東京国立近代美術館では「熊谷守一 生きるよろこび」という特別展が催されている。
熊谷守一(1880年生まれ)は最初は黒田清輝にも師事していたようだが、初期の作風は
明らかにアンリ・マティス(Henri Matisse)(1869年生まれ)のフォーヴィスム
(Fauvisme)の影響が色濃い。しかしポップなマティスとは異なり画面や題材は暗く、
例えば、『轢死(Roadkill)』(1908年)などは経年劣化も手伝って道で車に轢かれた
女性が描かれているはずなのだが画面はほぼ真っ黒である。
しかし60歳になったあたりから作風が徐々に変わってきて、シンプルになっていく。
例えば、ポスターにもなっている『猫(Cat)』(1965年)などが代表作とされるのだが、
これはマティスが油絵から作風を変えて制作しだした切り紙絵のようなものだと思う。
熊谷はトレーシングペーパーを使って同じ図柄の作品を制作しており、さらに使用している
カンバスが小さいことからマティスと作風が被りがちで、つまり97歳まで生きた
熊谷守一と84歳まで生きたアンリ・マティスは体力的な理由から同じような作風の変化を
遂げたのだと思うのである。