音盤工房

活字中毒&ベルボトムガール音楽漂流記

石田衣良『東京DOLL』読了!

2007年09月17日 | インポート
東京DOLL

東京DOLL
価格:¥ 1,680(税込)
発売日:2005-07-29

(★★★☆☆)

 基本的にぼくは恋愛小説は読まないことにしている。これ程起承転結が明確な物語はないからだ。愚直で、生真面目。こんなことは言ってはいけないのだろうが、退屈な文学である。少なくとも、川端康成、フランソワーズ・サガン、山田詠美以外は格別興味をそそられないのだ。ミステリィにも似たようなロジックはある。それは認める。要はバリエーションの希薄さである。結局のところ、事件が発生して、その謎を解き明かす探偵なり、刑事が登場して、最後に意外な真犯人が浮上するお決まりのストーリィがミステリィの基本的構造だ。しかし、ミステリィにはたいていの場合、犯罪者、あるいは被害者への深い愛と救済がクライマックスに用意されている。一方、恋愛小説に頻繁に見受けられる性愛の末の破綻には救いがないどころか、後々厭な痼を残すことになる。その後味の悪さは読書経験上、ミステリィの比ではない。どうしてこんな小説が読物として成立するのかずっと不思議でならなかった。それは単にぼく個人の趣向的見解だが、それが純粋であればあるほど、ぼくの心はその文学から離れていった。

 という訳でもう一度冒頭に述べたことに戻るが、ぼくはこれまでから恋愛小説にのめり込んだ事は一度として、ない。少なくとも冒頭に挙げた作家以外は恋愛小説とし認識していない。性愛附き小説ならまだポルノ小説のほうがまだまし、だ。今夜紹介する石田衣良の『東京DOLL』も最初はそんな調子で、罵倒を繰り返しながら読むつもりだった。ところが、しばらく読んでいくうちにその思惑が見事はずされていくのである。

 この作家、只者ではなかった。ゲームクリエイター、MCと呼ばれる青年と背中に濃紺の翼(タトゥ)を持つ少女ヨリとの出会いと性愛がドラマチック且つファンタジックに描かれている。こう書くと「なんだ、いつもの恋愛小説のパターンじゃないか」と思われるだろうが、実際のところストーリィ的にはこれまでの恋愛小説と大差はない。ところが、この恋にいくつもの人間関係や株式上場に絡む企業買収やヨリの未来予知能力といったオカルト性も孕みながら物語が進んでいくあたり、これまでのメルヘンチックな恋物語のような代物とはあきらかな違いを見せている。この作家に出会えたことはぼくの最大の収穫だ。恋愛=性愛という構造を見事に打ち破ったびっくり仰天の恋愛小説の誕生の瞬間だ。どうぞ、最後の瞬間まで驚いて読んでください。クライマックスはなんともハリウッド映画的なドラマ性が待ち構えています。

 ぼくはこの石田衣良の『東京DOLL』を読み終えた機会に、考えを改めようと思っている。『東京DOLL』万歳!恋愛小説万歳! こんな小説ならいくらでも読み尽くしてやるぜ!と今はそんな心境である。


愚行録

2007年09月16日 | 日記・エッセイ・コラム

 先日、認めたセロニアス・モンクの記事で不適切な箇所があったので本日削除しました。こんなことはしばしば起こるミスで、自分でそのことに気付いただけでも救いです。調子に乗るとどうも余計なことまで書いてしまうらしい。今日は、『愚行録』と題して反省文を書いてみました。

 今日はゆっくりと躰を休めます。日がな一日読書に耽ったりしながら、…。ということでお粗末ながらこれにて。抱き合わせで本日、追加記事を認めましたそちらもどうぞ!です。


ROLLING STONES/VOODOO LOUNGE

2007年09月14日 | Rolling Stones
Voodoo Lounge

Voodoo Lounge
価格:¥ 1,536(税込)
発売日:2002-01-28

(★★★★★)

 さて今夜は困ったぞ!投稿するものがなくなっちまった。いよいよネタ切れか!でも何かある筈だと思い、棚を隈なく物色すると、…あった!ローリング・ストーンズの『ヴードゥ・ラウンジ』だ。このアルバムの一曲目の"LOVE IS STRONG"は確かシングルカットされてVideo Clipがある筈だと思い、早速、You Tubeを検索したところ…ビンゴ! 

 ありましたよ。みなさん!You Tubeさん、ありがとう! そしてこの映像をアップロードしていただいたお方にただただ感謝です。これで投稿が途切れず、無事今日も一日を終えることが出来ました。何かどこかの球団の選手の連続試合出場回数の更新みたいになってきましたね(笑)。 それでは観ていただきましょうか!"LOVE IS STRONG"です。ビルとビルの谷間をゴジラさながらに巨大化したストーンズのメンバーが練り歩くこの映像は最初観たときには度肝を抜かれました。

"LOVE IS STRONG"


ROLLING STONES / A Bigger Ban

2007年09月08日 | Rolling Stones
ア・ビガー・バン (CCCD)

A Bigger Ban
価格:¥ 2,548(税込)
発売日:2005-08-31

(★★★★★)

   今更ながらストーンズの『ア・ビガー・バン』を紹介します。新作です。実に『ブリッジズ・トゥ・バビロン』以来8年ぶりのオリジナル盤です。今回も前回同様ドン・ウォズを共同プロデューサーに迎えた意欲作。LPレコードならまず二枚組となる全16曲のヴォリュームたっぷりのアルバムです。おそらくこれは量的に言って『メインストリートのならず者』を意識していると思われる。メンバーの絆も深く、ちょうどあの頃に戻ったように結束力が固い。メンバーの姿が描かれた(写った)アルバムで言えば『ダーティー・ワーク』以来、19年ぶり。メンバーの記念写真風オリジナル盤=傑作! 自ずと期待感が膨らむ。

 オープニングを飾るのはキースの荒々しいギターとロニーのスライドギターが絶妙に絡み合う「ラフ・ジャスティス」。やはり『刺青の男』のオープニングを飾った「スタート・ミー・アップ」と同系列のオープニング・ナンバー。2曲目からはこれはもう70年代ストーンズサウンドが復活したような怒涛のロックナンバーが続いていく。しかも物凄くシンプルで贅肉を削ぎ落としたあの頃のサウンドが再現されている。おそらく、現在、50代のストーンズファンは懐かしさと驚きとで感涙するだろうし、ストーンズ絶頂期を知らない若い世代のファンなら新鮮なストーンズを体験できるアルバムとなっています。ファンク風ダンスナンバーあり、シカゴ・スタイルのブルースあり、ストレートR&Rありと盛りだくさんな内容で、ファンならずとも興味深い。

 たった一枚のCDにこれ程の情報が詰まったニューアルバムはストーンズならでは。これも40年以上に亘るロック史に刻んだ偉業ゆえ。LIVEを意識して作ったかのような曲群。ストーンズのメンバーの意気込みが伝わる最高の出来である。それではシングルカットされた"Streets Of Love"と"Rain Fall Down"のPVを続けてご覧戴きましょう! 

"Streets Of Love"

"Rain Fall Down"


鳴海章 『総理を撃て』読破!

2007年09月01日 | 本と雑誌
総理を撃て

総理を撃て
価格:¥ 1,200(税込)
発売日:2007-03-20

(★★★★★)

 鳴海章は最高だ! カッパノベルズの『総理を撃て』をとうとう読破した!主人公、オフィス用機器を扱う会社の課長だが、部下からは軽んじられ、上司からはいびられる毎日を送るしがない中年サラリーマン。その彼がこれまでの功績を認められ経営陣の一角抜擢される…と、ここまでは絵に描いたようなサクセスストーリィだが、これからがこの物語の核心といえる、悪夢の入り口となっている。『総理を撃て』…なんとも物騒なタイトルにしたものだ。

 あの『狼の血』から8年ぶりとなる待望の新刊の発売を知り、迷いなく購入した一冊だったが、その期待を裏切らない、力量と分量には大満足だった。ひとりの小市民が一挺の拳銃を手にしたことからそれまでの生活が一変する、という下りは『狼の血』路線を引き継ぐ鳴海章ハードボイルドの独特なスタイルとして定着してきた。今回は前半がサラリーマン小説、中盤から終盤にかけてはガラッと雰囲気が変わって、ハードボイルドというより犯罪小説として読める。

 兎に角、この作家、描写が仔細だ。サラリーマンの一日を秒刻み、分刻みで描いている。企業戦士の悲哀に満ちた現実をこれでもかこれでもかと微細かつ丁寧に綴っていく。ハードボイルドと銘打った割には前半の主人公・明智の恰好悪さに拍子抜けしてしまうが、「猫殺し」の章から佳境に至る「総理を撃て」迄は息を付かせぬ展開に読者の脳は攪乱されるかもしれない。

 主人公・明智は47歳のもはや夢を追うことさえ叶わない中年層。その彼が会社の上層部から経営陣として登用される中枢部分から殺人者として裁きを受ける破綻部分迄、全てが学校で頻発するいじめの社会版のように思えてその絶望感に胸が詰まる。そしてその狂気に満ちた明智の傍らを過ぎった女子社員・奈々恵への淡い恋心、フイリピンでの異郷の地でのマリアと胤違いの3人の子供との束の間の暮らし。マリアとの情交、を綯い交ぜにしたこの物語は壮絶なクライマックスに向けて疾走する。何が正義で何が悪なのかを考えさせられる一冊だ。

 作者はこの『総理を撃て』のなかでひとつのメッセージを残そうとしている。大人の世界を垣間見た子供達に大人を威厳を持って接するのを望むことは不可能に近いものがある。倫理、道徳を教える一方で、大人は好き勝手なことをしている。隠しても子供にはわかっていて、偽りの家族団欒を装う。有名大学へ入れば約束された人生が待っている。明智は二流大学出、一流大学へのコンプレックスがこの物語の底辺に暗く澱んでいる。そんな不遜で、理不尽な学歴社会一辺倒なこの日本へ警鐘を鳴らす一冊でもある。