埼玉県東松山市・小池千鶴子(会社員・52歳)
10年前引っ越してきた時、懸命にペダルをこぎながら、随分坂の多い街だと思いました。2年目の今ごろ、朝玄関を出て顔を上げたら、朝日に照らされたなだらかな里山が、淡い黄、赤、白、もえぎ色とでもいうのか言葉に表せないような色合いにふっくらと染まっています。葉を落とした冬の木が、ぬれるような青葉に変わるまでの一刻一刻を、山の木の一本一本が「私はここよ。よく見て」と自己主張しているように思えました。
日ごとに色合いは変化し、山桜が薄桃色を添え、里山の春は進みます。この素晴らしい景色が見られるのも坂があるからと思うと、苦しかった坂道のその先に何が見えるか楽しみになりました。
街には花がたくさんありました。街角に公園に。家々は思い思いの花を丹精込めて育て、道行く人を楽しませてくれます。枝垂(しだ)れるほどに咲くボタン、バラ。一面の芝桜、コスモス。今ごろは桜のトンネル。
そして早朝、街角のゴミを拾いながらウオーキングしている人、鍵をなくした娘を自転車ごと車で送ってくれた人。楽しいことばかりではなかったけれど、「おはよう」の言葉に元気をもらい、季節をめぐる花たちに心が軽くなり、「大丈夫よ」と言われ力が出ました。人も温かい大好きな街です。
里山が新緑におおわれ、藤が咲くころ、引っ越します。ありがとう。
毎日新聞 2008年4月11日 東京朝刊![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/kame.gif)
追伸
私の住んでいる地域も里山が近く、坂道が多い。最近は歩けなくなったので、モッパラ電動車いすで、外出している。色とりどりの山々は、美しく活動的な命に満ち溢れている。私もこの光景に接していると、心が、洗われる。
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