今、以前このブログでも紹介したジョス・ストーンのファーストアルバム『THE SOUL SESSIONS』を聴いている。ジャケットはUSヴァージョン。2003年9月にリリースされて以来、全世界で反響を呼び、ロングセールスを記録したアルバムである。全曲がソウルのカヴァーという大胆かつ斬新なこのコンセプトアルバム『THE SOUL SESSIONS』を引っ提げジョスはデビューを果たした。しかしこれが弱冠十六歳のシンガーのデビュー作とは到底思えない完成度の高さにどれだけの人が驚愕した事か。プロデューサーはあのマイアミソウルの重鎮、べティ・ライト。ブルースシンガー&ピアニストのラティモア、ギタリストにリトル・ビーヴァーを迎えた豪華でスタイリッシュなこのアルバムは古着の中から年代物のVintage Jeansを掘り出したようなファースト・アルバムだった。使い古されたジーンズは希少という名の魔法を掛けられて甦る。ジョスはクラッシックソウルをリメークしただけではなく、そこに新しい息吹を吹き込んだのだ。そしてソウルにとびっきりの煌びやかな灯りを灯した。
1987年4月11日、海峡を臨むドーヴァーに生を受けたジョスは、けっして音楽的に恵まれた環境に育った訳ではない。およそ音楽産業とは無縁のデヴォン州のアッシルという人里離れた辺境で育ったジョスが如何にしてその音楽的な才能を身につけたかは今をもってしても謎だ。まさに天賦の才能が開花したとしか云いようがない。ジョスのこの『THE SOUL SESSIONS』はソウル・ミュージックの歴史を塗り替えてしまった。ぼくの記憶ではこのアルバムのリリースは極めて唐突なものだったと覚えている。ぼく自身もこのシンガーの存在はこのアルバムを聴くまで知らなかった。しかし何の情報も与えられなかったばかりにこのアルバムの衝撃波は的確にぼくに届いたのだ。
The Soul Sessions 価格:¥ 1,676(税込) 発売日:2003-09-16 |
たまたまCDショップで見つけ、当時は試聴できる機械もなかった頃で、殆ど感頼りで購入した訳だ。暫くは聴かず、余暇に、思い出したように包装を破ってプラスティックケースから取り出した銀色の円盤。たいした期待もなくプレーヤーに乗せ、何気なく読み止しの本のページを開いて一曲目を待つ。レコードであればスクラッチ・ノイズの後にガツンと来るインパクトがデジタル録音された無機質なこの円盤には、ない。云い換えればCDには人間的な何かが足りないのだ。しかしぼくが初めて耳にしたジョスのヴォーカルとそのサウンドはこれまで聴いたどのソウル・ミュージックよりも人間的で、魂が込められた音楽だった。一瞬にしてその音楽はぼくの中のなにかを覚醒させた。そのなにかは今をもってしても説明できないけれど、この『THE SOUL SESSIONS』は確かにいままでのソウルの概念を覆すものだった。
今夜紹介するナンバーはこのアルバムに収録されている「SUPER DUPER LOVE」のライヴ映像。シュガー・ビリーによる1975年のヒットソングである。このファンキーなダンスナンバーがぼくは気に入っている。映像はジョスがデビュー当時直後のライヴ映像らしく、解説では2003年10月6日に米国のテレビ局で収録されたもの、とある。前半はジョスのインタビューで、…インタビューの所々で”シックスティーン・イヤーズ・オールド”とか”アレサ・フランクリン”というフレーズが飛び出すのでなんとなくインタビューの内容は想像できるけど、曲までの1:50はあまりに退屈極まりない(ぼくが英語を解さない為)。しかしインタビューに答えているジョスは初々しくキュートだ。その表情を観るだけでもいいかと思うのだが…。ソウルに革命を齎したジョスの処女作『THE SOUL SESSIONS』はあまりにも熟した危険な果実の味がする。