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「日輪の賦 」澤田瞳子

2016年04月10日 08時53分25秒 | 読書(小説/日本)

日輪の賦 
「日輪の賦 」澤田瞳子

澤田瞳子作品は、ゆっくり動き出す。
最初は退屈に感じるかも知れないが、途中から一気に面白くなる。
「満つる月の如し」「孤鷹の天」、そして本作がそうである。

奈良時代を舞台にした歴史小説。
有名人も多数出演…持統天皇(讃良)、藤原不比等、柿本人麻呂、山上憶良。
今回のテーマは「律令」。
律令とそれを巡る人々が描かれる。

P71
古来、歌を能くする者は言霊を操る呪者。いわば巫覡(ふげき)に近い存在であったという。彼らは王の側に侍し、時にはその政務を褒め称え、時には主君に代わって民衆を鼓舞した。

P136
「そんなわが国を、漢や魏をはじめとする大陸の各王朝は、『倭国』と呼んで侮った。いいか、倭だぞ、我々が矮人ゆえにそう呼んだのか、はたまた阿る様を指して委ねる者と思ったのかは知らないが、この字は蔑字じゃないか。こんなふうに見下されて、君は平然としていられるのか」(「卑弥呼」も蔑字である…腹立たしい限りだ。中華思想の根は深い)

P186
ここで彼と手を携えれば、今後不比等は――いや藤原氏は、自分たちを脅かす太い藤蔓となり、宮城に繁茂するかもしれない。されど律令という世々不倒の幹さえ打ち立てれば、いかなる蔓も容易にそれを枯らせはすまい。(大化の改新で功績のあった中臣鎌足から不比等へ、順調に権力の階段を登った、と思っていた。しかし、壬申の乱でしくじった。大友皇子の側についてしまったのだ。これにより、リセットされてしまい、不比等は登りなおした。後の藤原氏の栄華は不比等の頑張りのおかげ、と言える)

P267
「明神(あらみかみ)と御宇(あめのしたし)らす日本(ひのもと)の天皇(すめらみこと)が詔旨(おおむらごと)らまと云々、咸(ことごと)くに聞きたまえ、と読む」
「日本――」
「さよう。この国の新しき国号じゃ」
(持統天皇時代に「日本」「天皇」という言葉が出来た、ということだ・・・知らなかった)

P268
「この律令によって、本邦の主は大王より天皇に変わり、国そのものもまた、倭から日本へ改まる。この一条はその変革を示す、なによりの宣言じゃ」

P364
 倭から日本へ、そして大王から天皇へ。だがそこに新たに現れるのは、絶対的権力を有する当事者ではない。
 整備された官僚制は、天皇すらもただの意志決定機関に変える。律令国家の完成はすなわち、大王一人が権勢を振るう時代からの脱却であった。


【ネット上の紹介】
ときは7世紀終わり―古よりの蔑称「倭」の名に甘んじる小国は、海を挟み強大化する唐と新羅の脅威にさらされている。国家存亡の危機を前に、改革を急ぐ女王・讃良(さらら・持統天皇)と、それに反発する豪族たちの対立は激化していた。讃良により国の仕組みを根本から変える律令の編纂が密かに命じられる裏で、ある恐ろしい謀略が動き始める―。書き下ろし。「日本」誕生の壮大な歴史エンターテインメント。