音盤工房

活字中毒&ベルボトムガール音楽漂流記

J.D.サリンジャーの死に思うこと

2010年01月30日 | インポート

Photo  J.D.サリンジャーが27日、米東部ニューハンプシャー州の自宅で老衰のため亡くなったそうだ。正直なところこれまでご存命だったのも知らなかった。

 作家としての全盛期に突如、筆を置き隠遁生活に入る謎に満ちた作家としても有名だった。

 91歳。大往生である。

 最近では村上春樹訳『ライ麦畑でつかまえて』が話題となった。個人的にはジョン・レノンを殺害した犯人が影響を受けた作家として記憶に残っている。

 ジョンがこの世を去ったのは1980年、僕が高校2年の頃だ。

 今年はジョンが亡くなって30年目。

 この節目に、彼の死にかかわる作家が亡くなったというのは何かの因果かもしれない。心よりご冥福を祈る。

 ところでジョン・レノンといえば僕にとって『ロックン・ロール』というアルバムに尽きる。歌がうまいシンガーは星の数ほどいる。

 しかし、ずっと胸に残るシンガーというのは滅多にいない。そんな彼の魅力を余すところなく伝えているのが『ロックン・ロール』なのだ。

 今宵は、サリンジャーの追悼の意味も込めてこの歌を捧げる。

●関連記事:ジョン・レノンを殺した男


 『ジャンプ・バック~ザ・ベスト・オブ・ザ・ローリング・ストーンズ』について

2010年01月16日 | インポート

 結局、発売された当初は購入しなかったこのベスト盤を、ユニバーサル・ミュージック移籍してからの高品質CD、SHM-CDで購入した。

 当時なぜこのアルバムを買わなかったかは、明らかだ。確かに、リマスターという付加価値はついているものの、71年から93年までの22年間の集大成的ベスト盤であり、その間にリリースされた11作からセレクションされた代表曲を並べただけの企画盤では、余程のマニア以外は飛びつかないだろうとも思った。

 その後にも何度か中古レコード屋で見掛けはしたが、『ダーティ・ワーク』と同様、安易に手放す輩が続出し、中古屋に多量に出回っていたのを見た記憶がある。ところで、このベスト盤って同時にビル・ワイマンが活躍していた22年間の集大成でもあるわけだ。

 今、あらためて聴きなおすと、無表情でベースを弾くビルに手こずっているキースとロニーという構図がストーンズにとっての理想的な形だったような気がする。

 ストーンズのメンバーで始めてソロ作を発表したのもビルなら、幅広い人脈でストーンズに新風を吹き込んでいたのも彼の功績。 Jump_back

 活字中毒:「初回発売は1993年。今から17年前のことだね」

 BG:「へえ、もうそんなになるんだ…」

 活字中毒:「当時リマスターって言葉がよくわからなくてお店の人に訊いたものさ。音がよくなっていると説明されてもぴんと来なくて結局、買わなかった」

 BG:「ストーンズってこれまでにも何度かベストは出していたわよね」

 活字中毒:「そう。でも当時としてはストーンズレーベル以降、こんなにヴァリエーションの富んだベストはこれ一枚じゃないかな。『スティッキー・フィンガーズ』から『スティール・ホイールズ』まで満遍なく選曲されているからね。『フォーティー・リックス』では差別的に『ダーティ・ワーク』からの選曲は避けていたから、逆にとても興味深い」

 BG:「『フォーティー・リックス』は版権の問題がクリアーされて奇跡的なベストアルバムになっていたけど、『ダーティ・ワーク』からの選曲が一曲もなかった所為で、とても不自然だったわよね」

 活字中毒:「ストーンズとしては苦渋の選択だったというよりも縁起を担いだとも思えるんだ。コンサートで『ダーティ・ワーク』の曲を演奏すると何かよからぬことが起きる、そんな負のジンクスを避けたかったんだろうね」

 BG:「まるでオルタモントでの〈悪魔を憐れむ歌〉みたいね」

 活字中毒:「でもあんな事件を引き起こした歌なのに〈悪魔を憐れむ歌〉はやはり今でもライヴでは定番になっている。この曲を演奏しないと客は帰らないからね(笑)」

 BG:「普通ベストってバンドの歴史を辿るようなもので、時系列的に曲順を並べたほうがリスナーには親切よね。でもそれをストーンズはしなかった」

 活字中毒:「1曲目に〈スタート・ミー・アップ〉を持ってくるところがいかにもストーンズらしいね。初心者向けというよりもどちらかといえば、ストーンズならではの拘りがよく現れたベストだと思うんだ」

 BG:「それにしてもこうして通して聴いても年代的な違和感は殆ど感じないわね」

 活字中毒:「『スティール・ホイールズ』が発売されたときは、こんなに曲自体にスピードが加わったりしたら従来のストーンズの曲とのバランスを欠いてしまうんじゃないかって不安になったもんだけど、同じアルバムのなかでも少しも孤立していないのが不思議なくらいさ」

 BG:「よく聴くと、どの時代の曲にもいえることだけど、ギターとギターの演奏の合間に存在感を示すベースの重低音が強烈に耳に残るのよね。でもそれが心地いいのよ」

 活字中毒:「ビルのベースはキースやロニーのギターに匹敵する奥行きを感じるんだ。これもストーンズの七不思議のひとつかな」

 BG:「ちょっとファンキーな〈エモーショナル・レスキュー〉に色気を感じるのは私だけかしら」

 活字中毒「このベストはビルが在籍していた頃のストーンズだし、明らかにダリルが加入した新生ストーンズよりも行儀よくないんだよ。どこかに危うさも猥雑も孕んでいた。たしかにダリルは努力家だし、ビルよりもファンキーなベースが弾ける。けど、それだけなんだ。不遠慮に自己主張したがるビルのベースには誰も敵わない」

 BG:「今のストーンズに欠けているのはそこかしら。ストーンズにはミックやキースと対等に張り合えるベース奏者が必要なのね」

 活字中毒:「おまえらには好き勝手にさせておかないぞ、みたいなね(笑)」

 BG:「ビルがいるといないのとではずいぶん曲調も違ってくるのがわかるわね」

 活字中毒:「もっとも現在のストーンズを考えると、ダリルを蔑ろには出来ないんだけれど、より贅肉を削ぎ落とした骨格だけのストーンズにもある意味、興味はあるんだ。でもずっと聴いていて少しも疲れない、っていうのも重要なんじゃないかな」

 BG:「個人的には〈ハーレム・シャッフル〉にご執心なのよね。もうだめなのかなって思ったりしてたから。PVではメンバー全員シカゴのギャング団みたいだった。キースのあの笑った顔に鬼気迫るもの感じてたわ。殺し屋みたいなあの笑い顔よ(笑)」


人生の崖っぷちで夢を摑んだ歌姫と80年代に再起を賭け復活を果たしたクイーン・オブ・ソウル

2010年01月06日 | インポート

 スーザン・ボイルのデビューアルバム『I Dreamed A Dream』が話題沸騰している。CDジャケットを見ると、確かに、イギリスのオーディション番組「Britain 's Got Talent」」に出演した当時よりも垢抜けした印象だ。 I_dreamed_a_dreamsusan_boyle

 世界中で知名度が上がったのはYou Tubeでの動画配信が大きかったと思うが、スーザン・ボイルの容姿からすると、失礼ながら奇跡としか言いようがない。あの”天使の歌声”を誰が想像し得たであろう。

 豊岡のとあるレコードショップの店頭でも輸入盤と国内盤がずいぶん目立つ位置に並べられていた。

 彼女が「Britain 's Got Talent」」に初めて登場してからというもの俄かに彼女の周辺が騒がしくなっていったのもうなずけるというもの。こういったことが、最終的にレコードデビューするまでの宣伝効果をあげ、その反響は世界に及んでいったのである。

 デビューアルバムはカヴァーアルバムの形式を取りながらも実に興味深い楽曲が選曲されている。まずは、彼女がプロ歌手へのきっかけを作ったミュージカル『レ・ミゼラブル』の挿入歌である「I Dreamed A Dream」、ザ・ローリング・ストーンズの「Wild Horses」、マドンナの「You’ll See」、それにモンキーズの「Day Dream Believer」…エトセトラ。

 「I Dreamed A Dream」はともかく、ザ・ローリング・ストーンズの「Wild Horses」はどこか気品漂うアレンジでずいぶんオリジナルとは違う雰囲気、「I Dreamed A Dream」は彼女が崇拝するエレイン・ペイジが歌った楽曲だけど、このミュージカルのスタンダードは多くのシンガーによってカヴァーされている。

 個人的に言わせて貰えば、アレサ・フランクリンがアリスタ時代にリリースした『What You See Is What You Sweet』に収録されていた「I Dreamed A Dream」の印象が強い。このアルバムは相次ぐ肉親の死を乗り越えてアレサが辿り着いた傑作だったけれど、セールス的には残念ながら予想以上に延びなかった。What_you_see_is_what_you_sweat

 一説には、あの大ヒットアルバム『Who's Zoomin' Who?』と並び称されていたにもかかわらずだ。正直なところ、すでにこの時点で僕はアリスタ時代のアレサのポップ路線にはうんざりしていた。たしかに、アリスタがアレサを救ったとも思えるヒット曲を彼女はこの時代に放っているのだが。

 改めて『What You See Is What You Sweet』を聴きなおすと、復活を果たした『Who's Zoomin' Who?』のポップ路線は継承しながらもどこかそこから脱皮しようと足掻くアレサの姿が眼に浮かぶようだ。

 スライ&ザ・ファミリーストーンの「Everyday People」は原曲とはまた違ったアレンジで面白いし、マイケル・マクドナルドとデュエットしている「Ever Changing Time」はアリスタ時代でのもっとも特徴的な傾向の曲。ドスの効いたアレサのヴォーカルとは対照的なマクドナルドの美しいシルキーヴォイスがくすぐったい。

 電子ドラムの響きがいかにもこの頃の最新サウンドを象徴した表題曲「What You See Is What You Sweet」、本格R&Bの風合い漂う「Mary Goes Round」、このアルバム中お気に入りの「Someone Else's Eyes」と「You Can't Take Me For Granted」、軽快で弾むようなルーサー・ヴァンドロスとのデュエット曲「Doctor's Orders」。

 全体的には復帰後の成功を踏襲的に辿る内容だが、これほど原曲がわからなくなるくらいアレサ風に変換された楽曲は勿論、名曲ばかりだ。これは、成功を収め数々の神話を築いた”Queen Of Soul”アレサの風格か。

 なにはともあれ、冒頭に戻るが、おそらくスーザン・ボイルが世界中でこんなに注目を浴びるプロの歌手になるなんて誰が想像したであろうか。

 誰も想像しなかった、

 あの歌声を耳にするまでは。


柴山港より愛をこめて

2010年01月04日 | インポート

090

 毎年この時期になるとわざわざ柴山から買ってきた蟹を持参し、弟が帰省する。帰省といっても市内なので車で15分もあれば着けるのだが、いったん柴山まで行き、そこから取って返して家を目指すとゆうに小一時間はかかる。

 今年は、昨年の29日の晩にやってきて大晦日に恒例の蟹大会が始まった。皿に盛られた茹でたての蟹をガバッと真っ二つにして蟹肉を頬張る。貪る。散々喰い散らかした蟹の残骸が別の皿に盛られていくのを僕は何の感慨もなく見つめる。

 そう、何を隠そう僕は蟹がだめなのである。アレルギーだかなんだかはわからないけれど、これを食すと僕は途端に下す、嘔吐する。

 だから蟹については爪先ほどの関心もないわけだが、僕の横でうまそうに蟹を食す愚弟には言い知れぬ腹立たしさを覚える。

 と、いうわけで大晦日の夜は、格闘技と紅白歌合戦のTV中継を交互に観ながら、僕だけ早めの年越し蕎麦を啜る。

 今年の目玉は魔裟斗の引退試合と紅白では、イギリスの人気番組からデビューしたスーザン・ボイルの出演と直前まで出演が揺れていた矢沢永吉の初参加。

 魔裟斗の引退試合にガチで張り合えるのは有名外タレか矢沢永吉、あるいは井上陽水の出演だと思っていたが、裏番組に対抗するこうした視聴率争奪戦が白熱を極めたのも元はといえば、年々、観る番組のマンネリ化とTVが一家に一台的な概念が崩れたためだろう。

 しかし、毎年我が家では観たい番組がそれぞれあっても、お互い譲歩し合い、なるべく同じ番組を観ようと努めている。これはおそらくお互いが離れて暮らしているためで、こういう場合、和やかにことを進めるためには、殊更自己主張しないのが得策のようだ。

ゲット・ヤー・ヤ・ヤズ・アウト!<40周年記念デラックス・エディション>(DVD付) ゲット・ヤー・ヤ・ヤズ・アウト!<40周年記念デラックス・エディション>(DVD付)
価格:¥ 6,800(税込)
発売日:2009-12-16

 さて。

 発売から遅れてAMAZONで注文したザ・ローリング・ストーンズ40周年記念デラックス・エディション盤の『Get Yer Ya-Ya‘s Out!』が年末ぎりぎりに届いていた。年末に間に合わなくとも新春早々にも聴けたらいいと思っていたので年末に間に合ったことはとても嬉しかった。

レコード・コレクターズ 2010年 1月号 レコード・コレクターズ 2010年 1月号
価格:¥ 700(税込)
発売日:2009-12-15

 事前に、このアルバムの特集号の「レコード・コレクターズ」を買って読んでいたので予備知識はバッチリだったのだが、眼から得るものと耳から得るものとではまるで違う。通常盤に未発表音源5曲がプラスされ、前座であったB.B.キングとアイク&ティナ・ターナーのセッション、それにボーナスDVD付きの稀にみる4枚組み豪華版。

 実を言うと、僕がこのアルバムの正規盤を買ったのは90年代に入ってからだ。80年代にひどい海賊盤を聴いてからというものなんだかこのLive盤についてはある種のトラウマ的嫌悪と平凡で粗悪な印刷具合のこのジャケットデザインが苦手だった。

 デザインの作者はなんとあのビートルズの『Let It Be』を手がけたジョン・コッシュだ。

 それでもストーンズなのにメンバーがひとりしか写っていないこのジャケットはないよな(笑)(ちなみに、フランスでリリースされた別ヴァージョンは表がミックとキースのツーショット。チャーリーが飛んでいる図柄は裏に回された。明らかにこちらのほうが購買意欲はあがるのだが…)。

 けれど90年代の初めにひょんなことからこのアルバムを手に入れて聴いたところ、圧倒されたというより、素直にかっちょええ!!と吼えていた。そのときまで全く興味のなかったテイラー期のストーンズが僕の中で一瞬にして再評価されていくのだ。

 ところでファンの間で語り草になっている「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」のチャーリーのドラムのテンポの遅れはこのリマスター盤ではあまり気にならなかったよな。やはりこのデラックス盤の最大の目玉は、未発表音源の5曲だろうね。

「放蕩むすこ」「ユー・ガッタ・ムーヴ」「アンダー・マイ・サム」「アイム・フリー」「サティスファクション」。

 ライヴではレア&コアな「放蕩むすこ」と『スティッキー・フィンガーズ』に収録されていた「ユー・ガッタ・ムーヴ」が早くもこのライヴで披露されているのが驚きだ。もっとも興味深かったのが、「アンダー・マイ・サム」。『スティル・ライフ』にも収録されていたこの曲は、こちらのヴァージョンのほうが肌理細やかで重厚だ。

 たぶんこれは、テイラー効果なんだろうけど、確かに、『スティル・ライフ』のシャープさが好みだという人もいるだろうから一概に優劣はつけられないけどね。それにしてもせっかくテイラーを獲得したんだからこの場合、リードはキースじゃなくテイラーでしょう?

ザ・ローリング・ストーンズ / ギミー・シェルター 〈デジタル・リマスター版〉 [DVD] ザ・ローリング・ストーンズ / ギミー・シェルター 〈デジタル・リマスター版〉 [DVD]
価格:¥ 3,980(税込)
発売日:2009-12-16

それはそうと、なんとなくオリジナル盤と追加収録盤の2枚を散々聴き倒したあとはB.B.キングとアイク&ティナ・ターナーのセッション盤に移って、リマスターDVD『ギミー・シェルター』とボーナスDVDを穴の開くほど観倒すんだろうな。相変わらず年明けからやっぱりストーンズをみたり聴いたりしている。