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「坂の途中の家」角田光代

2016年11月04日 21時55分28秒 | 読書(小説/日本)


「坂の途中の家」角田光代

里沙子は刑事事件の裁判員の通知を受ける。
事件の内容は、幼児虐待で、母親による子殺し。
裁判の進行とともに、彼女は被告の母親の心に寄り添って考えてしまう。
里沙子も、まもなく3歳になる女の子の母親だから。
わが子を殺した母親は、自分だったかもしれない。
そんな思いが、裁判の進行と共に増幅していく。
子供への苛立ち、子育ての悩み。
その中で、夫や義母と折り合いが悪くなっていく。
感情のすれ違いの描き方が絶妙に巧い。

P350
なんであんなことを言ったのだろうと、里沙子は後悔する。六実の夫のように、心配してほしかったのだとこの段になって気づく。心理的に多大な負担を引き受けている、私もそのように社会に参加していると、分かってほしかっただけだ。言ってほしい言葉があるとするなら、本当にたいへんだよな、その程度のことだ。なのに、いつもおかしな方向に話が着地する。それとも、私が何か求めすぎているのだろうか。求めながら、言葉にすることもしないで、わかってくれと要求しているだけなのか。

P418
閉廷が告げられる。里沙子は自分が泣いていることに気づいてあわててハンカチを取り出す。白いワンピースの女が目の前を通り過ぎていく。たった十日間かかわった、私でない女。いや、違う、もうひとりの私。自分で自分の人生をコントロールし損なった私。母親として生き抜くことができなかった私。

テーマがテーマだけに、読んでいて楽しくない。
しかし、気になる内容なので読んだ。
それにしても、角田光代さんて、これほど筆力があったのか、と驚いた。
昔、読んだときは、さほど感情表現が巧くなかったように思う。
心理描写に深みが出た。
未読の作品で気になるものを読んでみようと思う。 
(この作品を図書館で借りるのに、だいぶ順番待ちをした。世間で評判になっていて人気なんでしょうね)

【ネット上の紹介】
刑事裁判の補充裁判員になった里沙子は、子どもを殺した母親をめぐる証言にふれるうち、いつしか彼女の境遇にみずからを重ねていくのだった―。社会を震撼させた乳幼児の虐待死事件と“家族”であることの心と闇に迫る心理サスペンス。