音盤工房

活字中毒&ベルボトムガール音楽漂流記

マイルス愛が込められた中山康樹氏のマイルス完全入門

2010年09月30日 | インポート
 夜もめっきり涼しくなった。
 暑い夏の間は殆ど聴かなかったジャズもそろそろ聴こうかと物色しているけれどなかなかこれというアルバムも見当たらなくてAMAZONを訪問してみる。
 新しいところはとても手につけられないから馴染み深いジョン・コルトレーン、ソニー・ロリンズ、チック・コリア…という具合に思いつく限りの巨人達の名前を挙げてみる。
 しかし、僕の場合、やはり一番はマイルス。
 最近読んでいるのもマイルス・デイヴィス関連の本ばかりでいまだにこのジャズの巨人は僕の中では現在進行形なのだ。
 そこで今夜は最近僕が読んでいるマイルス本の中身について少し触れようと思う。
 偶然にもすべてが中山康樹氏の著作になってしまうのだが、褒めるにしてもこき下ろすにしてもこれほどマイルス愛を感じる評論家はいない。
マイルスを聴け!〈Version8〉 (双葉文庫) マイルスを聴け!〈Version8〉 (双葉文庫)
価格:¥ 2,400(税込)
発売日:2008-09
 まずはジャズというよりはマイルス・デイヴィスのバイブル的書籍、『マイルスを聴け! ヴァージョン8』である。
 これは以前マイルス関連の記事を書いた際に紹介した一冊なのだが、この本はこれからマイルスのアルバムを購入するには最適な(時折邪魔な場合もあるけれど)一冊なのである。
 ブートを含めた、おそらくは地球上にあるマイルスの全記録を網羅したマイルス完全版が本書である。
 ただし、この本を読んで余りの酷評に、ついに手が出なかったものもあるほどで純粋なファン以外はとてもお薦めできない本なのだけれど、その絶妙な語り口といい、膨大な知識力といい、恐れ入るほどである。
 これは間違いなく僕の愛読書であり、マイルス的指南書なのである。
マイルス・デイヴィス青の時代 (集英社新書 523F) マイルス・デイヴィス青の時代 (集英社新書 523F)
価格:¥ 735(税込)
発売日:2009-12-16
 つづく二冊は、モダン・ジャズ時代におけるマイルスのエピソードや名盤群を紹介した『マイルス・デイヴィス 青の時代』とその名の通りマイルスがエレクトリックに目覚めた『エレクトリック・マイルス1972-1975』なんかも興味深く読ませていただいている。
マイルスの夏、1969 (扶桑社新書) マイルスの夏、1969 (扶桑社新書)
価格:¥ 798(税込)
発売日:2010-01-30
 そして、より深くマイルスを理解しようと思えば、エレクトリック時代の傑作、『ビッチェズ・ブリュー』を中心に据えた誕生秘話やジャズ以外の音楽動向を示し、いかに『ビッチェズ・ブリュー』がジャズの傑作だったかを謳いあげている『マイルスの夏、1969』を是非、薦めたい。
 最後は、これも中山康樹氏の最新作で、『50枚で完全入門 マイルス・デイヴィス』が面白い。これは『マイルスを聴け! ヴァージョン8』のチョイス版という位置づけだろうね。
 同時に、『マイルス・デイヴィス 青の時代』と『エレクトリック・マイルス1972-1975』のうまくまとめられた縮小版ともとれ、「決してマイルスにのめり込むほどじゃないんだ」という愛好家には最適だと思う。
 無論、マイルス・フリークにも充分楽しめる内容だけどね。
 実を言うと僕はマイルスが復帰を果たした『ザ・マン・ウイズ・ザ・ホーン』から『ライヴ・アット・モントルー』までの10年間に及ぶマイルスの音楽人生しか知らない。
ライヴ・アット・モントルー<紙ジャケット仕様> ライヴ・アット・モントルー<紙ジャケット仕様>
価格:¥ 2,310(税込)
発売日:2007-09-26
ライヴ・アラウンド・ザ・ワールド(SHM-CD) ライヴ・アラウンド・ザ・ワールド(SHM-CD)
価格:¥ 2,300(税込)
発売日:2009-06-24
 10年というと長いようにも思えるが、マイルスのキャリアからすると決して一時代とはいいがたい。
 常に前進を続けたこのジャズ界の帝王が最後に残したかったものはいったい何だったのだろうか。
 『ライヴ・アット・モントルー』をはじめて聴いたときの印象は、どこかクインシー・ジョーンズとの温度差を感じ、彼の企画に渋々かりだされたようなそんなイメージがあった。
 今聴くと、マイルスが残した『ライヴ・アット・モントルー』と世界各地でのライヴ音源を集めたオムニバス・アルバム『ライヴ・アラウンド・ザ・ワールド』の2枚はこれがマイルスの残した最後の音源だという気持ちで押し戴くように聴いている。

ロニーの9年ぶりの新作は、ロック野郎達のパワーが全開!

2010年09月25日 | インポート

 

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 ポストカードが欲しくて店頭で買いました。『「メイン・ストリートのならず者」の真実』では蚊帳の外に置かれていたロニーですが(インタービューに答えていたのには驚いたが)、ちゃっかり自身のアルバムのプロデュースは進めていたみたい。

 9年ぶり。渾身のロックンロール・アルバム。

 まず、参加メンバーの豪華さに目を奪われた。

 スラッシュ(元ガンズ・アンド・ローゼズ)、イアン・マクレガン(フェイセズ)、あとはストーンズのツアー・メンバーからダリル・ジョーンズとバナード・ファーラー、それにブロンディ・チャップリン(ザ・ビーチ・ボーイズに一時在籍)らが参加している。

 『ダーティ・ワーク』にも参加したストーンズとは馴染み深いボビー・ウーマックやX-ペンシヴ・ワイノーズのワディ・ワクテルとアイヴァン・ネヴィル(ネヴィル・ブラザーズ)も名を連ねている。

 これだけのメンツが揃えば、そりゃー必然的にアルバムの出来もよくなるわけさ。

 というわけで、一発目からガツンと来ました。ボブ・ディランを髣髴させる「ホワイ・ユー・ワナ・ゴー・アンド・ドゥ・ア・シング・ライク・ザット・フォー」、

 レゲエ・ナンバーの「スウィートネス・マイ・ウィークネス」、

 そしてストーンズにも通じるロックン・ロール・ナンバーの「ラッキー・マン」。

 どういうわけかストーンズの時よりもギターが伸びやかに聴こえてしまうのは気のせいだろうか。

 とにもかくにもストーンズの屋台骨らしい骨太ロックがずらぁっと並んでいる。

 それにしてもロニーのヴォーカルがキース並みにがさついているのには驚いたぜ。

 キースみたいな劇的な変化はないにしても低音で唸るところなんかはドスが効いていて恐ろしくかっこいい。Photo_4  

 ミックもキースももうこの新作を聴いたかな。これがいい具合に触発されてストーンズの新作に繋がっていかないかな。

 ひとまずは、この『アイ・フィール・ライク・プレイング』がストーンズのワールド・ツアーの口火になるといいが…。

 ところでこの『I FEEL LIKE PLAYING』を翻訳するととても言葉ではいえない淫靡な言葉になるようだ。

 還暦を越えて尚、精力全開のロニーには脱帽だ。


あのレコードのヴァージンを奪ったのは、僕

2010年09月18日 | インポート

 爽やかな風が吹いている。

 つい数週間前とは打って変わり秋の到来を告げるような涼しさだ。

 休日の朝は、とても気だるさが残っていたが、せっかくの休みなのでCDショップを覗きいった。

 僕が好きな60年代や70年代のロック・アルバムの中には未だに手に入れていない名盤が多い。

 新譜が出ないうちにこれらの名盤を手に入れるのがいいのだろうが、秋からクリスマス・シーズンに向けてはおそらく新譜ラッシュが続くだろうから当分お預けとなるだろう。

 そんなふうなことを考えている僕の眼に飛び込んできた、ジョージ・ハリスンのダーク・ホース時代の再販版CD。

 ちょっと待てよ、再版にしては結構な値段で、きっと何かあると思っていたら今回はオリジナルにボーナストラックが収録されているのだ。George_harrison_cloud_nine

 2003年に一度リマスターされた音源を使用し、そこにボーナストラックが追加されたCDということでボーナストラック以外は目新しさはないので、すでにオリジナルを所有している一般のファンには余り食指を動かされないとは思うけれど、僕はジョージ・ハリスンの『クラウド・ナイン』をこの日、購入した。

 実はこのアルバムについては当時テープで持っていて、その後たいして聴かないうちに失くしてしまった。

 このアルバムがリリースされたのが1987年ということは、正確には僕が24歳のときだ。

 この頃はすでに会社勤めをしていた僕は、友人も出来、休憩時間には仲間と音楽の話なんかを語り合っていた。

 当時僕が好きだったのははっきりとは覚えていないが、あいかわらずハードロック中心の音楽志向だったと思う。

 そんな時、ビートルズ好きの友人が最近買ったばかりのジョージ・ハリスンの新譜のことに触れ、

 「聴いてみたいなら貸してあげるよ」というのだ。

 正直なところ、僕は一度もビートルズを聴いたことがなくて、ましてやメンバーのソロ・アルバムなんていうのは興味の枠外だった。

 しかしこういうのも社交辞令のひとつだと思い「いいのかい? …だったらお願いするよ」と話に乗ってしまった。

 ところが数日して彼が持ってきたレコードはきちんと包装がされていた。

 そのレコードは買ってから一度も針を落とされていない、まさしくヴァージン・レコードだったのだ。

 僕:「ちょっと、これ、一度も聴いてないのかい?」わかっていたけど、そう訊く。

 友人:「(うなずく)」

  僕:「だったら辞退するよ」

 友人:「ほかのも買った中の一枚だからまだ聴いてないんだけど、別にかまわないんだ」

 そんな遣り取りがあって結局僕はそのレコードを借りることにした。

 それがこの『クラウド・ナイン』である。ところどころ記憶の隅に引っかかっているフレーズはあるけれど、その殆どがいくらも聴いていないお蔭で輪郭がぼやけまるではじめて聴いたサウンドのように響いている。

 その後、友人は思うところがあって会社を去っていった。

 当人は照れくさいからといって最初は断わったが内輪だけのささやかな送別会を開いて送り出した。

 ジョージの素晴らしいスライド・ギターを聴くたびに僕はこの友人のことを思い出す。

  笑うととても愛嬌のある笑顔をしていた。


越智志帆がロックの名曲をカヴァーする

2010年09月11日 | インポート

 本日、車のメンテナンスをしてもらうため、車屋へ行ってきた。

 到着までの間、車内で聴いていたのが発売されたばかりのSuperflyの『Wildflower & Cover Songs : Complete Best “TRACK 3”』だ。Superfly_wildflower_2

 通常のMaxi Singleに洋楽のカヴァーが入った2枚組み豪華盤である。

 もっとも、シングルだけを買いに店頭に訪れたファンには豪華盤といえど本来のシングル価格で買えないことを思えばかなりな出費である。

 「Wildflower」単独でも十分なはずなのにここにきてカヴァー曲集との抱き合わせというのが昨今の音楽事情というのを反映しているような。

 ともあれアルバム一枚分の量が収録されたこのシングル、肝心の売れ行きはというとこれがまた上々なようである。

 まずは、シングルカットされた「Wildflower」を。

 相変わらず日本人離れした延びのある歌声は健在で素晴らしい。そしてカヴァー曲に眼を移すとロックの名曲がこれでもかというくらい詰め込まれている。

 そこで元ネタになっている曲が入ったアルバムをいくつか紹介をしておこうと思う。Photo

  「You Make Me Feel Like A Natural Women」はアレサ・フランクリンの『LADY SOUL』に収録されたアレサの代表曲。

 このアルバムに限らず彼女のベスト盤には必ずといっていいほどお目見えする定番曲なのでオリジナルに拘らずそこから攻めてみるのもいいだろう。

 お薦めは、『Greatest Hits(1980-1994)』あたりのライヴ音源。

 これが越智志帆が参考にしたヴァージョンに最も近いように思う。

 フリートウッド・マックの「Rhiannon」はアルバム『Fleetwood Mac』に収録。

 アレサと同様、このナンバーもフリートウッド・マックの定番曲といってよく、『The Dance』のライヴヴァージョンもお薦めだ。

 この曲の特徴であるぞくぞくするようなギターソロは完璧にSuperflyヴァージョンでも聴くことができ、是非、聴き比べてみるのもいいだろう。

 骨太の歌声を持つスティーヴィー・ニックスとパワフルでタイトな歌声の越智志帆。

 日米の歌姫たちは意外にも根っこのところはおんなじブルース魂に溢れていたりする。Cheap_thrills_3

 それが証拠にこのアルバムで越智志帆はジャニス・ジョプリンの「Piece Of My Heart」までカヴァー。

 そして最後になるが、この洋楽カヴァー集にはなんとローリング・ストーンズのナンバーが2曲も収録されている。

 最近Amazonで購入した『ストーンズ・イン・エグザイル~「メイン・ストリートのならず者」の真実』を見たばかりで、別の方面からのこのサプライズは青天の霹靂的に嬉しかった。

 それも選曲がストーンズの定番中の定番「Honky Tonk Women」と「Bitch」ときているので、僕のようなファンにはますます興味が尽きないアルバムだ。

 Photo_3 「Honky Tonk Women」が収録されたアルバムは、ガラス越しに顔をつけたメンバー5人のなんとも不細工な顔が並んだジャケットデザインだが、僕は意外にもこの『Through The Past,Darkly(Big Hits Vol.2)』は大好きである。

 今これを聴くと、ストーンズのいいところをぎゅっと凝縮したようなアルバムだよな。

  「Bitch」はストーンズの名盤のひとつ、『Sticky Fingers』のなかの一曲。

 越智志帆のパワフルかつややシャウトぎみに突っ走るヴォーカルは完璧だけど、肝心なギターソロでは今一歩キースには及ばず。

 Photo_2やはりストーンズはそっくりそのままストーンズのよさをコピーするのは難しいのか不完全燃焼のまま終わるのが残念だ。

 しかし全体的に通して聴くと、日本人がこれほど忠実にしかも本場に負けないくらいの迫力で歌ったのはおそらく僕が知る限りは初めてではなかろうか。

 日本のロックもついにここまで来たかという思いが強くなった。。