北九州市若松区・福岡輝子(無職・71歳)
区役所で開催されている「お口いきいき教室」に誘われた。
歯抜けばあさんの代表みたいな私でも、まだあきらめるということなどちらとも考えないで、即座に「行きます!」と返事をした。
若いころは容姿端麗とまでは言えなくても、人並みの顔立ちはしていると思っていた私。けれども、今や見る影もない。
しわも染みも老眼鏡無しでは何も見えないのをこれ幸いに、毎日鏡台の前ではすましていることができる。それでも、歯の無い口元のゆがみだけはしっかり見えてしまうのが何とも悔しい。
「この顔を見ることなく逝ってしまったあなたは幸福だったかもしれないわねえ」と、心の中で今は亡き夫につぶやき、今朝もお勤めのお経を唱えるのであった。
今さらお口のケアを始めても手遅れだということなど、誰に言われなくとも重々承知している。けれども、わずかに残っている貴重な歯を何とか保って、一日でも長く元気で過ごすこと。そして、あなたに温かいご飯をお供えすること。それが、せめてもの私の役目と思い定めているのだ。だから今日も空元気を出して、意気揚々と教室に向かうのである。
《僅(わず)かのみ残りし我が歯いとおしく 手遅れなれどケアに勤(いそ)しむ》
毎日新聞 2008年4月16日 西部朝刊
追申
私は難病なので、とても70歳まで生きられるとは思っていない。この女の人のように、長寿できたら、万々歳でしょう。でも、できるだけ歯を磨いて、健康を保ちたいと思う。
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