原題:『Des Gens Sans Importance』
監督:アンリ・ヴェルヌイユ
脚本:アンリ・ヴェルヌイユ/フランソワ・ボワイエ
撮影:ルイ・パージュ
出演:ジャン・ギャバン/フランソワーズ・アルヌール/イベット・エティバン/ダニー・カレル
1955年/フランス
見慣れた光景に潜む陥穽について
原題は「しがない人々」ではあるが、「しがない」のは人々よりも、主人公のトラックの運転手のジャン・ヴィアールが目にする道路沿いの看板である。ジャンはトラックを運転しながら毎日のように「ボルドー行き(BORDEAUX)」、「コニャック(Cognac)」、「石鹸(Savon)」、「ゼニスの腕時計(Zenith La Montre)」などの看板を目にする。さらに彼の中古のトラックには前のトラックの所有者が付けたままの「運転手に話しかけないで(Défense de parler au conducteur)」、「足を拭いてください(Essuyez vos pieds S.V.P)」、「ペンキ塗りたてです(Attention à la peinture S.V.P)」のプレートが飾ったままである。
多くの看板を毎日のように目にしているうちに、その重要性を忘れてしまったジャンは肝心の「工事中 迂回せよ(Attention Deviation)」という看板を見逃してしまい、恋人のクロチルドを失うのである。これは約60年前の本作の公開当時は分からなかったであろうが、ネットなどが普及した今になってみると、浴びるように映像を見ている内に、肝心のシーンを見逃してしまうシネフィル(映画好き)に対する皮肉に見えなくもないが、肝心なシーンを見逃すわけだから皮肉にもその皮肉は理解されないままなのである。