ブート、いわゆる海賊盤なんていうのは昔からあまり買わないし、聴かないのだが、とどのつまりなぜ聴かないかといえば、音が悪いからである。初めて聴いたストーンズのLIVEも海賊盤だった。それは、『Get Yer Ya-Ya’s Out!』の頃のもので、それはもうすこぶるひどかったのを覚えている。
あまりにひどかったから一度聴いて以来二度と聴くことはなかった。ブートが氾濫し、それを高値で買うファンをみかねてストーンズが公式でリリースしたLIVE盤が『Get Yer Ya-Ya’s Out!』や『Love You Live』などのLIVEの名盤といわれるレコードだ。
ストーンズの映像がなかなか見られなかった頃はこれが唯一彼らの生々しい現在を伝える映像の代替手段だった。90年代に突入すると、これまでとは打って変わって続々とLIVE映像を収めたビデオやDVDが発売された。すると、途端にLIVE盤がもつ意味合いというか存在価値はこれまでとは別なものになっていく。
LIVE映像に慣らされた眼や耳はもはや、通常の丸ごとLIVEの模様を収めたレコードやCDでは飽き足らず、これまでと同じような憧憬の眼差しを向けることが出来なくなっていた。そのいい例が『Flashpoint』だ。彼らの代表曲を並べただけの行儀のいいLIVE盤にはかつての瑞々しさに乏しく、スタジオで作ったLIVE盤のように臨場感も足りなかった。そこには『Get Yer Ya-Ya’s Out!』や『Love You Live』がもつ圧倒的な迫力に欠けていた。
この負の経験を活かした『No Security』や『Live Licks』にはこれまでLIVE盤には収録されなかったレア&コアなレパートリーが収録され、ファンの興味を擽った。けれど、そんなLIVE盤もかつての傑作の比較対象でしかなかった。僕は90年代以降にリリースされたLIVE盤があまりいい評価を得られなかったことがなんとなくだがわかるような気がする。唯一、コンセプトアルバムとして製作された『Stripped』だけは、これまでのLIVE盤と違い、ストーンズがいったいどういうバンドなのかが第三者的に伝えやすい内容だったと思う。
『Voodoo lounge』のLIVE盤扱いになっている『Stripped』だったのだろうけど、このアルバムについては『Voodoo lounge』からの選曲はなかったから実質は通常のLIVE盤とはまったく別のコンセプトでつくられたものであろうか。ちょうどこの頃にひょんなことで手に入れた海賊盤の『IMPERIAL HEARTBREAKERS』も、正直なところ、音質が悪く、お世辞にもファン以外にはとてもお薦めできないCDなのだが、LIVEを丸ごと何の飾り気もなく収録したお蔭で、臨場感に溢れ、しかも公式DVD以外でしかなかなか聴けないようなナンバーがレパートリーにはいっていて逆になんだか新鮮に映ったのが印象的。
屋内特有の音がこもったような抜けの悪さやマイクが様々な雑音を拾っている難点を除けばそこそこ聴けなくもない音源だが、その一方で、マイクから近いヴォーカルの明瞭さに比べ、ボービー・キーズのせっかくのソロがマイクから遠くて聴き取り難い点など挙げ連ねたらきりがないけれど、そんなブート特有の音のバランスの悪さにも眼を瞑れば、演奏は折り紙つきの素晴らしさである。とりわけこの頃のキースのギター演奏は抜群に切れ味がある。
僕はこれまでからずっとLIVE音源や映像を観たり聴いたりしながらストーンズのピークがいったいいつだったのかを意識的に探っていた。『Tattoo You』直後の『Still Life』の頃なのか、それとも『Steel Wheels』の頃なのか、それとも『Bridges To Babylon』の頃なのか、と。でも、結局のところ、僕にはいやおそらく誰しもそれはわからないとは思うけれど、少なくとも「Monkey Man」や「Street Fighting Man」で闊達なギターを弾きまくる『IMPERIAL HEARTBREAKERS』でのキースはまるで何かが乗り移ったかのように荒々しく、それでいてうつくしさすら感じる。
公式のLIVE盤ならそこそこ吟味して収録されたなかから公式盤用にチョイスしている筈だろうが、こういった海賊盤なら演奏の良し悪しは二の次。求められるのは、表には出ない希少性なのだ。苦手意識があるのか、LIVE盤でもリストから外された名曲「Love Is Strong」もこの海賊盤には収録されている。頭から最後までスピード感の途切れないところも海賊盤ならでは。僕たちはいつしかロックの聴き方を間違って聴くようになったんだろうか。そもそもロックは粗野で上品な音楽ではなかった筈だ。キースの暴力性を孕みながらロックする「Monkey Man」や「Street Fighting Man」を聴きながらふいにそんなことが頭を過ぎった。