MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

『マーティン・エデン』

2021-02-11 00:59:17 | goo映画レビュー

原題:『Martin Eden』
監督:ピエトロ・マルチェッロ
脚本:ピエトロ・マルチェッロ/マウリツィオ・ブラウッチ
撮影:フランチェスコ・ディ・ジャコモ/アレッサンドロ・アバーテ
出演:ルカ・マリネッリ/ジェシカ・クレッシー/カルロ・チェッキ/デニーズ・サルディスコ
2019年/イタリア・フランス

「自由主義」という名の方便について

 もともとはアメリカの作家のジャック・ロンドンの自伝的小説をモチーフに舞台をイタリアに移して描かれている。ナポリの貧しい労働者の家庭で育った主人公のマーティン・エデンは上流階級の女性のエレナ・オルシーニと交際するようになり、自分が生まれ育った下層階級に甘んじる人々を描くのだが、エレナには気に入ってもらえず、原稿を送っても出版社にことごとく掲載を断られる日々が続く。マーティンが信奉しているスペンサー主義はイギリスの哲学者のハーバート・スペンサーが唱えたもので、描かれているようにマーティンは社会主義者とか共産主義者とかに誤解されるのだが、マーティンが憧れていたのは「自由主義」とも呼ばれるリバタリアニズムなのである。
 結局、2人は別れてしまいマーティンは行きつけのカフェでウエイトレスとして働いていたマルゲリータと交際するようになり、ようやく原稿が売れたことで人気作家にのし上がる。そんなマーティンのもとへ久しぶりにエレナが会いに来るのだが、ここぞとばかりにマーティンは罵詈雑言を浴びせてエレナを追い返すのである。
 そんな「社会の仕組み」に毒されてしまったかつての若者たちの気持ちのすれ違いの描写の合間に組み込まれている効果的なカットが、おそらく演出されずに撮られた子供たちのありのままの無邪気な姿なのだが、言うまでもなく私たちはそんなイノセントな時代に戻れるはずもなく、「自由主義」とはあくまでもイノセンスを失った大人たちの方便なのである。


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