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「これは経費で落ちません! 」①―⑥青木祐子

2020年04月29日 07時18分10秒 | 読書(小説/日本)
「これは経費で落ちません! 」①―⑥青木祐子

シリーズを再読した。
お仕事小説のジャンルに入ると思う。
経理課・森若沙名子を中心としたオフィスの人間模様を描いた小説。
最初、図書館で借りて読んだけど予想以上に面白かったので、買いなおしておいたのを再読したのだ。

本作品の魅力は、ヒロインの森若さん。
人間関係が淡泊で真面目。
周囲とは常に一定の距離をおいて、波風を立てようとしない。
会社の飲み会にも出ず、女子会も合コンも参加せず。
それでも、面倒ごとに巻き込まれてしまい、不正をただしてしまう。
地味なキャラクターだけど、シリーズを引っ張っている。
つまり、読者がヒロインに魅力を感じ、指示している、と言うことだ。
もちろん、脇役キャラも魅力。しっかり描かれている。
「こう言う奴、会社にいるよな」、ってキャラが多数登場する。
経理をしていると、数字から人柄・人格が見えてくる。(給与計算、年末調整をしてると懐具合まで分かってしまうし)こうして、オフィスの人間模様が描かれる。

②P11
「ウサギを追うなってのはなんですか?森若さん」
(中略)
「雑念に惑わされるなって意味。(後略)」
(中略)
「慣用句なんですか?」
「昔の映画にあったのよ」
沙名子の好きなハリウッド映画、『パシフィック・リム』の中にあった台詞である。(でも、もともとは『アリス』だと思うけど・・・映画「マトリックス」でも「白ウサギについて行け(Follow the white rabbit.)」と出てくるし)

④P28・・・④から美華が登場し作品魅力度が増す
美華は何を考えているのだ。言いたくても言わないほうがいい言葉というものはあるではないか。たとえ、みんなが考えていることであっても。
 入ったばかりの会社で、全方位にケンカを売ってどうするのだ。
 無理にフレンドリーになる必要はないが、信頼をなくしてはならない。嫌われるのは、親しくなりすぎるのと同じくらい始末が悪い。

④P226
「どうして決定的な失態をすると?」
「有本さんは頭が悪いからです。アンフェアです。あんなやり方が、社会に通じるわけがないです。彼女はどこかでつまずくはずです。そうじゃなきゃおかしい」
(中略)
 あちこちでつまずいているのは美華のほうではないか。マリナと美華、頭がいいのはどっちだ。正しければ勝つわけではないのなら、正しさに何の意味がある。

⑤P58
「静岡に一泊――ですね」
 沙名子は出張計画書を数秒眺めた。
 透明な水晶が燃えあがる。(山崎は「共感覚」の持ち主なのか?「共感覚」は感情や言葉を色で認識するという・・・沙名子は山崎にとって「透明な水晶」なのだ。だからかまわずにいられない。ちなみにこの能力は、「 臨床真理」「天空の犬」でも取り上げられている)

⑤P60
昔は人の精神というものは年齢とともに成熟していくと思っていたが、実は生まれたときが完璧で、少しずつ欠けていくのかもしれないと思う。(年齢とともに精神的に成長し、穏やかになるなら誰も苦労しない・・・私を含めて世の年寄りを見よ!)

⑤P106
――大人の友情にはメンテナンスが必要です。

⑤P177
「(前略)いくら性格が良くたって、モテるブスなんてこの世に存在しないっつーの!」
(けだし至言である・・・【追記】若くて美しいから愛されるとは限らない。チャールズ皇太子はダイアナ妃でなく、カミラさんを選んだ・・・重要な点だ、検討課題)

⑥P47
彼氏ができたからといって沙名子自身は変わらない。すりあわせが必要なだけだ。スマホに新しいアプリを入れたようなものである。ちょっと面倒なアプリだが、そこそこ役立つし楽しいので使うことにする。
(森若さんのキャラが良く出ているモノローグだ)

⑥P257
美華はおそらく普通に生活していたら接点はない、同じクラスにいても友達にならないタイプだが、今は仲良くなっている。(仕事仲間は自分で選べない・・・そこが面白いところで、苦しいところでもある・・・趣味の仲間も同様に接点のない人と出会い、話をする、いろいろな人がいるなあ、と思う)

【感想】
なかなかクセのあるキャラたちが登場する。
クセというと、ネガティブな印象だが、これを「こだわり」と言い換えることも出来る。
年齢を重ねるほど、人は「こだわり」が出てくる。
十人十色じゃないけど、ない人はいない。
それが許せる範囲かどうか、だ。
自分と合うかどうか、だ。
ところで、100人に1人の割合でサイコパスがいるそうだ。
もし出会ってしまったら逃げるしかない。
【参考】・・・「サイコパス」中野信子https://blog.goo.ne.jp/takimoto_2010/e/7c0092f5eb09449caa60e6f2cf9fa09d

【感想】2
⑥巻では、マリナのキャバ嬢疑惑から端を発して企業小説へと変貌していく。ハラハラどきどきで、今までにない面白さが加わりテンションが上がる。沙名子が社内政治に手を出すとは思わなかった。(その動機が沙名子らしい)

【おまけ】
それにしても、嫌われキャラの描き方がうまい。
マリナ、志保、鎌本が相当する。
マリナは、アレだけど、次作もう登場しないなら淋しい。

【誤植】②P234
自分の仕事をスムースにいかせるために
 ↓
自分の仕事をスムーズにいかせるために
(但し、これは難しい問題で、一概に言えず揺れている)

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