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遺す言葉

つぶやき日記

遺す言葉(504) 小説 希望(28) 他 夜の目覚めに

2024-06-30 12:41:44 | 小説
             夜の目覚めに(2024.6,8日作) 



 真夜中 ふと目を覚ます
 誰も居ない一人の寝室(へや)
 静けさに包まれた闇の中
 今日まで生きて来た 長い年月(としつき)
 甦る人生の時 過ぎ去った日々
 あの場所 あの時
 あの場所 あの時 共に過ごした
 あの人 この人は今 何処に居て
 何をしているのだろう ?
 日々 細りゆく人生の時 人と人との縁(えにし)
 自身の命も細りゆく 老齢の時
 日々 夜毎 細りゆく人生の時 我が命
 それでも今 此処にこうして生きている
 この夜を生きている 不条理 不義 不浄
 苦難 苦渋に満ちたこの世界 世の中
 僅かな幸せ 小さな幸運 
 恵みに縋りながら 日々
 過ぎ行く人生の時を生きて来て 今此処に
 こうして一人 静寂(しじま)の中 闇に包まれ
 夜の目覚めを生きている
 あと何年 ? 残された我が人生
 日々 夜毎 深まりゆく孤独
 日々 夜毎 薄れゆく喜び 楽しみ
 老いゆく人生 老齢の時
 何を心の糧として 何を見据えて 
 生きて行く ? 
 生きる 人が生きる
 生きるという事は ?
 生きている 生きているから
 生きるのだ それだけ 只
 それだけの事 
 生きているから 生きる 生きなければならない
 残り少ない人生の時 
 日々 夜毎 薄れゆく喜び楽しみ それならせめて
 豊かだったあの頃 あの日々
 若かりし頃の思い出 懐かしき思い出を胸に
 時々 刻々 迫り来る人生の終わりの時
 その時に備えて 今一度
 豊かだったあの頃 若かりし頃の思い出と共に
 今この時 人生の終わりの時を
 生きてゆこう
 あの頃の思い出と共に生きてゆく
 残り少ない我が人生 老齢の時
 一人目覚めた夜の中
 静寂にそっと呟き 眼を閉じて
 再びの 眠りへと入ってゆく




             ーーーーーーーーーーーーーーーーー



              
              希望(28)
             


 
 祖母の一周忌。 
 母親が言った言葉が修二の意識の中から消えなかった。
  二月二十一日、祖母が死んだ。
 もう、一年になる・・・・
 祖母が亡くなるまでの最後の日々を思い出すと、その哀しみと共に、せめて形だけでも何かしてやりたいという思いが募った。
 一周忌・・・・
 何をすればいいんだろう ?
 どんな事をするんだろう ?
 修二には全く分からなかった。
 かと言って、母親に聞くなど出来なかった。
 お寺に電話をして聞いてみようか ?
 それでも細かな手はずを考えると自信が持てなかった。
 隣りのえ(家)のお父っあんに相談してみようか ?
 その思いも、だが、家を飛び出して以来、挨拶一つしていない負い目が先に立って、きっと、いい顔などされないだろうと思うと気持ちが引けた。
 修二はその夜、一睡も出来なかった。
 あれこれ考えながら夜の明けるのと共に結局、祖母の一周忌への思いは捨てていた。
 父ちゃんも婆ちゃんも、もう居ない !
 総てが虚しく現実だけが重くのしかかった。
 空虚な思いだけが心を満たした。
 女将さんは二十日が過ぎても修二の部屋を訪ねて来なかった。
「御免ね。近いうちに行くからね」
 女将さん自身が焦れている様子が分かった。
 修二は女将さんの肉体を待つ反面、軽い疎ましさにも似た思いをも抱く様になっていた。
 女将さんという存在に何とは無い束縛感を覚えた。
 その思いを払拭する様に初めての体験でソープランドへ足を向けた。
 雑誌の中の裸の女達では満たされない欲望が、女将さんの肉体を知った身体の中に渦巻いていた。
 初めて体験するソープランドは修二を戸惑わせた。
 それでも、そこを出る時には新たな欲望の世界が開かれた思いがして、満足感で充たされていた。
 女将さんは二月に入って三日目、土曜日の夜に修二の部屋を訪ねて来た。
 ソープランドでの体験を経た修二は積極的だった。
 女将さんはそんな修二を自分が育てたかの様に歓迎した。
 女将さんは足繫く修二の部屋へ通って来た。
 修二の積極性がそうさせるらしかった。
 修二は女将さんが以前にも増して頻繁に修二の部屋へ来るのに従って、次第に心の奥に負担を覚える様にもなっていた。
 マスターへの思いだった。
 マスターへの思いが女将さんの来る数が増えるに従って、より強く意識される様になって修二を苦しめた。
「大丈夫よ、心配なんかしなくたって。マスターはもう、わたしの事なんか諦めているんだから」
 女将さんは言った。
「マスター、駄目なの。ピストルで撃たれて死ぬか生きるかの大怪我をして以来、駄目なの。マスター、わたしばかりでは無くて、人生そのものを捨ててしまったのよ。マスターに取っては、月に何度か出掛ける花札の場だけが今では只一つの楽しみなの。その為にだけ、マスターは生きている様なものなのよ」
 修二に取っては初めて耳にする言葉ではなかった。既に、鈴ちゃんから聞いていた事だった。
「そんなマスターとどうして別れないのかって不思議に思うでしょう。でも、わたしはマスターと別れる気は無いの。修ちゃんとこんな事をしていたって、別れる気は無いの。マスター、この事はちゃんと知っているのよ。だけど、あの人、何も言わない。自分が駄目な事の負い目があるからかも知れないけど、そればっかりでないのよ。あの人の心にはもう、何も無いの。怒る事も、哀しむ事も、喜ぶ事も。あの人、人生を捨ててしまってるのよ。あの人には、自分の身体の具合いの悪い事もあって、何も信じられなくなっているのよ。せめて、わたしだけでも信じてくれれば良かったんだけど・・・・。だからと言って、わたし、マスターへの復讐の為にこんな事をしてるんじゃないのよ。ただ、寂しいだけなの。寂しくて、哀しくて、そうしなければ居られないだけなのよ。あの人、九年間、刑務所に居たんだけど、出て来た時にはすっかり人が変わってしまってたの。その間に何があったのか、あの人、何も話してくれないんだけど、昔は、あの人、その世界では県外にまで名前を知られた凄腕の人だったの。依頼された仕事も完璧にこなして。でも、撃たれたの。仲間の誰かに。マスターを消そうとしたのよ。口封じの為にね。ーーこのお店を始めてから、もう十五年になるんだけど、マスター、今でも気を許していないのよ。勿論、跡目を譲った親分がマスターには付いていてくれるんだけど、何時、何処で何が起こるか分からないって。だから、このお店の名義も家(うち)の名義も全部、わたしのものになっているの。自分にもしもの事があっても、わたしが困らない様にってね。--あの人、優しい人なのよ。わたしの両親が人に騙されて困っている時、助けてくれたの。でも、その事で恩着せがましい事は一言も言わなかった。だから、わたしは今ではわたしの両親に代わって、あの人のお母さんに出来る限りの事をして上げてるんだけど、それでも、あの人、わたしを受け入れてくれないの。あの人の死んだ心がわたしを受け入れないのよ。それがわたしには、堪らなく哀しいの。わたし、今でも、あの人の心の中に入ってゆく事が出来たらって思うわ。わたし今、あの人のお母さんが入っている施設へ毎週、通っているんだけど、あの人に優しくしてやれない分だけ、あの人のお母さんに優しくして上げたいと思ってるの。わたしには兄妹も居ないし、両親も、もう居ない。だから、せめて施設のベッドに居るあの人のお母さんだけには優しくしてやりたいと思うの。ーーマスター、<ブラックキャッツ>のリーダーが刺された時、修ちゃんのナイフが使われたっていう事も知ってるわよ。警察がお店に来た時、旨く言い繕ったけど、あの人、修ちゃんを庇っていたのよ。新聞に<凶器は鋭利な刃物>って書いてあったでしょう。マスター、それで見抜いていたのよ。こういう事に掛けてはマスター、プロだもんね」
 修二は女将さんの思わぬ言葉に凍り付いた。
 自分では隠しおおせていたと思っていた事が根底から崩れ去った思いで、頭の中が混乱した。



              八



 三月初め、久し振りに北川が<味楽亭>に顔を出した。




             ーーーーーーーーーーーーーーーーーー




              takeziisan様


               有難う御座います
              扇風機四台 出ましたね  これからの季節
              今年はどうなります事やら まだクーラーを使っていません
              部屋部屋の窓を開けておくだけで どうにか凌げています
               糸魚川小唄 民謡はかなりの数知ってるつもりですが
              初めての印象があります あるいは勝太郎などで聞いた事があるのかも知れませんが
              いずれにしても初めての印象です 一流の作者達の手になる唄だけに
              言い歌です
               佐渡おけさ 相変わらずいい歌ですね
              佐渡は遠く離れて故郷でもなく 訪ねた事もないにも関わらず
              何故か 郷愁に似た感覚を覚えるのは何故でしょうか
              やっぱりあの鳥追い笠姿 魅せられます
              それにしても離れ島にも係わらず 佐渡の文化の豊かな事
              この豊かさが郷愁を誘うのかも知れません  
               米若 虎造 練り上げられたいい声をしています
              こんな芸能が当たり前のようにラジオから流れていた時代が懐かしいです
              今では総ての芸が軽くなってしまったような気がします
              テレビの画面に映ってちょっと人の気を引けばそれでスター扱い
              なんの素養もない者達に長続きのする良いものが作れるはずがありません
               野菜 相変わらずいい艶です ジャガイモ 写真を見て
              昔 掘りたてをすぐに釜で蒸かしてふうふう言いながら食べた記憶が蘇ります
              あの旨味 味が懐かしいです
              キュウリはわが家の屋上プランターでも大きく育ちました
              ピーマンと共に何度か収穫です            
               アオダイショウ 槙塀をのそのそと這い廻っていた事を思い出します
              今 御当地ではそれだけ 自然が豊かだという事なのでしょうね
              都会の 人の家の屋根ばかりを見て暮らす日々の中で
              この頃 無性に自然の広がりに心惹かれます
              普段 見ないテレビでも造ったものではない自然の映像には
              過去の記憶と重なるせいか深い感動を覚え 憧れます
               川柳 入選作以上に面白い作品がいっぱいです
              何時もながら ふふふ の含み笑いとともに拝見
              楽しいです
               有難う御座いました



































       

遺す言葉(503)  小説 希望(27) 他 哀れなピエロ プーチン  政治家

2024-06-23 11:52:17 | 小説
            哀れなピエロ プーチン (2024.6.20日作) 


 
   プーチン
   哀れなピエロ
   無謀な侵略侵攻
   結果は四苦八苦
   慌てて 仲間造り
   御機嫌取りの他国訪問
   行く先々で笑顔を振り撒き
   ピエロの踊り なんとも
   醜く惨めな姿 それでも
   本人気付かず 得意顔
   哀れで愚か プーチンピエロ



          政治家


   政治家の言葉程
   空虚なものは無い
   政治家の言葉は総て
   保身から出る言葉 もし
   保身が危ういと知れば
   いとも簡単 平気 平然 前語を翻し  
   正反対の主張を し始めるだろう
   真に自身の信念を貫き通す政治家
   何人 居る ?


   政治家
   権力欲 虚名欲の 素顔の上に
   国家の為 社会の為 という
   仮面を載せた 偽善者
   戯言(ざれごと)喜劇役者


   政治家と称する存在
   権力欲 虚名欲 自己保身
   脳裡にあるのは それだけ
   社会状況 世界情勢 考慮 考える
   素顔の上に被った 仮面の言葉




               
             ーーーーーーーーーーーーーーーーー
 



             
              希望(27)



 
 
 修二は八日の初営業日が不安だった。
 マスターを裏切った事への心苦しさと共に、女将さんへの不安もまた生まれていた。
 どのように女将さんに挨拶したらいいのか分からなかった。
 女将さんの修二に対する態度にも不安を覚えた。
 マスターの前では兎も角、鈴ちゃんの前で女将さんが、これまでに無かった親密な態度を見せて来たりするのではないか、と思うと気持ちが落ち着かなかった。
 女将さんの肉体の甘味な感触もまた生々しく残っていて、修二の心を乱した。
 マスターと共に姿を見せた女将さんは、だが、これまでの女将さんと何一つ違った表情を見せなかった。
「お早う」 
 と修二に声を掛けて何時もの様に支度部屋へ向かった。
 営業初日、店は混んだ。
 女将さんは何事も無かったようにてきぱきと動いて鈴ちゃんや修二に指示を出した。
 鈴ちゃんも女将さんの態度に不審を抱く事も無かった。
 マスターは旅行土産に鈴ちゃんと修二にそれぞれ金色の小さな達磨と菓子折りを買って来てくれた。
 修二はマスターの顔を真面(まとも)に見る事が出来ずに、黙って頭を下げて礼をした。
「二十日過ぎでないと修ちゃんの所へ行けないからね」
 修二と二人だけになった僅かな時に女将さんは修二の耳元で言った。
 十六日になって突然、母親が訪ねて来た。
 マスターに来訪を告げられてまた、仕方なく<らんぶる>へ足を向けた。
 母親は一人でさっさと足を運ぶ修二の後を小走りに追い掛けながら自分が来た事の弁解をする様に、
「婆ちゃんの一周忌が二月だろう。お前に相談しようと思って来たんだよ。父ちゃんの一周忌が十二月だったて言うんじゃないか。わたしはうっかりしていて気が付かなかったんだけど、婆ちゃんの一周忌が来るなと思ってお寺さんへ電話をしたんだよ。そしたら、そう言われてびっくりしたんだけどねえ、お寺さんではお経を上げておいてくれたって言ってたよ」
 と言った。
 修二は母親の言葉など全く心に留めていなかった。それでも、父親と婆ちゃんの一周忌という言葉には胸を打たれた。
 もう、一年になる 。ーーー
 修二にはこの一年、二人の事を思い浮かべる暇(いとま)もないままに日々が過ぎていた。
 見知らぬ土地に流れ着いてただ夢中に毎日を過ごして来た。
 思い掛けない母親の言葉と共に、鮮明に甦った父親と婆ちゃんの姿に修二は胸の締め付けられる様な切なさを覚えて涙ぐんだ。
 それにしても一体、なんて言う母親なんだ !
 新しい男との生活にのめり込んで居て、実の夫の死んだ日さえ意に介さなかった !
 今日、わざわざ訪ねて来たのも、実際は、婆ちゃんの一周忌の相談なんかで来たんじゃないんだ。家の相続で俺を丸め込む為に来たんだ !
 母親の行動の総てが読める気がした。
 そんな母親は依怙地に口を噤んだまま、何一つ答えようとしない修二の態度にとうとう業を煮やして、<らんぶる>のテーブルに着くと直ぐに、
「何が気に入らなくて、そんなにふくれっ面をしてるんだよ。なんとか言ったらいいだろう」
 と怒りの滲んだ眼で修二を見詰めて言った。
 修二はそれでも黙っていた。
 店員が来た。
 母親はコーヒーを二つ注文した。
 修二は不機嫌に黙ったままだった。
 店員が去ると母親は、今度は急に態度を変えて、
「父ちゃんの供養が出来なかった事もあるし、婆ちゃんの供養は父ちゃんの分も含めて一緒にやってやろうよ」
 と優しい口調で言った。
 修二はそれでも黙ったままだった。
 母親は店員が置いていったおしぼりを広げ、手を拭きながら、
「家の相続の方も細かい手続きはみんな終わっていて、あとはお前が、うん、って言ってくれればいいだけなんだよ。もし、代理人が必要なら、それもわたしの方で頼むよ」
 母親は何故か、機嫌のいい表情を見せて言った。
「お前には何一つ、迷惑は掛けないよ。第一、何時までもあそこを父ちゃんと婆ちゃんの共同名義のままにして置く訳にもいかないだろう。二人共、死んでしまって居ないんだしさ。だから、婆ちゃんの一周忌だけでもきちんと済ませて、名義もお前とわたしの名義に書き換えて置こうよ。そうすれば、やがてはみんな、お前のものになるんだから」
 修二の心の中では、母親が機嫌を取る様に穏やかな口調を見せれば見せる程に怒りの感情が沸き立って来ていた。
<俺ん所へ警察が来たのも、テメエが告げ口をしたんだろう>と、思わず口に出かかる言葉を堪えて吞み込んだ。
 ただ、絶望感だけが深かった。
 こんな母親には何を言っても始まらない !
 コーヒーが運ばれて来た。
 母親はそれぞれの前に置かれたコーヒーの自分のカップを引き寄せると、ミルクと砂糖を入れた。
 その手で、修二を見詰め、
「砂糖は ?」
 と聞いた。
 修二は腕組みした手を太ももの上に置いたままなおも怒りに満ちた表情で黙っていた。
「全く、強情なんだから。いいかい、お前がそうやって強情を張っていれば物事は何も進まないんだよ。それでも良いのかい」
 母親は砂糖のスプーンを元に戻しながら怒りを投げ付ける様に言った。
 修二はそんな母親などは意に介さずに立ち上がると、今まで堪えていた感情を一気に爆発させて投げ付ける様に、
「いいから、テメエなんかさっさと男の所さ帰(けえ)りやがれ」
 と言い残し、そのまま席を離れた。
 どの様にして店まで帰ったのか、覚えていなかった。
 母親がその後、どうしたのかも勿論、知るはずはなかった。
 店へ帰ると最初にマスターに、
「すいません、今、帰りました」
 と挨拶した。




             ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




               takeziisan様


                梅雨入り 今年もこの季節が来ました
               梅雨 というと何か懐かしい響きを感じるのですが
               今の梅雨は懐かしさどころか 何処か暴力的なところがあって
               情緒どころではありません 嫌な時代になったものです
               梅雨に限らず 猛暑 暖冬 季節の風情がなくなりました
               数日前の日経新聞に 今は四季ではなくて二季だとありましたが
               その通りだと思います この国の何もかも古き時代の情緒を
               無くしてゆきます 古今東西 不変なものは何も無い
               そう言われればそうですが 季節が持つ情緒ぐらいは
               昔のままであって欲しいものです
                エアコン まだ使っていませんが いずれ使わざるを得なくなるでしょう
               幼い頃の自然に囲まれた家の縁側での夕涼み
               ホタルが舞っていた事や様々の虫の喧しい程の合奏が蘇ります
               それも都会の真ん中では再び得られない 懐かしい情緒です
               六時で暑すぎ ? 驚きです これも地球の温暖化 ?
                野菜の生育 苦労の後の楽しみ いいですね 
               羨ましく思います
                鈴木正夫 声が若いですね 民謡 まだまだ埋もれた名曲が
               一杯あるのではないでしょうか それぞれの地方に根差した
               その地方特有の歌 民謡は土の匂いのする歌と言いますが
               並みの歌謡曲にはない良さです また珍しい歌を発掘 御紹介下さい
               楽しみにしております
                有難う御座いました














































遺す言葉(502) 小説 希望(26) 他 感覚

2024-06-16 12:33:56 | 小説
            感覚(2024.5.13日作)


 
 学者 知識人達の長たらしい
 論文 解説文などより
 一般市民 生活者の それぞれの場に根差した
 心の底から生まれ出る 何気ない一言 短い言葉
 その言葉の中にこそ より深い
 真実が込められている
 現実に根差した言葉
 言葉の組み立て 理論等に囚われて 
 現実を見詰める眼差しを忘れるな 
 現実を生きる
 現実を生きる この行為を忘れるな
 新幹線の列車 あの列車の見事な鼻ずら(鼻先)
 ロングノーズ
 最終的仕上げ作業は
 技術者の掌の感触によって整えられるという
 人の持つ感覚
 感覚の伴わない言葉 行為は空虚だ
 本物とは言えない




            ーーーーーーーーーーーーーーーーー




             希望(26)



 
 
 次第に数を増す警察の車を見て北川と幹部達は解散の指令を出した。
 警察との間にいざこざは起こらなかった。
 北川達は<ブラックキャッツ>の領域にまで踏み込んだ事で、走りは充分、成功したと気を良くしていた。
 地元新聞には翌朝、<暴走族 走り初め>と書かれた見出しの下、Vサインと共に得意満面の笑顔を見せている男達の写真と記事が掲載された。
 女将さんが修二の部屋を訪ねて来たのは四日の夜だった。
 修二が一日中、ゲームセンターや映画館などで過ごして午前零時過ぎに帰って鎧戸の鍵を開けようとすると、既に開けられていた。
 一瞬、泥棒に入られたのかと狼狽して急いで鎧戸を上げ、中へ入って店の中を見廻すと、別段、荒らされた様子もなかった。
 ホッとしたまま二階へ上がろうとすると、そこに女物の細いサンダルが脱ぎ捨てられてあるのが眼に入った。
 女将さんのサンダルだ、とすぐに察しが付いた。
 途端に嫌悪の気分に捉われた。
 何しに来やがったんだ !
  階段の下に立ったまま見上げて耳を澄まし、部屋の様子を窺った。
 物音は聞こえて来なかった。
 一体、何をしてやがるんだ !
 胸の中で呟き、そっと階段を登って行った。
 ドアの隙間から明かりが見えているのが分かった。
 物音は依然として聞こえて来なかった。
 ドアの前に立った時にも、中からは人の居る気配さえも伝わって来なかった。
 何をしてやがんだろう ?
 不審の思いだけが募った。
 そのまま、そっとドアを開けてみた。
 女将さんは部屋の真ん中に布団を持ち出して、その上に服を着たまま横になって眠っていた。
 黒いスカートが膝の上まで捲れ上がっていて、太ももが露わになっていた。
 一目で泥酔しているのが分かった。
 女将さんの生々しい、白い太ももが眼に入ると同時に普段、眼にしているヌード雑誌で見る女達の姿が重なって息苦しくなる程の欲望を覚えた。
 その思いを振り払ったのは、女将さんを通して浮かんで来るマスターの存在だった。
 マスターは修二に取っては唯一、信頼を寄せる人であり、尊敬する人であった。
 普段、マスターが口にする言葉の中に修二は、その静かな口調にも係わらず何処とは無い重厚さを感じ取っていて、その口調と共にマスターは仰ぎ見る存在になっていた。
 そのマスターへの冒涜など考える事さえ出来なかった。
 修二はただ茫然として、しどけなく寝入っている女将さんを見詰めて立っていた。
 マスターはどうしたんだろう ?
 花札にでも行ったんだろうか ?
 考えていても始まらなかった。漸く意を決して女将さんの肩に手を掛けると、
「女将さん、女将さん」
 と言って身体を揺すった。
 女将さんは一度では眼を醒まさなかった。
 二度、三度と揺すった。
 女将さんが眼を開けた。
 修二はその女将さんに強い不満の表情を見せて、
「困りますよ。俺」
 と言った。
 女将さんは修二を見たが、寝ぼけ眼の眼差しで状況がよく呑み込めないらしかった。暫く見詰めていてから、
「何 ? あんた修ちゃんじゃないの」
 と、もつれる様な口調で言った。
「そうですよ。俺、困りますよ」
 修二はまた言った。
「なんで、あんた、こんな所に居るの ?」
 女将さんは不思議そうな顔で言った。
「女将さんが、俺の布団の上で寝ちゃったんじゃないですか」
 修二は更に強い不満を顔にも言葉にも表して言った。
 女将さんはそれで漸く理解した様だった。周囲を見回して、
「ああ、わたし、酔っぱらって眠ちゃったんだわ」
 と言った。
 その眼差しは依然として朦朧としていた。
「困りますよ、俺」
 修二は再び、強い非難を込めて言った。
 その日、女将さんは近所の友達とカラオケバーで盛り上がり、はしごを重ねた末に、午後十一時過ぎに友達と別れて修二の部屋へ来たと言った。
 マスターはその日の午前十時過ぎに、飲食店連合会の新年会を兼ねた二泊三日のバス旅行で出掛けた。
 それで女将さんは、女は女同士で楽しみましょう、という事になって仲間達と共にカラオケバーで羽目を外す結果になったのだという。
 そんな、経緯を話しながらも女将さんはまだ酔いが醒め切らないらしく、絶えず身体を前後に揺すっていた。それからまた直ぐに、起きている事も辛そうに布団の上に身体を横たえると腕枕で寝入ってしまった。
 修二はその女将さんを見詰めながら、処置なし、と言った思いで、
「このクソ ババァ !」
 と呟くより仕方が無かった。
 一日中、火の気の無かった部屋の中は冷え切っていた。
 その寒さに気付いてストーブの傍へ行き火を点けた。
 熱気が伝わって来るとその前で膝を抱えて座り込み、冷え切った身体を暖めた。
 何時の間にか修二自身も暖気の中で眠っていた。
 気が付いた時には横になった身体に毛布が掛かっていた。
 女将さんが背中から修二の身体を抱く様にして同じ毛布の中で眠っていた。
 修二は驚いて毛布を跳ね除け、身体を起こした。
 女将さんは腕を離されて眼を覚ました。
 すぐに修二の様子に気付いて、
「駄目 !」
 と言って、また腕を絡み付けて来た。
 女将さんの身体の重みで修二は重心を失い後ろに倒れた。
 女将さんは更に強くそんな修二の身体に腕を巻き付け身体を重ねて来た。
 右手が修二の股間を探っていた。
 
 女将さんと修二は終日、部屋に籠っていた。
 店の鎧戸を開ける事もしなかった。
 部屋中に臭気に満ちた空気が淀んでいた。
 夜になっても女将さんは帰らなかった。貪欲に修二を求めた。
 明け方、五時過ぎになって帰り支度を始めた。
 気だるい雰囲気と匂う様な柔らかさが女将さんの全身を包んでいた。
 修二は、そんな女将さんの総てが自分の物でもあるかの様な錯覚に陥った。
 あれ程、憎悪を傾けた女将さんに離れがたい気持ちを覚えた。
 普段、空想の中で遊ぶ写真の中の女達とは違って、生身の女の肉体が修二を虜にしていた。
 女将さんは最後に修二の口を求めた。
 長く執拗な抱擁が続いた。
 女将さんの左手が修二の股間を探った。
「またね」
 そう言って修二を離して見詰める女将さんの眼差しが優しさと艶やかさに満ちていた。




           ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー              



            takeziisan様

             
             今回もいろいろ楽しませて戴きました
            民謡の数々 懐かしい物ばかりです
             勝太郎 市丸 若い頃の歌声が聞けて懐かしさひとしおです
            鈴木正夫も久し振りです 相馬盆歌といえば鈴木正夫が浮かびます
            また 最上川舟歌 見事です 民謡歌手なんていう物じゃないですね
            感動的とも言える良い歌でした 世の中にはあらゆる分野に於いて
            このように知られざる名人 達人が居るものです
            世間一般の虚名などに惑わされない様にしたいものです
             川柳 画面では展開が速く ちょっと残念な気がします
            文字で補足して戴けたらと思いました
            いずれにしても川柳は庶民を読んだもの 実感が籠っていて楽しいものです
            楽しませて戴きました
             畑 相変わらず気になる小石 自分の方の土地では
            考えられない見た目です 
             頭を悩ませるイノシシにはイノシシの図太さと共に
            思わず笑いが出てしまいます 御苦労が偲ばれます
            それにしても野菜の数々 羨ましい限りです
            トウモロコシ 懐かしい映像です 
             様々な花々 それぞれ色彩の鮮やかさが眼に染み込んで来ます
            今の時期の特権でしょうか
             くちなしの花 作詞者の 水木かおる氏とは多少の面識があったものですから
            改めて懐かしく聴きました
             その水木氏も既に亡くなっています
            若き頃の憧れのスター 久我美子さんも亡くなりました
            日々 細りゆく我が人生 というところでしょうか
             日頃の歩行数 是非 頑張て下さい
            有難う御座いました
















遺す言葉(501) 小説 希望(25) 他 惑わされる

2024-06-09 11:47:12 | 小説
            惑わされるな(2024.5.31日作)


 
 宗教家の金ピカ衣装に惑わされるな
 社会通念一般の 地位 名称に惑わされるな
 総ては権威付けの為の虚飾
 人がこの世を生きる上で最も大切なもの
 人が人として如何に 人としての真実の道を
 歩むか その一事だけ
 たとえ 人の眼に触れる事の無い
 日常の 小さな小さな仕事であっても 人として
 真摯にその道を生きた その一生
 汚職塗れ スキャンダル塗れ
 社会通念一般の 高い地位を誇る人間達 
 金ピカ衣装の尊大 権威的人間達
 彼等の一生より はるかに尊く立派
 安易に世間一般通念の 地位名称
 金ピカ衣装の威厳 権威に 惑わされるな
 人は人としての真実の道を 如何に生きたか
 問われるものは その事実 一つだけ




            ーーーーーーーーーーーーーーーーーー




             希望(25)



 
 二人の刑事がマスターの店を訪ねて来たのは北川が店へ来てから三日目だった。
 修二は調理場の奥で野菜の下ごしらえをしていた。
「確かに奴等はこの店にも顔を出しますよ。だけど、飯を食いに来るだけの事ですから。少なくともこの店は堅気の店なんで、変な眼で見るのは止めて下さいよ」
 マスターの静かだが腹の座った声が調理場の奥にも聞こえて来た。
 修二はその声を聞くと仕事も手に付かなくなった。
 刑事の聞き込みが自分の身にも及ぶのかと思うと落ち着いた気分では居られなかった。
 しつこく問い詰められた時、旨く言い訳が出来るか ?
 以前、火事の事を聞かれた時には母親への憎悪もあって、信念の揺らぐ事は微塵も無かったが、今度の場合は事情が異なった。
 旨く言い包(くる)められるだろうか ?
 それに今度の場合は相手の人間も係わって来る。
 相手が自分の特徴等を喋ったりしていないだろうか ?
 息の詰まる様な緊張感の中で修二はマスターと刑事の遣り取りに耳を澄ましていた。
「何をぼんやりしてるのよ。早く洗っちゃいなさいよ」
 傍に来た鈴ちゃんが野菜を手にしたまま聞き耳を立てている修二を見て言った。
 間もなく刑事達は帰って行った。
 修二は全身の緊張感が一度に緩む安堵感の中で、思わず倒れそうになる身体を流し台の縁(へり)で支えた。
 マスターは刑事達が帰った後も、修二には何も尋ねなかった。
 事件に関する事柄はだが、それで終わった訳では無かった。
 幾つかの新聞はなお事件に関する後続記事を載せていた。
 その記事を見る度に修二の心は揺れた。
 何時か、自分の所へも誰かが訪ねて来るのではないかーー。
 北川は今まで通り、時々、<味楽亭>に顔を出した。
「どうだ、警察は ?」
 マスターは北川に聞いた。
「しつっこくメンバーの連中に聞いて廻ってるみてえだけっど、なんて事は無(ね)えですよ」
 北川は気にもしていない様子だった。
 修二はひと月が過ぎる頃になってようやく、不安に揺れ動く心から解放された。
 警察に追われる夢で夜中に飛び起きる事も無くなった。
 それと同時に自分が一つの事を完全に成し遂げた、という奇妙な自信にも似た気持ちが湧いて来ている事にも気付いた。


           七
  

 北川はチームでの走りを自粛していた。         
 警察の動きを警戒しての事だった。
 警察がその後、マスターの店を訪ねて来る事は無かった。
 重傷だという、修二が刺した相手がどうなったのかは分からなかった。
 店では以前の様に女将さんがしつこく修二に絡んで来る事も無くなった。
 マスターや女将さんが実際には、どの様な眼で自分を見ているのかは分からなかった。
 修二は以前より、かえって一生懸命に働くようになっていた。
 事件に付いてマスターが何一つ尋ねて来ないのが修二には、マスターが自分を信用してくれている証拠の様な気がして、その気持ちに応えたい思いが一層、強くなっていた。
 修二に取って、一日一日は瞬く間に過ぎて行った。
 何事も無いままに間もなく年の暮れを迎えようとしていた。
 母親が訪ねて来てあれからどうしたのか、修二には分からなかったが、そんな事はどうでも良かった。
 母親とは完全に縁を切った思いが強かった。
 年の暮れは<味楽亭>でも忙しかった。
 忘年会流れの客や、一年の締め括りに追われる人達が夜の遅い時間にも係わらず訪れた。
 修二に取っては初めて迎える知らない土地での年の暮れは、騒(ざわ)めきと多忙の裡に心の裡を省みる暇も無く過ぎていた。
 マスターは十五日に門松を立てた。
 年の暮れの多忙は十五日が過ぎても続いた。
 女将さんは大晦日の朝、切り餅とお節料理を持って来てくれた。
 <味楽亭>は七日までの正月休みだった。
「休みはどうするの ? 田舎へは帰らないの」
 女将さんの口調に他意は感じられなかった。
「はい」
 修二は素直に答えた。
 繁華街へ出て、一日中、ゲームセンターなどで過ごす計画を立てていた。
 北川もまた、久し振りに大掛かりな走りの計画を立てていた。
 北川が耳にした噂によると、修二が刺した<ブラックキャッツ>の頭(あたま)は命に別状は無かったものの、退院後も左半身に麻痺が残って居て、これまでの様には動けなくなっているという事だった。
 警察もまた、正月七日が過ぎるまでは寺社の警備や何かで手薄になる事をこれまでの経験で北川達は知っていた。その隙に相手の領域にまで踏み込む心算でいた。
 修二は北川達の頻りな勧めにも係わらずチームには入らなかった。
 元々、免許証は無かった上に、興味も持てなかった。
 大晦日の営業は午前三時になってようやく終わった。
 マスターと女将さん、それに鈴ちゃんの三人はそれぞれに、
「じゃあ、良いお正月を」
 と修二に声を掛けてくれて帰って行った。
 修二は二階へ上がると一日中、立ちっ放しでいた疲れからそのまますぐに布団にもぐり込み、翌日、眼が醒めた時には午後二時になっていた。
 空腹を覚えて、女将さんが持って来てくれたお節料理を食べ、餅を焼いて食べた。
 午後三時になって漸く外出した。
 休みの七日間を思うと大海原へ漕ぎ出した様な解放感を覚えて気持ちが訳も無く弾んでいた。
 その日は、まずゲームセンターへ入り、長い時間ゲームに興じてから最後に映画館へ入って、部屋へ帰った時には午前一時を過ぎていた。
 そのまま布団に入って眠り、眼を醒ました時には正午近くになっていた。
 空腹を覚え、残っているお節を食べ、餅を焼いて食べた。
 銭湯は三が日、午後三時までだった。
 身体の汚れが気になってタオルと石鹸を持って出かけた。
 北川達は二日の深夜から三日の明け方に掛けて約四時間、百台近くに及ぶ車を結集し、旗を立てて走った。
 クロちゃんが死んだ境川の橋を越え、<ブラックキャッツ>の領域にまで踏み込んだ。
 <ブラックキャッツ>からの反応は皆無だった。
 地元住民の苦情を受けてパトロールカーや白バイが集まって来た。




             ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




               桂蓮様


                お忙しい中 コメント 有難う御座います
               一分のポワントに三年 バレーの難しさが改めて
               認識されます ましてや若い頃とは違って ある程度
               年齢を重ねてからの挑戦 苦労が偲ばれます
               でもその苦労がまた 楽しいのではないのでしょうか
               趣味としてやっている その特権だと思います
               本格的プロを目指すとなれば楽しんでばかりはいられませんから
               四人のプリマドンナ 楽しそうですね
               良い御写真です
                ビギナー 模範役 やるじゃないですか
               これからも頑張って下さい
               とにかく若い頃と違って年齢を重ねてからの挑戦
               思う様に身体が動かないのは仕方がない事で
               テレビの画面等に見るバレー教室の幼い子供達の柔軟な動きには
               思わず見とれてしまいます 述懐されている内容が理解出来ます
                何かの事に打ち込む やはり大切な事だと思います
               目的 目差すもののない人生なんて詰まらいものです
               どうぞ これからも成果など気にせずに楽しんで趣味のバレーに励んで下さい
               良いお仲間が居ればそれだけ励みにもなりますものね
                お忙しい中 有難う御座いました




              takeziisan様


               今回も楽しませて戴きました
              ドナウ河のさざ波 懐かしく聴きました
              耳に馴染みの曲ですが暫く耳にしていませんでしたので
              妙に懐かしく聴きました
               両津甚句 佐渡おけさ いいですね  
              この踊りが好きです 佐渡おけさ あの踊りの手の動き
              まるで佐渡に寄せる波の動きの様に見えて来ます
              大きな動きはないのですが 静かなこの動きの踊りには
              何時も心動かされます それにあの頭にした編み笠
              深く顔を隠した被り方 以前から不思議に思っている事ですが
              ファッションデザイナーは何故 この傘を参考にしたファッションを
              取り入れないのだろうと思っています
              顔を隠した被り方 優雅で誰もが美人に見えて来ます
               ナスの見事な輝き さぞ美味だろうと想像してしまいます            
              イノシシ奮戦記 テレビでもこの間やっていましたが
              肥料にと積んで置いた糠だったか すっかり食い荒らされていた
              その様子が監視カメラにも映っていて なるほどと思いました
              傍目には思わず笑ってしまいますが 当事者としては
              堪ったものではない というところでしょうね
               カルガモ親子を見詰めての早朝散歩 改めて自然の豊かさを羨ましく思います
              美しい自然の花々との出会い 健康の為にも良いと納得して
              どうぞ これからも楽しい記事をお寄せ下さい
               何時も有難う御座います

































 


遺す言葉(500) 小説 希望(24) 他 あなたは あなたでいい

2024-06-02 12:24:24 | 小説
              あなたは あなたでいい(2024.5.23日作)



 あなたは あなたでいい
 金が無くてもなんだ ?
 名声が無くてもなんだ ?
 今日一日を自分の出来る限りの事をした
 他者に迷惑を掛ける事も無く
 他者の眼差しに触れる事も無く
 人が人として生きる上での必要な
 真実の道を生きた
 それで充分
 人は一人では生きられない
 あなたの今日一日を生きた
 人の眼に触れる事も無い
 人の耳に届く事も無い
 人としての真実の道 その道を
 真摯に生きた
 それだけで充分
 人間社会の一個の礎 この世界の礎石として あなたは
 立派に 人としての役目を果たしている
 蟻の一穴 大きな堤もそこから水が漏れ 崩れてゆく
 あなたの 他者の眼には見えない
 他者の耳には届かない その仕事
 一日の その務めは蟻の一穴 その
 小さな 小さな穴
 人間社会 この世界 そこに穿(うが)たれる
 眼には見えない 小さな小さな穴
 蟻の一穴を埋めるその仕事 その作業
 日毎 夜毎 この人間社会 世界の礎
 基盤を支えるあなたの仕事 その務め無くして
 人間社会 この世界は 
 成立し得ない




           ーーーーーーーーーーーーーーーーー




              希望(24)
 


 
 修二は次第に激しくなる胸の鼓動を意識しながら、それでもなお、男に近付いて行ってⅠメートル程の距離になった所でようやく声を掛けた。
「すいません。あのう、境川駅へ行きたいんですけど、どっちへ行けばいいんですか ?」
 相手の男はこの時初めて顔を上げて修二を見た。
 初めは少し怪訝そうな表情で警戒する様子を見せたが、すぐにまだ子供っぽい面影を残す修二を確認するとその緊張感も解けたかの様に穏やかな表情で、
「ここを真っ直ぐ行って左へ曲がればすぐに駅が見えて来るよ」
 と親切に教えてくれた。
「ここを左ですか ?」
 修二は左手でその方角を差して言った。
「うん」
 そう答えると男はまた直ぐに手元の何かに視線を落として歩き始めた。
 修二と男の身体が入れ違った。
 無防備な男の後ろ姿が振り返った修二の眼に映った。
「今だ !」
 咄嗟に思った。
 そのまま修二はすれ違った男の背後に一歩近づくと、右手に隠し持っていたナイフを握り直して同時にボタンを押し、刃を開いていた。
 その動作は金物店の店頭でナイフを盗み取った時と同様に素早かった。
 男の左横腹目掛けて思いっ切りナイフを突き刺した。
 男はナイフが身体に突き刺さった瞬間、ウッと小さな声を上げ、痛みを堪えるように身体をよじった。
 ナイフを突き刺したままの修二もその男の動きに釣られて振り回されていた。
「テメエッ、なに・・・・」
 男は言って修二に襲い掛かろうとした。
 修二は頭の上から覆い被さって来るかと思われる男の動きから逃れるようにして身体を引いた。
 ナイフもその瞬間に抜けていた。
 同時に、男が膝から崩れる様にして道路の上にうずくまって行くのが見えた。
 修二は素早く踵を返すと事前に指示された通りに歩道の方へ逃げてその足で柵を飛び越え、植え込みの中に逃げ込んだ。
 植え込みの中で待っていた相棒の男がそんな修二を確認するとすぐに近付いて来た。
「上出来、上出来 !」
 男は興奮気味に言った。
 修二は息を切らしたまま何も言わなかった。
 二人はすぐに指定された車の来る場所へ向って走った。
 公園に人の姿の見えない事が幸いした。
 修二達が指定された場所に来た時、車はまだ来ていなかった。
 修二と相棒はそれぞれに太い樹の幹に身体を貼り付けて車の来るのを待った。
 何分かした後に車の来るのが見えた。
 二人はほとんど同時にそれぞれ樹の陰から離れて車に走り寄り、すぐに開いたドアの中へ修二から先に乗り込んだ。
 エンジンを掛けたままの車はすぐに走り出した。
 夜の公園の何処にも人影らしいものは見えなかった。
 北川がすぐに言葉を掛けて来た。
「どうだった ?」
「上手くいったよ。大丈夫だ。狙い通りだったよ」
 後部席に修二と並んで座った相棒が興奮気味に言った。
 相棒はそれからすぐに、修二の左腕に視線を向けて驚いた様に言った。
「なんだ、お前(め)え。血が・・・」
 言われて修二も初めて左腕に視線を向けた。
 二の腕一帯が血で濡れていた。
 何処かに違和感を覚えていた自分をこの時初めて意識して、このせいだったのだと、納得した。
 その納得と共に途端に傷口の痛みが意識されて、まだ握ったままでいた血に濡れたナイフを急いでズボンのポケットに押し込むと右手で傷口を押さえた。
「大丈夫か ?」
 相棒は言った。
「うん」とだけ修二は答えた。
「遣られたのか ?」
 車を運転しながら北川が言った。
 修二は答えなかった。
「血が出てんのか ?」
 北川がまた聞いた。
「大丈夫」とだけ修二は言った。
 それでも激しい痛みは傷を意識すればする程に増して来るようだった。
 修二は顔をしかめ、力いっぱい右手で傷口を押さえて痛みを堪えた。
 傍に居る相棒がその様子を見て、
「大丈夫か」と聞いて「何かで包帯をした方がいいな」
 と言った。
「俺のシャツをやっからそれで包帯しろよ」
 北川の横に居る鳥越が言ってすぐにシャツを脱ぎ、後部席の相棒に渡した。
 相棒の男は受け取り、修二に向き直って、
「腕を出してみな」
 と言った。
「俺ん所へ帰(けえ)ったらすぐに傷口の手当てをしよう」
 北川が言った。
 傷はさして深くはなかった。
 男の巨体に振り回され、ナイフが男の身体から抜けてよろめいた時に傷付けたに違いなかった。
 一方、ナイフを握った右手は力一杯ナイフを刺し込んでいたにも係わらず、上下に張り出した堅固な滑り止めが見事にその役目を果たしていて、傷付く事もなかった。
 北川のアパートへ着くとすぐに部屋へ入って傷口の手当てをした。
 血に汚れた衣服や靴は総て北川が用意して置いた別の物に取り替えた。
「これは証拠を残さねえ為に処分しちゃうかんな」
 北川は確認を取る様に修二に言った。
「うん」
 と修二は答えた。
 三人の男達に送られて北川のアパートを出た時には午前一時を過ぎていた
 翌日、修二は何時も通りに店に出た。
 傷の痛みは消えなかったが必死に我慢した。
 マスターや女将さん、鈴ちゃんに気付かれたくないという思いの一点からだった。
 幸い左腕で服を着てしまえば外目には見えないので、その点で助かった。
 ただ、何時もの通りの自然な動きをする事には苦労した。
 事件はその日の夕刊各紙で報じられた。
 見出しはどれも「暴走族の抗争か ?」とされていた。
 男は命に別状は無かったものの重症だった。
 北川達は早速、警察の事情聴取を受けた。
 車の運転に係わった四人の男達はその時間、揃って境川駅に近い飲食店に居た事が立証されて疑惑は解かれた。
 事件から五日が過ぎて北川がマスターの店に来た。
「誰が遣ったんだ ?」
 マスターは北川に聞いた。
「チームのメンバーですよ」
 北川は何食わぬ顔で言った。
 マスターはそれ以上は聞かなかった。
 何時も通りの二人の会話が続いた。
 修二は事件から一日が過ぎて、二日目になると女将さんと鈴ちゃんの眼は気にならなくなったが、マスターの視線だけは何故か、気になって仕方が無かった。修二に接する態度に変わった所がある訳では無かったが、それでいて何故か、マスターは事の総てを見抜いているのではないかという気がしていてならなかった。マスターの鋭い眼差しが修二を怯えさせた。




             ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




               takeziisan様


                能登半島に沈む夕陽 素晴らしい眺め
               わたくし自身も幼い頃 海辺に近い村に疎開していた経験がありますが
               これ程 近い距離ではなかったので毎日 海辺の光景を見ると 
               という訳にはゆきませんでした
               懐かしい思い出ではないのでしょうか
                民謡の数々 楽しませて戴きました
               お鯉さん 懐かしいですね
               それにしても阿波踊りは日本が誇る芸能なのではないでしょうか
               至極 単純なあの踊り それでいて奥が深い
               何時まで見ていても飽きない 男踊りのあの単純な動作の中に 
               巧まぬ技巧が隠されている それこそ名手と思われる人の踊りなど
               ほとんど手足を動かさず あの格好だけで見せてしまう
               凄いと思うばかりです
                また 女踊り これも単一の動作を繰り返すばかり
               それでいてそこはかとなく匂い立って来る色気
               あの踊りをおどる女の人が皆 美人に見えて来てしまうのが不思議です
               東京などの都市部にも阿波踊りの連が作られているようですが   
               世界の何処に出しても通用する芸能だと思います
                おてもやん 先週も書きましたが赤坂小梅の十八番でしたね
                農作業 やれやれ 実感出来ます でも 止めるには惜しい気もする
               画面で見る艶やかな収穫物の数々 これはこれでまた
               楽しみなのではないでしょうか 羨ましく思うばかりです
               それに振り返り記事の中の品々の不揃い
               これもまた 趣味の農作業 その気配が伝わって来て
               見ていて楽しくなります
                数々の楽しい記事 楽しく拝見させて戴きました
               有難う御座いました
 








 

















          

遺す言葉(499) 小説 希望 (23) 他 歌謡詞 最果ての街 ほか 小説と詩

2024-05-26 12:15:55 | 小説
              最果ての街(1980.5.3日作)



 1 せめて面影捨てたくて 
   流れ流れて来たけれど
   ここは最果て海の街
   波の音にもあなたを偲ぶ

 2 帰る当てない東京は 
   遠く彼方にあるばかり
   呼ぶな呼ぶなと思っても
   ここは最果て北の街
   風の音にもあなたを偲ぶ

 3 なんで未練が今更に
   遠く昔は帰らない 
   バカねバカねと胸で泣く
   ここは最果て霧の町
   ドラの音にもあなたを偲ぶ


 
    小説とは 様々な出来事などに託して
    人間の行動 心理を描写し
    作者の理念 思想を伝えようとするもの
    詩とは 理念 思想を鋭角的な言葉の上に定着させ
    作者の心を伝えようとするもの




             ーーーーーーーーーーーーーーーー




              希望(23)



 
 北川の他には鳥越と頬に傷を持った男、滝田ともう一人の小柄な男、沢木がいた。
 現場は略図で説明された通りだった。
 ゴム工場の塀は五メートル以上と思われる高さがあった。
 道路は五、六メートルの幅でアスファルトで舗装されていた。
 公園を囲む金網の柵に沿って歩道があった。
 柵の高さはⅠメートル程。内側にはその柵より少し高いツツジと思われる木の植え込みがあった。
「いいか、奴を遣ったらすぐにこの柵を飛び越えて植え込みの中へ逃げるんだ」
 北川は言った。
 かなりの広さを持った公園だった。
 所々に大きな樹々もあって広場中央には花壇に囲まれた噴水が赤や青、黄の照明の中で鮮やかな水しぶきを上げていた。
 周囲には子供達の為の遊具やサッカーのグラウンドなどもあった。
 午後九時という比較的早い夜の時間にも関わらず公園内にも通りにも人影は無かった。
 柵に沿って二十メートル程の間隔で街灯が黄色味を帯びた光りを投げ掛けているのが少し気になった。
 車はゆっくりと走って交差点へ出た。
 北川は公園に沿って左へ曲がった。
 少し行くとやや古ぼけた感じの二階建てでそれなりの大きさを持ったコンクリートの建物が右手に見えて来た。
 北川はその建物を差して言った。
「あれが奴の居るアパートだ。奴は何時も歩いて帰(けえ)るもんで、奴がこの道へ曲がる前えの今来た通りで遣るんだ。仲間がお前(め)えと一緒に居っから、そいつの指示に従ってお前えは駅の方へ歩いて行く。そっで、奴と出会った所で道を聞く振りをして奴に近付き、隙を見て一気に刺す。奴はお前えの顔は知んねえけっど、いくら眼鏡を掛けて野球帽で変装してるっていっても、やっぱり暗(くれ)え所の方がいいんで、なるべく街灯から離れた場所で遣った方がいい」
「もし、一人でも人が歩いて来たりしたらどうする ?」
 修二は聞いた。
「その時は遣んねえでいい。人が来たと思ったら、奴とは距離を置いて通り過ぎてしまえばいい。日を改めてやり直すから」
 計画は翌週、水曜日の夜に決行される事になった。
「俺達はマッポ(警察)の眼を誤魔化すために現場へ行かねえで駅の近くの飲み屋でアリバイ作りに呑んでっから、車の運転は他の者(もん)に遣らせる。みんな信用出来る連中だから心配えしねくて大丈夫だ」
 北川は言った。
 当日、北川は出発直前になって、
「相手は柔道二段の猛者だから気を付けろよ。いいか、一気に遣っちゃうんだぞ」
 と注意した。 
 修二は北川のその言葉に思わず肝を冷やした。
 ええッ、という思いだった。
 何故、最初にそれを言わないんだ !
 修二が怖じ気付くのを思って隠していたとしか思えなかった。
 何処までも汚い野郎だ !
 それでも、今更、後に引く訳にもゆかなかった。
 修二を載せた車はそのまま動き出した。
 修二はジャンパーのポケットにナイフを忍ばせていた。
 自分が遣ると決まってからは夜毎、自分の部屋でナイフの扱い方を様々に試してみた。
 どうすれば相手に気付かれずにナイフを使えるか ?
 それなりの結論は出ていた。
 車はまず、公園の通りとは反対側の道路で修二ともう一人の男を降ろした。
 修二と男はそのまま公園内に入って実行現場の通りへ向かった。
 二人を降ろした車は駅前通りに向って走り去った。
 車の中には運転手ともう一人の男がいた。
 二人は駅前通りで相手の男が駅から出て来るのを確認してから、実行現場の通りを男のアパートの方角へ向かって走り、その曲がり角でクラクションを鳴らす。
 それが合図だった。
 修二はその合図と共に公園の繁みから道路へ出て、相手が来る方へ向かって歩いて行く。
 ーー修二と連れの男が繁みの中に身を隠してから何分かが過ぎた。
 どれだけの時間だったかは分からなかったが、修二には不安と緊張感に満ちた長い時間だった。
 やがて、先程、修二達を降ろした車が繁みに居る修二達の前をゆっくりと通り過ぎるのが見えた。
 少ししてからクラクションが聞こえた。
「今だ、出ろ !」
 修二と居る男が緊張感に満ちた声で言った。
 修二はその言葉と共に繁みを出てすぐに金網を乗り越えた。  
 まだ遠くを歩いている相手の男は、手元の何かを見ながら歩いていて、修二が通りに出た事には気付かなかった。
 修二はそのまま男に向って歩いて行った。
 心臓が緊張感で早鐘を打った。
 ナイフは右腕に握ったまま、腕の内側に隠す様に貼り付けて持っていた。
 親指は飛び出しボタンにしっかりと押し付けられていた。
 あとはボタンを押すだけだ !
 男の姿が次第に大きくなって来た。
 身長Ⅰメートル六十五センチの自分より十センチ以上は大きい事が次第にはっきりして来た。
 柔道二段だという体躯は近寄り難い気がした。
 それでも、遣らなければならない・・・・
 もし、逃げ出してしまえば北川達のいい笑い者になる。
 笑い者にだけはなりたくなかった。
 その上、現金も既に受け取っている。
 息苦しくなる程の緊張感を抱いたまま修二は男に向って歩いて行った。
 四、五メートルの距離になると歩道から大通りへ出て男の方へ近付いていった。
 男は依然として手元の何かに視線を落としたまま歩いていて、修二が近付いて行く事にも気付かなかった。




              ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




                takeziisan様


                民謡の数々 どれも懐かしい歌ばかりです 
               越中おわら いいですね ずっと昔になりますが
               この越中おわらをテーマした番組がNHKテレビで放送された事がありました
               その番組の素晴らしに魅かれて再放送の際に録画したものです
               今でもテープを持っていますがテープも今や骨董品になってしまって・・・
               あの哀愁を帯びた歌の素晴らしさ それにしても
               民謡はどの地方の民謡もそれぞれに特色があって素晴らしいです
               市丸 懐かしいですね 小唄勝太郎と民謡界の双璧
               当時はお互いが意識し合って仲が悪いなんて噂されたものですが
               これもやはりNHKの番組で二人揃って出場して 仲の睦まじさを
               演出してみせたものです 実態はどうであったのでしょう
               いずれにしても双璧であった事には間違いありません
               それに赤坂小梅 あの太った小柄な身体と共に鹿児島おはらは
               小梅の代名詞みたいなものでしたね
               ちょっと早く亡くなってしまいましたが
               画面で見るのは高校生でしょうか
               こうして若い人達に歌い継がれるのを見るのは嬉しいものです
               ドジョウすくい 絶品です いつ見ても楽しい踊りです
               それこそ国民の公共放送 NHKはこういう地方の生活を大切にした
               番組を地道に放送して貰いたいものですが 最近のNHKは全く
               民放化してしまってコマーシャルは流すは 訳の分からない
               タレント達が寄り集まってガヤガヤ騒ぐはで公共放送の品位も良さも
               全く感じられなくなってしまいました
               こんな所に視聴料を払っているのかと思うと腹が立って来ます
                桑の実 ドドメ もうそんな季節なんですね  
               此処に居ては季節も感じられません 四キロ
               野菜の稔りと共に羨ましく思います 
                川柳 老齢川柳 君恋し 特に共感一入です
               何時もながらに楽しい時間を過ごさせて戴きました
               有難う御座います
               何時も駄文にお眼をお通し戴く事と共に
               御礼申し上げます
               



 



















  

遺す言葉(498) 小説 希望(22) 他 戦争は悪

2024-05-19 12:45:49 | 小説
             戦争は悪(2024.5.15日作) 



 戦争は悪だ
 戦争をするな と叫ぶより
 戦争好きな人間達には 勝手に
 やらせて置けばいい
 果てし無い殺し合い 戦争
 その戦争に於いて 一般市民を巻き込む行為
 絶対的に許せない 日々 静かに
 日常を生きる一般市民
 市井の人々 その人達の権利 生きる権利を奪う事
 誰であろうと許されない 人の命を奪う権利
 誰にも無い 人はそれぞれ
 この世に生を受けた限りに於いて
 生きる権利を有している その権利を
 戦争好きの愚か者 愚者達侵略者が
 勝手に弄び 奪う事は許されない
 果てし無い殺し合い 戦争
 愚か者 愚者達の危険な遊び
 危険な遊びを好むなら 愚か者
 愚者達同士 勝手にやればいい
 その行為 殺し合い 
 日々 日常を生きる一般市民 
 市井の人達を巻き込むのなら 直ちに
 止めるべし その行為 犯罪行為
 絶対的に許せない
 市井の人々 一般市民を脅かし 命を奪う
 どんな口実 理屈を並べても 空虚な戯言 
 直ちに止めるべし
 この世界 地球上 これまでに
 愚かな戦争 果てし無い殺し合い その中で
 失われた人の命は数知れず
 積み上げられた死者の数 数知れず この惨状
 総ては愚者 愚か者達の危険な遊び 遊戯の結果 
 悲惨な結果
 市民を巻き込む戦争 殺し合いなら直ちに止めるべし
 愚か者 愚者達よ
 世界はお前達だけのものではない !


            
             
           
           ーーーーーーーーーーーーーーーーーー




              
              希望(22)




「クロちゃんの納骨が済んだって言うもんで、墓へ行って線香を上げて来たんですよ」
 北川は言った。
「お前(め)えとクロは同級だったんだって ?」
 マスターが聞いた。
「そうなんですよ。小学校から高校までずっと一緒だったもんで、奴とは一番気心が通じ合っていたんですよ。何をやるにも一緒で、走るようになったのも二人で相談しての事だったんもんだから」
 北川は沈んだ口調のまま言った。
「じゃあ、お袋さんもお前えの事はよく知ってんだ ?」
「知ってるなんてもんじゃねえですよ。俺達が小せえ頃は、お袋さんが働きに出てたもんで二人で一緒に留守番をしてたんですよ」
「お前えがクロの仕返(しけえ)しに躍起になるのも分かるな」
 マスたーは軽い笑いと共に言った。
「勿論、それもあるんだけど、でも、今度の事はそれだけじゃねえんですよ。相手の奴等にでっけえ面(つら)させて置く訳にもいかねえし、大体、このままじゃチームをまとめられねえですよ。頭(あたま)の一人が殺(やら)れて何も出来ねえなんて言うんじゃ、頭としての資格を問われちゃいますからね」
「一層の事、走りなんか止めちゃえばいいじゃねえか。警察は煩えし、走ってもなんの得にもなんねえだろうよ」
 マスターは言った。
「いや、みんな走るのが好きなんですよ。走る事でみんな詰まんねえ仕事の苛々を解消してんですよ」
「で、遣る目途は付いたのか ?」
 マスターは聞いた。
「いや・・・・」
 北川は言葉を濁した。
 マスターは北川の曖昧な態度を見て、
「そんなに簡単に遣れるもんじゃねえさ」
 と、ぽつりと言った。
 諭すともなく、呟くともない言い方だった。
 
 北川はマスターが席を外した隙に言った。
 「明日の夜、俺と鳥越で来るからシャッターを開けて置いてくれよ」
  修二が返事をする間もなくマスターが戻って来た。
  翌日の夜、修二が二階へ上がるとすぐに北川と鳥越が来た。
  名前を呼ぶ北川の声が聞こえて修二は階段を降りて行った。
 鎧戸を開けると、
「おお、悪りいな」
 北川が軽く右手を上げて挨拶した。
 二人は中へ入り、修二はすぐに鎧戸を降ろした。
「俺達、ブラックキャッツのリーダーの動きを掴んで来たんだ」
 部屋へ入るとすぐに北川は略図を書いた裏白の広告紙を広げた。
「光本って言うのが奴の名前(めえ)で牛乳工場に勤めてるんだ。月水金が遅番って言うのか、夜の十一時過ぎに境川駅に降りるんだ。そっからアパートまで歩いて帰(けえ)るんだけっど、十三分ぐれえの間だ。途中、五分ぐれえは商店街を通るんだけっど、その通りを抜けると後は公園みてえな処があって、片側はゴム工場の高いコンクリートの塀が続いてる。夜はほとんど人が通らねえんだけっど、奴は近道なもんで本通りを通らねえで何時も此処を通って帰(けえ)るんだ。奴の足で七、八分ってところだ。それから左へ曲がって五、六分で奴のアパートに着く。ーーこの工場と公園の間の通りで遣ろうって思うんだ。俺達が奴の様子を探って合図する。その合図で公園を出て行って道を聞く振りをして奴に近付き、一気に刺す。刺したらまた、公園の中に逃げ込んでそのまま、公園の反対側に居る俺達の車に乗って逃げるんだ。勿論、監視カメラには充分注意するし、公園の中には樹がいっぺえ繁ってっから身体を隠すのには絶好の場所なんで心配えはねえ、と言う訳んだ。そっで前えにも言ったようにそれをお前えに遣って貰いてえんだよ」
 北川は顔を上げ、修二を見詰めて言った。
 既に、総てが決まっているかのような北川の言い方に修二は腹を立てたが、怒りの感情を抑えたまま、
「だけど俺、遣るなんて言って無いよ」
 と、静かに抗議した。
「それは分かってるよ。分かってて頼むんだよ」
 北川は言った。
「でも、前にも言ったけど駄目だよ。チームの他の人に遣って貰ってよ」
 修二は言った。
 北川はそんな修二に苛立ちを募らせた。
「お前えも全く話しが分かんねえな。前えにも言った様にチームの連中じゃ面(つら)を知られちゃってっから拙いんだよ。その点、お前えなら面(めん)も割れてねえし、都合が好いんだよ。そっだから頼むんだ。勿論、その為には変装用の眼鏡も用意するし、野球帽も用意するよ。帽子を被って眼鏡を掛ければ誰だか分かりはしねえよ」
 焦(じ)れったそうに北川は言った。
 修二は黙っていた。
 どう考えてみても自分に取っては理不尽な要求にしか思えなかった。
 それでも北川は重ねて、
「お前え、ナイフをかっぱらった事を警察にチクられてもいいのかよう ?」
 と思いも掛けない、修二に取っては唯一の弱点を口にして睨み付けて来た。
 思いもしなかった言葉に修二は狼狽した。
 その狼狽と共に思わず感情を昂ぶらせて、
「じゃあ、遣るとしたら幾らくれるんだ ?」
 と、挑戦的な口調で、以前にも口にした言葉を再び口にしていた。
 北川は修二の態度に一瞬、たじろぐ気配を見せたがすぐに気持ちを切り替えて、
「二十万出すよ」
 と言った。
 身を乗り出す気配さえあった。
 修二はだが、そんな言葉もすぐには受け入れられなかった。
 少しでも北川の理不尽に抗いたかった。
「駄目だよ、そんな金じゃあ出来ない」
 突き放すように言った。
「じゃあ、幾ら欲しいんだ ?」
 北川は不満そうだった。
 修二は答えなかった。
 元々、無理強いの要件だった。過去に於いても経験のない事だった。
 はい、これです、と即座に答えられるものではなかった。
 修二が躊躇っているのを見ると北川は、
「じゃあ、あと十万出すよ」
 と言った。
    修二はやはり黙っていた。
 総てが修二に取っては未知の世界の話しだった。ただ、三十万と言う金額はこれまでこの店で貰う五万円の給料の外、今まで考えてみた事も無い金額だった。それが巨大な金額に思えた。
 これだけの金があれば何んでも出来る気がした。
 修二の心は揺れた。
 北川は修二のそんな心の揺れを逸早く見抜いた様子で、
「な、そっで、 いいだろう ?」
 と言った。
 修二は釣られて、
「うん」
 と言っていた。
 北川は修二の頷く様子を見ると途端に顔をほころばせた。
「よし ! これで決まった」
 と言って鳥越を振り返った。
 鳥越は黙ったまま頷いた。
「だけど、三十万は遣る前にくれよ」
 修二は言った。
 騙されたくはなかった。
「勿論、遣るよ。ただ、これはマスターには内緒にして置いてくれよ」
 マスターの不興を買うのを怖れる様に北川は言った。
「うん」
 修二は言った。
 自身としてもマスターに知られたくはなかった。
 総てを秘密裏に行いたかった。
 
 北川は、相手を殺すまで遣らなくてもいい、と言った。
「殺すとかえって面倒な事になる。ただ、なんとしてでも傷め付けてやりてえんだ。そっでなければ気が収まらねえからなあ」
 修二の仕事が休みの水曜日、夜八時過ぎに北川が運転する車で現場の下見に行った。




            ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




             takeziisam様


              今回も楽しく拝見させて戴きました
             笑いあり 美しさあり 懐かしさあり
             九重山の思い出 良い思い出ですね それにしても
             忙しいと言いながらあちこち 随分 足を運んでいらっしゃる
             充実したこれまでの人生だったのではないでしょうか
             お互い もう無理の利かない年代 思い出の中に生きるより
             仕方がありませんね どうぞ これからもお身体に気を付けて下さい
             このブログが何時までも続く事を願っております
              坊がつる讃歌 なんだか元歌の方に心惹かれました
             歌っている方がどんな方か分かりませんが 哀愁を帯びた
             良い歌い方だと思いながら聴いていました 声も良いですね
             以前 フォレスタの歌で聞いた時もこの歌の良さを再認識しましたが         
             その時の感情が蘇りました
              民謡 南部牛追い唄 秋田音頭 わたくしの母が民謡が好きで
             ある流派の名取りになったぐらいです ですから民謡を訪ねてーーNHK番組など
             一緒によく聞きました 
             母はいろいろな大会に出場して数々の優勝トロフィーを持っています
             今もわが家の三段の棚に飾ってあります 
             元NHK会長だった春日由三氏の名前の入った賞状もあります
             ブログにある牛追い歌は原曲ですね 一般的に歌われるのは少し節回しが
             違う所があます これと九州の 刈り干し切り唄
             わたくしの好きな民謡です
              秋田音頭 日劇にミュウジックホールがあった頃
             そこで若いダンサーたちがこの歌を唄った事をふと思い出しました
             若いヌードダンサー達と民謡 そのアンバランスの面白さ
             聴きながら思い出しました
              イノシシよ そこまで遣るか !
             遣り過ぎだぞ 思わず笑いながら拝見しました
             当事者としては笑い事ではないよ と言いたいところですね
             いろいろ楽しく拝見させて戴きました
              有難う御座います




























   

遺す言葉(497) 小説 希望(21) 他 人生の時

2024-05-12 12:00:34 | 小説

             人生の時(2024.5.4日作)


 
 日々 日毎 かつて眼に 耳に 馴染んだ
 あの人 この人の 訃報が報じられる
 今日この頃 自身の島の
 削り取られて行くかの如き 寂しさ 心細さ
 日々 日毎 過ぎて行く時間 人生の時
 眼前に広がり 見えて来るものは
 深い谷間 死の断崖
 今の時を彩る色彩は 最早 無い
 時を彩る色彩は 無い
 それならせめて
 自身の豊かに生きたあの頃 
 若かりし頃の思い出
 懐かしく 彩り豊かだった日々の
 思い出を胸に その
 思い出と共に 日々 日毎
 削り取られて行く 人生の時
 今という時の糧として 今は唯
 思い出の中に生きて行く 
 思い出のみを抱き締め 見詰めて 日々 日毎
 失われて行く色彩の中 この人生の時を染め
 生きて行こう




             ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




              希望(21)





「それはまた、別に相談するよ」
 北川は言った。
 修二はだが、その時には、ふと湧き上がった怒りの感情に対する冷静さを取り戻していた。
「とにかく、俺はそんな事したくないよ。何かあって店に迷惑を掛けたりしたくないから」
 と、きっぱりとした口調で言った。
 頭に浮かんだのはやはりマスターの存在だった。
 日頃、穏やかに暮らしてゆけるのもマスターの心遣いがあるからだーー感謝の思いが修二の心には根強くあった。
 そのマスターに迷惑だけは掛けたくなかった。
 北川は修二の言葉を聞くと、微かな期待が裏切られたかの様に苛立ちを滲ませて荒い口調で言った。
「チェッ、お前(め)えも話しが分かんねえなあ。俺達はクロちゃんがあんな事になったんで、仕返(けえ)しをして遣りてえんだよお。奴等のボスをなんとしてでも痛め付けてやんねえ事には気が収まらねえんだ。お前えにもその気持ちは分かんだろう」
 無論、その気持ちの分からない事は無かった。それでも修二は静かに、
「でも、おれはチームに入ってないし」
 と言った。
「だけっど、クロちゃんは知ってんだろうよ。クロちゃんのお袋さんが可哀そうだと思わねえのか」
 責める様に北川は言った。
 何んで、お袋さんまで持ち出さなければならないんだ、修二はそう思いながらも黙っていた。
「俺達もいろいろ、チームの連中に当たってんだけっど、これはと思う奴等はみんな面(つら)を知られちゃってんだよ。その点、お前えなら面(めん)も割れてねえし、考(かんげ)えて置いて貰いてえんだよ」
 北川は言った。
 その夜はそれで話しは終わった。
 北川が切る前に修二は受話器を置いた。
 あい奴の遣り方は何時も強引だ、と腹を立てていた。
 階段を上がって部屋へ戻ると、風呂へ行くのも面倒臭くなって隅にある布団を引っ張り出して広げた。
 パジャマに着替えると、そのまま布団の上に転がった
 裸雑誌を開いて見る気にもなれないままに天井を見詰めていると、クロちゃんのお袋さんが可哀想だと思わねえか、と言った北川の言葉が思い出された。
 クロさんは病気で痩せ細ったお袋さんの事を思いながら、死んでいったんだろうかーー 。
 口が重く、髪をモヒカン刈りにして一見、近寄り難い感じのクロちゃんだったが、修二の心の中では奇妙に懐かしく思い出された。
 たった二言三言、言葉を交わしただけで、じゃあな、有難う、と言ってオートバイの音と共に夜の中に消えて行ったクロちゃんの姿が郷愁を誘った。
「あのお袋さんはどうしているんだろう・・・」
 修二は口に出して言った。
 誰かが面倒をみているのだろうか ?
 だが、修二が心配しても始まらない事だった。
 自分が生きる事だけで修二には精一杯だった。

 北川は一週間が過ぎても何も言って来なかった。
 女将さんの嫌がらせは相変わらず続いていた。
  それでも以前程、露骨ではなくなった。
 時折り、修二の腕や脇腹をつねったりして修二を驚かせた。
 鈴ちゃんはそれを眼にして笑いを堪え、修二に流し目を送った。
 修二は腹を立てて鈴ちゃんを睨み返した。
 女将さんが再び、修二の部屋を訪ねて来たのは、そうした日々の中での夜の事だった。
「修ちゃん、修ちゃん」
 表通りから呼ぶ声がした。
 修二が女将さんの声だと気付いて二階の窓から顔を出すと、
「開けて入るわよ」
 と女将さんは言った。
「何か用ですか」
 返事をしながら修二は嫌悪感に捉われた。
 何しに来やがったんだ !
 女将さんを受け入れる気持ちは無かった。
 修二が顔を引っ込め、窓を閉めると鎧戸の引き上げられる音がした。
 修二は部屋を出て階段の上に立った。
 女将さんの姿が下に見えた。
 女将さんはすぐに階段を上がって来た。
 この前と同じ様に薄化粧をしていた。
 身体に密着した薄い桜色のセーターを着ていて、黒いタイトスカートを穿いていた。
 胸の隆起がセーターを膨らませているのが修二の視線を戸惑わせた。
 その隆起が嫌がらせと共に自分の身体に押し付けられた時の感触が蘇った。
 女将さんは何かの入ったスーパーマーケットの青いビニール袋を手にしていた。
 階段を上がって来て修二の前に立つと、
「長野県に居るお友達がリンゴを送って来てくれたから、持って来て上げたのよ」
 女将さんは言って、袋の中を見せ、そのまま部屋へ入った。
 日頃の不機嫌さを感じさせない打ち解けた口調だった。
 修二は女将さんの突然の変身に戸惑った。
「何をぼんやり立ってるのよ。これ、四個あるから食べなさい」
 女将さんはまだ廊下に立っていた修二に言って袋を差し出した。
 修二はようやく部屋へ入って戸惑いながら「すいません」と言って受け取った。
「バカ、何をうろうろしてんのよ。もう、あんたなんか口説かないから心配しなくたって大丈夫よ」
 女将さんは笑いながら言った。
 修二は黙ったまま小さく頭を下げた。
「どお ? 何か、一人で困った事は無い。もし、有ったら言いなさい。遣って上げるから」
 部屋の中を見廻しながら女将さんは言った。
「はい」
 修二は短く答えた。
「相変わらず、あんな雑誌を見てるんでしょう」
 女将さんは散らかった雑誌に眼を移しながら、なんとなく媚びを含んだ様な眼差しで修二を見詰めて言った。
 修二は顔を赤くして黙っていた。
「全く、融通が利かないんだから」
 柔らかな甘さを含んだ口調で女将さんは言った。
「心配しなくたって大丈夫なのに」
 修二は改めて女将さんが迫って来る様な気がしてなんとなく身を引いた。
 女将さんはそんな修二に気付いて、
「修ちゃんって、臆病なのね」
 と、笑みを含んだ声で言ったが、その顔がなんとなく引き攣っている様にも見えた。
 修二は黙ったまま俯いていた。
 女将さんはそれで気持ちを切り替えた様に、
「わたしはもう帰るけど、悪戯なんかしていないで早く寝なさい」
 と、言って、何事も無いかの様に部屋を出るとそのまま階段を降りて行った。
 修二は鎧戸の降りる音がして、女将さんが帰ったと知ると猛烈な腹立たしさに捉われた。
 なんとなく、自分が弄ばれている様な気がして来て女将さんへの新たな腹立たしさを覚えた。
「何が、リンゴを持って来てやったなんだ ! クソ婆が」
 怒りに捉われたまま女将さんが持って来たリンゴを袋ごと、傍にあった汚れた紙屑などの入ったごみ箱に投げ込んだ。
 翌日、女将さんは人が変わった様に修二に優しかった。
「おはよう、修ちゃん」
 と言った挨拶の言葉にも棘は無くて柔らかかった。
 修二はだが、そんな女将さんの変身にまた、嫌な思いを抱いて気持ちが落ち着かなかった。
 鈴ちゃんは女将さんの変身には逸早く気付いていた。
「この頃、女将さん随分、修ちゃんに優しいね」
 と、数日後にはからかい半分の冗談を言った。
「知らないよ、そんな事」
 修二はムキになって言い返した。
「女将さんと出来たの  ?」
「知らないってば ! 煩いな」
 修二は言った。
「そうやって怒るところを見ると、かえって怪しいわよ」 
 鈴ちゃんは相変わらずからかい半分で言った。
「チェッ、何んにもある訳ないだろう.色気違い !」 
 修二は捨て台詞を残して鈴ちゃんの傍を離れた。

 修二の予感は的中した。
 女将さんは何かに付け、頻繁に修二の生活に係わって来た。
 頻りに果物や菓子などを差し入れてくれた。
 時には下着のシャツなどを買って来てくれたりした。
 修二に掛ける声からも以前のとげとげしさが無くなっていた。
 修二は必然的に鈴ちゃんの眼を気にしないではいられなかった。
 なんと言って揶揄われるか分からない。
 自分にその気が無いのに揶揄われるのは割に合わない気がした。
 修二には、一日の内に自分一人で気ままに過ごせる夜の時間さえあればそれで良かった。
 生身の女など必要なかった。
 人間の持つ煩わしさだけが修二には思われた。
 雑誌に見る裸の女達は何時も修二に優しかった。
 修二が見詰めれば何時も優しい微笑みを返してくれた。
 彼女達が修二の心を傷付ける事はなかった。
 修二を蔑み、嘲(あざけ)り笑う者もなかった。
 夜毎、修二は好みの女達と心のままに遊ぶ事が出来た。
 時として修二は、あまりに執拗に思える女将さんの親切に、「いい加減にしてくれ !」と叫びたくなる事もあった。
 それでもさすがにその言葉は口に出来ずに、不満の表情だけが顔に現れたりした。すると女将さんは、
「何よ、人がせっかく親切にして遣っているのに、少しも嬉しくないみたいね」
 と腹立たし気に言った。
 修二に取ってはだが、女将さんのその親切が迷惑だった。
 第一に鈴ちゃんの眼が気になったし、自ずとマスターの眼も意識せずにはいられなかった。
 マスターは依然として、修二が此処に来た時のままに親切で優しかった。
 それでも鈴ちゃんの眼に付く事が、マスターの眼に届かないはずが無いと思うと気持ちは休まらなかった。
 何時だったか、鈴ちゃんが言った様にマスターはやっぱり身体が駄目で、それで女将さんの行動を知っていても、眼をつつぶっているのだろうか、と思ったりした。


            六


 クロちゃんの四十九日の翌日、北川が久し振りに<味楽亭>に顔を見せた。





             ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




               takeziisan様



                有難う御座います
               チングルマ 羽毛状 初めて見ました
               紅葉も美しい チガヤは懐かしいですね
                カロライナジャスミン 初めて知りました
               花付きの様子がハゴロモジャスミンと同じです
               その白い花も今では茶色に・・・中に残る数少ない花が
               それでも未だに強い香りを放っています
               また一つの季節が過ぎた そんな感覚です
                栴檀の花は子供の頃を蘇らせてくれます
               門の所の二本の栴檀がいっぱいに花を付け
               実を稔らせた事を思い出します
               冬になるとシギが来て甲高い声で鳴きながら
               黄色くなった実を啄んでいました 懐かしい思い出です
                キジ 来ましたね なんだかこれも奇妙に懐かしい気持ちで拝見しました
               美しい鳥です 国鳥ですよね 訳もなく不思議に誇らしい気分になります
               やはり その美しさのせいでしょうか
                蕗 我が家でも収穫 手間を掛けて煮ました
               昨年も 書いたと思いますが わたくしはこの葉が好きです ちょっと苦みがあって               
               みんなは嫌いますが
               タマネギ 小松菜 今年は高い ! 全般に野菜が高いです
               大腸ガン経験者として日頃 多くの野菜を採るようにしていますので
               二倍にも近い値上がりは年金生活者には思わぬ負担です
               それなりの労力を必要とするとはいえ 気ままに新鮮な作物を収穫出来る
               生活を羨ましく思います
                今回も美しい花々 春爛漫の気分です
               有難う御座いました        





遺す言葉(496) 小説 希望(20) 他 惑わされるな

2024-05-05 11:47:35 | 小説
             惑わされる(2024.4.29日作)


 虚名に惑わされるな
 この人間社会 人の世は 日々
 名も知れない隠れた場所でそれぞれが
 それぞれの道に於いて 地道に 真摯な作業を続け
 より良いもの 今より更に良いもの と
 たゆまぬ努力を続けている 平生
 人の眼に触れる事の無い場所で生きる人々の
 たゆまぬ努力によって 形成 形造られている
 農業 漁業 林業 工業 商業 運輸 建設 事務
 あの職業 この職種 そこに携わる名も知れぬ
 数多くの人々 その人達が積み上げ 積み重ね
 築いて来た人間社会 日常 この世界
 日頃 ペラペラ ペラペラ 自慢気に喋る事は無い
 寡黙 質実 堅固 揺らぎのない人々
 虚名に惑わされるな お喋り好きな人間達
 如何にも物知り顔 得々としてこの世を語り 社会を語り
 世界を展望して見せる物知り顔の知識人 ? 
 言葉だけの人間達 実行力の伴わない顔を売るだけ
 そんな人間達の 虚名に惑わされるな
 その者達への過大な評価 価値付けで 人の道
 真の 人としての道を歩む 日々 日頃 人の眼に触れる事の無い 
 隠れた場所で 自身の道を真摯に生きる その人達の
 立派な姿 尊い姿を見誤り 見落とすな
 人の価値 人の値打ちは 著名 無名 それだけでは計れない
 実行力 実践力 その人 一人が何を為し 何を成し得たか
 人の値打ち 人の価値は総て そこに集約される




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               希望(20)



 

 修二はその依頼まで断る事が出来なくて、すぐに押し入れに行って鞄からナイフを取り出した。 
 ずしりとした重みが久し振りに見るナイフに手応えを与えた。
 マスターの店で働くのと共に忘れていた感触だった。
 穏やかな満ち足りた日常の中では必要とする事の無いものだった。
 それが無くても済む日が続いていた。
 母親が来た時も、高木ナナに裏切られた時も、怒りや苦悩、哀しみに捉われる事はあっても、日常の生活がそれで脅かされる事は無かった。ナイフに必要性を感じる事も無かったのだ。
 北川は修二が手にしたナイフを受け取ると得意気に、掌の上で二、三度小さく弾ませた。
「いいナイフだろう」
 さも自慢気に自分の持ち物でもあるかの様に仲間達に言った。
「格好良いナイフだなあ !」
 小柄な男が言った。
「飛び出しなんだ」
 北川はボタンを押した。
 小さく鋭い、乾いた音を立てて瞬時に刃(やいば)が飛び出した。
「おう、凄えや !」
 男達の誰もが言った。
「これを借りていって、俺達で遣るか ?」
 北川が言った。
「いや、俺達じゃ拙いよ。面(めん)が割れちゃってるから」
 頬に傷のある男が否定的な面持ちと共に言った。
「扮装して行くんだよ」
 北川が言った。
「いやぁ・・・・」
 頬に傷のある男は気乗りのしない様子で言った。
「誰か、面の割れてねえ下っ端に遣らせたらどうだ ?」
 頭を丸刈りにした瘦せ型の男が言った。
「腹の座った奴が居ればいいけどなあ」
 北川が言った。
「一人ぐれえは居っだろう」
 丸刈りの男が言った。
「どうかなあ」
 鳥越が言った。
「口の堅え奴じゃねえと拙いよ。ペラペラ喋られたんじゃあ、目も当てられねえかんなあ」
 小柄な男が言った。
「そうだよ」
 鳥越が言った。
 修二は黙って聞いていた。
 自分には一切関係ない、他人事に思えた。
 ナイフの刃を収めると北川は修二にナイフを返した。
 男達はそれから一時間程、あれこれ話し合って結論の出ないままに帰って行った。
 北川は帰り際、修二の肩に手を置いて、
「な、修二、考えておいてくれよ。お前(め)えなら度胸も据わってるし、動きも速えからよう」
 と、如何にも親し気にまた言った。
 修二は返事をしなかった。
 男達が帰った後、修二は畳の上に寝転がった。
 頭の下に両手を組んで天井を見詰めたまま、
「チェッ、バカにしてやがる。人をなんだと思ってやがんだ  ! 手めえ達の道具じゃねえや」
 腹立たしさと共に声に出して言っていた。
  一日のうちの最も大切な自分一人の時間を台無しにされた事への怒りと共に、その依頼の話しにもならない愚劣さにも怒っていた。
 店の電話が鳴ったのは翌々日の夜だった。
 階段を駆け下りて行って受話器を取ると北川だった。
「どうだい、考えておいてくれたか」
 北川は馴れ馴れしい口調で穏やかに言った。
 修二は北川だと分かると途端に腹立たしさに捉われた。
 うっせえ 野郎だ !
 思わず口の中で呟いていた。
 それでも、極力、感情を抑えた声で、
「いや、駄目だよ。考えるも考えないも無いよ。そんな事、俺、出来ないよ」
 と、きっぱりと言った。
 北川は再び、修二を諭す様に、
「大丈夫たよ。お前えには一切、迷惑は掛けねえから。この前えも言った様に段取りは俺達がやっからさあ」
 と言った。
「でも、駄目だよ。もしもの事があって、店に迷惑を掛けてもいけなから」
 修二は言った。
 咄嗟に思い付いた本音だった。
 その思いと共にそのまま電話を切ってしまいたかった。
 北川はその前に言った。
「俺達も他の人間に当たってんだけっど、やっぱり、根性のあるいい奴がいねえんだよ。そっで、お前えに頼みてえんだ」
「俺だって、根性なんか無いよ」
 反発心と共に修二は言った。
「そんな事ねえってば ! 俺は<金正>の店先でちゃんと見てんだから」
 北川は言った
 北川が唯一の自分の弱点にに踏み込んで来た、と修二は思って一層の腹立たしさに捉われた。
 同時にもし、あの時の事を警察に喋られたら、と考えると焦りも覚えた。
 <金正>の店の者には顔も見られている・・・・・
 新たな恐怖が修二の胸の中を走り抜けた。
「今更、お前えがナイフをかっ払ったなんて警察に垂れ込む心算りはねえけっど、もう一回よく考げえてみてくれよ。この前(めえ)言った様に礼はすっからさあ」
 北川は言った。
 北川が最後の切り札を出して来た、という思いと共に修二は、湧き上がる怒りのままに強い口調で言っていた。
「じゃあ、幾らくれる ?」
 北川の小ずるい遣り方に対する反発の思いがあった。




             ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




               桂蓮様


               久し振りの御作品 何か懐かしい思いで拝見しました
              お身体の不調 無理をなさいません様にして下さい
               笑顔 面白いですね 笑顔の綺麗な人 醜い人
              笑顔の美醜はその人の持って生まれた天性のものだという気がします
              テレビ等でも笑顔の美しいアナウンサー そうでないアナウンサー
              様々です
              作った笑顔は見ていても何か 人に媚びて居るに様に見えて来て下品な感じです
              気持ちの良いものではありません
              美しい笑顔 矢張りその人の人柄 人格が表れるのではないでしょうか
               前回戴いたコメント 失礼だ とは思っていません
              唯 わたくしはこのブログに発表する文章は自分自身の思考の跡を記録して置きたい
              という思いでのみ書いているもので 他人様を教育 説教しようなどという気持ちは
              全くありません その為 週一回の発表に於いても
              スタッフの方々にお手を煩わせる事をお願いしても          
              お眼をお通し戴く方々への配慮は全くしていません
              故に退屈な文章になるとは思いますがお読み戴く方々を意識する事はありません
              そんな中 何時もお眼をお通し戴く事に感謝申し上げます
               お二人でランチ 小さな公園と流れ なんと素敵な風景ではないですか
              お幸せそうな御様子が眼に浮かびます どうぞ これからも良い人生の時を
              お過ごし下さい こちらは今 春本番真っ盛り花々の一番美しい季節です
              一年の中でも最も至福に満ちた季節だと思います
               退屈な物語 お読み戴き有難う御座います
              今回は短編(ショートストーリー)ではなく 長編(ノベル)になると思います
              完結までには少し時間が掛かる予定です
               コメント 有難う御座いました
              何時も有難う御座います



      

               takeziisan様


                溢れる花の季節 少し歩けばあちこちに咲き誇る
               様々な花 ブログ画面で拝見する様々な花を見ていると 
               それが現実でもあるかのように身に迫って来ます         
               折りしもハゴロモジャスミンが茶色の色彩を
               濃くしながらも最後の強烈な香りを家中いっぱいに満たしている中
               画面上の鮮やかな花々を拝見していますと それが匂っているかの様な錯覚に捉われます
               何時も楽しく拝見しております
                ニッコウキスゲー―禅庭花 初めて知りました
               尾瀬沼のニッコウキスゲ 一度は身を置いてみたいと思う風景ですが
               多分 もう行く機会は無いでしょう お子様との思い出
               いい思い出ですね
                垂れ下がった鯉のぼり 揺れる事もなく これはこれでまた可笑しく 面白く
               見事な風景ですね
                登山 今朝のニュースで遭難者の多い事を報じていました
               こういう所で足を滑らすのかなあ と思いながら画面を拝見していました
                イノシシとの奮戦記 失礼ですがイノシシにも頑張れ と
                声援を送りたい気持ちになります
                短いながら楽しい記事です
                何時も笑いと共に拝見しています
                それにしても土の状態が良くないですね
                こちらで眼にする畑の土の状態とは段違いに見えます
                この地方は恵まれているのかなあ などと思ったりしています
                 何時も楽しい記事 有難う御座います
                詰まらない文章にお眼をお通し戴く事と共に 御礼申し上げます







遺す言葉(495) 小説 希望(19) 他 禅の言葉 ほか

2024-04-28 12:08:04 | 小説
            幸せと辛い(2024.4.18日作)


 
   辛い という字は
   幸せ という字に
    一本足りない
   今が辛いのは 自分に何か一つ
   足りないからだ
   今の自分に後一つ 何かを一つ
   自分 独自のもの 一つを見付け
   加える そうすれば きっと
   辛い今も 幸せな今に
   変わるだろう



              禅の言葉           
            有るけど無い
 
   
   読書をするな
   考えろ
   考えるな
   行動しろ
   行動するな
   考えろ
   考えるな
   読書しろ
  



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              希望(19)



 
 祭壇の傍には親族が並んでいた。
 少ない親族の中でお袋さんらしい人はすぐに分かった。
 骨と皮ばかりと言ったふうに瘦せていて、まだ若いはずたったが七十歳にも近い年寄りに見えた。
 修二が焼香を済ませてマスターの車に戻ると北川が来ていた。
「チームの連中はみんな来るのか ?」
 マスターが聞いた。
「ええ、主だった連中はみんな来ますよ。サブ(副)がみんなに知らせて置いたから。ーーお袋さん居ましたか ?」
 北川が気懸りな様子でマスターに聞いた。
「お袋って言うのは知んねえけど、痩せた人が居たよ。ずっと泣きっ放しだった」
「お袋さんの顔を見るのが辛いですよ」
 北川は心底、辛そうに言った。
 翌日、クロちゃんの告別式が行われた。
 修二は<告別式 午前十一時より、午後十二時半まで>と書かれた看板を思い出しながらだんだん忙しくなる店の中で働いていた。
 たった一回、ほんの二言三言、言葉を交わしただけのクロちゃんの死が何故、こんなに心に絡んで来るのか不思議な気がした。
 ずっと泣き続けていて、息をするのも苦しそうに見えたお袋さんの姿が頭から離れなかった。
 クロさんは、あのお袋さんの事を心配しながら死んでいったんだろうか ?
 一瞬の出来事で、何も考える暇も無かったんだろうか・・・・ ?
 北川は告別式が済んだ翌日、午後十時過ぎにマスターの店に来た。
「昨日、警察が俺の所へ来ましたよ」
 疲れ切った顔でぼそりと言った。
「なんだって ?」
「いろいろ聞かれたけど、俺達の走りには関係ねえんで、そのまま帰って行ったですよ」
 北川にはクロちゃんの死が相当な痛手だったらしかった。
 クロちゃんが居なくなって<ブラックキャッツ>に対抗出来るだろうか ?
 不安そうだった。ほとんど無駄口を利かずにしきりにビールを呑んでは、思い出した様にイカの燻製を口に運んでいた。
 北川が午前零時過ぎに<味楽亭>の鎧戸を叩いたのは五日後だった。
 自分の名前を呼ぶ声に修二が二階の雨戸を開けて下を見ると北川が居た。
「開けてくれよ」
 修二の姿を見て北川が言った。
「なんか、用 ?」
 修二は、うるせえ奴だ、と思いながら聞いた。
 クロちゃんに抱いた親近感とは反対に何故か、北川には素直に溶け込めない思いがあった。
 修二が下へ降りて行き、鎧戸を開けると四人の男達が建物の陰に身を隠す様にして立っていた。
「ちょっと、部屋を貸してくれよ」
 北川が言った。
「部屋 ? 何すんの ?」
 不満を押し殺した声で修二は言った。
「相談してえ事があんだ、好いだろう ?」
 北川は何故か、厳しい口調で言った。
「別に構わないけど・・・・」
 不満を押し殺したまま修二は言った。
 四人の男達はその間にも早くも店の中に入っていた。
 北川は最後に入ると、
「シャッターを降ろしちゃってくれよ。人に見られると拙いんだ」
 と言った。
  修二は言われるままにシャッターを降ろした。
 男達は修二に構わず二階へ上がった。
 クロちゃんが来た時にも顔を見せた連中だった。
 部屋へ入ると男達は勝手知った様子で思い思いの場所に座った。
 誰もが無言だった。
 表情には緊張感が漂っていた。
 一番遅れて修二が部屋へ入ると北川がドアを閉めた。
「ちょっと、座ってくんねえか」
 北川が修二に言った。
「・・・なんか、用 ?」
 修二は立ったまま言った。
 男達の様子に警戒感を募らせた。
「実は、おめえに頼みてえ事があんだ」
 北川は立ったままでいる修二を見上げて言った。
 修二は無言でいたが少しの間を置いて、
「何を ?」
 と聞いた。
「おめえ、前に<金正>で盗んだナイフ、まだ持ってんだろう」
 修二の眼を見詰めて北川は言った。
「持ってるよ」
 修二は答えた。
「あのナイフ、使った事があんのか ?」
  穏やかな口調で北川は言った。
「いや、無いよ」
 質問自体が不満な様子で修二は答えた。
「使ってみてえと思わねえか ?」
 北川の眼差しが一瞬、厳しくなった。
「別に・・・・」
 嫌な予感を覚えながら修二は呟く様に言った。
「実はよう、おめえに頼みてえってのはよお」
 修二を見詰める北川の眼差しが一段と厳しくなっていた。
 その口調から修二は、ナイフを貸してくれと言うのかと思った。
「何 ?」
 とだけ短く答えた。
「他でもねんだけどよ、ある人間を傷め付けて貰いてえんだ」
「傷め付ける ?」
 修二は思わず聞き返した。
「うん」
 北川は厳しい表情のまま頷いた。
「俺が ?」
 修二は驚きと共に言った。
「うん」
 北川は修二の眼を見詰めてまた言った。
「駄目だよ、そんな事、出来る訳ないよ」
 思わず声を荒らげて言っていた。
 冗談もいい加減にしてくれ、という思いだった。
 北川はだが、真剣だった。眼差しが更に熱を帯びていた。
 他の男達は黙ったまま修二と北川の様子を見守っていた。
「俺達、クロちゃんの仕返(しけえ)しをしてえんだ。クロちゃんが死んで、このままにし置くと奴等ますますのさばって来やがっから、その前(めえ)に一度、こっぴどく傷め付けてやりてえんだよ」
「でも、駄目だよ。そんな事、出来ないよ」
 修二は断定的口調で言った。
「俺達も此処へ来る前にいろいろ考えたんだよ。だけっど、俺達はみんな警察にも相手の奴等にも面(めん)が割れてるんで、思うように動けねえんだよ。その点、おめえなら誰にも知られてねえし、遣り易いんじゃねえかと思って頼むんだ」
 北川は言った。
「でも、駄目だよ。他の事なら兎も角、そんな事出来ないよ」
 修二は言った。
「おめえに手間は掛けねえよ。段取りは一切、俺達でやっからさ、おめえはただ、ナイフを使ってくれさえすればいいんだ。おめえなら、度胸も据わってるし、動きも速えんで敢えて頼むんだよ。俺はおめえが<金正>でナイフを盗んた時の動きを見てるんで、そっで、みんなと相談したんだ」
「でも、駄目だよ」
 修二は呟く様に言った。
「兎に角、俺達にしてみれば、このままクロちゃんが遣られっ放しで放って置く訳にもいかねえんだ。それじゃあ、クロちゃんにも済まねえからよお」
 今まで黙っていた鳥越という男が初めて口を開いた。
「もし遣ってくれるんなら、それなりの礼はするよ」
 北川が言った。
 修二は黙っていた。
 疲れ切った思いだった。
「今すぐでなくていいからさ、二、三日考えてみてくんねえか。返事はまた聞きに来るよ」
 北川は言った。
 修二はやはり黙っていた。
 話しはそれで終わった。
 北川は一区切り付ける様に修二を見詰めて穏やかな口調で言った。
「ちょっと、ナイフを見せてくんねえか」
 そう言ってから仲間達の方を見て、
「凄えナイフなんだ」
 如何にも自慢気に言った。





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              takeziisan様
            

               チム チム チェリー 思い出します 懐かしいですね
              ほのぼのとした思いで聞いた当時が蘇ります
               ビリー ヴォーン どれも良い曲です 若さに任せて
               繁華街の夜を彷徨い歩いていた当時が思い出されます
              それにしても 最近はこのように心に沁みる曲が聞かれません
              最も 普段 テレビを観ないせいかも知れませんが
              スイッチを入れれば下らない戯れ番組ばかりで観る気にもなれません
               アマリリス全開 我が家ではクンシラン全開です
              落ちた種をそのままにして置いた場所からまた芽が吹き
              何時の間にか幾つもの花の群れが出来て見事に咲き誇っています
              この季節の至福です
               ハゴロモジャスミンも今週は全開になり むせる様な甘い香りを放っています
              桜も若葉になっていよいよ春本番です
               イノシシ 相変わらず笑ってしまいます
              知恵比べ記事を拝見していて楽しくなります
               キヌサヤ 新鮮さがじか伝わって来ます 食味の良さがしのばれます
               川柳 実感出来るのは世代のせいだからでしょうか
              何時も楽しく拝見しています
               星取表 是非 頑張って下さい わたくしも
              身体は動かさなければ衰えるばかりだ と
              自分に言い聞かせ 毎朝の体操に励んでます
              お陰様で薬の厄介にもならず 至って元気な毎日を過ごしていますが
              年齢的衰えは如何ともしようがありません
              数年前を思い 日々 老化現象を実感する毎日です
              どうぞ 頑張って下さい 使わない肉体 頭脳は衰えるばかりです
               何時も有難う御座います









遺す言葉(494) 小説 希望(18) 他 死刑とその執行者

2024-04-21 12:00:45 | 小説
            死刑とその執行者(2024.4.12日作)



 死刑は犯罪被害者の立場からは
 もし その犯罪が現実社会の規範 規則に照らして
 正当なものである限り 実行されて然るべきもの
 犯罪被害者の被害に相当し得る刑罰を
 犯罪加害者に要求するのは 被害者としての
 当然の権利
 
 しかし 
 その刑を執行し得るのは 誰だろう

 人間社会が人と人との繫がり
 人の輪の上に成り立つものなら 人の手で
 人の命を奪う死刑 その刑を実行する時
 死刑執行者が犯罪加害者と完全 絶対的に
 無縁であると言えるだろうか ?

 一見
 遠く離れた場所に居る人間は
 引き起こされた犯罪とは無縁に見える
 遠く離れた場所に居る人間には
 直接的に犯罪加害者に関わる事は出来ない
 犯罪加害者が引き起こした犯罪には
 手の施しようもなく 防止のしようも無い

 故に
 犯罪を引き起こした犯罪加害者との関り
 その責任を 遠く離れた場所に居る人間に
 問う事は出来ない

 至極 正当な意見であり
 正しい見方と言える

 だが 世上 引き起こされるあらゆる出来事は常に
 反面の見方 異なる角度からの検証も
 可能になる

 人間社会が 人と人との繫がり
 人の輪の上に成り立つものと捉える時に
 死刑を執行する人間もまた
 人と人との繫がり 人との繫がり 人の輪の中に生きる
 一人の人間であり その立場から
 犯罪に対する間接的責任の皆無と言えるのか ?
 
 人と人との繫がり 人の輪が連綿と続いて この世界
 人の世を形成する限りに於いて
 繋いだ人の手の温もりは 何時か
 遠く離れた場所に居る誰かに伝わる
 犯罪加害者が かの地で繋ぐ手の温もりは 巡り巡って
 遠く離れた この地に居る 死刑執行者の手に伝わり
 届いて来る

 同じ人間同士 人と人との繫がり
 人の輪の中に生きる犯罪加害者と死刑執行者
 その死刑執行者が正義の名の下
 犯罪加害者の罪を断罪し 死刑を執行する事は
 執行者自らが 
 自身の行為に唾する行為にならないか ?
 
 同じ人の輪の中で手を繋ぐ人間同士
 一人の罪は万人の罪
 人と人との繫がり 繋いだ手と手の温もり
 その温もりを伝え合う人の輪 その輪は
 総ての行為は自身の身に舞い戻り
 降り掛かって来る事を 人 一人一人の心に
 問い掛けてはいないだろうか ?

 では 死刑に相当する犯罪者の罪は ?
 死刑に値する犯罪者に対する刑罰は ?
 永久的無期懲役
 死刑に値する罪を犯した犯罪者は生涯
 自身の生を生きる事は許されない 被害者とその家族への弁済
 終身的永久奉仕を続ける 続けなければならない
 犯罪者自身の生を生きる事は許されない
 被害者とその家族への絶対的従属 奉仕 生涯に渡って
 総ての行為を被害者とその家族に捧げ 自身の罪を償う
 自身の生への欲望 欲求は認められない
 犯罪被害者に代わり 被害者の生きたであろう生を生きる
 永久 永遠に嵌(は)められた足枷(あしかせ)
 恩赦は許されない
 ーー永久不変に許されない犯罪者自身の生
 永遠に嵌められた足枷
 死刑にも勝る過酷な刑とも言い得る





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               希望(18)





「マスター、昔はこの辺では有名な組の親分だったのよ。今では足を洗ってるけど、以前、出入りがあってその時に撃たれたんだって。それで生きるか死ぬかの境目をさ迷ったんだけど、良くなった時にはもう、男として駄目になっていて、組にも、不自由な身体で迷惑を掛けてはいけないからって、跡目も譲って引退したんだって」
 修二は息を呑んだ。
 マスターに対しては何か重い物を感じてはいたが、そこまでは考えが及ばなかった。
「女将さん、その事を知ってるの ?」 
 息を呑む思いのまま聞いた。
「知ってるわよ。その時はもう、一緒になっていたんだもん。マスターが刑務所に入ってる時には、女将さんがマスターの両親の面倒を看てたのよ。今でもマスターのお母さんが施設に入ってるんだけど、お店が休みの日には何時もお見舞いに行ってるんだよ」
「へーぇ。だけど、変な話しだなあ。普通なら女将さん、マスターを嫌って逃げ出したっておかしくないじゃないか。女将さん、マスターが怖いのかなあ」
「そうじゃないわよ。昔、女将さんの両親がマスターに世話になったのよ。詐欺に引っ掛かって困っている時、マスターが助けてあげたんだって。それで、女将さん、マスターに魅かれて高校を卒業するとすぐに結婚したんだけど、今ではこの店の名義は全部、女将さんのものになってんのよ。マスターが、自分には何時、何処でどんな事が起こるか分からないからって言って、そうしたんだって」
「鈴ちゃん、よくそんな事まで知ってるなあ」
 鈴ちゃんの訳知り顔を疑って修二は言った。
「だって、世間ではよく知られてる事だもん、みんなが知ってるわよ。それにわたし、前に居た子にもいろいろ聞いたしね。前に居た子は女将さんから聞いたんだって。だから、修ちゃんも女将さんを慰めて上げればいいのよ。女将さん、欲求不満で苛々してるんだから」
 鈴ちゃんは年増女の様な言い方をした。
「全く、しょうがねえなあ。下司の勘ぐりだよ、そんな事」
 修二は匙を投げる様に言ってその場を離れた。
 夜、十時に近かった。
 店内はようやく忙しい時間帯も過ぎてひと息入れる時刻だった。
 カウンター席に男の客が二人残っていた。
 北川が蒼ざめた顔で入って来た。
 悲愴感を漂わせていた。
「なんだ、どうしたんだ ?」
 カウンターの奥に居たマスターが目敏く見抜いて聞いた。
 北川はマスターの顔を見たが無言だった。
 二人の客とは離れた場所に行って隅の椅子に腰を下ろした。
 前掛け姿で腕組みをし、煙草を吹かしていたマスターはゆっくりと北川の前へ行くと、
「何か食うか ?」
 と聞いた。
「いや」
 北川は小さく首を振った。
 二人の客は店内の動きには無関心だった。
 一人の客はチャーハンを口に運びながらテレビを観ていた。
 あとの一人はスポーツ新聞に眼を落したままラーメンを口に運んでいた。
 北川は前に立ったマスターに視線を向けると、
「クロちゃんが事故っちゃったんですよ」
 と、悲痛な声で言った。
 マスターは驚きの表情も見せなかった。
 指の間で短くなった煙草を口に運びながら、
「死んだのか ?」
 と聞いた。
 静かな声だった。
 北川は黙って頷いた。
「何処で ?」
 相変わらず静かな声でマスターは聞いた。
「境川の向こうっ側ですよ。ブラックキャッツの連中に走路を邪魔されて、橋の欄干に激突してしまったみてえなんですよ」
「クロ一人で走ったのか ?」
「ええ、一人だったんですよ。お袋さんに用事を頼まれて、叔母さんの所へ行った帰(けえ)りだったらしいんだけど、奴らのエリアを走らねえと行けねえ所だったもんで・・・・。クロちゃんの顔は奴らには売れてるんで、偵察に来たとでも思ったんじゃねえですか。帰りに四、五台のオートバイが追っ掛けて来て、橋の近くへ来た時には横合いから乗用車が飛び出して来て、アッという間だったらしいんですよ。クロちゃんにその気があれば、四台や五台なんて目じゃねえんだけど、お袋さんに頼まれた用事があったもんで、相手にしなかったらしいんだけどねえ」
 北川は声を詰まらせた。
「何時、やったんだ ?」
「昨日の夕方らしい。今朝、工場に電話があって初めて知ったんだど・・・。クロちゃんのお袋さん、ショックで倒れちゃって、近所の人達が全部、クロちゃんの始末をしたらしい。チームのメンバの一人が近くなもんで、そいつが知らせて来たんですよ」
「どうするんだ、遣るのか ?」
 マスターは軽い世間話しの様に聞いた。
「勿論、遣らねえ訳にはいかねえですよ。このままにして置いたら、好い様にのさばられちゃうし、俺だって、頭(あたま)としてのメンツが立たねえですから」
「警察は動いてるんだろう ?」
「当然だと思いますよ。そのうち、俺の所へもなんとか言って来るんじゃねえですか」
「まあ、あんまり派手に遣らねえ方がいいさ」
 マスターは短くなった煙草を灰皿の中で揉み消しながら、諭すともない口調で静かに言った。
 裏の世界を知り尽くした人の重みのこもった口調だった。
「だけど、礼だけはしねえ訳にはいかねえから」
 北川は腹立ちを抑え切れない様子で言った。

 クロちゃんの通夜は翌日、午後六時から自宅で行われた。
 路地の奥の狭苦しい所に受付があって、中年の男性が二人、手持無沙汰な様子で椅子に座っていた。
 修二はマスターの車に乗せて貰って行った。 
「済いません、六時になったら少し時間を貰いたいんですけど。クロさんのお通夜に行って来ようと思うんで」
 食材の下ごしらえが終わって少しの暇が出来た時、修二はマスターに言った。
「おまえ、クロ知ってんのか ?」
 マスターは意外そうに聞いた。
「一度、みんなが俺の部屋へ来た時、会ってるもんだから」
「そうか。じゃあ、俺の車で一緒に行けよ。俺も行って、ちょっと線香を上げて来るから」
 クロちゃんは小さな祭壇で写真となって微笑んでいた。
 高校生ぐらいに見える写真の中のクロちゃんはまだ、修二が会った時の面影は無かった。素直な少年と言った感じだった。




            ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




           takeziisan様


            春爛漫 自然の豊かさ キジの声 イノシシ出現
           羨ましい環境です これでは散歩も飽きる事は無いのでは
           時折り 用事で出掛け 車で自然豊かな田園地帯を走る事がありますが
           何時も心が洗われる気がします
           都会の街の中で唯 家々の屋根を見て暮らすだけの生活
           味気ないものです
            それにしてもイノシシとの戦い この農作業記事には何時も
           笑いがこぼれ ほのぼのとした気分になります
           楽しいですね と言っては失礼かも知れませんが
           畑の真ん中にヤグルマギク ツツジの花の道            
           我が家では今 クンシランが花盛りそれぞれの株が色を競っています
            この季節の楽しみの一つです 手入れもせず放りっぱなしなのですが
           毎年 見事な花を咲かせてくれます
           この所の気温の上昇でハゴロモジャスミンもすっかり蕾を膨らませています
           あとに三日であの甘い香りを漂わせるのではと思っています
           数々の花の美しさ この季節の特権であり眼の保養です
           何時も楽しく拝見させて戴いております
            有難う御座います









 








遺す言葉(493) 小説 希望(17)  他 独裁者

2024-04-14 12:42:27 | 小説
            独裁者(2023.3.30日作)


 
 覇権国家に於いて 
 権力を振るい 君臨する独裁者
 自身の胸の裡に広がる
 欲望の海しか見る事の出来ない 哀れな人間としての 欠陥人間 
 彼等の眼には 人の命の貴重な事も 人権の尊さ 重さ
 平等な事も 映る事が無い 総てが
 自身の欲望に満ちた卑小な脳の世界で処理され
 それが正解と信じて疑わない 愚かな存在 
 独裁者




            ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





              希望(17)



 
 新聞配達のバイクの音は聞いていた。
 あとの記憶が無かった。
 表通りから店の鎧戸を叩く音が聞こえて来て眼が醒めた。
 雨戸の透き間から差し込む微かな光りに気付いて飛び起きた。
「修ちゃん、修ちゃん」
 鈴ちゃんの呼ぶ声が聞こえた。
 電灯を点けて時計を見ると間もなく九時になるところだった。
 服のままごろ寝をしていた。慌ててズボンをたくし上げて窓の傍へ行った。
 急いで雨戸を開け、外を見ると鈴ちゃんが見上げていた。
「今、すぐ開けるから」
 鈴ちゃんに向って言った。
「何よ、寝坊したの ? 早くしないとお店に間に合わないわよ」
 鈴ちゃんは修二を見上げて言った。
 修二は雨戸の残りを開け、部屋を出て階段を駆け下りた。
 鎧戸を開けると眼の前に鈴ちゃんが立っていた。
「バカねえ。寝坊したの ?」
 鈴ちゃんは咎めた。
 その日、マスターは何時もより二時間程遅れて店に来た。
 女将さんだけが独り、先に来ていた。
 これまでにも何度かこういう事があって、それがマスターの花札による徹夜のせいだったのだと初めて知った。
 女将さんは修二を無視したように言葉も掛けなかった。朝の挨拶もなかった。
 修二は終日、女将さんと視線を合わせないように気を使いながら、気まずい思いで過ごした。
 仕事が終わって一人になり、二階へ上がった時には頸木を解かれたような安堵感を覚えて思わず、大きな溜息と共に大の字になって畳の上に転がった。
 店は何時もと同じ様に忙しかった。それぞれがそれぞれに自分の持ち場を滞りなくこなしていたが、女将さんと修二の間に交わされる何気ない会話は一切なかった。
 マスターや鈴ちゃんがそれに気付いていたかどうかは分からなかった。
 それでも、明日の事を思うと気が重かった。
 今までの様な屈託のない気持ちで過ごせるかどうか分からなかった。
「ああ、やだ、やだ !」
 思わず声に出して言った。
 昨日までの何事も無かった穏やかな時間が、再び、夢の中の時間の様に思われて来て、生きている事の煩わしさを改めて覚えた。
 いっそ、此処を出てしまおうか ?
 そうも考えたが、仕事の当ても行く先の当てもなかった。
 二、三日は貯金を崩してなんとか凌げてもその先は・・・・・
 再度、女将さんの愚行への腹立たしさに捉われて怒りを滲ませた。
 翌日も修二は店に留まっていた。
 頭の中にはマスターへの思いがあった。
 マスターは古びた布製の肩掛け鞄一つを抱えただけの、何処の誰とも知れない修二を快く受け入れてくれて、常に優しく接してくれていた。
 マスターへの感謝の思いは修二の心の中では、言葉では言い表せない程に強かった。
 もし、黙って此処を出てしまえばそんなマスターの優しい気持ちと好意を裏切る事になる。
 修二には日頃見ているマスターの一人の男としての姿、立ち居振る舞いに無意識的に憧れている部分があった。
 マスターがどんな過去を持つ人なのか、修二は知らなかった。それでも、ふとした折りにマスターが見せる鋭い眼差しが、修二に畏怖にも近い気持ちを抱かせる事があって、その眼差しと共に、この街の悪(わる)達が一目置くマスターが、通常の世界を生きた人ではないらしいという事だけはなんとなく理解出来た。その影の部分がまた、修二のマスターへの憧れを増幅させていた。
 田舎の家に付いてはこの時になっても思い出す事はなかった。母親の要求などは、はなから受け入れる気持ちは無かったが、あの火事の夜以来、田舎の家は修二の気持ちの中では完全に無いものになっていた。父ちゃんも死んだ、婆ちゃんも死んだ‥‥田舎の家の思い出は完全に修二の気持ちの中では失われたものになっていた。

 修二がそれとなく怖れていた警察からの呼び出しはその後無かった。
 母親も陰で何をしているのかは分からなかったが、再び訪ねて来る事も無かった。
 女将さんの修二に対する不機嫌はなお続いていた。
 厳しい口調で用事を言い付ける以外に言葉を掛けて来る事は無かった。
「修ちゃん、あんた、女将さんと何があったの ?」
 ある朝、女将さんとマスターがまだ来ない時間に鈴ちゃんが聞いて来た。
「なんで ? なんにも無いよ」
 修二は不機嫌に答えた。
 一番、聞かれたくない事だった。
 鈴ちゃんはそれでも総てお見通しと言った口振りで、
「嘘ばっかり。なんにも無いなんておかしいよ。女将さん、この頃、随分、修ちゃんに八つ当たりして機嫌が悪いじゃない」
 と言った。
「そんな事、無いよ !」
 思い掛けない鈴ちゃんの言葉に動揺して、思わず荒い口調で不機嫌に言い返していた。
 鈴ちゃんは重ねて言った。
「女将さん、修ちゃんを口説いたんでしょう」
   修二は狼狽した。
 急所を突かれた思いだった。
   その思いを懸命に隠して、
「なんで、そんな事が言えるんだよお」
 と言って突っぱねた。
「だって、女将さん、前にいた子も口説いた事があるんだから」
 鈴ちゃんは訳知り顔で言った。
「チェッ、詰まんねえ事言ってらあ。鈴ちゃんが男に持てないからそんな事言うんだろう」
 修二は相手にしない口調で軽蔑する様に言った。
「あら、お気の毒様。わたしにはもう、ちゃんとした相手がいるんだから」
 鈴ちゃんは修二の軽蔑など何処吹く風と言ったふうに軽く受け流して言った。
「結婚してんのかよお」
「結婚はしてないけど、一緒に暮らしてるよ。今、マンションを買おうと思って、二人で一生懸命に働いてるんだもん」
「じゃあ、他人(ひと)の事なんか、気にしなくたっていいだろう」
「でも、修ちゃんが女将さんに意地悪されるのを見ていると可哀そうになっちゃうから同情してんじゃない」
「そんな同情なんか要らないよお」
「なんで、女将さんの言う事を聞かなかったの ?」
「知らないよお」
「少しは女将さんを慰めてやればいいのに。女将さん、淋しいんだから」
「淋しい ? なんで ?」
 思わず聞き返した。
「いろいろ、訳があんのよ」
 鈴ちゃんは心得顔で言ってそれ以上は口にしなかった。
 鈴ちゃんの思わぬ言葉に修二は興味をそそられた。
「マスターもこの事を知ってるのかなあ」
 思わず言っていた。
「薄々は知ってると思うわよ」
 修二には不可解に思えた。
「知ってて、マスター、怒らないのかい ?」
「これには訳があんのよ」
 鈴ちゃんは事情通らしい口調でまた言った。
「前に居た人、それで店を辞めたの ?」
「ううん、違うわよ。この前の子はここに六年近く居たんだけど、田舎へ帰って店を出したいって言うんで、マスターがいろいろ力を貸してやったのよ」
「マスター、女将さんの事を知ってて、それでも怒らなかったのかい ?_」
 修二には不自然に思えて聞き返した。
「マスター、やたらな事では怒らないわよ」
 鈴ちゃんは言った。
「なんで ?」
「マスター、昔、ピストルで撃たれて怪我をしたのよ」
「ピストル ?」
「そうよ」
「なんで ?」
 また聞いた。





              ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




              takeziisan様


               一週 間を置くうちにめっきり春らしくなって来ました 
              当地の桜も満開 早くも散り始めています
              道路も庭も吹き込む桜吹雪で染まります
              何とも言えない嬉しい春の景色です この桜吹雪と知り敷いた
              一面の桜 満開の花の景色とはまた違ったこの季節の美しい景色で
              何とは無い幸福感に包まれます でも それも
              三日見ぬ間の桜かな 瞬く間に過ぎて行き 世の中はまた
              悲惨に満ちた愚かな人間達の争い事に包まれます
              何百年と続く桜の花の美しさと愚かな人間達の醜い争い
              何時の世も変わらない現実なのでしょうね
               当地 クンシランはまだ蕾です ドクダミもようやく芽を吹いて来たところです
              ドクダミの白い花の群れて咲く景色が好きです
              それにしても様々な花々 よく収集しました
              パソコン上に春の気配が溢れ出して
              これだけで春の気分に包まれます 楽しいひと時でした
              継続は力なり いっ時の気まぐれ気分では出来ない事です
              敬服致します       
               体力減退 年々 強くなります さて これから後 何年 
              これまでの生活が続けられるか 年毎に頭を過ぎります 
              様々に報じられる同時代を生きた人達の死 テレビ画面などに映し出される
              老齢化した姿 人生の週末の時をふと 意識させられます
               相変わらずの農作業 痛っ 痛っ と愚痴りながら
              続けられる事の幸せ どうぞ 御大事にして下さい
               有難う御座いました










遺す言葉(492) 小説 希望16) 他 多様性

2024-03-31 12:10:55 | 小説
             多様性(2024.3.25日作)


 人にはそれぞれ その人なりに
 持って生まれた運命 人生 世界がある
 その運命 人生 世界が 他者に害を与え
 不正なものでない限り 他者は
 その人の運命 人生 世界を 軽んじ 嘲笑
  軽蔑する事は許されない
 この世界 人間社会で 人の為に尽くし 尽力
 その尽力に成功した人は それなりに評価
 賞賛されて然るべき それでもなお
 尽力 人の為に尽くす事の出来ない人 その人を
 無能 無益 と批判 批難する事は許されない
 人 おのおの それぞれ それなりに独自の世界
 運命 個性を持って この世に生を受け 生きている
 その個性 独自性 他者に無いもの 人間社会 
 この世に存在する人の数だけ 存在する
 多様性 豊かな森は 樹一本では生まれない
 多様性 多様な樹々 その密集
 密集する樹々の一本一本 おのおの それぞれ
 各個が持つ個性 独自性 その一本一本が
 豊かな森を生 み 育む
 人の社会 この世界 人それぞれ おのおの持つ個性
 その個性 独自性が育む人の森 人間社会
 豊かさ 深さ 厚さ 堅固さ 人それぞれ おのおの
 各自が持つ個性 独自性によって 揺るぎない 人の森
 人間社会が形成 形作られる
 人 それぞれ 各個が持つ個性と独自性 その尊重
 多様性の失われた世界 やがて衰退 消滅 へ




             ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




              希望(16)




「みんな、きれいな子ばっかりね。こんなの見てたら我慢出来なくなっちゃうでしょう」
 女将さんはそう言って再び熱に潤んだような眼差しを修二に向けた。
 修二は羞恥で赤くなった。
 女将さんはそんな修二に、
「でも、若いんだもの、しょうがないわね」
 と言って、微笑みと共に修二を見た。
「アダルトビデオは無いの ?」
 そう言ってから女将さんは部屋の中を探す様に周囲を見たが何も無かった。
「無いみたいね。あれば一緒に見られたのにね」
 と、意味ありげに言って再び修二を見た。
 修二は赤くなって身体を堅くしたままでいた。
 女将さんはその修二には構わず、
「あんた、夜は何処へも出ないの ?」
 と聞いた。
「はい」
 そう答えただけだった。
「今夜、わたしここに泊っちゃおうかな」
 女将さんはまるでからかうかのように依然として、意味ありげな眼差しを修二に向けたままで言った。
 修二は息が詰まった。
 何時だったか、鈴ちゃんが「女将さん、修ちゃんの所へ行かない ?」と言った時の言葉が途端に思い出された。
「なんだか、帰りたくなくなっちゃったの」
 微笑み掛ける女将さんの眼が潤んでいた。
 修二は突然の思わぬ言葉に狼狽した。その狼狽のまま、
「駄目ですよ。俺、困りますよ」
 と、思わず言っていた。
「あら、どうして ? 大丈夫よ。今夜、うちの人、帰って来ないから」
 女将さんは修二を説得する様に言った。
「違いますよ。そんな事じゃないんですよ」
 強い口調で言っていた。
「じゃあ、何故 ? どうしてなの ?」
 女将さんの眼差しも真剣みを帯びていた。
 修二には咄嗟には答えられなかった。
「怖いんでしょう。あんた、初めてで怖いんでしょう」
 女将さんは修二を追い詰める様に言って、なおも熱のこもった熱い眼差しで修二を見詰めた。
「違いますよ !」
 修二は投げ捨てる様に言った。
「大丈夫よ、わたしが教えてあげるから」
 女将さんは昂ぶる気持ちを抑え切れなくなった様に言って修二の方へ身体を寄せて来た。
「違いますよ ! そんな事じゃないんですよ。帰って下さい。俺、困るから」
 怒りの感情に捉われたまま修二は厳しい口調で言っていた。
 女将さんはそれで漸く修二の本心を理解したようだった。修二を見詰める眼差しがみるみるうちに憎悪に満ちて来た。
「何よ ! 意気地なし。せっかく心配して来てやったのに !」
 女将さんの声は怒りを含んで涙声になっていた。
 その声の震えに気付いて修二は我に返った。
 女将さんに強い言葉を返した事に心の痛みを覚えた。
 その痛みに耐えるように呆然としてその場に立っていた。
「いいわよ ! もう、あんたの事なんか心配してやらないから」
 女将さんは修二の愚鈍を責める様に言って立ち上がると、そのまま入口近くに立っていた修二を押し退けて部屋を出た。
「覚えてらっしゃい。意地悪をしてやるから !」
 叩き付ける様に言って階段を降りて行った。
 修二は呆然としたままその場に立っていた。
 女将さんの足早に階段を降りて行く足音が聞こえて来た。
 乱暴に表のシャッターが引き下ろされる音がして、女将さんが外へ出た事が分かった。
 修二はその場を動かなかった。
 女将さんが残していった女の匂いが部屋の中に籠っていた。
 それに気付くと女将さんの薄手のセーターの下に見えた胸のふくらみや、白い脚のしなやかだった事が改めて思い出された。
 あの時、確実に手の届く距離に普段の夜とは違う、温もりを感じさせる女の肉体があった・・・・
 その現実が修二を息苦しくさせた。
 それでも結果的には後悔はしていなかった。
 女将さんの機嫌を損ねた事だけが唯一の気懸りだった。
「覚えてらっしゃい。意地悪をしてやるから」
 憎しみを浮かべて言った女将さんの顔が眼に浮んだ。
 明日からの店での生活を思うと不安になった。
 此処での生活が出来なくなってしまうのだろうか ?
 マスターはなんて言うだろう・・・・ ?
 考えてみても仕方がなかった。
 布団の上に仰向けに転がって頭の下に両手を組み、天井を見詰めた。
 漸く馴れて来た穏やかな生活が思いがけず突然乱されて、明日からまた不安定になる・・・・。
 女将さんの愚行を思って腹立たしさを覚えた。
 女将さんがこんな事をしなければ、悩む事など何もなかった !
「女なんか大ッ嫌いだ。みんな薄汚い !」
 鬱憤を晴らす様に思わず声に出して言っていた。
 女将さんも母親も高木ナナも、みんな小狡(ずる)くて薄汚い !


          五


 夜の明ける前に此処を出てしまおうか ?
 明日の朝、女将さんと顔を合わせる事を思うと不安だった。
 どんな顔をして挨拶すればいいんだろう ?
 女将さんに無視されたり、嫌味を言われたりして傷付く事を考えると耐えられない気がした。
 漸く得た心の平安がまた、何処かへ行ってしまった。ーー
 明け方までとうとう眠る事が出来なかった。


              (都合により 次週は休載します)
           


           ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





             takeziisan様

         
              有難う御座います
             ようやく春の気配 と言うより初夏の気配 昨日はちよっと動くと汗をかきました
             気紛れ天気には翻弄されます
             野菜の新鮮な緑 羨ましい限りですが 苦労無くして収穫は無い
             何事も現実は甘くはない という事ですね
             それにしても野菜の値段の高い事 軒並み 例年の二倍近くの値段です
             家計の遣り繰りの苦労が偲ばれます
              川柳 相変わらず楽しいですね 好いですね
             何時も楽しく拝見しています
              由布院 辻馬車 中学校卒業旅行の折り 塩原の町中で見た
             辻馬車の光景をふっと思い出し郷愁を覚えました
              昭和二十年代前半 わたくしの居た村にも馬車の姿が見られたものでしたが
              何時の間にか消えてしまいました
              ポールモーリアサウンド 懐かしいですね 相変わらず好いですね
              言葉の問題 言葉には専門 最も敏感であるべきはずの
              アナウンサーの中にも近頃は首を傾げたくアクセントや
              使い方をする人が多く見られる様な気がします
              もともと言葉は時代と共に変化する ものとは言え             
              せめて言葉を専門にするアナウンサーぐらいは基 本をしっかり
              押さえて置いて貰いたいものだと思います
               見事なウスラウメの花 実は食べられるのですね
              豊かな食の世界羨ましい限りです
               御忙しい中 御眼をお通し戴き有難う御座います


                   
 


















遺す言葉(491) 小説 希望(15) 他 行為の範囲

2024-03-24 12:17:17 | 小説
            行為の範囲(2023.2.22日作)



 何事に於いても
 人間に許される行為の範囲は
 自身の生存を守る それが
 その時点に於ける
 最大の条件となる
 生存の為の条件が 最悪の場合
 最悪の行為も許される
 しかし
 自身の生存確保の為
 他者の生存権を犯し 奪う
 その行為は絶対的に
 許されない




            ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




              希望(15)



 
 店が終わって風呂へ行って帰ると午前一時を過ぎていた。
 疲れていた。
 その夜は何時もの様に裸の女性達の雑誌を開いて見る気にもならなかった。
 部屋の隅に寄せてある布団を広げて仰向けになると、「あのバカ女が垂れ込んだんだ」と、改めて警察での出来事が思い出されて母親への憎悪を滾(たぎ)らせた。
 同時に何故か、今まで遠くに感じられていた母親が身近に感じられて、肉親としての感情が蘇った。
 幼かった頃の母親との思い出も蘇って、その思い出が懐かしくさえあった。
 改めて修二は思った。
 あいつは母親なんだ !
 その母親が修二を警察に売っていた !
 とは言え、修二自身も母親を焼き殺そうとして家に火を点けたーー
 そして、刑事が訪ねて来た。
 刑事達は証拠を見せてやる、と言った。
 あの言葉に根拠はあるのだろうか ?
 単なる脅しにしか過ぎないのではないか ?
 もし、放火した事実が知られるとすれば何処から知られるのだろう ?
 いや、分かるはずがない !
 声に出して言った。
 あの時、母親はぐっすり寝込んでしまっていた。
 自分のスカートに火が付くまで分からなかった。
 母親が警察に訴えたとしても、推察に依るものでしかないのだ。
 俺を罪に陥れるだけの証拠など、何処にも無い。
 安堵の中で考えを締めくくる事が出来た。
 修二は耳を澄ました。
 何かの物音を聞いた様に思った。
 確かに誰かが店先で鎧戸をいじっているらしい音がしていた。
 誰だろう ? 今頃。
 もう、警察が来たのだろうか ?
 それとも、泥棒 ?
 起き上がって音を忍ばせ、部屋の戸を開けてみた。
 物音はまだ聞こえていた。
 部屋を出て階段の上に立ってみた。
 鎧戸を開ける気配が音として伝わって来た。
「誰だ !」
 修二は叫んでいた。
「わたしよ、修ちゃん」
 女将さんの声だった。
 修二は緊張感から解放されて階段の明かりを点けた。
 女将さんは階段の下に立っていた。
「泥棒かと思ってビックリしたですよ」
 安堵の声と共に言った。
 修二が此処での生活に馴れるに従って女将さんが訪ねて来る事もこのところ無くなっていた。
 久し振りの女将さんの訪問に修二が階段を降りて行こうとすると、
「もう、寝ていたの ?」
 と言いながら女将さんが階段を上がって来た。
 修二は狼狽した。
 部屋には何冊もの女性のヌード写真が載った雑誌が放り出されたままになっていた。
 それを知られる事への羞恥から修二は自ら階段を降りて行こうとしたが、女将さんは委細構わず登って来た。
「警察に呼ばれたりしたから、どうしているかと思って心配になって来てみたのよ」
 女将さんは言った。
 修二には答えるべき言葉か見付からなかった。ただ、女将さんに部屋へ入って貰いたくない思いだけで階段の上に立ち塞がっていた。
 女将さんは昼間とは違って薄化粧をしているのが階段の上に居る修二にも分かった。
 普段見ている女将さんとは違ったその美貌の冴えに修二は眼を見張った。
 その間にも女将さんは階段を登って来ていて修二の前に立った。
 修二はそれでも動こうとしなかった。
 女将さんはそんな修二の身体の横から部屋の中を覗き見るようにして、
「まだ、寝てなかったのね。ああ良かった」
 と言って、そのまま部屋の中へ入る気配を見せた。
 修二は慌てて女将さんの前に身体を移動させたが、そんな修二を押し退けるようにして女将さんは部屋の中へ入ろうとした。 
 強引とも言える女将さんの行動だった。
 修二は困惑、混乱したまま、それ以上に女将さんの行動を防ぐ手立てを思い付かなくて呆然と立っていた。
 女将さんは部屋へ入ると散らかった雑誌に眼を向けたが、それを気にする様子もなく、部屋の中央に敷かれた布団の傍に黒い柔らかなスカートで膝を包む様にして横坐りに坐った。
「もう、こんな時間だからどうかなって思ったんだけど、起きていたので良かったわ」
 と、まだ呆然と入口に立ったままでいる修二を振り返って言った。
 修二はその言葉には答える事もなく仕方なく部屋へ入った。
「今夜、うちの人、花札に行っちゃったの。それで、一人で居てもつまらないから、修ちゃんが警察に呼ばれたりして、どうしているかなって心配になって来てみたのよ」
 昼間とは違った何処か親しみを感じさせる優しい口調と共に女将さんは、媚びを含んだ様にも見える眼差しで修二を見詰めて言った。
 そんな女将さんの、その美貌をひと際浮き立たせる薄化粧と共に、女の匂いでその場を包み込む雰囲気に修二はドギマギしながら、
「車で来たんですか」
 と、無愛想に聞いていた。
「ううん、自転車で来たの。十分足らずで来られるんだもの」
 女将さんは優しさの滲んだ口調で言ってから、
「警察では、あんなに長い時間居て何を聞かれたの ?」
 と修二の気持ちを労わる様な口調で優しく言った。
「別に」
 修二はやはり無愛想に答える事より他出来なかった。
 女将さんの何処か、普段と違う雰囲気が修二の気持ちを戸惑わせていた。
「この前来た、お母さんっていう女の人の事 ?」
 女将さんは修二の眼を見詰めて言った。
 その眼差しがうるんでいる様にも見えて修二は戸惑った。
「ええ」
 そう答えただけだった。
「そう。お母さん、ちょうどわたしと同じぐらいの歳なのね」
 と、女将さんはやはり熱い眼差しを修二に向けたままで言った。
 何故か、身体の堅くなる様な緊張感を覚えて修二は黙っていた。
 女将さんはそんな修二から視線をそらすと部屋の中を見廻わした。
 部屋の中には柱から柱へ紐を通して何枚ものパンツやシャツが干されたままになっていた。
 思わず赤面する修二に女将さんは、
「何か、困る様な事はないの。もし、あったら言いなさい。わたしに出来る事ならなんでもしてあげるから」
 と言った。
「はい」 
 息の詰まる思いのまま修二は言った。
 女将さんはそんな修二から視線をそらすと今度は辺りに散らばった様々な雑誌に視線を移した。
 夥(おびただ)しい雑誌の中にはページが開かれたままになっているものもあった。
 女将さんはそんな雑誌の中の、全裸の女性が誘いかける様な眼差しでこちらを見ている一冊を手に取ると、
「あなた、毎晩、こんなものを見ているの ?」
 と言って、媚びを含んだようにも見える微笑みと共に修二を見た。
 修二は夜毎の自分の秘密を盗み見られた様な気がして体中が熱くなった。





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              takeziisan様


               有難う御座います
              この冬は暖冬だったと言いながら 彼岸が過ぎてもまだ寒さが残る
              強風の日もかつてなく多くて 嫌な年です
              穏やかな春の陽ざしが欲しいものです
               美しい花々 よく御覧になっていらっしゃる
              敬服です またお庭の花々 春の楽しみですね
              狭苦しい都会の中で暮らしていると無性に自然の美しさが恋しくなります
              我が家はその中でも左手には比較的大きな防災公園
              右手には映画「男はつらいよ」の舞台 江戸川の堤防がそれぞれ
              百メートルほどの距離にあるのですが それでも雄大に広がる自然の美しさには
              とても及びません 無性に、子供の頃過ごした環境が懐かしく思い出される事があります
              それにしても 文化祭 よく当時の物をお持ちになっていらっしゃいます
              わたくしの方では学芸会と言って年に一度行われました
              中学三年に菊池寛の「父帰る」を行った事を思い出します
              それこそなんの娯楽も無い田舎 村中が学芸会運動会には 馳せ参じたものでした
              懐かしい思い出です
               高齢者運転免許 わたくしの兄妹でも次々に返納しています
              思わぬ事故 高齢者に多い事をつくづく実感します
              それにしても人間 歳を取るという事は寂しいものです
              今まで有ったものが次々に失われてゆく
              せめて自身は日々 元気に過ごす それを心掛けるようにしています
               どうぞ お身体に気を付けて御無理をなさいませんように
              何時も有難う御座います













遺す言葉(490) 小説 希望(14) 他 人間 その生きる目的

2024-03-17 12:41:50 | 小説
            人間 その生きる目的(2020.1.23日作)

  

 人間が地球上に生きる究極の目的は
 人間 各々が 如何に幸福 安穏に生きられるか
 この一点にのみ集約される
 思想も科学も その為に奉仕 利用されるべきもの
 思想の為の思想 科学の為の科学 その
 至上主義は人間社会に於ける邪道
 人の心 人の命 この視点を忘れた思想や科学は やがて
 人類の滅亡 破滅という道へ突き進む事になるのだろう




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              希望(14) 




「そうか、それならそれでいい。だけど、おまえ、この情報は何処から入ったと思う ? いいか、おまえのおふくろから入ったんだぞ。おまえの実の母親が、わたしを焼き殺そうとして火を点けたんです、って言ったんだぞ。どうだ ? それでも火を点けてないって言うのか ? 実の母親が伊達や酔狂でそんな事を言うと思うか ?」
「そんなの嘘です。出鱈目です」
 思わず大きな声を出していた。
「出鱈目 ? 出鱈目でどうして母親がそんな事を言うんだ ?」
 怒りの表情で修二は黙っていた。
「おまえと母親は旨くいってなかったんだろう。母親が男をつくって病気の父親を放り出してしまったのを、おまえは怒っていたんだろう ?」
「そんなの、関係ありません」
「関係ない ? どうして ? おまえは自分達に苦労を押し付けて来る母親が憎くて、そんな母親を焼き殺そうとしたんだろう ?」
「おれはあの時、寝ていたんです」
「おまえは寝ていた。だけど、母親も寝ていたな。しかも酒に酔ってぐっすり眠り込んでしまった。それで、お前が何かの拍子にふっと眼を醒ましても母親は気が付かなかった。傍には煙草の吸殻やライターがそのまま放り出してあった。いろんな書類も散らばっている。おまえが母親への憎しみを募らせてその母親を焼き殺そうとするには、これ以上に好い条件の揃う事は滅多にないな。どうだ ?」
 刑事の言葉は現場を眼にしたかの様にそのままの事実だった。
 修二にはだが、驚きも狼狽もなかった。腹は坐っていた。
「俺が火を点けたっていう証拠はあるんですか ?」
 強気のまま言った。
 母親からのその場の状況の説明を受ければ、誰にでも考えられる事だと思った。
「証拠 ?」
 刑事は思わぬ言葉を聞いた様に修二を見た。
「証拠なんて、何処からそんな言葉を聞いて来た ? 証拠が欲しけりゃそのうち、ちゃんと見せてやる」
 年端もゆかない修二の思い掛けない言葉に刑事は誇りを傷付けられでもしたかのように、軽い怒りを滲ませて言った。
 取り調べは長身の刑事も加わって更に続いた。
 母親が遺産相続で走り回っている事。母親の男関係。病気の父親を看病していた時の母親の様子。修二と祖母の事。修二が働いていた製材所での日常や母親の下(もと)を逃げ出した火事の夜の事。そして、マスターの店で働くようになった経緯(いきさつ)など、刑事達は脅したり賺(すか)したりしながら、執拗に探りを入れて来た。世間話しの様に話していたかと思うと急に恫喝的になったりした。
「もう、そろそろ、本当の事を喋ったらどうだ ? しぶとい野郎だなあ」
 修二はその頃には疲れ切っていた。
 早くこの場から逃げ出したいという思いだけが強くなっていた。
 何度もマスターの店で働いている自分の姿が頭を過ぎった。
 その生活が夢の中の事の様に思えて明るい色彩の下に懐かしく思い出された。
 息苦しく閉塞感を伴って迫って来るこの部屋と刑事達。
 自分が永久にこの部屋から出られないのではないか・・・・そんな気がして来て気分が滅入った。
「居眠りをするな ! 馬鹿野郎」
 年上の刑事が怒鳴った。
「居眠りなんかしてません」
「今、船を漕いでいたじゃないか」
「眼を瞑っていただけです」
 時折 、どちらかの刑事が席を外した。
 修二だけが絶え間ない言葉の攻撃を受けて休息も与えられなかった。
「くたびれたんだろう ? 本当の事を言え。そうすればすぐに帰してやる」
「俺はやってません」
「やってない、確かにそうなんだな。やってないんだな ?」
「やってません」
「よし、分かった。そんなにおまえが言うんなら、今日はこれで帰してやる。だけどいいか、これで終わったと思ったら大間違いだぞ。この次は、ちゃんと証拠を見せてやるから、何処へも逃げないであの店に居ろよ」
           
 修二が警察の建物を出た時には午後五時を過ぎていた。
 長い時間、白い壁だけに囲まれた部屋に居たせいか方向感覚が分からなくなっていた。
 少し歩いてタクシーを拾うと「北裏町の味楽亭」と告げた。           
 タクシーの運転手にはすぐに分かった。
 修二はタクシーを待たせておいて二階へ上がりタクシー代を取って来た。
「警察は何んだって ?」
 店に戻った修二にマスターは言った。
 店内は混んでいた。女将さんも鈴ちゃんも忙しそうに働いていた。
「家の事でちょっと聞かれたんです」
「おふくろとの事か ?」
「はい」
 マスターはそれ以上の事は聞かなかった。
「今まで警察に居たの ?」
 背中を見せて洗い物をしていた女将さんが顔だけ向けて聞いた。
「はい」
「お昼御飯は ?」
「まだです」
「じゃあ、向こうへ行って何か食べなさい。お腹空いたでしょう」
 女将さんは同じ姿勢のまま言った。
「大丈夫です」
 修二は言ってすぐに仕事の支度に掛かった。

 その日、修二は店が終わるまでの時間をいつも通りに働いた。
 マスターも女将さんも鈴ちゃんも普段と少しも変わらなかった。
  警察に呼ばれた不快な思いも忙しく働いているうちに忘れた。




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              takeziisan様


               春の気配 花々の美しさ 嬉しい限りですが また寒さが戻るとか
              気温の激しい変化に身体が追いつきません なんだかこの所
              体調不良ーーとまではゆかないのですが 身体がシャキッとしない
              力が入らない感じでシャキシャキと動く事も出来ません
              やはり老化現象 ? 年々 肉体の衰えが顕著になって来る気がします
              一年と言えない 母親が口にしていた言葉が実感として迫って来ます
              ウォーキング九千二百歩 厳しさが実感されます
               雑草の山 あれも駄目 これも今一つ              
              一口に農業と言っても その厳しさ 難しさが改めて想像出来ます
              今年の野菜の高値 消費者に取っては不満ですが
              農家の方々に取っては不満どころではなく 頭の痛い問題なのではと
              改めて思わされます
               何事もただ新聞ラジオテレビ等でペラペラ気軽に喋って
              言いたい放題の事を言って居る人間達には分からない苦労が
              実践者には付きまとうものだと改めて実感されます
               フキノトウ 今頃 ? という 思いです         
              当地では前にも書いたと思いますが 二月頃だったかに収穫しました
               アラスカ魂 随分昔に観た映画でストーリーも曖昧ですが
              ジョン ウェインとしては西部劇ではない所に新鮮さを感じたのを覚えています  
               山頂に立つ快感 画面からも伝わって来ます      
               好いですね 改めて病み付きになる人の気持ちが分かります
               口の着く言葉 口数が多いですね
               今回も面白く拝見させて戴きました
               有難う御座います