
原題:『ニシノユキヒコの恋と冒険』
監督:井口奈己
脚本:井口奈己
出演:竹野内豊/尾野真千子/成海璃子/木村文乃/本田翼/阿川佐和子/中村ゆりか
2014年/日本
ギクシャクした中の邂逅について
『ニシノユキヒコの恋と冒険』と題された本作が、果たしてニシノユキヒコがモテている話が描かれているのか疑問が残る理由は、確かに絶えず女性たちと関わりを持ってはいるものの、ニシノユキヒコが心の底から嬉しそうにしている様子が見えないからで、微笑みだけは絶やさないようにしようとしているニシノは既に肉体を持たない幽霊であり、緩い演出も手伝って主人公の本心を捉え損なうことは必至である。
そもそも登場人物たちもお互いを理解し損なっている。作品冒頭で、女子高校生のみなみは、恐らく料理を苦手としている父親が作っておいてくれた巨大な三角おにぎりを食べるのであるが、何故か具が入っていない。量があれば十分だと思っているのである。一方、亡霊のニシノと共にニシノの葬儀に出席したみなみは、前日の夕食もその日の朝食もとっていなかったために、めまいで倒れてしまうが、みなみの世話をしたササキサユリは糖分不足だと言って飴を2つ与えるだけである。質が良ければ十分だと思っているのである。このような食事に関するトラブルはみなみが5歳の時に、ニシノにおごってもらったパフェを実はみなみが好きではなかったところから始まっているのである。
3歳年上の会社の上司のマナミが大量の書類を倉庫に運ぶ手伝いをするために、左から右に階段を一緒に降りていき、やがて2人はデートをする。山田宏一の『映画 果てしなきベストテン』を書店で読んでいるニシノを見つけたマナミはニシノの腕を取って、書店を出ると右から左に階段を一緒に駆け下りていく。2人の関係が盛り上がる予感を観客に与えるのであるが、ニシノが出世してマナミと同じ地位になった際に、再び会社の階段で言葉を交わし、ニシノの部屋で最後の夜を過ごした後、何故か2人の関係が急速に冷めてしまい、マナミが御茶ノ水近辺にあるニシノのマンションの前で、右手を左のポケットに、左手を右のポケットに突っこんでニシノの幸せを祈る。
このように全てはギクシャクしたままで進行していくのであるが、だからこそラストで母親の夏美の自分に対する愛とみなみの夏美に対する愛がジャストフィットし、流れるみなみの涙が感動をもたらすのである。