音盤工房

活字中毒&ベルボトムガール音楽漂流記

エタに熱視線を送るロックンロール・レジェンド

2008年12月10日 | インポート

Chuck_berry

 先日、映画『SHINE A LIGHT』を観た帰りに昼飯を食べる為、「タン・カフェ」というベトナム料理屋に入った。場所はさんプラザ地下一階にある。すこし路に迷ったが、電話で確認するとすぐにみつかった。店に入るとお香のような匂いが鼻腔を擽る。日本語で対応した店長は、流暢ではないが、かくべつ聞き取り難いという訳でもなかった。勧められるままにフォー付きの定食を注文した。フォーは米粉のうどん、きし麺のような食感でこしがある。バジリコが入っている為、初めての人には漢方薬のようなその香りに戸惑うかもしれない。皿には豚の角煮、春巻き等が乗っている。オーダーしたものがテーブルに運ばれてくるのは意外に速く、映画館で買った映画のパンフレットを開く間も無く出て来たそれらを、早々に食べる羽目になった。そしてそれらを無言で食べ終えた我々は、食後の余韻もそこそこに、その店を後にした。帰りに名刺を貰ったが、生憎、僕のは家に忘れてきた為、渡す事ができなかった。名刺なんていうものは一度に数百枚は刷るのでこんな機会でもないと容易に消費しない。僕はそんな貴重な機会を喪ったわけだ。

 次に我々が向かった場所は、タワーレコード。豊岡にはTSUTAYA系列のCDショップはあっても、タワーレコードのような大型店はない。品数は雲泥の差だ。ネットで買う機会が増えた最近でもやはり直に手にとって買う醍醐味は通販にはない。だから今回是非ここへは足を運ぶつもりだった。距離も三ノ宮駅から10分とかからない。なんとなく雑誌のある棚を覗くと早々と『ロッキング・オン』が発売されていた。特集は勿論、映画『SHINE A LIGHT』。ミック&キースのロングインタビューが掲載されていた。まずはこれをゲット。

rockin'on (ロッキング・オン) 2009年 01月号 [雑誌] rockin'on (ロッキング・オン) 2009年 01月号 [雑誌]
価格:¥ 650(税込)
発売日:2008-12-01
 続いて好きなマディ・ウォーターズやハウリン・ウルフのアルバムを物色する為、右往左往。しかし、肝心のブルースの棚を探すのはなかなか難儀であった。漸く見つけたものの、輸入盤の編集盤が意外に多く、オリジナル盤が少ないのが残念であった。4,5年前に大阪や神戸をうろついていた頃は、それでもあっと驚く名盤が必ずといっていいほど陳列していたものだ。
Breakin' It Up & Breakin' It Down Breakin' It Up & Breakin' It Down
価格:¥ 1,372(税込)
発売日:2007-06-05
それでも買おうと思っていたウォーターズ、ウインター&コットンの『BREAKIN' IT UP & BREAKIN' IT DOWN』は、輸入盤と国内盤の数枚が置いてあったので、僕は国内盤を買うことに決めた。
ザ・ロンドン・ハウリン・ウルフ・セッションズ ザ・ロンドン・ハウリン・ウルフ・セッションズ
価格:¥ 2,394(税込)
発売日:1997-10-22

 ハウリン・ウルフをロンドンに招いて収録された『ザ・ロンドン・ハウリン・ウルフ・セッションズ』は、発売当時つい買いそびれてしまった一枚だ。ストーンズのメンバーだったビル・ワイマンや現在もストーンズで活躍しているチャーリー・ワッツ、それにエリック・クラプトン、イアン・スチュワート、リンゴ・スターまで参加した豪華セッションだ。ストーンズファンならおさえておきたい名盤中の名盤である。これもゲット。

 そして最後は、チャック・ベリー『ヘイル!ヘイル!ロックンロール』。1986年に60歳のバースディ・コンサートとして開催されたチャック・ベリーのライヴ映像を中心に構成されたテイラー・ハックフォード監督の映画作品。映画製作に当たって音楽プロデューサーとして白羽の矢が立ったのはストーンズのキース・リチャーズだった。

チャック・ベリー ヘイル!ヘイル!ロックンロール [DVD] チャック・ベリー ヘイル!ヘイル!ロックンロール [DVD]
価格:¥ 5,900(税込)
発売日:2007-03-21

 僕は当時この映画をVHSで観た。ちょうどブルースやサザン・ソウルを齧り始めていた頃で、この映画は僕にとって黒人音楽へのかっこうの入り口になった。チャック・ベリーの曲を始めて耳にしたのはストーンズの「キャロル」だった。当時はよもやこの曲がチャック・ベリーの曲とも知らずに聴いていた訳だが、はっきりとチャックの曲と知ったのはこの『ヘイル!ヘイル!ロックンロール』を観てからだった。この映画を観たチャック・ベリーの第一印象は正直なところ、その余りの暴君ぶりには共感を持てなかったものだが、特に場外篇としてキースとやりあうリハーサル風景は緊迫感に満ちていて殺気すら覚える。なにが気に食わないのかキースの演奏にけちをつけるチャック。ふて腐れて鬼の形相になるキースの貌がゾッとするほど恐い。若い頃に、ビジネス面で騙された経験から人間不信に陥り、喧嘩っ早くなり、刑務所に入っていた頃もあるチャックは傍から見れば卑屈で変人に見えても仕方がない。

しかし、DVD化となった本作では本編には入らなかった貴重なリハーサル風景があって、そこでのチャックはうって変わって陽気でひょうきんだ。この映画の為に招待したゲスト陣を選ぶ段階でキース側が予定しているエタ・ジェイムスの参加に反対したチャックが、試しにエタ・ジェイムスに歌わせてみたところ散々な結果で、「ほらみろ、ダメじゃねぇか」と毒づく。エタ・ジェイムスは咄嗟の事で眼鏡を失くしたり、曲のコード進行も把握していなかった。キースはエタを気遣い、優しく抱き締め、もう一度憶えなおしてトライするように薦めた。それが、本編の「ロックンロール・ミュージック」に結実している。残念ながらその時のリハーサル風景はキースの配慮で撮影されなかったけれど、マディ・ウォーターズの「フーチー・クーチー・マン」を「フーチー・クーチー・ギャル」の替え歌で歌うエタに熱視線を送るチャックは先ほどとは別人のように穏やかだ。チェスでチャックのバックコーラスを務めたこともあるエタをチャックは憶えていなかった。「エタ・ジェイムス? 誰だそれ」。キースに紹介されたエタを怪訝に見ていたであろうチャック。エタ・ジェイムスを知らなかったのも驚きだけれど、こんなふうに豹変するチャックにも驚きだ。この映像があったからこそ、本編でのあの感動的な盛り上がりがあるのだろう。チャックがエタを抱き締め、そこへキースが加わる。この映画の成功を占うようなとても爽やかでほっとするシーンだった。

 追記: ジョニー・ジョンソンのピアノはいつ見ても凄いなぁ。キースがチャックのレコードを初めて聴いた時、まず知りたいと思ったのは、歌っている男とピアノを弾いている男が誰かという事だったらしい。ジョニー・ジョンソン・バンドを乗っ取って自分のバンドにしたチャックだったけれど、彼と対等に音楽を作れるのは本当のところ、ジョニー・ジョンソンしかいないんじゃないのかな。ジョニー・コープランドは自分の持ち味が消されるのでジョニー・ジョンソンは二度と雇わなかったようだ。晩年はセッションマンとしてあらゆる大物ミュージシャンのアルバムに参加するなど、余りに忙しない老後だった。けれども、長いキャリアのなかでもソロアルバムはたった一枚リリースしただけでこの世を去ってしまった。今頃は先に逝った連中と物凄いセッションを繰り広げているに違いなく、そんな想像をしながらこの映像を観るのもなかなかいいものだ。節くれだった太い指が鍵盤を軽快に飛び跳ね、チャック・ベリーのスタンダードナンバーを弾いていく。その演奏は見かけによらずスピード感に満ちてしかも繊細だ。


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2 コメント

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いいっすねぇ~ (sam4848)
2008-12-14 20:52:06
いいっすねぇ~

レジェンド同士のからみ

エタ・ジェイムスはおいらもお気に入りですE:happy01]

ご老公チャック・ベリーも健在でなにより[E:weep]

キースのからみもいいっす[E:good]

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samさん、今晩は! (活字中毒)
2008-12-14 23:50:45
samさん、今晩は!
コメントどうもです♪
何度みても惚れ惚れするようなセッションですよね。チャック・ベリーも素晴らしいけど、他のメンバーも超一流揃い。チャック・ベリーは一見、お山の大将のように見えますが、実際は繊細で寂しがり屋なのかもしれませんよ。リハーサルではキースに食って掛かるような言動を見せますが、コンサートではキースに見せ場を作ったり、色々と気を遣っているように見えました。それにしてもエタ・ジェイムスの歌声には参りました。あの迫力には今も度肝を抜かれています。
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