねえよ。それに、マスターも品物は捌いてくれるって言うんだから」
「それとこれとは違うよ」
 修二は強い口調で言った。
「なんで ?」
 北川は不満そうな口振りでまた言った。
「いいか、お前えよう、考げえてもみろよ。もしもの事があった時、この前えの傷害事件はお前えがやったんだって言いふらす奴が出て来ねえとも限らねえぞ。今は俺達がみんなを抑えていて、何も言わねえ様にしてるんだけっど、俺や鳥越の抑えが無くなれば直ぐに喋る人間が出て来て、たちまちお前えは警察に捕まっちゃうぞ。そっでもいいのか。それこそ、店に迷惑を掛ける事になっちまうぞ」
 北川は脅迫的な口調で言った。
 修二は言葉が出なかった。
 嵌められた、という思いだけが募った。
 北川は修二が言葉も無く黙っていると、口に咥えた煙草に火を点けて言った。
「兎に角、お前えには危ねえ真似はさせねえよ。ただ、ナイフを見せて見張っててくれさえすれば、そっでいいから。要するに物さえ盗れればいいんだから。ナイフを使う必要もねえんだ」
 もし、この話しを断った時、北川はどうするだろう ?
 前の傷害事件は俺が犯人だと言い触らすだろうか ?
 考えると不安だった。
 修二は確認した。
「俺は何もしなくていいのか ?」
「ああ、構わねえよ」
 北川は言った。
「それで、三人で分けるのか ?」
「そうだ」
 どれだけの金額になるのか分からなかったが、少なくとも、少ない金額ではない事だけは想像出来た。
 修二はそれでも「うん」とは言わなかった。黙ったままだった。
 北川は修二の言葉の無い事をまたしても、承諾と受け取ったらしかった。
「詳しい計画が出来たらまた来るよ」
 北川はそう言って帰って行った。

 北川が犯行計画の詳細を持って来たのは六日後だった。
 鳥越も一緒だった。
 鳥越は修二を見ると、
「おう、元気か」
 と言って、仲間意識に満ちた笑顔を向けた。
 あの事件以来、初めての顔合わせだった。
 北川は修二の部屋へ入ると直ぐに計画の説明を始めた。
  



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               takeziisan様


                猛暑の中での農作業 カメラを持っての散策
               どうぞ お身体に気を付けて下さい
               野菜の収穫 ブルーベリーのお裾分け 豊かな生活環境が偲ばれます 
               羨ましい限りです 昨年もブルーベリーのお裾分け
               ありましたね
                それにしてもハクビシン イノシシ 豊かな自然であればこそ と思っても
               御苦労は絶えませんね
                トウモロコシも順調な様に拝見しました
                月見草 チガヤ―ツバナと呼んでいましたが 
               懐かしい風景です 思い出します
               思い出すと言えば 星空 わたくしの方でも見事な星空でした
               当時はネオンも無く 電灯の明かりも乏しく
               暗い夜空いっぱいに広がった星空の見事だったこと
               その中を天の川銀河が横たわり 今思うと夢の様な世界です
                名曲アルバム じょんがら節 澤田勝秋
               懐かしい名前です
               それにしても民謡はそれぞれの他方のその地に根差したところから 
               自然発生的に生まれた歌で それぞれに魅力があり
               明るい歌には明るい歌の 静かな歌には静かな歌の 
               それぞれの魅力が詰まっていて どれが良いなどとは言えませんし
               結局は 個人の好みという事にでもなるのでしょうか
               以前にも書きましたが 刈り干し切り唄は南部牛追い歌 と共に
               最も好きな曲の一つです 母が亡くなって三回忌の法要の時
               会食の席で民謡好きの母への供養と思いこの歌を唄いました
               みんなは母の跡を継いで民謡をやれば と言ってくれましたが
               ただ ブログにある唄の三番の歌詞がちよっと違っています
               わたくしが唄った歌詞は六番まであって 三番は
                秋も済んだよ 田の畦道(くろ)道をよ
                あれも嫁じゃろ エー日も五ッよ 
               となっています 
               でも この違い 唄う人によって 地域によって少しずつ異なる
               これが民謡の良さだと思います
                いろいろ興の赴くまま 長々と詰まらない事を書いてしまいましたが
               今回もいろいろ楽しませて戴きました
                有難う御座いました