音盤工房

活字中毒&ベルボトムガール音楽漂流記

ローランス・タルデュー著『全ては消えゆくのだから』

2007年12月27日 | 本と雑誌

すべては消えゆくのだから すべては消えゆくのだから
価格:¥ 1,575(税込)
発売日:2007-08
 今夜紹介する小説はローランス・タルデューの『全ては消えゆくのだから』です。1972年、マルセイユ生まれ。舞台女優でもあるローランス・タルデューは2002年と2004年に小説を刊行、本作は彼女の3作目となる作品です。まず、翻訳者の赤星絵里女史の翻訳力を讃えたいですけど、ローランス・タルデューのその簡潔で伸び伸びした文体に目を瞠ります。しかし簡潔なんだけどそれでいて強烈なインパクトが潜んでいる情熱的な作品、それがこの『全ては消えゆくのだから』なのです

 この小説は恋愛小説という形態を取りながら、一方でミステリアスな少女失踪事件を絡めて進んでいる。この辺りは桐野夏生の『柔らかな頰』を彷彿させますが、決してミステリーの範疇に入る小説ではないことを断っておきます。しかしながら最愛の娘を喪い、それに苦悩して人生を狂わせていくという過程はそっくりで、この両者の共通点は見逃せない読みどころです。

柔らかな頬 柔らかな頬
価格:¥ 1,890(税込)
発売日:1999-04

   突然別れた妻から男の元に一通の手紙が届くことから物語りは進行する。そこには「会いにきて、私はもうすぐ死ぬの」と書かれてある。しかし、男の脳裏には忘れかけていた過去の記憶がまざまざと甦り、その悪夢のような一瞬を思い出して脅えることになる…。

 冒頭で申しましたとおり、文体は極めて簡潔且つ洗練されている。読みやすいその簡素な文体が、待合時間などを利用してもさらっと読めてしまう分量な訳で、ぼくも車屋で冬用のスタッドレスタイヤを交換する待ち時間で殆ど読んでしまった小説です。だから、肩が凝らない分量という意味では、活字離れ世代には歓迎されるかもしれない。しかしそこはフィクションという分野なので当然のことながら、文学的に表現してあるし、感情移入しやすい壺も快く押さえています。但し、結末のアン・ハッピーな幕切れには重苦しい印象が残ります。秀作なんだけれど、この純愛のお決まりパターンである、後半のお涙頂戴的な締め括りが残念でなりません。

 いずれにしても今は評価するには読みが足りないような気がします。その真価を問う為に、2度3度となく再読をし、充分咀嚼してから自分なりの評価をしたほうがよさそうですね。それほどこの小説は奥が深い。


RAY CHARLES / CELEBRATES A GOSPEL CHRISTMAS

2007年12月24日 | Ray Charles

Ray Charles Celebrates a Gospel Christmas
 レイ・チャールズがブルースとは対極にあるゴスペルを長きに渡り、歌わなくなったのはいったいいつ頃のことなんだろうか。少なくともこの季節になるとどこかのコンサート会場でクリスマス・ライヴなるものが開催され、きっとそこではレイがゴスペルを歌う姿を観ることが出来た筈だ。でもぼくが知る限りはレイの完全なゴスペル・アルバムは記憶にない。
 少年期にジョージアやフロリダ州の教会でゴスペルを歌っていた頃のレイは神へ通じるこの音楽を心から愛していただろうし、プロに転向してからも世俗的な黒人音楽であるブルースを録りながらも、やはり自身のルーツであるゴスペルを意識していたに違いない。
 去る2002年12月5日、世界的に有名な聖歌隊ゴスペル・クワイアとウィスコンシン州グリーンベイ「レッシュ・センター」で録ったゴスペル・コンサートは、ファンのみならず全音楽ファンに捧げられた珠玉のDVD映像『CELEBRATES A GOSPEL CHRISTMAS』という形で永遠にレイの姿を残すものとして収録された。約5千人の観客を動員して完成することになるそのライヴ映像には病と闘いながら神がかり的な演奏と歌で人々を魅了する偉大なミュージシャンの姿があった。この『CELEBRATES A GOSPEL CHRISTMAS』はいわばレイの原点に立ち返る偉大な記録の一部始終であり、オフィシャルVideoとしてはおそらく彼の姿を捉えたもっとも新しい映像といえるかもしれない。
ウイ・アー・ザ・ワールド ウイ・アー・ザ・ワールド
価格:¥ 2,951(税込)
発売日:1988-12-14
   
ザ・ブリッジ(紙ジャケット仕様) ザ・ブリッジ(紙ジャケット仕様)
価格:¥ 1,890(税込)
発売日:2004-12-01
 ぼくがレイ・チャールズを聴くようになったのは1980年代の頃からだから、彼の全盛期である1970年代は勿論知らない。それでも『ウイ・アー・ザ・ワールド』やビリージョエルの『ザ・ブリッジ』への参加(ビリーとのデュエット曲「BABY GRAND 」)などでその優しい人柄に触れるに付けレイへの興味が一気に膨らみ、その思いが沸騰し始めた1980年の半ばに、遅まきながら彼のレコードを漁り始める事になろうとはもう運命としか云いようのないものを感じる。
  Ray_chales_man_of_legend_2ぼくが初めて買ったレイのレコードは、当時珍しかったカントリーの趣のある1986年にリリースされた『FROM THE PAGES OF MY MIND』というLPだった。なんとプロデューサーは『ザ・ブリッジ』の感謝のお返しとばかりにビリー・ジョエル&レイ・チャールズとなっている。これは1983年リリースの『ウィッシュ・ユー・ワー・ヒア・トゥ・ナイト』に次ぐレイ56歳の時のアルバムであった。あいにくこの音源はCD化はされていないが、この頃からジャズやブルースだけではない、レイのその幅広い音楽性には随分舌を巻いたものだった。
 レイがこの世を去ったのは2004年の6月10日のこと。彼は亡くなる直前までレコーディングを続けていた。その飽くなき音楽への渇望と敬愛は『ジーニアス・ラヴ~永遠の愛』という形で結実した。レイに対するトリビュート的なこのデュエット・アルバムには彼の愛弟子とも呼べるノラ・ジョーンズやダイアナ・クラールらが参加し華を添えていた。奇しくもそれはレイが遺した最後の贈り物になった。彼は2003年迄でその50年という音楽キャリアに於いて一万回のライヴをこなしていた。生涯に亘るその殆どをライヴに費やしたレイの生き方はまさしくミュージシャンの鑑だと思う。
 『CELEBRATES A GOSPEL CHRISTMAS』に話を戻そう。ライヴが始まって10分過ぎに観客からスタンディングオーベイションで迎えられたレイの姿はお世辞にも溌剌とはしていない。顔色も冴えないし、どこか衰えた印象があった。ところがいざレイが歌いだすと周りの雰囲気は一変する。大合唱団をバックにエレクトリック・キーボードを弾くレイのリラックスした姿はとても病を抱えた歌い手とは思えないほど瑞々しく新鮮だ。傍にグランドピアノがあるにも拘らず、終始キーボードのみを操るレイにもレイなりの演出を感じる。
 統計的に考えてもレイのライヴ映像は無数に撮影され、倉庫かどこかに保管されて今も尚、日の目を見ずに眠っているかも知れないが、少なくともこのライヴ映像がそのなかでももっとも新しい映像であることは疑いのないことだと思う。この映像は聖夜に観るのが一番相応しい。生涯忘れることのないこの素晴らしいライヴ映像はぼくのライヴラリーの中でもとりわけ貴重だし、愛蔵盤として揺るぎないものになっている。

RAY SINGS BASIE SWINGS

2007年12月23日 | Ray Charles

Ray Sings Basie Swings

 レイ・チャールズの死後様々な形で未知の音源や映像が発表されてきたが、その究極のものがこれから紹介することとなる『RAY SINGS BASIE AWINGS』というふたつの異なる音源をオーバーダブして作り上げた、レイが尊敬し、生前では実現できなかったカウント・ベイシー楽団との夢の競演盤である。

 ことの経緯はグラミー賞アルバム『Genius Loves Company』のプロデューサーとして名高いコンコード・レコードのジョン・バークがカリフォルニア州バークレーの同レコード倉庫で《ray/basie》と記されたテープを奇跡的に発見する。それは驚くべきことにレイの1970年代全盛期のライヴの模様をプロモーターのノーマン・グランツが収録したものだった。ところがこの音源はレイのヴォーカルがまえに出すぎていてバックの演奏が聴こえない状態だったので製品化は出来そうになかった。しかしそこに収録されたレイのヴォーカルの凄さは、彼を、カウント・ベイシー・オーケストラのニュー・レコーディングによる演奏をオーバーダブしてひとつの作品集として完成させるという壮大な構想へと駆り立てた。こうして出来上がったのが本作『RAY SINGS BASIE AWINGS』である。この模様は次に紹介する映像に収められていますが、全編通しインタビューとレコーディング風景で構成されたこの映像は英語を解しないぼくのような者には宝の持ち腐れ的な映像に過ぎず、内容が解らないだけに歯痒いものになっている。

Ray Charles & Count Basie - Ray Sings Basie Swings EPK

 ところで『RAY SINGS BASIE AWINGS』はテクノロジーを駆使しているとはいえそこはやはり人工的に強引に繋ぎ合わせたという感覚を否めないのではないかと予想させるものだったが、聴いてみるとその不安は杞憂のものだったときづかされる。なんとも自然体なこのライヴ音源はあたかもレイとベイシーが歴史的録音を残そうと強烈にスゥイングしているように錯覚すら抱いてしまう。それでは続いてYou Tubeで見つけた1973年のライヴ映像をご覧頂きましょう。この映像は『RAY SINGS BASIE AWINGS』に極めて近い映像/音源となっており非常に満足の行くものだ。このスゥイング感は誰にも真似できるものではない。たった一つの魂の音楽のように聴こえてくる。これを観るとやはりレイという偉大な巨星の死が悔やまれる。

Ray Charles - Let The Good Times Roll


ARETHA FRANKLIN / I SAY A LITTLE PRAYER

2007年12月18日 | Aretha Franklin
Love Songs

 アレサ・フランクリンを聴くなら、アトランティック時代のものに尽きる。このアトランティック時代に残した数々の名曲群は彼女がこのレーベルに在籍していた1967年から1974年までの8年間に及び、この期間に量産した曲が次々とヒットし、グラミー賞の最優秀女性R&Bボーカルに選出されるなど、アレサの黄金期はまさしくこの頃のものだといっても言い過ぎではあるまい。ところが、70年代中ごろからはプロデューサーが頻繁に変わりヒット性を生む曲からは遠ざかってしまった。

1967年「RESPECT」(R&B1位/POP1位)

     「BABY, I LOVE YOU」(R&B1位/POP2位)

     「A NATURAL WOMAN」(R&B2位/POP8位)

     「CHAINS OF FOOLS」(R&B1位/POP5位)

     「SINCE YOU'VE BEEN GONE」(R&B1位/POP5位)

1968年「THINK」(R&B1位/POP7位)

     「I SAY A LITTLE PRAYER」(R&B3位/POP10位)

1969年「SHARE YOUR LOVE WITH ME」(R&B1位/POP13位)

1970年「CALL ME」(R&B1位/POP13位)

1971年「BRIDROGE OVER TROUBLED WATER」(R&B1位/POP5位)

 もともと父親の影響でゴスペルに親しんでいた彼女が初レコーディングに挑んだのは14歳の時であった。音楽一家に生まれたアレサは幼い頃からピアノを弾き始めているが、これは彼女の広い家に引っ切り無しにやってくるゴスペルシンガーの影響だとも云われている。そして正統的なゴスペル歌手のマヘリア・ジャクソンよりパフォーマンス重視のクララ・ワードのスタイルに傾倒していく。若くしてコロンビアレコードと契約したアレサは崇拝するブルース歌手のダイナ・ワシントンと共に帰郷した際に運命の男、テッド・ホワイトと再会し、やがて結婚する。そして数年後にアトランティックレコードに移籍するのである。

 今夜紹介するアルバムはライノ・リマスターによるラヴ・ソング・コレクション『LOVE SONGS』である。文字通りラヴ・ソングを集めた企画盤なんだけど、先に紹介したアトランティックレコード期のヒット曲が4曲収録されている。個人的にこの頃のものでは「小さな願い/I SAY A LITTLE PRAYER」が好きだ。もともとこの曲はバート・バラカック&ハル・デイヴィッドの作でディオンヌ・ワーウィックが歌って1967年にポップチャート第4位まで駆け上がった大ヒット曲なんだけど、どういう訳か、ぼくはアレサ・ヴァージョンのほうが気に入っているのだ。この時季にこの曲を聴くと何故だか泣けるんだ。まさしく名曲だ。

ARETHA FRANKLIN - I SAY A LITTLE PRAYER


ROLLING STONES / DON'T STOP

2007年12月15日 | Rolling Stones
フォーティー・リックス

 今夜紹介する『FORTY LICKS(オールタイムベスト)』でシングルカットされたストーンズの「Don't Stop 」のPVは一般にオンエアーされたものはあまり好きではない。結成40周年記念アルバムと銘打ったベスト盤ながら、そこにはお約束の新曲が入っている訳で、その新曲目当てに買うぼくのようなアホにはやはり新曲PVも観逃がせない購入動機になっていることは確かだ。けれど、新曲の出来はともかくこの「Don't Stop 」のPVは実写とアニメが融合した凝った作りながら久々に見るストーンズのメンバーの姿は殆ど映っていないし、PVがそんなだから不思議なことに肝心のサウンドのほうも希薄なものに聴こえてしまう。期待が大きかっただけに同じくらい落胆も大きかった訳だ。

 ところが最近You TubeでこのPVを凌ぐばかりか、もっとポップでセンスのある映像がアップされているのを見つけて感涙の極みを味わう瞬間に出会ったのだ。ひとつは一分弱のアニメーションながら、メンバーの特徴を良く捉えたユニークのある映像で、オチも最後に付いていて、思わずぷっと吹き出してしまった。もうひとつはトロント・クラブのギグの模様を捉えた2002年のライヴ映像です。この映像を観ると会場は数百人程度を収容可能なライヴハウスみたいだ。メンバー以外のコーラス隊もお馴染みのメンツなのにどこかいつもの雰囲気と違っているのは、オーディエンスとの距離感をあまり感じないのがいいのかもしれない。こんな映像を見せられると、どういうわけかサウンドも良く聴こえてしまうから不思議だ。今宵「Don't Stop 」再評価の機会を与えてくださったYou Tubeさんに感謝いたします。

ROLLING STONES-DON'T STOP