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遺す言葉

つぶやき日記

遺す言葉(534)小説 <青い館>の女<23> 他 大切な事

2025-02-09 12:45:54 | 小説
             大切な事(2025.1.28日作)



 人が生きる上で最も大切な事
 今日より明日を もっと 
 良く生きようとする 心
 それでも人は しばしば 明日をもっと
 良く生きようとして
 悲惨なものにしてしまう
 欲望に捉われる人間の業その結果
 人は 人が持つ二つの心 良心 欲望
 その 良心に従い真摯に生きる その時にのみ
 明日は約束される 
 人が持つ欲望 
 欲望は底なしの 泥沼
 一度踏みいれた足を引き抜く事の難しさ 困難さ
 歩く毎に足は深みにはまつてゆく



     全智全能の神など存在しない
     宗教上の神が人間の苦難 苦境を救う事は出来ない
     究極に於いて人の苦難 苦境を救い得る力を持つ存在は
     人の持つ善意 心と行動でしかない




             ーーーーーーーーーーーーーーーーー




              <青い館>の女(23)



「惣治さんの奥さんか ?」
「そうよ、御長男の奥さん」
「それならそうと、早く招待状を出さなければ歳の暮れだし、みんな予定を組んじゃうだろうになあ。それこそ御歴々が集まるのだろうから」
 わたしは不満を重ねて言った。
「あなたがそこまで心配する必要は無いのよ」
 妻はわたしの不満だらけの口調に匙を投げた様に言った。

 都内の有名ホテルで行われた飯倉肇夫妻の結婚六十周年を祝うダイヤモンド婚は盛大なものだった。
<スパーマキモト>の存在など意に留める人など居ないであろうと思われる程に、著名な企業を代表する著名な人々が夫人同伴で顔を揃えた。
 政治家もまた然りだった。
 売り出し中の若手を始め、元大臣なども何人か顔を見せていて、未だ衰えぬ飯倉肇の影響力を誇示している様に見えた。
 金屏風を背にして一段高い場所の椅子に座った飯倉肇夫妻はひどく小柄で、彼はまるで好々爺に見えた。
 政治の世界で今なお、噂される影響力を持つ人の様にはとても思えなかった。
 以前にはわたしも何度か挨拶だけはした事があって、恰幅の良い身体から滲み出る迫力に圧倒される思いを抱いた記憶があるが、今ではそんな気配も見えなくてそれも歳のせいかも知れなかった。
 式は二部形式になっていた。
 一部では祝辞や様々な挨拶が型通りに行われて、それが済むと次の間に移っての立食パーティーになった。
 わたしの妻は濃紫のイブニングドレスに豪華な洋蘭の花飾りという装いで出席していたが、芸能界から有名女優達も数多く出席している中でも彼女の華やかさは引けを取らなかった。
 還暦を過ぎてやや太り気味に見える体躯からは貫録さえもが滲み出ていて、胸元を露出した衣装も不自然ではなかった。
 わたしは妻の衣装に合わせてのタキシード着用だった。
 普段、着馴れないせいもあって一足歩くのにもぎごちなさが伴った。
 パーティーへの出席自体に乗り気ではなかったわたしは、体調への不安と共にウイスキーの水割りグラスを手に、自ずと会場の片隅でぽつんとしている時間が多くなった。
 その中で次第に増して来る疲労感と共に益々厭世的な気分に陥り、こぼれる様な笑顔で談笑する煌びやかな衣装の人々に皮肉な眼差しを向けて眺めていた。
 それにしても・・・・と、わたしは思った。
 妻と二人、小さな結婚式や祝事にはこれまでも何度か出席していたが、これ程大きなパーティーには出た事の無いわたしには妻の顔の広さが驚きだった。
 経済界の御歴々は無論の事、芸能人や大学教授といった人達ともまるで古い知己ででもあるかの様に親し気に言葉を交わしていて、それが少しも不自然ではなかった。
 妻はせっせと出歩いていた陰で、こうした人達との人脈も抜かりなく築いていたのだろうか ?
 それが<スーパーマキモト>の経営にどれだけ寄与していたかとなると、わたしには判断出来ない事であったが、義父の顔の広かった事もあって、多分、いろいろな方面で力になっているのだろう。
 妻が遠くから手招きした。
 わたしが人と人の間をすり抜けて行くと、妻は傍に居た五十歳がらみの男をわたしに紹介した。
「こちらの方、T農産大学の浅川教授よ。流通関係が御専門だから御見知り置き戴いて何かと御相談に乗って戴いたらいいわ」
 浅川教授はテレビのおふざけ番組などにもよく出ていて、わたしは顔だけは知っていた。
「浅川です。どうぞ宜しく」
 教授は右手を差し伸べ、今どき、怪しげな商人でさえ見せないであろう様な、ひどく下卑た感じのする愛想笑いを浮かべて如才なく言った。
「マキモトの会長で、わたしの連れ合いです」
 妻はわたしを教授に紹介した。
「牧本です」
 名刺を差し出しわたしは、極力、不機嫌さを抑えた笑顔で丁寧に挨拶した。 
 この教授にわたしは日頃から好感を持っていなかった。
 愚にも付かないおふざけ番組の中で、なんの取り柄もないタレント達に迎合してふざけ合っている姿をしばしば眼にしていた。
 大学教授らしい品位の欠けらもないそんな姿にわたしは、こんな教授に講義を受けている様では学生達が勉強する事もなく遊び惚けているのも無理の無い事だと思っていた。
 わたしはだが、長年、妻や義父の下で頭を抑え付けられ続けて来た哀れな男の習性で、教授に抱いている日頃の不満も包み隠して愛想笑いを浮かべ、挨拶したのだった。
 教授はわたしが差し出した名刺を受け取ると、一瞥もくれずに右手の中で丸め、
「済みません。わたし、名刺を持っていないものですから」
 と、妙に冷ややかに見える例の笑顔で言った。
 恐らく教授は、その抜け目の無さで素早くわたしと妻との力関係を見抜いていたのだ。
 わたしが牧本家では取るに足りない存在でしかないと値踏みしていたのだ。
 実際に教授が名刺を持っていようがいまいが、わたしにはどうでもいい事ではあったが。




             ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




               takeziisan様


                パソコン この厄介者無ければ今の時代不便
              なんとか最低限の知識で使用はしていても変わる度に四苦八苦 
              つくづく時代遅れの身を感じる始末 それでも敢えて
              新しさに挑もうという気にもなれません
              まあ 必要なものだけに使えればいいと諦めています
               今年でサポート終了との事 さあ どうしよう
              また思案投げ首 その時はその時 腹を括るり仕方がありません
               立春になってのこの寒さ それでもこの地方は雪も無く なんと過ごし易い事かと
              雪に埋もれる地方の景色を見る度に思わぬ感謝の気持ちさえ湧いて来ます
              勿論 この地方でも景色は冬枯れ 公園の木々は葉を落とし枯れ木の色
              ただ 春よ来い 早く来い と願う気持ちのみです
              そんな中でのロウバイ 鮮やかな黄色 無論 この地方でも見られます
               アオジ メジロ共に懐かしい名前です
               白菜漬け 羨ましい限り
              自分好みの味付け自在 なんと贅沢な事か 
              農家の方々 漁業の方々 地方のなんとはない生活を映したテレビの番組を見るのを
              下らない番組群の中で唯一楽しみにしているのですが
              見る度にその豊かさに羨望の眼差しを向けて見ています
              今年の野菜のバカ高さ 羨ましい限りです
               いずれにしても去年から今年 日々 生きて行く事の息苦しさ困難さを
              日毎感じています
               この寒さもあと少し どうぞ御身体を大切に
              有難う御座いまし



               albi-france

                有難う御座います
               小梅ちゃん ぬいぐるみに見えて ちょこっと坐った姿は
               人間の子供の様にも見えて思わず笑ってしまいます
               これではなかなか手放す事は出来ませんね
               わたくしは昔 亀やオウムを飼った事がありますが
               死なれた時の痛みが大きくて 以来 生き物は飼っていません
               それでも このような写真を見ると改めてその人の気持ちが分かって来ます
               どうぞ 大切にして下さい
                焼き立てパン 子供の頃 焼き立てのアンパンを食べた事がありますが
               あの時のなんとも言えぬ旨さは以来 経験した事がありません
               毎日の食卓に焼き立てパン わたくしの昼食は乾いた食パン二枚
               羨ましい限りです それでもパン好きの人間
               なんとなく満足しています
                中身は大人になれず 幾つになっても同じ事
               でも それが若さの秘密かも知れません
                有難う御座いました
              
               

              

              




               


























    
 
 
 
 

遺す言葉(533) 小説 <青い館>の女(22) 他 名目よりも実質

2025-02-02 12:22:56 | 小説
             名目よりも実質(2025.1.13日作)



 
 名目に眼を奪われるな
 実質に眼を向ける
 名目だけは一流 立派
 実質 実態 中身は空っぽ 空虚
 政治 経済 学術 宗教
 あらゆる分野 総てに於いて
 現状 名目優先
 教会宗教に惑わされるな
 自己保身だけの専制君主に惑わされるな
 借り物論文 借り物文章に惑わされるな
 貴ぶべきものは実質 実質優先
 名目 名前だけは一流 実質二の次
 豪華絢爛 名声下 口先説教だけの教会宗教
 それよりも
 小さな村 小さな町 小さな組織
 互いが互いを助け合い 手を差し延べ合って
 労わり 寄り添い生きている
 名もなき小さな村 小さな町の小さな組織
 その行動力 実行力
 名声 名目よりも実質 実質優先 実際行動
 その姿 その姿勢
 人が人としてこの世を生きる その上で
 最も尊く美しく 忘れてならない真実 その姿
 名目よりも実質 実質優先 実質第一 実際行動
 人が人としてこの世を生きる
 決して忘れてならない真実 
 その姿




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               <青い館>の女(22)





「今のところ、それ程心配するには及びません。心筋梗塞の方は落ち着いていますよ。但し、無茶だけはしないで下さい」
 七十歳がらみの町医者だったが、毎月欠かさずに診察を受けている斎藤医師は言った。
 かつて東京の著名な大学病院で様々な大手術に腕を振るった経験のある、小柄で坊主頭の見事な斎藤医師は、わたしを脅かすのを面白がっていたが最後には決まって「まあ、心配するには及びません。大した事はないですよ」と言うのが口癖だった。
 わたしはこの、眼鏡の奥の柔和な眼差しと楽観的な口調で話しを締め括り、不安を解消してくれる医師を信頼していた。
 女性の方は控えた方がいいですね、と冗談交じりの口調で言ったのもこの医師だった。
 無論、わたしは加奈子との事は話さなかった。
 話す必要もない様に思えた。
 大きく乱れる脈拍も加奈子との事が直接の原因ではないのだ。
 寒さが、季節の移り変わりがわたしの肉体に影響し、わたしの肉体がそれに付いて行く事が出来なくなっているだけの事だった。
 この病気を意識する様になってからは毎年の事だった。
 北の街では早くも雪が舞い始めていた。
 テレビの映像が北国の街の姿を映し出していた。
 わたしの北の街へ向かう意欲も東京でも増して来る寒さの中でしぼんでいた。
 寒さに凍る北の小さな街の雪に埋もれた海岸通りが眼に浮んだ。
<サロン 青い館>はその中でも灯を点しているのだろうか ?
 加奈子は雪に埋もれた白い街で相変わらず同じ様に生きているのだろうか ?
 わたしが東京へ帰ってから五十日が過ぎようとしていた。
 そろそろ北の街を訪れてもよい頃だったが迷いがあった。
 わたしが続ける支店廻りは冬の季節、この病気に苦しめられる様になって以来、何時も中止されていた。
 無論、体調を考えての事ではあったが、雪で足を阻まれる事への配慮もあった。
 それでこの季節、わたしは何時も冬籠りをする様に会長室で過ごす時間が多くなっていた。
 当然の事ながら、その間も各支店からの営業報告書は毎日送られて来ていて、営業状態の把握にはほとんど影響は無かった。
 冬が終わり春になればまた、わたしの支店廻りが始まる事を知っている支店長達が手を抜く事もなかった。

「あなた、クリスマス・イブに予定は入っていないでしょう」
 十二月に入ってすぐだった。
 雨にたたられた日曜日で一日中わたしは、新聞や雑誌に眼を通しながら過ごしていた。
 午後六時を過ぎて夕食前の時間、居間に顔を出したわたしに今年出す年賀状の整理をしていた妻が顔を上げて言った。
「クリスマス・イブ ? なんで」
 クリスマス・イブなど、これまでのわたしには全く関係が無かった。
 社交好きな妻は一人でよく出歩いていたが、わたしはそんな妻を冷ややかな眼差しで見ていた。
「飯倉さんがダイヤモンド婚のお祝いをするんですって」
「飯倉さんって、飯倉肇さんか ?」
 わたしは聞き返した。
 暫く耳にしていない人の名前だった。
「ええ、そうよ。誰だと思って ?」
 妻はそんなわたしに不満気に言った。
 飯倉肇はかつて財界で華やかに活躍した人だったが、最近ではその名前を聞く事も少なくなっていた。
 政治に近いある部分ではその強大な財力故に今なお、政治家達を引き付けていて隠然たる力を保持しているという噂は時折り耳にはしていたが、表立って表面に出て来る事は殆どなかった。
 わたしの義父はそんな飯倉肇とは若い頃からの知り合いで、妻はその美貌ゆえに飯倉肇のお気に入りでもあった。
 自分に娘の居ない飯倉肇はわたしと結婚してからの妻をも、依然として自分の娘の様に可愛がっていた。
 その飯倉肇も既に九十歳を越えているはずだった。
「そのお祝いをクリスマス・イブにやるのか ?」
 わたしは妙な気分で聞き返した。
 クリスチャンでもない人間が何故、依りによってイブなんかに遣るのか ?
 妻はだが、わたしの不満気な口調に苛立ちを募らせた様子で言った。
「クリスマス・イブに遣ってはいけないって言う法はないでしょう。一年の終わりをイブと一緒に、忘年会なども兼ねて華やかなお祝いで締めようって言うんですもの、いい事じゃない」
「でも、年の瀬の忙しい時にわざわざ遣らなくてもいいだろうに。来年の暖かくなった時期に遣ればいいんだ」
「あなたんがそんな事を言ったって、あちら様で遣るって言うんですもの、しょうがないじゃない」
 妻は怒った口調で言った。
「まあ、それはそうだが」
 わたしは矛を収めるより仕方が無かった。
「予定はないんでしょう ?」
 妻は念を押す様に言った。
「別に予定はないが、どうしても出席しなければいけないのかなあ」
 煮え切らない口調でわたしは言った。
「それは出席しなければ悪いわよ。飯倉さんには散々お世話になってるんだし、ましてダイヤモンド婚だなんて、滅多にある事ではないんだから折角の御招待に二人で出席しなければ悪いわよ」
 わたしの体調を知っている妻は幾分、穏やかな口調になって言った。
「招待状は来ているのか ?」
 重い口調でわたしは聞いた。
「まだ来てないわ。そのうち来ると思うわ。昌代さんが言ってたから」




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                 albi-france様

              
                 拙文にお眼をお通し戴き有難う御座いました
                時間的に余裕が無いので他の方々のブログ記事を拝見する事は
                余り無いのですが 先週 美しい写真に眼を引かれ
                思わず拝見しました
                今回も拝見させて戴きましたが 小梅ちゃん
                相変わらずの可愛さ 思わず声を掛けたくなる心境
                分かります
                食べ物の前でちょこんと座る姿 まるで人間の様に見えて来ます 
                思わず微笑みが漏れます
                 男の見境の無さ デコポン 笑いました  
                良い処にお住まいです 梅林の美しさ あの景色
                絶景です
                 なんと贅沢な日頃の食事 小梅ちゃんも欲しがるはずです
                有難う御座いました
               



                 takeziisanj様


                川柳 相変わらず面白く拝見せて戴きました
               わたくしとしては 祝う チャンス の中に面白いと思う作品を
               複数見ました
               やっばり川柳にはちょっとした皮肉が欲しいですね
               納得納得 この面白さが川柳でしょうか
                散歩AI 世の中AI時代 わたくしの一週間に一度計っている   
               体組成計にも計った後でメッセージが出ます
               今年四月で八十七歳ですが 肉体年齢七十一歳と出ます
               現在 取り立てて悪いところは無いのですが
               毎日の基礎的体操は欠かしていません
               取り敢えず後十年を目標にしています 
               出来れば百歳までと願っていますが
                水泳 お仲間と共に是非続けて下さい
               年老いたガールフレンドもまた楽しいではありませんか
                富士山 何時見ても心洗われます 河口湖湖畔で間近に見た姿を改めて
               思い出しました
               以前にも書きましたがわが家の屋上から見える方角と全く同じ   
               富士山でした 最近 噴火が取り沙汰されていますが
               あの姿が失われてしまうのは惜しいですね
               内心 俺の生きている間は噴火しないでくれ なんて思っています
                畑も冬枯れ 大根の思わぬ姿の面白さ 大根は大根役者ではなく
               千両役者です
                モズなど冬鳥 昔を懐かしく思い出しながら拝見しました
                有難う御座いました
 
 
 
                

 






































 
 
 
 






 
 



 

遺す言葉(532) 小説 <青い館>の女(21) 他 視点

2025-01-26 11:49:08 | 小説
              視点(2024.12.26日作)


 

 人は自分の視点でしか 
 物を見る事が出来ない
 自分の見た物が 唯一 真実と思い込む
 この世界には 他者の視点も存在する
 他者の視点 自分の視点
 異なる
 人それぞれ 異なる視点 異なる世界
 その真実
 繋ぎ得るものは人の心 精神性
 地球上 様々な生き物 動物達の中
 人だけが持つ心 精神性
 心と精神性 互いに張り巡らし 結び合う時
 生まれるものは巨大な一つの輪 一つの世界
 その時 初めて 人は人として その正道
 真実の道を歩む事が出来る
 自己の視点 他者の視点
 他者の視点を想像し得ない人間 人間以下
 一般的動物と異なる事は無い




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              <青い館>の女(21)




 
 今、此処でこうして居る自分は一体、どういう存在なのか ?
 自分の身に何があったのか ?
 身動き出来ない自分に対しての現実感が感じ取れなかった。
 あの社長室に居た自分と、今此処にこうして居る自分との間の深い溝。
 総てが空白の中にあった。
 自分が心臓発作で倒れ、病院に運び込まれたと理解したのは何日かが過ぎてからだった。
 あの激痛とそれに先立つ胸の締め付けられる様な圧迫感、受話器を握ったまま少しずつ増して来る痛痒感を頻りにワイシャツの上から擦っていた事が鮮明な記憶として甦る。
 現在に至る総てがそこから始まっていた。
 今でもふとした瞬間に襲って来る胸部の圧迫感と微かな痛みが瞬時にわたしを恐怖のどん底に落し入れる。
 気力を奪われ、暗然とした思いの中で屍としての自分をそこに見い出す。
 人生は終わった。
 呟きの中で恐怖との闘いのみが残された自分の人生の様に思えて来て絶望の淵に沈み込む。
 愚かな事だ !
 屍としての自分が一体何故、死の恐怖と闘わなければならないのだ 。
 死ぬ事がそんなに怖いのか ?
 何故、こんなにも死を恐れているのだろう ?
 この世の中に未練を残す何かが在るとでも言うのか ?
 何にも無い。 
 空虚が見えて来るだけだ。 
 それでいて、心の底から湧き上がって来る死への恐怖は一体、何処から来るのだろう ?
 何を意味しているのだろう ?
 既に明け方近かった。
 漁港の方からはなんの物音も聞こえて来なかった。
 まだ、漁船が出て行くには早い時刻なのだろうか ?
 それとも、総ての漁船が出てしまった後なのか ?
 わたしは深い眠りから醒めたばかりだった。
 加奈子は眼を醒ましていて目醒めたばかりのわたしと視線が合うと無邪気な笑顔を浮かべた。
 その表情が昨夜の加奈子を思い出させて愛しさを誘った。
 愛しさに誘われるままにわたしは加奈子の細い身体を抱き締める。
 加奈子はわたしの不可能な事は分かっていても、嫌がる素振りも見せずにわたしの為すがままに身を寄せて唇を合わせて来る。
 長い抱擁の後でわたしは加奈子の肉体を解き放す。
 加奈子は依然として嫌な表情一つ見せなかった。
 部屋を出る直前になって加奈子は二つ折りにしたバッグの中から小さな物を取り出してわたしの前で振って見せた。
「これ、要らなかった」 
 楽し気に笑いながら言った。
 わたしの知り尽くした"物"だった。
 わたしは笑顔で答えただけだった。
 港の遠い何処かで船のエンジンの弾ける音がしていた。
 それが幾つも響き合い、重なり合って長く続いた。
 ホテルを出るとまだ暗さを残した通りには頻りにトラックの行き交う姿が見られた。
 港の動き出した気配が伝わって来た。
 なかなか来ないタクシーを探しながら海岸ホテルの方角へ向かって二人で歩いた。
「これから、どうするの ?」
 加奈子に聞いた。
「家へ帰って寝ますよぉ」
 加奈子は当然の事の様に言った。
「家は近いの ?」
「近くはないけどぉ、そんなに遠いって言う事もないんですよぉ。歩いても行けるからぁ。この奥の方なんですけどぉ」
 左手の街並みの方角を指差して加奈子は言った。
 彼方に遠い山脈(やまなみ)が黒い影を作っているのが見えた。
「一人で住んでるの ?」
「そうですよぉ」
 加奈子は当然だ、という様に軽い非難を込めた口調で言った。
「誰か、友達と一緒に住んでるのかと思った」
 非難の口調に答える様にわたしは言った。
「でもぉ、一人の方がぁ気楽だしぃ」
 何となく沈み込んだ翳りのある口調で加奈子は言った。
 その沈み込んだ口調が何かしらの複雑な事情を想像させたが、それ以上に深く追求する気も起らなかった。
「今度また、こっちに来た時には会ってくれるかなあ」
 とだけわたしは言った。
「ええ、構わないですよぉ。今度みたいにまた電話をして貰えたらぁ、お店を休みますからぁ」
 加奈子は明るさを取り戻した口調で言った。
 その加奈子が手にしたバッグには先程わたしが渡した十万円が入っている。
 漸く一台のタクシーが遠くに姿を見せて来た。
 加奈子はそのタクシーを見ると、
「わたしは道が違うのでぇ、別の所で探しますからぁ」
 と言って足を止めた。
 昨夜、わたしが人目を警戒した事を覚えていたらしかった。
 わたしは加奈子を残して一人だけタクシーの来る方角へ向かって足を進めた。
 
 その日、ホテルへ帰ってから二時間程の睡眠を取った。
 その後、食事を済ませて帰路に着いた。
 東京へ帰ってからの日常には格別の変化も無かった。
 加奈子と会った事なども日常の雑務に追われる中で何時の間にか忘れられていた。
 季節は東京でも寒さに向かっていた。
 何時また変調を来すか分からない肉体が、依然として心を煩わせていた。




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               takeziisan様


                冬枯れの季節 散歩も楽ではない事だと想像出来ます  
               でも 身体は動かさなければ駄目 衰えるだけ
               昨日 ちょうどその様な文章を一篇纏めた所です
               近いうちにこの欄にも掲載する心算でいます
               何れにしても身体が動くうちが華 せいぜい頑張って下さい
                冬枯れ 頬白 懐かしい絵です 子供の頃が思わず蘇りました
               松林のまだ低い木々の間に「バッタン」を仕掛け
               捕ったものでした
                バッタン 竹と藁で編んだ縄を組み合わせて
               楕円形の小さな網を括り付け そこに鳥の好む餌を置き
               鳥が突くと網が倒れて鳥を捕獲する仕掛けです
                いろいろな鳥が居ましたが頬白は特に人気でした   
               寒さにも係わらずそうして冬枯れの野を歩き廻っていた事が思い出されます  
               懐かしい思い出です
                「じい散歩」ブログそのまま 面白い偶然ですね
               現代小説は読んでいませんので今どんな作家が居て 
               どんな作品が評判なのかも分かりません
               その意味でブログ内の小説案内は興味深く拝見しています
               何れにしても寒い季節 お身体にお気を付け下さい
                有難う御座いました

  



      


















































 
 
 
























          

遺す言葉(531) 小説 <青い館>の女(20) 他 忘れてならないもの

2025-01-19 12:15:43 | 小説
             忘れてならないもの(2024.12.16日作)



 
  命の終わり 死は
  常に身近 傍にある
  其処にも 此処にも
  一寸 一歩先は 誰にも分からない
  今 この時は 永遠ではない
  常に変わりゆく 今 この時
  人に出来る事は只今現在
  今を生きる 生きる事
  それでも人の命は日々 時々刻々
  失われて 逝く
  失われ逝く 人の命
  朝に生まれて 夕には沈む太陽
  沈む太陽 夕陽が今日も
  遠く彼方 山の端 海の向こう
  ビルの谷間に消えて行く
  沈む太陽 夕陽を見詰める
  日々の幸せ
  人が人としての命を全うする
  この尊さ 貴重さ 
  忘れてならないもの




            ーーーーーーーーーーーーーーーーーー




              <青い館>の女(20)



 
 
 片側二車線を持つ大通りに行き交う車の影は無かった。
 漁港に関連した仕事を持つ家が多いのだろうか、通りに面してそれらしい看板を掲げた二階建て、三階建ての家々も悉く鎧戸を降ろして静まり返っていた。
 公園は漁港に隣接して海に臨んだ場所にあった。
 加奈子が立っている辺りには大きな樹木が歩道の上にまで枝を延ばしていて、黒々とした影を作っていた。
 公園を囲んで作られた石垣の上には歩道に沿って整然とした連なりの柵が見られた。
 石畳みの歩道に早くも散り敷いた落ち葉が見えるのは此処が北国の故にか ?
 タクシーは加奈子の立っている前を通過して、なお進んだ。
 加奈子の姿を確認していながらわたしは、その前で車を停めさせる事を躊躇した。
 運転手に悟られるのを怖れた為だった。
 この狭い街では何処から噂が広がるか分からない。
 加奈子は暗闇に立ったまま不審気な様子で自分の前を走り去るタクシーを見詰めていたが、中の乗客がわたしだと認識していたのだろうか。
 加奈子の姿が小さくなった辺りで車を止めさせた。
 二枚の千円札を渡して釣りは受け取らなかった。
 タクシーはそのまま走り去った。
 その影が小さくなると加奈子の居る方へ戻って歩き始めた。
 暗闇の中で不審気に走り去るタクシーを見詰めていた加奈子もそれでわたしだと気付いて歩み寄って来た。
「タクシーがそのまま行っちゃったんでぇ、分からなかったのかってぇ心配したんですよぉ」
 加奈子は何故かホッとした様な笑顔と共に親し気に言った。
「運転手に知られると拙いと思ったんだ」
 わたしは言った。
「ホテルの前から乗ったんですかぁ」
「そう」
 加奈子はわたしの返事を聞くとそのまま先に立って歩き始めた。
「これから何処へ行くの ?」
 加奈子の背中に聞いた。
「歩いてもぉ七、八分の所ですからぁ、すぐ近くですよぉ」
 加奈子はなんの翳りも見せない声で言った。
「ホテル ?」
「はい」
 公園を囲む作が切れて漁港の入り口に出た。
 幾つか並ぶ建物の間から暗い海が鈍い光りのうねりを見せているのが見えた。
 桟橋に繋がれた小型漁船の一群が微かな波に小さく揺れて黒い影を作っていた。
 加奈子はその漁港を背にして四車線の通りを青信号で渡った。
「寒くないですかぁ」
 海から吹いて来る風が路上の枯れ葉を転がして過ぎて行った。
「うん、東京から比べたらずっと寒い。コートが欲しいぐらいだ」
 思わずそう言ったが、その寒さが改めてわたしの体調不良を意識さた。
 寒さの訪れ時期は何時も胸の圧迫感に怯えるのだ。
 呼吸と共に吸い込む寒気が直接心臓に触れて、その筋肉を収縮させるかの様に息の詰まる感覚に捉われる。
 その不安を隠してわたしは、加奈子が腕を絡ませて来るのに任せたまま歩いて行く。
 通りはやがてゆっくりと右に曲がって夜の中にポツンと明かりを点した<ホテル みなと>の白い看板が見えて来た。
「あそこ ?」
 わたしは聞いた。
「はい」
 加奈子は言った。

 ラブホテルと言うよりは連れ込み宿と言った趣の建物だった。
 誰とも顔を合わせずに部屋へ入れた事に安堵した。
 畳の部屋には低いベッドが置かれていた。
 傍の障子を開けると大きな鏡があった。
 突然映し出された自分の姿に狼狽した。
 慌てて視線を反らした先には浮世絵風に男女の絡みを描いた絵が掛けてあった。
 テレビがあった。
 点ければAVビデオの映像が流れるだろう事は想像出来た。
 浴室とトイレが次の間に在るのは部屋へ入るのと同時に眼に入った。
「こういう所へはよく来るの ?」
 自分の部屋へ帰ったかの様に落ち着き払っている加奈子を見て聞いた。
「あんまりは来ないけどぉ、時々はお客さんと来る事がありますよぉ」
 加奈子は悪びれる様子もなく言った。
 極めて自然なその態度が彼女達にはこんな行為も当たり前なのだろうか、と思わせた。
 その夜、わたしと加奈子は朝までの時間を過ごした。
 加奈子は店に居る時そのままに、疲れては眠り、また目覚めては愛撫を交わして揺蕩(たゆた)う様に眠りに入っていった。
 自分が不可能でいながらもなお執拗なわたしに加奈子は嫌な顔一つ見せなかった。
 わたし自身は少しずつ高まる昂揚感の中でも依然として、実際の行為は不可能だった。
 昂揚感と共に増して来る、胸元の締め付けられる様な感覚が過去にわたしを襲った発作の記憶を蘇らせて、わたしの意志の総てを奪って行く。
 意識を失い、自分が自分でいられなくなる事の恐怖。
 わたしの脳裡には病院の医師や看護師の白い衣服に囲まれて目醒めた時の記憶が今でも鮮明に焼き付いている。
 何故、俺はこんな所に居るんだ ?
 記憶が途切れていた。
 人工呼吸の器具を付けられ、ベッドに横たわっている自分が自分である事の感覚が掴めなかった。
 ついさっきまで社長室で電話の受話器を握っていた自分の姿しか思い浮かんで来なかった。




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               桂蓮様


                コメント 有難う御座います 
               このところ記事も余り拝見出来ませんでしたので
               やはり体調不良か と思っていました
               お元気な御様子 何よりです
               相変わらず仲睦まじいパートナーの方との日々
               拝見する方も心暖かくなります
                御文章 久し振りに拝見しました
               英語は不案内なのでよく分かりませんが 日本の学校で習う英語は
               全く役にたたないと言われます やはり現地で実際に体験する
               その貴重さが和文の中に良く表れています
               面白く拝見しました
               御自身もそうして少しずつアメリカ人としての色彩を纏ってゆくのでしょうね
               どうぞ これからもお幸せな日々をお二人で紡いでいって下さい
                お忙しい中 コメント 有難う御座いました



                  takeziisan様


                 今年は何か弱気な姿勢がほの見える気がして
                ちょっと寂しい気がします
                どうぞ 弱気にならずに頑張って下さい 
                人間 気力を失くしたら終わりだと思います      
                 疾患などを抱える身とか いろいろ拝見してやはり
                不安は拭えないだろうなとは御推察出来ます
                お互い 老齢の身 日々の生活にお気を付け 
                これからも楽しいブログ続けて下さい
                  -四℃ この辺りではちよっと想像出来ません            
                それだけこの地方は気候的に恵まれ 温暖なのかなあ などと思っています     
                 白菜の黄色くなった写真 農家の方々の苦労が偲ばれます
                やれやれ 実感出来ます
                それにしてもこの頃の野菜の高い事 家計的には大痛手です
                お写真を拝見して改めて羨ましく なんと贅沢なと思います
                 ウルフムーン 「碧空」 楽しませて戴きました
                若い時代の一時期流行ったタンゴ 懐かしく聴きました     
                 コピー つまらない文章ですが何かお役にた立てる事があるとすれば
                嬉しい限りです
                何時もわたくしの実感を素直に記しています
                これからも楽しく拝見させて戴きます
                忙しい日常を過ごす中での束の間の安らぎです
                 有難う御座いました        

















遺す言葉(530) 小説 <青い館>の女 (19) 他 人ではなく命

2025-01-12 12:11:04 | 小説
             人ではなく命(2024.12.12日作)


               ( スタッフの皆様へ
              今年もお手数をお掛けしますが
              宜しくお願い致します )



 
 人を 一人の人間として見るのではなく
 一つの命として見る
 人を 人間として見る事によって
 国々 地域 環境毎に 差別が生まれる
 あの国 この国 あの地域 この地域
 この環境 あの環境
 命に差別は無い
 どの命も一つの命
 一つの命は 一度失われれば
 再び 戻る事は無い
 どの国 どの地域 どの環境に於いても
 同じ事 誰の命も命は一つ 一つだけ
 一度断たれた命の再び戻る事は無い
 命に優劣 差別は無い




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             <青い館>の女(19)



 
 約束は生きていた。
 安堵感と共にわたしは、
「何時(なんじ)ごろ、何処で会えるのかなあ」
 と聞いた。
 わたしが自ら会う場所を指定するには、余りにこの街に付いての知識が乏しかった。
「ホテルでいいですかぁ」
 加奈子は言った。
「ホテル ?  何処の ?」 
 思わずたじろいだ。
 咄嗟に自分が今居るホテルが頭を過ぎった。
 この漁港街の小ささが意識の内にあった。
「ラブホテルなんですけどぉ、駄目ですかぁ」
 わたしのたじろぐ気配に気付いたのか、加奈子は躊躇いがちに言った。
「いや・・・、構わないよ」
 一先ずは落ち着きを取り戻してわたしは言った。
「じゃあ、時間なんですけどぉ、何時ごろがいいですかぁ」
 早速、加奈子は本題に入って明快な口調で言った。
 その口調が、仕事の打ち合わせでもしているかの様に拘りがなくてわたしは思わず笑い出しそうになった。
 お買い上げ、有難う御座います。お届けの時間は何時ごろが宜しいでしょうか・・・・
 そんな光景を思い描きながらわたしは、
「君は何時ごろがいいの ?」
 と聞いた。
「わたしの方はァ、お店の始まる時間が過ぎしまえば、何時でもいいですよぉ」
 相変わらず屈託の無い声で加奈子は言った。
「じゃあ、九時ではどうだろう ?」
 わたしは言って、突然、自分が今している事に対しての激しい嫌悪感に捉われた。
 俺は一体、こんな所で何をやってるんだ !
 自分が暗闇でごそごそ人目を避けて秘かに欲望を満たそうとしている、陰気で暗い若者の様に思えて来て惨めな思いと共に、受話器を置いてしまいたい衝動に駆られた。
 だが、受話器を置く事はなかった。
 その前に聞こえた受話器の向こうの加奈子の声がその衝動を抑えていた。
「九時ですかぁ、いいですよぉ。何処でぇ待ち合わせしますかぁ」
 加奈子は言った。 
「何処がいいのか、わたしには分からないけど」
 沈み込んだ気分のままにわたしは曖昧に言った。
「今、何処に居るんですかぁ、海岸ホテルですかぁ」
 加奈子は言った。
「そう」
 わたしは言って、ふと、不安になった。
 加奈子はわたしが居るホテルをズバリと指摘して来た。
 その思いが頭を過ぎると共に、この狭い北の街の中では総ての行動が人々の眼にはお見通しになってしまうのではないか ?
 だが、今更どうにもならない事だった。
 加奈子は、
「じゃあ、わたしが海岸ホテルまで迎えに行ってもいいてすよぉ」
 と言った。 
「いや、別の場所で会った方がいい」
 わたしは慌てて言った。
 加奈子がわたしの部屋へ来ると言ったのか、単に、迎えに来ると言っただけなのか、判断は出来なかったが、兎に角、このホテルからは出来るだけ遠い方がいいという防御の思いが先に立った。
「ホテルに近い処がいいですかぁ」
 加奈子は何故か、ホテルに拘った。
 わたしはその言葉と共に、何時だったか眼にした港の近くの公園を思い出していた。
 あの公園なら、夜の九時ともなればこの小さな港町では訪れる人も少ないのではないか ?
 安心感に満ちた思いと共にわたしは言った。
「ほら、港の近くに公園があったね、あの公園の入口で待っていてくれないか」
「港の方ですかぁ。でも、ホテルからは随分、遠くなりますよぉ」
 加奈子は不審気に言った。
「うん、構わないよ。タクシーで行くから」
 新店舗の前を通らなければならなかったが、タクシーで行くのなら人目に付く事もないだろう。
 店の閉店時間が九時なので、店員達の帰りの時間とかち合う事もないはずだ。
 それまでは、ホテルの部屋に籠っていよう。
 店長や川本部長はわたしが東京へ帰ったものと思っているだろう。
「じゃあ、わたし、それまでに行っていますぅ」
 加奈子は言った。
「ホテルはすぐ取れるの ?」
 わたしは聞いた。
「ええ、大丈夫ですぅ」
 加奈子は馴れた事の様に言った。

 タクシーが公園の入口に近付くと、街灯の灯りの切れた闇の中で、透かし見る様にしてこちらを見ている加奈子の姿が見えて来た。




              ーーーーーーーーーーーーーーーー




                takeziisan様


                 コメント有難う御座いました
                今年 初めてのブログです
                昨年中はいろいろ楽しい記事 有難う御座いました
                今年も宜しくお願いします
                 冬枯れ 雪景色 何処も彼処も冬真っ最中
                我が家の近くの公園も冬枯れ景色 それはそれでまた
                異なった趣の美しさがあります
                 雪景色 心洗われる様な美しさですが
                雪国 地元の方々に取っては それどころではないよ と
                苦情の一言も言いたくなるのではないでしょうか
                地球温暖化と言われながらも今年は 雪が多い様で
                その御苦労が偲ばれます
                 百名山 有名ですが わたくしは今 テレビで放映されている
                百低山登頂番組を毎週楽しみにして観ています
                これぐらいの山なら登山経験なしの自分にも登れるかなぁ
                などと思ったりしています
                 水泳 公営プール 何よりです
                継続は力なり ブログもどうか お続け下さい
                何事も駄目だと思わったらそれで終わり
                八十代九十代 元気な方々はそれぞれ何か自分で遣る事を持っています
                一日を生きる それが大切だと思っています
                 川柳 今年も楽しみにしております
                 つもり違い十ヶ条初めて知りました
                いろいろ名言がありますが 短い言葉の中にすぱりと確信を突く
                下手な百行の文章より よほど心に響くものが有ります
                下手な鉄砲数撃ちゃ当たる 何事に於いても避けたいものです
                 今年もどうぞ 宜しくお願い致します
      























 

遺す言葉(529) 小説 <青い館>の女(18) 他 忘れてならないもの

2024-12-22 12:06:28 | 小説
           忘れてならないもの(2024.12.6日作)
     
                    (今年は今回を持って終わりにします
                    スタッフの皆様には大変お世話になりました
                    有難う御座いました
                    また 駄文にお眼をお通しした抱いた方々には改めて御礼申し上げます
                    有難う御座いました
                     なお 来年は一月十二日より掲載の予定です
                    宜しくお願い致します)


 
 命の終わり 死は
 常に身近 傍にある
 其処にも 此処にも
 一寸 一歩先は誰にも分からない
 今この時は 永遠ではない
 常に変わりゆく今この時
 人に出来る事は 只今現在
 今を生きる 生きる事
 それでも人の命は日々 時々刻々
 失われて逝く
 失われ逝く人の命
 朝に生まれて 夕には沈む太陽
 沈む太陽 夕陽が今日も
 遠く彼方 山の端 海の向こう ビルの谷間へ
 消えて逝く
 沈む太陽 夕陽を見詰める
 日々の幸せ
 人が人としての命を全うする
 この貴重さ 尊さ 人が決して
 忘れてはならないもの




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              <青い館>の女(18)




 
 わたしは近付いて来たタクシーのドアが開くと座席に身体を埋めて眼を閉じた。
 タクシーがゆっくりと動き出した。
 瞬間、まるで奈落の底へでも突き落とされて行く様な奇妙な感覚に捉われた。
 底知れず沈んでゆく重い気分の中でわたしはホテルへ帰ったらゆっくりと眠りたいとだけ考えていた。


               3


 東京へ帰った翌日、わたしは早速、本社の会長室で息子に会い、北の街に於ける新店舗の営業状況を報告した。
 日々、忙しい中でも各地の支店から送られて来る営業報告書に眼を通している息子は、当然の事ながら北の街での営業状態も把握していて、予想以上の数字が送られて来る事に満足していた。
「あの店長は、あの辺では遣り手で通ってるらしいけど、それにしても良く遣ってると思うよ」
 息子は言った。
「お前、聞いてなかったか ? 中古の車で好い商売が出来るんじゃないかって、店長は言ってた」
 わたしの気持ちの中ではまだ、手を染めた事のない分野への進出に決断出来ない気持ちもあって息子に聞いてみた。
「うん、聞いてる。ロシアの船員相手に好い商売が出来るんじゃないかって。だけど、この方面は全くの素人だし、すぐにどうこうっていう訳にはゆかないと思うんだ」
 息子も流石に今の時点でおいそれとは決断出来ない様子だった。
「まあ、遣るとなれば何処か、これまでの実績のある所と組んだ方が無難じゃないのかなあ」
 わたしは言った。
「店長も、今すぐにって言ってる訳ではないんでしょう」
「うん、考えて置いてくれとは言ってたが」
「俺もこの前会った時言われて、考えてみるとは言って置いたんだ」
「部品から入ってみるっていう手もあるんじゃないのか ? 電気製品は良く売れる様だし、車でも商売になればこれに越した事はないからなあ」
「一応、関係者には当たってみようとは考えてるんだ」
「それはそうと松田農産販売は切ったんだって ?」
 妻の口から聞いた事を息子に聞いてみた。
「うん、どうしてもひと月決済にしろって言うんで、代わりにその分の値引きが出来るかって聞いたら、それも無理だって言うんで、じゃあ、止めようって言ったんだ」
「それで品揃えは大丈夫か ?」
「うん、大田市場でなんとか揃えられるよ」
「産地直送の看板は外さなければならないだろう」
「それは大丈夫だよ。他にも産直の仕入れ先が無い訳ではないし、地方は地方でそれなりに遣っているので心配ないよ」
「仕入れ部長はなんて言ってる ?」
「中園は大丈夫だって言ってる」
 結局、わたしは中古車販売の事も松田農産販売の事も息子の決断に委ねた。
 息子は何れ、適切な判断を下すだろう。
 商才に掛けては息子は祖父に似て、わたしより上だというのが専らの評判だった。
 祖父似という点に不快感を抱いてもわたしは、その評判に悪い気はしなかった。
 彼の能力が築く世界が明るいものであろうと想像出来る事は、父親としてのわたしに取って悪かろうはずがない。
 幸い、彼の家庭も旨くいっている。
 結婚と同時にわたしと妻の居る谷中の家を出て、築地にマンションを購入した息子夫婦は現在、七歳の男の子と三歳の女の子の四人で暮らしている。
 息子の細君は聡明で性格も明るく、素直な女性だった。
 何かと矜持の高いわたしの妻とも旨く折り合っていて、わたしが今、心を煩わせなければならない事は何も無かった。
 わたしの肉体がもたらす死の不安と恐怖、それに絡んで来る心の中の空虚な感覚。
 わたしの心を覆う暗鬱は総てわたしの心自体が生み出す問題だった。
 今のわたしはただ、そんな世界を生きてゆくより他に出来ない。
 わたしが三度目に北の街を訪れたのは、ほぼ二カ月が過ぎてからだった。
 北の街の新店舗では総てが順調で、何も変わりはなかった。
 中古車販売の件での目立った進展はなかったが、それはそれで仕方が無かった。
 新規に事業を始めるとなるとおいそれという訳にはゆかない。
 店長もそれは承知の上の事で、殊更、何か言って来る事も無かった。
 無論、わたしの訪問は通常の日程に沿っての行動だった。
 それでも今回は特別な行事も無くて、東北地区から足を延ばしてその日のうちに東京へ帰る事も可能だったが、無論、そんな日程は組まなかった。
 東北地区の視察を済ませた後、午後遅くに北の街に入って海岸ホテルに部屋を取り、店には翌日顔を出す。
 当然の事ながら、わたしの頭の中には加奈子への思いがあった。
 ホテルに入ると午前一時過ぎに加奈子の携帯へ電話を入れた。
 或いは、この時間でも加奈子に「通し」の仕事があった場合は電話に出られないであろう事は分かっていた。
 それでもこんな時間以外には電話の出来る時間が無かったのだ。
 加奈子は、店での仕事中は出られないので、午後二時頃から五時頃の間に電話して貰えますかぁ、と言った。
 夜遅く仕事から帰った後、「午前中はほとんど寝ているので電話があっても分からないからぁ」
 わたしはその時には「うん、分かった」と言ったが、実はこの時間帯はわたしに取っては最も忙しい時間帯だった。
 店内視察を済ませた後、店長や川本部長との話し合いを持たなければならならなかった。 
 その話し合いにどれだけの時間を取られるのかも、その場になってみないと分からない事だった。
 それに気付いてわたしは危惧しながらも真夜中の電話をしたのだったが、加奈子は長い呼び出しの後、電話に出た。
「はい、佐々木です」
 加奈子は言った。
 こんな深夜の電話に対する明らかな不機嫌さの感じ取れる口調だった。
「御免、三城だよ」
 わたしは加奈子の不機嫌さをなだめる様に穏やかな声で素直に謝った。
 無論、三城は加奈子に伝えた偽名だった。
「ああ、三城さん・・・」
 加奈子は途端に声を和ませて言った。
「なんですかぁ、こんな時間にぃ」
 加奈子は言った。
「今、何処 ? 家に帰ってるの ?」
 わたしは言った。
「ええ、帰ってますよぉ」
 加奈子は言った。
「通しの仕事じゃないかと思って心配した」
 安堵感を滲ませた声でわたしは言った。
「今夜は暇だったんですはよぉ、それでぇ早く帰って来てぇ」
 加奈子は言った。
「さっきはなんだか、機嫌が悪そうな声だったので心配した」
 言わずもがなの冗談をわたしは口にしていた。
「こんな真夜中に誰かと思ってぇ」
 加奈子は言った。
 何故かくぐもった様な声の、何処かに歯切れの悪さを感じさせる言い方だった。
 そんな加奈子の普段とは異なる一面に思い掛けなく触れた気がしてわたしは戸惑った。
 それでもすぐに気分を立て直して、
「明日、約束出来るかなあ」
 と聞いた。
「明日ですかぁ、いいですよぉ。お店を休みますからぁ」
 加奈子は躊躇う様子も見せずに何時もの明るさを見せて言った。

   


             ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




               takeziisan様



                今年一年 有難う御座いました
               楽しい記事 何時も駄文にお眼をお通し戴く事
               改めて御礼申し上げます
                今年は今回で一応終了になります
               有難う御座いました
                「雪の降る町」の季節ですね
               速いものです
               年々 月日は加速度を増し足早に過ぎて行きます
               あっという間の一年でした
               「小さな日記」 
               実はこの曲 知りませんでした
               それを何時も聞いている唯一の歌番組「BS ニッポン 心のうた」
                 で聞いて初めて知りました 
               良い歌だなと思い パソコンで調べてもみました
               あの時代の歌は余り知らないのですが フォレスタが歌ういろいろな曲の中で
               時々 良さに気付かされる事があります
               何よりも 混声合唱団のフォレスタの皆さんがしっかりと基礎を身に付けていて
               正確に曲を表現してくれますので 歌の良さが直に伝わって来ます 
               記事で「小さな日記」の文字を拝見して何故か嬉しくなりました           
                今年 納めの川柳の数々 読む方々の心意気が伝わって来て
               何時 拝見しても楽しいものです
                ジャム 総て手造り この贅沢さ 羨ましい限りです
               でも 食べ過ぎて糖分過剰になりません様に
                いろいろ 有難う御座いました
               来年は二週目から始める心算で居ます
               どうぞ 良いお年をお迎え下さいませ
               



 




































  
 
 






遺す言葉(528) 小説 <青い館>の女(17) 他 神 及び 運命

2024-12-15 11:39:39 | 小説
             神 及び 運命(2024.12.10日作)



 
 神とは 人の心の中にあるもの
 人の哀しみ 苦悩を癒し 救う存在
 人 それぞれの心の中こそが
 神の住む場所
 宗教 宗派に基ずく神など
 宣伝の為の神でしかない
 人がこの世に存在する数だけ
 神は存在し得る 眼には見えない存在
 豪華絢爛 飾り立てたりなどしない
 草生(む)す道端 そこに置かれた
 何気ない一つの石にさえ
 その石が人の手で置かれたものである限り
 神は其処にも存在する

 
 人にはそれぞれ
 持って生まれた運命がある
 人はその
 持って生まれた運命に翻弄されながら
 この世を生きている
 どの様な恵まれない運命を生きる人であれ
 その運命を誠実に生きている限り 他者は誰も
 その人を笑う事は出来ない また
 許される事ではない




             ーーーーーーーーーーーーーーーーー




              <青い館>の女(17)





「此処ではなんとなく落ち着かないんだ。まるで、こそこそ悪い事をしている様な気分になって来る。だから、今度からは別の場所で会う様にしてくれないか。わたしの方で電話をするから」
 わたしは加奈子の不安を解く様に穏やかな口調で言った。
 加奈子はそれでもまだ不安気な様子で、戸惑いと困惑の入り混じった顔で、
「でもぉ、お仕事でしているだけの事だしぃ」
 と呟く様に言った。
 わたしへの優しさも所詮は仕事の上での事で、心底から気を許している訳では無いのだ、と言っている様にも受け取れた。
 わたしはそんな加奈子の気持ちへの理解をしながらも、そこに批難の色合いの含まれていない事を読み取ると更に言葉を重ねていた。
「それは勿論、外でも仕事の心算で会ってくれればいいんだ。当然、それだけのものは払うし、そうすれば店へ払う分も含めて全部、君のものになるだろう。君に迷惑を掛ける様な事はしないから心配しなくていいよ」
 加奈子はそれで漸く、僅かながらも心を開いた様子だった。
「お店に払う分もくれるんですかぁ」
 と聞いて来た。
「そう」
 と言ってからわたしは、
「君たちはこの部屋へ来る五万円の中から幾らぐらい貰えるの ?」
 と聞いた。
 加奈子は躊躇う気配を見せたが、すぐに何時もの素直な加奈子に戻って、
「ひと月の成績でお給料が決まるからぁ、幾らっていう事は無いんですけどぉ」
 と言った。
「でも、衣装代や何かは引かれるんじゃないの ?」
 日頃の経験からわたしは、踏み込んだ質問をしていた。
「ええ、それは有るけどぉ」
 加奈子は言った。
「もし、外で会ってくれるんなら、店に払う分と一緒にもう少し上げてもいいよ。月に一度ぐらいになるかも知れないけど、来る時には電話をするから」
 加奈子の揺れている様に見える気持ちに重ねてわたしは言った。
 加奈子はそれで興味を持ったらしかった。
「幾らぐらい呉れるんですかぁ」
 と聞いて来た。
「十万円ではどうだろう ?」
 わたしは直截に言った。
「一回、十万円ですかぁ」
 予想外の金額だったらしく、加奈子は微かな驚きの表情を見せた。
「そう、十万円」
 わたしは言った。
 加奈子の驚く表情を見てもわたしの気持ちに迷いの生まれる事はなかった。
 その金額が安いのか高いのかは、わたしには分からなかった。
<サロン・青い館>で会ってもこの部屋へ来るだけで既に六万円を使っている。
 その事を考えればさして違いはない様に思えた。
 何れにしても、それが無駄金である事に違いは無くて、その金額を提示する事でかえってわたしの気持ちの中では鬱屈した思いが払拭される様な気がした。
「それでぇ、今までと同じ様にしていていいんですかぁ」
 加奈子は初めて興味を持った様に聞いて来た。
「勿論、同じでいい。だけど、前にも言った様にわたしは体調が思わしくないんで、なかなか思い通りにはゆかない。その事だけは承知をして置いて貰いたいんだ」
「そんな事、構わないけどぉ、それでぇ、こっちへ来た時には電話をしてくれるんですかぁ」
「もし、君が承知をしてくれさえすれば、電話をするよ。電話番号を教えて置いてくれれば」
「じゃあ、わたしの携帯の番号を書いて置くのでぇ、そこへ電話をして貰えますかぁ」
 加奈子は初めて乗り気な姿勢を見せて言った。
「うん、君の都合の好い様にすればいい。何時頃に掛ければいいのかも書いて」 
 わたしは言った。
「はい」
 何故わたしはその時、一人の若い女性の気持ちを引き付け得た喜びよりも、底が抜けてしまった様な深い空虚な思いを胸の奥に感じて居たのだろう。
 もう、わたしは、不思議な優しさでわたしの心を満たす一人の若い女に会う為に、いちいち夜の街にたむろする呼び込みの男達の冷笑的な視線を浴びる必要も無い。
 電話一本で何時でも好きな時に会えるのだ。
 それでいて、わたしの心の中に喜びの感情は湧いて来なかった。
 奇妙にも、人生にはぐれてしまった様な寂寥感だけがわたしの心を覆っていた。
 いったい、俺は何処へ行こうと言うのか ?
 こんな気持ちに陥るのは、加奈子の若さの所為(せい)だろうか ?
 これまでの数多くの女性関係の中でも初めて経験する感情だった。
 今のわたしに取ってはだが、何がどうであれ、そうする事でしか自分の気持ちを納得させる事が出来ないのもまた、事実だった。
 何も、深く考える必要は無い。
 気持ちの赴くままに生きればいいのだ。
 もう、残された時間は少ない。
 殊更、わたしが係わらなければならない仕事も無い。
 その夜、わたしは加奈子が小さな紙片に書いた携帯電話の番号と引き換えに五万円を渡した。
「これは、君が何時も親切にしてくれるお礼だ」
 加奈子はわたしの思い掛けない行動にも、今度は躊躇いを見せなかった。
「有難う御座いますぅ」
 と、丁寧に頭を下げて言った。

 再び、加奈子に送られて出た街並みは、夜明けの時刻にも係わらずまだ暗かった。




             ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




               iakeziisan様


                寒くなって来ました
               冬の散歩 大変だと思います
               でも 二人揃っての歩き こんな幸せは無いと思います
               どうぞ 今の時を大切にして下さい
               奥様 それ程の影響は無いとの事 何よりです
               くれぐれも御大事にして下さい
                自然の景色は何時見てもいいものです 心が洗われます
               ですからテレビ等も他の番組はニュースを除いて
               余り見ないのですが自然を映した番組 地方の何気ない日常を描いた番組などは
               選んで見ています
                人々や自然の中の何気ない風景の中に宿る美しさ 尊さ  
               決して華やかなものでは無いのですが
               此処に人が生きるという事の本当の美しさが含まれていると思います
               造ったものでは無い美しさ 自然にしても人間生活にしても
               貴重なものだと思います
                ブログを拝見していて いろいろ考えさせられました 
               有難う御座いました
                川柳 入選作だけに そうだ そうだ 頷き 笑わせられます
               世界中の愚かな指導者達への皮肉も拝見してみたいものです      
                有難う御座いました







































 
 

遺す言葉(527) 小説 <青い館>の女(16) 他 尊敬

2024-12-08 11:55:27 | 小説
             
            尊敬(2024.11.2日作)



  
 人間を地位 名称 経歴で評価しない方がいい
 高い地位 著名な人 その者達が隠れた場所
 他者の眼の触れ得ぬ場所で悪事を重ね
 人を傷める(殺傷)事など よくある事だ
 人間に於ける正当 真の評価は
 各人 それぞれが その持ち場に於いて
 人が人として 如何に正しく 真摯に その道
 その本道を全うし得たかによって 
 評価されるべきもの
 職業 職種 経歴 名声 一切関係ない
 その道 その場に於ける本道 その道を誠実
 真摯に生きた人 その人こそが真に賞賛
 尊敬に値し得る人 と言える
 空虚なもの 地位 名声 経歴 それらに
 惑わされるな 他者の眼に触れ得ない
 人に隠れた場所で 
 人が人として果たすべき役割り
 その務めをしっかりと担い 果たし得た人
 その人こそが真に優れた人であり 賞賛され
 尊敬されて然るべき人と言い得る
 その人こそが真に立派な人




              ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




               <青い館>の女(16)




 
 彼女に近付こうとする男達はなお絶えなかった。
 彼女に取っては、例え、それが社会人であったにしても、そんな男達の存在は学生時代から知り尽くしていた。今更、心を動かされる事もなくて、依然として強烈な個性の下、男達を近付け様ともしなかった。
 この頃の彼女は、既に男達を弄(もてあそ)ぶ事にも飽きたかの様に極めて親しい四、五人の女友達としか出歩く事が無くなっていた。
 わたしは今、思う。彼女がわたしを夫に選んだのは、わたしが何時も彼女の手の届く距離に居て、彼女の誇りを微塵も傷付ける事なく意のままに従っていたせいではないか、と。 
 確かにわたしのスキーの技術は彼女を魅了したかも知れなかった。
 しかし、それはわたし達の出会いの場では意味を持ったかも知れなかったが、それだけで彼女がわたしを生涯の伴侶として選んだとは思えなかった。
 何事にも厳しい態度で臨む彼女が、一時的な甘い感情に動かされるなどとは考えられなかった。
 恐らく彼女は、数多くいる彼女に近付こうとする男達の中から誰を選ぶにしても、自ら進んで心の裡を明かす事など屈辱以外の何ものでもない、と考えていたに違いない。
 その点、わたしなら、手軽な御用達的存在として重宝に思ったに違いない。
 彼女のブライドも傷付けられずに済む。
 わたし達はそうして、わたしの入社から六年目に結婚した。
 無論、彼女の口から出た事だった。
 現在、長男の孝臣は三十二歳になっている。
 わたしは初め、" その事"への妻の冷淡さに気付かなかった。
 女はみんなそんなものかと思っていた。
 怪しげな店へは何度も足を運んでいても、妻との経験がわたしに取っては初めての女性経験だった。
 結局、彼女は夫婦間に於いてもその強烈な矜持を解放する事が出来なかった。
 妻に取っては敗北とも言える姿態をわたしの前に晒す事が出来なかったのだ。
 何時でも妻は醒めた眼差しだけをわたしに向けていて、わたしだけが独り芝居を演じていた。
 息子が生まれるとその一人芝居にも幕が下ろされた。
 わたしはもう、お払い箱になっていた。
  初孫が男の子であった事への義父の信じられない様な喜びと共に、妻は極端にわたしを遠ざける様になっていた。
 わたしが求めるその度に不機嫌な妻の顔がわたしの眼の前にあった。
 わたしの外での行動がそうして頻度を増していった。
 わたしは妻に抱く不満の中で、その復讐でもあるかの様に殊更、わたしの行動を妻の前で匂わせた。
 馴染の芸者や、銀座の高級クラブ、バーのホステスなどの名刺や名前の入った贈り物などをわざと妻の眼に付く場所に置いたりした。
 妻はだが、そんなわたしの行動にも嫉妬という感情を知らないかの様に、決して心を乱す事が無かった。
 かつて彼女に近付こうとした男達に向けるのと同じ視線をわたしに向けるだけで、
「お客様が見えたらみっともないから、こんな物は自分の部屋へ仕舞ってた置いて頂戴」
 と、剣呑な口調で言うだけだった。
 恐らく妻はその時、明確に理解していたのだ。
 わたしがどれだけ外で遊んでいても、結局、妻に離婚を突き付ける事はないであろうと。
 事実、わたしの思いのうちには妻との離婚という考えは全く浮かんで来なかった。
 むしろ、彼女の前に自分の遊びを誇示しながらも、心の何処かでは離婚を怖れていたと言えるかも知れなかった。
 妻と別れてしまえば、会社に残る事も出来なくなるのではないか。
 会社では社長の娘婿という立場で、かなり優遇されていた。
 義父が持つワンマン的性格から、その経営に口を挟む事は出来なかったが、経歴の割には早くして営業本部長に引き上げられ、将来的には社長に、と誰もが見ていた。
 事実、わたしの意識の中にもそんな思いはあって、それだからこそ、不満の多いこんな生活にも耐えられるのだ、という気がしていた。
 無論、営業部長という地位から得られる高い報酬もその生活に執着させていた。
 当時、既に役員に就任していた妻の報酬と合わせると、わたしの多少の遊びも苦にならない程のものが約束されていた。
 決して豊かとは言えなかった生活の体験を持つわたしには、妻との多少の亀裂には眼をつぶっても、その生活を維持したいという思いが強かった。
 妻はそんなわたしの心の中などは疾うに見透かしていた。
 彼女から離婚を言い出さなかったのも、結局はわたしが、彼女の手の内で踊っている存在にしか過ぎないと見抜いていたからに他ならなかった
 わたしは妻に取っては、何時まで経ってもかつての彼女の取り巻き達の一人にしか過ぎなかった。
 わたし達が結婚する時、彼女の父はわたしの家の貧しさと家柄の違いを盾に反対した。
 妻はそれでも敢えてわたしの真面目さを強調して、彼女に言い寄る数多くの男達の中からわたしを選んでいた。
 わたしが何時まで経っても彼女のしもべであり続ける事を彼女はその時、早くも見抜いていたのだ。
 事実、わたしは現在までそんなしもべと言い得る立場に甘んじて来た。
 しかし、そんなしもべの役も牧元家の跡継ぎが出来てしまえばもう、終わりだった。
 牧本家の跡継ぎの息子は、仕事に掛けてはわたし以上の遣りてで通っている。
 その上、わたしは既に、快癒の見込みの無い病と共に人生の境界線をも眼の前にしている。
 心に浮かんで来るのは深い虚無の思いだけだった。
 彼方に見えて来るものは何も無い。
 絶望の深い淵が黒々と口を開けているのが見えて来る。 
 希望の光りは何処にも無い。
 そして今、北の小さな漁港街の如何わしい店の年若い女の何気ない言葉に心動かされている。
 その女に愛しさを覚える。
 この女との時間が何時までも続けばいいと考える。
 わたしは女に言う。
「今度からは、此処ではなくて別の場所で会える様にしてくれないかね」
 ベッドの上で毛布に包まり、わたしの手で小さな乳房を愛撫されていた加奈子の顔に一瞬、恐怖にも似た色が走った。
「別の場所って ?」
 加奈子は息を呑んだ様な気配と共に恐る恐る聞いて来た。
 わたしを見詰める眼に明らかに警戒の色が浮かんでいた。




             ーーーーーーーーーーーーーーーーーー




                takeziisan様    

      
                 お忙しい中 お眼をお通し戴き有難う御座います
                この地方もようやく冬らしい寒さになって来ました
                それでもやはり紅葉の美しさは見られません
                我が家の木々も紅葉は無く黄葉のまま散ってしまいました             
                何れにしても身体的には楽な冬です
                 シャコバサボテン見事です
                でも 何故 マンボ ?
                心の裡のなんとはない踊りだしたい気持ち ?
                理解出来る気もします
                 ピラカンサ サザンカ そんな季節ですね
                赤が眼に染みます 
                 ハクサイ 自家製梅酒 この贅沢 羨ましいです
                わたくしなどはもっぱら安物ウイスキーです              
                 それにしても鳥の胃袋 どうなっているのでしょう
                大きな獲物をまる飲み 人間ならひとたまりもありません
                野生に生きるものの強さでしょうか
                 スイミング終わり 歩く事に頼るのみ ?
                でも 身体は動かさないとーー
                 川柳のちょっと斜に構えた視点 何時読んでも楽しいです
                三ケ日ミカン 我が家にも今は物が入って空箱があります
                  有難う御座いました


















































遺す言葉(526) 小説 <青い館>の女(15) 他 人生の時

2024-12-01 11:22:57 | 小説
             人生の時(2024.9.12日作)



 
 人生の時は短い
 時間は夢の如くに過ぎて逝く
 八十六年余の歳月を生きて来て
 残された時間は今 僅か
 心に映る人の世の景色は総てが
 暗い色彩 死の影の下に 
 浮かび上がる
 輝く太陽 青春の時は
 遥か彼方 遠く過ぎ去り 
 思い出 郷愁のみが色濃く
 日常の時を彩る 


 
 老齢の人達が歳と共に信心深くなるのは
 死という逃れ得ない現実が日毎 年毎
 より身近に 自身の身に迫って来る事の為だ
 人は不安な心の下 眼には見えない何かに縋り
 頼りたくなる それが
 神 仏

 
 自身の心に誠実に生きる
 人の世の波は 自ずと
 自身の身に還って来る




             ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




              <青い館>の女(15)




 
 
 そんな思いと共に、わたしが意を決して電話をする気になったのは、ある夜のダンボール工場でのアルバイト作業が終わってからの事だった。
 ふと、沸き上がる空虚な思いの中で抑え難いまでの彼女への思慕に捉われ、深夜近くの遅い時間帯にも係わらず追い立てられる様に公衆電話に向っていた。
「もし、うちの仕事でも良かったら、父に聞いてみて上げるわよ」
 そう言った彼女の言葉だけが頼りだった。
 夜の遅さを懸念した心配を余所に彼女はすぐに電話に出た。
「はい、牧本です」
 彼女は言った。
 その声を聞いただけで緊張した。
「あのう、スキー場でお世話になった柿田ですけど」
 速くなる胸の鼓動と共に半分、怯えた様な声で言っていた。
「なあんだ、柿田さん、どうしたのこんな遅い時間に」
 彼女は笑いを含んだ声で快活に言った。
 わたしがスキー場で与えた好印象はまだ有効な様だった。
 それでもわたしは、電話をした本当の理由を見透かされてしまいそうな気がしてしどろもどろのうちに、
「すいません。あのう、就職の事で相談に乗って貰えないかと思って」
 と言っていた。
「就職の事 ? まだ決まってないの ?」
 彼女は言った。
「はい」
「それにしても、なんでこんな時間に電話をして来たの ? 明日、掛けてくればよかったのに」
 彼女はわたしの唐突な行動を笑うかのように笑みの感じられる声で言った。 
「今まだアルバイトの仕事中なんですけど、明日、就職面接の予定があるんで、その前に電話をして聞こうと思って」
 わたしは息苦しくなる程の緊張感の中で言っていた。
「明日 ? 何時から」
 彼女はなんの疑いもない様に言った。
「午後の三時からなんです」
「午後三時 ? じゃあ、明日、午後十二時半までに銀座四丁目の和光の前に行ってなさいよ。わたし達は車で行くから」
 彼女は言った。
 ーーわたし達と彼女は言った。
 わたしは不審に思った。
 それでも聞き返す事は出来なかった。
 翌日、彼女は二人の取り巻きの女性仲間を伴ってベンツで現れた。
 わたしが和光の入口横にポツンと立っているのを見ると車の窓ガラスを開けて、
「今、車を置いて来るから」
 とわたしに声を掛け、また走り去って行った。
 程なくして取り巻きの二人と共に彼女が姿を見せた。
 わたし達はそのまま、近くにある高級果物店の二階にあるフルーツパーラーへ向かった。
 わたしに取っては初めて入る高級な雰囲気に満ちた店だった。
 それでなくても緊張していわたしの緊張度は一層高まった。
 彼女はそんなわたしを尻目に、如何にも馴れた様子の気軽さで二階への階段を先に立って上っ行った。
 わたしはその席で彼女が問い掛けるのに対して改めて、<スーパーマキモト>への就職が可能かどうか聞いてみた。
「いいわよ、父に聞いてみて上げるわよ」
 彼女は気抜けのする程簡単に請け合ったが、彼女に取っては総てが気軽な世間話しにしか過ぎない様に思われた。
「そうすればまた、あのスキー場へ行けるものね」
 二人の秘密でもあるかの様に彼女は悪戯っぽく言った。
 わたしはそんな彼女の言葉に就職への手掛かりを得た喜びよりも、再び、彼女の傍に居られるという思いの安堵に心充たされていた。
 そうして<スーパーマキモト>で働く様になった。
 わたしが大学を卒業するまでの間もアルバイトで、そこで働ける様に彼女は骨を折ってくれた。
 わたしと妻との年齢差は二歳だった。
 彼女と出会って二年目の冬、大学生活最後の年もわたし達は同じスキー場で彼女の取り巻き達と滑った。
 彼女の計画したままに<マキモト>のアルバイトも何日か休んで行った。
 妻が<マキモト>の本社で働く様になったのは、わたしより二年遅れの大学を卒業してからだった。
 わたしはその時、上野公園の近くの店舗で働いていた。
 当時の<マキモト>は都内に六店舗を持つだけの規模だったが、安売りを主体にしたチェーン店形式の販売方法はまだ目新しくて、商売仲間からは「安かろう悪かろうのマキモト」と酷評されながらも、順調に売上を伸ばしていた。
 それはだが、決して安かろう悪かろうの商売方法ではなかったのだ。
<札束で頬を張る> 義父の強引なまでの取引方法で得られる成果だった。
<マキモト>の本社は昔から現在の場所の御徒町にあった。
 上野とはすぐ近くの距離だったが、わたしと彼女はスキーの季節を除いては他にほとんど顔を合わせる事が無かった。
 わたしは一介の社員でしかなかったし、彼女は社員と言っても社長の娘だった。その存在感には雲泥の差があった。気楽に彼女を誘う雰囲気はわたしの気持ちの中には生まれて来なかった。
 わたしはそれでも、実に良く働いた。意識の中には常に彼女の存在があった。
 それがわたしの尻を叩いて仕事に専念させた。
 働きぶりが社内で噂になれば、自ずと彼女の耳にも届くだろう。
 その為にのみ働いた。
 その上、普段は滅多に会う機会は無くても、スキーの季節になれば必ず彼女から声が掛かって、その時には改めて彼女が身近に感じられてわたしの気持ちを一層昂ぶらせた。
 大学を卒業してからの彼女は以前程に取り巻き達を連れ歩く事もなくなっていた。
 殊に男子学生達は就職と共に、学生時代の遊び半分の気持ちは許されなくなっていて、次第に彼女とも疎遠になっていった。
 中には社会生活の厳しさを知るに連れ、彼女の理不尽とも言える行動の強引さに嫌気が差して自ら離れていく者達もいた。
 無論、彼女の美貌はなお衰える事は無くて何処でも男達の注目を集めていた。
 
 
 

 
 
 






















































遺す言葉(525) 小説 <青い館>の女(14) 他 雑感五題

2024-11-24 12:23:32 | 小説
              雑感五題(2023~2024年)


 1  人の心は水面に映る
   月の様にありたい
   水面に映る月は 波に揺れ
   縦横無尽に形を変える それでも
   月は 月として その存在を
   少しも失くしてない
   月は月として 常にそこにある

 2 「一念起これば魔界に落ちる」
   固定観念で物を見るーー
   真の姿が見えて来ない
   無の心 真っ新(さら)な心
   その心で見る時 初めて
   物事の真実 
   その姿が見えて来る
 
 3  主義が何んであろうと構わない だが 
   個人が個人として生きられない世の中  
   そんな世界は異常だ
   個人 一人一人の存在は
   世界を包む

 4  人間は自由な存在
   その自由は
   野放図な自由ではない 
   他者の存在に束縛される
   他者の存在を束縛する自由は
   自身の自由も束縛される
   人は人としての輪
   人と人との関係の中でしか
   生きられない

 5  人の世は
   束の間の夢 幻
   現実はただ 今
   此処に在るだけ




               ーーーーーーーーーーーーーーーーーー




               <青い館>の女(14)




 
 わたしが妻と出会ったのは、長野県にあるわたしの実家から左程遠くないスキー場での事であった。
 当時、上京していたわたしは、逼迫した生活の中で大学に通っていた。
 彼女と同じ大学ではなかったが、冬の間、雪国に育った者の特権を活かして彼女のスキー指導をする事になった。
 わたしが三年の時で、妻はその冬、五、六人の男子学生と三人か四人の女子学生と一緒に来ていた。
 無論、彼女は其処でも女王の様に振舞っていた。
 女子学生には金銭面で、男子学生には金銭面は無論の事、その美貌に依って。
 わたしもまた、その美貌と金銭面に魅了された一人だった。
 眼を見張る美貌、今では肥満度を増したその容姿の中に昔の面影を見る程度になっていたが、当時の妻にはその言葉が最も相応しかった。
 すれ違って彼女を振り返らない男性はまず居なかった。
 目鼻立ちの明確な、何処か日本人離れのした輪郭の中に純日本的な柔らかさが備わっていて、思わず人を振り返えらせるだけの美貌が形造られていた。
 初めて彼女を見た時、わたしは息を呑んだ事を今でもはっきりと覚えている。
 同時に自身の容姿への劣等感で顔を赤くしていた。
 妻はそれを見ていた。
 一体、妻は何故、数多く居る取り巻きの中からそんなわたしを選んでいたのだろう ?
 確かに当時のわたしは、卑屈とも言える程に彼女に傅(かしず)いていた。
 彼女の住む世界がわたしの眼には、別世界の様に見えていたものだった。
 彼女がわたしの住む東京の下宿の近くにある<スーパーマキモト>の娘である事はすぐに知れた。
 学生の身でありながら、最新型のベンツを乗り廻している事も取り巻き達の会話から知れた。
 一方、わたしの家は、山間の小さな村で季節の移り変わりと共に、自然に寄り添って生きている様な質素な家庭だった。
 わたしが東京へ出てからも、思い出として浮かんで来るのは何時も土まみれになって働いていた、今はこの世には居ない父母の姿と共に五人の兄姉が一塊になって寝起きしていた、茅葺屋根の古い佇まいの家だった。
 そこから兄や姉達は高校へ進学する事も無く、家を継いだ長兄を残してそれぞれが都会へ出て行った。
 一番下のわたしだけが、四人兄姉の援助を受けて高校への進学が出来た。
 大学へは自らの希望と努力で進学した。
 費用は総て、兄姉達からの借用という形を取っていた。
 その頃のわたしは多分、飢えた犬の様に浅ましかったに違いない。
 豊かな餌に有り付く為に尻尾を振って擦り寄って行く浅ましさ。
 今でもわたしは、やがて妻になる女に腰を低くして機嫌を取っていた当時の自分を、何かの折りにふと思い出して激しい嫌悪の感情と羞恥の心に捉われる。 
 勝手知ったスキー場でわたしは、他の取り巻き達の誰よりも得意になって彼女の為に働いていたのだ。
 妻はそれが総てでわたしと結婚したのだろうか ?
 いや、そんな事は無い。
 自尊心から、そう答えたい。
 それが総てで妻はわたしと結婚した訳では無いのだ !
 当時、わたしはスキーの技術に於いて中学生時代から、大学生にも引けを取らないと言われていた。
 事実、わたしはいろいろな競技会に出ては常に人目を引く成績を残していて、各方面からも注目されていた。
 大学進学に当たっては、スキーに依る特待生という話しもあったが、諸々の事情が絡んで不可能になっていた。
 それと共に大学へ進んでからのわたしは、次第に競技からも遠ざかり、日々の生活に追われるままにアルバイトの中でのみ、その技術を活かす様になっていた。
 わたしの滑りはそれでもなお、健在だった。
 たまたま、スキー場で知り合った妻がわたしの滑りに魅せられて、わたしがアルバイトの学生指導員だと知ると、
「来年もこのスキー場に居る ?」
 と聞いた。
 スキーの季節も終わる頃だった。
 わたしはだが、その日暮らしの生活の中で即答出来なかった。
 卒業を控えて就職活動もしなければならなかった。
「ちょっと、分かりません。来年は就職活動もあるんで」
 わたしは答えた。
「どんなお仕事をするの ?」
 彼女は言った。
「まだ、何も決まって無いんで、いろいろ当たってみてから決めようと思ってます」
 わたしは言った。
「そうなの。もし、うちの仕事でも良かったら、父に聞いてみて上げるわよ」
 彼女は軽い口調の何気ない様子で言った。 
 わたしが下宿近くのマキモトを利用している事は彼女も知っていた。
 その時わたしは、そんな言葉も軽い印象の口調と共に単なる社交辞令の様に受け取って、さして気にも留めないままでいた。
 その言葉がわたしの心の中で重みを持つ様になったのは、スキー場の季節も終わって彼女に会えなくなってからだった。
 類い稀な美貌を誇る「牧本由美子」の姿がわたしの脳裡から消えなくなっていた。
 しばしばわたしは、街中(まちなか)の人込みに後ろ姿の似た人を見ては後を追掛けた。
 新しい学年を迎えて学生生活も残り少なくなると急に、その生活の終わりと共に牧本由美子に会う機会も失われてしまうのかという思いに捉われて、居た堪れない焦燥感に捉われた。
 就職してしまえば、スキー場でのアルバイトも出来なくなるだろう。
 だからと言って、直接、彼女に自分の思いを打ち明ける勇気など無論、湧いて来なかった。
 彼女とわたしとの間には、余りに大きな生活環境の相違があった。
 わたしに取って彼女の生活は高嶺の花の生活と言えた。
 それでもなお、わたしの彼女に対する思いは収まる事が無かった。
 日を増す毎に彼女とスキー場で一緒に過ごした日々の記憶が大きく甦って来てわたしを苦しめた。




               ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




                takeziisan様


                ちょっと寒くなりました
               早いものです 暑い暑いとこぼしていた日々が昨日の様な感じの中
               早 師走も間近 少しずつ寒さが身に沁みて来る様な季節に
               なってしまいました
                並木の紅葉 今年も色付きましたね
               こちらではまだ 紅葉らしい紅葉は見られません
               シャコバサボテンもまだです
                野菜の生育 それなりに農家の方々の手間も大変なんだなあと
               教えられます でも こうして画面を拝見しますと
               なんとなく 羨ましい景色に見えて来ます
               今年の野菜の値段の高さ 驚きと共に野菜を多く使用する身に取っては
               大変な負担感を覚えます
               その点でも このような画を拝見しますと羨ましさを覚えます
               何より その新鮮さは最大の魅力ではないでしょうか
               以前にも書きましたが 本当の豊かさとは何か
               つくづく考えさせられます
               総てが自分の思いのまま実践 実行出来る
               この農業という職業の素晴らしさ これ程 魅力的な仕事は 
               そう多くは無いのではないでしょうか
               改めて考えたりしています
               農業 とても魅力的な仕事だと思います
                奥様 リハビリ お二人揃っていればこその幸せ
               どうか お大事になさって下さい
                有難う御座いました






            






















 
 
 
 



































   
   
    



遺す言葉(524) 小説 <青い館>の女(13) 他 それが人生

2024-11-17 11:56:31 | 小説
             それが人生(2024.10.8日作)


 

 一般的俗説 世俗の論
 信用しない
 わたしの信じるもの
 わたし自身の生きた歳月
 八十六年余の年月 その中で得た
 経験に基づく知識
 それのみ
 八十六年余の歳月
 自身に向き合い 自身を見詰め 
 真摯に生きて来た 結果
 必ずしも 望んだ人生
 理想の人生 夢見た人生 とは
 成り得なかった
 後悔と迷い 苦しみのみ多い人生
 それでも
 自身を否定する事は無い
 苦難は多く 喜び少ない人生
 その中で残された歳月 あと幾年月
 最早 得られる物は少なく
 失われ行く物のみ多い年月
 自身の出来る事 ただ
 精一杯生きる これまで 今日まで
 精一杯生きて来て 今また
 精一杯 自身を生きて行く
 世俗的一般論 俗説 風説に
 惑わされない わたしを生きる
 わたしの人生 わたしの歳月
 その中で得た経験 知識 
 唯一 自身の生きる糧として
 これからも
 人が人として歩むべき真実の道
 その道を誠実 真摯に歩み
 生きて行く
 喜びは風の如くに飛び去り 残される物は
 雪の如くに降り積もる哀しみ
 それが人生




              ーーーーーーーーーーーーーーーーーー




              
            
               <青い館>の女(13)





「加奈子って子は居るかなあ」
 薄暗い照明の中でソファーに腰を落ち着け、あからさまに顔を見られる事からの解放感に安堵しながらわたしは加奈子の名前を言っていた。
 無論、他のホステスの顔も名前も知らない事情もあったが、ほとんど、無意識的にとは言え加奈子の存在無くしてこの店に再び入る事などあり得なかった。
 ただ単なるホステスとの遊びなど、わたしは望んでいなかった。
「はい、加奈子さんですね。少々、お待ち下さい」
 ボーイが去ると加奈子は待つ間もなく姿を見せた。
 この前と同じ様な衣装で同じバッグを手にしていた。
 傍へ来ると丁寧にお辞儀をして、
「入らっしゃいませぇ」
 と言った。
「今晩わ」
 わたしは立っている加奈子を見上げて言った。
「失礼しますぅ」
 加奈子はやはりこの前と同じ様にわたしに身体を擦り付けて座席に着いた。
 既に知り尽くしている若さに満ちたその肉体の感触がわたしを親しみの感情へと誘う。
 加奈子はテーブルの下の棚に小さなバッグを置くと、わたしに向き直って、
「指名して戴いて有難う御座いますぅ」
 と言って、小さく頭を下げた。
「名刺を貰って置いたからね」
 わたしは言った。
「でもぉ、なかなか来てくれない人が多いからぁ」
 加奈子は言った。
「わたしも来ないと思った ?」
 わたしは年甲斐も無く再び、 如何わしい店へ足を運んだ事のバツの悪さを覆い隠す様に加奈子の肉体を抱き寄せて言った。
「そうじゃないけどぉ、やっぱりぃ」
 加奈子は歯切れ悪く言葉を濁して言った。
「この柔らかさと君の優しさが恋しくなって、また来る気になったんだ」
 自分の心の裡のモヤモヤした感情を一気に振り払う様にわたしは、加奈子の肉体を抱き締めて言った。
「お仕事、お忙しいんですかぁ」
 加奈子はわたしに身を任せたまま言った。
「まあ、いろいろあってね」
 日常へ引き戻される事を拒否する様にわたしは言葉を濁して言って、加奈子の口元に顔を寄せその唇を塞いだ。
 加奈子は拒まなかった。
 自らわたしの口元に顔を押し付けて来た。
 身体と口を寄せ合ったままの長いひと時が過ぎて身体を離すと加奈子は、
「またぁ、あっちの部屋へ行って貰えますかぁ」
 と聞いた。
 わたしに異存は無かった。
 無意識的とは言え、それを求めて此処へ来たのだ。
 それからの時間はわたしに取って、満足のゆく時間と言えた。
 わたしの不調は相変わらずだったが、加奈子の優しさと労わりに満ちた心遣いは相変わらずだった。
「実は、体の調子が悪くて駄目なんだ。医者に止められている。だから、この柔らかい肌に触れさせて貰えればそれだけでいいんだ」
 わたしは初めて真実を口にする。
 加奈子は軽い驚きの表情を見せてわたしを見たが、
「何処か、悪いんですかぁ」
 と聞いた。
「うん、ちょっとね」
 わたしは曖昧に言って、それが大した事では無いという様に再び加奈子の肉体に触れてゆく。
 加奈子はやはり、厭がる素振りも見せずにわたしの口にその口を押し付けて来る。
 ひと時のそんな行為の後で疲れ果てた様に裸体を投げ出している加奈子にわたしは言った。
「こんな事をしていて、厭じゃないのかい ?」
「こんな事って ?」
 加奈子は言葉の意味が分からない様にわたしを見詰めて問い返した。
「わたしが駄目で、君が触られている事が」
 加奈子はそれで言葉の意味を理解したらしく、
「そんな事ないですよぉ。これでぇ、お金を戴いてるんですからぁ」
 と、言って屈託のない表情を見せた。
 その明るい、屈託の無さが思い掛けなくわたしにふと過去の苦い出来事を思い出させた。
 わたしが体調の不良を意識し始めた頃の事だった。
 これまでの習慣が抜け切れなくて地方へ出た折り、何時もの様に馴染みのバーへ足を運び、そこの女と一夜を共にした。
 その時初めてわたしは今の自分に出会っていた。
 混乱、狼狽し、半ば呆然自失のうちに諦めて、
「疲れたろう」 
 と言った時、三十六歳の女は、
「別に」
 と冷ややかに言って、蔑む様にわたしから視線を逸らした。
 その夜、二人の間に通い合うものは再び生まれて来なかった。
 わたしは、
「いけねえ。思い出した事がある」
 と言って、急いで身支度をすると、まだ半裸のままでいる女をそこに残して部屋を出た。
 以来、絶えず意識される身体への不安と共に、その事への恐怖がわたしの心の裡に住み着く様になっていた。
 それらの事はわたしの体調不良を除いて妻の一切、知らない事であった。
 わたしと妻との間では、既に思い出す事も出来ない程の遠い昔にその事は絶えていた。
  妻は結婚当初から、その事には熱意が無かった。
 息子の孝臣を身籠るまではそれでも、どうにかわたしの接触を許していた。
 牧本家の一人娘の妻に取っては、最初に生まれた子供が男の子であった事は何よりだった。
 牧本家の跡継ぎが出来たのだ。 
 以来、妻は育児の忙しさなどを理由に何かとわたしを遠ざける様になっていた。
 資産家の一人娘として大切に育てられ、誰もが称賛せずには置かない美貌の持ち主としての高い矜持を持った妻は、初めからその事への関心は薄かった。
 それとなく匂わせるわたしの女性関係にも、蔑みの表情を見せるだけで、それ以上の感情は示さなかった。
 妻に取ってはわたしは、出会いの当初から見下した存在でしか無かったのだ。
 わたしだけでは無い、彼女に取っては総ての男性が彼女に傅(かしず)く存在でしか無いのだ。
 男の手に弄ばれ、至福の境地に至る事など、彼女には屈辱以外の何ものでも無い。
 妻は幼稚園から大学まで、一貫して私立の有名校に在籍した。
 そこでの彼女はその美貌の故に何時でも男子学生の中 の 女王だった。 
 



              ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




                takeziisan様



                 暑い 暑い と音を上げていたのが つい この間と
                思っていたのがもう「枯れ葉」の季節
                この季節が来る度に思い出される名曲ですが
                迫り来る寒さと共に 何時聴いても身に沁みる名曲です
                赤とんぼ 十数年前にはわが家の屋上にも時折り
                姿を見せたのですが 今は見られません
                トンボと言えば秋の黄色く稲の稔った田圃の上に群れを成して
                飛んでいた子供の頃を思い出します
                ヤンマ ヤンマ カエレ 稲ヤンマカエレ と 
                細い竹の先に糸を結び 囮のトンボを振り廻し 
                何匹も捕まえて数を競った事を思い出します
                それも今では遠い記憶で 懐かしさの中に思い出す事しか出来ません 
                時はただ夢の様に過ぎて逝きます 行く先々の果てが身近になるに従い
                季節の移ろいは日毎 速まる感じがします
                 サザンカ 栴檀 南天 柚子 懐かしいです
                栗 柿を交えて子供の頃のわが家に有ったものばかりです
                都会の屋根ばかりが眼に飛び込んで来る現在の環境の中
                しみじみ 恋しくなります(屋上に出ると東京スカイツリーを左に
                遠く彼方に富士山が小さく見えるのですが)ですから 普段 特殊な番組 
                二 三を除いてテレビは観ない中で自然を映した風景や「小さな旅」など 
                地方の地元に密着して生きる人々の生活を映した番組などはよく見ます
                それと共に 再び 昔の様な環境に戻りたいと思うのですが
                それも もう無理な事だと思っています
                その点、御当地にはまだ自然が残されていらっしゃる様で
                羨ましく思います
                こちらでは南天 シャコバサボテン 全く花芽が見られません 
                それだけ気温が違うという事でしょうか
                以前にも書きましたが この地方は温暖な地域でして
                皆 のほほんと育ってしまい偉い人が出ないのだ などと言われています 
                何時も 拙文にお眼をお通し戴き有難う御座います
                御礼 申し上げます  
                         
                



              


































         

遺す言葉(523) 小説 <青い館>の女(12) 他 騙されるな

2024-11-10 12:29:02 | 小説
             騙されるな(2024.10.27日作)


 
 一般市民 市井に生きる人々
 それぞれ自身の持ち場 
 生活環境 その中で
 妻や夫 子供達
 家族の生活 日々の小さな幸せ求め
 誠実 真摯に生きている
 ー 時には愚かな犯罪者も ー 
 誰に知られる事も無い
 世の中 社会の表に出る事も無い
 それでも 市井に生きる人々 一般市民は
 世の中 社会の礎 その役目を担い
 日々 黙々と 社会の一員 構成員として
 誠実 真摯に生きている  大言壮語
 声高に叫ぶ事も無い
 声高 叫ぶ
 浮かび 見えて来るのは
 政治家 政治に生きる人間達 その姿
 明るい未来 明るい社会
 その創造を豪語する 政治家達 実態は
 彼等の為す事 あらゆる事柄 大半 大方が
 陰の方角 悪い方へ 悪い方へ と進んで行く
 明るい未来 明るい社会 その道の
 なんと遠く 細い事か !
 明るい未来 開かれた社会 平和な国家
 政治家達の口癖 寝言が如きもの 
 その裏側 真実 
 見えない所に眼を向ける時 
 見えて来るものは
 ただ ただ 彼等の 自己顕示 権力 名誉 
 その欲望のみ
 自己顕示 権力 名誉 その為なら
 殺人さえも厭わない
 隠れた悪事 見えない汚職 なり振り構わず 突き動かされる 
 その事例 数知れず 政治家達
 真の姿は其処に有る
 国民 国家の代表 空虚な戯れ言
 騙されるな !
 大言壮語 中味は空っぽ 虚偽 虚言
 騙されるな !
 人が生きるこの世界
 真に尊く 美しいもの その姿は
 日々 黙々 真摯に 自身の持ち場を生きる
 名も無き一般市民 市井の人々
 その人々の 誠実 謙虚に生きる その姿に こそ
 人が生きる この世の真実 美しさがある
 虚偽 虚飾 大言壮語 大袈裟な 
 身振り 手振りに 惑わされるな
 騙されるな !
 総ては政治家達の 寝言が如きもの
 大言壮語に惑わされるな !




             ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




             <青い館>の女(12)




 
 わたしは左程の驚きも覚えなかった。
 大方 予想通りの結果だったし、情報がわたしの耳に届くよりも早く妻の耳に届くのは何時もの事だった。
「あれがそう決めたのなら、それでいい。自分の責任で遣っている事なんだから」
 わたしは息子の決断には妻の意向も反映している事は知っていた。
 それに今のわたしには、敢えて息子の反対を押し切ってまで、自分の方針を貫きたいという強い意志も生まれて来なかった。
 現在、わたしに取っての最大の関心事は、わたし自身の命に係わる問題だけだった。
 それ以外にわたしの心を引き付けるものは無い。
 最早、残り少なく思われるわたしの人生。
 何時、何があってもおかしくはない状態がわたしの肉体を蝕んでいる。
 その中で、せめて自身、納得した日々のうちに最後を迎えられる人生を生きたい。
 現在の唯一の望みであり願いだった。
 わたしが生きて来た今日までの年月。その中で自分自身の人生だと言える日々が何日あっただろう。
 何事にも強引な義父と、一人娘で溺愛されて育ったお嬢さん育ちの、誰の眼も惹かないでは置かない美貌の持ち主で気位の高い妻の下、ほとんど身を屈(かが)めるようにして生きて来た人生だった。
 そんな人生の中での残り少なく思われる日々、今はただ、自分自身、納得して終われる人生を生きたいと思うだけだった。
 その朝、わたしは出掛ける直前になって、妻には三日か四日掛かりになるかも知れない、と言っていた。
 一体、何故、そんな事を言ったのだろう ?
 少なくとも、早い時刻に羽田を発って東北地方を廻り、翌日に北の街へ足を延ばして新店舗の状況を確認し、その日のうちに帰れば帰れる仕事だった。
 それでいながらわたしの口からは、妻の顔を見た途端にその言葉が出ていた。
 無意識の意識がそうさせたのだろうか ?
 わたしの心の奥の知らない何処かで、長い人生の中でこれまで経験した事の無かった、まだ幼いとも言える加奈子との出会いが無意識的にそうさせていたのだろうか ?
 北へ向かう機内でわたしは妙に寛いでいた。
 単身飛び廻る事には馴れているわたしに取って、機内で独り過ごす時間は決して珍しい時間ではなかったのだが。
 東北地方では一日掛かりで店舗を廻り、翌日、北の街へ向かった。
 北の街に着くと空港からすぐに店舗に向かい、支店長や川本部長と会った。
 営業状態に申し分は無かった。
 その夜、わたしは二人を支店長推薦の料亭へ招き、今後の課題と計画などに付いて意見を交わした。
 支店長はその席でも、
「是非、中古車販売が出来る様にして下さい。いい商売が出来ると思いますよ」
 と、自信に満ちた口調で言った。
「ロシアの漁船員達は国へ帰って自分達で商売をする為に、欲しがっているんです。それだけに品物さえ揃えられれば間違いの無い商売が出来ると思います」 
 その提案は川本部長も支持した、
 わたしは東京へ帰ったら社長と相談してみる、と答えた。
「今は片手間でやっている様な部品販売でも、結構、いい利益を産んでいますからね」
 川本部長は言った。
   わたしが料亭を出たのは九時過ぎだった。
   支店長が今度もタクシーを呼ぼうと言ったが、わたしは断った。
「ホテルまで歩いて帰るよ」
「此処からは、結構、距離がありますよ」
 支店長は言った。
「うん、構わないよ。酔い覚ましだ。それに新店舗の夜の様子も見てみたいし」
 冗談に紛らして言ったが、この時、わたしの意識の中には青い館への思いは全くなかった。 
 それでいて、その言葉が口を出ていたのは、やはり無意識的意識の為させた業だったのだろうか ?
 海岸ホテルには料亭に席を取った時に予約を入れていた。
「明日の朝はタクシーで空港まで行くから車の心配は要らない」
 二人と別れる時、支店長が気を利かせて車を手配するかも知れないと思い、断りを入れて置いた。
 ホテルまでの道の途中、営業時間も終わって北の街の広々とした空間に大きな建物の影を浮かび上がらせている新店舗の前を通った。
 この前歩いた距離より遥かに遠い距離だったが、建物の堂々とした趣に何んとはない満足感を覚えながら、何時の間にか「<青い館>の女」のある以前の通りへと足を運んでいた。
 これもまた、無意識裡の行動と言えるかのも知れなかった。
 行く手にやがて「<青い館>の女」のネオンサインが小さく見えて来た。
 年甲斐も無く微かな胸の鼓動を覚えていた。
 当初、わたしの意識の中には<青い館>への思いは全く無かった。
 それが部長達と別れて歩いて来るうちに何時の間にか、この道を辿っていた。
「<青い館>の女」のネオンが見えた時には、まだ幼く、二十歳そこそこと思われる加奈子の面影が脳裡に浮かんでいた。
 今夜は人影も疎らな北の街に霧は無く、石畳の歩道に沿って立ち並ぶ街灯が並木の陰で早くも寝静まった気配の静寂を際立たせて、白い光りを放っていた。
 その道を歩いて行くに従って、次第に大きくなって来る青いネオンサインの看板を眼にしたまま、わたしの気持ちはなお、揺れ動いていた。
 このまま、歩いて行ってもいいんだろうか ?
 もし、この前、わたしを誘った客引きの男がいたらどうしよう ?
 年甲斐も無く、また、ピンクサロンに遊びに来たのか、と思われたりしないだろうか ?
 男の軽蔑的な眼差しを想像すると気持ちが萎えた。
 その時は、無視して通り過ぎてしまおう。
 わたしはこの時、まるで性に飢えた少年の様におろおろしながら迷っている自分に抑え難いまでの嫌悪を覚えて、惨めさに打ちのめされた。
 落ちぶれ果ててボロボロになった自分を見る気がして寂寥感に襲われた。
 一層、今、此処に居る自分の一切を投げ捨てて真っ直ぐホテルへ帰ろうか ?
 半分、現役を引退してしまった様な現在の自分だったが、それでもわたしはなお、<スーパーマキモト>の会長として、多少なりとも人々の尊敬を受けている。
 その、尊敬を受けるに相応しい人間に立ち戻ろうか ? 
 野良犬の様に人目を避けて、年甲斐も無く見知らぬ土地のピンクサロンの若いホステスへの思い入れを抱いて、夜の街などを彷徨っていないで。
「社長、どうですか。いい子が居ますよ。若くてピチピチした子ばっかりですよ。ちょっと寄っていって下さいよ」
 その時、思いがけず声を掛けて来たのは、この前の男ではなかった。
「一万円、一万円でいいんですよ」
 寄り添う様に身を寄せて来たのは、憎めない笑顔を浮かべた丸っこい身体の背の低い男だった。
 わたしは男を無視して歩いた。
 男はこの前の男の様にしつこかった。
「一万円でいいんですよ、社長。ちよっと、遊んでいって下さいよ」
 男は右手の人差し指をわたしの前に突き出しながら言った。
「本当に一万円でいいのか ?」
 わたしは男をからかう様に言った。
「勿論ですよ。嘘だと思って入って下さいよ」
「いい子が居るって言うのに、嘘は無いんだろうな」
「本当ですよ。嘘なんか言いませんよ」
 男は一層力を込めた口調で言って絡み付いて来た。
 わたしは男に押し出される形で「<青い館>の女」の入口に立っていた。

「誰か、御指名の子は居ますか ?」
 店内に入ってからの問い掛けも同じだった。




              ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




                takeziisan様


                奥様 快復 順調との事 何よりです
               拝見してる方もホット 一安心です
               こういう事は 若くて元気な時には気付かないものですが  
               自身 あと何年 と死の意識から逃れられない日々を送っている身には
               他人事ながら身に詰まされる思いが込み上げて来ます
               どうぞ お二方 お元気に日々をお過ごし下さい
               人間 究極は独り 何時かは 生も死も一人の道を辿る事になる
               その中で 生きるのだ 生きている限りは 日々 より良く生きるのだ
               その思いで頑張って下さい
               二人で居たものが独りになる 身体の片側を削り取られたと同じ事
               NHKテレビの画面の中で 八十代の奥様を失くした男性が
               毎日 なんの為に生きているのか分らない と呟いていましたが
               人生最晩年になると出来る事も限られて来ます
               孤独感は増すばかりです 
                余計な事を書きましたが どうぞ 奥様にはリハビリに励んで戴いて
               一日も早く日常に戻れる様 頑張って下さい
               人間 気力を失くしたら終わりだと思います
                相変わらず畑と野菜の写真 心洗われます
               何時も羨ましく拝見しています
               サトイモ さあ どうする ?
               大根 あれで今ひとつ ?   
               雑草の花 単調の中に咲く小さな何気ない花  
               何故か 心ほのぼのする絵です
                お忙しい中 楽しい写真 有難う御座いました

   
        




             





         
 
 
 
 





















































遺す言葉(522) 小説 <青い館>の女(11) 他 金木犀 ようやく咲いた 

2024-11-03 12:15:11 | 小説
            金木犀 ようやく咲いた(2024.10.18日作)



 
 金木犀がようやく咲いた
 例年より ほぼ三週間遅れ
 毎年咲く時期が来ても
 花芽一つ無く 驚きと失望
 猛暑のせい ?
 諦めていた矢先 
 思わぬ開花
 猛暑の夏が漸く終わった気配
 秋の空気の中
 気温の低下と共にみるみる
 花芽を着け 遅れ馳せながらの
 開花となった
 植物の持つ力強さ 生命力
 改めて思う
 地球温暖化 異常な猛暑
 地球上 総てのものを狂わせ 壊す
 数年前 数十年前とは大きな違い
 この地球に満ちる空気
 この先 地球は一体 
 何処へ行き 何処へ辿り着く ?
 月下美人の開花は今年 この夏三度
 これまで年に一度だった開花が 去年は二度
 今年は三度 その いずれもが
 見事な花形 豊かな香り
 これもまた 異常な夏
 猛暑の影響 ?




             ーーーーーーーーーーーーーーーー




             
             <青い館>の女(11)




 そのうち店長も顔を見せた。
 三人で今後の営業方針に就いて意見を交わした。
 地元で生まれ育った店長は、この地方の商業的環境に就いては詳しかった。
 彼の話し振りから改めて、この店長なら旨くやって呉れるだろう、と満足のゆく感触を得た。
 午後四時過ぎに店舗を後にすると一旦、ホテルへ帰り、そこからタクシーで空港へ向かった。



                              (2)



 
 再び北の小さな漁港街を訪ねたのは五十日後だった。
 新しい店舗は十五日間の開店セールが終わった後も、順調な営業状態を保っていた。
 一日の終わりに送られて来る営業報告書には、予想以上の数字が記入されていた。
 期待と不安の中で毎日の数字に眼を凝らしていた息子も、一先ずの安心を得た様子だった。
 しかし、東京本社ではその間に一つの問題が生じていた。
 千葉県産野菜の供給を一手に引き受けている「松田農産物販売」が支払い条件の改定を求めて来ていた。
「はっきりした事は分からないんだけど、後ろで<ピノキオ>が突(つつ)いているんじゃないかと思うんだ。ひと月決済にしてくれって言ってるらしい。もし、それが出来ないんなら、他へ廻すって言われたって、中園が言ってた」
 支店廻りが無くてわたしが会長室に居た日に息子が顔を出して言った。
「それで、返事はしたのか ?」
「いや、まだ正式な話しが無いんで、そのままにしてあるんだけど、何れ来ると思うよ」
「松田農産への支払いは今も四十五日か ?」
「うん。ずっと変わってない」
「それで、要求を駄目だって言ったらやめるって言うのか ?」 
「うん」
 その問題は正式な申し入れがあった時点で会議に掛けられた。
 決済を三十日に短縮しても取引を続けるべきか ?
 わたしの意見は続けるへきだというものだった。
 社長としての息子の意見は、副社長のわたしの妻と同様やめても構わないというものだった。
「もし、一社がそうなれば、あっちもこったもという事に成り兼ねない」
 仕入れ担当の中園は取引続行を希望していた。
「大田市場でその分、揃える事は出来ないのか ?」
 息子は中園に聞いた。
「品物はなんとか揃えられるとは思うんだけど、寄せ集めという事に成り兼ねないので、品質や価格にばらつきが出ると思うんですよ」
 中園は言った。
 社長の息子はそれでも強気だった。
「大田市場の仲卸業者が今まで通りでやるって言うんなら、そっちへ移した方がいいよ。松田農産からは膨大な金額の仕入れをしているんだし、四十五日の支払いが三十日になったら金利だけでも相当な違いになる。それに後ろで突いていると思われる<ピノキオ>なんか、家(うち)の半分も仕入れが無い筈だし松田農産だって、そのうち分かるさ」
 息子のそんな強気の姿勢が又してもわたしに彼の祖父を連想させた。
 彼の祖父もまた、後(あと)へ引く事を知らない人間だった。
 その上、そんな父親をひたすら崇拝していたわたしの妻も今また、何事に於いても息子の意見に賛同している。
 義父と妻は正反対とも言える遣り方をするわたしをよく批判していたものだった。
「あなたはがそうして甘い顔を見せて譲歩するから、相手は強気に出て来るんですよ。もう少し、毅然とした態度を見せて呉れなくちゃ困りますよ。五パーセントの販売協力費だって、結局、削られちゃったじゃないですか」
 義父はかつて、買い上げ高の五パーセントを販売協力費の名目で仕入れ先に返還させていた。
 妻はそれを口にしたのだ。
 しかし、かつては通用した義父のそんな手法も最近の厳しい経済状況下では通用しなくなっていた。
「お義父さんのやっていた時と今とでは時代が違うよ。多少の譲歩をしても、こっちがやっていける限りはいろいろな方面と良好な関係を築いて置いた方がいい。いざという時の事を考えて置くべきだよ。何時、何があるか分からない」
 わたしは妻に言った。
 妻の後ろ盾を得た息子は依然として、松田農産との交渉には強気の姿勢を崩していなかった。
 わたしは北の街へ足を向けるまでの五十日間、四十日近くを支店廻りに費やしていた。
<マキモト>では四半期毎に支店長会議が東京本社で開かれたが、各支店の引き締めを図る為にはわたしの巡回もまた欠かせなかった。
 各支店の幹部の気持ちの入れ方が、わたしの訪問が有るのと無いのとでは大きく違った。
 わたしに見られているという意識が彼等の行動の励みになって、その評価が昇進に繫がる事を知っていたのだ。
 北の街の新店舗では相変わらず順調な営業が続いていた。
 支店長への評価は東京から目付の様な役割で送り込んだ川本部長も合格点を付けていた。
「なかなか良いと思いますよ。人間的にも真面目ですし、社長の眼に狂いはなかったですね」
 その支店長は、わたしが<サロン 青い館>の女、加奈子から聞いたロシアの漁船員達の話しは当然の事ながら知っていた。
 既に、彼等を呼び込む為の店造りも始めていた。
 現在は電気製品が主な販売品だったが、
「社長にも話したんですが、中古車なんかでもいい商売が出来ると思いますよ」
 支店長は言った。
 わたしの気持ちの中ではこの街へ来るに当たって、小さな葛藤が生じていた。
  日帰りにしようか、それとも一泊しようか  ?
  北の街には序でに足を延ばしてみるという、滞在を延長する為の口実になる店舗も無くて、東北地方から入ったその日のうちに東京へ帰る事は充分、可能だった。
 それでいながら、わたしの気持ちの中にはそれを素直に受け入れ難い、葛藤の様なものが生まれていた。
 それがサロンの女、加奈子に依るものかどうか、わたし自身にも判断が付き兼ねる程の小さな心の揺れだった。
 開店式に主席して東京へ帰ってからのわしは、多忙な日常の中で加奈子を思い出す事はほとんど無かった。
 似たような経験は過去にも幾度もあって、その街を離れると共に忘れてしまう事が多かった。
 もし、北の街での出来事がわたしの心に僅かでも小さな跡を残したとすれば、かつて経験した事の無い、加奈子という女の幼さから来るものに他ならなかった。
 それでも、わたしの心の中では物珍しさへの興味はあっても、心惹かれたという意識的なものは無かった。わたしは何時ものわたしに還っていたのだ。
 北の街へ向かう日の朝、わたしは妻に言った。
「東北地方を廻ってから行くので、二、三日係りになると思う
「会社へは ?」
「行かない」
「直接、向こうへ行くんですか ?」
「うん」
「孝臣は松田農産を切るらしいわよ」
「切る ?」
「ええ」
 初めて耳にする言葉だった。




             ーーーーーーーーーーーーーーー




               桂蓮様


               久し振りの記事 面白く拝見しました
              修行と鍛える 微妙な違いはあると思いますが
              結局 修行も精神の鍛練という事で究極に於いては
              鍛えに 通じるのだと思います
               何れにしても 人間 精神も肉体も常に働かせていなければ
              衰える一方だと思います ですから ちょっとした不調なら
              薬に頼らず身体を動かす事によって治す様にしています
              痛みの出た膝も指圧などの方法を混じえてほぼ治しました
              ツボへの刺激 これは驚く程の効果をもたらします
              二 三日まえNHkでもツボ刺激の効果を放送していましたが
              眼を見張るものが有りました 
              母親の胎内で逆子だった赤ん坊が母親の足の小指に灸をする事で正常に戻り
              元気な誕生を迎えました
              西洋医学でもツボ効果は注目されている様です 
              どうぞ これからも薬に頼らず バレーという薬の下
              お元気でいて下さい
               家庭内のいざこざ ちょっと気に掛かる言葉です
              大事でない事を願っております
               冒頭の写真 相変わらず羨ましい風景です
              広々としたアメリカの環境にだけは何時も心惹かれます
              日本の秋は遅れていますが 一作夜 これもNHKで京都 嵐山の
              紅葉を放送していました それは見事なものでした
              日本という国は前にも書きましたが 国土的には宝石の様な国だと思います
              ただし 災害王国でもあります
              総て良し という訳にはなかなかゆかないものです
               どうぞ これからも 何事も無理をなさらず 
              良い日々をお過ごし下さい
              有難う御座いました




               takeziisan様


                日毎 駆け足し
               月日の巡るのは早いものです 今年もあと六十日足らず
               年齢と共に早まる季節の移り変わり
               若き日の頂上を目差した日々は終わり 絶壁断崖の待ち受ける
               行き止まりの世界が日毎に深く身に沁みて来ます
               谷川岳山頂の飲食 その爽快さが想像出来ますが それも過去の世界
               身につまされます
                ブールの閉鎖 今まで当たり前だったものが日毎に失われてゆく
               入れ替わりに立ち現れる世界は何処か馴染難い世界ばかり
               深まりゆく秋の気配と共に人生の秋の深まりも実感します
                隣家の庭で実る柿 柿は日本国中に見られる秋の風物誌
               美しい世界でもあります
                川柳はやはり何処かにピリリと利いた山椒の味が欲しいですね
               それも笑いという甘味に包まれて
               選者 実力を認められたという事ではないのでしょうか
               自分の作品も満足に創れない者が選ばれる筈がありません
               これからも楽しい作品をお作り下さい  
                日々の散歩にしてもプール通いにしても川柳創作にしても
               人間 何かをして常に動き 働いている という事が大切な事ではないのでしょうか
               使わない金属は錆び付いてゆく 人間も気持ちの持ち様一つだと思います
               どうぞ これからも良いブログをお続け下さい
               有難う御座いました
 


 
























































 

遺す言葉(521) 小説 <青い館>の女(10) 他 金木犀

2024-10-27 11:31:28 | 小説
             金木犀(2024.10.13日作)



 金木犀
 今年は未(いま)だ 咲かない
 蕾一つ着けない
 四十年以上過ぎた木
 金木犀 

 亡き父の 面影浮かぶ 金木犀
 散り敷いて 金木犀の 金の庭
 金木犀 今宵も静か 独り居て
 彼(か)の女(ひと)は 今は何処(いずこ)に 金木犀

 遠い日の幼い頃過ごした故郷の家
 庭に香った金木犀 
 豊潤な香りに魅せられ 以来
 親しみ 馴染んだ長の年月
 今年は未だ 花芽一つ着けない 初めて 
 かつて無かった事
 幾年月 長の年月(としつき)過ごした金木犀
 年老いた ?
 否否 あり得ない
 生育盛ん 年毎大きく枝葉を延ばした
 元気な樹
 剪定 ?
 枝葉を切り落とした所為(せい)か ?
 否否 そうではない かつて 
 幾度 そうして来た事か !
 今年に限って・・・
 あり得ない
 今年に限って・・・ 
 猛暑の夏
 金木犀もまた 音を上げた ?
 気温上昇 世界の各地 各国
 地球の総てに及んだ異常な気象
 猛暑 酷暑の一夏
 災難 災厄 災害
 人の命の多くも奪われた
 金木犀もまた同じ事 ?
 未だ 花芽一つ着けない 
 異常な気象 
 頭を過ぎる ふとした不安
 金木犀はこのまま 今年は花芽を着けない ?
 異常な気象 地球温暖化 その先に
 見えて来るものは ?
 不吉な影のみ




             ーーーーーーーーーーーーーーーーー




              
             <青い館>の女(10)




 
 昨夜は気付かなかった左手すぐ傍にこれもまた、一見、壁と見紛うドアがあった。
 加奈子はすぐにそのドアの鍵をわたしには理解出来ない方法で開けて、身体全体で押す様にして扉を開いた。
 眼の前にはなんの変哲も無い古い木造アパートの、両側に部屋の並んだ廊下があった。
 その廊下に出ると加奈子は扉を閉め、また、わたしには理解出来ない方法で鍵を掛け、わたしの前に立って廊下を歩き出した。
 両側それぞれに五つの部屋があった。
 廊下が終わると古びた木製ドアがあった。
 鍵は掛けられていなかった。
 加奈子は軽く右手でドアを開けた。
 直接外気に触れる街の通りが眼の前に開けた。
 足元にはその通りへ出る為の小さな三段の石段があった。
 石段を上ると早朝のアスファルト通りにはまだ人影が無かった。
 依然として街を包み込んだままの薄い霧の流れが、街全体をおぼろな影に見せていた。
 昨夜、わたしがパーティー会場から歩いて来た通りとは趣を異にしていた。  
 何処か、うらぶれた感じのする侘しい気配が漂っていた。
 葉を落とした貧弱な並木の傍に三台のタクシーが霧に包まれて並んでいた。
 わたしと加奈子の姿を認めると一台のタクシーが近付いて来た。
「何処まで帰るんですかぁ」
 加奈子が聞いた。
「海岸ホテルなんだ」
 別段、隠す必要もないと思って言った。
「じゃあ、タクシーで行った方がいいですよぉ。ここは裏通りなんでぇ、ずっと遠回りになるのでぇ」
 加奈子は言った。
「うん、そうしよう。道も分からないし」
 わたしの乗ったタクシーは、薄い霧に包まれてまだ街灯の明かりの消え残る街の中を、裏通りから表通りへと出て暫く走りホテルの前で停まった。

 わたしが開店セールで混雑する店に顔を出したのは午後一時過ぎだった。
 赤と白の垂れ幕を張り巡らした店内は賑やかな雰囲気の中で、溢れる人の熱気にむせ返っていた。
 この小さな街の何処から、こんなに人が出て来るのだろう、という驚きと共に、その盛況に思わず込み上げて来る喜びを抑える事が出来なかった。
 五百坪程の広さの一階食品売り場を一廻りしてから、二階の家庭用雑貨売り場へ足を運んだ。
 更に、三階の衣料品や家具、室内装飾品の並んだ三階まで足を延ばした。
 元々が<スーパーマキモト>は缶詰や乾物を主体にした個人経営の食品店だった。
 現在の形体になってからもなお、売り上げの六十数パーセントが食品関係で占められている。
 関東、東北地区にある五十七店舗の大半が一階の食品売り場と二階の家庭用雑貨売り場で構成されていた。
 所により、周囲の状況次第で三階に室内装飾品や家具などを並べたりしていたが、この北の小さな漁港街への進出に当たっても当初は三階までの計画で事が進んでいた。
 それが思わぬ形で変更されたのは息子の一言だった。
 息子は突然、四階まで延ばして電気製品売り場を作りたいと言い出した。
 無論、余りに唐突なその提案は役員会議にも掛けられ、<マキモト>に取っては初めての計画に反対意見も多かったが、息子は敢えてそれを断行した。
 息子にしてみれば、何度も足を運んで現地の状況を確かめた上での結論だったのだろうが、わたしにもまた、一抹の不安があった。
 結果はだが、息子の決断が正しかった事が証明された。危惧しながら足を運んだ四階にも、思い掛けない人の混雑があってわたしの驚きを誘った。
 息子は祖父に習っての様々な商品の買い叩き物や中古品の安値販売をしていた。
 その狙いは見事に当たっていた。
「安いよ、これ。あっちの店では同(おんな)じ物に二千円の値札が付いていたよ」
 そんな会話が彼方此方から耳に届いて来た。
 わたしはそんな中でどの売り場にも見られる、何時もの開店風景に劣らない活気に満足していたが、開店セールの終わった後の商売の難しさもまたよく知 っていた。
 取り分け、此処が小さな漁港街であるだけに、その心配も一入(ひとしお)で、息子ももう何軒もの開店を手掛けている以上、後はくれぐれも失敗の無い様にと願うのみであった。
 幸い、昨日初めて顔を合わせた店長も仕事が出来そうで、わたしは満足していた。
 多分、この店も上手くやってくれるだろう。
 その店長はわたしが一階に戻ると、肉の半値売り場で声を嗄らして陣頭指揮を執っていた。
 その合間には絶えず野菜売り場や魚売り場に視線を向けて、状況確認を怠らなかった。
 わたしは暫く、観察した後で店長の傍へ行った。
 店長はわたしに気付くと、
「ああ、来てらっしゃったんですか」
 と、素っ気なく言ってすぐにまたお客の対応に戻った。
 わたしは店長をそのままにして、売り場の隅にあるエレベーター乗り場へ行くと四階にある事務所へ向かった。
 事務所には本社から派遣されて来ている経理責任者の川本部長がいた。
「なかなか良さそうじゃないか」
 わたしは部長に言った。
「ええ、思った以上に盛況ですね。店長もこんなに人が来るとは思っていなかった様です」
 川本部長は言った。
「セールの終わった後が、この小さな街ではどうなるか、ちょっと心配だが」
 わたしは言った。
「でも、それは心配ないと思いますよ。 結構、安売りでお客を呼べると思いますし、今日程の活況は無理だとしても、どうにか行けるんじゃないでしょうか」
 今年、四十八歳になって、東京本社でも古参の一人になる川本部長は言った。




             ーーーーーーーーーーーーーーーーーー




               takeziisan様


                自然の風景は何時見ても良いですね
               テレビは余り見ないのですが自然を映した番組はよく見ます
               NHKでの日本百低山とか小さな旅はよく見ています
               下手に創られていない所がいいです
                野菜畑 羨ましい限りです 我が家の屋上菜園も終わりました
               落花生も殻ごと茹でで食べました 
                奥様 御退院 おめでとう御座います
               一安心というところでしょうか 風の吹く場所が埋められた
               それが実感ではないのでしょうか
               食事の腕前 是非 奥様に判定して貰って下さい
               共に生きるという事の喜び これは何事にも代え難いものです
               それでも結局 人間 最後は独り 寂しいものです
               禁じられた遊び 名作ですね          
               あの幼い子供二人の演技
               名優も子供と動物の演技には敵わないと言いますが
               あの最後の場面など何度観ても涙になってしまいます
               それにしてもよくあの演技が出来るものだと 見る度に感嘆してしまいます
               本人にしてみれば演技をしているなどという意識は全く無いのでしょうが 
               あの迫真の演技は何処からくるのでしょう
               驚きを禁じ得ません
                有難う御座いました












































遺す言葉(520) 小説 <青い館>の女(9) 他 移り逝く時の中で

2024-10-20 11:31:18 | 小説
             移り逝く時の中で(2024.1011日作)



 十月半ば
 昨日の猛暑とは打って変わって 
 今朝は寒い 肌寒い
 季節は今年もまた 移ってゆく
 移り変わってゆく 時の流れ
 歳月は一瞬の停滞もなく
 過ぎて逝く
 人の世も同じ事
 耳や眼に馴染んだ
 あの人が もう この世に居ない
 この人も 居なくなった
 それぞれが 遠く彼方へ旅立った 
 絶え間なく流れ逝く歳月 時の流れ
 流れ逝く時の中で日毎に深まり 数を増す
 親しき人々 あの人 この人 の 訃報
 同じ時代 同じ時の流れを生きた
 人の数は 日毎 月毎 年毎 細ってゆく
 残されるものは ただ 記憶 記憶のみ
 日々 細りゆく時の中 やがて
 最後に辿り着く記憶 その場所は
 遠く幼き日々 共に過ごした
 小学校 中学校 同級生達
 今 彼等 彼女等は 何処に居て
 何をしているのだろう  
 元気で居るのだろうか 
   長い歳月 空白期間 消息すらも知れない
 数多くの級友 同級生達 彼等 彼女等
 思い出は数知れず
 あの記憶 この記憶
 淡い恋心
 無邪気な戯れ
 同級生 級友達への思い 懐かしさの感情は
 日毎に深まり 
 深くなってゆく




             ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




             <青い館>の女(9)



 
 
 女はわたしの傍で裸体を毛布で包(くる)み、丸くなって眠っていた。
 暗い部屋の枕元には深紅の小さな明りが点っていた。
 一瞬、わたしは自分が過去の何時かに戻っているかの様な奇妙な錯覚に陥った。
 それも束の間で、すぐに現実の自分に立ち戻ると体の心底から沸き上がる極度の虚しさと共に、見知らぬ部屋の奇妙なベッドで過ごした事への深い後悔に捉われた。
 遠い何処かで船のエンジンの始動する音がしていた。
 それが否が応にも朝の気配を運んで来た。
 わたしは身体を起してベッドの縁に腰掛けると、今日一日の行動に思いを馳せた。
 改めて、奇妙な部屋のベッドで過ごした愚行を思って、ちゃんとホテルへ帰って今日一日のしっかりした予定を組んで置けばよかったと後悔した。
 その時、女が寝返りを打ってわたしの身体に触れ、眼を覚ました。
  わたしに気付くと女は、
「ああ、起きてたんですかぁ。それならぁ、起こして呉れればよかったんですよぉ」
 と、甘える様な声で言ってわたしを非難した。
「まだ、五時半にならないよ」
 わたしは女の言葉に応えて穏やかに言った。        
 女は毛布に包んだ裸体を起こして目覚まし時計を手に取った。
「でも、もうじき五時半ですよぉ」
 と言った。
「いいよ。君はまだ寝ていればいい。わたしは帰るから」
 わたしはベッドから立ち上がった。
「帰るんですかぁ、それならちょっとぉ、待ってて貰えますかぁ。すぐに着替えて来ますからぁ」
 女はベッドを降り、裸のまま奥の青いカーテンの向こうへ消えて行った。
 程なくして女は戻って来た。
 黒い細身の長いパンツに、身体の線がくっきりと浮き出て見える白いニットのセーターを身に着けていた。
「帰るのには何処から行けばいいのかな」
 既にわたし自身も身支度を整えていて聞いた。
「ああ、それなら出口までぇ御案内しますからぁ」
 女は言って、わたしの服装に落ち度は無いか、点検する様に見詰めた。
「大丈夫かい」
 わたしは女の視線に任せたまま聞いた。
「ええ、大丈夫ですよぉ」
 女は言った。
「いろいろ、親切にしてくれて有難う」
 女の何一つ不快感を与えなかった心遣いにわたしは、素直な気持ちからそう言っていた。
「でもぉ、お客さんにはぁ、高いお金を払って貰ってるのでぇ、当たり前の事ですよぉ」
 女は当然の事の様に言った。
「それでも、なかなか君の様には出来ないものだよ。金だけ取って後は勝手にという女達が多いからね」
 わたしは本音を言った。
 改めてわたしは、女の親切に報いる気持ちで上着の内ポケットから財布を取り出して二枚の一万円札を抜き取ると、一枚ずつを女に手渡しながら、
「これは君が親切にしてくれた事へのお礼だ。この一枚は君の優しさと一晩、楽しませてくれた事へのお返し。有難う」
 と言った。
 女はわたしの思わぬ行為に驚き、一瞬、戸惑った風だったが、渡された一枚ずつを手にしながら、
「でもぉ、昨夜(ゆうべ)いっぱい使って貰ってるからぁ」
 と躊躇(ためら)いがちに言った。
「いいから、取って置きなさい」
 わたしは押し付ける口調で言った。
「有難う御座いますぅ」
 女はそれで素直に嬉しそうな表情を見せ頭を下げて言った。
「名前はなんて言うの ?」
 わたしは言っていた。
 いったい、何故、そんな事を聞いていたのだろう ?
 自分でも不思議な気がした。
 また此処へ来る心算なのか ?
 そんな事はあり得ない。
 確信的な思いがあった。
 それでいながら、自然にその言葉が口を突いて出ていた。
 女はだが、躊躇う様子も見せなかった。
「加奈子って言うんですぅ。名刺を上げてもいいですかぁ」
 と言った。
「うん」
 わたしは言った。
 これも過去に於いて何度となく経験して来た事だった。
 それらの名刺は悉くが破り捨てられていた。
 加奈子と名乗った女は、無論、そんな事までは知り得ない。
「今、持って来ますからぁ」
 と言って再び、青いカーテンの向こうへ消えると一枚の名刺を手に戻って来た。
「これなんですけどぉ」
 と言ってわたしの前へ差し出した。
 わたしは受け取った。
 赤いハートの形が書き込まれた角の無い名刺だった。
「裏にぃ、このお店の電話番号なんかが書いてあるのでぇ、また、来る時には電話をして貰えますかぁ。それでぇ、わたしの名前を言って貰えればぁ、すぐに指名が出来ますからぁ」
 わたしが手にした名刺に視線を向けながら女は言った。
「うん、有難う」
 わたしは言って上着の内ポケットへ名刺を収めた。
「この街へはよく来るんですかぁ」
 女は言った。
 女自身、最初に、旅行で来たんですかぁ、と言って、わたしがそうだと答えた言葉も忘れてしまっていた様だった。
「いや、滅多に来ない。偶々(たまたま)、用事があったものだから旅行がてら来ただけなんだ」
 わたしは言った。
 女はわたしの言葉を聞いて頷いた。
 わたしはその女を見ながら、
「もし、また、この街へ来たらその時には電話をするよ」
 と言った。
 再び、その機会があろうとは思っていなかった。
 女はそれでも素直に頭を下げて、
「お願いしますぅ」
 と言った。
 わたしと加奈子と名乗った女はそのまま部屋を出た。




             ーーーーーーーーーーーーーーーー




              takeziisan様


               奥様 入院されてもう十日 早いものですね
              普段 身近に在るものの無い空虚な感覚 寂しいものです
              それでもメールの指示 お元気な証拠で何よりです
              これもまた慰めに成り得るもので便利な世の中になったものです
              食事の支度 自分の好きな物を好きな様に食べられる
              前向きに考えればそれ程 苦にはならないのでは ?
              馴れない食事作りもあれこれ自分なりの工夫 楽しんだ方がいいですよね
               また ドングリ カラスウリの季節が来ました
              ついこの間 同じ様な報告記事を拝見したばかりの様な感じですが
              一年が過ぎているのですね
              早いものです それにしても猛暑の夏 いろいろな物に思わぬ変化が起きています
              あらゆる事柄でこれまでの常識が通用しない世の中になっている様です
               野菜の青 拝見していても気持ちが良いです
              土の匂いがして来ます
               プールの終わり ? これもまた時の流れ 世の中どんどん
              お構いなしに変わってゆきます 改めて過ぎ行く歳月を感じさせられます
               アフリカの星 観て無いですね
              初めて知りました その他は観ていますが
               今回もいろいろ楽しませて戴きました
               有難う御座いました