goo blog サービス終了のお知らせ 

【ぼちぼちクライミング&読書】

-クライミング&読書覚書rapunzel別館-

「引き抜き屋」雫井脩介

2020年05月06日 06時58分35秒 | 読書(小説/日本)
①「引き抜き屋 鹿子小穂の冒険」雫井脩介
②「引き抜き屋 鹿子小穂の帰還」雫井脩介

読み返し。
近年これほど楽しい気分で、わくわくしながら読んだ小説はない。
最初図書館で借りて、あまりに面白かったので、文庫化されたときに購入しておいた作品。新米ヘッドハンターの活躍を描くお仕事小説で、終盤はM&Aを描く企業小説の様を呈する。

①P156
ヘッドハンティングは、その業界ではエグゼクティブサーチとも言われ、ヘッドハンティング会社はサーチファームという名で呼ばれている。ヘッドハンターはコンサルタントという肩書きが付くのが一般的だ。

【感想】
登場人物それぞれに個性的で魅力がある。
特に、ヒロインの情に厚く、時に、とぼけた感じがいい。
最初、新米らしく「ひよっこ」感満載だったけど、章をおって成長していく。
各章によって、ビジネス内容が変わり、業界の内実も知れて興味深い。
構成も緻密で、①の出だしと②の最期で、つじつまが合うようになっている。(驚く)

【おまけ】
以前も書いたが、杉田敏先生が、「ヘッドハンターの名刺はどうなってるんでしょうねえ・・・『ヘッドハンター』とは書かれてないと思います(笑)」、と言われていたのを思い出す。
本書は①②同時出版され、その後、③は出ていない。シリーズ化されることを切に願う。(著者は、「犯人に告ぐ」シリーズが有名だけど、私はこちらの方が好みだ)

【参考リンク】
「引き抜き屋 鹿子小穂の冒険」(1)雫井脩介
「引き抜き屋 鹿子小穂の帰還」(2)雫井脩介

【ネット上の紹介】
父が創業した会社で若くして役員となった鹿子小穂は、父がヘッドハンターを介して招聘した大槻によって会社を追い出されてしまう。そんな小穂を拾ったのは、奇しくもヘッドハンティング会社だった。新米ヘッドハンター・小穂は、一流の経営者らに接触するなかで、仕事や経営とは何か、そして人情の機微を学んでいく―。緊迫感溢れるミステリーで人気の著者が新境地に挑んだ、予測不能&感涙のビジネス小説。

「白夜行」東野圭吾

2020年05月05日 15時09分17秒 | 読書(小説/日本)
1973年に起きた殺人事件。
被害者の息子・桐原亮司と、「容疑者」の娘・西本雪穂。
(亮司がやたら暗い少年、雪穂がとてつもない美少女、って設定)
この2人を中心に、約20年の歳月をかけた時代背景、精緻な物語が展開する。

P16
「女というのは恐ろしいな。現場が家から目と鼻の先やっちゅうのに、一応化粧してきよったもんなあ。そのくせ亭主の死体を見た時の泣きっぷりは、かなりのもんやった」

P358
「あんた、馬鹿だねえ。家に金があるから、ああいう紳士が出来上がるんだよ。顔立ちにだって、気品ってもんが出てくる。あの人だって、貧乏人に生まれてたら、もっと下品で卑しくなってたに決まってるよ」

P436
「俺の人生は、白夜の中を歩いているようなものやからな」
「白夜?」
「いや、何でもない」

P767
だが雪穂と一緒にいると、美佳は次第に自分の身体が強張ってくるのを感じる。決して隙を見せてはならないと、心の中の何かが警告を発し続けるのだ。あの女のオーラには、これまで美佳たちが生きていた世界には存在しない、異質な光が含まれているような気がする。そしてその異質な光は決して美佳たちに幸福をもたらさないように思えるのだった。

【感想】
15年くらい前に買って、そのまま積んでおいた。
なぜか、急に読みたくなった。(コロナのせい?)
どちらかというと、私の趣味じゃない(と思っていた、だから積んでおいた)。
中心となる人物2人の心理描写がない・・・状況と行動ばかりが語られる。
読み手は推察するしかない。
物語もやたら暗い。(状況そのものが「白夜」)
それにもかかわらず、圧倒される。一気読みだ。
今は、「読むべし」と思う。

【おまけ】1
読む前は、「風紋」や「晩鐘」のような作品を想定していた。
しかし違った。
読んでいて、なんとなく「模倣犯」「黒い家」を思い出した。

【おまけ】2
大阪が重要舞台となるので、大阪弁も含めて親しめる。
大阪の地図を見ながら読んだ。
布施の手前が今里。(さらに西が鶴橋)
「じゃりン子チエ」の新世界、西成区に匹敵するディープな(大阪らしい)地域、と思う。地理として「血と骨」と重なる部分がある。

【参考リンク】
「風紋」乃南アサ

「晩鐘」乃南アサ

「血と骨」梁石日

【ネット上の紹介】
1973年、大阪の廃墟ビルで一人の質屋が殺された。容疑者は次々に浮かぶが、結局、事件は迷宮入りする。被害者の息子・桐原亮司と、「容疑者」の娘・西本雪穂―暗い眼をした少年と、並外れて美しい少女は、その後、全く別々の道を歩んで行く。二人の周囲に見え隠れする、幾つもの恐るべき犯罪。だが、何も「証拠」はない。そして十九年…。息詰まる精緻な構成と、叙事詩的スケール。心を失った人間の悲劇を描く、傑作ミステリー長篇。

「よろこびの歌」宮下奈都

2020年05月04日 10時43分46秒 | 読書(小説/日本)
「よろこびの歌」宮下奈都

久しぶりに再読した。
宮下奈都さんというと、「羊と鋼の森」が有名だけど、
私は、こちらの方が好みだ。

御木元玲は、音大附属高校の受験に失敗、普通の高校に通うことになる。
失敗した受験、実力不足への認識、不本意な現状。
心を閉ざした日々の中、合唱コンクールがあり、指揮を任される。
やる気のないクラスメート、しかし、任されると全力を出さずにいられない。
全部で7章あり、各パートで語り手が変わる。
ひとりひとりの思いが吐露され、ポリフォニックな作品となる。
すばらしい!

P208
いやいや引き受けたに違いないのに、御木元さんは途轍もなかった。特別としかいいようのない光を私たちに見せてくれた。彼女にしてみれば、特別なつもりもなかったのかもしれない。指揮者になったことで光が漏れた。そんな感じだった。
 級友たちをどうにか引っ張っていくために四苦八苦する彼女は、自分では歌わず、指揮と指導に徹していた。それでも彼女が各パートの出だしや山場を歌って示す、その歌声に触れただけで身体に鳥肌が立つようなことが何度もあった。そういうとき、私は昂揚し、かえってうまく声が出なくなってしまう。光り輝くような声の主を、ただ見つめていることしか出来なかった。

【ネット上の紹介】
著名なヴァイオリニストの娘で、声楽を志す御木元玲は、音大附属高校の受験に失敗、新設女子高の普通科に進む。挫折感から同級生との交わりを拒み、母親へのコンプレックスからも抜け出せない玲。しかし、校内合唱コンクールを機に、頑なだった玲の心に変化が生まれる―。見えない未来に惑う少女たちが、歌をきっかけに心を通わせ、成長する姿を美しく紡ぎ出した傑作。

「警官の血」佐々木譲

2020年05月03日 20時23分39秒 | 読書(小説/日本)
「警官の血」佐々木譲

昭和23年から平成まで、三代の警官を描く大河ミステリ。
とても面白く、一気読み。
2007年の作品だけど、もっと早くに読むんだった。

上巻P180
「覚えておけ。駐在警官は、ただの外勤巡査とはちがう。極端な言い方をすれば、外勤巡査は勤務中だけ真面目な警官であればいい。だけど駐在警官は、二十四時間、立派な警官でなくちゃならないんだ。覚悟はいいな」

下巻P218
「ひとつだけお聞かせください。この任務に、わたしが、選ばれた理由は何なのでしょうか」
(中略)
「血だ。きみには、いい警察官の血が流れている。こんなイレギュラーな任務にも耐えられるだけのね」

【ネット上の紹介】
血か、運命か。三代の男たちは警察官の道を選んだ。「このミステリーがすごい!」(2008年版)第1位。昭和二十三年、警察官として歩みはじめた安城清二は、やがて谷中の天王寺駐在所に配属される。人情味溢れる駐在だった。だが五重の塔が火災に遭った夜、謎の死を遂げる。その長男・安城民雄も父の跡を追うように警察学校へ。だが卒業後、その血を見込まれ、過酷な任務を与えられる。大学生として新左翼運動に潜りこめ、というのだ。三代の警官の魂を描く、空前絶後の大河ミステリ。

「これは経費で落ちません! 」①―⑥青木祐子

2020年04月29日 07時18分10秒 | 読書(小説/日本)
「これは経費で落ちません! 」①―⑥青木祐子

シリーズを再読した。
お仕事小説のジャンルに入ると思う。
経理課・森若沙名子を中心としたオフィスの人間模様を描いた小説。
最初、図書館で借りて読んだけど予想以上に面白かったので、買いなおしておいたのを再読したのだ。

本作品の魅力は、ヒロインの森若さん。
人間関係が淡泊で真面目。
周囲とは常に一定の距離をおいて、波風を立てようとしない。
会社の飲み会にも出ず、女子会も合コンも参加せず。
それでも、面倒ごとに巻き込まれてしまい、不正をただしてしまう。
地味なキャラクターだけど、シリーズを引っ張っている。
つまり、読者がヒロインに魅力を感じ、指示している、と言うことだ。
もちろん、脇役キャラも魅力。しっかり描かれている。
「こう言う奴、会社にいるよな」、ってキャラが多数登場する。
経理をしていると、数字から人柄・人格が見えてくる。(給与計算、年末調整をしてると懐具合まで分かってしまうし)こうして、オフィスの人間模様が描かれる。

②P11
「ウサギを追うなってのはなんですか?森若さん」
(中略)
「雑念に惑わされるなって意味。(後略)」
(中略)
「慣用句なんですか?」
「昔の映画にあったのよ」
沙名子の好きなハリウッド映画、『パシフィック・リム』の中にあった台詞である。(でも、もともとは『アリス』だと思うけど・・・映画「マトリックス」でも「白ウサギについて行け(Follow the white rabbit.)」と出てくるし)

④P28・・・④から美華が登場し作品魅力度が増す
美華は何を考えているのだ。言いたくても言わないほうがいい言葉というものはあるではないか。たとえ、みんなが考えていることであっても。
 入ったばかりの会社で、全方位にケンカを売ってどうするのだ。
 無理にフレンドリーになる必要はないが、信頼をなくしてはならない。嫌われるのは、親しくなりすぎるのと同じくらい始末が悪い。

④P226
「どうして決定的な失態をすると?」
「有本さんは頭が悪いからです。アンフェアです。あんなやり方が、社会に通じるわけがないです。彼女はどこかでつまずくはずです。そうじゃなきゃおかしい」
(中略)
 あちこちでつまずいているのは美華のほうではないか。マリナと美華、頭がいいのはどっちだ。正しければ勝つわけではないのなら、正しさに何の意味がある。

⑤P58
「静岡に一泊――ですね」
 沙名子は出張計画書を数秒眺めた。
 透明な水晶が燃えあがる。(山崎は「共感覚」の持ち主なのか?「共感覚」は感情や言葉を色で認識するという・・・沙名子は山崎にとって「透明な水晶」なのだ。だからかまわずにいられない。ちなみにこの能力は、「 臨床真理」「天空の犬」でも取り上げられている)

⑤P60
昔は人の精神というものは年齢とともに成熟していくと思っていたが、実は生まれたときが完璧で、少しずつ欠けていくのかもしれないと思う。(年齢とともに精神的に成長し、穏やかになるなら誰も苦労しない・・・私を含めて世の年寄りを見よ!)

⑤P106
――大人の友情にはメンテナンスが必要です。

⑤P177
「(前略)いくら性格が良くたって、モテるブスなんてこの世に存在しないっつーの!」
(けだし至言である・・・【追記】若くて美しいから愛されるとは限らない。チャールズ皇太子はダイアナ妃でなく、カミラさんを選んだ・・・重要な点だ、検討課題)

⑥P47
彼氏ができたからといって沙名子自身は変わらない。すりあわせが必要なだけだ。スマホに新しいアプリを入れたようなものである。ちょっと面倒なアプリだが、そこそこ役立つし楽しいので使うことにする。
(森若さんのキャラが良く出ているモノローグだ)

⑥P257
美華はおそらく普通に生活していたら接点はない、同じクラスにいても友達にならないタイプだが、今は仲良くなっている。(仕事仲間は自分で選べない・・・そこが面白いところで、苦しいところでもある・・・趣味の仲間も同様に接点のない人と出会い、話をする、いろいろな人がいるなあ、と思う)

【感想】
なかなかクセのあるキャラたちが登場する。
クセというと、ネガティブな印象だが、これを「こだわり」と言い換えることも出来る。
年齢を重ねるほど、人は「こだわり」が出てくる。
十人十色じゃないけど、ない人はいない。
それが許せる範囲かどうか、だ。
自分と合うかどうか、だ。
ところで、100人に1人の割合でサイコパスがいるそうだ。
もし出会ってしまったら逃げるしかない。
【参考】・・・「サイコパス」中野信子https://blog.goo.ne.jp/takimoto_2010/e/7c0092f5eb09449caa60e6f2cf9fa09d

【感想】2
⑥巻では、マリナのキャバ嬢疑惑から端を発して企業小説へと変貌していく。ハラハラどきどきで、今までにない面白さが加わりテンションが上がる。沙名子が社内政治に手を出すとは思わなかった。(その動機が沙名子らしい)

【おまけ】
それにしても、嫌われキャラの描き方がうまい。
マリナ、志保、鎌本が相当する。
マリナは、アレだけど、次作もう登場しないなら淋しい。

【誤植】②P234
自分の仕事をスムースにいかせるために
 ↓
自分の仕事をスムーズにいかせるために
(但し、これは難しい問題で、一概に言えず揺れている)


「RDG」再読

2020年04月27日 08時19分16秒 | 読書(小説/日本)
「RDG」荻原規子①ー⑦再読

毎年恒例、「RDG」を再読した。
何度読んでも飽きない。
登場人物が脇役を含めて魅力的。
特に、真響と真夏が登場してくる②巻以降が好き。
(もちろん、高柳も登場するから作品も引き立つ)
①を押さえてこその、②以降の東京編。
飛躍の前の伏線として①を読んでおく必要がある。
・・・和宮も出てくるし。

PS
読書はすすむ。
コロナのせいで、食事は冷凍物と缶詰ばかり。
移動距離トイレだけだし。
基礎体力落ちてるだろうなあ。

「粗茶」シリーズ再読

2020年04月22日 20時04分28秒 | 読書(小説/日本)
①「雨にもまけず粗茶一服」松村栄子
②「風にもまけず粗茶一服」松村栄子
③「花のお江戸で粗茶一服」松村栄子

3冊いっきに再読。
単発では再読してるけど、シリーズいっきは2年半ぶり。

文庫本・上①P123
能曲〈野宮〉のシテは〈源氏物語〉に出てくる六条御息所、ワキは野宮神社に詣でた旅の僧侶だ。御息所は後段、幽霊の姿で現れ、つらつらと生前の不幸を物語る。野宮とは、かつて彼女が源氏への想いを断ち切り娘とともに伊勢に下ろうと決心したときに仮の宿りとした神域であり、にもかかわらず忍んできた源氏を断り切れずにまた逢ってしまった因縁の場所でもある。
「野宮で源氏と御息所が最後に逢うたんは、物語の中では9月7日やそうですわ。この幽霊は、せやし毎年毎年9月7日になると野宮に出ますのや。(後略)」(嵯峨野に野宮神社がある・・・前回、愛宕山に登ったときに立ち寄ろうと思ったけど、時間がなくて諦めた)

文庫本・上①・P205
「アズマ君、ようやっと自分の立場ゆうもんがわかってきはりましたなぁ。ええことやと思いますわ。そうやねん。うちは、この家のお嬢様やねん。アズマ君は居候や。可哀想に寝るとこもないのんを、うちのお父ちゃんに拾われてん。そこんとこを忘れたらあかんと思うわ。自転車はうちのやし」
 この子も最初に会ったときには、頭のネジが一本抜けているではないかと思うくらいおっとりして見えたものだが、地元に帰ってずいぶん印象が変わった。京女油断ならじと遊馬はいささかおののきの体だ。
(そのとおり!京女をあまく見てはいけない・・・ウチの親戚は父方も母方も京都なので、そうそう、と思いながら読んだ)

単行本②P199
〈いただきます〉は、あなたの命をいただきますという意味だと子どもの頃、隣の和尚に教わった。鮎の命をもらって、自分の命をつなぐ。〈ご馳走さま〉は、走り回ってもらってありがとうございます、という意味だ。

【誤植】を見つけた
単行本②P127
これからや遅なってしまうし
 
これからやと遅なってしまうし

「聖女の魔力は万能です」①ー⑤橘由華

2020年04月20日 19時15分31秒 | 読書(小説/日本)
「聖女の魔力は万能です」①ー⑤橘由華

ライトノベルの人気作品。(今のところ⑤巻まで出版されている)
ジャンルとして、『異世界召喚』モノ?(そんなジャンルあるの?)
魔物を倒すために『聖女』として召喚されたセイの話。
普通は、波瀾万丈の冒険活劇になるはずだが、いたって普通の日常、薬草研究や料理、異世界でのスローライフが描かれる。そこが本作のミソだ。

P136(3巻目)
医食同源というのは、栄養のバランスが取れた食事を取ることで病気を予防し、治療しようとする考え方だったと思う。
これは日本独自の考え方ではなく、薬膳から得られた発想を基にしたものだった気がする。

【感想】
重い作品ばかりが続くと、疲れる。
気分転換に軽い作品もいいかもね。
(あまり軽いとかえって疲れるけど)
本作品は、いい感じかな。

【おまけ】
重い、軽いの違いは何か?
登場人物の隅々まで心理描写が行き届いているか、ってのが私の考え。
彼らの行動に整合性があるかどうか。
脇役同士の行動、発言にまで化学反応があるか。
他の方は知らないが、私は登場人物の感情の軌跡を追いたい。
ストーリーを追うだけだったら、あらすじで足りる。
感情の振幅、揺れを見たい。
深くまで掘り下げているほど、「重い」、と感じる。

優れた作品ほど、脇役の心理まで行き届いている。
歴史のうねりを感じさせてくれればなお良し。

PS
重ければ、優れているのか、面白いのか、って言われると、またそれは違う。
そこがさじ加減の難しいところ。
ある程度の重さは必要条件、でも、十分条件じゃない。

【ネット上の紹介】
どこにでもいる、ちょっと仕事中毒な20代OL・セイは、残業終わりに異世界召喚された。…でも、急に喚びだした挙げ句、人の顔見て「こんなん聖女じゃない」ってまさかの放置プレイ!?王宮を飛び出し、聖女の肩書きを隠して研究所で働き始めたセイだったが、ポーション作りに化粧品作り、常識外れの魔力で皆の“お願い事”を叶えるうち、どんどん『聖女疑惑』が大きくなってしまい…。聖女とバレずに夢の異世界スローライフを満喫出来るか!?

「狼の義」林新/堀川惠子

2020年03月08日 19時39分17秒 | 読書(小説/日本)
「狼の義」林新/堀川惠子

NHKエグゼクティブ・プロデューサー・林新氏が10年かけて集めた資料を基に、犬養毅を描いた作品。しかし、志し半ばで亡くなってしまう。
それを引き継いだのが、妻である堀川惠子さん。もともとノンフィクション作家で、「原爆供養塔」「死刑の基準 「永山裁判」が遺したもの」「教誨師」など数々の優れた作品をものしておられる。今回は、夫の作品を「小説」の形式で引き継いだ。昨年上梓された作品だが、読むのが遅くなった。私にとって、今年のベスト、と思う。ぜひ読んで、明治、大正、昭和へと繫がる時代の空気を感じてみて。

P83
自由党員の多くは下駄で闊歩するバンカラで、政策立案などとはほとんど無縁。一方改進党は背広にネクタイ姿で、毎日、英字新聞も含め何紙にも目を通す。

P115
日本で初めての選挙は、投票率93.9パーセントという驚異的な数字を記録した。
投票用紙に候補者の名前だけでなく、役人の前で自らの住所、氏名を書き、印鑑まで押さねばならなかった。

P119
院内の廊下に用意された帽子掛けの下には、多くの議員が仕込み杖を用意した。反対派の壮士に反撃するための武器だ。

P290
「諸外国でも政権を倒す革命のようなことはできても、その後の統治となると、どこも失敗してます」(フランス革命ではロベスピエールが「恐怖政治」をし、さらにナポレオンが出てくる。ロシア革命ではスターリンが「粛清」しまくった。中国では鄧小平が舵を切ったから、何とか、経済的には繁栄した・・・文革のままだったら、どうなっただろう?・・・あのときの紅衛兵はどこに行った?)

P378
犬養の持論は軍縮だ。外交や軍事は政争の具とせず、超党派で取り組みべきだと繰り返し訴えてきた。ロンドン会議が終わる直前にも、「日本のような貧乏所帯で軍艦競争をやられてはたまらない」と新聞記者達を前に散々に語っている。

昭和6年9月18日満州事変が勃発
P389
この年、西暦の1931年をい(一)く(九)さ(三)はじまる(一)、と読む易者がいた。その予言どおり、後に15年戦争と呼ばれる昭和の戦争が幕を開ける。

P409
満州事変が勃発した時、事変を支持した新聞社は大幅に部数を伸ばし、事変を批判的に伝えた朝日新聞には不買運動が起きた。2万、3万と部数を減らす朝日が、姿勢を転じるのに時間はかからなかった。

犬養毅、5・15直前でのラジオ放送
P434
「侵略主義というようなことは、よほど今では遅ればせのことである。どこまでも、私は平和ということをもって進んでいきたい。政友会の内閣である以上は、決して外国に向かって侵略をしようなどという考えは毛頭もっていないのである」

【ネット上の紹介】
日本に芽吹いた政党政治を守らんと、強権的な藩閥政治に抗し、腐敗した利権政治を指弾、増大する軍部と対峙し続け、5・15事件で凶弾に斃れた男・犬養木堂。文字通り立憲政治に命を賭けた男を失い、政党政治は滅び、この国は焦土と果てた…。真の保守とは、リベラルとは!?戦前は「犬養の懐刀」、戦後は「吉田茂の指南役」として知られた古島一雄をもう一人の主人公とし、政界の荒野を駆け抜けた孤狼の生涯を圧倒的な筆力で描く。驚愕の事実に基づく新評伝!

「検事の信義」柚月裕子

2020年01月17日 18時30分46秒 | 読書(小説/日本)
「検事の信義」柚月裕子

ひさびざの「佐方貞人・シリーズ」最新刊、4作目。
次の4編が収録されている。
「裁きを望む」
「恨みを刻む」
「正義を質す」
「真義を守る」

P140
意見を求められた検察官は、「不許可」か「しかるべく」のどちらかの返答をする。不許可は、保釈を認めない。しかるべく、は裁判所の判断に任せる――保釈しても構わない、という意味だ。

P125
「人には感情があります。怒り、悲しみ、慈しみ。それらが事件を引き起こす。事件を起こした人間の根底にあるものがわからなければ、真の意味で事件を裁いたことにはならない」

【ネット上の紹介】
任官5年目の検事・佐方貞人は、認知症だった母親を殺害して逮捕された息子・昌平の裁判を担当することになった。昌平は介護疲れから犯行に及んだと自供、事件は解決するかに見えた。しかし佐方は、遺体発見から逮捕まで「空白の2時間」があることに疑問を抱く。独自に聞き取りを進めると、やがて見えてきたのは昌平の意外な素顔だった…。(「信義を守る」)

「犯人に告ぐ 紅の影」(3) 雫井脩介

2020年01月16日 21時13分21秒 | 読書(小説/日本)
「犯人に告ぐ 紅の影」(3) 雫井脩介

シリーズ3作目だけど、ベクトルは落ちない。
見事な出来栄えだ。
犯人側の行動や心理が描かれて深みが出ている。

P171
現実をどうするか、それは実現可能か不可能か・・・・・・それが思考の大部分を占めるようになった。どう転ぶか分からないような遠い未来のことは考えても仕方ないし、まして家庭などという、何が正解か分からないようなものに、エネルギーを割いてかかずらう気にはなれない。

【ネット上の紹介】
依然として行方の分からない“大日本誘拐団”の主犯格“リップマン”こと淡野。神奈川県警特別捜査官の巻島史彦はネットテレビの特別番組に出演し、“リップマン”に向けて番組上での対話を呼びかける。だが、その背後で驚愕の取引が行われようとしていた!天才詐欺師が仕掛けた大胆にして周到な犯罪計画、捜査本部内の不協和音と内通者の存在―。警察の威信と刑事の本分を天秤にかけ、巻島が最後に下す決断とは!?

「紅子」北原真理

2019年12月19日 10時54分56秒 | 読書(小説/日本)
「紅子」北原真理

1944年、満州が舞台。(これだけでツボだ)
吉永紅子は、さらわれた子ども達を救うため、馬賊の城塞に乗り込む。
さらに、実在の人物として、甘粕正彦も登場し、金塊をめぐって、馬賊、関東軍、特務機関が入り乱れて物語が展開する。

P19
「吉永紅子といったな。純粋の日本人に見えない」
「母がドイツ人、ええと西洋人なの」
 欠耳の言葉通りだ。
「べにこ、は漢字で、紅の子と書くのか」
「そ、そうよ」
 紅子の顔が真っ赤になった。古い中国語で紅子の意味するところは胡子、即ち馬賊である。
「いかれた名前だ」

敵からの逃亡中のサスペンスシーン。
いく手に崖が立ちはだかり、勝手についてきた犬をどうするか悩む。
P237
 紅子は犬に訊いた。
「登れる?」
 犬は首を傾げた。
 紅子は情けない顔でしゃがみ、犬をふりむいた。
「私、貴方、苦手なんだけど・・・・・・おんぶ、してほしい?」
 犬は首を傾げている。

【感想】
デビュー作「沸点桜」も面白かったが、2作目にあたる本作はさらに面白く、予想以上の仕上がりだ。
シリアスなバイオレンス・シーンとコミカルなシーンが同居するが違和感はない。(「ジャパネスク」の瑠璃姫が満州に降り立ったような作品だ)
純粋なエンターテインメント小説として、本年度トップクラス、と思う。

【おまけ】
P269に聖路加病院の名称が出てくるが、ルビが「せいろか」となっている。
正式には「せいるか」である。
TVや世間でも「せいろか」と言われる事があるが、間違いである。
なぜなら、聖人ルカの漢字表記に由来するからで、「せいるか」が正式名称だ。

【参考リンク】
「沸点桜」

【ネット上の紹介】
1944年満州。馬賊の城塞に、関東軍の偵察機が突っ込んでくる。冷徹な首領、黄尚炎たちは、パイロットが絶世の美女であることに驚く。その女、吉永紅子は、子供たちを救出したいがために、荒くれ男たちのいるこの谷へ女一人で飛び込んできたという。尚炎は、この女は肝が据わっているのではなく、馬鹿なのだと呆れる。関東軍特務機関の黒磯国芳少佐は、吉永紅子が嫌いだ。甘粕正彦に可愛がられ、やりたい放題する紅子を憎いとさえ思っている。無茶で破天荒な女に翻弄される、馬賊の頭領と関東軍将校。一方、甘粕が隠匿する金塊を狙う輩たち。騙し騙され欲望が渦巻く、サスペンスフルな冒険譚。

「派遣社員あすみの家計簿」青木祐子

2019年11月13日 12時17分25秒 | 読書(小説/日本)
「派遣社員あすみの家計簿」青木祐子

青木祐子さんの新刊。
あすみは会社を“寿退社”したのに、恋人は雲隠れ。
残ったのは、カードの支払いのみ。
家族の援助は期待できず、急遽、派遣会社に登録する。
シャンプー配りや工場の日雇いで、なんとか食いつないでいく。
その苦境のなか、友達も出来ていく。

あすみの就職の理想
P27
25万円は最低ラインである。勤めるなら残業なし、ボーナスあり、家賃補助あり、有給休暇を好きにとれて、オフィスが綺麗で、丸の内にあって、人間関係がよくて、責任はないけどやりがいがる会社がいい。(そんな会社あるわけない)

P89
ネットの求人サイトを調べたら、28歳の中途入社で、給料25万円を超えて楽そうな仕事はほぼなかった。あると思ったら看護師だの、英検1級以上必要だの、未経験者不可だのである。オフィスワークだったら手取り20万円いけばいいほうで、それすらスキルが足りなかったりする。

【感想】・・・以下、ネタバレありなので、未読の方注意。
P272、あすみは穏和すぎて、元カレに強い態度をとれないが、終盤でキレるシーンがある。そこがいい。
友人のミルキーの為に怒るのである。
「なんてことするの!これ、あたしの友達が持ってきてくれたのに!」

【ネット上の紹介】
飲食店社長を自称していた恋人の理空也に騙され、会社を“寿退社”してしまった藤本あすみ。理空也は姿を消し、残ったのは高額なカードの支払いだった。ピンチに陥ったあすみは親友の仁子に説教され、家計簿をつけることに。派遣会社に登録したものの、なかなか仕事は決まらない。シャンプー配りや工場の日雇いと必死の節約で食いつなぎ、ようやく派遣先を得たあすみ。そんな折、合コンで出会った商社マンの八城からアプローチを受けるが、理空也への思いを断ち切れずにいて…。家計簿には、生き様が表れる!?人生に迷子中のアラサー女子の節約サバイバル小説。

「罪の轍」奥田英朗

2019年10月30日 22時27分51秒 | 読書(小説/日本)
「罪の轍」奥田英朗

奥田英朗さん最新作。
オリンピックを翌年に控えた昭和38年が舞台。
礼文島から1人の若者が東京にやって来た。
窃盗事件を起こして、島にいられなくなったのだ。
そして、東京でも空き巣や賽銭泥棒を繰り返す。
そんなある日、子供の誘拐事件が起こる。
いったい彼がやったのか?

当時の世相、刑事の縄張り意識、上下関係、
圧倒的な筆力、リアリティで描く人間ドラマ。
やはり、奥田英朗作品はひと味違う。
他の作家と比べて、ワンランク上の内容だ。

【備考】
お気づきと思うが、この作品は『吉展ちゃん事件』をモデルにしている。


【ネット上の紹介】
昭和三十八年。北海道礼文島で暮らす漁師手伝いの青年、宇野寛治は、窃盗事件の捜査から逃れるために身ひとつで東京に向かう。東京に行きさえすれば、明るい未来が待っていると信じていたのだ。一方、警視庁捜査一課強行班係に所属する刑事・落合昌夫は、南千住で起きた強盗殺人事件の捜査中に、子供たちから「莫迦」と呼ばれていた北国訛りの青年の噂を聞きつける―。オリンピック開催に沸く世間に取り残された孤独な魂の彷徨を、緻密な心理描写と圧倒的なリアリティーで描く傑作ミステリ。

「彼女たちの場合は」江國香織

2019年10月21日 20時50分24秒 | 読書(小説/日本)
「彼女たちの場合は」江國香織

久しぶりに江國香織作品を読んだ。
ニューヨークの郊外に住む礼那と逸佳は旅に出る。
ふたりは14歳と17歳。
親が反対すると思い、こっそり家を出る。
但し、「これは家出ではないので心配しないでね」、と置き手紙をする。
それでも、ふたりの親は心配し、途中色々と手を打ってくる。
現在地が分からないよう、工夫をしながら旅を続けるふたり。
ロードムービーのような感じで楽しめた。

P266
この男性がのんでいたのはウイスキーのロックだが、ワイルドターキーだったろうか、それともメイカーズマーク?(厳密に言うと、ワイルドターキーもメイカーズマークも、バーボン・ウイスキーだ。スコッチと区別するため、バーボン・ウイスキー、あるいは単にバーボンと表記して欲しかった。ちなみに、バーボンの9割がケンタッキー州で造られる)

【ネット上の紹介】
「これは家出ではないので心配しないでね」14歳と17歳。ニューヨークの郊外に住むいとこ同士の礼那と逸佳は、ある秋の日、二人きりで“アメリカを見る”旅に出た。日本の高校を自主退学した逸佳は“ノー(いやだ)”ばかりの人生で、“見る”ことだけが唯一“イエス”だったから。ボストン、メインビーチズ、マンチェスター、クリーヴランド……長距離バスやアムトラックを乗り継ぎ、二人の旅は続いてゆく――。美しい風景と愛すべき人々、そして「あの日の自分」に出逢える、江國香織二年ぶりの長編小説。【