MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

『アウトレイジ 最終章』

2017-10-22 00:54:16 | goo映画レビュー

原題:『アウトレイジ 最終章』
監督:北野武
脚本:北野武
撮影:柳島克己
出演:ビートたけし/大森南朋/西田敏行/ピエール瀧/松重豊/大杉漣/塩見三省
2017年/日本

若者を幸福にしない「組織」に絶望した男について

 「アウトレイジ」シリーズの最後となる本作と前2作との大きな違いは、本作にはギャグがほとんどないところである(韓国のフィクサーの張大成会長に3千万円持って行った中田と花田が逆に3千万円受け取ってしまうくだりくらいか)。それどころかワゴン車内で主人公の大友が、花菱会の新会長である野村に送られてきた韓国系のヒットマンたちに襲撃された際に、誤って身内の若手の運転手まで撃ってしまい、いままでクールだった大友を演じたビートたけし自身がそれまで見せたこともない感情の取り乱しを演じているのである。
 ここで明らかになったことはビートたけしは「組織」に絶望してしまったということである。組織に属することに嫌気がさした大友は最低限の仁義だけを通した後に、自ら命を絶ったように感じる。作品の冒頭で部下の市川と呑気に釣りを楽しんでいた大友だったが、ラストのシーンで市川が一人で釣りを楽しむという暗示は、上層部の都合で容疑者を捕まえることができない苛立たしさで刑事の繁田が上司の平山に食堂で辞表を叩きつけて辞職してしまうことと同様に「組織」に対して訣別を意味したものであろう。
 もちろんたまたま時期が重なっただけなのではあるが、「組織」に絶望して自死してしまう主人公の作品を衆議院選挙期間中に日本映画興行収入ランキングで1位にしてしまうアイロニーに北野武という天才がなせる業が垣間見える。

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『哀しい気分でジョーク』

2017-10-21 00:19:48 | goo映画レビュー

原題:『哀しい気分でジョーク』
監督:瀬川昌治
脚本:吉田剛
撮影:坂本典隆
出演:ビートたけし/川辺太一朗/中井貴恵/柳沢慎吾/石倉三郎/大谷直子/原田大二郎
1985年/日本

家族向け作品に隠された皮肉について

 本作がどのような意図で制作されたのか寡聞にして知らないが、例えば、主人公の五十嵐洋が病気の息子の健と一緒に別れた元妻の秋野美枝が住んでいるオーストラリアのシドニーに行った際に、観光名所のみならず、ワラビー、コアラ、ウォンバット、ホワイトブレステッド・シーイーグル、ハリモグラ、タスマニアデビルなど字幕付きで紹介しているところを見ると、JALやオーストラリア観光局を巻き込んだファミリー層向けに作られたような感じではある。
 しかし素行の悪さで一度は干された芸能界に、脳腫瘍で息子を失うまでの詳細なシーンを描くことなく、一人息子を癌で失ったというプライバシーを売り、人々に「悲劇の父親」というイメージを植え付けて同情を買うことで五十嵐がカムバックを果たすところなどはビートたけしの皮肉が込められているのではないだろうか。
 ところで本作の主題歌である「哀しい気分でジョーク」はどこかで聴いたことがあると思って調べてみたら、1982年にリリースされた沢田研二の「"おまえにチェックイン"」にそっくりだったのだが、作曲した人物が同じ大沢誉志幸だったことで納得した次第である。


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『アナベル 死霊人形の誕生』

2017-10-20 00:42:39 | goo映画レビュー

原題:『Annabelle: Creation』
監督:デイビッド・F・サンドバーグ
脚本:ゲイリー・ドーベルマン
撮影:マキシム・アレクサンドル
出演:ステファニー・シグマン/タリタ・ベイトマン/ルル・ウィルソン/アンソニー・ラパリア
2017年/アメリカ

美少女が活躍するようになったホラー映画について

 「死霊館シリーズ」は興行的には絶好調らしいのだが、本作に関して言うならば、主人公の一人で幼いながらも事件の解決を図ろうとするリンダを演じたルル・ウィルソンも、リンダの敵役となるジャニスを演じたタリタ・ベイトマンも美少女だからだと思う。元来ホラー映画は不気味な男が暴れまくったり、老人が悪魔祓いを試みたりしたもので、『キャリー』(ブライアン・デ・パルマ監督 1976年)にしても「残念な女の子」が主人公だったが、クロエ・グレース・モレッツがキャリー役を演じた『キャリー』(キンバリー・ピアース監督 2013年)あたりから美少女が現われるようになり流れが変わったように思う。
 それに加えて全体的なストーリー展開も秀逸で、本作のラストにおいて『アナベル 死霊館の人形』(ジョン・R・レオネッティ監督 2014年)の冒頭のシーンと上手くつなげており、さらにエンドロールが終わった後に、1952年のルーマニアの修道院内を映すことで来年公開の『ザ・ナン(The Nun)』(コリン・ハーディ監督)につなげているのであるが、『恋と嘘』(古澤健監督 2017年)でも書いたのだが、最後のシーンを観ないまま席を立ってしまう観客がけっこういるのである。


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『恋と嘘』

2017-10-19 00:36:08 | goo映画レビュー

原題:『恋と嘘』
監督:古澤健
脚本:吉田恵里香
撮影:宮本亘
出演:森川葵/北村匠海/佐藤寛太/浅川梨奈/田辺桃子/温水洋一/木下ほうか/徳井義実
2017年/日本

SFを装った「病気もの」の作品について

 てっきりSF作品だと思って観に行った。確かに時代設定は2037年頃で超・少子化対策法が制定されたある国に住んでいる主人公の女子高生の仁坂葵のもとにDNAなどの各種データを基にして選定された結婚相手の名前が書かれた通知が届き、同時に自由恋愛が原則禁止となる。実際に、自由恋愛で駆け落ちまでした四谷大輔は離婚しており、むしろ適性で選ばれる未知の相手に人々は夢を抱いているのである。
 ところで葵には幼なじみの司馬優翔がおり、優翔から告白されるものの、そこへ政府公認の結婚相手である高千穂蒼佑が現われて2人の男性の間で葵の心が揺れる。
 そんな時に、優翔が脳腫瘍であることが分かり、医師の息子である蒼佑は父親に紹介状を書いてもらう代わりに葵と結婚することを父親と約束するのであるが、結局、葵は優翔と共に治療のために外国へ行くことを決めて飛行機で旅立つことになるのである。ここまで来ると制度に対する葛藤が無いためSF作品というよりも「病気もの」である。
 エンドロールが終わった後に、その後の3人がどうなったのか描かれているのであるが、かなりの観客が観ないで席を立ってしまったがそれでいいのか?


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『ナラタージュ』

2017-10-18 00:41:02 | goo映画レビュー

原題:『ナラタージュ』
監督:行定勲
脚本:堀泉杏
撮影:福本淳
出演:松本潤/有村架純/坂口健太郎/瀬戸康史/市川実日子/大西礼芳/古舘佑太郎/神岡実希
2017年/日本

罪深い男のタイプについて

 正直に言うならば主人公の葉山貴司に全く共感できない。そもそも自分の母親と妻の葉山美雪の仲を取り持つことに失敗し美雪を精神的に追い詰め犯罪に手を染めさせてしまったことも、既婚者でありながら工藤泉をその気にさせてしまい不倫をさせることになってしまったことも、顧問をしている演劇部に所属している塚本柚子の様子のおかしさに泉が気がついているのに葉山は気がつかず自殺を防ぐことができない原因も葉山の優柔不断さによるものであり、普段から感情を表に出すタイプではなくクールぶっているが故に余計に癇に障る。
 それでも付き合っていた小野玲二と別れて、玲二が作った靴を脱いで裸足で柚子が入院している病院まで戻った泉を、丁度他の学生を車で送って病院に車で戻って来たばかりの葉山が見つけ、泉の裸足を見つめながら「もっと他の方法で助けるものを与えられるはずだったのに!」と叫ぶ葉山の言葉は柚子のみならず、泉や美雪に対する言葉でもあったことを勘案するならば、決して優柔不断ではなく考え過ぎるという側面があったことは理解できるものの、このようなタイプの男がモテてしまうことはやはり根本的に間違っていると思うし、それを「良い思い」をした泉の独白(=ナラタージュ)で描くことは葉山の都合の悪い部分をあやふやにしてしまうのではないだろうか。


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『エルネスト』

2017-10-17 00:44:15 | goo映画レビュー

原題:『ERNEST』
監督:阪本順治
脚本:阪本順治
撮影:儀間眞悟
出演:オダギリジョー/永山絢斗/ホワン・ミゲル・バレロ・アコスタ/アレクシス・ディアス・デ・ビジェガス
2017年/日本・キューバ

 外国で活躍していた日本人を知る方法について

 本作はフレディ・前村・ウルタード(Freddy Maemura Hurtado)、通称はエルネスト・チェ・ゲバラによってつけられたエルネスト・メディコ(Ernesto Medico)の物語であるが、何故か冒頭はチェ・ゲバラが日本の広島を訪れるエピソードが描かれている。しかしそれは日本にとっては良い話ではあっても主人公であるフレディとは何も関係がない。
 それよりもフレディが1962年に奨学生としてキューバの医学校の国立ハバナ大学へ入学する以前の、共産党員としてのフレディの活動や、フレディの出身国であるボリビアにチェ・ゲバラが入国した経緯を描かなければフレディの母国に対する強い想いが伝わってこない。
 その結果、本作はフレディの片想いや幼なじみの裏切りなど、別にフレディが主人公でなくても描ける「紋切型」の物語に納まってしまい、死をも覚悟したフレディの情熱が感じられないのではあるが、いずれにしてもフレディ・マエムラ・ウルタードという日系人の存在を知ることができただけでも良かったと得心するべきか。例えば、アメリカのカリフォルニア州のソノマ郡サンタローザ市にあったブドウ園を開拓した幕末の薩摩藩留学生の長沢鼎のように。

米カリフォルニア山火事 スヌーピー作者の自宅焼失、ワイン産地を直撃 死者40人に拡大


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巨乳の「彼女」について

2017-10-16 19:50:39 | 美術

 上野の森美術館で催されている「怖い絵展」はユニークな企画だと思う。「怖い絵」という

タイトルで絵画を紹介しているドイツ文学者の中野京子が監修に携わっており、あまり目に

しない作品を観ることができる。フランスの画家のポール・ドラローシュ(Paul Delarouche)の

『レディ・ジェーン・グレイの処刑(The Execution of Lady Jane Grey)』(1833年)が

本展の目玉作品ではあろうが、ギュスターヴ=アドルフ・モッサ(Gustav-Adolf Mossa)の

『彼女(She)』(1905年)がひと際目を引いた。この巨乳の少女は例えば村上隆のような

後のモダンアートの作品につながる先駆けの作品ではないだろうか?

 本展ではモッサの作品である『飽食のセイレーン(The Satiated Siren)』(1905年)も

観ることが出来る。

 中野も作品解説で「感情の欠落した目、その目の周りの濃い化粧、眉のライン、カールした

人工的ヘアスタイル、豪華な毛皮のマントと見紛う翼の描写......日本の漫画との共通項も

感じられる」と書いているように、このフランス象徴主義の最後の世代の画家は1971年、

88歳まで存命でクロード・モネ(Claude Monet)とは違うポジションからモダンアートの

先駆者でもあり得たと思うのだが、1914年に第一次世界大戦で重傷を負った後は、

家庭内の問題もありイラストレーターに転向したようだ。


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『僕のワンダフル・ライフ』

2017-10-15 00:48:48 | goo映画レビュー

原題:『A Dog's Purpose』
監督:ラッセ・ハルストレム
脚本:W・ブルース・キャメロン/キャスリン・ミション/オードリー・ウェルズ/マヤ・フォーブス
    ウォーリー・ウォロダースキー
撮影:テリー・ステイシー
出演:ジョシュ・ギャッド/デニス・クエイド/ペギー・リプトン/ジョン・オーティス/プーチ・ホール
2017年/アメリカ

決してワンダフルではない「犬生」について

 主人公の犬は子犬のトビ―、レトリバーのベイリー、ジャーマンシェパードの警察犬のエリー、ウェルシュ・コーギー・ペンブロークのティノ、セントバーナードとオーストラリアン・シェパードの間の子のワフリーとして転生していく。
 邦題の「ワンダフル・ライフ」よりも原題である「ある犬の目的(A Dog's Purpose)」ということを考えながら観賞するべきだと思うが、例えば、トビ―やベイリーの時期は楽しむことが「犬生」だと考えているのだが、警察犬として生きるエリーは仕事こそ「犬生」だと思うようになる。さらに女子大学生のマヤが飼い主だったティノはランドシーアのロキシーに片思いのまま別れることになってしまい、さらにワフリーとして生まれ変わってからは飼い主からも疎外されて孤独を学ぶのである。やがてベイリーの時の飼い主だったイーサンと再会しバディと名付けられて生きることになり、バディはそれまでの「犬生」を思い返しながら自分が生きる目的は「犬生」を楽しみながら他人を助け、過去に囚われて後悔することなく、一緒に生きる誰かを見つけて、今日を生きることだと結論付ける。このオチは単純過ぎるような気がしないでもないのだが、犬好きにとっては十分楽しめる作品になっていると思う。


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「新自由民主党」としての希望の党について

2017-10-14 00:06:44 | Weblog

 2017年10月12日付の毎日新聞に『「八田・加戸発言報道していない」首相が批判 / 朝日、翌日紙面で再反論』という興味深い記事を見つけたので引用してみる。

「衆議院の公示を前に8日、日本記者クラブの主催で東京都内で開かれた党首討論会で、安倍晋三首相が加計学園の獣医学部新設に関する新聞報道に注文をつけた。国会の閉会中審査に参考人として出席した加戸守行・前愛媛県知事の発言について、朝日新聞を名指しして『次の日には全く(報道)しておられない』と述べた。」

 とりあえず安倍首相が「次の日には全くしておられない」ということを前提にしていることを踏まえておこう。坪井ゆずる朝日新聞論説委員が、国家戦略特区による加計学園の獣医学部新設計画を首相が知った時期について尋ねた際の出来事である。

「首相は質問への回答をいったん保留したうえで、『朝日新聞は八田(達夫・国家戦略特区ワーキンググループ座長)さんの報道をしておられない』と発言。坪井記者が『しています』と反論すると、『ほとんどしておられない。しているというのはちょっとですよ。アリバイ作りにしかしておられない。加戸さんについては次の日にはまったくしておられない』と述べた。坪井記者がこれに対しても『しています』と答えると、首相は『批判があったから投書欄等で載せておられますが』と主張し、『国民のみなさん、新聞をよくファクトチェック(事実確認)していただきたい』と呼びかけた」

 後の経緯は記事に譲るが、これは安倍首相のみならず菅義偉官房長官も同様なのだが、物事を否定する場合に「全く」という言葉を必ず使用し、その後反論されるとすぐに完全否定を「後退」させてしまう悪い癖がある。もっともこれは、どうせ有権者はファクトチェックなどしないであろうという安倍首相なりの印象操作であろうし、首相にナメられているにも関わらずほとんどの国民はファクトチェックなどしないのが現状である。
 個人的には安倍晋三が首相であることの是非を判断する前に、このように平気で嘘をつける気持ちの悪い男が国のトップに居座ることに憂いを抱かざるを得ない。

 それならば希望の党の代表である小池百合子が安倍政権を退陣に追いやれるのかどうかとなると微妙であると思う理由は、有権者のほとんどが小池百合子の意図を理解していないからである。小池の民進党のリベラル派の「排除」発言の真意は、希望の党が「新自由民主党」だという暗黙のメッセージで、だから有権者は「安倍自民党」か「小池自民党」かの選択肢を与えられたはずなのだが、小池の意図とは裏腹に野党の分裂と捉えられてしまっている点に小池の当初の、自民党票を取り込もうという目論見が狂っているように見えるのである。


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『亜人』

2017-10-13 00:01:25 | goo映画レビュー

原題:『亜人』
監督:本広克行
脚本:瀬古浩司/山浦雅大
撮影:佐光朗
出演:佐藤健/綾野剛/玉山鉄二/城田優/千葉雄大/川栄李奈/山田裕貴/品川祐/浜辺美波
2017年/日本

「体感」する映画の特徴について

 『亜人』は既に2016年に3部作のアニメーションとして劇場公開されており、アニメーションのクオリティーがかなり高かったがためにアクション中心の本作が物足りなく感じてしまった。だから実写である本作は映画として楽しむよりも4DX/MX4D版で「体感」するべきなのかもしれない。
 「何故、人間の味方をする」という佐藤の問いかけに対して、「人間に味方をしている訳ではなく、おまえが嫌いなんだ」と喝破する主人公の永井圭の言い分はもっともで、この違いが理解できずに、自分個人が嫌われているのに人種差別だと勘違いする人がたまにいる。


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