知って得する!トリビアの泉
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 「引っ越して半年になるのに、新宿が恋しい」。そんな一文の便りが胸に染みる。私が四国から上京してきて、住み込みで働いていた下宿屋N館の若奥さんからだった。家族はみな他界して一人で頑張ってきたが、昨年の秋、N館をたたんで都心を離れていた。私にとってもふうっと遠いあの日が懐かしい。

 当時はビートルズやベンチャーズの時代で、街はエレキの音楽であふれていた。N館には40人ほどの男子学生がいた。炊事場の大きな釜、大きな鍋に驚いたものだ。「○○くーん、電話よー」。2階に向かって叫ぶ若奥さんの声。私も、若かった。朝食では各部屋のドアをハタキでたたいて起こし、夜食にラーメンを作り、門限破りの常習犯にも、電柱のそばの窓を開けておき、大奥さんにしかられる。

 そんな私に、帰省すれば古里のお土産を、文化祭や提灯(ちょうちん)行列、喫茶店に誘ってくれるやさしくて人なつっこい学生さんたちばかりだった。何十年もの間学生さんの世話に明け暮れ、今その大役を終えて、また巡ってきた春の日差しの中で若奥さんの胸に去来するものは……。

 便利な家電に囲まれたマンション暮らしよりも、「行ってらっしゃい、お帰りなさい」の声のあるN館での下宿生活は、きっと彼らの楽しい青春の一ページとして心の中に残っていると思う。私も、ほのぼのとちょっぴり切ない若い日。若奥さん、長い間お疲れさまでした。

毎日新聞 2008年3月31日 東京朝刊

 なんかほのぼのとした文章で、この時代に戻りたい気持ちになった。きっと若奥さんが、そのままの姿で現れるだろう。



コメント ( 1 ) | Trackback ( 0 )



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コメント
 
 
 
Unknown (げんさん)
2008-03-31 11:43:03
いつもながらの鋭い視線です。
頑張って下さい。
 
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