すべては消えゆくのだから 価格:¥ 1,575(税込) 発売日:2007-08 |
この小説は恋愛小説という形態を取りながら、一方でミステリアスな少女失踪事件を絡めて進んでいる。この辺りは桐野夏生の『柔らかな頰』を彷彿させますが、決してミステリーの範疇に入る小説ではないことを断っておきます。しかしながら最愛の娘を喪い、それに苦悩して人生を狂わせていくという過程はそっくりで、この両者の共通点は見逃せない読みどころです。
柔らかな頬 価格:¥ 1,890(税込) 発売日:1999-04 |
突然別れた妻から男の元に一通の手紙が届くことから物語りは進行する。そこには「会いにきて、私はもうすぐ死ぬの」と書かれてある。しかし、男の脳裏には忘れかけていた過去の記憶がまざまざと甦り、その悪夢のような一瞬を思い出して脅えることになる…。
冒頭で申しましたとおり、文体は極めて簡潔且つ洗練されている。読みやすいその簡素な文体が、待合時間などを利用してもさらっと読めてしまう分量な訳で、ぼくも車屋で冬用のスタッドレスタイヤを交換する待ち時間で殆ど読んでしまった小説です。だから、肩が凝らない分量という意味では、活字離れ世代には歓迎されるかもしれない。しかしそこはフィクションという分野なので当然のことながら、文学的に表現してあるし、感情移入しやすい壺も快く押さえています。但し、結末のアン・ハッピーな幕切れには重苦しい印象が残ります。秀作なんだけれど、この純愛のお決まりパターンである、後半のお涙頂戴的な締め括りが残念でなりません。
いずれにしても今は評価するには読みが足りないような気がします。その真価を問う為に、2度3度となく再読をし、充分咀嚼してから自分なりの評価をしたほうがよさそうですね。それほどこの小説は奥が深い。