「若冲」澤田瞳子
人気の高い若冲、その生涯を描いている。
生涯独身だった、とされているが、澤田瞳子さんは大胆な仮説を基に物語を展開している。
実際こうだったかも、と思わせる筆力である
今回も楽しませてもらった。
P54
葉ばかりで幹を持たぬ芭蕉は、古来、儚い人間のたとえにも用いられる植物。そのためかこれを庭に植えると祟りがあるとも伝えられ、庭忌草の異名を有しもしていた。
P269
若冲という号は、枡源の主を退くと決意した際、大典が『老子』第四十五章の「大盈は沖しきが若きも、その用は窮まらず」、すなわち「満ち足りたものは一見空虚と見えるが、その用途は無窮である」という一節から付けてくれたもの。色の上に色を重ねるが如き華やかな絵に漂う寂寥を承知の上で、だからこそ若冲の絵には、何者にも真似できぬ意義があると断じての命名であった。
全部で8章あり、章が進むにつれ、少しずつ歳をとっていき、時代背景も変わっていく。
円山応挙や与謝蕪村といった有名人も登場し、物語に絡んでくる。
一番楽しめるのは、当時の京都が魅力的に描かれていること。
けっこう骨太な作品、第153回直木賞候補作である。
【作品・・・小説】
「孤鷹の天」2010年
「満つる月の如し 仏師・定朝」2012年
「日輪の賦」2013年
「ふたり女房」2013年
「泣くな道真-大宰府の詩-」2014年
「若冲」2015年
「与楽の飯 東大寺造仏所炊屋私記」2015年
「師走の扶持 京都鷹ケ峰御薬園日録」2016年
*あと読んでいないのは、「与楽の飯」のみとなってしまった。
【作品・・・エッセイ】
「京都はんなり暮し 京都人も知らない意外な話 」2008年
【参考リンク】
第1回 京都へ 若冲旅
「若冲、大雅、蕪村、応挙 画師たちの運命が京の都で交錯する……」-インタビュー・対談(本の話WEB 2015.04.24)
直木賞のすべて-第153回候補詳細
「澤田瞳子-直木賞候補作家|直木賞のすべて」
http://prizesworld.com/naoki/kogun/kogun153ST.htm
【ネット上の紹介】
奇才の画家・若冲が生涯挑んだものとは―― 今年、生誕300年を迎え、益々注目される画人・伊藤若冲。緻密すぎる構図や大胆な題材、新たな手法で周囲を圧倒した天才は、いったい何ゆえにあれほど鮮麗で、奇抜な構図の作品を世に送り出したのか? デビュー作でいきなり中山義秀賞、次作で新田次郎賞を射止めた注目の作者・澤田瞳子は、そのバックグラウンドを残された作品と史実から丁寧に読み解いていく。底知れぬ悩みと姿を見せぬ永遠の好敵手――当時の京の都の様子や、池大雅、円山応挙、与謝蕪村、谷文晁、市川君圭ら同時代に活躍した画師たちの生き様も交えつつ、次々に作品を生み出していった唯一無二の画師の生涯を徹底して描いた、芸術小説の白眉といえる傑作だ。